【勝田班月報:6306】




《勝田報告》

A)班全体としての今年度の研究方針:

 今年度は是が非でも発癌に一つは成功したい。そしてそれは決して不可能ではあるまいと思います。少くともDAB関係ではかなり良いところまで来ていますので、何か出きるのではないかという気がします。現在問題にすべきのは、DABのあとの第2次刺激と、ラットへの復元法だと思います。少量の細胞でもやれるような、しかも確実な復元法を見附けるように努力することが緊急の必要事でしょう。DAB関係は、勝田、佐藤、伊藤の3人が担当しますので、他の分担は、杉(ステロイドホルモン)、堀川(癌細胞成分と放射線)、山田(放射線)、黒木(特に復元法)となりましょう。DAB以外は今年度は成功は無理かも知れませんが、第2年度の成功をねらって下さい。

B)報告:

 最近のデータは前月号月報及びTCシンポジウムで発表しましたので、省略しますが、2実験だけ、一寸変った結果のを記載しておきます。

  1. RLD-1株細胞の“培地無交新”実験:  1962-12月11日:第19代(TD-40瓶)に継代。19日→26日培地を交新しなかったところcell sheetが剥れてきた。26日培地を交新し、以後14日無交新においたら、シートの剥れたあと、小さな細胞のコロニーが形成されてきた。1963年1月9日→2月2日の間は約2回/Wで交新し、このコロニーを育て、2月2日→2月20日(18日間)第3回の“培地無交新”をおこなったところ、大部分の細胞はやられてしまい、そのあとまた細胞(コロニーというほどきれいな集落形成ではないが)が生えてきた。そこで2月20日培地更新し、以後は約2回/wに交新をつづけた。3月2日第20代継代(Roller tubes)。3月20日第21代継代(小角瓶)。3月23日染色標本(Giemusa及び染色体用)を作った。この系列の染色体数分布は、約1/2が4倍体に移行している。今後これの復元もテストしてみるつもりであるが、初代のままでこの“無交新”をおこなうと、細胞がみんなやられてしまうので、第2代に継代してからおこなうExp.をこんど試みたいと思っています。
  2. )軟骨腫の形成:  Exp.#C28の実験であるが、これは11日ラッテにDABを1μg/ml4日かけ、第13日に実験群8/10、対照群7/10の増殖を示したもので、第16日に前処置したラッテ(生後27日、コバルト60γ600r、コルチゾン2.5mg/rat隔日5回)に30万個宛2匹に、前腹壁をあけ、脾内に接種した。その後ラッテに異常がないので、約5ケ月後解剖したところ、2匹中1匹に拇指頭大の堅い腫瘤形成を腸の上に発見した。組織切片を作ってみると、はっきりした軟骨腫である。どうしてこんなものがこんなところにできたのか、非常に解釈に苦しむところであるが、とにかく腫瘤ができたのは、この実験をはじめてからこれが最初なので、班としても記録しておくべき出来事と考える。そして、これによって感じさせられるのは、復元に当っては最初はやはり前処置を施した方がよいこと、復元後かなり永い間観察する必要があること、などであります。


:質疑応答:

[山田]ddDマウスの脳内接種では、Ehrlichだと1万個でも腫瘤を作って外からも判りますが、HeLaなどではこの程度の数では腫瘤を作りません。もっとも顕微鏡的には分裂や浸潤像が見られますが、やがては消えます。

[黒木]Thymusを取除いて接種するとつき易いのではありませんか。いま練習していますが・・・。

[勝田]幼若ラッテのとき胸腺をとっておいて復元に使ってみるとか、ハムスターの頬袋に入れるとか、今後は復元の方法を考えましょう。また細胞の方も株化したのでは困るわけで、培養初期のものを入れるとなると、少い数の細胞でもつくような場所を見付けなくてはなりません。

