《勝田報告》A)発癌実験:a)初代スタート: その後の成績についてのみ記すと、次の5系統がある。
#C38(1963-3-2開始、15日ラッテ)この実験はDAB1μg/mlの群だけが現在まで続き、継代3代であるが、どうもこれも切れそうである。 b)継代2代の増殖を促進するためのテスト: 発癌実験は永くかかっては困る。おそくとも半年以内に勝負をつけたい。しかしこれまでの経験ではDABで生えだした細胞を第2代に継代したとき、その増殖がおそくて、第2代でずいぶん日数をくわされる。ここが一つのNeckpointなので、培地に何か加えることによって増殖を上げられないかと考えた。1.Glucose(0.1%、0.2%、0.4%:何れもNo effect)。2.Pyruvate(0.01%、0.05%:反って抑制)。3.Rat liver extract(生後1年Rat、1:1、0.05%、0.5%:著明な抑制)。RLD-1を用いて7日間上記の条件テストをしてみたが、何れも失敗。しかしこれは必要なことなので、さらにprimaryから2代、3代に入る適当な細胞ができ次第、もっと若いratの、もっと薄いextractとか、chick embryo extractなども試してみる予定である。 c)株化した細胞系について: これまでしばしば報告したように、DABで増殖を誘導された細胞には、いわゆるAtypismがきわめて少い。しかし最近になって唯1例、その例外を見付けた。RLD-7株(1962-11-15)で、核が大小不同だけでなく、不整形で、切れこみや融合、分離などを呈し、崩壊像も示す。何かvirusの作用を思わせるようなところもあるので、細胞を5回、凍結融解し、その液をfinal 10%にRLD-1・#5の培養に加えてみた。しかし4日後にまだ変化があらわれないので、そのときのRenewalにまた10%加え、7日迄しらべたが決定的変化は現われなかった。なおもっと長期のテストも行なってみる予定。 ここで考えたのは、つまり、そのままではRatに病原性をもたないvirusがはじめからそのRatに居って、そのliverを使ってDABをかけたため、DABとの協同作業で病原性を呈するように変ったという可能性である。Chemical carcinogenesisをやっていても、いつもこういうことは一応は頭におかなくてはなるまい。なお、このRat liverはControlの方は非常にきれいな核の形態を示している。 d)ラッテへの復元接種テスト: 上記のRLD-7株を6月6日に、コバルト60をかけコルチゾンを打った生後3wのラッテ脳内に、細胞約100万個宛、2匹に接種したが現在までのところでは変化が認められない。 e)染色体分析:
これは前月号の月報に表を示したので省略するが、要するにAH-130が最近性質が変ってしまって、以前よく生えたmediumでも今は7日間ふえつづけられないのと、ガラスへの附き方が悪いので、routineに使うのにどうも思わしくないので、それに代るものを見附けようとしたもので、今迄のところではAH-66、AH-7974、AH-414、AH-286などがガラスへよく着くが、AH-286は細胞質に空胞のすごいのが多く、1種のfoamy virusのcontamiでもあるのではないかと危惧される。第一候補としてAH-66とAH-7974と使い、parabioticでliverにより強く障害を与える方を使うようにしたいと考えている。
[黒木]AH-66Fは染色体数、38本と80本と2種類あるそうで、佐々木研では10代毎にしらべているそうです。 [佐藤]60本位のはありませんか。 [黒木]知りません。 [勝田]DAB-n-oxideは寺山先生から頂いてまだ1回しか使っていませんが・・・。 [寺山]特殊な作用が見られますか。 [勝田]濃度をいろいろ変えてみたりしないとどうも・・・。 [佐藤]増殖ということでみているわけですが、増殖と発癌とは平行する現象かどうか。また1μg/mlの濃度を使っていますが、これはラッテの生体内濃度とくらべてどうでしょう。 [寺山]旧薬理研でfreeのdyeを食べさせて測っていましたが、そう多くはなかったと思います。 [佐藤]Sondeで入れてやると上昇してすぐ下ってしまうのでしょう。 [寺山]Continousにたべさせると低い濃度で続いています。 [佐藤]生体内より高いか低いかの濃度を培養に入れるわけですが、どの位が・・・。 [寺山]もっと大きくしても・・・。しかしDABそのものが作用するのか、その代謝物が作用するのか問題です。EmbryoのliverはDAB代謝がありません。