【勝田班月報:6506:復元成る!】

☆☆☆昭和40年5月17日午前9時30分より阪大松下講堂4階会議室に於て、この名前になってからの11回目の班会議が開かれたが、席上、岡大癌研の佐藤班員により、DABを添加したラッテ肝細胞の培養を、ラッテに復元接種したところ、腫瘍を形成した旨の報告があり、当班初の復元成功を祝うことができた。まことに記念すべき班会議であった。☆☆☆

《勝田報告》

  1. 発癌実験:

     “なぎさ”実験はその後も継続してやっているが、どういう訳かさっぱり変異細胞が出来なくなってしまった。もっともRLH-5に相当するのが今できかけているようであるが。なお、これまでに出来たMutantsも、ラッテにつかないという事が実に不思議なので、或はMutationによりラッテのhistocompatibility gene(R-foctor)を失って元の系のラッテにつかなくなった、という可能性も否定できないので、ウィスター系ラッテのnewbornsに数日前復元を試みた。また、これまでの復元テストでは余り長期には観察していないので、今度JAR ratsのnewbornsができ次第、それにかかる予定である。
     RLH-4をハムスターポーチに入れて少しふくれたところでまた培養に戻した系の形態をスライドで展示する。もとのRLH-4にそっくりである。これの復元も試みている。
     この他、“なぎさ”からDAB10μg/mlに移した実験があるが、これについては次回に報告する。  復元法としては、これまで脳内接種がきわめて良いとされてきたが、吉田肉腫その他のようにestablishedの、悪性の強い腫瘍では、どんどん増殖するからそれも良いが、動物内で増殖のおそい系では、tumor cellsのふえる前に脳水腫その他でラッテが死んでしまい、反って長期観察に適さない可能性がある。伝研の山本正氏のやっておられる方法、肢の皮下から筋肉内を一旦針を通し、肩の辺の皮下に接種するという方法は、さした細胞が漏れないので非常に良い。これからはこれと腹腔内とを常用してみたいと思っている。

  2. ラッテ胸腺細胞の培養:

     変なことから免疫の領域に引きずり込まれてしまったが、胸腺細胞の実験はさらに第2、第3と計画し、且進行させている。昨日の培養学会ではあまりはっきり云わなかったが、RESの細胞はみんな抗体を作る能力を持っている可能性がある。しかしとにかく増殖がおそいので、気を永くしないといけないので困る。最後にはin vitroでの抗体産生まで持って行くつもりであるが、それには細網細胞だけでなく、他の細胞、たとえばmacrophage、histiocyteのようなものの存在が必要と思われる。つまり、後者が菌なり何なり抗原をphagocytoseして、それに対応するmessageを細網細胞その他、抗体産生をおこなう細胞に伝えるのではないか、と思われる。しかし抗体を作るようになるのだから、どんな風にその為にDNAに変化が起るのか、大変面白いところと思っている。



:質疑応答:

[高井]免疫してからTC迄どの位の日数ですか。

[高岡]2週でtitreを測って、すぐ殺し、培養します。titreの上がったところで使う訳です。

[奥村]なぎさ細胞を、thymusを除いたラッテに接種したことがありますか。

[勝田]まだありません。今準備しているのは、各種の動物細胞に対する抗血清を作って、RLHの細胞とgel-diffusionで免疫学的な関係をしらべてみようということです。案外牛なんかに合うのかも知れませんし・・・。

[佐藤]うちに来ているRLH-1はラッテnewborn脳内で4日位迄は塊を作っています。だから早い時期に次々継代すると良いかも知れません。墨汁と一緒に入れるとmeningenにたまっています。脳水腫ができるということ自体も怪しいことだと思います。

[勝田]meningenに居るといっても、生きているのですか。

[佐藤]核分裂が見付かっているから大丈夫でしょう。

[勝田]君が後でやる報告でも判るように、とにかくもっと長期観察をやらなくてはだめだということが判りました。今までは早くあきらめすぎた。

[奥村]半年は見るべきでしょう。

[高岡]腹腔に入れると、RLHの方は見えなくなってしまっても、いつ迄も反応細胞が消えませんから、やっぱりどこかに生きているのですね。

[黒木]Minimum deviation hepatomaでは7ケ月植継ぎ、というのもあります。ラッテはBuffaloなども使ってみると良いのではありませんか。

[佐藤]肝癌のstrainになっているのでも長いこと増えないで居ることがあります。

[土井田]ハムスターポーチに入れて、またTCに戻した細胞が元の細胞と同じということはどうやって・・・。

[勝田]染色体でみるつもりですが、とにかくラッテにtakeされてからの問題です。

[高木]何%位の割でハムスターにつくのですか。Cortisoneは?

