【勝田班月報:6401】




《山田報告》

    Window technicで個々の細胞の増殖様式を、HeLa-S3とNIHT-5細胞について追求してみました。培養液はEagleでHeLaでは10%、NIHTでは20%の仔牛血清を添加してあります。接種細胞数はHeLaの場合2000個、Windowの内径1.2mm、NIHTでは100個、6.0mmです。NIHTは運動性が高く、コロニーが多く数えられないので、止むを得ず、Windowを大きくし、細胞数を下げました。いづれの場合もWindowに平均1個程度の細胞が出現する計算になっております。HeLaのplating efficiencyは90以上、NIHT-5(10代目)は40〜50%でした。

    (グラフ呈示)HeLa-S3は翌日の観察(22時間後)で2個になっているものが50%程度、45時間後に2個になったものが50%程度で、それ以後およそ24時間毎に観察すると、それぞれが直線的に増殖し、多くの細胞はほとんどこの間に入ってきます。例外として2個の細胞が114時間の観察でまだ3個にしかなっていません。

    40個の単一細胞からスタートしたものを平均しますと、Time lag4時間、世代時間26時間となります。NIHT-5の場合には、136時間の観察で細胞40個から、全く増えない1個のものまで、個々の細胞が種々の増殖度を示しております。ガラス壁面に附着した30個の接種細胞中全く増えなかったものが6個で中2個は途中でガラス面から剥離しました。すなわち、NIHT-5の1集団の中で個々の細胞の増殖度に大きな差があるわけです。全くふえなかった細胞が6個といってもfinal populationでは1%以下となるわけですから、新しくTrypsin消化をして、継代すると、p.e.から考えて半分は又コロニー形成を認め得なくなるわけです。

    なお、136時間に5個以下のものは殆んど60時間以降ふえていないので、単にtrypsin消化の影響だけ(一次的な)で増殖がストップするのではないことが判ります。(集団としてのT.L.27時間、G.T.30時間) それ以後、現在手がけていることは;

    1. 個々のコロニーの構成細胞数と個々の細胞のDNA量の関係(Microspectrophotometry)。
    2. クローン細胞系のp.e.と増殖態度。
    3. feeder layerによるp.e.の上昇の有無。

    最近、次の2つの論文に興味をひかれました。

    1. Rothfels,K.H.,Kupelwieser,E.B.,& Parker,R.C.:Effects of X-irradiated feeder layers on mitotic activity and development of anewploidy in mouse-embryo cells in vitro. Canadian Cancer Conference,5,191-223,1963.(Academic Press,New York)
    2. Todaro,G.J.,Nilausen,K.,& Green,H.:Growth properties of polyoma virus-induced hamster tumor cells. Cncer Res.,23,825-832,1963.

      Rothfelsらのものは、マウスの細胞株分離における、%Euploidyと%Mitosesの間に逆相関があり、継代10代まで%Eが100%のとき、%Mはどんどん低下して殆ど0%、10代以後%Eが低下すると%Mが上昇すること、CFIマウスのestablished cell lineはすべてが移植性を獲得していることを示しています。今までのデータと合せて、純系マウスを使えば、細胞の株化(Aneuploid化)=移植性獲得まではもう規定の事実で、Euploidyの維持するための条件をさがしている感じです。この論文ではfeeder layterが%Mを上昇させ、同時に%Eの低下を遅らせる作用があることを述べています。

      Todaroの論文はin vivoでtransformした(polyoma wirusで)hamster kidney cellは容易に株化するが、無処置の細胞は10代くらいで消失することを明確に示したものです。in vitroでtransformした場合にも株化しやすくなることも述べています。

    :質疑応答:

      [佐藤]C3Hマウスを使った場合、移植後100日や200日もかかって発癌する(註:腫瘍を形成する−の意味)のは、問題があると思います。ウィルスの疑があります。6401:試験管内の変異と動物における癌化の問題

