【勝田班月報:6405】




《勝田報告》

“なぎさ”作戦について:

    前回の班会議で報告したように、Control群よりできたRat肝の細胞株、RLC-2を平型の回転管にタンザク型カバーグラスを入れて、約5℃に傾斜培養(静置)していると(培地は週2回交新するが継代は滅多に行わない)細胞のtransformationが起った。この変化した細胞は、増殖度も早く、染色体数も68本が主軸で、RLC-2(42本)とは異なり、細胞の形態もすっかり変っているのでRLC-2の亜株、RLH-1と命名した。

    1. RLH-1の復元接種試験:

      1. 皮下接種  1964-3- 4:生後3日JARラッテ2匹、左肩皮下、20万個宛。

      2. 筋肉内接種 1964-3-15:(F19生後35日)2匹、大腿筋肉、900万個宛。

      3. 腹腔内接種 1964-3-21:(F19生後41日)2匹、腹腔内、1,250万個宛。

      4. 脳内接種  1964-4- 8:(F20生後2日)5匹、脳内、100万個宛。

        これまで上記の4法を試みたが、今日までのところでは何れも腫瘍形成を認めていない。但しこれまでの報告では半年近くかかった例もあるので、観察をつづける予定である。なお上の(c)の内1匹は、1964-4-4に開腹したところ横隔膜に白い粟粒大の結節、10ケ位の形成を見出した。この一部は次代に継代し、一部は組織標本用に供した。

    2. 追試実験:

        この実験は“なぎさ作戦”と命名し、Exp.No.をCarcinogenesis Nagisaから“CN”とした。

      1. CN#1:RLC-2→RLH-1は4-15日現在、継代10代、Original lineは静置であるが、Fluid suspension cultureや、合成培地へのAdaptationも試みている。核型分析は土井田班員に依頼の予定。

      2. CN#2:1964-2-25開始、(3)CN#3:1964-3-4開始、(4)CN#4:1964-3-20開始と追試実験を行っている。

        これらの追試実験に於ては未だ4月16日現在では新生細胞のcolonyは出現していないが、いわゆる“なぎさ部”に於ける細胞の形態学的変化は著明で、異常分裂も認められた。

    3. 考察:

        Coverslipが絶対に必須条件であるか否かは未だ確定されない。しかし“なぎさ”部に於て、細胞の形態に大きな異型性が認められ、大きさから見ても、非常に大きなものから、極端に小さなものに至るまで、さまざまの細胞がある。核の異常形態や、異常分裂(3極分裂、不均等分裂、Endomitosis、Endoreduplication、その他)がしばしば認められる。これらの点より考えて“なぎさ”の方がより大きな要因であり、この地帯に於て新生細胞が誕生すると考えるのが妥当であろう。そしてその機構については、好ましからざる環境下において、変則的なDNA合成(或はDNA-polymerisation)をおこなっている細胞が、他のやはりdegenerateした細胞からの、degenerated DNA或はdeviated DNAの一部をCytosisによって取り入れ、自己のDNAに取込んだためにtransformationが起る−と考えたい。これらの点については、勿論今後の実験的証明が必要である。

        次にこの復元接種成績についてであるが、考えてみると牛血清ばかり培地に用いていたのは大失敗で、なぎさ地帯で色々な異常細胞が誕生している時期に、ラッテ血清を血清量全量或は部分的に添加してselectすべきであったと思う。今後の実験ではそのようにするつもりである。なおRLH-1についてはラッテ血清による再淘汰を現在おこなっている。

    4. 顕微鏡映画供覧:

         RLH-1の誕生時の形態、その後の形態、各種異常分裂・・・

         追試実験中の各seriesの“なぎさ”の細胞形態、分裂、異常分裂・・・

         カバーグラス下の細胞と異常分裂。

:質疑応答:

    [土井田]なぎさの細胞をそのままおかずに、また元のような培地の充分に行きわたる状態にするとどうなりますか。

    [勝田]はっきり判りませんが、映画をとるときは“なぎさ”の状態より少し良く培地が行きわたるようにしています。

    [土井田]Endomitosisにも色々な状態のが見られましたが、とにかく状態が悪くてあっぷあっぷしているみたいですね。

    [山田]DABと結び付けてみませんか。

    [勝田]今のところまだすぐ直接的には結びつかないが、これが或程度進展したら戻ります。DABでやられた細胞もこれと同じことをやっているのではないかと思いますが・・。