[高岡]Cortisoneを使わなくても必らずつきます。使わないと後になって縮むかも知れませんが、化膿しやすいので・・・。その代りすぐ摘出したのです。

[黒木]ハムスターポーチはすごく汚染しやすいので、コーチゾンと抗生物質をやはり入れた方が良いでしょう。あれはヌカミソをかきまわすような匂がしますね。

[佐藤]RLH-1から-4の内で、rat脳に入れて一番残るのをえらんで、色々接種法のテストに使ったら良いのではないですか。他のが駄目ならRLH-1をえらぶとか・・・。

[高岡]いいえ、RLH-4がいちばん有望そうなのです。

[奥村]RLH-4をcloningしてみましょうか。

[勝田]やってもらいましょう。



《佐藤報告》

◇発癌

 1965年2月20日、RLD-10株に3'-methyl-DABを投与しつづけた細胞(RLD-10[10μg-20μg])をDonryu系ラット新生児脳内に2例(1匹当り36万個cells)腹腔内(1匹当り253万個cells)に復元した。(表を呈示)

 I.C.の内、1例は34日に脳内水腫をおこして死亡した。肉眼的に脳内Tumorは発見されなかったが念のため、生後11日ラットの皮下及び腹腔内に全脳を乳剤として注入した。このラットは目下40日観察中であるが変化はない。

 I.C.の内、1例1.2は48日後動物が左に頚をかたむけて廻る様になったが、残念ながら他の動物に喰われて死亡した。

 I.P.の1例、1.3は69日目著明な腹水を生じた。腹水塗抹標本で肝癌の島らしきもの及びpapillaryのTumor或はその移行型らしきものを認めた。この腹水は直ちにI.P.3例、I.C.3例に接種継代した。70日目、無菌的に解剖し腹水を再培養し、開腹所見で大網部に3x1x1cmのTumor、及び腹膜全面に癌性炎が起こっていた。(後に顕微鏡的にも確認)一般の腹水肝癌と異なり腹脂肪織後膜の腫瘍浸潤は殆んど認められなかった。

本例の継代動物の中、5-1日ascitesを生後26日ラットに注入したものの例は13日後、腹腔穿刺で細胞島(核分裂細胞が散見する)を発見した。

 以上、継代可能な腹水癌を培養肝細胞から3'-methyl-DAB投与によって作り得たと考えるが尚多くの確認が必要であり、再現性等について既に実験を開始した。現在までのデータの内この腹水肝癌が培養細胞からのものであると考えられる点は以下の通りである。

  1. )現在当研究室で維持している腹水肝癌AH13、66、7974は全く異なっている。
  2. )再培養(腹水)細胞は形態学的にRL株に類似しており、継代が容易である。(この点は培養歴を有する細胞の特性)且つ腹水中細胞の多様性が再培養においても認められ発癌細胞の多様性を暗示している。
  3. )原発動物の肝臓は正常であって復元に際して入り得る3'-methyl-DABによる発癌は否定し得る。
  4. )脳内接種細胞の場合は明瞭でないが明かに変化が見られる。
  5. )RLDcontrol株及びこの株からの3'-methyl-DAB投与亜株については復元を精査しなければならないが目下の所では発癌していない。
  6. )再培養株の染色体数パターンはRLDcontrol株とよく似ている。
     (表を呈示)表3は腹水癌を発生した細胞の歴史である。RLD-10control株より77代で分離し78代より 3'-methyl-DABを10μg/mlに投与した。87代から88代までの間に(4回)20μg/mlを投与して後、動物に復元した。精確な事は未だわからないがDABを常に培地中に含むことが必要なのではならろうか。説明の足らない点は討論で補いたい。


:質疑応答:

[勝田]少し補足ですが、培地にDABを入れて培養したあと、DABの定量をしてみると正常肝その他だとDABが消費されるが、DAB肝癌だとDABが消費されないで培地中に残っている、という訳です。この君の細胞ではDAB消費能はどうでしたっけ・・・。

[佐藤]消費が少なくなっているのです。培養後の培地中のDABをしらべますと、一般に正常ラッテ肝では消費能は(+++)、正常ラッテ心は(+)、正常マウス肝は(-)、ラッテ肝癌(DABによるもの)(-)です。はじめ消費が(+++)に相当したのをDABを与えながら継代している内に(+半)位になったのを復元したらついて、(++半)位のはつかないのですから、継代して消費の少くなったものを打ったらついた、といえます。

考え方として

  1. )DABの効果の蓄積が、細胞が分裂するとなくなってしまうのではないか、
  2. )DAB高濃度という環境で癌細胞をselectできるのではないか、
ということが考えられます。対照は今もってつかない。

[勝田]私は累積の方を考えていたが、DAB消費の点をみると、Miller & Miller(Cancer Res.,7:468-480,1947)のdeletion theoryを裏書きするような感じですね。細胞のDABに対するdose response curveをとって比較する必要がありますね。

[黒木]AH-108Aという肝癌は切片にすると中が中空になっていて、胆管上皮癌だと云われていますが、さっきのスライドにもそれに似たところがありましたね。

[勝田]腹水の中でmitosisがありますか。

[佐藤]あります。腹水中の細胞は300万個位で少いですが。

[勝田]あのスライドの顆粒のある細胞は“なぎさ”の5番目に当るMutant(?)に似ていますね。

[永井]DAB肝癌に限ってDABの消費がないわけですね。

[佐藤]他の肝癌についてはしらべてありませんが、RLH-1では消費があります。それから復元法の問題ですが、Newbornでは、脳内はtakeの時期は早いがtumorの増殖は案外低く、皮下はtakeの時期は遅くつく率が低く、腹腔はtakeの時期は遅いがtumorの増殖は案外良い?といった傾向が見られ、腹腔内接種が案外良いのではないか、と思われます。

