【勝田班月報:6403】




§特殊培養法による培養内発癌の研究§

勝田報告

     RLC-2株(ラッテ正常肝よりの細胞株で2nの42本染色体を高度に維持している)を用い、タンザクを挿入した平型回転管で5度に傾斜、37℃で静置培養した。週2回培地を全量交新し、3週間後にトリプシンで剥して細胞をプールし、これを3本の同様なtubesにSubcultureした。ところが、それから2週間後どのtubesにも肝細胞とは形態を全く異にする細胞の集落が形成されはじめているのを発見し、以後その集落を観察していると、日と共に目に立って集落は増大した。

     (顕微鏡写真を呈示)新生細胞は円形で、いわゆるContact inhibitionを失った模様で、立体的に盛上って増殖する。位相差所見は、コントラストが肝細胞とは全く異なり、一見して区別できる。核小体が著明に大きいのも特徴の一つである。核の大きさに比べ、細胞質は強塩基性に染まり、核小体も太く濃く染まる。細胞はちょっとした振動で容易に剥れ、肝細胞のシート上の各処に転移集落を形成して行き、各所にそのColonyが認められるようになった。Colonyとして見るとき、頂度RLC-1株に肝癌AH-130を入れたときのような、集団としての侵略形成が認められた。分裂像も多く認められ、7日間に10〜20倍の増殖度と推定される。

     これらの所見は、各種の肝癌細胞を培養した場合の形態学的所見に酷似している。まだラッテへの復元実験は試みてないが、細胞が可能量まで増え次第、復元をしてみる予定である。しかし以上に記した所見よりみて、おそらくこの新生細胞は腫瘍を形成するものと推定できる。今まで数多く実験を試みたが、このような著明な変化を起した例は1例もなかった。(そしてそれらの復元は陰性に終っているが。)

     この新生細胞がどこから、どうやって出来てきたか−、それは今後の研究をまたなければ明確な回答を下し得ないが、現在なし得る範囲で想像してみると、次のことが考えられる。

     カバーグラスの下の細胞は、変性壊死に陥る。これは急速な変化で問題にならない。問題にすべきは、液が浸ったり浸らなかったりする、いわゆる“なぎさ”の部分の細胞である。ここの細胞は、ギムザによる染色性は無変化の細胞と殆んど変らない。しかし図のように(図を呈示)、核の形や大きさに著明な変化が見られる。変化のない細胞と比較すると明瞭に大きい。

     つまりこの部分の細胞のDNAあるいはDN-proteinは、顕著なdegenerationに陥っていると考えられる。換言すればdisordered DNAである。細胞質の崩壊も見られるので、このようなdisordered DNA or DN-proteinの断片、あるいはかなりの部分が、健全な部分の肝細胞のDNA合成に組込まれる、ということは当然想像がつく。これは堀川班員がLでおこなった色々の実験からも推定できる。彼のExp.で、L、マウス脾、エールリッヒ癌細胞と3種の細胞からDNAをとって培地に加えると、Lは非選択的に、何れも略同率にとり入れて自己のDNA合成に利用する、というデータはDNAをAdenine、Thymidine、Guanine、Citidineのレベル或はそれ以下にこわしてから利用するという可能性を示唆するが、一方同じく彼のデータで、X線で障害を与えたLは、その回復のためにはLのhomogenate或はDNAだけが役立ち、他の細胞のでは駄目であるという知見が得られている。この場合にはむしろ高分子構造のままの利用が考えられる。

     “なぎさ”のdisordered DNAが若し新生細胞の出現に役立ったとすれば、それはかなりの大きさのDNA(少くともA,T,G,Cまでには分解されていない)として働いたと考えるべきであろう。

     私が何故この“disorder”ということを重視するか、というと、AH-130から抽出したDN-protein、RN-proteinをRLC-1の培地に加えても、細胞の形態的変化が起らなかったという事実を持っているからである。つまりAH-130のDN-proteinはAH-130としてのordered DNAを有している。たとえtumor DNAでも、そのように“ordered”のDNAでは細胞に変化を起させるのに役立たないのではあるまいか。

