《勝田報告》A)発癌実験
ギムザ染色は、フォルマリン固定では顆粒外物質がpurplish red(アヅール顆粒)に染まるが、メタノール固定では染まらない。 マロリー染色では、顆粒内容はpinkish redに染まる。 PAS(メタノール固定)は、顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は若干(+)で(ポリサッカライド、グリコーゲン)の存在を示唆する。 ピロニン染色では顆粒内容はPink(RNA)に、顆粒膜はPinkish red(RNA)、顆粒外物質はRed granules(RNA)に染まる。 SudamIIIは(−)であるが脂肪顆粒が若干見られる。 チオニン(フォルマリン固定)では顆粒内容は(−)、顆粒膜と顆粒外物質は(+)である。 Metachromasia(Hyaluronic acid,chondroitin sulfate)は(−)である。 酸性フォスファターゼは顆粒内容と顆粒外物質は(−)、顆粒膜は(+)。 Fluorochrome(アクリジン・オレンジ)で染めると顆粒内容が緑〜黄緑に染まるがDNAとは思われない。顆粒外物質は赤く染まる(RNA or degradedDNA)。 抗ラッテglobulin家兎血清-γ-globulinによる蛍光抗体で染めると(直接法)、顆粒膜と顆粒外物質は染まらないが、顆粒内物質は(+)である。これはglobulinの存在を思わせる。(但し蛍光抗体で光るのはRTM-1と-2だけです。 電顕では顆粒膜は膜の表面にribosome様の粒子がついている。
:質疑応答
[勝田]死ぬとこわれてしまうのか、死んだままという細胞は余り目につきません。 [黒木]位相差で見える顆粒と、電顕でみてリボゾームがまわりにくっついている顆粒と、蛍光抗体法で光るのと、皆同一の顆粒ですか。 [勝田]同じものだと思います。 [高木]この細胞ではミトコンドリアは桿状ですか。 [勝田]桿状です。 [高木]顆粒をもったまま分裂し、培養と共に顆粒が増えるのですね。 [勝田]そうです。培養と共に増えるのは一寸不思議ですが・・・。 [高木]いや、私の膵臓の株も培養につれて糖の蓄積がふえます。 [勝田]我々はこれまで細胞の内部にばかり多く目を向けてきましたが、これからは細胞外の細胞間物質についてもよく考える必要があると思います。こんど訪れた印度HyderabadのDr.Bhargavaはラッテ肝のsliceでmetabolismをしらべた時と、free cell suspensionにしてしらべた時とはmetabolismのちがうことを見出し、細胞表面或は細胞間の物質の失われることによる、と考えていました。高木君のJTC-4もあのころとしてはCollagenを作る能力を維持しているFibroblastの株として唯一のものでしたが、あれも継代期間が永いし、うちの色々なdiploidの株も継代期間が永い。余り頻ぱんにsubcultureして、細胞間物質を除いてしまうと、細胞が脱分化して変化しやすくなるのではないでしょうか。この胸腺の株にしても初代は半年もおいているのですから・・・。なお、映画で分裂をみていると、胸腺の細胞はhematopoiesisのような分裂をやっているのではないかと想像されます。 [黒木]その分裂しない方が機能と結びつくのではありませんか。 [勝田]そうかも知れません。とにかくもっと長期間映画をとりつづけてみます。なおこれまでのin vitroの抗体産生のexp.はin vivoで抗原を与えておいてから細胞をとり出してin vitroに移し、そこで抗体産生をしらべています。さっき蛍光抗体法で光らなかったとお話したRTM-3、-4のような株こそ、in vitroでの抗体産生Exp.に使えるのではないかと期待しています。 [奥村]New York Academy of ScienceのBieseleの論文で、trypsinを使って継代すると染色体数が変るというのがありますね。 [黒木]Continuous labellingをやってみれば分裂するのとしないのと判るでしょう。 [勝田]映画の方が早いですね。 [佐藤]in vitroの抗体産生のexp.のとき、培地の血清に対する抗体はどうなるのでしょう。