[勝田]私もこのごろそう感じています。脳内ではtumorができない内に死んでしまう可能性があります。最近は山本正氏の方法も採用しています。それから、今の内にRLD-10とRLN-10とを復元してみておく必要がありますね。何と云っても培養期間が長かったのですから。

[佐藤]Ratに接種した場合、核の大小不同の多いことが目立ちました。それと、メチルDABで作ったのに、DABの消費能が半減しているのですね。

[高岡]3'methyl DABで作用したのにDABの吸収が減るのですか。面白いですね。

[佐藤]やはりそういうことらしいです。

[勝田]結局これで判ったことは、

  1. )in vitroで肝癌を作り得ること、
  2. )アゾ色素を大量に与える必要のあること、
  3. )与え方になお考慮の余地のあること、
  4. )復元接種した後かなり長期間観察する必要がある、
などですね。

[奥村]期間が永すぎると思います。染色体への働きかけがDAB添加によって起るとするなら、もっと早い時期について良いと思います。

[黒木]細胞にはずい分混り物があるようですが、DABによるin vitroの発癌としてはこれが初めてですね。

[佐藤]Cloningをしようと思っています。

[高岡]RLD-10は染色体数が偏ってから形態が変ったのですか。

[佐藤]10μgDABのlineでは、RLD-10(DAB1gx4)に比べて顆粒が多い。形態上の変化はやはりありました。

[黒木]10μgでは増殖するのですか。

[佐藤]10μgでは死ぬことはなく、増えてきます。

[勝田]Primary cultureだと、10μgではいかれてしまうが、株化すると段々強くなります。

[高岡]株にも感受性が色々あって、10μgでもいかれてしまう株もあります。

[勝田]うちでもDABの高濃度のをやっていますが、うちの場合は一種のなぎさ式に、ショックを与えるためにやっているので少し意味がちがいますが・・・。

[高木]高濃度で半死半生ということに関してですが、TC内でも生体内に近いように、ふえない状態で発癌剤を入れた方が良いのではありませんか。もっとも10μgDABで増えない状態にするというのも、その一つの方法かとも思いますが。

[高井]DAB添加前の遊びの時期が必要なのかどうか・・・。

[佐藤]今の方法を改良してprimaryで何とか2ケ月で発癌できるようにしたいと思っています。

[土井田]こんどの株はDAB無しの期間はどの位ですか。

[佐藤]全部で3年で、10μgを時々やり出してから2ケ月です。この他にラッテにDABを食わせて、その発癌前の肝を時々とってTCに入れ、それにDABを入れてみていますが、まだうまく出来ません。何をcheckすべきかが問題で、今のままではDABの濃度の総計しか判りません。

[奥村]Cloningするにしても、時期的に色々のが必要ですから、色々のを凍結しておく必要があります。DAB-proteinの免疫血清がとれないでしょうか。

[勝田]もしdeletionならば、結合すべき蛋白はなくなってしまっているのだから、そんなものを作っても余り意味がないでしょう。

[黒木]Millerの説を、もう一度よく見ておく必要があります。H3-DABは、できていますか。

[勝田]C14-DABなら癌センター病理の馬場君が作って使っていました。

[佐藤]生物学的な方向で一応primaryの方へ行けたら、あとはisotopeで細胞の方へ進まなければならないと思います。

[奥村]ProteinやDNAというと、1,000万個以上の細胞が要るので、細胞レベルの方へ持って行けば話ができるようになるでしょう。

[黒木]Ratのcultureのspontaneous malignant-transformationの報告はありますか。

[勝田]非常に少いが、大分昔にGeyのところでfibroblastsのが報告されています。

[黒木]Goldblattらのは?

[勝田]あれはNを使っています。そして不思議なことに誰も追試していない(できない?)。

[永井]H3-DABのことですが、トリチウム化したあとの精製が問題ですね。

[奥村]話がちがいますが、細胞の保存の状態はどうですか。

[佐藤]3ケ月位前からのは一生懸命保存しています。

[奥村]前からのがあればchromosome levelでも見られます。

[佐藤]今後はいちばん見付け易いマーカーとして、核型、組織化学などをしらべて行きたいと思っています。

[勝田]細胞質のbasophiliaとか、細胞の大きさなど特徴的ですか。

[佐藤]期待していたほど差がないようですが、色々のが混っています。

[奥村]復元動物からの再培養細胞の染色体、核型と、対照のと比較してみたらどうでしょう。それからtumorの初期で染色体数をしらべると、大体どの辺のものがtumorとしてついて行くか判るでしょう。

[佐藤]動物体内のselectionは染色体にあまり関係がないのではないでしょうか。以前、はじめ三つの個体に分けてうったら、夫々別の染色体数になったことがあります。