    [佐藤]若い動物ほど発癌しやすい、若いものからの培養は染色体がばらつき易い−ということは考えられませんか。

    [奥村]若いものは増殖系になり易いとはいえるが、若くて未分化な細胞が多いから2倍体を保ちにくい−とは云えないと思いますが・・・。

    [佐藤]成熟した動物での或抑制が、若いものでは弱いので、培養という条件に入れると、その抑制から容易に外れて、染色体のばらつきなどが出るのではなかろうかと思います。また別の話でDABを入れつづけた培養で、DABを除いてLDだけにすると、抑制を外されて異常分裂をおこす細胞が増えるようです。

    [勝田]動物でのDAB発癌で、DABを与えては少し休み、与えては休みすると、反って発癌が早くなるということは無いものでしょうか。

    [佐藤]ラッテの血清でselectすると、細胞内にRNAが非常に増えて、ギムザで青く染まるようになります。これを復元してもつきませんが・・・。規則正しく培地交新や継代をしていると、DABやメチルDABを加えても発癌しないと思います。

    [勝田]こんどつくづく感じたのは、RLH-1は形態学的には明らかに癌と認めてよいと思われるのに動物に仲々つかない。今後培養内でできた癌をどうやって動物にtakeされるようにするか、考えておかなければならない所があると思います。

    [佐藤]LD+血清という培地がむしろ癌細胞AH系のを培養するのに適さないのではないでしょうか。

    [黒木]培地が原因でしょうか?。今度しらべてみたら、腫瘍性が落ちないというデータは非常に少ないですね。

    [佐藤]JTC-11は未だに落ちていません。

    [勝田]JTC-11は染色体数のピークがsharpなのではありませんか。動物に復元したとき別のピークが出てこないのではありませんか。

    [黒木]培地というより、培養という、もっと広い条件のために腫瘍性が落ちるのではありませんか。培養内で悪性化した細胞の場合にも、やっぱり腫瘍性が落ちているのですから。

    [山田]しかし第1の段階では、正常細胞は増えない、肝癌はふえる−という条件でこの培地及び培養法を採用したという訳ですが、一応ふえてからまた変ったものをselectするにはどうするかという問題ですね。

    [勝田]DAB発癌に関しては、私は初めの頃とは少し考えが変ってきています。DABを与えてそのためこわされた細胞のdeviated DNAを喰った細胞の内のいくつかが変異するのではないかと思っています。

    [奥村]SV40では、変異した細胞の変な核、変な細胞が、そのまま継代されて行くようです。

    [山田]DABを与えて生体内で癌ができるまでの染色体数の変化を顕微分光分析(MSP)でしらべますと、MSPですからContentですから“C”であらわしますと(図を呈示)、正常は2C、4C、8Cにピークがあるが、癌巣のできる前はしだいにばらつきが出てくる。ところが癌巣が出来ると、ピタリとそこは2Cを示す。そしてその後、癌の発育に伴ってまたばらつきが出てくる、ということが報告されています。

     また分裂の各時期でみますと、Metphaseはきれいに4Sにピークが、Telophaseは2Sにピークができますが、静止期の核ではもっとバラツキがあります。つまりそのバラツキの部分の細胞なんかは増えないのではないでしょうか。動物の場合にはStem-cellというものがはっきりしていることになります。しかし培養ではこういう事は全くあてはまらないで、Stem-cellから外れた染色体数の細胞も分裂する、ということになります。

    [奥村]動物ではたしかに或条件で規定されるから染色体数の幅が狭くなります。

    [勝田]私はこのごろ“分裂命令”というものが何か別にあるような気がします。細胞の準備体制ができ上らない内にその指令が発せられると(細胞内で)、異常分裂になってしまうのではないか、ということです。

    [奥村]JTC-4株から、染色体数が20〜30本という少い亜株がとれました。それで考えるのですが、培養内での染色体のSystemというのがあるのではないでしょうか。この少い系はDNAも少く、Metacentricもある長いものも多く見られます。