こういう抗原過剰の場合・・・。 [勝田]この細胞に直接抗原を作用させても、抗体を作るかどうかは疑問です。むしろ、中間にリンパ球とか、組織球、白血球のようなものが介在する可能性の方が大きいでしょう。 [奥村]他にああいう顆粒を持った細胞というのは報告されていませんか。 [勝田]無いですね。このあとで気がついたのですが、蛍光抗体法で見たとき対照ラッテ肝の株を使ったら、そのなかにときたま胸腺と同じように顆粒の光る細胞が混っている。位相差でも胸腺のとそっくりで、おそらく網内系の細胞、とくにKupfferの星細胞と思います。だから網内系の細胞はみんな抗体を作る能力を持っているということも考えられます。しかし蛍光抗体法では特異性を余り強く主張できないから、いま細胞をためていますが、これをすりつぶして、電気泳動でγ-globulinを分劃証明しようと思っています。ただしこの細胞は増殖がおそいので、ためるのが大変です。 [高木]早く増殖するようになると機能がなくなってしまっているでしょうね。 [勝田]その通り。
《黒木報告》
炭酸ガスフランキの故障、Ratの入手難で現在のところ、まだ発癌実験に手をつけておりませんので、今回は吉田肉腫のコロニー形成法についての二三のデータを示します。 吉田肉腫は御承知のようにsuspendの状態で増殖し、ガラス壁に附着することはありません。このためplatingが出来なかった訳ですが、寒天中に植えこむことにより、ある程度コロニーを作らせることが出来るようになった訳です。 寒天はDifcoのBacto agarをアルコール・エーテルで脱脂し、0.3%のtryptose phosphate broth中に5%にとかし、Autoclave EagleMEM培地で1%、0.5%稀釋します。通常下側の寒天層は1%、上方には細胞を浮遊させた0.5%の寒天をおきます。炭酸ガスフランキにincubateし、コロニーを散乱光でみてcountします。
#1(2,000cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
#2(200cells/dish、BS20%、EagleMEM、2mMPyruvate)
*1.0x、1.5x、2.0xはアミノ酸、Vitaminを1.0x、1.5x、2.0x としたもの。 :質疑応答:
[高木]なぜ寒天を使ったのですか。 [黒木]吉田肉腫はsuspensionのままで増殖するからです。 [奥村]Puckが重曹量とpHとの関連のcurveを発表しています。それからExptl.Cell Res.に立体的にCell coloniesを作らせるというのが出ていましたね。細胞を混ぜるにしては寒天0.5%というのは濃すぎませんか。 [黒木]0.3%もやってみましたが同じでした。あとで寒天を包埋して切ってみましたら、細胞は居ましたが、バラバラでした。 [勝田]本当のpure cloneを作るのに、英国の連中がやっている方法で、流パラの中へ、培養液にsuspendしたcell suspensionを1滴宛おとし、細胞1ケ居るのを探して吸い取るという方法がありましたね。液の濃縮を防ぐ上で非常に良い方法だと思います。
《佐藤報告》
D1は同様にDABを10μg投与したが、後、比較的長い間DABをのぞいて後、検索したものであるが、D2と同様DABの消耗の少いことを期待したが、現在の所予想に反して高い値を示している。 D.C.53はDABで57日飼育したラッテ肝よりとりだした株であるがラッテ肝細胞群のDAB吸収よりやや少い程度である。更に長期飼育の株ができれば、更に下がると予想される。 C44はnew bornラッテ肝をPrimary Cultureし直ちにDABを投与し変性の度合に応じてDABを除去しながらselectionして取り出した株である。 AH-130動物株の細胞をnew born ratsの脳内に入れて腫瘍死するまでの日数と、JTC-2細胞を同様にして脳内接種した場合の比較をした。接種細胞数10ケ、100ケ、1、000ケのどの群においても延命日数はJTC-2の方が長かった。また顕微鏡的には前者が浸潤性であるに反し、後者は脳室内に膨張性に増殖する点、簡単に言えば培養によって良性化している。併し、後者の脳をすりつぶして生後32日目の呑竜ラッテ腹腔内に入れると明かに腹水腫瘍となって死亡する。このときの像は大網或は腹壁に結節が認められる点、AH-130 originalと異る。