     従って、この発癌法を何回もrepeatしてみるのと他にコバルト60やDABを大量に与えて細胞に障害、DNA-disorderを与え、そのDN-protein或はhomogenateを、増殖しつつある正常ラッテ肝の培養に加えて、細胞の悪性化を図るExp.を併行的におこなってみたいと思っている。

     さて、この“なぎさ”にできたdisordered DNAは、どこにいる細胞に使われたかというと、これははっきりとは云えないが、とにかく液に浸ってどんどんDNA合成を順調にくりかえしている細胞によって利用され、組込まれ、そして変異細胞ができた、と考えるのが妥当ではあるまいか。そしてその組込む細胞にも若干のdisorderが起きている必要があるかも知れない。

     いうなれば、これが私の“NAGISA-theory”である。勿論実験を重ねて行けば判ることであるが、soverslipの断端というものも、何かの役割をしている可能性もある。しかし前に示したような変化は決して無視することのなきない変化であり“なぎさ”にこそこれらの秘密をかくしている宝島であると想像される。

:質疑応答:

    [関口]狂ったものを作るような、酵素レベルの、低分子のものが入って変える、ということは考えられませんか。

    [勝田]酵素レベルのものが入っただけでは、一過性の変化しか起らない、かも知れないね。

    [土井田]mouseの血中に、outo、iso、homo、heteroのDNAを入れると骨髄細胞に変化を起す。しかしDNAを低分子にすると起らない−という文献がありますが、かなり高分子のまま入らないと効果がないのかも知れませんね。

    [佐藤]標本を見て思ったことは、細胞質が青く染まっているということで、印象的です。今までAtypismばかり追っていましたが、癌の場合は、その細胞質が青く染まるということを追う方が良いかも知れませんね。ウィルスによる発癌の場合はどうですか。

    [安村]まだ染めてないからよく判りませんが、変ってないと思ってる内に変ったのがいくつかあって、それが“ふるい”にかけた時、初めて出てくるのではありませんか。

    [勝田]この新生細胞はRLC-2を“feeder layer”にしているようです。そういうことも必要条件の一つに思われます。

    [佐藤]ウィルス発癌の場合ですが、変化したのは振うと早く落してしまうから(剥れ易いから)振って落ちてきた細胞を新しい“feeder layer”に入れると早く増えるだろうと思いました。

    [黒木]あれはsubculturingの前にあったのでしょうか。あの調子だとどんどん増えてあの細胞だけになるでしょうか。

    [勝田]Subculturingの前に出来ていたから(少くとも3ケ以上)継代後の各tubeに皆一えいに出てきたのだと思います。現在もどんどん増えて内1本は5本に継代しました。

    [安村]前から感じていたのですが、タンザクというのは、へりで切る訳だから、異物感がりますね。

    [山田]タンザクのままでなく、こわして入れると良いかも知れません。

    [佐藤]Lは異物に感受性がありませんね。メチルコラントレンを結晶で入れても知らん顔しています。
    勝田註:Lは培養の歴史に、メチルコラントレンを入れられている。耐性があるのではないか。)

    [黒木]“なぎさ”のところに変化が出たという話ですが下の方には出ないのですか。

    [勝田]そうです。あんな変化はなぎさだけです。

    [佐藤]接種量が非常に少いときにああいう形のが見られます。

    [勝田]タンザクという条件が必須かどうかは、入れたのと入れないのと、今後、同時に比較してみれば判るわけです。

    [黒木]明日はその細胞のことを“癌化した”と報告するつもりですか。

    [勝田]形態学的にみて肝癌そっくりですし、99%発癌していると信じられると報告するつもりです。

    [黒木]しかし形は癌細胞に見えて、腫瘍を全然作らない細胞がありますよ。

    [勝田]放射線やDABのときも、変性したDNAが取込まれて発癌する可能性が強いと思いますね。

    [関口]DNAの場合は変性というとsingle strandになったDNAを意味しますから、変化と呼んだ方が広い意味にとれて良いと思います。

    [山田]RLC-2が変ったということは良いですが、変化の前に1年間培養していた、ということが必要なのかどうか、ですね。

    [勝田]Primary或はそれに近いものでやってみる予定で居ます。

    [安村]どうしてCloneをとってやらないのですか。

    [勝田]使える迄に時間がかかりすぎるのが難点です。しかしそのうちやりますよ。


《佐藤報告》

    培地内DABの減少についての報告

: 質疑応答:

    [山田]平均細胞数はどうやってとりましたか。

    [佐藤]細胞数は、まっすぐ伸ばして面積でとりました。(勝田註?)