生後どの位で出てくるかは未だしらべてありませんが。 [山田]DABそのものに発癌性があるのか、その代謝物にあるのか、ということですね。 [寺山]それをやっているところなんです。そのものずばり発癌性ということでなくても、それに近いものを見出したいのです。 [堀川]発癌性物質まで変化させる代謝能力があるかどうか、ですね。 [安村]in vivoでのDABの使用量はどの位ですか。また1回だけの接種で発癌させる物がありますか。 [寺山]ラッテでは1gで6〜10ケ月です。ベンツピレンなどは1回ですが、1回といってもその部位に長く残っていますからね・・・。 [安村]Virus性のtumorなら1回の接種でもできます。DABなどを使っての発癌でも問題は時間ではないですか。Trypsin処理だけでも10ケ月でTumor化した例もあり(Barski,J.Nat.Cancer Inst.)、DABも3ケ月と10ケ月との差ということで、どれが原因か云いにくくなるんじゃありませんか。 [勝田]培養では半年以上培養するとspontaneouslyに悪性化した例が間々ありますので、こちらは半年以内に勝負を決めたいと思っているのです。 [安村]増殖で見ていると発癌がはっきりしないでしょう。何かもっと良いマーカーがありませんか。 [勝田]我々は第1次のマーカーとして増殖誘導というものを使っているのです。これはDABによって肝細胞内の増殖抑制機構が外されて増え出してくるのではないかと“想像”していますが。 [寺山]増殖しかかったものにもっとDABを続けたらどうですか。 [勝田]いろいろやってみたのですが反って細胞がやられて死んでしまいますね。 [安村]増殖と癌化とはその調節機構は別かも知れません。だからgrowthでみているのは片手落ちかも知れませんね。Scienceに出ているそうですが、Thymusのレチンとプロミンで細胞の抑制と促進ができるそうですね。 [勝田]だから増殖の他に、第2次マーカーとしてatypismを見ているのです。 [黒木]佐藤班員のDABを80〜90日もやっているのは株ですか。 [佐藤]株です。primaryでは28日位やりましたが、増殖が少し落ちてきました。 [山田]HeLaでは4日間DABを与えても呼吸には影響ありませんでした。 [堀川]HeLaは何にでも強いですよ。 [黒木]DABを低濃度で長期間作用させることは重要でしょうか。 [寺山]そう思います。動物実験でも大量では障害が大きくて生存し得ない。普通は最初は障害が小さく、2〜3週後、核数が倍位にふえる。そのとき栄養などが悪いと動物が死亡することになりますが、この2〜3週を越えてしまうと死に難くなり、適応して行くようです。 [山田]耐性になるということですか。 [寺山]耐性の考え方ですが、どうも細胞の方が2種類あって、一つはDABをどんどん代謝してしまう能力が高まったもの、これが大部分ですが、もう一つのは発癌性の代謝物を作らないもので、こっちの方がTumorになってくるのではないかと思います。 [佐藤]Hepatoma前にcirrhosisで死亡するラッテはありませんか。 [寺山]目立って死にませんね。右下の図のように、2週から4週にかけて沢山落ちるわけで、この2週という時期にはRNAのCatabolismが盛になって細胞が障害を受けた後、増殖できないのではないでしょうか。 [山田]癌化したものを見付ける点ですが、in vitroでは生体内と異なり色々のregulatorの作用がないので、発癌変化したものが現象面に出やすくなっているが、変化していない細胞も増殖性が出てきやすくなっていて、増殖してきた細胞全部が癌細胞ということではないので、その中から癌化した細胞をどのようにselectするか、ということが問題ですね。 [寺山]DABを少し加えてみて、それに耐えるものをselectするのも一法ですね。 [安村]癌細胞かどうかは、今のところでは、動物に復元してtumorを作るかどうかであり、従ってTumorを作るefficiencyが問題になります。これは移植癌の問題にもなり、組織移植のような、免疫のことなども考えに入れなければならないから、若い動物のしかも脳内などが接種部位として良いのではないでしょうか。脳内だとtumorになったかどうかが症状で判ります。若いと云っても、生後24時間以内と2〜3日経ったものとでは、皮膚移植の成績も大分ちがいがあります。X線とかコルチゾンなどで抑えられるもの以外のことも考えられるので、とにかく移植は生後1〜2日、できれば1日のラッテを使ってみないと・・・。 [寺山]そこでそのagingの変化ですが、liver extractについても、成体の肝には自己肝に対してregulateすることがあって、もう完全にhepatomaになってしまったcellには作用が及ばないが、それへの過程にある細胞には作用を現わすことも考えられます。それから移植の方で、生後1日位のラッテに移植しても、そのあと相当日数の間飼っておくわけで、その点どうなんでしょう。 [安村]有効ないわば感染といったことが起ってしまえば、その後はいいのでしょう。その有効な感染を起すのに、生後1〜2日までの動物が良いということです。 [佐藤]私の場合は生後5日目のラッテに戻したのですがtumorを作りませんでした。 [安村]Polyoma virusでも生後2日目と5日目位のとではもう態度が違います。 [寺山]復元する動物ですが、若いのでなくても、DABをたべさせているラッテに戻したらどうですか。その動物の肝では、分化によってできた機能、例えばCatalaseなどは低下しており、こんなときには移植され易いのではないでしょうか。 [関口]発癌ということですが、αナフチル・イソチオサイアネートなんかでも、肝の増殖は起すが発癌にまでは行かないといったものがありますが、DABによる特有の作用は、増殖変化を起してくる2週間位より後の時期にあるのではないでしょうか。 [寺山]DAB発癌でHepatomaのできるのは6ケ月位とされていますが、佐々木研の小田島氏の研究によると、1ケ月feedingを境として、癌化しているようです。つまり数は少いが癌細胞は出現している。出現頻度が非常に低いだけです。 [堀川]発癌ということが、抗原が抗体を作らせるように入りくんでおり、発癌物質が細胞の代謝系の一部をattackし、多くは細胞の調節力で回復されてしまうが、ほんの一部のものがその回復力が見られず、癌細胞となるのでしょうか。 [寺山]そう考えていますね。それも一ケの細胞がすぐ癌細胞になるというのではなく、細胞分裂を何回か繰返して癌化すると考えています。 [山田]Polyomaなんかのvirusでの発癌は直接にDNAをattackすると考えたい。 [堀川]化学物質ではそのvirusでの作用を、色々な廻り道をとって実現しているとも考えられます。 [安村]癌化するというのには、とにかく染色体に変化を起すことが必要ですね。 [勝田]ちょっとその癌化ということで安村氏に説明しておきますが、細胞を一々動物に戻さなくても、何か、悪性かどうかを確かめられないか、ということです。以前に正常肝細胞と肝癌AH-130、或はセンイ芽細胞と肉腫とを組合せてparabiotic cultureしたとき、正常細胞はそれによって阻害され、tumorの方は増殖を促進されました。 AH-130からのTC株2種、JTC-1とJTC-2は最近復元してもラッテが死なないようになってしまったのですが、これを正常肝とparabiotic cultureしますと、正常肝は影響を少しも受けず、株の方がJTC-1、-2とも反って抑制され気味です。つまりpara-cultureしたとき正常細胞を抑え、自分は促進されるという現象は、なにか、生体内での悪性と共通点を持っているように思われるのです。そして、DABによって増殖をinduceされてできた株の一つRLD-1を正常肝とpara-cultureしますと、正常肝は阻害されないが、RLD-1は明らかに増殖を促進される点から、RLD-1はtumorの方へ一歩進んだ細胞と見てよいのではないか、というのです。また悪性化したかどうかをin vitroで見当をつけるのに、この正常細胞とのpara-cultureは使えるのではないか・・ということです。 [寺山]このことと、さっきのliver extractとの関連はどう考えますか。 [勝田]細胞を破壊してとれる物と、生きているのから継続的に出てくるものとでは、少し物質がちがうのだ、ということかも知れませんね。 [山田]Extractといってもその濃度も問題になりますね。 [安村]そのparabiotic cultureで増殖がどうなったかということは、安定性ということで、今としては復元してtumorを作ることで発癌を確かめるべきだしょう。 [勝田]それはそうです。だからこれまでも復元してみたし、今後も前眼房、脳内などをやろうと云っているわけです。ただ上のような現象が現われた後に、復元がうまく行かないとなると、そのときは復元法が悪いのではないか、と考えてみる必要がありますが、RLD-1のような結果ではまだつかないと云っても、細胞のせいと考えるのです。
