《勝田報告》A.発癌実験
初期の本格的なぎさ実験はCN#1→#4で、このとき、RLH-1とRLH-2とmutantが2種とれた。#5ではcoverslipを外してしまったが、その為かどうかMutantが得られていない。#6→#8の実験はcell homogenateやVibrioを加えたり、H3-thymidineを入れたり、副次的なExp.になった。株を使う他に、若いラッテを使って細胞をどんどん増殖させその第2代で“なぎさ”状態においてMutantを作るようにしたいと、最近はprimary cultureを狙っているが、ラッテの出産が仲々思うにまかせないで困っている。 CN#6の実験で、RLH-1からcrudeのchromosome suspensionを作り(colchicine添加→homogenize)、なぎさcultureに入れて数日後、染色標本を作ってしらべたところでは、入れたsuspensionの細片は“なぎさ部”の細胞の細胞質内には沢山残っているが、深い所のシート中の細胞内にはほとんど見られなかった。phagocytosisをおこなわない、と見るよりむしろ、食うことには同じように食うが、すぐ消化してしまう。なぎさ部の細胞は消化できないのだ、と考える方が妥当ではあるまいかと思う。これは今後、もっと間隔をつめて標本を作ってみれば判ることであるが。 H3-thymidineの取込能の比較は、Exp.CN#7で現在まで未だ進行中であるが、これは生体からとったばかりの第2代のcultureを使ったため、Cell populationがむらで、なぎさとかシートの奥とかの区別よりも、同じzoneの内でも色々なpopulationがあって、物を云えない。今後はモデル実験として、やはり株を使ってしらべる方がきれいに判ると思う。 Exp.CN#4でできたmutant、RLH-2の培養経過は前月号の月報に記したが、増殖度がきわめておそく、未だに元のRLH-2とのmixed cultureの状態である。染色性はRLH-1と似て、basophiliaの強い細胞質、大きな核小体を有し、映画にとってみると、立体的に増殖することと、屡々fuseすることが目立つ。Rat serumを添加したCultureで増殖が少し促進されたように見えるので、これはRatに復元接種すると案外takeされるのではないかと期待している。(顕微鏡映画上映)
B.ラッテ胸腺細胞の培養
我々は正常JARラッテ胸腺から4種の細胞株を作った。培養初期には大量のリンパ球が混在していたが、これらは管底に附着せず、液交新のとき棄てられた。管底に附着して残った細胞は、何由来か明劃でないが、数種が混在していることは確かである。その内、特に注目をひくのは、(図示)核の周辺に均等な大きさと位相差densityを有する顆粒が密集し、しかも細胞質が拡がってもこの顆粒はほとんど分散せず、固有運動も示さない、このような特異的な細胞が認められることである。Ioachim & Furthは胸腺の培養細胞を巧みにReticular cellsと呼んでいるが、頂度それに相当しているかも知れない。しかしこれまでの報告ではこのような顆粒についての記載は見当らない。顕微鏡映画をとってしらべると、この顆粒が細胞外に内容物を一せいに放出するような現象も認められた。放出すると動かなくなる細胞もあるが、変らずに動きつづけている細胞もある。面白いのは、大抵の株細胞では、分裂でできた娘細胞は、次の分裂もほとんど同時におこなうのが多いが、この顆粒細胞では片方が仲々分裂しない。或はHaematopoiesisのように、1ケだけが分裂能力を伝え、他はこわれて死ぬ(そのとき顆粒を放出)運命にあるのかも知れない。但し、これは今後、長期の映画撮影によって確かめたいと思っている。 顆粒はその染色性から考え、顆粒のCapsuleとcontentと異質でできているらしい。この顆粒が映画でみても動きが極めて少く、しかもお互に密着している、ということから考えて、Capsuleは何か粘稠性の強いmucin様のもので出来ているかも知れない。メタノール固定すると顆粒は溶けてしまうが、Ringer-Formal固定でGiemsa染色すると、Capsuleは真赤に、contentは空色に染まる。contentはPAS陽性であり、Thionineでmetachromasieを起さない。さらに各種の染色によってこの顆粒の定性的検索をおこなうと共に、parabiotic cultureによって色々な細胞、特にリンパ系細胞とのinteractionを調べて行きたいと思っている。
