《勝田報告》
発癌実験について、特にDABで増殖を誘導した細胞に対する、第2次の刺戟の影響をしらべたこれまでのデータを括めてみます。
A)培地無交新の影響:
大別すると3群の実験に分れます。
- 各種RLD株に対する無交新2回施行の影響:1963-4-13→5-12と、6-11→7-11と、各1月宛無交新をおこない、8-26に継代した。その結果、細胞の反応によりほぼ5種類に分けられた。
- RLD-3、RLD-5、RLC-1:これらは第1回の無交新で、(細胞が丸くなり)、交新をはじめると(回復し)、第2回でまた(丸くなり)、次に交新をはじめても回復しなかった。
- RLD-0:(丸くなり)→(回復し)→(円くなり)→(形は回復し)→、しかし切れてしまった。
- RLD-2、RLD-4、RLD-6:(シートが剥れ、新しいコロニーが出てきて)→(交新でそれが増殖し)→(またシートが剥れ、新しいコロニーができ)→(交新をはじめるとそれが増殖する)。
- RLD-1,#4(サリドマイドを後処置した系)、RLD-1,#2(DABの後処置)、RLD-1,#3(4nになったもの)、RLD-1,#5(一番Atypismの少ない系):(生存し)→(交新で増殖をはじめ)→(生存し)→(交新で増殖)。
- RPL-1(正常ラッテ腹膜細胞株):(第1回でシートが剥れ)→(交新で増殖)→(第2回でシートが剥れ)(核に異型性の変化が起ったが)→(交新をはじめると1週間で異型性は消えてしまった)
これら何れも2回の交新無しに耐えて出てきた細胞に(A)を附し、たとえば、RLD-1,#2からの細胞は(RLD-1,#2A)とよぶことにした。
Atypismの点からは、RLD-1,#2Aに最も強いAtypismが出現した。
- RLD-1株に対する反覆的培地無交新の影響:RLD-1,#3の系に今日まで何回もくりかえしてみた。最大5回までくりかえした。(4nB)の方はまだ4倍体がかなり残っているが、(4nA)の方はどういう訳か再び2倍体の方に戻りかけ、42本より少い方も多くなった。
- 初代と第3代に対する無交新の影響:初代では#C27(1962-11-9開始)DAB4日、'63-2-16〜3-16まで28日間無交新→その間は生存したが以後切れた。
#C39(1963-4-25日TC開始)DAB4日、5-16〜6-10まで25日間と7-1〜7-22まで21日間無交新、8-29日継代→しかし細胞が硝子面に附着しなかった。
継代第3代では、#C42(1963-30日TC開始)DAB4日、7-25日継代、9-5〜9-23まで14日間無交新→切れてしまった。
以上のように株細胞でも無交新に強いものと弱いものとあり、かなり面白い変化の出たものもあるが、初代或は継代初期の細胞は抵抗力が弱く、切れ易いのは実際的に用いる場合困ったことである。
培地無交新の影響を染色体の上からしらべた結果は分布図を展示するが、4倍体辺りに移るもの、ほとんど変らぬもの、少しふえるもの(例43本)、少し減るもの(41本)など色々あり、一定した変化は見られない。しかしそれはそれで、むしろ生体の発癌状況に似ているとも云えよう。
B)ホルモン添加の影響:
これまで成長ホルモンとテストステロンの2種を用いたが未だ余り深くやっていない。
- 成長ホルモン:#C24(DABを4日作用後)、第22日→26日(4日間)70μg/ml与えたが、第33日に継代し、対照群ともに細胞が附着せず、切れた。
- テストステロン:#C27(DAB4日)、対照は第45日の継代後に切れた。DAB群に、第10→14日(4日間)10μg/mlテストステロンを与えたのは株化し、RLD-6となった。第10→45日(35日)1μg/mlは切れた。
C)DABによる第2次刺戟及び長期添加の影響:
#C17(DAB1μg/ml、4日):実験群はそのまま後にRLD-5になった。それに1月に1回宛(4日間宛)1μg/ml、計2回与えたのは、継代後切れた。
#C23(同上):以後10日に1回(4日間)宛1μg/ml、計3回。継代後やはり附着せず。(対照は附着)