    [山田]癌になるとDABをとらなくなる、といいますが・・・。

    [佐藤]DABの場合は、分解しなくなる、と云っています。

    [勝田]培地内のDABの減少を見るという仕事は大変面白い仕事だと思います。DABの作用機序も判ってくるかも知れませんしね。

    [佐藤]濃度のorderの問題があります。培地中でDABが減ってくると、細胞がDABをとらなくなりますから、はじめに大量に入れた方が良いと思います。しかしDABはTween20にしかとけず、しかもこのTween20が細胞増殖を阻害するので困ります。アルコールも使ってみましたが、少ししか溶けませんね。

    [黒木]AH-130のDABに対する耐性はどうですか。

    [佐藤]しらべてありません。

    [勝田]DABの減り方をしらべる実験のとき、同時に短試で何群か培養すれば調べられて良いですね。

    [山田]溶かすのにdimethyl sulfoxideが良いという説がありますが、どうでしょう。


《伊藤報告》

    本年度最後の連絡会ですので、今迄に得られたDataをまとめてみました。

    第一回二回三回
    対照群1/231/423/43
    7日添加群6/427/42.
    連続添加群3/213/421/42

    此の結果からみて“7日添加群で核数増加を来たす場合が多い”傾向は認めます。ところが昨年12月以後3回行った実験の凡てに於いて、どうも細胞の具合が悪く(日数と共に細胞が管壁からはがれてしまう)困っています。

    動物のageについては生後20〜25日目のものを用ふれば問題は無いと考えています。

    血清の問題は否定出来ません。何しろcalf-serumの入手が仲々困難で、種々とり換えて検討する事が出来ませんので。もう一つは培養法そのものについてです。何しろ、此の様にhomogenizerで組織をつぶして得た細胞を培養する事は今迄余り行はれて居らず、又今迄のところCellのばらし方の条件等余り考慮しないでやって来て、何とかやれて来たので、種々の条件(潅流、homogenizer等)について、何の規定も出来ていませんでしたが、最近のような事になると、もう一度最初に戻って必要程度にばらばらになった細胞を得るための、最少の処理条件を充分に検討して、はっきりしておく必要があると思はれます。

    どうも又振出しに戻ってしまふので、残念ですが、今ここで此のような点をはっきりさせておかない事には、今後仕事を奨めて行く自信が持てません。暫く先へ進むのが遅れても仕方が無いと考えています。

    此の方法で最初からばらばらになった肝細胞のprimary cultureをconstantに可能にする事は、発癌実験を進めて行く上に、充分有用なる道具を提供する事になると確信しますので、何とかやり遂げたいと思います。

:質疑応答:

    [勝田]うまく行かなくなったのは、ラッテのageの関係がありませんか。それから、この前も云いましたが、テフロンのhomogenizerだと気温によって大分隙間が影響されると思います。一定温度の液にでも浸して使うことも考えて欲しいものです。

    [伊藤]Ageは25日以上のは良くないことは判っています。

    [勝田]Homogenizeしたあとの細胞の生死率をニグロシンその他の染色法でしらべたらどうですか。それからDABの作用日数を縮めること。佐藤君のデータでは呑竜では1日が一番良い。

    [山田]Trypan blueの方が良いでしょう。

    [安村]Trypan blueよりもErythrosineBが良いです。

    以下各班員より染色法の解説

    Trypan Blue(黒木):生食に0.25%にとかし、濾過後室温で保存します。細胞浮遊液0.5mlに、この色素0.5ml加え、15分以内にかぞえます。少くとも1時間以内にしらべないと駄目です。死んだ細胞は染まります。

    [山田]このcountは、platingによるefficiencyとよく一致します。

    ErythrosineB(安村):この方法はParkerやExp.Cell Res.に出ています。Nigrosineより感度が上です。まずPBSに0.4%にとかします。しかしこれは過飽和の気味で、どうしても溶け切れませんが、濾過して使います。培地によって加える量がちがいます。血清培地ですと細胞が安定しています。培地1.0mlに対し0.3mlを加えます。無蛋白培地のときは1.0mlに対して0.05mlを加え、10分以内にかぞえます。死んだのは染まりますが、Trypan blueよりも余計に染まる結果になります。