[伊藤]DAB-N-oxideの寺山氏のデータは再現性があるのですか。

[勝田]これは寺山氏が実験的に得たものではなく、頭の中で考えて、何故DABで発癌する動物としないのとあるのだろう、DAB自体には発癌性がなく、N-oxideになって初めて発癌性をもつためではないか、だからDAB→N-0xideに変える酵素をもたない動物では発癌しないのではないか・・・という次第で、頭の産物なのですが、どうも仲々うまくは行かないようです。杉君のところはぜひStilboestrolのExp.をつづけて頂きたいですね。

[杉 ]Stilboestrolのtumorは、文献的にはHistologicalの面でも種々の意見があるようですし、malignancyも強くないようです。

[勝田]伊藤君のところは肝細胞をばらばらにして、cell suspensionでinoculeteして培養する仕事を早急にやって頂きたいですね。細胞数をcountしながら培養するのです。そうすると何本に(細胞何万個当りに)1ケの増殖細胞が出るのか、という計算ができてきます。

[伊藤]細胞の増殖、細胞の生死の判定をしないといけないと思うのですが、どうもはっきりさせる方法に困っています。

[勝田]一般に生死だけならnigrosinで行けるでしょうが、それより面白いのはprimaryの肝細胞と増殖してくる細胞と(クエン酸−クリスタル紫)で染まり方がちがうことです。この処置をすると、primaryの肝細胞は細胞質がきれいにとけず、かなり残っておりしかもcrystal violetでdiffuseに染まるので、核内の様子がよく見えません。之に対し増殖してくる細胞は株細胞と同じように細胞質がよくとけ、核小体もくっきり染まるので、すぐ見分けがつきますから、かぞえ分けができます。



《佐藤報告》

 本年度はどうしても発癌実験に成功したいと念願しています。さし当りラット肝←メチルDABの問題を追求して見ます。終了し次第先づ復元の状況(生体内でどの様な経過をたどるか)を調べて見ます。それを指標にして復元の追求を行って見ようと思ひます。ラット血清による撰択乃至適応は早速準備します。今回はDABによる染色体のパターン検索の結果を送ります。

 (対照群3、DAB群8、メチルDAB群2の染色体数分布図を提示)。まずラット肝摘出後直ちにDAB及びメチルDABを4日〜12日投与し、以後其れらを取り除き、株化し、最初より半年前後で検索されたパターンです。以上の結果から対照群及びDAB群に比してメチルDABが染色体数を強く右遍(多い方へ)すること及び主体染色体の所謂消失がおこる事等が推測された。

 そこでつくられた株細胞にメチルDAB及びDABを投与して、染色体の移動を検索した。primaryの時12日程度のものが、変化が著明と考えられたので、第1回目はC8対照株へDAB及びメチルDABを夫々10日与えて検索した。次にC21対照群にDAB及びメチルDABを夫々11日与えて検索した。C8及びC21株+DAB乃至メチルDAB実験から、primary←DAB同様に株の場合にも染色体移動(primaryより弱いが)がおこる可能性が認められたので更に長期投与する実験をおこなってみた。

 C10(DAB)株に、DABを11日及び57日、メチルDABを55日与えた結果はメチルDAB群の染色体移動がより明瞭である。



:質疑応答:

[佐藤]マーカーを細胞の形態と染色体において研究したいと思います。また染色体自体のマーカーはmodal valueの移行でやります。DABとメチルDABの染色体数分布に対する影響の差が少しつかめてきたように思われます。今後はこれらの核型をしらべることと、DABの濃度を上げるとメチルDAB型にならないか、という点も試したい。またDABの細胞内へのとり込み、細胞内での残り方を考えています。化学分析室と共同で、0.1μg/ml位の精度でDABをdetectできるような検出法を考えています。培地中の減りをみたいわけです。

[勝田]細胞内のDABの量とか分布はmicrospectrophotometerやisotopeを使うとかなり行けるんじゃないですかね。

[堀川]メチルDABによる染色体数のバラツキが持続するのはVariantの問題で、メチルDABが細胞内に残るためとは考えなくても良いと思います。

[勝田]primaryで生え出してきたのが、いつそのような大きなバラツキをもち始めるか、またどうしてそれが持続するのか、面白いですね。初めの頃のをぜひ知りたい。それから、このようなバラツキを持ったcell populationの中には、malignantになったものが入っている可能性、頻度がそれだけ高いと思われるので、これをRatの血清でselectして生えるものを復元するということはぜひやってみてもらいたいと思います。