《佐藤報告》復元成績メモ1)C22(メチルDAB12日株・染色体数の右偏していたもの)を1963年4-15〜5-14までに8実験行った。生後5日(脳内)から1.5ケ月(その他の部位)のラッテを使用した。接種部位は脳内、皮下、筋肉内、腹腔内、睾丸内であったが、1963-7-8日の肉眼的調査では腫瘍を形成していない。
2)その他、C10(DAB4日株)、C22(DAB4日株)、C8(対照←DAB)、C10(対照←メチルDAB)、C10(対照←DAB)を主に睾丸へ復元接種したが、肉眼的調査では腫瘍を形成していない。 3)染色体実験追加例、C10D←メチルDAB54日で右偏したものをラッテ血清で培養中のものは、39本に僅かにピークを残すが、主流は70本以上であった。
[佐藤]DABは血清の蛋白と結合しているのですか。 [寺山]その結果には2種類あります。一つは化学的結合で、もう一つは物理的結合です。前者はAlbuminとで、これはAlbuminが肝で作られるので、そこで結合するのでしょう。後者は不溶性のものをよくAlbuminが掴まえますから、それでしょう。 [佐藤]血清にDABを混ぜて保存したものと、使用直前に混ぜたものとでは効果がちがうようですし、1μg/mlで混ぜておくと、1日たつと溷濁が出ますので、それ以上高濃度にはできません。 [寺山]レシチンなどを使うと高濃度になるのではないでしょうか。phospholipidはAlbuminとよくくっつきます。 [山田]血清培地でDABを稀釋して保存したものの方が、作ってすぐよりも効果が出やすいというのです。 [寺山]しかしあれは不溶性の物質だから微粒子となって分散状態になりますからね。 [佐藤]それからDABの定量についてですが、培地中のDABをどうして測ったら良いでしょう。 [寺山]Benzenで抽出して測れば1μgでも測れます。(定量法を図示) [佐藤]520mμの所には血清の吸収も出ませんか。 [寺山]520mμには出るものはないでしょうね。 [山田]320mμにも吸収peakがありますが、その吸収はどうなんですか。 [寺山]DABの分子構造が酸性で二つあって、図示したように320と520mμにpeakがあります。中性にすると1種で400mμになりますが、他の物質の吸収が混りますから・・・。 [伊藤]佐藤班員はラッテの血清で癌細胞のselectionをしておられるのですね。 [佐藤]復元したときtumor cellが少いとふえてこない惧れがありますので、牛血清の代りにラッテ血清の中でよく増える細胞をふやしたい訳です。ラッテ内でtumorを作れる細胞ならラッテ血清の中で増える筈ですから。 [黒木]このselectinは時間がかかりますから何かplatingのようなことで・・・。 [勝田]それでも時間のかかるのは同じでしょう。 [佐藤]今でも大仕事なのにこれ以上は・・。もしその総細胞の1/100に癌細胞が混っていることが判っているなら、そうしてもいいですが、それが判らんことなので・・・。 [山田]しかしEarleがcloneをいくつも作ったらその中に復元できるのがあったわけで、cloneを作ってみるのも一法ですね。それから同種血清を使ってのselectionですが、iso-antigenもあることですし・・・。 [佐藤]多数(80匹)のratの血清をプールして使っています。 [安村]復元法ですが、大量の細胞、どろどろのを入れてやると良いでしょう。 [佐藤]X線をかけてsac状としたHodenに入れたのですが、まだtumorを作りません。 [安村]その部位ですが、Hodenより脳の方がtumorを作ったかどうか判り易い。脳は重要臓器でtumorを作れば動物は死ぬからすぐ判る。 [佐藤]前に吉田肉腫を脳内に入れたことがありますが、3〜4日で死んで行きました。しかしそのときは継代できませんでした。 [安村]3〜4日で死んだというのは感染の結果ではありませんか。 [杉 ]脳内へ入れる手技は・・・。 [安村]伝研の実習提要に出ていますが、他側の脳内へ0.02位入れます。2週目位から症状が出てきます。皮下と比べ、脳では少量でtumorを作り、継代のときもそのtumor部位をとり出してsuspensionにすれば良いのです。乳鉢を使っています。
《杉 報告》発癌実験 Golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:
6月号に表示した以後の実験結果を表で示す。