    Eosine(山田):見えにくいし、毒性があってすぐ染まるようになります。

    Nigrosine(山田):毒性はないが、見にくい。ゴミや顆粒が多くて。


《山田報告》

    マウスに対する発癌剤の作用を調べるために、いろいろ考えた末、ddYマウス−アルキル化剤の系を選びました。臓器としては腎を使用するつもりです。その理由として

    1. ddY系はbrother-sister matingが進んでおり、また容器に多数を使用しうること。

    2. 腎は胎児より成熟動物までかなり自由に培養でき、奥村君からもいろいろ教えてもらえる。

    3. Weiler、岡田(京大)らによって臓器特異抗原の研究は腎で進んでいる。

    4. アルキル化剤はAlkyletionにその発癌性(活性)が考えられ、これが代謝によって不活化されれば他に作用点の考えられないこと。

    などの諸点があげられます。

    研究方法として、できるだけ早い時期にコロニー形成を行い、個々のコロニーに対する薬剤の作用を調べ、クローンレベルで観察を進めてゆくことを考えました。このように考えたのは、腎は多種類の細胞から構成されている器官であるにも拘わらず、従来は単に繊維芽細胞とか上皮細胞という記載だけで、BHK21(繊維芽性)やPK(上皮性)のようにかなり均一でクローン性として扱いうるものは別として、多くの場合混在集団として継代されています。このような場合、かりに細胞の形態変化を認めたとしても、本当の意味での変異なのか、単なる混在細胞の選択なのか不明であろうと想像されるからです。

    今回は生後3週のddYマウス腎を材料とし、Eagle's essential medium(1959)にSerine、Glycineを10-4乗M加えたものに仔牛血清を10%添加したものを培養液として使用しました。(その後この種の培地では20%血清添加の方が細胞のコロニー性増殖に好結果の得られることが判りました)。まづ腎組織を細切した後、0.25%trypsinで37℃、30分作用しましたが完全なsingle-cell suspensionが得られず、とりあえず上記の培地で1週間培養し、さらに完全(できるだけ)にtrypsinで解離して単層培養を行った後、3代目に1万個/5ml/シャーレに播き、炭酸ガスフラン器で培養し、2、3週に同定、染色して構成コロニーの形態学的特徴をケンビ鏡で調べました。

    その結果、上皮性と考えられる細胞コロニーに3種類の細胞コロニーが存在する事、それに繊維芽細胞を加えると、少くとも4種類の細胞コロニーを培養しうる事を認めました。なお、生後3週のマウスでは繊維芽細胞コロニーの出現は殆んど認められず、人胎児組織(肺)とかなり異なる事が判明しました。これはマウス胎児について引続き培養を行ってみます。アルキル化剤としてNitrominの作用を調べた結果、10μg/mlで明らかな細胞変性作用を認めました。

:質疑応答:

    [安村]いまの3種類の細胞が夫々つながって行くのですか。

    [山田]判りません。将来腎の特異抗原を持った細胞がどれか、追ってみたいと思っています。私の実験ではcloneではなく、1万個位まいてコロニーを数十ケ作らせ、その形態を見て行くというやり方で進んで行きたいと思っています。

    [黒木]ナイトロミンで発癌している例は多いのですか(勿論SN-36の例は知っていますが)。ナイトロミンはマスクされているからナイトロジェン・マスタードの方が良いのではありませんか。ナイトロミンの場合は、少数細胞では効かなくて、細胞が大量の場合に効果があると思います。

    [山田]発癌例は沢山あります。しかしin vitroでnitrogen mustardの方が良いというのは本当かも知れませんね。

    [勝田]この研究法だと細胞の変ったことがすぐ判るから良いですね。

    [安村]初代から単孤培養でcolonyを作らせれば仕事はやりいいですね。Mouseのembryoの組織なら「CS10%+Eagle」の培地を使えば必ず株になります。