[土井田]染色体数ですが、コルヒチン処理をしないで標本を作って、比較してみてもらいたいと思います。また染色体の形にしても何かmaker chromosomeが出現しているのではないでしょうか。

[山田]核型を一度土井田君に見てもらったら・・・。

[堀川]核型から攻めるのではなくて、他の攻め方があるのではないでしょうか。

[高岡]動物の発癌実験ではmarker chromosomeがあるようですね(V型:吉田俊英氏)。



《堀川報告》

培養細胞における貪食性と形質転換(癌化)の試み(VI)

  1. 正常L細胞がEhrlich細胞核やSpleen細胞を貪食した際、どの程度L細胞が喰い込んだEhrlich細胞やSpleen細胞のDNAを利用し得るかを知るため、Spleen細胞、Ehrlich細胞、さらにはL細胞をそれぞれ別個に1μcH3-thymidine/ml内で24時間incubateすると、

     

    1. )Spleen細胞の206μgDNA中に、37.918countのH3thymidineがincorporateし、

    2. )Ehrlich細胞の59.1μgDNA中に、306.519countのH3thymidineがincorporateし、L細胞の54μgDNA中に360.138countのH3thymidineがincorporateすることが分った。

    これら1)、2)、3)のDNAをそれぞれ別個の培養液に加えて、L細胞を24時間培養すると、それぞれのL細胞のDNAから、1)7.092count、2)64.416count、3)60.272countのactivityが検出された。これらのことから分ることは、L細胞は培養液中に加えたSpleen、Ehrlich、さらにはL細胞といった各種細胞から得たDNAの内homologousなDNAをのみ特異的に取り込むと云うような現象はまったく認められないで、培地に加えたSpleen細胞DNA、Ehrlich細胞DNA、さらにはL細胞DNAをほぼ同じ率で取りこむことが分る。すなわち培地に加えたDNAのうち、約1/5〜1/6がL細胞のDNAに取り込まれることが分った。この場合、Spleen細胞、Ehrlich細胞、L細胞ともに同じmouse originであるという点に利用度の一致性が認められたものであって、異種動物からOriginateした細胞のDNAの利用度に関してはまったく異った結果を得るかどうかについては今後に残された問題であろう。

  2. 正常L細胞内に喰い込まれたSpleen細胞や、Ehrlich細胞核の運命については、これまでH3-thymidineやC14-leucineなどでlabelすることによって追求してきたが、実際にL細胞内に喰い込まれたこれらSpleen細胞やEhrlich細胞核の形態変化を追うため、現在京大・生理学教室の品川氏と組んで電顕で追っている。喰い込まれた細胞の崩壊現象など今まで考えてもみなかったことが2、3分り、さらに、興味ある点としては従来光顕で追っていた時に得た結果よりも、L細胞の貪食性ははるかに大きいことが分ったことで、これは拡大像という利点が生んだものである。

    すなわち正常L細胞はいづれの細胞も大なり小なりそこらにある大きなもの小さなもの手あたり次第に喰い込む能力のあることが分った。

  3. 兎で作ったEhrlich細胞のAnti-serumをEhrlich細胞と反応させた時、少くとも4〜6本の沈降線が出ることが分った。ところがこのうち半分ばかりはL細胞と共通な抗原性を示し、EhrlichのAnti-serumからL細胞で吸収した残りがEhrlich細胞特有の抗原性であるということになる。 この様にして今後はこのEhrlich細胞特有の抗原性をマーカーにして実験を進める訳であるが、このようにL細胞とEhrlich細胞間に共通抗原の存在する理由として次のようなことが考えられる。