    [勝田]それは面白い系がとれましたね。我々が人工的な細胞を作って行くのに、染色体数も最少限、必要最少限のを作るというのは結構なことだと思います。

    [黒木]復元法についてですが、生後24時間以内ならば皮下が良く、生後3日ならば脳内が良いです。

《佐藤報告》

    RL-10 strain CellのDAB及び3'-Methyl-DABによる形態変化:

    実験に使用したCell Strainの由来、DABの濃度、投与日数を表に示す(表を呈示)。

    (顕微鏡写真を呈示)以下写真の説明。

  1. RLN-10 ◇C10のControlより出来し、673日経過したもの:殆んど変化なし。

  2. RLN-10にDAB1μgを357日投与したもの:Controlに比してやや大小不同が多く、細胞質に空胞形成がある。

  3. RLN-10に3'-Methyl-DAB1μgを373日投与したもの:細胞核にはやや大小不同が見られ、細胞質の境界線が凹カーブを示す。

  4. RLD-10をRat Serumにかえて358日経過したもの:増殖率がよく細胞に大小不同がある。
  5. RLD-10 Strain Cell ◇C10のDAB1μg4日投与のものよりStartしたもので677日後:RLN-10に比してやや細胞に大小不同が見られるが大差はない。

  6. RLD-10にDAB1μgを375日投与したもの:細胞核の異常と細胞質空胞、細胞質境界線の凹カーブが明かである。

  7. RLD-10に3'-Methyl-DABを1μg、376日投与したもの:細胞質の混濁、核の大小不同、細胞質境界線の凹カーブが明か。

  8. RLD-10 Strain Cellに3'-Methyl-DABを7%に投与し、後、牛血清を鼠血清におきかえたもの:核仁の増加、細胞質好塩基性、中性の増加が見られる。

  9. RLD-10に10μgのDABを167日投与、その後DABをとって18日目のもの:10μgDABをはずすと細胞の増殖が著しくなる。それと同時に核の多型性が著明に現れる。

  10. (9)の細胞を継代し、1、2、4日目のもの:核の多型性が著明。

  11. RLD-10にTweenを加え、10μgDABに含まれるTweenの影響を調べるControlとした:細胞質に空胞が現れ、核仁に大小不同が現われるが、10μg投与のものに比して少ない。

  12. (10)の細胞に10μgの3-'MethylDABを再投与したもの:10μg 3'-Methyl-DABを除いて強い多型性を示した細胞群の中でPolymorphismの強い細胞は少くなる(変性消失?発現不能?)但し核仁は大きく核膜は厚くなる。

§小括§

     Cell StrainでもDABを高濃度に与えれば、核、細胞質共に著明な特異的変化を受ける。殊に高濃度の3'-Methyl-DABを連続投与して後、DABを除去すると核の多型性が著明に現れる。

     各種Strain Cellによる試験管内DABの消耗についてのデータ発表。

:質疑応答:

    [勝田]もう一息という感じですね。

    [佐藤]Tweenの耐性の細胞にもっとDABをふやして与えてみようと思っています。

    [勝田]DABを与えたり抜いたり、をくりかえしてみたらどうでしょう。

    [佐藤]若いラッテと老齢(2月)のと、両方培養してみていますが、若い方はDABに弱いらしく、やられ易いです。老齢の方は、2ケ月位は生きているようですから、続けてみています。ラッテにDABを喰わせての発癌の過程で、動物実験での発癌発見よりも、それを培養に移してcheckして培養の方がもっと早期に発見できないか、ということも考えています。

    [勝田]若いラッテの細胞と、老齢のラッテの細胞とでは、DABの消費量にちがいがあるのではないですか。

    [佐藤]DAB濃度をもっと高めたいので、よく水に溶かす作用があってしかも細胞に害のない補助剤を探しています。

    [勝田]n-oxideを使ってみたらどうでしょう。水溶性でよく溶けます。

    [佐藤]DABならば発癌が確実ですが、n-oxidで確実と云えるかどうか・・・。

    [奥村]動物実験の場合と、in vitroとでは、発癌に有効な物質がちがうかも知れませんね。

    [佐藤]うちのDAB定量法は、蛋白に結合していないfreeのDABだけが定量にかかりますが、それでしらべると、DABを喰わせているラッテの肝では、freeのDABは割合少いし血清にも出てこない。牛血清培地とラッテ血清培地とでは、消費がちがうかも知れませんね。