[黒木]そのハムスターへの復元は全部陰性ですか。 [杉 ]そうです。全然だめでした。 [黒木]復元に使う細胞数を10の8乗位にしてみたら如何ですかね。 [勝田]空胞のはどうですか。 [杉 ]回転培養したら全部なくなってしまいましたので・・・。また出来たらそれをやってみようと思っています。 [勝田]静置のときできたのだから、むしろanaerobic、たとえば流動パラフィンでも培地の上にかぶせて管を立てて培養したらepithelialのが出てくるかも知れませんよ。 [安村]そのepithelialのことですが、Kidneyではtubulusからepithelial、glomerulusからはfibroblast-like cellが出てくるということです。 [山田]Fibroblastは解糖が高いですから、培養条件によってはそんなことでもselectできるのではないでしょうか。 [安村]fibroblastsと他のが混っているのではないですか。 [杉 ]いや、ほとんどがfibroblastsです。細胞のとり方は、伝研流の、切って細胞をとっているので、trypsine処理ではありません。 [安村]Fish-stream likeな像がサルのkidneyからのに見られ、kidneyを培養すると大抵そんな像が見られますね。 [勝田]杉君の仕事での特徴は、大きい空胞を持った細胞ですね。 [杉 ]それはanaerobicの条件がそうさせたのでしょうか。 [勝田]だから培地交新を4日毎でなくて、もっと長くのばしてみるのも手だと思うのですが・・・。 [杉 ]濃度も1μg/ml位に低くするとあまり効きませんでした。しかし、これで長い作用させてみることも考えられますが・・・。しかし1ケ月ではそう変化はありませんでした。 [勝田]Liverからの培養が生えてこなかったというのは、入れた組織片は生きているのですか。 [杉 ]管壁には着いているのですが、その片から細胞が周囲に出てこないのです。 [勝田]うちでも、Embryoや幼若でないratのliverはそうですが、組織片は生きていますよ。 [安村]トリプシン処理をしないのは? [勝田]細胞を痛めないためもあります。 [山田]たしかにトリプシンでは細胞がこわれ易いですね。
《伊藤報告》以前からhomogenizerを使って大量の培養可能な肝細胞をとる事を試みて来ましたが、その経過を御報告致します。先ず細胞の集め方を簡単に書きますと、
次に問題になるのは、培養法、培地ですが、此れも色々試みてみました。静置培養では種々の培地何れもガラス壁に細胞がつかなかったのですが、つい最近になって廻転培養法を使って何とかガラス壁につかせる事が出来る様になりました。 まだ培養日数が短い為、此れが今後どの様な経過をとるか分りませんが、増殖しないまでも、生き続けてくれれば、最初から大量の細胞を得られる事ではありますし、吾々の目的に充分使用出来るものと期待しています。
[黒木]トリパンブルーなどで染めて見ていますか。 [伊藤]まだです。 [勝田]とにかくこの実験は、細胞の生死、これをはっきり見て、培養後にはどうなっているかも見ることと、cell countingをやりながら培養して、数の消長を知ることがいちばん必要と思います。 [安村]Tumorなんかですと、すりつぶしても細胞は3%位しかこわれないですね。 [山田]クエン酸処理で細胞がばらばらになり易くなっているので、すっても破れにくいのでしょう。 [勝田]Cell countingの為の0.1Mクエン酸溶液でもprimaryの肝細胞の細胞膜は実に強くて仲々とけません。fibroblastsなんかはすぐとけるのだが・・・。こんなことで肝細胞だけを主にselectできるのかも知れませんね。
《山田報告》1.人正常繊維芽細胞の継代培養及び栄養要求:4系列の胎児肺由来繊維芽細胞株について前回報告した通り、継代につれて増殖度が一定の傾向で変化し、それが細胞の老化を思わせる推移であることを認めましたので、この推移を起す原因が広い意味で栄養要求の変化であろうと考え、その実証に当っています。もともと発育の旺盛な時期でもEagle基礎培地+10%dialized calf serumでは1段増殖をするだけで株細胞より多要求性な事が認められています。継代10代〜15代で、Eagle+10%仔牛血清培地中のコロニー形成率は30%程度ありますが、20代を過ぎたものではこれが5%以下に低下していることに気付き、今度は系統的に各継代時期についてコロニー形成率の比較を行う所です。尚これと平行してSeed sizeによる増殖の有無を調べ、population densityの面から栄養要求を調べる予定です。さらに20代継代以向、コロニー形成率が低下したものにつき、CEE、幼若細胞培養に使用した培地、血清濃度、X線照射細胞の培養液等の添加によるコロニー形成率の恢復の有無を調べます。 2.