【勝田班月報:6412:】




《勝田報告》

なぎさ作戦と変異細胞:
    昨日の培養学会でこれまでのデータをほとんどしゃべりましたので、今日は第3番目に得られた変異細胞の染色体について話します。このRLH-3細胞はまだ出来たばかりで(染色体核型分析の写真を呈示)、染色体数にきわめてばらつきが大きく、これから次第に培地でselectされて行くのであろうと思わせる。少いのは50本位のから、多いのは数百本に及んでいます。写真に示したように、dicentricやfrgmentと思われるような染色体がよく目につきます。いまラッテに接種したら、体内で増殖できるような細胞も混っているのではないかと思われるのですが、細胞数がまだ少いので、未だ接種してありません。或は思切って接種した方が良いのかも知れませんが、これは将来の課題です。

:質疑応答:
    [吉田]樹立された癌、つまり染色体のピークがはっきりする前に、こういう変った染色体構造の時期がある、という意見が多いですね。

    [土井田]樹立する前段階としてなら、もっとchromatid breakなどがあって良いと思いますが・・・。

    [勝田]それはこの標本よりもっと前の段階でしょう。

    [山根]吉田肉腫など、ラッテの癌細胞にはmetacentricが少ないのに、この場合どうしてこうmetacentricが多いのですかね。

    [吉田]培養するとmetacentricが増えるのではないでしょうか。培養条件がmetaをselectするというのではなかろうか。

    [山田]Lなどではtelocentricが残っているのに、この場合、みんなmetaになるというのは・・・。

    [吉田]株にもよるのかな。培養でmetaが多くなった培養株を動物に戻すとteloになる、というデータを持っています。

    [山根](スライドを呈示)これはマウスのDDからの分離株の染色体ですが、metaが殆んどありません。

    [黒木]Rabbit ear chromosomeというのはサテライズですか。

    [吉田]ちがいます。ネズミの染色体をみるとき注意することは系統によって相違のあることです。たとえば第3の染色体pairを見ますと、ウィスターにはテロですが、椎橋のラッテにはサブテロで、ウィスターと椎橋のF1はテロとサブテロです。

    [黒木]呑竜はどうですか。

    [吉田]呑竜はWistarタイプです。

    [勝田]呑竜はまだ皮膚の交換移植がうまく行かないようですね。

    [黒木]F1では♂♀どちらをかけても、テロとサブテロ染色体になるのですか。

    [吉田]どちらもこうなります。

《土井田報告》

マウスの末梢血球培養法:

放射線の生体におよぼす晩発性効果として発癌や加齢現象はよく知られている一方、放射線が染色体に異常を惹き起すこともよく知られている。しかしながら、両者の関係については現在のところ充分な知見はえられていない。我々は従来、放射線被曝せる人体細胞内に永続する染色体異常を調べて来た。このような調査から、上の問題についての手懸りを得ようと考えている。

此のような研究を人間について行うには、いろいろの制約があるので、マウスのごとき実験動物を用いることが望ましい。例えば線量の測定、予後の追跡などを始め照射方法など実験者の希望通りに進めることが出来る。

しかるに現在のところ、かかる小動物についての末梢白血球培養法は成功していないので、その方法を確立することを試みた。この際、遺伝的な研究についても併行的に調べたいので、マウスに如何なる障害も与えない様注意した。

培養法を簡単にのべる。

マウスの尾静脈より0.02mlの血液をとり、10%Ficoll液にsuspendする。37℃で1時間放置し、赤血球を沈降させる。白血球を含んだ上清部を短試験管に分離後2,000rpm5分遠沈し、上清を棄てる。その後、白血球を含む短試験管に次の培養液を加え、37℃8時間静置培養する。培養液は50%YLE又はYLH+25%牛血清+25%仔牛血清で、培養液10 に対し0.1mlのPHA-Mを混ぜる。

培養8日後最後の4時間10-6乗Mコルヒチン液で細胞を処理し、以後、通常のヒトの末梢白血球(Moorhead et al 1960)に準じて標本を作製する。

現在のところ、ヒト末梢白血球培養後にみられる程、充分な分裂頻度は得られていないが、染色体構成を知る程度には充分な分裂像を得ることが出来る。我々は正常マウス被照射マウスについて核型分析を行なっているが、LevanとStichらによって報告された核型に極めてよく一致する像を得ている。

従来の方法は骨髄細胞、skin biopsyでえた細胞、肝細胞などが用いられた。これらの方法ではマウスを殺すか、あるいは著しい傷害を与えるのに対し、抹消白血球を用いればそのようなことは避けられる。

此の方法については小論文“Microculture method of peripheral blood for chromosome study in mice”としてExp. Cell Res.に投稿中である。(Y.Doida & T.Sugahara)

現在より高い分裂頻度を得るため培地の条件その他培養条件について検討中である。

:質疑応答:

    [土井田]さっき話の出た Rabbit ear chromosomeというのは図のような形(テロ型の先に兎の耳のような形の短い分体がついている)のchromosomeのことです。