    [奥村]DABをやったマウスでは、血清中にfreeのDABが出てくるのでしょうか。

    [佐藤]消費していても細胞に入っているのかどうか、しらべる必要があると思っています。

    [関口]細胞にくっついているだけか、中に入っているのかということは問題ですね。

    [勝田]DABにH3をつけられないかしら。そうすればAutoradiographyも使えるから。

    [関口]H3をつけることは可能でしょう。

    [勝田]DABの吸収度をしらべてそれをマーカーにすることは大変面白いと思います。DABの抗血清を作って仕事を進められないかしら・・・。それからRLH-1のDAB消費量もしらべてもらいたいですね。

    [佐藤]勝田さんのところでは、DAB1μgで形態が変った、という報告がありましたが・・・。

    [勝田]それは1μgで増殖を誘導したあと、第2段階の処理で変ったのであって、第1段階では変っていません。

    [佐藤]私のところでは、このやり方で、もっとDABの濃度を上げて、続けて行くつもりで居ります。

《伊藤報告》

    homogenizerを使ってラット肝細胞を得て、viable cellを検しつつ種々条件を検討して来て、前回の報告で、肝潅流液量15〜30ml、strokeの回数10回で約4〜5%のviable cellが得られる事を報告し、その後の検討によっても多い時で10%、平均5%近くのviable cellをconstantに得られる事は確認出来ました。

    今後は此の培養法に問題がありますが、炭酸ガスincubatorを是非使ってみたいと考えて居ます。何とか早くこの系での発癌実験のDataを出せる様にしなくてはと、いささかあせり気味です。

    そこで、此の系とは別に比較的簡単にしかも、確実に得られるprimary cultureの細胞を使って、発癌剤を加え、何かDataを得られる様な別の実験も開始し度いと考えています。今の案としてはmouse←Actinomycinの系を予定しています。此れは川俣教授のところでin vivoで腫瘍の出来ることが分って居り、又此の腫瘍の腹水型になったものは、高井君によって株化されて、in vivo←→in vitroに容易に移し得るものとなって居ますので、色々の点で比較するのに便利かと考えて居ます。

    どうも今のままでは、培養内発癌についての実際のDataが仲々得られず、研究班員としてどうも気分的にもしんどい感じですので。此の系で何とかDataを出しながら、一方折角ここまでやって来たラッテ肝細胞の培養の検討も是非続けたいと考えて居ます。

:質疑応答:

    [黒木]Actinomycinでできた腫瘍というのは、Actinomycinにたいする耐性が無いんですね。

    [伊藤]ActinomycinCによってマウスに腫瘍のできる%は非常に高くて、60〜100%です。Primaryの培養で、トリプシン処理でとれる細胞の生死の%はどの位ですか。

    [奥村]腎で80%、肝で30%位です。消化直後には60%位生きていても、1晩培養して20%位になってしまうこともあります。5月胎児(ヒト)腎のprimary cultureでのplating efficiencyは8%位でした。炭酸ガス8%の条件下です。

    [伊藤]炭酸ガスはpHのためだけですか。

    [山田]そうです。

《杉 報告》

    Golden hamster kidney−Stilboestrol:

    動物実験ではtumourはmale hamsterだけに出来る。stilboestrolのhormone antagonistであるtestosteroneを同時に与えるとtumourは出来ない。tumourのtransplantationはhormone dependantであり、stilboestrolで処置したmale hamsterにおいてのみ可能である。tumourの発生にはhypophyseなどの関与があるかも知れない。これらの実験事実については種々の解釈、推測がなされているが、hormone相互間や細胞との間に複雑な関係があるものと思われる。従ってこれらのからくりを試験管内で再現させるのは仲々むつかしいことが予想される。

    しかし先ずstilboestrolのhormone antagonistであるtestosteroneを取り上げ、stilboestrolを作用させると同一条件でこれを作用させて、stilboestrolの作用と対比してみている。現在まだスタートしたばかりであるが、今のところtestosterone群はstilboestrol群ほど増殖がよくない様である。更にtestosteroneとstilboestrolの同時又は継時作用の群を作って比べてみたい。