      [安村]そういうときは、マウスの種を変えて、たとえばAとBとして、Aに発癌させ、AとBとのF1にその癌をかけてみるとかかるが、Bにかからない−というようなやり方ではっきりさせられます。

      [勝田]細胞1ケだけのColonyで、増えないという場合、他のColonyからこぼれて、1ケだけ着いた形になったという場合もあり得るから注意をして下さい。それから、2nと云われますが、数は2nでも核型はどうなのですか。

      [奥村]2nだから正常といえるかどうか、核型もちがうことがあるし、たとえ同じとしても前癌状態に入っていることも有り得る。2nは必要条件であって充分条件ではないので、2n=正常とは云えませんね。

      [山田]2n=正常とは考えていません。まず2nは必要条件ということからはじまって、これから正常とは、ということへ入って行くつもりです。

      [奥村]正常性の証明の手段として2nをもってきてはいけないと思います。正常性を検討するつもりなら、2倍体を維持した長期継代の細胞より、初代に近いものを多く使う方が良いと思います。

      [安村]初期の細胞をまいて、2nでない細胞系を作ってみて悪性をしらべたら、染色体との関係が少しは判るでしょう。

      [山田]染色体だけで見て行けばそういえると思いますが、癌にならない系の裏付として2nの細胞を結び付けてみています。

《勝田報告》

    A)発癌実験:

      その後のDABによる発癌実験のデータをお知らせします。(表を呈示)血清は全部仔牛血清を使い#C-45あたりからprimary cultureの内に培地無交新をおこなう実験をはじめました。これを#C-48まで、4回くりかえしておこない、#C-49の実験では初代の第9日に、中性子を1100、275、89rと各2本宛に照射しました。これはいずれもまだ初代のままで、形態的にはまだ変化が認められません。またこの実験では同時にDAB-n-oxideをDABの代りに用いる実験もおこない肝細胞の増殖が起りましたが、これはratが若く、control迄増えていますので、n-oxideそのものの作用か否かは、これだけでは何とも申せません。

    B)培養細胞の復元成績:

      これまで約18回に渉って、色々の処理をしたRLD-系の細胞やprimary cultureをラッテに復元接種しました。5万個〜200万個/ratの幅で、皮下、腹腔内、脳内、門脉内、脾内などに入れましたが、残念ながら、今日までのところでは未だ腫瘍形成に成功いたしません。最近の黒木班員の報告によると、Hamster pouchが非常に有望の旨ですので、1963-11-24、RLD-7を300万個、golden hamsterの片方のpouchに接種しましたが、今日までのところではまだ腫瘍を作って居りません。

    C)L株亜株L・P3細胞へのコバルト60γ照射:

      L・P3細胞は合成培地DM-120の中で3年以上も継代をつづけて居る細胞で、その特異的なアミノ酸代謝については、先般の培養学会で関口君が紹介し、また月報No.6312にも報告しました。このL・P3にコバルト60γを照射したところ非常におもしろい変化が現れましたので説明します。但しこの時期の細胞は、γ線でやられて変調をきたしている細胞であって、いわゆる耐性細胞ではありません。最近この培養のなかから、普通のL・P3と同じ形態の細胞が増え出してきました。これはいわゆる耐性細胞に相当すると思いますが、これについてはもっと沢山に増えてからしらべてみる予定で居ります。将来の計画としては、もっと軽くγ線をかけ、アミノ酸合成酵素を一つだけこわし、それに相応した染色体の変化をしらべて、当該酵素をつくるgeneのchromosome上の位置を決めて行きたい、ということです。

    D)映画供覧:

      今秋11月6日New Yorkで開かれた第3回アメリカ細胞生物学会に於て展示した顕微鏡映画、これは4月の医学会のときお見せしたfilmにさらに手を加え、Controlも加えたものですが、一応御らんに入れます。"Interaction in Culture between normal and tumor cells of rats" 16mm.Silent.