    [吉田]LevanはColchicineの代りに8-oxyquinolineを使っていますが、これを使うとrabbit earが出るようです。雑系の動物だとYの大きさが非常にちがいますから、動物の系を表示した方が良いですね。こういう少量の液でどの位mitotic indexが見られるものでしょう。

    [土井田]0.02mlで多いときは50ケとれました。計算値で0.02mlに10万個位細胞があるとして、ずい分少いですね。マウスにまずadjuvantを注射して、次にリンパ球を少し取って、complete adiuvantを打って採血すると、分裂像が1日早く現れます。

    [勝田]あまり複雑なことをやると、それが刺戟になって異常分裂が起るかもしれませんよ。

    [土井田]そう思いますから、なるべく何もしないで取りたいとは思っています。

《佐藤報告》

☆培地中のDABの吸収:

その後JTC-4(Wisterラッテ心、高木等)、RHT-2(JARラッテ心、勝田)、RLH-2(RLC-2よりtransformしたもの、勝田)、AH-7974、AH-66、吉田肉腫(佐藤)、武田肉腫(勝田により一度培養され動物継代中のもの)を追加実験した。AH-66、吉田肉腫及び武田肉腫は使用細胞が少く他のものと比較し難いので再度実験の予定。

判明した結果(図を呈示)

  1. RLH-2はRLN-10(岡大癌研C10対照株)のDAB消耗と殆んど変らない。

  2. AH-7974のDAB消耗度はAH-130よりやや高いが畧同様であり全般的に感度が低い。

  3. RHT-2はJARラッテ心でRLH-2(JARラッテ肝)と比較できるがDAB消耗は極めて低い。

  4. JTC-4はRHT-2同様ラッテ心であるがDAB消耗度は中等度でRHT-2より高い。動物種の違いか或は出現細胞かわからない。

総括と今後の方針:

  1. ラッテ心、JTC-11(エールリッヒマウス乳癌)等の細胞のDAB消耗の低い事はこれらの細胞がDABを本質的代謝或は吸着しないためであろう。この点は更にDABに対する各種動物の感度を考えて実験をつづける。

  2. AH-130、AH-7974等はDABに対する反応が少い。これはDABの高濃度の長期投与によって生体内で癌化した細胞だから結果として考え易い。併しDABの所謂無反応性と癌化とが一致するかどうかはわからない。

  3. AH-130の培養株であるJTC-1及びJTC-2は動物株であるAH-130に比して更にDABに対して無反応であるが理由はわからない。

  4. 呑竜ラッテ肝細胞株にDABを10μg程度に長期投与するとDABに対する反応性が下がる。下がる度合は現在の範囲では肝癌細胞群に比して少い。DABを更に高濃度に添加すれば、DABに対する反応度の減少が期待できるが、目下20μg投与によって検索中である。

☆DAB飼育呑竜系ラッテ肝の組織培養:

DAB投与44〜149日迄の10例の肝硬変期(10例中には肝癌発生は0)の検索において次の結論が出た。

  1. 57日間投与以後のラッテでは、30〜50%の割合で増殖を現わす試験管が認められた。併し増殖誘導実験の場合に比して増殖速度は遅い。

  2. 上記増殖細胞の内、株化されたものは正常肝から株化されたものと形態学的にやや異なり、むしろ正常肝細胞株にDABを投与したものに似ている。

最近1964-11-19 DAB投与(201日)例で肝癌結節を発見した。

    ☆C-74 肝癌部を試験管10本と非肝癌部を10本、増殖部観察のために培養。更にsucklingラッテ(24時間以内)に肝癌部を1匹当り16.4万個、非肝癌部を1匹当り31.8万個注入した。目下観察中。

    本実験の目的は原発DAB肝癌がLD+20%牛血清で増殖するか、更に続いて腫瘍性をどの程度維持するか。又原発肝癌が動物suckling脳内で継代できるか。培養上の肝癌の形態と非癌部(肝硬変部)増殖細胞との形態的及び生化学的相違を確めるためである。

:質疑応答:

    [山根]RLH-1がDABを吸収するというのは、肝癌はDABを吸収しないという理論と反対ではないですか。

    [佐藤]RLH-1はDABを作用させずに出来た“hepatomaであれかし”という細胞ですから、DABを吸収しなくても良い訳だと思います。DABに対する態度はControlの肝細胞と同じで良いと思います。そしてJTC-1や-2のようなAH-130由来の株がDABを吸収しないという結果が出ているから従来の理論と一致しています。

    [山根]比色計の読みによる誤差はどの位出てきますか。

    [佐藤]岡大の分析化学教室に協力してもらっていますから、データは信用できると思います。

    [高木]実際問題としてDABをもっと濃く出来るのですか。

    [佐藤]だんだんDABの濃度を上げて行って、今は20μg/mlまで行っています。

    [勝田]DABを培地内から添加量の50%まで減らすのに1ケの細胞が必要とする時間を出してみたらどうでしょうか。

    [佐藤]50%にならずに無限大になるものもあるから困ります。AH-130がprimaryのものよりJTC-1とか-2のような株になった細胞の方がDABを吸収しないというのはどういうことかと思いますが・・・。