《高井報告》

 現在、Actinomycinをかけて、維持、観察をつづけているbtk mouse embryo cellsの系列は次の通りです。Kはcontrol群、AcはActinomycin処理群です。

 bEIは'64-10-2培養開始、Kは現在第7代。Acは第3代、'64-10-3〜11-30までAc(0.01μg/ml)、その後Ac(-)とす、'65-1月下旬コロニー2コ発見、'65-4-14及び4-20の2回に継代を試み失敗、目下残った細胞を大事に育てています。

 bEIIIは'65-4-23培養開始、Kは現在初代。Acは4-30よりAc入りのmedium。

 bEIVは'65-4-30培養開始、Kは現在第3代。Acは現在第2代、5-4からAc(+)。

これまで、月報で経過を報告して来たのは、bEI.Acに相当します。

1)bEI.Acのその後の経過:(顕微鏡写真6枚展示)

写真1)は上記の継代失敗後に残ったコロニーの一部で、かなり、つぶれた細胞も多く見られます。真中のひろがった細胞質をもった細胞はcontrol群の細胞によく似ています。

写真2)は同じコロニーの別の場所ですが、ここでは割合に小型の境界明瞭な細胞と、円形の細胞が集っております。この小型紡錘形の細胞が有望ではないかと前報に報告したわけです。

ところで、私はim vovoでActinomycinによって作られたActinomycin sarcomeからのstrain、JTC-14をもっているのですが、in vitroでActinomycinを作用させて生ずるであろうmalignant cellは、おそらくJTC-14に似ているであろうと考えてもよかろうと思います。

そこで、写真2)の細胞と比較するため、同じ倍率で、撮影したのが写真3)であります。AS.T-d26-T125というのは、JTC-14の亜株で途中ddO mouseに接種して、再びin vitroに戻したもので、現在なお腫瘍性を保持しています。写真2)、3)を比較すると、細胞の大きさは割合似ていますが、写真2)の方は核が小さいことが目立ち、写真3)の細胞を一応の目標と考えた場合、まだmalignancyを獲得したとは思い難い様です。この小さい細胞が増殖しないかと期待しつつ、大事にしていたのですが、その後の約2週間で、小紡錘形の細胞は、漸次丸くなって崩壊してしまい、写真4)、5)の如き状態になってしまいました。倍率がちがうので比較しにくいのですが、写真5)の半島状に突出した部分の中央部附近が、写真2)の場所に相当します。写真6)はcontrol群の方ですが、第7代への継代の時に細胞数が少なかった為か、こんな妙な形のcellになっています。

2)bEIII及びIVについて:

 今の所、まだ著明な変化はありませんが、bEI.AC.で得られた様なtransformed cells(?)のコロニーをもっと多数に得たいと思い、多くの瓶を用いて、経過を見て行くつもりです。



:質疑応答:

[勝田]使う細胞材料をもう少しきれいにしたいですね。全胎児でなく、もっとselectして・・・。

[高井]Newbornの皮下組織はピンセットで取れるようになったのですが、トリプシン消化してもうまく効きません。

[奥村]トリプシンをかけずにそのままでも生えてきますよ。必要なら培養して7日の班会議のとき持って帰れるようにしましょうか。(スライド展示)

[勝田]Mouse embryoのときは、spontaneous transformationがあるから、transformさせる前の期間をできるだけ短くする必要があります。transformを確認してからは長くかかってもかまわないですが。それから、Roller tube cultureでやったらどうですか。Newbornを使うのも良いし。embryoならlungを使ってfibroblastsを出させる手もあるでしょう。

[奥村]Newbornは3日位になるともうトリプシンが効きません。

[土井田]細胞のでてきたところが奥村氏のスライドのようでなく混った感じですね。



《高木報告》

これまでの月報と重複する様になるが、まとめてここに記載する。

Organ cultureによる発癌実験として

  • rat skin→4NQO
  • rat、hamsterのskin→DMBA
  • rat、hamsterのSubmandibular gland→DMBA
を計画し、目下preliminary experimentにとりかかっている。まずこれらの組織を一定期間(出来れば4週間以上)in vitroで維持する事が問題である。
そのため
  1. .培地条件は

    • 基礎培地としてLHがよいか或いはmodified Eagleがよいか  
    • 血清の種類及び濃度はどれ位がよいか  
    • 更にCEEを加えたがよいかどうか

  2. .培養条件は
     
    • solid mediaの上に培養したがよいか
    • 或いはliquid mediaを用いてそれに接して培養した方がよいか
という点について検討中である。

勿論通気gasの組成、incubationの温度なども考慮されねばならぬが、現在の処、これはconstantとして実験をすすめている。これまでmodified Eagle+10%CEE+10%BSで行った実験では、通気の不充分だった事、また用いたpaperがtoxicであった事、から10日前後しかyoung ratのskin及びsubmandibular glandを培養する事が出来なかった。

通気が持続的に出来るapparatusを購入したので目下再検討中である。

これまでの文献でもfoetal animalのskinを1〜2ケ月またはそれ以上in vitroで維持しているので、young animalを使えば培養条件により3〜4週間維持する事は可能であろうと思う。