    :質疑応答:

      [寺山]Leucineを出す、ということはどんなことでしょうね。

      [関口]Waymouthの処方でもLeucineを入れてないものがありますね。やはり培養細胞と生体全体とでは必須アミノ酸がちがっているのでしょう。

      [黒木]この映画のようなことが行われているとしたら、双子のparabiotic cultureでしらべた増殖曲線でももっと差が出て良いのではありませんか。

      [安村]Contact inhibitionも、培養法によって、その性質を得たり失ったりするでしょう。 [黒木]なかの黒い顆粒は何ですか。

      [勝田]中性赤で超生体染色される顆粒、三田村先生がmetachondria(顆粒体)と命名され、今日一般にはLysosomeと呼ばれているものに一致すると思います。

      [奥村]顆粒の単位で、肝癌が正常細胞から物を取るという所がはっきり判らなかったのですが・・・。

      [勝田]一ケ所ははっきり見えた筈ですが、他のは解析してみないと正確には証明できません。但し顆粒の単位で移って行かなくても、正常細胞内で液状(位相差で見えない状態)のものが、肝癌内に吸いとられてから顆粒状になって核の方に進んで行く場面は沢山見られたでしょう。肝癌は要するにcytosis作用で正常細胞の細胞質の中から色々のものを吸収しているわけで、その吸取る場所と吸取られる場所はどちらもEndoplasmic reticulumから通じている細胞質の穴のところだと思います。

      [山田]細胞内では色々な構造が恒久的でなく、変るものと考えてよいと思います。

      [勝田]Mitochondriaなんか切れたりくっついたりしています。

      [山田]放射線照射の場合ですが、培地組成をうんと簡単にしてX線などをかけると変異がはっきり出るでしょう。

      [寺山]変異とは単に栄養要求が変っただけのものを変異と呼んでも良いのですか。

      [安村]菌の場合は呼んでいます。そしてその変異したもののDNAを親株にかけて、親株を変え得るなら、たしかに変異株と云って良いでしょう。

      [土井田]大きな場合は染色体の単位、小さな場合はgeneの単位の変異をmutantと云います。マウスの骨髄に計900r照射するのに、100r/min.でかけると、50%変異が現れますが、1〜2r/min.では0〜8%にすぎません。前者では細胞が殆んど死にます。そして残ったわずかのものが増えてくるので変異が認め易いのですが、後者では死ぬのが少いので変異が認めにくいのです。しかしgeneには変異があるかも知れません。照射量の少いときは一旦切れた染色体が、またくっつくという場合があり、そのとき必要なenergy源を供給せずにもう一度照射すると矢張りやられてしまいます。

      [安村]大量照射の場合は、ほとんどの細胞がやられますから、変異というよりselectionということの可能性の方が大きくありませんか。

      [奥村]集団として仮に2,000r.かけた場合、変異を起すと一応皆生きられない筈です。たまたまその変異した内の何ケかが生き延びて増えた場合は、変異型というわけですが、その2,000r.に対して初めから耐性のある細胞が残った場合はselectionによるものと考える。後者の方が前者の場合よりcolonyの形成が早いです。

      [土井田]Selectionはspontaneous mutantを拾ったものと思います。そしてこの場合X線はselectorの一つと云えます。

《佐藤報告》

    発癌の判定:

    前号につづきAH-130(腹水肝癌・動物株)による腫瘍発現性の検討を行っています。

    Exp.No.3は3匹しか仔が生まれないで注射後全例死亡して失敗しました。
    Exp.AH-Tox.No.4:1963-11-14、suckling D-Orats、 6days old、Material F3(1) 9th day after AH-130 inoculation、intracerebral、 0.03ml。
     結果は(図表を呈示)1000細胞接種群は4匹中12日と13日に1匹宛14日に2匹死亡。100ケ接種群は4匹中15日16日に2匹宛死亡。
     他の実験は未だ結果がでていませんから16mm映画の供覧と御批判をいただきたいと思います。

    :質疑応答:

      [山田]DAB代謝をしらべるのに組織としてどの位の量が必要でしょうか。

      [寺山]組織量として50mg必要です。(wet weight)