    [山田]私は「CS10%+Eagle+Serine+Glycine」でやっています。

    [黒木]2倍体の培養をするのに、胎児とadultでは大分ちがいがありますか。

    [奥村]はっきり判らないのではないでしょうか。胎児の方が簡単だとは云われていますが。


《杉 報告》

Golden hamster kidneyのprimary culture−diethylstilbestrol:

    前回示したグラフでは細胞増殖とhamster日齢の関係は、細胞の種類を考慮に入れなければ、一応日齢100日以上のところで対照群と実験群との差が明瞭に出ており、一方上皮様細胞に限定してみると若いところでも両群の間に差がみられました。そこで生後20日以内のものを使った実験例が少いところから、そのごはそういう極めて若いものを重点的に使用しました。(表を呈示)これでみると血清を10%にした場合上皮様細胞の出が悪くなっています。1月の月報の様にグラフに示すと(図を呈示)、細胞の種類を問わなければ両群の間に差がみられません。これを上皮様細胞団についてみると次のグラフの如く実験群に時に高率のものがあり対照との差が出ています。

    また,Stilbestrolの作用のさせ方としては表の様に間歇的に行ったが、第2、第4例では第2回目の作用後に、対照群で上皮様細胞が減じて繊維芽様細胞が目立ってきたのに反して、実験群では上皮様細胞団がそのまま優勢を続けて増殖の傾向を示しました。

    hamster liverのprimary culture−o-Aminoazotoluene:

    伊藤班員のクエン酸ソーダ潅流法をhamsterに適用してやってみましたが、数回失敗したのち、かなり大量の細胞が1個1個バラバラになってとり出せる様になりました。現在3例(hamster日齢はそれぞれ 0、58、110日)やっていますが最初の2例は10〜20日培養で増殖なく管壁から落ち、目下第3例が培養10日目です。クリスタル紫で染色すると取り出した細胞の約1/4が生きていると思われます。も少し若いhamsterにこの方法が適用出来る様に工夫、練習中です。

:質疑応答:

    [ 杉 ]血清を10%にするとfibroblastsが多かったのですが、そういうことはありますか。

    [奥村・安村]ハムスターの腎では10%でfibroblastsが多いようで、Epithelialには2〜5%で十分です。

    [勝田]ハムスターでDABによる発癌はあるのですか。また期間は?

    [ 杉 ]オルトアミノアゾトルエン(OAT)で50%発癌すると云われています。半年以上です。

    [勝田]Stilbestrolより、腎には4NQOのような強い薬品の方が、良いのではないでしょうか。

    [山田]その方が良いかも知れませんね。

    [勝田]出てくる細胞がEpithelだとかFibroblastsだとか云っても、それが何の意味があるか、ということですよ。

    [安村]はじめから両方ともあるんだから。発癌物質でなくとも、ただその両方の細胞を特異的に選び出す物質はあるかも知れませんが。

    [奥村]ホルモンで出来た癌は、ホルモンを入れないと復元できない、と云われていますね。

    [山田]ホルモンによる発癌は、ホルモンが直接働いているのか間接的なのか、それも判っていないし、問題がまだ多いですからね。

    [勝田]Stilbestrolの場合は、ハムスターにこれで腫瘍を作らせてその腫瘍細胞を培養し、その性質をまずしらべるということを先にした方が良いのではないでしょうかね。

    [安村]山田法でやればもう少しはっきりするでしょうが、このままでは進めにくいのではないでしょうか。Epithelは初めからあるのだから・・・。


《黒木報告》

Hamster cheek pouch内移植法の基礎的研究:

VII.Cheek pouchの解剖学的構造について

    cheek pouchの構造は図のように(図示)口腔外に引き出した袋は、口腔内においては、逆転して一つの袋になります。(ポケットを外に出したときと全く同様の構造です)したがって袋を外に引き出し、その中に注射しても、口腔内にもどせば袋の囲りに存在することになります。実際細胞の増殖は必ずどちらかのcheek pouch ep.に附着してみられます。腫瘤が大きくなるときは口腔側よりもむしろ外側(皮下組織)に向かって行きます。