10日間培養したyoung rat skinの培養組織のslideを供覧する。

なおpancreasの仕事は目下β細胞と共にα細胞についても検討中である。α細胞については未だ定義の明らかにされていない点もあり、銀染色、chromium Hematoxylin Phloxine染色及びAnti glucagon serumを用いた蛍光抗体法により仕事を進めている。



:質疑応答:

[勝田]Organ cultureのとき紙が悪かったそうですが、millipore filterを使ったら如何。

[高木]レンズペーパーがあれば良いのですが、仲々良いのがありません。Acetate paperはpHがアルカリになるし、tea bagはあみ目が均一でありません。

[勝田]寒天を使うと、その中の薬剤濃度が培養と共に不均一になるし、調節が効かないから液体培地の方が良いですね。

[難波]1cm位の間隔で寒天に溝を切って流すのはどうでしょう。

[高木]Agarの上にcell sheetを作るうまい方法はありませんか。

[佐藤]Agarの上ではsheetを作らないでColony状になってしまいます。岡山の村上教授がHeLaの塊を作らせています。

[黒木]吉田肉腫は、Agarを下が1%、上が0.5%の間にサンドイッチして培養しています。

[佐藤]生体の中で増えも減りもしないというのは抑制が働いて保っているのだが、この場合はふえも減りもしなくても、むしろ死んで行く傾向にあるのではないでしょうか。

[勝田]生体でも皮膚は増殖しているのだから、全然増殖しないのはむしろ不自然でしょう。問題はこのような培養で休止核に作用してくれるかです。DABでは肝に作用して増殖誘導しましたが。

[高木]Lasnitzkiはorgan cultureで変異を起すことを報告していますが、それから先、それが癌化しているところを掴まえたいのですが。



《黒木報告》

  1. .4NQO、4HAQOのL細胞への影響:

     4NQO、4HAQOが核内に封入体を形成させる至適濃度は久米らによれば、4NQOは1.5x10-5乗M、4HAQOは7x10-5乗Mとされています(chang liver、L等)。両者の差はStabilityの差にもとずくと考えられています。しかし、封入体を形成した細胞は死ぬらしいので、毒性のテストは別に行う必要があると考え、L細胞のPlating eff.へのeffectをみてみました。

     培地:Eagl MEM with 1.0mg/l of biotine,1.0mM・Pyruvate,0.2mM・Serine and 10% of B.S.

     培養方法:小型角ビンに5.0mlの培地、ゴム栓する。

    培地を4.5ml加え、そこに0.5mlに100ケのcellが含むように稀釋された細胞浮遊液、次いで直ちに0.1mlのtest materialを加える。12日間incubationする。

    4NQOはEagle MEM pH7.2、4HAQOはNaHCO3 free Eagle MEM pH4.2で稀釋。

    結果は表に示した(表を展示)。B.S.のLotのためかP.E.は50%と非常に悪い。

     4NQOで10-8乗M,4HAQOで10-6.5乗M前後がP.E.50(50%plating efficiency)となりそうです。現在、half logで稀釋した液を用い、さらに実験を行っています。

    colonyの細胞の形態は、特別なことはなく、もちろん封入体もみられません。

    L細胞の他に2、3の細胞によりP.E.50をcheckする予定です。

  2. .Rat胎児肺組織の培養:

     4NQO、4HAQOを作用させる細胞としてはドンリュウラットの胎児肺組織由来の繊維芽細胞を考えています。その理由は月報6412p18にありますがもう一度その大要を記します。

    1. )現在までin vitroでmalig.transformしたのはEvansらのC3H mouse liverを除いて全てfibroblastであること、fibroblastの方が変化し易いと考えられる。
    2. )Embryoからdiploid cellがmaintainしやすいだろう。
    3. )Ratはdiploidのままでmaintainされることが多いらしい。
    4. )4NQO、4HAQOでRatに肺癌が出来る。
    5. )4NQO→4HAQOの作用はドンリュウラットでは肝及び肺にもっとも著明に認められる。
    6. )入手の容易さ(Ratの)

     ドンリュウラットが1匹漸く妊娠しましたので、4月22日第一回の培養を行いました。このExp.は細胞の分離法、形態、維持等の予備実験のため4NQOは作用させません。

    1. .妊娠後期のRat→帝王切開→胎児
    2. .胎児から無菌的に肺(右三葉左一葉)を剔出する(これはやさしい)
    3. .一匹一匹の肺を別にdishにとる(以下すべて一匹一匹を別にする)
    4. .ハサミ又はかみそりで細切
    5. .次のgroupに分ける

      1. )細切した細胞をそのまま培地中に加え培養→REL-101  
      2. )型の如く組織片を管壁にはりつけ培養→REL-102  
      3. )0.1%pronasePBSで消化30min. at 37℃→REL-103、-104  
      4. )0.1%pronase 0.25%pancreatine 0.1%methylcellulose in PBS(-)でdigestion→REL-105、-106