#C38、(DAB 0.1μg/mlを入れ放し)第25日に継代したが附着せず。
以上は何れも初代であることに御注意下さい、(佐藤班員のは株)
RLD-1,#2、1月半毎に1回(4日間)1μg/mlに添加し、4回くりかえした。これは株化して#2となった。(染色体数42本)
D)サリドマイド添加の影響:
- RLD-1株への影響。RLD-1,#1,#5,#6株に、0.1、1、10、50μg/ml濃度で添加したが、5例中3例は巨核巨細胞の出現傾向は見られたが、非添加群との差が見られない例もあった。染色体標本用に使用した後に、1963-1-22→2-6(15日間)の他に、2-16→3-3(15日間)何れも10μg/mlを与え、株化してRLD-1,#4となった。
- 初代培養への影響。#C35(DAB、4日)第8日:DAB群15/15、内8本(そのまま)・・・→株化→RLD-8。残りの7本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)・・・→株化→RLD-9。対照群5/5、内2本(そのまま)・・・→株化→RLC-3。残りの3本(第14日→18日:サリドマイド10μg/ml)→切れた。
この実験ではDAB群、サリドマイド後処置群、対照群、何れも株化したのが面白い。
#C36(DAB4日):第15日DAB群12/14、内7本(そのまま)・・・切れた。残りの5本(第15日〜40日:10μg/ml)・・・切れた。対照群2/5本・・・継代のとき切れた。
以上のように、サリドマイドは株によっては巨核巨細胞を作るのを促進する効果があるらしい。初代に対してはやはり核を少し大きく異型的にする。しかし何れも一過性の変化らしい。
E)培養細胞の復元接種試験:
次表のように、これまで18回復元を企てたが、何れも失敗に終っている。これは、細胞自身の性質を変えることができたか否かの他に、復元法の問題も入ってきて、2つの要因がからみ合っているので、仲々むずかしいところである。今後は細胞の性質を変化させる努力と共に、復元法の改良も考えて行かなくてはなるまい。
:質疑応答:
[佐藤]さっきの培地無交新のときの(A)系の顕微鏡写真は、継代後同じ日に作っているのですか。
[高岡]Aの系列は一緒に処置して、同じ日に作りました。
[山田]形態に現れた変化は、その後継代してもそのままつづきますか。
[高岡]2ケ月以上になりますが、今だにその変化したままです。
[山田]増殖度は変っていませんか。培地を変えないと、呼吸の阻害やpHの変化などがありますが、HeLaの場合には全部、増殖度の落ちることを見ています。そして増殖を回復すると元の形態に戻ります。
[奥村]解糖系が高くなったとき、培地中の糖の量をあげて、4.5g/lにすると増殖が回復しますね。
[山田]無交新というのは解糖能の高い細胞をえらぼうとしているのですか。
[勝田]1ケ月も培地を変えないでおくと、培地中の糖はほとんど無くなってしまうと思う。そこへ糖を多量に加えて、それが果して選んだ細胞の増殖を上昇させることになるのでしょうかね。とにかく無交新というのは、生体内での発癌の初期の状態を考えて、いわば凖嫌気的におくことで癌化する可能性がないか、と思って試みているのです。
[安村]復元法ですが、同じ細胞数のときは、脳内の方が感受性が高いと思います。細胞集団のなかの一部が癌化しているとすれば、動物を使ってselectすれば良いのではありませんか。菌の場合ですが、同じ培地で飼っていると、たとえHistidine要求のない菌ができてもそれは反って淘汰されてしまう。要求のない変異株をとるには、His(-)の培地に飼わない限りとることはできない。しかしHis(-)の菌は、いつも少数ながら必ず親株のなかに次々と生まれてはいるのです。なおmutation rateは100万個〜1,000万個に1ケの割りです。
[山田]癌細胞の場合は少数であっても消えずに増えるのではないでしょうか。
[安村]100万さしても発癌しない(腫瘍を作らぬの意らしい)なら、どうも悪性化していないというより他ないが、1,000万さしてつくなら変異株を拾ったということになりはしないでしょうか。