    Hamster liver−o-aminoazotoluene:

    前に報告した様に伊藤班員が努力しておられる潅流法をそのごも繰返しやってみた。細胞はかなりとれ、trypan blueで染まらないものも多数あるが、培養するとどうもうまく増殖してこない。

    Mice skin−4-NQO:

    この動物実験はhormoneによる発癌に比べて他のfactorの入る可能性が少く、薬剤の直接作用である可能性が大きく、試験管内で行うには好適と思われる。4-NQOは一応stilboestrolと同じ法で溶かして培養に入れてやれそうであるので、試みたいと思って準備している。

:質疑応答:

    [勝田]君の云われたStilbestrolとTestosteroneの拮抗作用ですが、in vitroでHeLaを使ってテストして見たらよいと思いますよ。うちで以前しらべたところでは、たとえば合成Estradidは生体では効くそうですが、in vitroでは天然ホルモンのようにTestosteroneと拮抗しませんでした。

《奥村報告》

    ウサギ子宮内膜細胞の培養条件の検討:

    A.内膜上皮細胞の採取方法

      a.上皮の剥離と細胞の分散−内膜から上皮だけを剥がすことは極めて難しい。しかしトリプシンの濃度と時間(作用)を適宜に組合わせる事によってかなり純度の高い上皮性細胞を採取できる。はじめはトリプシン液のほかにEDTAのみあるいはEDTAとトリプシンの混合液を用いてみたが、トリプシン液だけの場合以上の成績を得る事ができなかったので、現在ではトリプシン(1:300)だけの液で細胞剥離を行っている。トリプシンの濃度に関しては表の示す通り0.2又は0.25%(in PBS)が至適であった。(各種濃度、各種時間の処理による細胞収量に関する25実験例の表を呈示)

      b.血清濃度の検討−血清の種類は成牛12lots、馬3lots、仔牛8lotsについて検討したが、生後1〜4週間の仔牛の血清が一番良い事がわかり以後全べてcalf serumを用いている。Rabbitの血清については目下検討中。

      血清濃度は0、10、15、20、30、40の各%を199を基礎にして検討した結果20、30%が至適、以来20%にて全実験進行中。

    B.Progesteroneの添加実験:

      ProgesteroneをPropyrenglycolに溶かし、それを培地中に添加した。ホルモンは結晶性のもので、帝国臓器co.から入手した。ホルモンの作用効果の基準については一応細胞コロニー数を算定する方法を用いた。ホルモン濃度10、1、0.1、0.01、0.001μg/ml、植え込み細胞数1000〜3000、5000〜8000、20000〜50000/ml/シャーレについてコロニー計数の表を呈示。ホルモン濃度は0.1μg/mlが至適であった。

      Estradiolの投与実験の成績は次回に書きますが、現在までの結果では0.01μg/mlが最も良く、植込み細胞数1000〜3000/ml/シャーレで、コロニー数は5〜7/シャーレ。

:質疑応答:

    [勝田]トリプシン処理後に死細胞が多くて困るというのは、トリプシンの製品、濃度、また他の酵素との組合せなどで、もっと改良できると思います。兎の血中のProgesteroneやEstradiolの生理的濃度をしらべて、培養内での至適濃度と比較してみる必要がありますね。大体ホルモンの実験をする場合は、培地に加える血清の中のホルモン量も考慮に入れなくてはならないから、できれば透析その他でこれを除いておくことも考えなくてはならないと思います。

    [山田]重曹量はHanksのままですか?

    [奥村]重曹0.11%、炭酸ガス8%にしないと、子宮内膜はよくColonyを作りません。pH=7.3位です。炭酸ガスフランキのお蔭で、こういう培養がうまく行くようになったようです。

    [山田]炭酸ガスフランキを使わないで、角瓶などを用いるときも、5%炭酸ガス-airを送り込んで密栓をしておけば、炭酸ガスを使った場合に近いデータが出ます。重曹量とpHの関係は下の表の通りです。但し5%炭酸ガス-Air:重曹系です。