:質疑応答:
[佐藤]ケンビ鏡でみた範囲では増えている感じです。 [勝田]DABを入れたり抜いたりすることが、どうしてDAB摂取量の低下に効果があるのだろう。 [佐藤]色々な問題を含んでいると思いますので、また検討してみるつもりです。 [勝田]こういう変化が可逆性が不可逆性が、問題ですね。DAB肝癌では肝癌になってしまうとDABを代謝する酵素がなくなってしまう、と寺山氏が云って居られましたが、どういう方法でそれをしらべているのでしょう。 [佐藤]知りませんでした。 [勝田]腹がふくれる−と云われたが、それは癌細胞のふえたことですか、腹水の水がたまったことですか。 [佐藤]癌細胞がふえるのですが・・・。培養株のは腹水中に浮遊しないで、腹壁にtumorを作るのではないでしょうか。脳内でも脳組織の内部に侵入しないで、まわりにくっついています。 [勝田]JTC-1、-2の復元接種をそんなにやる目的は・・・。 [佐藤]いま発癌実験に使っている培地が腫瘍性を落すということと関係があるかどうかをしらべたかったのです。結果としては、腫瘍性は低下しないが良性腫瘍に傾くような気がします。 [奥村]勝田班長のところで以前にJTC-1、-2の腫瘍性が低下した、というデータがありましたね。 [勝田]それはデータにするほど沢山のラッテに入れたのではありません。ただ腹腔に復元して、死ぬ筈のものが死ななくなった、ということです。 [高井]脳内接種は脳室内に入れるのが本当なのですか。 [佐藤]いや、狙ったわけではなく、結果としてそこで増えていたのです。 [奥村]接種時のテクニックにもよるのではないでしょうか。 [黒木]若し培地のselectionによって腫瘍性が落ちるのならば、その先どういう培地にすれば良いのですか。 [佐藤]血清をラッテにするとか、色々考えなくてはならないでしょう。でも実際にはそう低下させるような培地ではないと思います。 ・・ガヤガヤ(以後同時に何人も話し出したので速記者がこう記して以後空白)・・ 《高井報告》
一方、対照群の方も、増殖はかなり落ちて来ていまして、下の写真の如く、細胞は割に少ない様ですが、繊維様の突起が極めて豊富であり、一見してActinomycin処理群の細胞とは著明な違いがあります。しかし乍ら、よく探しますと対照群の方でも処理群の細胞に似た様な細胞が少数乍ら、所々に見つかります。 従ってActinomycin処理群に見出された細胞の由来、乃至成因に関して:i)元々あった細胞が、selectされて残ったのか、ii)元々あった細胞から変化して生じたのか、更に、それらのselection乃至mutationに対して、Actinomycinが何らかの役割を演じていたのか否か、については、今の所何とも言えないと思います。又、この現象の再現性についても、今後の追求が必要です。
:質疑応答:
[高井]ないようです。 [勝田]やっておく必要がありますね。それからEvansらのデータで、mouse embryoの組織だと3月以内にみな癌化してしまうと云いますから・・・。 [高井]培養内の経過をもっと早くしなくてはなりませんね。 [勝田]染色体の標本を作る練習もしておくと良いですね。それから材料としてFibroblastだけうまく採るということ・・・。何か良い方法がないですかね。培地にはCEEを少し加えると良いでしょう。 [高井]今までの例では、培養以前の、−皮下組織を採る−という段階がうまく行きません。 [奥村]どうしてかなぁ。時間があったらまたお教えしましょう。 [勝田]前に伊藤君が印度のBhargavaたちの方法をまねて、肝実質細胞のsuspensionを作ろうとしてうまく行かないで困っていたようですが、こんど実際にやるところを見てきましたから、紹介しましょう。