[佐藤]AH-130の長期継代をして腫瘍性が落ちたというのならば、現在の培地は肝癌細胞向きでないのではないでしょうか。
[奥村]腫瘍性の低下ということは、期間の問題もあるから単に培地だけが問題とは云えませんね。
[安村]AH-130の腫瘍性の低下したものを、腫瘍でなくなったと考えるのかどうか。もとは癌であって、動物を殺さなくなってしまった期間の細胞を何と呼ぶか・・・。
[山田]移植性があるとかないとか云えば良いでしょう。正常とか悪性とかいう概念より、中途の段階的な、定量的な呼び方として。
[安村]癌になったかどうかを、動物で癌が出来るか出来ないかで決める、という現象論で決めるのなら、発癌させなければ(腫瘍を作らねば、の意らしい)、それまでだが、細胞が悪性化していても、方法が悪くてそれを認定できない、ということの方が大きいのではありませんか。だからその方法を改良することにもっともっと力を入れるべきだと思います。
[勝田]そのことは私の報告の最後にすでに云ってあるところです。結局我々が問題にしなくてはならない点を整理すると三つになると思います。その第一が、いかに培養内でうまく癌化させ、しかもその癌化率を大量に且確実にするかです。第二は、うまく癌化したものを、培養内でいかにうまく大量にふやすか、です。培地の工夫も勿論含まれます。第三は、復元法です。復元法如何によって、もちろん、たとえ癌化していても、つかないことがあり得るのですから、復元法を吟味することは大切です。現在我々はこの三つを、三つとも能率向上させなければならない立場にあります。
[安村]とにかく復元法を検討すべきだと思います。
[奥村]移植という問題は、また難しいことになります。
[伊藤]吉田肉腫は1ケでもつく、といいますが・・・。
[奥村][黒木]1ケでもつく、という癌細胞は非常に少ないですね。
[佐藤]培養内で、培地の血清をラッテの血清にかえて、ラッテに復元したときつき易いようにselectしておくとか、いろいろ準備はしています。
『附』
この場合の安村君の発言は、非常に空論である。我々自身がすでに考えていることをそれ以上強調しても何にもならない。それよりこのような席上では、それではどのような動物を使って、どのような注射器で、どのような量で、どこに接種するのが良いと、具体的なadviceにつとめるべきである。またその理論そのものにしても“すでに癌化はしているが復元法が悪いからつかないだけだ”という風にもとれるが、私は決してそう思わない。何度も云っているように、正常肝とのparabiotic cultureの結果からみて、“私は"前癌状態までは行っているが、未だ悪性化はしていない−と見るべきだと思っている。後処置をして、変化の面白いものもある。しかしそれらはまだ復元してないものも多い。復元法如何だけがいま鍵だというのではなく、現在では、まだ三つの要因があくまで完全に解決されないで残っていると考えるべき段階と思う。この前の班会議では盛に脳内接種を宣伝されたが、具体的データを今回の癌学会できいてみると、最初の動物移植のときは、脳内は成功せず、皮下のが成功している。だからこれらの発言は、安村君が自分自身に向っての心の苦悶を自問自答している−ととれば、我々もあまり腹が立つまい。それに対して、後に報告した黒木班員のハムスターへの復元は、我々に新しい一つの道を教える意味で、模範的な(積極的adviceに富んだ)発言であると思う。このような発言こそ他の班員にとって大きなプラスになる。班会議というものは、ある程度目標が絞られているだけに、かなり実際的な発言をしないとそれが活きてこない。単なる批判だけでは駄目で、それよりこれを、と具体的に別のもっと良い方法を知らせ合わなくてはならないと思う。(勝田)
《佐藤報告》
- 染色体数の変動について:
呑竜系ラット肝対照株の染色体パターンの表を展示。生後9〜25日、総培養日数は223〜513日、7例の検索結果では変動の理由は分らないが、染色体数の主軸が2倍体より少数のところにあるもの、やや増えているもの、4倍体に近くなっているものと様々である。生後日数、培養日数との関連は見られない。