    重曹量g/l2.21.231.00.78・・・ 0.12
    pH7.77.47.37.2 ・・・ 6.4

    [奥村]ハムスターのセンイ芽細胞の場合は、炭酸ガスが12〜15%、重曹0.2g/l、pH7.1〜7.2位が一番良いようです。

    [山田]要するに、少数細胞の場合は、この重曹−炭酸ガスのBufferを、どの位のpHに決めるかが大変問題になってくるのです。

    [奥村]始めは炭酸ガスを5%に固定して、重曹量を色々と変えて条件を出してみましたが、現在は両方の色々な組合せを検討しているところです。

《山田報告》

  1. Ehrlich K株(佐藤)のddYマウスへの移植性:

    佐藤氏からわけていただいたEhrlich K株細胞を10%コウシ血清添加Eagle培地(1959)に馴らした後、試験管内および腹腔内の実験を併行して行うためにddYマウスへの腹腔内移植性を調べてみました。300万個のトリプシン消化細胞をddYマウス(やく20g)ipに接種したところ、血性の腹水がたまってくるのを認めましたが、癌細胞がほとんど見られず、開腹してみたところ、腹腔内底部に癌細胞のやわらかな塊を認めることができました。これをマウスで継代してゆくと(接種数はいつも300万個)、図のように(図を呈示)5代目までは30日間の観察で、なお生存しているマウスがありましたが、6代以後は全例が20日以内に腹水腫瘍死するようになりました。マウスの体重増加から、腹水量を推定しますと、やはり、継代のすすんだものだけが、よく腹水のたまることが判ります。

    このマウス継代Ehrlich K株細胞は簡単に組織培養に移すことができます。ただし、ガラス面への“ツキ”および細胞の“ノビ”は試験管内継代細胞とくらべて悪く、もう一段の馴れが必要です。マウス腹腔内に7〜8代継代した後、試験管内にもどして4〜5代継代した細胞をもう一度マウス腹腔内にもどして、腹水のたまり方を見てみました。(図を呈示)それぞれの線は個々のマウスにおける腹水量(体重増加)で、丸はマウスでずっと継代した細胞の平均腹水量です。このように大部分がマウスで継代した場合と同様な腹水量増加を示し、4〜5代の試験管内継代でもマウスへの移植性に変化が認められません。今後この細胞株を、試験管内、腹腔内ともに自由にきりかえても増殖しうるようにすること、また浮遊培養することも考えております。

  2. 比較的継代の若いマウス細胞のコロニー形成率:

    現在、成熟マウス腎、生後1日のマウス腎及び肺、マウス胎児(全組織)の継代培養を行ないつつありますが、それぞれ継代3代目で、コロニー形成率を比較してみました。上記の3系統(ms、ms2、ms3)は現在80日、50日、40日に達しています。コロニー形成用培養液としては、20%コウシ血清添加Eagle培地(1959)(10-4M glycineおよびserine添加)を用いました。msの形成率は数字にできない程度(10-5乗で1、2個)、ms2は16.8/10,000個、19.8/10,000個、ms3は9.8/1000個でした。ことにms3(胎児)は10,000個でconfluentの細胞層を形成するのに、3,000個では25、28、35という数字が得られ、この程度の細胞濃度にギャップのあることがわかりました(populationによる栄養要求性)。それらの形態変化については次の機会に述べます。

:質疑応答:

    [山田]Ehrlich Kをトリプシン継代して、100万個復元すると、初代は腹水中に細胞がなく、腹腔内にもやもやとした塊ができます。それをもっとマウスで継代している内に、普通のEhrlichの腹水のようになります。

    [佐藤]自分のところで継代しているEhrlich Kは100万個で20日位で死にますが・・。

    [勝田]これは何の目的ではじめた仕事ですか?

    [山田]EhrlichにはG1が無い、つまり分裂直後からDNA合成をはじめるという報告があるのですが、私はこの系を、TCでも動物でも充分継代できる癌細胞として、その点を追ってみたいのです。結果としてG1は短いながら有りました。Autographyでみたのです。

    [奥村]Colony法だと、接種細胞数によって細胞の種類がselectされるようです。細胞数が多いと色々の種類の細胞のcolonyができますが、少くすると大体1種類の細胞のcolonyです。細胞が多いと、細胞間の相互作用が加わってくるのではないでしょうか。細胞数を少くすると、その培養法及び培地に適応した細胞だけが増えてくるという結果になるようです。