    すなわち、厳密に云えば、cheek pouch内移植ではなくcheek pouch傍移植であるわけです。 又、cheek pouchには筋肉がついています。これはretractor of pouchと呼ばれ、第XI−XII胸椎の棘上突起より始る非常に長い筋肉です。この筋肉があるため、実験の際は十分麻酔をかける必要が生じます。cheek pouchの詳しい構造は、次の文献に記載されていますので、御参照下さい。 Briddy,R.B.and Brodie,A.F.: Facial muculature,nerves and blood vessels of the hamster in relations to the cheek pouch. J.Morphology,83 149-180,1943.(この本は金沢大学医学部にあります。他にはないようです)

VIII.組織学的検索

    組織学的検索の結果、吉田肉腫細胞はcheek pouch内で極めて活撥に増殖していることが明らかになりました。腫瘍細胞は、ラット体内におけると同様の構造をとり(Reticulo Sarcoma様)粘膜下において増殖します。前述の筋肉間に浸潤し、更に粘膜上皮を破って行きます。(顕微鏡写真を呈示)写真は、腫瘍浸潤により粘膜上皮がうすくなっていることを示しています。更に皮下組織においても、吉田肉腫細胞は活撥に増殖し皮ふは潰瘍に陥り、動物を死に到らせます。(背部皮下移植では殆んどが変性しています。)しかし一方では腫瘍の中心部に巨大なNekrose巣をしばしばみます。細胞反応はII型、すなわち、米粒大の腫瘤を形成し、やがて消失するものには認めますが、他の型には殆んどみられません。遠隔臓器への転移及び唾液腺内への浸潤は現在迄に検索した範囲では認めておりません。しかしcheek pouch内、epithel、皮下組織、皮ふへの浸潤性増殖は明らかですので、異種体内で浸潤性増殖を云々することは可能であると思はれます。この問題は今後、生化学的に血清CDH.肝Catalaseを測定し、考えてみたいと思っています。 又、死亡の原因を、潰瘍形成→感染→死亡と考え、Animals used to die of secondary infectionと表現したのですが、これらの成績から考え、Animals used to die with tumor.と変えた方がよいと思います。
IX.培養吉田肉腫の移植

    今迄の実験は全て、吉田肉腫と云う増殖のはやい細胞を用いて来ました。このように悪性度の高い細胞では、同種移植との比較がむつかしいと云う欠点があります。幸にして(?)継代吉田肉腫細胞は、移植性が可成り落ちています。この細胞を用いて、同種(ドンリュウ)、異種(ハムスター)移植を同時に行い、ハムスターcheek pouch移植性の特殊性を明らかにしようと云うのが、この実験の目的です。実験に用いた細胞は76代、Eagle+2mMPyruvate+20%牛血清の培地で8日間培養したものです。この細胞を所定濃度に濃縮又は稀釋し、cheek pouch内には0.1ml、Rat腹腔内には1.0ml接種しました。(22.Jan.'64) HamsterはGolden、Cortisone処置は2.5mg/Hamster週2回(移植後)処置します。

    現在、まだ観察中ですので、確定的なことは云えませんが、表に示すように、コーチゾン処置ハムスターでは同種移植と同等の成績を得ています。(表を呈示)

X.Probit Analysis
    今迄行って来た実験の結果を定量的、簡潔に表現するため、Probit Analysis及びLD50を計算しました。LD50は動物の死亡ではなく、Tumor Growthでみていますので、TPD(Tumor Producing Dosis50)と表現します。TPD50はBehrens-Korber法を用いて計算しました。

    1.Cortisone-treated ch.p.TPD50=<160cells
    2.Non-treated ch.p.TPD50=<3160cells
    3.Albino-hamster ch.p.TPD50=>20,000cells
    4.Hamster subcut.TPD50= 794,000cells
    5.Hamster ip.TPD50= 3,160,000cells
    6.Mouse subcut.TPD50=>10,000,000cells
    7.Mouse ip.TPD50=<316,000cells

:質疑応答:

    [安村]ハムスターには純系がなくて困りますね。

    [黒木]アメリカにはあります。いま異種で24時間以内の新生児に脳内接種を試みていますが、非常に良い成績です。ただし、出血しているので、見ようとしても、内部がとろけるようで扱いにくいです。組織標本にして見るより他には、決定的に腫瘍死とはいえませんが。結論として、Homoのnew bornの脳内、皮下が一番良いと思います。