      [山田]それなら培養細胞でも代謝はみられますね。1gまでとれますから。

      [勝田]肝癌になるとDAB代謝がないというのは何かの酵素系がなくなるためでしょうか。それから腎臓の細胞の培養でもDABが減少するのはどういう訳でしょう。

      [寺山]腎も肝の1/10位の機能があります。DAB-methylaseをみているのか、DAB-reductaseをみているのか良く判りませんが。

      [山田]連続投与していることはselectしていることになりますね。

      [佐藤]DABに耐性の細胞から癌が出てくる可能性があります。

      [寺山]n-oxideは腹腔内接種すると毒性が強いです。

      [高岡]映画のEhrlich細胞の動き方は、露出間隔のちがいを考えると、うちで撮ったAH-130の動きよりおそいようですね。

      [山田]Lで走行距離を計算している報告がありますね。

《黒木報告》

    Hamster cheek pouch移植法の基礎的研究:

      III.Syrian hamster albinoの移植成績(EXP.191)

      Hamsterは次のように分類されます。

      1. chinese hamster(cricetulus barabenis)
      2. european hamster(cricetus cricetus)
      3. Syrian hamster(Mesocricetus auratus)
      このうち、もっとも広く使はれているのは、Syrian hamsterです。

      chinese h.は特殊な目的(染色体)に、european h.は日本にいないそうです。Syrian h.は通常毛の色が黄褐色ですのでGolden h.又はSyrian golden h.と呼ばれています。この他Syrian h.にはvariantとして、albino、Pandaの二型があります。すなはち、Syrian h.はgolden、albino、Panda、となります。

      今回は、これらのうち、albino型が実中研より入りましたので、吉田肉腫を100万個から100個inoc.し、Goldenとの感受性の比較を行いました。8/11'63移植ですので、まだ最終的な結果は分りませんが次の様になります。

    接種細胞数1000,000100,00010,0001,00010010
    albino h.6/85/83/42/40/4-
    Golden h.8/84/43/48/183/81/8

      Golden h.と比較すると移植率も低く、又6311号で陽性と分類したIII、IVの中IVがないことが目立ちます。(観察期間はまだ1ケ月ですので、そのうちIVが出ないとは云えません)第一報(月報6310)で使用のhamsterより体重の多い(成熟している)のが気になります。このAge-factorがどの程度関係しているかは、まだよく分かりません。

      IV.Cortisoneの影響(Exp.192 8/11 inoc.)

       異種移植にCortisoneを用いたのは、Toolanが最初です。(1953) その後異種移植の際は、必ずと云ってもよい程、Cortisoneが使用されるようになり、その効果は確認されています。Foley,Handlerらの報告によりますと、Cortisoneの効果は細胞数にして平均10倍(0〜100倍)程度のようです。(HeLa、KBはCortisone処置とは関係なく1.0x10で(+))

      この実験は、吉田肉腫を用いてCortisoneの効果をみたものです。恐らくtransplantabilityと増殖経過の両者に関係すると思はれますが、まだ、実験開始後1ケ月ですので、前者についてのみ記します。  Cortisone処置の方法はFoley,Handlerらの方法に従いました。即ち、移植直後より週二回、Cortisone acetate(日本Merck萬有“Cortone”25mg/ml)を2.5mg(0.1ml)/Hamster、皮下に注射します。この実験では0、3、6、11、14、17、21、24、27にinj.しています。

    接種細胞数1000,000100,00010,0001,00010010
    Cort.処理8/88/86/88/84/80/6
    non.処理4/43/42/68/183/81/8

      表に示すように、移植率はやや上昇しています。ここでも、問題になるのは体重の多いことです。50〜60gのHamsterを用いればもっとよい成績を得るかも知れません。このDataから云えることは、Cortisone処置は絶対的なものでなく、補助的な役割をしているのに過ぎないことです。もっとも重要なのは、移植する動物部位の選択であると思います。

      V.YS 1000個−非処置Hamsterの再実験(Exp.194 8/11)