[山田]“なぎさ”の細胞に染色体の滓を入れたときの染色標本ですが、なぎさのとき異物を吸着しやすいのか、細胞自体が食いやすいのか、どっちでしょう。 [勝田]私は、なぎさの細胞は、食うことができるが消化がうまく行かないのだろうと思っていますが・・・。 [安村]“なぎさ説”は二段階説というわけですね。 [勝田]ウィルス説なども包含する説です。DNaseの欠損ということが第1段として必要前提で、実験的にDNaseを抑えてみたいと思って色々考えたのですが、いわゆるin vitroで抑えるようなやり方ではcultureに適用しにくいので困っていました。先日永井君がDNaseの抗血清を作って入れたらどうか、という旨いアイディアを呉れました。 [山田]酵素に対する抗血清は本当にできるのですか。 [関口]それはできると思いますが・・・。難しいと思う点はDNaseには2種類あるので、DNaseIは結晶化できますが、IIはできません。だからIに対する抗血清はきれいにできると思いますが、IIは抗原としてきれいでないので、きれいな抗血清はできないのではないか、と思います。この場合はDNaseIIが問題なのですから・・・。 [黒木]ウィルス説を含む、ということを少し詳しく説明して下さい。 [勝田]殊にDNAvirus系の場合には、細胞の核の破片の代りにvirusが入って、消化されないで、核の構成に組込まれる・・・という具合に、そのまま“なぎさ説”に通じるわけです。 [安村]私のいう二段階説というのは、ウィルスでやられた細胞が、それ自体変化して行くということではなく、変化したその細胞が、おとなりの細胞に影響を与えるということです。 [関口]とり入れられるところ迄は問題ないと思うが、とり入れられたものがその先どうなるか、ということに問題があると思います。 (胸腺細胞についての討論) [黒木]Osobaの文献の場合は、最後にdiffusion chamberに入れるとき、リンパ球を分けていないのではないでしょうか。Burnetの説ではReticulum cellとは云っていないで、Plasma cellと云っていますね。 [勝田]この細胞はぜひ電子顕微鏡にとってみたい、と思っています。 [山田]PAS染色のとき、Diastaseで処理して、Glycogenでないことを確かめておいた方が良いでしょう。 [黒木]ラッテ新生児の胸腺をとって、代りにこの細胞を入れてみたいですね。 [安村]細胞が何種が混在しているそうですが、メッシュを使って細胞の大きさで選別できると良いのですが、仲々難しいですね。10μ位ので濾しても、さきに入れた大きい細胞がすぐ目につまってしまって、小さいのも全然通らなくなってしまいます。
《黒木報告》(15)RLH-1細胞移植ch.P.の組織像:
(顕微鏡写真を呈示) 組織標本用に腫瘤を剔出したものは、動物番号5、400万移植後3日目、無処置ハムスター右側ch.P.です。 組織像は、中心部にNecrosisがあり、その周囲に帯状に移植細胞の増殖巣があります。その外側にはハムスターの反応細胞が取り囲んでいます。このような像は皮下移植(同種)の初期にみられる像であり、すでに1936年Rossleによって記載されています。移植細胞は、核に大小不同があり、細胞質は空胞が多く、foamy and reticulatedの状態です。 又、分裂像らしきものも、ところどころにみられます。 以上で移植した細胞がch.P.内で増殖していることは明らかですが、腫瘍性については何も云えません。 今後コーチゾン処置動物、10日頃の組織像をみる必要があると思っています。 (なおVan Gieson、PAS染色では、移植された細胞がPAS(+)の他、特別な知見は得られなかった)。
(16)1,000〜1,000,000個RLH-1移植:
(17)diploid celll strainのch.P.内移植性:
細胞:diploid strain、18-24transfer 1,000.000cells。 動物:ゴールデンハムスター90〜100g。 結果:移植後2日目2〜5mm、5日目2〜4mmにregress、7日目4/8は消失・残りは<1〜2mm、12日目全て消失。 「うめぐさ」Ratの細胞は2nを維持し易いということはないでしょうか。RLCもそうだし、その他最近文献が二つ続けて出ていますが。 (1)Peturson,G.,Exp.Cell Res.33,60-67,1964 (2)Krooth,R.S. et al..J.NCI.32,1031-1041,1964