次に培養初期にDAB及びメチルDABを与えた後、株化した細胞株9例の染色体パターンの表を展示。対照と比較して、染色体数の主軸の減少がやや目立つ。
- Primary CultureにおけるDAB(1μg/ml)の減少:
グラフ提示。従来の方法で呑竜系のラット肝(生後18日)を用いてDAB1μg/mlを加え、4日後培地中のDABを測定した。20%(19.3%)程度にまで消耗していた。LDのみで液替えをして後、第8日目3.7%、第12日目0.9%であった。
またDABを1ml/1μgに4日与えた液は畧同様20.7%になっていた。この液を捨てて新たにDAB1ml/1μgに投与すると4日目16.2%に減少していた。以下はLDのみの液替えでDABは消失する。またprimary cultureした対照を16日になって始めてDABを1ml/1μgに入れて見た。4日目の溶液中のDABは2.8%で前2者より著明に減少していた。
次に8対照株を材料として1ml/1μg(測定値 1.08μg/ml)のDABを300万細胞で平角に培養した状態4日でのDABの減少は、1.08μg/ml→0.13μg/mlで、その4日間で対照群の300万→672万に対してDAB添加群は300万→1100万と、増殖の促進が見られることは興味があり、今後完全な方法で計数して見る積りです。
次に生後69日の呑竜ラット♂の肝及び腎を用いて1日、2日、3日、4日の間隔でDAB1ml/1μgの消耗を見ました。40mlの共栓遠心管(高速回転培養瓶)を使用して培養液7mlの状態で廻転培養した。試験管内の細胞重量との関係も将来考えねばならないし、又DABの消耗原因をしらべて見なければならないし、多くの問題を含んでいるが、この実験でも、非常に速くDABが液中から消失することは興味が深い。
:質疑応答:
[山田]耐性になっているのですか。細胞膜の透過性が変るという例にあてはまりませんか。
[佐藤]よく判りません。今度は培地内の血清量を減らして、増殖しないという状態にしておいて、しらべてみたいと思っています。
[勝田]DABの定量の問題で今後やるべきこととして残っているのは、1)短期間つまり1日以内での各時間での培地内DABの減り方、2)株で実験するとき、ちゃんと細胞数をかぞえて、平均細胞数を出し、細胞一定数当りのDABの減る量をはっきり計測すること、3)その減り方が培養の時期によって変らないか、変るにはちがいないがその変り方、4)株にDABを各種濃度に入れてみて、その増殖に対するDABの影響などの点でしょう。
[佐藤]Ratのageが大きくなるとどうもDAB添加期間の永い方が良いように思われます。
[勝田]DABを連続して入れておいた株の培地から、一時DABを除き、しばらくして又DABを与えると、培地中のDABがまた大量に減るようになりはしないでしょうか。つまり本当に耐性になっているのか、一過性のものか、この点です。
[佐藤]細胞が増える状態のときと、増えない状態のときとは、細胞のDABに対する態度がちがうのではないかと思います。
[奥村]もちろん、そういう量的でない、質的な違いがあるように思いますね。
[勝田]細胞への増殖促進効果があるとすれば、それは何かした細胞の代謝に関与しているわけですからね。
[関口]細胞内でのprotein-boundのDABと、freeのDABとを、培養初期と長期のものと比較してみるべきですね。
[遠藤]ベンゼンで振ると、protein-boundのものもfreeの中へ出てしまうのではないですか。
[佐藤]proteinへの結合には、固いものを緩いものと2種あるでしょう。固いものはベンゼンで振っても絶対にとけてこない訳で、それは別に測ればよいのです。