      第一報(月報6310)で非処置HamsterにYS 1000個inoc.のときの成績は0/8(I=4、II=4、III=0、IV=0)と100個の3/8、10個の1/8に比較して移植率が低かったため、やり直しを行いました。前回のHamsterは生後26日、体重62、58、56、70gです。今回の動物は生後45日、体重72、70、80、74gとやや大きいものです。その結果は8/10と可成りよい成績です。異種移植のDataはばらつき易い傾向があるのですが、それにしても一寸ひどいようです。

    §今後の実験方針§

    Cheek pouch移植法の仕事は、吉田肉腫についてやっと一通り終ったところです。今後の方針としては次の様なものがあります。

    1. 体重のそろった(50〜60g)Hamsterを少くとも50匹まとめて入荷出来るような条件を作ること。

    2. 他の移植腫瘍を用いて、腫瘍間の差をみること。次に予定されているものとしては、MH134、129P、129F、FM3A、SN36、AH13、AH66F、AH7974F、Ehrlich、S180、AH130、C3H乳癌等があります。C3H乳癌は腺癌ですので、組織像の変化をみるのには好都合です。

    3. それらの培養細胞:癌学会から帰って来たところ、吉田肉腫の継代細胞(74代、2年10ケ月)が雑菌感染で全滅していました。しかし動物にもどしたのがありますので(71代から2代in vivo継代)これから再び継代する予定です。(腹水の腫瘍細胞の形態は長期培養のそれと同じです。その他継代されている培養細胞が二三ありますので、試みてみる予定です。

    4. 正常細胞、胎児、正常臓器、diploid strain等を予定しています。

    5. 他移植法との比較、Mouse、Hamsterの24hrs.内のnew bornを用ひ、Cheek pouchとの比較を行う予定です。これだけのことが完成するのは何年先か分りません。

    :質疑応答:

      [山田]吉田肉腫って特別なのじゃないかしら。他の細胞はそんなに1月も保たないで消えてしまいます。

      [奥村]種別の組合せによってずい分ちがうでしょう。

      [勝田]正常の細胞もやってみて、質的なちがいがあるか、数的なちがいだけなのかも調べて頂きたいですね。消える前に次に植継いだりすることも・・・。

      [山田] コブができていても組織学的にみると殆んど正常細胞しか残っていないことがあります。 [安村]そのコブがハムスターの癌になっていて、もうラッテへは戻らなくなっていたら困りますね。

      [奥村]やはり同種の動物に復元することが望ましいと思います。

      [安村]ハムスターという動物の良し悪しでなく、hamsterの“cheek pouch”が特異的に免疫学的に適当ということです。それから前回の月報での勝田批判への釈明ですが、1)脳内接種と皮下接種の比較は、前のデータは脳内へは5,000ケ、皮下へは100万個と、入れた細胞数がまるで違うので、必ずしも同じ見地からは比べられません。2)生後24時間のマウスと1週のマウスとは、違いがあることもあり、無いこともあります。

      [黒木]それは細胞によってもちがうでしょう。吉田のように増殖の早いものは違いが少いですが、7974のようなのでは24hrの方が48hrよりつきが良いです。

      [安村]自分のデータでは、果糖肉腫では皮下より脳内の方が感受性が高いです。

      [佐藤]発生した臓器にもよらないでしょうか。

      [黒木]癌になると臓器特異性はなくなるのではありませんか。

      [勝田]私のparabiotic cultureのデータでは、やはり(肝癌←→肝)(肉腫←→センイ芽細胞)という関連が見られます。安村君にやってみて頂きたいのですが、正常細胞と癌と色々な割合に混ぜて接種したらどうなるか、データをとってみて下さい。腎細胞と果糖肉腫とか。

      [安村]やってみましょう。おそらくfeederになってtakeがよくなるでしょうね。

      [勝田]Goldblattたちがembryoの組織を使ってやってますが、cell countはとっていません。

《伊藤報告》

    先ず前研究連絡会で報告した実験の続きを報告致します。(表を呈示)