    (以後は炭酸ガスフランキについての討論。要するに山田方式(平山式)はなるべく安く炭酸ガスフランキを作りたい、奥村方式(トキワ)はなるべく理想的なものと作りたい、というところが双方の根本的な相違点であるらしい。)

《黒木報告》

    XII.吉田肉腫の新生児マウス脳内移植法:

    新生児マウス(生後24hrs.内)皮下に吉田肉腫を移植した際、高率に腫瘤をつくるに拘らず、そのほとんどがregresすることを前報で報告しました。今回は新生児マウス脳内移植の成績についてReportします。脳内は、他の臓器と比べて免疫学的に寛容性が高いと云はれています。従って新生児との組合わせは非常に優れた移植法であることが想像されます。

    実験に用いたマウスは前報と同様C3H/Hes、C3H/HeN、C3Hf/HeN、の三つのstrainです。接種液量は0.02ml。移植法は、伝研実習書に準じ、反対側の大脳半球に注入するようにしたのですが、ときには「液もれ」をみたものがあります。又、1.0mlの注射器を用いたため、注入量の正確さについては余り自信がありません。

    結果(表を呈示)

    忙しさにまぎれて、まだ組織標本を作っていないので最終的なことは云えませんが、脳内移植法はかなり優れた移植法であると云えます。しかし、この成績からは、皮下よりも脳内の方がよいとは云えません。注意すべきことは、皮下はregressするに拘らず、脳内では全て死亡することです。すなはち、脳と云う特殊な臓器のため、ある程度の増殖をみれば動物を死に致らせしめるものと思はれます。従って腫瘍性の検定には脳内のみに頼ることは危険性を伴うものと思はれます。脳内で増殖した細胞を皮下に移すか、又は皮下移植と平行して行う必要があります。

    正常細胞でも、脳内移植でTumorを作ると云う報告があります。Chick embryo(trypsin-dispersed,praimary or secondary culture)cellsはadult conditioned rat brain内で500万個〜1,000万個でTumorを作るそうです。(Scotti,T.M. et al:Growth of normal and Rous sarcome virus ingected Chick embryo cells in rat brain.Cancer Res.23(4),p.531-p.534.1963)

    XIII.新生児移植法、Age factorの検討:

    新生児が移植動物として非常に優れていることは、明らかになりましたが、生後何時間までの動物がよいのかははっきりしません。H-2抗原が48時間より急激に増加する事実は24、48時間を一つの境にして移植性も変化することが予想されます。

    そこで生後1日(24hrs内)、3日(72hrs)、4日(96hrs)、5日(120hrs)、6日(144hrs)の動物(C3H)に、吉田肉腫を皮下又は脳内に移植しAge factorを検討しました。接種細胞数は、皮下40,000、脳内4,000です。(表を呈示)

    この成績から次の二つのことがわかります。

    1)皮下移植の結果から明らかのように、生後24hrs.内に比べて、生後48〜72hrs.のものは移植率が急激に下がります。従って、皮下移植の場合はどうしても生後24hrs.内に移植する必要があります。

    2)脳内は皮下程Age factorの影響を受けません。すなはち脳内は皮下よりも優れた移植部位であることがこの成績から分ります。

    新生児移植の部位としては、この他、静脈内、腹腔内が考えられます。後者は皮下よりもよい成績が期待されます。前者については、最近のCancer Res.に報告があり、人癌培養細胞を新生児(24hrs内)ラット静脈内に移植し、相当よい成績が出ています。(Southam C.M.et al. Growth of several human cell lines in new born rats.Cancer Res.23(2)P.345-355,1964)

    発癌実験の場合の復元動物としては、同種を用いることが本道であると思います。Hamster等の異種を用いることは、それ以後の一つの応用問題にすぎないと思はれます。今までの成績から移植部位として感受性の高いものから並べますと次のようになります。御参考までに。

    1)New born(24hrs.)脳内

    2)New born(24hrs.)皮下

    3)Suckling 脳内

    4)同種Adult

    5)Cortisone-treated Hamster ch.p.(同種Aduktとほぼ同じ)

    6)Non-treated Hamster ch.p.