[勝田]RLC系の細胞は増殖がおそくてね。接種するほど沢山揃えるのが大変なのです。片端からなぎさに使っているし・・・。Hamster pouchに入れてtumorを作る正常細胞と腫瘍細胞の境界はどの位でしたっけ。 [黒木]10,000ケです。10,000ケで2/6にtumorを作れば陽性ということにしています。 [安村]cortisoneをさしつづければHamster pouchで継代できるでしょう。 [勝田]一発でつかない場合は、あとの処理で変るということもあるので好ましくないですね。今はとにかくRLH-2に期待しています。
《佐藤報告》
月報9406に記載した図表のデータから
次に、呑竜ラットにDABを飼食させて後、組織培養をした(図を呈示)。 DAB投与量の増加と共に箒星状細胞がまづ現れ、次いで上皮様シートが現れる。次第に箒星状細胞成分が減少して、上皮様肝細胞の現れる率が多くなるが、この肝細胞?はDABの増殖誘導によって現われるものに比して、やや大小不同で且つ重層して現われる点が異なる。本実験はin vivo←DABを経時的に組織培養する実験シリーズのNo.1 Groupで目下第2シリーズを開始している。 追記:観察結果を30日〜40日に設定したのは上皮様細胞が増殖を始める時期が前記日数の当りで終了するからである。従って従来の増殖誘導実験で上皮様細胞の増殖する日より遅れる。
[勝田]うちでは、以前のようなやり方だと、早期に実験に使えないので、このごろは若いラッテの肝をトリプシン消化して初代培養を作っていますが、これだと色々な細胞が混在していて困ります。 [佐藤]Rat serumは株になった細胞にも害がありますね。1ケ月位すると馴れてきますが・・・。 [安村]動物では肝癌は全体にできるのですか。 [佐藤]いや、病巣のように出来ます。 [安村]それでは動物から前癌状態のところを取っているつもりでも、その病巣に当らないということもあるのではありませんか。 [佐藤]3'methylDABの耐性とDABの耐性とは共通耐性でしょうか。どうでしょう。 [勝田]それはやってみなくては判らないでしょう。君は一つの材料から、Control、DAB、3'methylDABと三つの株を作ったのがあるでしょう。あれで耐性をみたらどうですか。 [佐藤]あれは初期4日間だけの添加ですから、余り比較にならないと思います。 [勝田]培養内のDAB消費は、他のtumorでもやってみましたか。たとえば吉田肉腫、武田肉腫、その他の要因で作ったラッテのtumorですが。 [佐藤]未だです。DABを消費しない細胞に、本当にDAB耐性があるのかどうか問題ですが、DAB10μg/ml連続添加の培養は、培地からDABを抜くと急激に細胞が増殖し、多核細胞なども沢山みられます。 [勝田]さっきのグラフで見ると、DAB消費の態度が割にはっきり2種類に分れていますね。AH-7974などもしらべてみたらどうですか。DAB肝癌で、しかもAH-130と性質が反対のところがありますから。それからDABを食わせている動物の肝を培養して、生えてくる細胞が正常か正常でないか、判定する方法がもっと他にもないものですかね・・・。DABを喰わせているラッテのseriesは1系列だけですか。 [佐藤]いや、あとを追かけてやっています。m-DABはやっていませんが。 [勝田]君の細胞も映画をとってみると良いね。ところで例の箒星状の細胞ですが、あれは一体なんでしょう。どんなorganを培養したとき出てくるか、皆で経験したところをあげてみましょう。Horse bone marrow、spleen、Rat lung、liver、(peritoneal lining cellsも似ている)・・・。これらの臓器に共通したものとして考えると、案外血管の内被細胞ではないでしょうかね。 [安村]サル腎で、無蛋白にして条件が悪くなったとき出てきますね。 [勝田]同じ細胞が出てくるのか、それとも違う細胞なのだが、或条件下で、似たようなこんな形になるのか、判らないですね。
《伊藤報告》
i)etkマウスwhole Embryoの培養。此れは、前報で報告しました如く、容易で、又継代も出来、現在第3代に及んで居ます。 ii)生後12日目マウスの腎の培養。此れも又、Trypsinizeにて細胞浮遊液を作り、培養しましたが同様に容易で、第2代えの継代も出来て居ます。 此等2種(腎細胞を得る動物のageについては尚検討の余地があると考えます。)の細胞にactinomycinを加えて、変化を観たいと思っていますが、濃度をいくら位にすべきか、今検討中です。細胞をやっつけはしないが、或程度増殖をおさえるといった濃度をえらんで加えてみたいと考えて居ます。 一方細胞の方は、whole Embryo、kidney全部という事ですので、種々のoriginの細胞が混っている事は確かですが、まずは、このmixed populationそのままで、Actinomycinを加え、そのうち、cloneがとれる様になれば、それも使ってみる積りです。