    此の結果、全経過を通じて、核数増加と考えられるものは、分母:全試験管数、分子:核数増加の認められた試験管数として、対照:1/42、DAB7日添加:6/42、DAB継続添加:3/42、と云ふ事で、此の増加が、DABによる増殖誘導と考え得るかどうか甚だ心もとない感じはありますが、或は実際に此の程度の割合で増殖が誘導されるのかも知れません。

    ☆次の実験を11月10日に開始しました。

    実験群は前回と同様の3群とし、実験開始後10日目、20日目、30日目に各回、各群15本づつの試験管について細胞核数を計測して各10日間に於ける核数増加の頻度の大略を知らうとしました。

    1. 核数増加と考えられるものは、10日迄ではDAB添加群に各1本、20日目迄では対照群に1本、7日群に3本、継続群になし。
    2. 此の様な実験Systemで、核数増加tubeの発現頻度でDABの影響をみるとすれば、此れ迄のDataと考え合せて、10日以前には計測する必要がなさそうである。
    3. 継続添加群では、20日目で対照群に比して核数の少いものが多く、どうもむしろ細胞障碍が現れているようである。従って今後はむしろ7日以内の添加の場合についての検討が必要と思える。
    4. 前回勝田先生に指摘された核の型、染色性について注意してみたところ、確かに核数の増加を来たした場合の核に、比較的compactな而もはっきりと赤い色調を帯びた核小体(2個ときには1個)を認め得る核が多い事を認め得ました。

    :質疑応答:

      [勝田]DABを7日間も入れないで、もっと短期間のもやって下さい。それから計数できるのだから、総数何ケの細胞の内、何ケが分裂したか、という計算もしてみて下さい。

      [奥村]核の染まりの悪いという肝細胞でも生きているのですか。

      [勝田]生きているよ。Catalase活性も残っているし・・・。核の染まりが悪いのではなくて、肝実質細胞は他の細胞よりクエン酸に対して強いので、細胞質が残ってそれが染まってしまい、核が見えないのです。

      [寺山]DABをくわせて前癌状態のとき、全肝臓の細胞数がふえています。これはnecrosisに伴うregenerationなのか、それとも真の増殖促進でしょうか。

      [勝田]東大病理の斎藤氏は前者と考えるようですが、我々は後者と思います。

      [山田]DABを長期たべさせたりしないで、肝に直接注入して1回位で早く出来させられませんか。

      [寺山]メチルDABのデータですが、ゾンデで週1回大量にやってみましたが出来ませんでした。つづけてやるということに意味があるらしいです。

      [山田]伝研製の純系ラッテでDABをやってみたら・・・。

《杉 報告》

    Golden hamster kidney−Stilbestrol:

     今までの各実験例において、培養したroller tubeの本数に対する細胞増殖をおこした本数を百分率であらわしたものを日齢別に整理して図示すると次の如くなります。(1図を呈示)各日齢において一般に実験群の方が高率になっていますが、特に100日以上では、対照群の増殖が悪いのに比して、実験群では若いところとほぼ同じ様によく、対照との間の差が顕著になっています。これは薬剤の作用濃度、期間などの違った実験例も全部含めてあらわしたものですが、これらの実験例のうち、stilbestrol 10μg/ml、4日間作用だけをとり出して図にあらわすと(2図を呈示)大体傾向としては1図と大差はありません。20〜30日の比較的若いところで実験群と対照群が1図よりもはっきりと分れていますが、勿論数が少いので断言は出来ません。

     次に性別に分けてみますと、(3図を呈示)日齢別にみても全体的にみても性別による差は殆んどありません。

     又、先頃からmarkしている空胞様変化を伴った上皮様細胞団についてみますと(4図を呈示)100日以上では実験群、対照群とも低率で(尤も3例しかないのではっきりは云えませんが)一方、70日以内のところでは実験群で比較的高率に出たものがあるのに反し、対照群では50%以上のものがありません。4図を1図と比較した場合、1図では全体的にみれば、対照群も実験群も同じく高率のものがあります。しかし4図では対照群では実験群と同じく高率を示した例がないというところに違いがありました。