(Exp.Cell.Res.,27:453-467,1962) 2〜15月rat(頭を叩いて殺し、すぐ使用) →すぐ腹を開き、門脈から環流(心のとまらぬ内)環流液は0.027MSodium citrate in Ca-free Lockeを冷やしたもの→肝は見る見る白くなって行く →50ml環流したところで肝を切り取り →(必要なら環流液で表面を洗い)濾紙で表面の液を除き秤量 →シャーレの中で細切(ハサミ) →0.25M(8.5%)Sucrose6mlにLiverを1gの比でsucrose液を加え →手製ホモゲナイザー(管の内径は2.15cm、ゴム栓は赤い軟か目のゴム栓、上端の径は2.2cmとなっているがこれは数値では表現できない由)で、手で5〜6回ゆっくり強く上下してすりつぶす →金属メッシュ(200mesh)で濾す。メッシュは丸めただけのものでconnective tissueが内に残る(ガラス棒を沿えると濾過が早い) →さらにsucroseで洗い →200G(600rpm)1〜2分 →free nucleiは浮き、living parenchymal cellsは沈む →再びsucroseで洗う(他のbafferで洗っても良い) →実験。
《奥村報告》A.ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響
次いで培養には培地として、YLE、LE、N16、NO.199など用いてみたが中でもNO.199(塩類組成がHanks)が最も良好で、血清は牛血清、仔牛血清、ウサギ血清をテストした結果仔牛血清が比較的よく、特に2〜3週間、あるいはそれ以上培養を続けるのに一番効果的であった。しかし、同じ仔牛血清でもlotによってかなり差があって8lotsをテストして、うち2lotsだけがよく、他のlotsは普通の組織(一般に用いられるKidney、Lungなど)の培養には十分使い得るし、HeLa-S3細胞でのplatingには80%、又はそれ以上のe.o.p.を示したが内膜細胞にはあまりよくなかった。 更に少数細胞の培養条件をしらべ、NO.199にcheckした仔牛血清を20%に添加(30%、時には40%でも可)した培地を用い、細胞数を10,000、5,000、1,000ケ/mlの段階で植え込み、1,000/mlでcolonyが1〜3ケ程度出来てくる条件を見出した。それは培地中の重曹を0.07〜0,1%に加え、培養開始後24〜48hrs.は炭酸ガスを10〜15%時には8%(フランキ内の炭酸ガス量)の状態におき、その後5〜7%に減少させる。勿論この種の培養条件は未だ決定的なものではないが、要するに培養初期はpH7.2〜7.4程度に保ち、あとでpH7.8前後に移す事が成功を高めるための1つのコツであることを知り、以来少数細胞を培養するときにはこの条件にしている。 ホルモンの投与実験:Progesterone及びEstradiolを用い、内膜細胞の増殖促進を目標にいろいろの濃度をしらべ、植え込み細胞数が5,000〜10,000ケ/ml(他の細胞数2〜30,000ケ/ml、又は500〜1,000/mlの場合も畧同様の結果)でProgesteroneは0.1μg/ml、Estradiolは0.01μg/mlが夫々他の濃度に比べて、より増殖を促進することを見出した。 又e.o.p.もホルモンを加えない細胞よりも高いことがわかり、次いでチューブを用いて増殖度を測定すると、controlの細胞よりもホルモンを添加したときの方が1.5〜4倍程度高く、しかも3回の実験結果からみて、内膜細胞の増殖へのホルモンの促進効果もProgesteroneとEstradiolとで若干作用機序が異なっていることを示唆するような傾向を得た。そこで、次にH3-Progesterone及びH3-Estradiolを用いて細胞内へのuptakeをみると、JTC-4細胞では10%前後の細胞にgrains(autoradiographyによる)が存在したのに対し、内膜細胞では30〜50%(ラベル-ホルモンを培地に加えて後1週間位)、ホルモン投与後10日目には15〜25%に減少していた。 つまり、JTC-4細胞へのホルモンのuptakeは常に畧10%程度であるが、内膜細胞では培養期間中に取り込み細胞の頻度分布に極めて大きな変動があるらしい。なお、この実験は現在続けて進行させているので近いうちに明かな傾向を知ることが出来るであろう。以上、今年度の最後の班会議で今まで掴み得たことを報告した。