[伊藤]腎を培養するのにマウスの年齢はどの位まで使えますか。 [安村]Adultで大丈夫です。但し第5〜6代位で増殖が落ちますから気をつける必要があります。 [黒木]DABのように一度食われて肝に行ってから働くものより、この発癌剤のように直接働くものの方が培養で試すには良いと思います。ただマウスは培養株になり易く、且、悪性化しやすいらしいから、折角培養で発癌させても、発癌の促進ということだけになる可能性もありますので、なるべく早い時期に勝負を決めないと問題があると思います。 [勝田]添加濃度をどう決めますか。 [伊藤]以前にL株で濃度をしらべたデータがありますから、それを参考にして決めようと思います。 [勝田]細胞によって影響がかなりちがうし、殊に株でない細胞は弱いから、しらべてみた方がよいでしょう。あらかじめね。以前に寺山氏がこの席上でDABを使うにしても、細胞がこわれない濃度ではなく、少しこわれる位の濃度に入れないと発癌しないだろうと云われましたが、今考えるとその意見は正しかったと思います。
《奥村報告》
この実験は無蛋白培地への順応亜株を得るには、必ずしも効率のより方法とは云えないが、血清濃度の低下による細胞のselectionを見るのに都合がよいと思う。 以前に伝研との共同研究でHeLa、Lの各株細胞が無蛋白培地に順応するときの状態をkaryologicalに分析を試みたことがあるが、その時は途中経過(順応の)を正確に把握する事が出来なかった。今回はコロニー形成の各時期で分析を行い、e.o.p.の低下が特定の型のselectされる結果によるものかどうか、あるいは母集団では見られなかった型の細胞が出現してくるのかどうかを分析したいと考えている。勿論、この種の実験を進行させる場合には、チューブや瓶を用いる時と、いくつかの条件の相異はあるが、当面血清濃度と核型との関係を分析することを意図している。
[伊藤]Directに働いているのかどうか・・・。 [奥村]全然判りませんが、一応細胞内にとり込まれて、そこでどうなるのかH3などを使ってやってみたいと思っています。 [勝田]ホルモンの溶剤は? [奥村]プロピレン・グライコールで溶かしました。10,000μg/ml位まで溶けます。培養に入れる位までうすめると毒性はほとんどありません。 [勝田]先の話になりますが、発癌に使う場合は、片方のホルモンだけでは駄目ではないかと思います。つまり一方をうすく入れて、他方をぐっと多くするような、unbalanceな状態が必要と思っています。 [山田]ホルモンはどうか知りませんが、薬品の影響の場合は細胞数にも大分関係があります。だから少数細胞のplating efficiencyで見た結果が、細胞数を多くした時のに一致するかどうか、問題がありますね。
《土井田報告》
(1)おしつぶし法:最終濃度10-6乗Mのcolchicineで37℃4時間処理後、細胞を集め、3倍稀釋のwarmed LHで10分処理、2,000rpmで5分遠沈、上清を棄て、細胞をLH1:dahlia色素1の混液にsuspendし、5分染色後おしつぶした。 (2)空気乾燥法:常法により行った。先づ(1)と同様濃度のcolchicine処理、水処理を行ったあと、細胞を遠沈し、上清をのぞき、これに固定液(methanol3:acetic acid1)を加え、30分放置後細胞をresuspend、遠沈後上清をすて、適量の新しい固定液を加え細胞を懸濁した。氷室にて前以って冷やしたスライドグラス上に細胞懸濁液をたらし、直ちにアルコールランプ上でゆるやかに乾燥した。スライドを1日放置したあと、ギムザ氏液で染色し、バルサム包埋後検鏡した。 (結果) in vitroで継代した細胞は(2)の方法では容易に破裂するので、先づ(1)の方法で作成した標本を観察したところ分裂像は全くみられなかった。しかるに(2)の方法で作成した標本で分裂像を認めた。現在までにみた細胞数は少ないが、結果は66〜70本で69に最頻数をもつように思われる。核型分析はまだ行っていないが、meta-centric、sub-metacentricのものに比してacro-centricもしくはtelocentricのものが少ない。染色体数70を有する細胞について調べたところ、acrocentricもしくはtelocentric chromosomeは僅かに15本であり、残りのものはすべてmeta-かsubmeta-centric chromosomesであった。 染色体の大きさは連続的であり、これまでのところ特記すべき特徴を有する染色体は認められていない。