         (iii)(iv)はstirringしたものとしないものの両者による。

    結局次の如し、Rat Embryonal Lung

    • REL-101:細切したfragmentをそのまま→継代
    • REL-102:fragmentをはりつける→継代せず
    • REL-103:0.1%pronase・stirring→継代
    • REL-104:0.1%pronase・stirring→継代せず
    • REL-105:処方(iv) stirring→継代
    • REL-106:処方(iv) stirring(-)→継代せず

    Cf) 各groupはそれぞれ一匹の胎児由来、それぞれ1〜3本の角ビン(5ml)又はdish(6cm)  細胞のロ過は1/3の注射針による。

     Cell countを厳密に行うことは出来なかったが大体50万個cells/ml

     培地:Autoclaved EagleMEM(biotine)、1.0mM pyruvate、0.2mM Serine、20%B.S.、重曹0.7g/l

     形態及び増殖

    REL-103〜106は2日後ほぼfull sheetとなる。REL-103がもっとも良好。

    Explant OutgrowthはREL-101>REL-102である。

    ☆細胞はfibroblastic、ところどころにepithelialの構造あり。fibroblastic cellはmultilayerのようである。「流れ」を作る。

    それらの中に死んだ細胞らしいものがmix(光線を強く屈折する)。

    二代目よりepithelialのcellは見あたらず殆んどfibroblast、二核、多核も僅かにみられる。

    運動性は良好らしい(偽足と「足あと」がある)。密集すると配列にOrientationがある。

    ☆Explant outgrowthのときの形態

     前述のようにREL-101の方がGrowthはよい。これは壁につくcell fragmentの数が-102より多く、又極めて小さいのまでくっつくためと思はれます。

    REL-101は10日後transfer。

    primaryのうち、dishにinoc.したものは染色してみました。fragmentからoutgrowthする細胞の形はfragmentにより異なります。

    1. )fibroblastic cellがBHK-21のcolonyの様にでる。
    2. )epithelial cellがsheet状に出る。
    この二種類である。(2)の方が多くみられます。これは恐らく、切り出した部分に由来するものと思はれます。 しかしこれらをtransferすると、REL-103と同様のfibroblasticになります。

    継代

    継代に従いGrowthは落ちるようです。Growth Curveをはっきりととっていないのでよく分りませんが、50〜70%のinitial fallののち4日で2倍程度が精々のようです。

    細胞の剥離には0.1、0.05、0.01、0.005%のpronase(PBS-)を用いてみましたが、0.05%がoptimal。必要な細胞数は10〜20万個/ml。継代の鍵はpronase消化と細胞数にあるようです。

    死細胞について

    full sheetあるいはそれ以前においても死細胞が目立ちます(生の標本及び染色後)。これらは娘細胞の片方だけの分裂と関係あるのか、あるいは培養条件が悪いことに由来するかは分りません。



:質疑応答:

[勝田]吉田肉腫の50代以後の染色体数は?

[黒木]70本台から95〜102本へ移りました。ピークが98本で、これは動物へ戻してもそのままです。

[勝田]心組織を培養するとどうも上皮様みたいな細胞が残り、肺だとfibroblasticのが残りやすいですね。ただ生後のlungは雑菌が入るのでね。

[高岡]Newboarn lungでもできますよ。カビが生えますがつまんで捨てれば良いです。

[佐藤]4NQOの作用は?

[黒木]Lung、皮下のsarcomaなどです。4NQOから4HAQOになるときのEnzymeが肺、肝に多いのです。どこに4NQOを与えても肺に腫瘍のできることがあります(Gann、杉村氏)。

(炭酸ガスフランキ用シャーレについての提案あり)

《奥村報告》

Autoradiographyによる培養細胞へのホルモンとりこみ実験:

 ステロイド(Progesterone、Estradiol)ホルモンによってウサギ子宮内膜細胞の増殖が促進される事実をもとにし、ホルモンの細胞に対する作用機序をしらべるためにH3-progesterone、H3-estradiolを培地に加え、細胞内へのとり込みをしらべる実験を行った。残念ながら、現在まで満足な結果を得ていない。

 Exp.1. HeLa、JTC-4、HmLu、ウサギ子宮内膜細胞を培養し、24〜48hrs.後にH3-progesterone 0.05μc/0.1μg/ml、H3-estradiol 0.02μc/0.01μg/ml、のdoseを添加、24hrs.、37℃でincubate、その後coldのhormoneをそれぞれ5又は10倍量加えて、10、20、30、60、180、240min.の各条件で、余分のH3ラベルのhormoneを除き、次の2つの方法でオートラジオグラムを作製した。

  • 方法1. PBSで3回洗い→carnoy液で固定20min.→洗い→coldPCA(2%)で3min.処理→水洗→乾燥→乳剤
  • 方法2. PBSで3回洗い→formalin液で固定overnight→洗い→乾燥→乳剤

以上のような方法で作った場合、方法1では細胞内にみられるgrainが極めて少く細胞の種類による差はみられない。方法2ではいづれの細胞にもgrainが多くあり、細胞内のlocalizationは判然としない。又細胞周辺部にも一面にgrainがでてくる。問題はhormoneが細胞内にそのままpoolされるとすると、標本作製中に細胞外に流れ出てくるので、その場合いかに細胞内のhormoneを固定するか、という点をさらに検討しなければならない。(現在進行中)