しかし、染色体上に小さな、しかも出来るだけ大きさの均一なgrainをつくることがむづかしく、ここ5ケ月間その条件を見出しつつある。少くとも、私のところで検討している範囲では低濃度のH3-TdRを長時間作用させるよりは高濃度(2μC/ml程度)で短時間作用させる方が染色体の拡がり、grainの出かたなどから比較的よい結果を得ている。この他にexposureの条件も問題があるし、乳剤なども十分検討の余地があって、未だ最適条件をみつけていないが、是非とも、はやくtechniqueを確立したい思いで奮闘中です。 :質疑応答:
[奥村]局所のpHを測ると、酵素活性の強い時は8.0位で低い時は7.2位となっています。肥厚した時が8.0位というわけです。 [高井]内膜細胞にラベルするときはContinuous labellingですか? [奥村]そうです。 [勝田]H3だとすごい内部照射で、その影響が出る可能性も考えなくてはならないでしょう。崩壊するときすごい放射能を出すという話もききましたが・・・。 [奥村]Estradiolは0.05μC/0.01μg/ml、Progesteroneは少し多いのですが、0.2μC/0.1μg/mlで使っています。 [高木]Autographyで実際にとりこんでいるgrainsは核当りいくつ位ですか。 [奥村]Max.100位、Min.10位ですが、back groundがとても多くて定量的に物を云えません。この次はcoldのhormoneで洗ってちゃんとやります。 [高井]細胞内のどういうところに入っていますか。 [奥村]ほとんど細胞質です。核に少し入っている像もみましたが、これだけでは何とも云えません。 [勝田]問題はホルモンが本当に取込まれているのかどうか、蛋白にでも結付いているのかどうか、培地内のホルモンをcoldにおきかえて、しばらく培養してからautographyなり生化学分析なりをやって、しらべてみる必要がありますね。 [奥村]この問題は今年充分にやってみる予定です。ただ細胞が沢山とれませんので実験がむずかしいんです。それから染色体当りのgrain数はどの位が良いかというと、大体5〜6コ位でしょうね。 [勝田]染色体数の少くなった細胞というのは、染色体がその代り大きくなっているのではありませんか。 [奥村]いいえ、小さいのもあります。ラベルされた染色体は、どうもよく枝が分れません。Tritiumのせいかと思います。 [勝田]Coldでもthymidineを沢山入れると分裂を抑えるという報告がありますが、TdRによる阻害と言うことも考えられませんか。 [奥村]この濃度では無いと思います。それから、さっきの高井班員のFibroblastsですが、生後24hrs.位のハムスターですと、1腹分のハムスターから5万個/mlで25ml位とれます。皮膚を引張りすぎないことが大切で、透明な膜が張っているのをピンセットで捲きとって室温で2hrs.スターラーでトリプシン消化します。 [勝田]あまり難しかったら心臓を母培養して、出てくるFibroblastsを使う手もありますね。 《高木報告》
つまりorgan cultureによる発癌実験である。この方面の研究でまず眼を引くのはLasnitzkiのprostateにMethylcholanthreneを作用させた実験である。最近のCancer Researchにも彼は発表していたが、そのhistological findingをみるとき、controlと比較して作用群にみられるepithelial hyperplasiaは如何にも上皮性細胞の癌化過程を思わしめるものがある。 私はこれからしばらくの間mouseまたはrat skin←→4NQOのsystemで仕事を進めてみたいと思っている。動物のskinを培養する事が先決であるが、skinの培養についてはこれまでMcGowan、Maeyer及びJonesと云った人々の仕事がある。これらの人々の培養法及び用いた組織のageなどはそれぞれ異なるけれ共いずれも一応一週間から四週間位まで観察をしている。従って三週間位幼若動物のskinを培養することは、方法を検討するならば不可能ではないと考える。 その方法として、 培養方法:1)Teflon ringを用い、nylon meshの上に組織片をのせた従来行って来た方法。