[勝田]問題は細胞の内ですね。内部に入ったものがそのままproteinに結合してがっちり動かないのか、それともたえず培地中のDABとtornoverしているのか。連続してDABを与えていても少しは減るというのは、どういうことでしょうね。だから細胞1ケ当りのDABの減り具合をしらべておけば、それが細胞が増殖したため、増えた分だけまたDABがくっつくのかどうか、ということも判りますね。初代培養でこれをやるとすれば、やはりliverのcell suspensionでcell countingをして培養しなくてはなりません。これはうちでもやってみましたが、伊藤班員がやっているようにテフロンのhomogenizerでゆっくり動かして、perfusionした肝の肝細胞をばらす方法でうまく行くと思います。これに関連してですが、テフロンは温度によって膨張収縮がかなり強く、細胞を痛めずにばらばらにするのに頂度良い大きさ(隙間)にするのが非常にむずかしいと思いますが、伊藤君の処は何度位で操作していますか。
[伊藤]普通に室温でやっています。
[佐藤]proteinについたDABはどんどんturnoverしていると云いますね。
[関口]蛋白に結合してもN-oxideの形でいるのかも知れません。
[勝田]N-oxideの形に変えるとしたら、それも培地中に出てくるだろうから、DABとN-oxideを分けて定量できぬかと寺山氏に昨日聞きましたが、難しいそうです。
《杉 報告》
発癌実験:
Golden hamster Kidneyのprimary culture−diethylstilbestrolのExp.1〜33までを総括すると(表を呈示)、廻転培養では実験群、対照群とも細胞は比較的よく生えるが、繊維芽様細胞が多数を占め、特に上皮様細胞は出てこない。pyruvic acidの効果はあるかどうかはっきりしない。例の上皮様細胞団を多く生やす目的で培地上に流動paraffinを重層して培養したが効果は特に認められなかった。Exp.17を復元したものは、そのごもtumorを作らない。markしている上皮様細胞団の細胞内空胞と思われる部分はSudanIIIで染色されなかった。
最近hamsterが殖えなくなりましたが、現在、増殖用飼料で繁殖させる様、努めていますので新しく生れてきたら、細胞を大量に生えさせる工夫をして復元を繰返し試みたいと思っています。
:質疑応答:
[安村]ハムスター腎を培養すると必らず上皮様の細胞が出てきます。だから今の実験のままでは、Stilbestrolが上皮様細胞をselectするということは必ずしも云えないでしょう。むしろ対照に出てきた細胞にstilbestrolをかけてみたらどうですか。そこで上皮様細胞がselectされるのならば、それはstilbestrolの作用と云えましょう。
[勝田]これだけやって長期培養が1例もできないというのは何か培養法自体に欠陥があると思います。そこを検討してみるべきではありませんか。それからstilbestrolはホルモンの1種でDABのような非生理的化学物質とちがうから、やはり長期に渉って作用させた方が効果が出るのではないでしょうか。
[遠藤]Stilbestrolがホルモンであると考えるのは一寸問題があると思います。殊にin vitroの腎に対しては異物と云えるかも知れません。
[勝田]実験データが或程度たまったら、こんどは色々の視角から整理してみる必要があります。たとえばハムスターのageの順に並べてみるとか、濃度で揃えるとか、或は性別で分けるとか、です。それから培養も、何もexplantに固着しないで、トリプシン処理して初代から大量に培養してみることも試みるべきではありませんか。そうすれば長期培養も楽になるかも知れません。
《伊藤報告》
homogenizerを使って細胞浮遊液を得て、短試験管→廻転培養のsystemで実験を続けています。
- 今回は対照群(A)、DAB(1μg/ml)7日間添加群(B)、DAB連続添加群(C)の群に分けて検しましたが、morphologicalには特に変化を見出していません。
- 数の計測の結果では、前回の報告にもありました如く、実験群特にB群に於いて、試験管によって、2〜3倍の細胞数を含むものがある。(増殖曲線を呈示)
- C群(入れっぱなし)は最近(実験開始後約2ケ月)になって全体に細胞数の減少の傾向がみられる。
考案:
- 前回の報告ではcell suspensionで計測した細胞の約1/4が管壁にくっついてはえると報告し、その点について勝田先生から「管壁につかない細胞についても計測して行く様に」とのAdviceを戴き、又先月の黒木氏の御報告からみても、浮遊したままの細胞についても検討する事の必要性を感じた訳ですが、今回の実験では、分注した細胞の殆んどが管壁について呉れましたので、その点での心配はありませんでした。これは今回とれた細胞の具合がよかった為か、又Inoculumを減らした事が良かったのかも知れません。
- 次回からは短冊も入れて、morphologicalな検討も併行する。
- 実験群に時々見られる細胞数の多い場合と云うのが、増殖誘導と考えてよいものか否か、若しさうであるとすれば、此の様な細胞を残す事を考える必要がある。
- 2ケ月近くのDAB添加ではやや細胞障碍的に働くのではないか。
今後此等の事を考えに入れて、次の実験にかかり度いと考えています。
又廻転培養は何かと不便ですので、静置培養の方も再度試みる積りです。
:質疑応答:
[勝田]増殖細胞の核はちゃんと見分けられる筈ですから、cell countingのときよく気をつけて見て下さい。またグラのかき方ですが、DABを加えて増え出している方のは、平均ではなく各々の点を打った方が判り良いと思います。何とか途中で増え出したtubeを見付けられるようにしたいですね。(例えば平型短試を使うとか。)それから大量にスタートして、短期間にしらべ、どの位の時期から増え出すか、つきとめて頂きたいですね。
《黒木報告》
Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究
I.非処置Hamster cheek pouchへの吉田肉腫細胞移植:
異種移植による培養細胞の同定は、Foley,Handlerらによって、大規模な実験が行われ、そこから得た経験的法則は確立したかに見える。Foley,Handlerらの最近の綜説は、J.Nat.Cancer Inst.Monograph No.7 1962に出ているが、これを読んで感じたことは、次の三点である。
- Control実験とも云うべき“originのはっきり分った細胞”を用いての実験が一つも行はれていないこと。
- invasivenessと云う言葉は出て来ても、それについての具体的表現のないこと。
- 我々の研究室で系統的に行っている少数細胞による同種移植と比較するとき、余りにもそのDataがよすぎること。(例えば、吉田肉腫は呑竜ラットに1ケでも50%移植可能であるが、MH134等はC3Hinbred mouseには100ケ、(C3Hxdd)F1には10,000ケ必要である。
これらの疑問を検討すべく、Hamsterを用いての基礎的な実験を本年8月より開始した。そして、この実験を始めるに当り次のような基本方針を定めた。
- 実験に用いる細胞は、悪性、良性のはっきり分った細胞のみを用いる。この目的のため、当分の間は腹水腫瘍のみを用いる。
- cheek pouchの移植部位としての特殊性(Foleyはprivileged statusと表現している。)を確かめ、更にcortison処置、X-ray照射等の基礎条件の検討を行う。このために、最初は細胞を吉田肉腫のみに限定し、様々な方法で移植比較を行う。
- 組織学所見を重要し、浸潤性の検討を行う。
- 長期間の観察を行う。
以上の4つの方針に基ずき、今後実験をすすめる予定である。今回はその第一報として非処置Hamsterへの吉田肉腫の移植性をReportする。
§実験材料及び方法§
☆Hamster
用いたHamsterはGolden Hamsterである。これは予研病理より抗研山根研究室へ分けられたものの子孫である。現在のところ自家繁殖により供給しているが、Mouseと同等、あるいはそれ以上の繁殖力を有するとは云っても、限りがあり、十分な実験はできない。しかし最近、実中研からの連絡によると需要があれば大量生産を行うとのこと故、今後は楽になるものと思はれる。なお、Hamsterの繁殖において注意すべきことは(1)生後10日から30日までは新鮮な野菜を与えること。これによって離乳率を80%〜90%に上げることが出来る。その他のHamsterは固形飼料で十分である。(2)Cageは丈夫なふたに止め金のついたものを用いること。普通のCageでは簡単に逃げ出してしまう。