マウス正常繊維芽細胞の樹立: 発癌実験を行うために、マウス正常繊維芽細胞等を使用することにし、これまで新生児マウス肺より細胞株を継代培養することを行ってきましたが、上皮性細胞の混在率が高く、発育が遅いので、胎児の発生の進むにつれて肺胞の分化が起り、繊維芽細胞成分の比率が低くなるのではないかと考え、妊娠期間中の各期及び新生児の肺のTCを比較検討しました。其結果、胎生時であれば妊娠20日目のものでもよく繊維芽細胞を培養できることに気付きました。そこで今週より予研で純化したddY系マウス保存株の1腹より胎児を別個に培養し、実験をスタートしました。最初の報告は次の班会議で致します。 3.ミクロシネによるHeLa細胞の世代時間の計算とその分散について: 数理統計研究所の崎野氏と共同で癌細胞の増殖機構を数学的に再検討する第1目標として、世代時間の分散を測定することと、同調培養の同調性のdecayの様子を映画で追求することにしました。とくにHeLa細胞は単離細胞培養が可能なため、1個からスタートしてコロニーになるまで連続的に追求できるので使用しています。既に3回繰返しましたが、1個から30個までにはなりますが、15〜6個よりabortionが目立ち、映画用の小培養チューブでは、条件が悪い事を知り、培養器を改良中です。 4.Changの肝細胞株のglycogen産生について: 前にかいたように肝細胞培養株(Chang)を4g/lのブドー糖添加培地で培養すると、組織化学的(Bauer-Feulgen)にGlycogenの蓄積を証明することができます。そこで生化学的に細胞内glycogen量を定量し、同時にブドー糖消費及び乳酸産生を追求してみました。glycogenの定量は抽出したglycogenをglucoseとしてAnthron試薬で測定、ブドー糖はanthron、乳酸はp-hydroxy diphenylによるBarker法を使用しました。対照にHeLa及びNIHT系正常繊維芽細胞を使用すると、これらはブドー糖消費及び乳酸産生は略同様で、消費されたブドー糖の大部分が乳酸として産生されます。肝細胞では、とくに培養数日間はブドー糖の消費が著明でなくGlycogenの消費が目立ち、対数期の後半からブドー糖の消費が起り、乳酸の産生も他2株にくらべて著しく低いという結果を得ました。肝細胞のglycogen量は、他2者の数倍程度、この定量と組織化学的な定性的証明との関係を考慮中です。 5.Friend Virusについて: 癌センター大星氏の腹水型化したFriend cellの培養はまだ成功していませんが、Virus量について面白い事が判ってきました。Friend自身が皮下腫瘍化したもののVirus含有量は脾と大差ないと報告していますが、腹水型化しても尚Virusを保有していて脾が腫大してくるので、この脾腫、腹腔内腫瘍、腹水腫瘍細胞の三者のVirus量を測定した所、10%(w/u)乳剤を原液として、ID50がそれぞれ0.8、2.3、5.1という成績を得ました。即ち腹水細胞内のVirus量は脾にくらべて1万分の1以下で、Friend細胞内でVirusが増殖しているかどうか疑問になったわけです。次の段階として、Virusを含まない腫瘍細胞の分離を単個移植で検討中です。 6.ToyomycinのHeLa及びNIHT等繊維芽細胞に対する影響: 前に九大の高木氏が、JTC-4及びHeLaを使ってToyomycinに対する感受性を調べ、前者の感受性の低いことを報告していますが、同様のことが上記の細胞で認められるか否かを調べてみますと、反応曲線に関する限り差異がありませんでした。しかし、1μg/mlという高い濃度で10時間程度作用させると、HeLa細胞だけこわれ正常細胞は残るという事を見付けましたので、今度は短時間作用させて、以後薬剤を抜き、恢復を調べることから比較中です。
[安村]染色体がdiploidでも復元してtumorを作らぬとは限りませんね。1万個位まいて4日でcell sheetができますか。 [山田]細胞がうすく拡がってきます。これはFibroblastらしく、銀染色センイは出ないが、少しついている感じがあります。 [勝田]Fibriblastというにはもっと長く培養してから染めた方が良いでしょう。Cell growth stageによる栄養要求の差はアミノ酸要求もこれで考えてみる必要がありますね。 [山田]最近、協和発酵からGluNH2、Valなとのアミノ酸が安く出されて、合成培地に便利です。