2)agar mediumの上に組織片をのせるwolffなどの行っている方法を考慮している。 培地:いろいろ検討の余地があると思うけれど、basal mediaとして、1)3xEagle's medium。2)1xEagle's medium+10%CEE+10%Serum。3)LYT(又はLT)medium。を検討の予定である。なおL-15mediumもpHの点できわめてstableであるのでこれについても検討したい。 (Am.J.Hyg.,75:173-180,1963) gas phase:95〜97%酸素+5〜3%炭酸ガスで行う予定である。なお液体培地を用いる場合bubblingさせたいと思うが、現段階では一寸実施が困難である。 4NQO:0.25%benjeneにとかしたものを用いる。他の発癌剤に比較して溶解度に対する心配はない。作用濃度は10-4乗M〜10-5乗Mを考えている。
:質疑応答:
次に今年度の具体的な研究計画について、これまで話を伺ってない方に伺いたいと思います。 [高木]この1年はorgan cultureを主体とした仕事をやって行きたいと思っています。そして発癌実験もorgan cultureで、4NQ-Oと若いラッテかマウスの皮膚−という組合せをやり、それ以外の仕事としては、正常組織のorgan culture或は2種類の組織の併置培養をやりたいと思います。 [奥村]昆虫では細胞のgenic functionがホルモンで変ることを報告されていますが、私は家兎のendometriumを使って、progesteroneやestradiolの影響、特にgrowthに対する影響をしらべたいと思っています。またhormone-dependent、-independentの細胞を作り、それを発癌剤とも組合せて影響をみたいと思っています。 [勝田]女性々組織細胞のホルモンによる発癌exp.として私が可能性ありと思う方法は或期間progesteroneを次第に増量しながら与え、その後急にprogesteroneをやめてEstradiolに切換えるのです。人間で妊娠中絶したあと乳癌ができ易いことからヒントを得たのですが・・・。こんなこともendometriumでやってみてもらいたいと思います。 [高木]正常な機能をin vitroでできるだけ維持させるということも発癌exp.の裏返しとして必要だと思いますが、そういうことを奥村班員にやってもらったら如何でしょう。 [勝田]班が1年目か2年目ならばそれも良いのですが、3年目ですからもう少し積極的にやってもらわないと困ります。 [佐藤]Endometriumの細胞は培養内で上皮性ですか。 [奥村]そうです。ただとても扱い難いので・・・。 [勝田]しかし他にやっている人がいませんから有利です。 [佐藤]ヒト材料で掻把した材料で培養したらFibroblastsが出てきてしまいました。 [奥村]掻把した材料はその傾向があります。 [勝田]高井班員は・・・? [高井]今までの方針通りやります。勿論再現性もみます。 [佐藤]私は今まで通り続けてやってみます。DAB20μgで細胞をほとんど殺してしまってからDABを抜くと、細胞が生き返ってColoniesができてきますが、この細胞をラッテへ復元してもつきません。どうしたらつく細胞が出来るものでしょうか。 [勝田]動物による実験的発癌のような苛酷な条件が人癌の発生の場合、ヒトの生体の中でも期待して良いものか、私は疑問を持ちます。むしろたとえば発癌剤とウィルス、それも非発癌性ウィルスとのsynergismのようなものを重視したい。しかし今、研究室にウィルスを持込むと、たとえ他の方法で癌ができてもcontaminationではないか、なんて云われますから、ここしばらくはこの仕事はやりません。やはり当分は“なぎさ”を続けます。DAB実験についても、なぎさ理論の上に立ったようなexp.をやって行きます。 [佐藤]発癌剤が細胞のどのstageに働くか、ということも問題だと思います。生体で云えばはじめに食わせたときのDABの作用と、一度肝細胞がやられて再生してきた細胞に対して働くDABとは異なるのではないでしょうか。
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