☆移植方法
今回は生後30〜60日、体重50〜60gのものを用いた。Nembutal麻酔(0.1ml/100g ip.inj.)によりcheek pouchを引き出し(第一回)ツベルクリン注射器により0.1mlの細胞浮遊液をcheek pouch粘膜下に注射する。今回はCortison処置は行わない。
☆細胞(吉田肉腫非培養腹水)
§実験結果§
経過の判定基準は
I.:腫瘤を全く作らないもの。
II.:米粒大の大きさに達っするが、間もなく消失する。
III.:1.0x1.0cm以上の大きさに達っし、粘膜と腫瘤は癒着し、粘膜面はうっ血出血ビランがみられる。しかし、nekroseとなり消失する。(膿瘍形成は含まない。)
IV.:更に大きくなり、4.0cm以上となる。そのため、腫瘤を口腔外に引き出すことは困難となる。腫瘤表面の皮ふは発赤し、潰瘍を形成、感染し、ついには死に到る。
以上の試案のうちI.II.を陰性、III.IV.を陽性と考えた。なおFoleyらの判定基準は次のようなものである。The development of a nodule that became vasculized and grew progressivel was considered as evidence of growth. 従って上記私案III.IV.と一致するものと思はれる。
結果は(表と写真呈示)、一応(+)と判定されるもの(Foleyらの基準に従い2/6以上を+とした)は10の2乗以上である(10の3乗のDataについては再試する予定)。10の6乗以上のとき、前例陽性となる。又10の4乗のときは死亡するHamsterも出る。しかし死亡したHamsterを剖検しても肉眼的に転移は認められず、感染症により死んだものと思われる。(くずれおちたcheek pouchは巨大な潰瘍となり、その部に蛆の発生することさえある)従って腫瘍死か否かについては疑問があり、組織標本により詳しく検討する予定である。
:質疑応答:
[勝田]培養細胞の場合は、数がなかなか増やせないときなど、この方法を使って、ハムスターのチークポーチで一旦ふやしてからラッテに接種するという手もありますね。
[安村]コリエルはラッテ肺に入れると効率が良いと云ってますが、実際はあまり良くないらしい。
[黒木]チークポーチは100万個入れるとNormal tissueでもつく、といいますね。それからCortisonの効果は細胞数1ケタに相当します。Foley-Handlerは培養細胞だけを培養でテストしています(Syverton Memorial Symposium #6)。ハムスターをねむらせるのにエーテルは駄目で、ポーチを出すころ目をさましてしまいます。だから眠り薬を腹腔に注射して処理する必要があります。
《山田報告》
- 2倍体繊維芽細胞株の増殖度の変化とコロニー形成率並びにDNA合成との関聨:
前にもかきましたように2倍体細胞株は継代につれて増殖度がかわってきます。増殖度を単に4日培養における増加倍数でなく増殖曲線対数期における世代時間で比較しますと、(図のように)継代30代近くまで世代時間に変化なく33.2±4.5時間程度になっています。しかし20代以向は増加倍数はすでに低下の傾向にあり、これは増殖曲線のinitial fallの深さがだんだんに大きくなることにより説明されます。すなわちTrypsin処理によって新たに植込んだ細胞数中、生存細胞数の頻度が徐々に低下することが推定されるので、Eagle基礎培地+10%仔牛血清培地中でのコロニー形成率を調べてみました。結果は(表の通り)たしかに継代につれてコロニー形成率が低下することが認められますが、若い継代細胞でもやく30%の形成率しか得られず、培地が完全でないことが予想されますので、正しい生残率として表現することはできません。