    すなわち、

    1. )L細胞もEhrlich細胞も組織培養という条件下において、同一抗原性の所にまでDe-differentiateした。

    2. )両細胞ともにmouse originであるために共通な種特異性抗原をもつ。

    などが考えられる。これらについては更に詳細に調べてから報告したい。


:質疑応答:

[堀川]私としてはこのまま核またはsubcellur fractionのとり込みによるtransformationをやって行き、10月に土井田君にバトンタッチしたいと思います。

[土井田]私は堀川氏の仕事をそのまま続ける訳には行きません。やるとしたらchromosome mapの方から攻めることになります。助教授も堀川君も留守で教室の方が多忙になりますから、全力を傾注するというわけには行かなくなりますが・・・。

[佐藤]適当なサンプルを責任をもってやってもらえばいいんじゃないですか。

[土井田]Radiation biologyとcombineしてやれば自分としては有難いのですが。

[勝田]班とすると、そろそろ発癌ができかかると、それについて精密にしらべるstageに入ります。そのとき問題になるような標本について染色体を専門家の目でしっかり見てもらえばと思います。数をかぞえたりすることは、標本の作り方も進歩したし、各人が自分のところでやれば良いでしょう(かぞえ方をよく教わって)。大事な標本、あるいは問題点についてだけ、殊に核型などで相談役になってもらえれば。



《山田報告》

1.組織培養における物質の消費に関する細胞生活単位(Cell Life Unit)について:

 これまで組織培養で培地中の物質消費を細胞当りに換算するために、色々な簡易法が取られてきた。例えば測定前後の細胞数の平均で消費量を割るとか、増加窒素量で割るなどの方法が取られている。これらの方法は比較値として扱う場合一応意味を果してきたが、絶対値として考える場合には全く便宜的な解答しか与えてくれない。そこで細胞が分裂してから次に分裂するまでの間を1細胞生活単位として、これをもとに物質の消費を測定すると更に理論的な話を進めることができると考え、この細胞生活単位数の測定を計算する方法を案出したので報告する。

 そのために2つの仮説が設定されている。

  1. )測定時間の間、細胞は一定速度で分裂する。
  2. )培地中の物質濃度は消費につれて変ってくるが、消費度に影響がない。即ち、測定時間中細胞は一定速度で物質を消費する。
この2つの仮説は、何れも短時間の測定の場合には問題ないが、長時間の測定では平均値しか与えられなくなる。

 細胞の増殖は対数期にある場合、n=n0・2 t-t0/Tで与えられる。t0及びtにおける細胞数がn0及びnで、Tは世代時間、これを自然対数に直すと、n=n0・e 0.69315(t-t0)/T。そこでt1よりt2との間に、細胞数がn1よりn2となるとすると、t1〜t2 ndt即ち斜線の面積は細胞の生活量を与える。これを細胞の生活単位(1xT)で割ると t1→t2の間の細胞生活単位の数がでてくる。即ち、1/1T t1〜t2 ndt=1/T t1〜t2 n0・e 0.69315(t-t0)/T dt=n2-n1/0.69315。即ち、短時間 t1→t2で細胞数 n1→n2が測定されると、その間の細胞生活単位数は(n2−n1)をIn2 即ち 0.69315で割った数字となる。この数字で物質の消費量(その間の)を割れば、1細胞生活単位即ち、1個の細胞の1生活単位当りの消費量が平均として算出されるわけである。物質の産生についても同様の考え方ができる。

 1例として肝細胞(Chang)のブドー糖消費を挙げると、本細胞は42時間までlag、42〜182時間までlogarithmic phaseであった。ブドー糖の消費は対数期前半までほとんど認められず、それ以後細胞生活単位当り 4.4〜8.5X10-4乗μgの消費が認められた。この数字は1細胞重量が 10-3乗μgのoderであることを考え合せると可成り大きい事が判る。Human Diploid Cell Strainでは更に大きい数字が得られた。

2.本年度の研究計画:

 人胎児肝よりの繊維芽細胞株の分離と其増殖度の推定については前報で述べたので省略する。とくに5〜15代では一定の増殖度が得られる(4〜5倍/4日)ことが判ったので、“正常細胞”の増殖研究に入ることが可能になった。今年はマウス肺より同様の細胞増殖系を得、これにX線その他の発癌剤投与により、移植能を基本に、発癌実験を行う。



《杉 報告》

発癌実験

Golden hamster kingのprimary culture−stilboestrol:

 これまでの実験結果を表示します。(一覧表呈示)

表中の分数の分母は培養したR.T.(回転培養管)の数で、分子は細胞の生えてきたR.T.の数を表わしたものですが、実験を始めた最初の頃はこうした観察をしておらず、且その分は既報致しましたのでそれ以後の結果です。又実験方法にも一寸迷いが出て、最初からトリプシンでばらばらにする方法を試みて失敗したりしてdataにならなかったものもあり、以上が現在までのdataです。

 これでみると先づ用いた動物の日齢については、比較的老齢のhamsterを用いた時に実験群と対照群とで数字の上での差が見られ、若い日齢のものでは差が出ていません。しかし、若いものでも生えてきた細胞の形態を比較してみると、対照群ではfibroblastlike cellが多数を占め、上皮様細胞団は稀にしかみられないのに比し、実験群では上皮細胞団がかなりみられ、fibroblastlike cellよりもむしろ多い位です。

 両群でのこの様な形態上の差は老齢のhamsterを用いた時にもみられます。そして作用量については、1μg/mlよりも10μg/mlの方がはっきり差が出る様に思われたので、最近は専ら10μg/mlをとっています。又作用日数はこの様な変化に関する限り、10μg/mlでは4日間で充分なことが分りました。動物の性差による反応の違いははっきりしません。

 しかし問題は今のところ、これが次々に継代出来る程の増殖を示さないことで、継代法も含めての培養法に欠陥があるのか、それとももともと増殖能がないのか検討を要するところです。



《伊藤報告》

 発癌過程の生化学的変化をとらえたいが、そのためには細胞が大量に培養できなければ困ります。その意味ではじめから肝細胞をばらばらにして、cell suspensionでinoculateして培養したいと思っていますが、今までのところはどうも未だうまく行かないので、今年はなんとか成功したいと考えています。maintainかgrowthかも確めたいと思います。悪性化の途中で細胞が変ったということを簡単に見出せるような何か良いmarker、生化学的なmarkerでもないものでしょうか。癌化すると変るというような・・・。



:質疑応答:

[勝田]それは逆じゃないですか。癌の生化学的特性がつかめないから今日まで困っているのでしょう。

[関口]肝癌になるとArginase活性の低下が起ると報告されていますね。

[勝田]しかしそれはすべての肝癌にあてはまる共通の特性かどうか判らないでしょう。一つや二つ測ってみてそうだからと云ってそれだけを目標にするのは危険と思います。

[伊藤]Trypsin消化だとどうも細胞の収率が悪いですね。メスで細かくchoppingする方法とか、perfusionをやった後ゴムでhomogenizeする方法をとる方がよいと思います。どうもゴムの良いのが手に入りにくいので、テフロンのhomogenizerを使ってみました。たしかに細胞はばらばらになりますが、収量は30%位で、果してその細胞がまた培養でうまく生えるかどうか、疑問点がいろいろあり困っています。

[勝田]ゴムは軟いのはいくらでもありますが、軟いのは高圧に耐えないですね。



《黒木報告》

継代吉田肉腫細胞の形態的変化について:

 大阪より帰ってから1ケ月間、栄養要求の方は一時お休みにして、もっぱら染色体標本の作成を行いました。しかし慣れぬこと故、色々と手違いが多く、結局、染色体を観察出来るようなよい標本は得られぬままに終った次第です。

 そこで方向をかえ、核の形態学的観察を各代、BackしたRatのascitesについて行いました。Controlとしてnon-culturedのYS及びGVについても同様の観察を試みました。「GV」とは佐々木研で分離した吉田肉腫のclone(in vivo)の一つで、染色体のpeakは80本にあります。