(このほか、放射線を浴びたヒトの白血球の核型について、1)原爆患者、2)職業的に放射線を浴びた人、3)治療で浴びた人、についての研究データを発表。)
[土井田]毎日250r宛かけて、総量4,000rになるまでかけます。そのあとどうなって行くかを見たいのですが、1クール終って癒ってしまうともう患者がきてくれないので困ります。 [勝田]健康人のデータが少なすぎますね。もっと数をふやすのと同時に、同一の人間について長期間、たとえば5年おきという具合に長くしらべることも必要でしょう。君自身のも材料にしたらいいでしょう。 [土井田]次回にはマウスの白血球について報告します。ヒトの場合はPHAを入れて3日位で分裂像が見られますが、マウスは1週間位しないと見られません。 [勝田]培養それ自体による染色体の数や形の変化、ということについては? [土井田]このごろはむしろ培養によって変ることはない、と云われています。むしろBone marrowの方が異常のものが多いのではないでしょうか。染色体のならべ方については、大きい方から1〜5番目、小さいほうからいくつかを見ていて途中は見ておりません。
《杉 報告》
接種細胞数が多過ぎたため増殖率はよくなかった。しかもこの濃度では対照群に比べ各群とも幾分増殖が悪く、細胞数は2日目でcont、s、t、t+sの順、7日目でcont、t→s、s→s、s→t、t+s、t→tの順、7日目でcont、t→s、s→s、t+s、s→t、t→tの順であった。(増殖曲線の図を呈示) 只一回の実験でしかも接種細胞数が多きに過ぎたことなどで、これから結論は出せないが、以上の実験条件ではstilbestrol、teststerone共に増殖抑制に働いており、特にtestosteroneに於いて著しいといえる。
《山田報告》
前号にかいたように、対数期の細胞を1コづつばらばらにして炭酸ガスフラン器のなかで48時間培養しますと、2〜8個、大体が4コのコロニーとなります。この段階でH3-ウリジンの15分間のとりこみをオートラジオグラフィでー調べますと、コロニーによってかなりとりこみに違いのあることがわかります。ウリジンは大部分がRNAにとりこまれ、一部チミジン又はデオキシンシチジンを経てDNAに入るのですが、10-5M程度の非放射性チミジンを加えておくと、ほとんど全部がRNAに入ると考えてさしつかえありません。このコロニーによるRNA合成度のちがいは(1)細胞集団中にRNA合成度についてかなり変化した細胞(増殖度のことなる?)が存在している、(2)増殖サイクル中にRNA合成度の変動がある、(3)その他技術的な変動、などの原因が考えられます。そのうちまづ予想されるものとして(2)の可能性を調べてみました。 方法は5分1コマで顕微鏡映画を撮影し、少くとも24時間うつした後、すぐに15分間H3ウリジンをとりこませ、これをオートラジオグラフィーにかけて、核、および核小体上の銀粒子数を数えました。個々の細胞は映画の分析により、細胞質分裂(Cytokinesis)後の時間を算定しておきます。 結果(表を呈示)は、分裂後8時間までは合成度が一定ですが、8〜10(8〜12)時間に合成度が高まり、その後ふたたびおちて、18〜20時間にもう一度ピークがあり、以後分裂に入ります。HeLaS3細胞は10%コウシ血清を加えたEagleMEMで培養した場合、G1期12〜13時間、S期6時間、G24時間という数字ですから、はじめのRNA合成度のピークはDNA合成の直前で、DNA合成がはじまると一旦RNA合成度が落ち、G2に入るとふたたびRNA合成がさかんになると考えられます。 分裂期のRNA合成についてはTaylorはじめ多くの人が報告していますが、一般的にいうと、Metaphase、AnaphaseではRNA合成は停止し、この時期に核内にあったRNAは細胞質中へ放出されるのです。私はこの現象が次のサイクルのTriggerになると考えています。 表の個々の値は平均して10コ、ある場合には5〜6コの平均をとっているわけですから、かなりの変動があります。しかし数学的にみても8〜10、18〜20時間のピークの存在は明らかです。またコロニー別にしらべた別の実験で、5日間培養して32コになったコロニーのRNA合成度を調べたところ、丁度このコロニーの構成細胞の大部分(28コ)が分裂後10〜20時間の位置にあり、そのデータから、DNA合成によるRNA合成の抑制を明確につかまえることができました。