    [伊藤]脳内の場合は他の箇所への接種の場合と多少意味が違うのではありませんか。

    [安村]むろん脳圧の問題などあるから違いますが、脳内と皮下では脳内の方が一桁少い細胞数でつきます。そしてそれを1オーダー上げてまた皮下に刺すと、皮下にもつくことを確認しています。

    [黒木]脳内の場合は、必ず組織標本を見る必要があると思います。脳内だけに頼ってはいけないと思います。

    [佐藤]少数の場合は、接種量が確実とは云えないと思います。

    [安村]Titrationをやって推計学的に処理すれば良いでしょう。

    [土井田]黒木さんのCheek pouchへの復元の場合、血管はどうなのですか。それから、正常の組織を入れるとどうなりますか。

    [黒木]それはこれからやってみる積りで居ります。

    [安村]脳内はレッキとしたin vivoであるから、免疫学的にどうであっても、レッキとした腫瘍だと思います。

    [勝田]脳内でついても、皮下の場合に動物を殺すかどうか問題だと思います。たとえば、皮下接種では腫瘍死させられないような腫瘍性の弱いものでも、脳内だと死ぬということがあるかも知れないから・・・。

    [黒木]復元して腫瘍が出来ること、つまり移植性と、腫瘍死ということは、別に考えてみたいと思います。

    [奥村]移植性の問題については、色々な部位の比較はできるが、腫瘍性の比較は同じ部位を使わないと比較できないと思います。

    [安村]脳内の場合でも、継代できるかどうかも確かめないと、腫瘍性も確実とは云えません。


《土井田報告》

    各種動物組織より抽出したDNAをマウスに投与した際、高頻度にanaphaseの異常の誘発されることが、最近マウスの骨髄細胞の観察により確かめられました(Karpell et al.1963)。一方動物実験より、核酸前駆物質が放射線障害の回復に有効なことが判って来ました(菅原ら1963)。この様な効果が、如何なる機構で起るかは不明であるが、兎に角回復した細胞なり個体なりを追っかけてみることは、多くの機構や原因の考えられる発癌の問題に、放射線と癌、染色体と癌といった面から近づくものと考え、以下に記すような実験を行いました。

    §材料と方法§

      材料はL細胞のsubculture3日目のもの

      試薬は2種のヌクレオチド混合物を10μg/mlと100μg/mlの濃度で用いました。ヌクレオチドは、(1)大五栄養製ヌクレトン及び(2)武田薬品製のヌクレオチドで、前者は1アンプル2ml中に3'-AMP、3'-GMP、3'-CMP、3'-UMPをほぼ等量づつ、合計50mg溶けておるもので、後者は上記の各nucleotidesの5'-の結晶を夫々等量溶かしたものである。

      方法はsubculture3日目の細胞をRoux瓶又は200mlの角瓶に播き、1日後、2,000γのX線を照射した。照射1時間後、上記試薬を投与し、その後7日間、又は調査の全期間に亙って処理した。30、60、90日後、回復したcolonyの数を測定した。(colony数のとり方については研究連絡会で説明します)

    §結果§

      (表を呈示)結果は表に示した通りであるが、これまでの結果よりヌクレオチドには放射線の障害効果を減らし、動物実験と同様に回復させる能力があるように思はれる。この効果は、5'-nucleotidesよりも3'-nucleotides(Nucleton)でより大であるように思はれる。

      この結果より推論するのはまだ早いかも知れないが、5'-および3'-nucleotidsをそれぞれ50μg/mlの割で同時に与えた場合にも、かなり高い回復効果がみられた。

    §考察§

      このdataは最近開始した実験の結果で、現在進行中のものであり、極めて不充分なものであるが、今後は生じた細胞の細胞遺伝学的調査やマウス個体えの復元なども考えております。なおL細胞は1週間に約20倍の細胞数増加がみられるが、3'-および5'-nulcleotidesをX線照射しないL細胞に100μg/mlの濃度で与えた時には12乃至14倍に増加した。この事は単独にnucleotidesを与えた場合、該薬はL細胞に弱い毒性を与えることを示すと考えられる(ただしcellの増殖については反覆調査をしていない)。