 核の形態としては、夫々まとめて4群に分けその分布をみました。Iは腎型、楕円型、円形。IIは切れこみの深いもの。IIIは連なり2核、連なり3核、2核、3核。IVは輪状核です。

 その結果は次に示す通り(表の呈示)、核の形は40代頃よりGVのそれに近ずいていくことが分りました。

  1. )培養初期(20代頃まで)はnon-culturedのYSと同様I群がもっとも多く、II、III、IV、は少い。しかし40代以降はII、III、IV、の各群が増加し、GVのpatternと似て来る。
  2. )in vivoにbackすると、in vitroと同様の分布を示す。
  3. )in vivoでGVと似たpatternを示すものも、次のRatにtransplantすると、又もとのYSと似たpatternを示すようになる。(56G)
 これだけのDataから 2n→4n の変化が起ってくるとは云えませんが、その変化は想像されます。そこで、どうしても染色体が必要になる訳です。なお、56Gよりbackした細胞は現在in vivoでも継代されております。

染色体標本の作製:

 月報6303、Parker's textbookをみながらやってみたのですが、どうにもよい標本が得られませんでした(重り合いが多く立体的)。 方法としては、低張処理→遠心→固定→air-drying→acetoorscein→封入と云う方法ですが、どこが悪いのかうまく行きません。今後色々教えて頂きたいと思います。なお、この方法でmonolayer cultureの細胞(肺癌由来・山根研究室)に応用してみたところ、1回できれいな標本が出来ました。monolayer cultureのときは細胞がflattのため作り易いのではないかと思われます。又、吉田の場合、colchicineのoptimalな作用時間は、1.0x10-6Mで2hrs.、5.0x10-7Mで3hrs.です。それ以上では、細胞質に著明な変化(軟化)が現れます。最近の文献でAgarを用いる方法がありますので、これも試みてみる積りです。

先月号で述べた移植性の問題、核の形態等、長期培養による細胞の変化が少しづつ明らかになって来ましたので、どうしても、染色体をみる必要があると思います。又、抗研にmicrospectrophotometryが入っておりますので、これも利用して行きたいと思っております。更に栄養要求の変化も合せて追求し、綜合的に細胞の変化をおさえていきたいと思っております。



:質疑応答:

[黒木]今年の計画としては、

  1. )復元法をいろいろ考えてみたいと思っています。それでThymusを除く方法をいま練習しています。
  2. )吉田肉腫の方も栄養要求をつづけてやらなくてはなりません。
  3. )発癌ではAutoのsystemを考えています。腹水中の細胞を、sucroseなどでふやしておいて取り、これを使って悪性にできれば、本人に復元テストできるわけです。

[勝田]班としても復元法が非常に問題であり、しらべたいところなので、黒木君がその点を検討してくれるのは大変ありがたいと思います。栄養要求の方は吉田肉腫は血清を使って生えているのだから、その血清をまず透析とかその他で次々に分劃して不必要なものを除いて行ったらどうですか。

[佐藤]腹水の細胞を培養するのは難しいでしょう。腹膜の細胞にしたら・・・。

[黒木]トリプシン消化するわけですね。それではとったネズミが死んでしまってAutoに返せないでしょう。

[勝田]復元接種するとき2stepsでやる手があります。前にAH-130から株を作ったとき試みたのですが、少い細胞で復元しなければならぬとき、初めに復元して少しふえ出したとき、動物の抗体が沢山作られる前に、それをまた採って次の動物に接種するわけです。こうすると、初めの動物のときは細胞数が“take”されるのに不足だったとしても、二度目のときはその低限界を越え得るわけです。またはじめに培養した動物の性を確認しておけば(幼若ではhistologicalにしらべて)、復元のとき別の性の動物を使い、生えてきたtumorがどちらの統のものか、sex chromatinなどでしらべられますね。

[伊藤]ハムスターのpouchはもともと抗原性が少い(?)から、この細胞をとって培養して発癌させたら良いのではないでしょうか。

[山田]いやあそこは雑菌だらけで困るでしょう。