[勝田]蛋白合成の方を早く見たいね。 [山田]今やっています。ただアミノ酸のとり込みの場合は後処置に困ります。水で洗えば溶けるものもあるだろうし、アルコールでboilするというのがありますがどうでしょう。Lys*、Phe*を入れて核と細胞質の比をとってみましたが、今のところ差が出ていません。Lys*はHistoneのつもりです。核に限ってみると、Pheの方がむしろ狭いピークです。HistoneをHClで処理して抜いてみたらどうかと思っています。 [関口]ActinomycinDの実験はやりましたか。 [山田]未だです。ActinomycinDとMitomycinを組合せてやるつもりです。案外このような小さな単位でColonyをやるときれいなdataが出るのではないかと思います。 [勝田]Generation timeの長い細胞の方が精密なデータが得られるかしら・・・。 [山田]寺島が云っているが、Mitosisを基準にするとG2、Sに関してはよく判るが、G1についてはよく判りません。とにかく映画で撮った細胞と標本にしたのと結びつけるのに苦労しました。映画をとったあと、すぐケンビ鏡のレンズ位置にダイヤモンドペンのつく装置を使って丸印をつけました。
《安村報告》
1-2. ちのみマウス脳内接種による結果: 細胞はFRUKTO-Eg株14代めのもの、接種細胞数は5,000、1,562、500、156、生後24hrs.マウスの脳内接種、結果はどの細胞数でもほぼ20日前後で5/5あるいは4/5死亡です。 脳内には0.5mlの注射器で少しながめのマントー針(3cm)をつかいます。いわゆる2段針と称するツベルクリン用の針はよくありません。深めにさして液もれをさせないこと、接種量は0.02ml。 *この腫瘍を乳鉢ですりつぶし、Eagle+Biotin 0.25mg/l(Eg-61培地とよびます)で稀釋して次代へマウス接種とともにin vitroにもどします。マウスでできたtumorを継代していきます。F-EgM2→F-EgM3→F-EgM4・・・・というように。M2というのはマウス継代数2ということです。現在までのデータではF-EgM11までin vitroにEg-61培地に復元できました。F-EgM11は40代近く継代されております。マウス継代はこの11代でうちきり。 1-3. 脳内と皮下の比較(F-EgM2細胞): 生後7日のマウスの脳内に6,000個、皮下に30、000個接種しました。脳内は16〜29日で4/6死亡し、皮下は0/4でした。 1-4. マウス年齢による違い(脳内接種): 生後1〜2日は25/26、生後5日は10/11、生後8〜9日では10/20の死亡率でした。 1-5-1. 脳内と皮下の比較では脳内がすぐれていることがわかります。皮下接種ではちのみ24時間以内のものでも最低5万の細胞数がないと腫瘍をつくりません。ときに2万5000でできたことがありましたが。 1-5-2. マウスの年齢の点では7日めまでは脳内のばあい、あまり影響がありません。7日をすぎると感度がおちはじめます。33日になりますとますますおちてしまいます。たとえば細胞数2,800で5日のマウスで、14、14、15と死に3/4の腫瘍率ですが、33日のマウスは16日という具合で1/5の率です。 1-5-3. 果糖肉腫細胞はマウス由来ですから、ホモの移植法です。実験につかった細胞はマウス継代が可能ですし、in vitroにも、少くともマウス継代11代までのものまで実験したかぎりでは、わりあいかんたんにOriginalにつかっていた合成培地にもどります。ただし、マウス継代がすすむにつれてin vitroにもどした初代のたちあがりがいくらか悪くなってきます。そんなわけですから、少数細胞ではホモの脳内接種が移植法としてはすぐれていると考えます。(わたしの果糖肉腫細胞ではと限定したほうが異議がでなくてよいでしょうが)。ホモの移植法脳内ではtumorをつくるが、皮下ではつくらないという悪性細胞があろうとは考えにくい、無処置の動物でね。
[奥村]Sabinのところも今のところ追試していない。自分でも自信をもっていないようです。
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