ウサギ子宮内膜細胞の継代培養:

 現在まで24回にわたり内膜細胞の継代培養を試みた(#1〜#24)。そのうち19回はsubcultureも出来ずに絶えた。残り5回のうち2回は(#16、18)3代目(通算培養日数 #16:43日、#18:62日)で絶えた。#23の実験群が6代目(通算49日)まで継代され現在に至る。増殖は1週間に約1.5〜2.5倍。培地は#1〜#10:199+CS20%+0.01μg/mlEstradiol(E).#11〜#20:199+CS20%+0.1μg/mlProgeste.(P).#21〜#24:199+CS20%+E+P。



:質疑応答:

[勝田]Hormoneがcell内のどこに入るのかを知りたいのなら、むしろ細胞を生化学的に分劃した方がよいのではないかしら。

[奥村]細胞質にも核にも入っているようだが、localizationまでは未だ云えません。

[高木]Progesterone+Estradiolが一番よく株になるのですか。

[奥村]入れないのとでは大分ちがいます。やはりhormone-dependentであることは確かです。

[高木]Insulinは肝には良いが、この場合も入れてみたらどうでしょう。関係ないですか?

[永井]判りません。

[高岡]Subcultureしないと長期培養に良いことが多いです。

[勝田]Intercellular materialsの問題ですね。継代の他に、初代でホルモンを大量にやって、そのeffectsを見る手もありますね。

[高木]Intercellular materialsとは何ですか?

[勝田]何かよく判らないがRNAも入っているらしい。Bhargavaなどがラッテ肝をスライスでしらべた時と細胞をバラバラにしてみたときと、代謝がぐんと違っていると報告しています。だからもう一つの培養法としてaggregate cultureを試みるのも一法ですね。

[土井田]Autographyのとき、一旦乾燥させてからdippingしたら如何です。

[奥村]Dippingによってホルモンが外に出るのかも知れませんね。

[永井]Uterusの代謝が特異的なことは、lipid代謝の面からも明らかです。



《土井田報告》

細胞分裂に関する研究:

 前月報に記したごとくH3-TdRを用いてDNA合成を調べているが、L細胞に10,000Rのγ線を照射した場合に得られた結果について予報的に報告する。

  1. H3-TdRで1hr.処理した後、直ちに固定。
  2. H3-TdRで1hr.処理した後、YLHで2回洗い、更に9hrs.incubateした後、固定した。

 結果は(図示)、10hrs.後固定した群で、ラベルされた細胞の%は高くなった。control群で同様処理した時に得られた結果では、H3-TdRに1時間expose後、直ちに固定した群で得られた、ラベルされた細胞の%との間に差がなかったことから、H3-TdR処理後の洗い方が悪かったために生じた差でなく、DNA合成機構の上に障害が起こったため、1hr.区と10hrs.区で差が生じたものと思われる。この点について現在改めて研究している。

in vitroでの細胞培養:

 発癌実験について、昨年度は勝田先生との間で見解を異にしたことから、NH系マウスの腎細胞についての研究は一時やめてしまったが、今回改めて、放射線との関係において研究することを目的にマウスの臓器細胞の培養を始めた。我々の動物室は手狭なので思うように材料が得られないので、先づ利用出来るものをという考えで実験を始めた。

 「研究の目的」X線発見当時からX線の投与により皮膚癌の出来ることが報告されたが、この点に着目し、軟X線を用いて皮膚の細胞に変異を誘発させ、細胞遺伝学的考察をも併行的に行ない、皮膚発癌の誘導を試みる。  「経過」C57BLxC3HのF1から臓器細胞をとり出し、YLH80+calf serum20の培地で細胞を育てている。細胞は組織片をメスで切り刻み、小角瓶のガラス面に塗布した。

 現在までのシーリーズは次の通り

     
  1. )生後2日目の上記F1マウスの♀、♂各1頭づつから、腎臓と肝臓をとりだし、培養している。培養開始は5月4日。  
  2. )1)と同腹の♀、♂各1頭のマウスの腎臓を肝臓をとりだし細切後、培養している。培養開始は生後6日目で5月8日。
     「細胞培養の経過」1)2)共、肝臓細胞はepithelioid細胞がみられ、腎臓細胞を用いた群からはfibroblast状の細胞が生えてきている。  
  3. )胎生後期の胎児を母体より取り出し、皮膚を中心に培養している。各個体と培養臓器は次の如くである。
       
    1. )皮膚、
    2. )皮膚、
    3. )皮膚、肝臓、腎臓、四肢、
    4. )皮膚、肝臓、腎臓、

    培養開始は5月13日、(iii)番目の個体の四肢というのは、四本の肢丸ごとメスで細切したものであるから、その中には皮膚も筋肉、骨、骨髄などが含まれており、培養されたものである。この四個体については性別は不明である。 培地は2日乃至3日毎に更新している。



:質疑応答:

[高木]Xrayの作用はepidermal cellsとfibroblastsとでどうでしょう。

[佐藤]Xrayによる発癌は上皮が多いですね。fibroblastsなら肉腫になるわけで、癌を狙うのならeithelだけとり出すことを考えなくてはならんでしょう。

[高木]Epidermal cellsだけのTCをGeyのところでやっていますが、旨く行かないらしい。Epidermal cellsとStromaとの間の作用をしらべたらどうでしょう。自分の場合はmixed populationですが、3代目にはfibroblastsがdominantになります。

[奥村]Subcultureのとき、トリプシンでepidermal cellsがすごくやられるのではないでしょうか。

[土井田]基底膜のところの構造は?