    空胞様変化を伴った細胞自体には増殖能はあまり期待出来ないが、それに混在する上皮様細胞には増殖能を期待出来ると思われるので、今後もこの細胞団はmarkして追跡するつもりです。

    それと同時に、前報にも書いた様にも少し長期間細胞を維持出来る様に工夫することに主力を注ぎたいと思います。そのためには使用する動物の日齢を下げるということ、即ち今までは20日以内のものはあまり用いていないので以後は出来る丈20日以内のものを使用する様にしたいと思います。今まで行った実験のうち20日以内のを用いたのは廻転培養2例を含めて3例で、偶然かも知れませんが、例の特徴ある上皮様集団が出ませんでしたが、そのご行った実験では16日のもので実験群に高率に出ています。

:質疑応答:

    [勝田]生後100日以上のハムスターのとき差がはっきり出ていますね。ラッテの肝対DABでは生後3週以内が良いのですが、これだとadultの動物を使えるという良い利点がありますね。オスにも差があるようだからteststeronでも使ってみたら・・・。

    [ 杉 ]Hyperplasiaが見られたという報告はありますが、その実験条件は不明な点が多いのです。

    [寺山]ホルモン以外に、細胞をattackするということが発癌では大切です。

    [安村]Stilbestrolが上皮細胞に効いているということを目標にしているのなら、ずっと長く入れておくと無くなってしまうのですか。

    [寺山]さっき勝田さんがDABを入れるのに7日以下にしろと云われたのはどういうことですか。細胞がやられる位の方が発癌の可能性があるのではありませんか。動物に食わせるときも、初め1ケ月位、肝細胞がどっとやられて、それから新しいのが出てきて、半年位で肝癌になるわけです。

    [伊藤]細胞がやられてしまわない内に一寸やめて、又入れる、というのをやってみようと思っています。

    [高岡]動物ではDABを休み休み6ケ月位投与すると如何ですか。

    [寺山]Total doseのDABが投与されれば、期間とは無関係に発癌するという人がありますが、しかしやはり或程度期間と関係があって、Total doseだけではないと思います。途中で休むと癌ができないですね。

    [安村]Tumorは徐々にふえて大きな癌になるのですか、それともsleepingしていて急に増大するのですか。

    [奥村]DABを加えて起るdamageに対する再生がくりかえされることによって癌になるのではありませんか。

    [関口]肝癌の場合には質的な特異性があると思います。単なる再生のくりかえしから起るとは思えません。

    [山田]再生肝(肝部分切除)をくりかえして1年つづけたが肝癌になりませんでした。生体では1回の刺戟で出来ることもありますが・・・。

    [黒木]初代でDABを連続投与して、継代したとき壁につかなかった、という細胞は死んでいるのですか。

    [勝田]判りません。その着かない細胞に悪性化したのがいるのじゃないか、と山本正氏も云っていました。

    [黒木]腹水肝癌各系の中には硝子につかないのが沢山あるのですからね。

    [佐藤]幼若ラッテはDAB代謝能が弱いのではありませんか。

    [寺山]そうです。4日間だけ投与してまた新しい培地にかえると、折角そこでmetabolicalに変っていたものが、また戻る可能性があります。

    [勝田]つまりn-oxideを使うと良いだろう、ということですね。

    [佐藤]ラッテの肝細胞に長期間加えるとどうでしょう。増殖させない状態で。

《土井田報告》

     In vitroで継代された細胞の有する染色体構成は、いろいろの理由により由来した動物の体細胞でみられる染色体構成と甚だしく異なっている。この様な染色体の特徴を捉えるためには染色体数を算えるだけでなく、全体の染色体の特徴について形態的にみることも有効であると思われる。此のような目的のために、いろいろな表現方法がとられてきているが、その方法と共に用語もかなりまちまちであるように思われますので、それらの点について簡単にまとめてみました。

     1930〜1950年代の文献から用語、核型のあらわし方、などについての解説(省略)