《黒木報告》吉田肉腫少数細胞の培養とEagleの培地(II)前報において、Eagle Basal Med.(1959)のみで、血液なしでも、Pyruvateなしでも、少数吉田肉腫細胞の培養が可能であることを報告しましたが、その後、血清濃度、透析血清、Pyruvate添加についてのDataが得られましたので報告致します。 (1)血清濃度による影響(全血清及び透析血清)(表を提示): 全血清及び透析血清 5、10、20、40、50%の各濃度を、接種細胞数20個と10、000個について調べた。増殖率はGeneration timeで表現した。 わかったことは、
(2)ピルビン酸添加(2.0mM)による影響: (1)の各群にピルビン酸を添加した結果、
(3)Eagle培地におけるアミノ酸の意味: この実験は、Eagle培地が何故よいかの分析のため、Eagleの13種のアミノ酸を一つづつ抜いた培地を作り、その影響を少数細胞、多数細胞培養の両者において、比較検討したものです。 現在までにわかっているところは、Glutamineのみが重要なpopulation dependentなfactorとなっていることです。しかし、この実験が全血清50%添加と云う条件で行はれたところに問題があります。即ち、この大量の血清中のアミノ酸の中で、非働化操作により破かいされるのは、恐らくGlutamineのみであり、それがこのような結果となって表れたものと考えられるからです。この問題は、血清のfactorをより少くする条件で行はない限り、何の意味ずけも出来ないものと考えられます。 (4)Lactalbumin hydrolysateのLotによる差: 前報において我々の用いていたLactalb.hydrolysateのLot No.が9457であり、それが“不良品”と云う折紙つきのものであることを報告しましたが、そこで、当然他のLotではどうか、Eagleと同じような増殖を示すのではないか、と云うことが問題になります。 調べたLotは、1491、3136、5393、9001、9457の5種類です。培養条件は、whole serum 50%、Lact.hydro. 0.3%、Earle'BSS 50%です。接種細胞数としては、10,000個、20個の二つをおいたのですが、その結果はLotによる差はみられず、いずれにおいても、10,000個のorderでは増殖するが、20ケでは全く増殖しませんでした。EagleとLactalb.の間にはアミノ酸組成の他に何かより根本的な差があるものと思はれます(例えばVitamin)。 (5)染色体標本作製法: どうやらきれいな標本が出来るようになりました。Moorehead,Nowellらの方法に従ったのですが、コツは固定法とslideglassを冷すところにあるようです。Agarを用いる方法は感心しません。
[山田]Generation timeをとるつもりなら、growth curveの横軸は日数単位より時間単位の方が良いでしょう。 [黒木]はじめはgeneration timeをみるつもりではなかったので、時間で測っていなかったのです。 [勝田]透析の仕方ですが内液をとるときはもっと完全に透析する方が良いでしょう。 [山田]セファデックスと透析とは同じでしょうか。 [関口]セファデックスの方がずっと強力ですね。 [黒木]アミノ酸の耐熱性などはどうでしょう。 [安村]グルタミンだけがこわれ易いことは確かですが、他のアミノ酸は、変化を受けるとは思いますが不明です。 [黒木]Pyruvic acidなども熱で壊れますね。 [安村]合成培地でも、こわれる以上に入っていれば、細胞を飼う上には問題はないでしょう。 [山田]うちでは、ミリポアフィルターでアミノ酸溶液をひいています。短時間で出来ます。
《堀川報告》1.発癌実験:放射線照射後のマウスに白血病が発生するということにヒントを得て、マウスCBA系統から得たSpleen細胞を試験管内培養することにより、これに低線量のX線を反復照射したのち新生児に復元して、リンパ性白血病をマウス体内に誘起することを試みた。材料はマウスCBA系統♂、生後20日目。培地はYLH80%+牛血清20%(静置培養)。 実験法: A)
2.一方、離日までに整理する仕事として現在、
[勝田]君のγ線耐性のLはどうして作ったんでしたっけ。 [堀川]2,000rを計7回照射しました。間隔は34〜35日です。100万個で第1回は新しいcolonyが4〜5ケ出来て、その次は9ケ、7回目には45ケできました。染色体数も63本から減って行って44本になったのですが、実は8回目をかけたら88本になってしまったのです。使ったのがLだから旨く行ったので、HeLaだと耐性を得るのが困難だったと思います。 |