しかし一定の傾向として継代につれて著しくコロニー形成率が下ることがうかがわれます。なお血清濃度を20%にあげますと多少コロニー形成率が上昇します。今、CEE、Medium199、109、核酸前駆体、Vitaminなどの添加で形成率の上昇をはかっています。次にH3thymidineとりこみからみたDNA合成の態度を見ました。これで判ったことは、全細胞集団中一部の細胞しかDNA合成および増殖に関与していないことです。H3 thymidine (1μc/ml) の連続ラベリングの成績で(表)みると、若い継代細胞株で80%、古いもので60%しかラベルされません。HeLa細胞ではコロニー形成率が100%に近く一世代時間のH3-TDN接触で100%ラベルされます。ということは、HeLaでは全細胞が増殖に関与しており、しからずんば死滅という感じです。一方2倍体細胞では一部の細胞が増殖し、他の一部は生存してDNA合成も行わないことがうかがわれます。この非増殖細胞が次第に増加して細胞集団の老化現象として認められるようになると考えると、今後は増殖と分化の関係をこの実験系で追求できるかも知れないと希望を持ちはじめました。
- マウス胎児の2倍体細胞株の分離とコバルト60γ線による変化の追求:
すでに4回胎児肺組織よりの繊維芽細胞系の分離を試みました。人の場合よりEp細胞の消失がおそく、7、8代で尚EpとFbが混在しています。一部の細胞には500γのコバルト60γ線を照射して細胞の変化を観察中ですが、恢復が一般におそく時間が必要です。
- 閉鎖系にするS3-HeLa細胞のコロニー形成率:
勝田さんからの話で、同じ炭酸ガスフラン器を使用し、閉鎖系でのコロニー形成率を調べました。細胞を植込んですぐにシールしてフラン器に収めますと、同じ培地ではpHの上昇が起り、pHの上昇のためにコロニー形成率が10%以下になりました。そこで一旦炭酸ガスフラン器に収め、pHを調整して、その場でシールした所、解放系と変らぬ形成率を得ることができました。
:質疑応答:
[安村]12代以前のときplating efficiencyが上っていませんか。立上っていると困りますね。
[山田]まだ見てありません。これからやります。今後はマウスの肺を培養してそれに放射線をかけることをやろうと思っています。
[関口]HayflickのLeucineのとり込みのことですが、ただC14-Leucineが入ったといっても、それが単なるturnoverで入ったのか、それともproteinのnet synthesisがあったのか、例えばH3thymidineなどを同時に使ってないのでunbalanced growthでない、ということが云い切れないのではありませんか。
[山田]その通りですが、そこは見てありません。
[勝田]継代につれて例えばcollagen合成能がどのように変化して行くかなどを見て行くと面白いでしょうね。
《土井田報告》(要旨)
L細胞400万個/bottleにコバルト60γ5000rをかけて耐性細胞を作りましたが、ID50は530r(L原株は270r)です。染色体数のピークの移動は63本(L原株)→61本→53本→51本→50本→47本(5回目)→44本(7回目・80位もふえている)→42本(8回目・80位もふえている)と下って行きます。核型は小さいfragmentのようなのが出ています。二次狭窄の形のがある気もしますがマーカーとも云い切れません。結論としては、変異と淘汰の組合せと考えます。放射線をかけると染色体が減るということは事実ですが、減ったことと耐性とは必ずしもむすびつけられないと思います。以前にHeLaでやったときは2集団の混合であるような結果が出ました。
:質疑応答:(脳内接種について)
[佐藤]1000個位の細胞を脳へ入れるときは、どうやって算えるのですか。
[安村]濃いのを算えて、稀釋して使います。
[佐藤]非常に誤差が出るでしょう。
[安村]桁の問題で、誤差があってもかまいません。
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