    3)と4)の間にはX-ray or Cortisonによるconditioned Animalが多分入ることでしょう。

:質疑応答:

    [勝田]heteroで接種して腫大する塊は、果して接種した細胞が増えたのでしょうか。

    [黒木]反応細胞ではなく、入れた細胞そのものだと思いますが、切片を作ってしらべてみます。

    [奥村]染色体を見れば簡単に判ります。

    [佐藤]脳内接種で死ぬ場合、日齢の多いラッテは頭蓋骨が固いので、脳圧が高くなり、そのため若いラッテより早く死ぬことがありますね。

    [山田]脳内接種は細胞数は余り厳密にはできませんね。

    [奥村]前眼房はどうです。

    [山田]小さな動物ではやりにくいです。

《土井田報告》

     現在データは出ていないが、次のような2点から研究をすべく仕事を進めている。本回はそれらについて私が考えている点について記すが、多少考えかたに飛躍があるかも知れないので、この点については班会議の席上ででも批判して戴き、又よい方法があったらsuggestionを戴きたい。

    A)マウス臓器のprimary cultureについて。

    B)組織培養で増殖性になった細胞を、宿主え復帰させる方法およびそれに関する考え方について。

      A)については、NH系マウスを用いて肝および腎のprimary cultureを試みているが、予備実験の段階で今後数多くの処理をしてゆきたい。

      B)株細胞を含めin vitroで増殖するようになった細胞を(適当な)宿主にもどすとき、多くは増殖しない。原因としては、いろいろ考えられようが(1)organizeされた生体が増殖を抑制するため、(2)喰細胞により貪喰され、そのため絶滅してしまう、(3)免疫学的な立場で宿主が移植片として入れられた細胞をrejectするため。などが主たる要因であろう。primary cultureで育つということは細胞がin vitroの条件に適応し既にいくらか変化したのかもしれないが、いづれ癌細胞も何等かの意味で変化していると考えられる。この様な面から私は次のような考えで仕事を進めようと思っている。即ち、in vitroで増殖するようになった細胞を宿主に戻すとき、増殖能と宿主の関係と切りはなしてしまう。そのためにdiffusion chamber法を復元実験と平行して行なう。

    (予備実験)

    生れた日のNH系マウスにL細胞を150万個inoculateした。このマウス内で移植されたL細胞がそのまま生長するか、増殖はしないが、此の時期のマウスの免疫学的特性から、そのまま残存するか(移植部位の組織をもう一度in vitro cultureしてみる)。又、此の時期にinoculateすることによりマウスを免疫寛容にできないか、出来るなら数ケ月後同種細胞を移植したときに増殖するのではないか。

    (経過)

    生後、現在では40日を経たが、controlの2頭とともにLを移植されたマウス3頭も生存しているが、腫瘍を形成しているような所見は外見からはみられていない。

    (今後の研究方向と問題点)

    primary cultureで増殖系に入った細胞に関しては同系のマウスに復元することにより組織和合性のgeneの問題は解決できるが、Lその他の細胞での併行実験の際には組織適合性(特にH-2 locus)遺伝子等を考慮し、又発癌性なども考慮し、系統の選択をしたい。

    primary cultureで増殖系に入ったcellsに放射線照射その他をおこない、その後生じた耐性細胞のごときものを、宿主に復元し、併せてdiffusion chamberを取りあげ、増殖能力のin vivoでの変化を調べる。又宿主に対して移植された細胞が食殺される可能性もあるので、これについてはmacrophageとの混合培養法を利用して追求する。

:質疑応答:

    [奥村]NH系というのは、放射線に対して非常に抵抗性が高い系ですか。

    [土井田]そうかも知れません。

    [佐藤]細胞が喰う−ということが頭にありすぎているように思われます。生きている癌細胞をmacrophageが喰うのではなくて、変性したのを喰う−というのが普通の概念ですが・・・。

    [土井田]そこに問題はあると思いますが、TC内では脾細胞をLが丸ごと喰ってしまうのが見られます。

    [黒木]NH系というのは自然発生癌は多いですか、少いですか。

    [土井田]今のところよく判りません。

    [勝田]研究目的をもう少しはっきり説明して下さい。

    [土井田]移植法の問題と、放射線による変異です。Diffusion chamberを用いて、動物へ復元した時の細胞の末路をまず見てみたいと思います。(以後、土井田班員の研究目的について、かなり討論が交されたが省略する)