[佐藤](図示して)この通りです。

[高木]Agingのことを云って居られましたが、in vivoのagingをそのままin vitroにあてはめることはできないでしょう。胎児のある日数の細胞をとってきて、何日TCしたからそれに相応する胎児の日数のcellsになったとは云えないでしょう。

[奥村]Agingは 1)cell levelでのagingと、2) populationとしてのagingと、二つに分けて考えられますね。

[勝田]Cell levelでのagingの一つの解釈として、DNAのagingということを考えたい。いつかやってみたいと思っているのですが、親細胞のDNAは、もしcrossing overのようなことがDNA levelで起らなければ、いつまでも各single strandはdaughter cellsの中に、2本は元のが混っている筈です。しかしこれが再びDNAをduplicateする能力が永久につづくとは考えられない。むしろ、何回かtemplateとし使われると、すりきれてくるのではないか。これをDNAstrandのagingと考えたい。

[奥村]染色体上でlethalな変化の蓄積としても考えられる。

[土井田]agingとX-rayとの関係も考えられ、追究したい。

[奥村]それはむづかしいのではないか。SV40をかけてH3TdRのとり込み方の変化をみている仕事があるが、一番早いとり込みが、#8〜12の染色体にみられたのに、SV40をかけると#16〜18に変っている。こんなことをX-rayでやってみては如何ですか。

[勝田]先の仕事で、何故照射直後からしらべはじめなかったのですか。

[土井田]Giant cellになるのが判らなかったものですから。しかし20〜24hrs.ではgiant cellとそうでないのと区別がつきにくいので、両方mixしてしらべています。

[奥村]X-reyでは5〜7日でgiant cellsができてきますね。3日位で何とか判ります。

[黒木]Agingのことですが無菌動物ではCell cycle(G1、S、G2、M)が倍位になっているそうです。in vitroでの分裂の早さをagingと結付けて考えると面白いですね。

[勝田]KampfochmidtのEinwandに対し、Toxohormoneの一派が宮川さんに頼んで無菌動物を使って発癌させ、腫瘍系を作ろうとしています。

[土井田]無菌動物でもX-rayで、反ってよく癌ができるそうです。



《堀 報告》

G6PaseとPhosphorylase:  今月は健康を害したり、外国からのお客があったりして、仲々仕事がはかどりませんでしたが、僅かばかりの結果を要約しますと:

G6Paseは肝組織において肝実質細胞のみに存在する酵素ですから、この酵素の消長を培養肝細胞について調べることは意味のあることだと思います。培養開始後約1週間のprimary cultureを材料とし、しかもepithelialなoutgrowthを示すもののみを対照としました。

固定方法は、無固定;フォルマリンーカルシウム;フォルマリンー蔗糖;グルタルアルデヒト;etc、多くのもので0℃ 1min〜3minの固定、染色は固定材料を水、又は蔗糖液で洗滌後、30℃、60min、次の液(0.1%G6P 4ml+0.2MTris buffer、pH6.7 4ml+H2O 1.4ml+2%Pb(NO3)2 0.6ml)でincubate後、水洗、薄い黄色硫化アンモニウム液で発色、通常通り、tetrachlorethyleneに溶いた合成樹脂に封入観察しました。普通の氷結切片ではこの方法で極めて強い反応が肝細胞に現れるのですが、どうしたことか、固定、incubationの条件を色々変えてもなんとしても染ってくれないので全く困って居ります。時々出現する大型の球型細胞には反応がありますが、sheet状にきれいに伸びているものには反応がないのです。

 PhosphrylaseはG6Pよりも多くの組織に存在しますが、肝では実質細胞にのみ強く現れます。方法は、小生が1964、1965、Stain technolに発表しましたものを使いました。incubating mediumはI2法では[GIP(50mg/ml)0.2ml;AMP(5mg/ml)0.1ml;EDTA(37mg/ml)1.0ml;0.2M Acetate buffer、pH6.0、2.0ml;H2O to make 5ml]、Pb法では[GIP(同じく)0.1ml;NaF(8mg/ml)0.5ml;acetate buffer、2.0ml;H2O 2.1ml;2%Pb(NO3)2 0.3ml]。G6Paseと同じ様にこの酵素も又何としても染らないのです。方法的には全て手を尽くたので、結局、培養1週間の肝細胞には、これらの酵素が極めて低い活性を示すか、或は失われてしまっているのではないかと結論せざるをえません。これに関し、Weilerのtissue specific antigenがニワトリで培養初期に失われるという報告は興味があります。