:質疑応答:

    [勝田]君のLのgrowth curveで、はじめの24hrsにlagがありますが、log phaseのlineを逆に辿ったB点の量、それだけの細胞数しかinoculationのとき生きていなかった、という可能性が大きいのですよ。(つまり接種のときの操作が荒くて、細胞が傷付けられること。)

    [奥村]瓶当り400万個接種して、30日後に、他のはみなColony数が0なのに、一つだけ103ケあるというのは、耐性を示すのか、はじめから障害を受けていないのか、疑問だと思います。

    [土井田]文献に長期培養のものは全部悪性化したというのがありますが・・・。Nature,199(4911):1043-1047,1963。何も特に加えずに長期培養していたら、transplantableのtumorができた、ということです。(Strangeways Lab.)

    [勝田]だから我々は株を避け、且、短期間の勝負を狙っているのです。

    [安村]マウスは早いですね。6ケ月で悪性化した報告があります。Barskiがトリプシンを使った仕事ですが。

     (以後、来年度入班する班員の研究計画を中心に討論した。)

    [奥村]子宮内膜の培養をしていますが、Ratはcycleが3日位というのですが、兎には排卵週期がないというので、兎を使っています。細胞は2種類出てきます。子宮の両端を鉗子でとめて、30〜40分トリプシン処理します。2〜3万個まきますと、60%位、EpithelのColonyがとれます。いま、ホルモン添加と無処理のものと、培養条件を出しています。「CS20%+199」では、生え出しは良いのですが長く増殖しません。Hormoneを加えた方が良いと思って、ProgesteroneやEstradiolを加えてみかしたが、高濃度に加えると死んでしまいます。重曹の量を変えてpHをしらべますと、pH=7.8〜7.6位がEpithelの増殖には良いようでした。

    [安村]血清の入った培地では、pHメーターを使うと、pHのブレが大きいものですが・・・。

    [奥村]pHの絶対値としてはこれは一寸断言できません。

    [安村]私はSV40でできたtumorをもう1回ハムスターを通してから培養し、plating effeciencyを見ていますが、efficiencyがよさそうなら、この株を腫瘍だとして、正常mousuのembryoの形質転換に使いたいと思います。この場合、腫瘍細胞の株に何かのマーカーをつけておきたいと考えています。

    [奥村]その細胞が、virusが本当に居ない、という証明が仲々難しいとおもいますが・・・。 [黒木]SV40のDNAが入って出来た腫瘍の、そのDNAが次の細胞に入って、また腫瘍を作るかどうか、ということを見てみたい訳ですね。

    [安村]これは癌化するということに、物の(例えばDNAといったような)裏付けがあるとしての話で、若しその物としての裏付けなしに癌化するということなら、このもくろみは駄目なんですが。

    [黒木]129Pの株を復元しますと、接種量によって期間は違いますが、何れも消えて行ってしまいます。この現象が免疫学的なものだとするなら、もとの動物継代の細胞と、培養した細胞の免疫的な違いをどうやってチェックすれば良いのでしょう。(この腫瘍は消えない内に、次々と動物を継代しているのです。)

    [勝田]土井田君の仕事ですが、放射線をかけた細胞の中に、変ったものが出ないかどうかしらべて頂きたいですね。発癌要因として、あなたのところでは放射線を使って欲しいということです。そうすればproperの仕事に少し手をかける位の気持でやれるでしょうから。それから、発癌の仕事にはLなどのような、株になっている細胞を使うことは向いていないと思いますが・・・。山田君は今日3代目のCultureでClone法を使っていましたが、あのように、さらに初代でもCloneを使うというのは非常に意味のある良いやり方だと思いますね。

    [安村]協同研究というやり方を大いに活かしたいですね。

    [勝田]この班は、以前には学会にも班員間の共同研究をよく発表しましたが、このごろはそれが少くなったのは寂しいことです。今秋の癌学会あたろを契機として、また大いに共同の発表をして行きたいものです。

    [佐藤]班員の夫々の専門を活かして、この班を盛り立てて行きたいものです。たとえば、土井田氏には、我々が発癌させた細胞の染色体の分析をたのむとか・・・。