    [山田]培養すると臓器特異性などでも落ちるというから良いのではないですか。それからあのグラフは逆にして、曲線が上からはじまって段々下へさがるようにした方が、減っているという感じがはっきりすると思います。

    [勝田]せっかくこれだけのデータがあるのですから、表現法を良く考えた方が良いですね。

    [黒木]DAB1μgで増殖に抑制を受ける細胞がありますか。

    [佐藤]あると思いますが、はっきりとしたデータはもっていません。やっとく必要があるな。

    [黒木]DAB量を上げて行って、なお生きのびるようになった細胞(耐性細胞)と消費との間に何か関係がありますか。

    [佐藤]RatにDABを食わせて生体で発癌させながら、その各時期の肝を取り出して培養して行くことと、培養内でDABを作用させて行くということを平行させてやって行きたいと思っています。

    [堀 ]正常ねずみの肝の場合、50g迄は2倍体が多く、4倍体が段々ふえ、死ぬ時期には又2倍体に近くなります。

    [吉田]肝では非常に少いのから多いのまでありますね。

    [佐藤]総計で或量までDABを与えないと肝癌を作らない、つまり続けないと発癌しないということは、どういうことでしょう。

    [勝田]与えつづけて肝の機能障害を起すまでという期間が必要なのではないですか。

    [土井田]肝癌ができたということが見付かるのは、どういう大きさになった時ですか。培養内のgeneration timeは生体内よりずっと短い。生体内でもしin vitroと同じような速さで増えたら人間は忽ち死んでしまうんではないですか。

    [勝田]生体内ではどんどん増えても一方では死んで行く癌細胞もある。つまり癌組織は自分の為のちゃんとした血管系を持たないから中心部は壊死に陥ってしまいます。つまり差引勘定は案外大したことがない−ということもあるでしょう。ひとつのmassとして或細胞群を見た場合、例えば染色体の上から非常に多くの異常分裂があったとしても、それが生き続けて集団の運命を決定するのかどうか。異常分裂は死んでしまうのではないかということを考える必要があるでしょう。それから佐藤君の、DABを食わせて発癌中のラッテ肝をとり出して培養する場合、殺す前に生体にH3-thymidineを入れて、増殖中の細胞の核をラベルしておき、それから培養に移してradioautographyをやると良いマーカーになるのではないですかね。

    [山田]佐藤さんの意見というのは、本当の癌では1回の刺戟で癌になるのに、DABの発癌の時は反覆が必要だということがある。そこで培養の場合にもDAB1回だけの投与でなく、ずっと与えつづけてDABをとらなくなる細胞、つまりDAB反覆摂取後、発癌してDABをとらなくなるという細胞と同じ状態のところをつかまえたい、ということですね。

《高井報告》

I)btk mouse embryo cellsの復元

    10月28日、培養26日目にControl群とActinomycin0.01μg/ml添加群をbtkマウス(16〜19g)4匹に復元しました。実験群の細胞数が予想外に少なかった為、control群3匹(2匹は背部皮下、1匹はip、各200万個)、実験群は1匹(背部皮下、140万個)に復元した。結果は11月20日現在、全然変化なし。一方、継代をつづけている細胞の方はcontrol群と実験群とで、形態は少し異なるが、両者共やや増殖が落ちて活気が悪くなって来た様に思われます。

II)btkマウス皮下組織の培養の試み

    前回の連絡会で、最初からfibroblastsのみをとって培養する方がよかろうという助言を頂きましたので、試みましたが、結果は失敗しました。

    1. new born btk mouse(生後3日目)。
       皮下組織をメス・ピンセットでこすりとる。
       0.25%トリプシン10mlを加え5分間stirrerにかける。
       液を捨て、再びトリプシンを加え37℃約3時間incubate。
       その後30分間stirrerにかけ、培養。培養4日後、細胞殆どなし。

    2. 母親mouse。

    1)がうまく行かぬと思ったので、母親マウスについて、上と殆ど同じ方法(37℃のincubateは止め、1時間づつ2回トリプシン処理)で行いましたが、ごく少数のfibroblastsがガラス壁に附着していますが、余り元気のない細胞です。

:質疑応答:

    [山田]Actinomycinを添加しつづけていても継代できるというのは、少しは増えている訳ですね。

    [高井]そうなんですが、2回目の継代でずい分へばってしまったようです。

    [勝田]継代のとき一部を小角(カバーグラス入り)に入れて、標本を作って染めてみたら如何?

    [高井]やってみたのですが、TD-40のものと顔付が少しちがうのです。

    [奥村]Whole embryoを使った理由は?

    [高井]別にありません。とり易いという理由からだ(伊藤班員の受継)と思います。

    [山根]Controlの4代目の形は、培養が絶える前の形のようですね。

    [勝田]Trypsinの代りにHyaluronidaseを使ったら如何? 或は皮下にトリプシンを注射・・・。

    [山根]量の少い時は、組織片からスタートする方がTrypsinizeより早いのではないですか。

    [奥村]Hyaluronidaseではバラバラになるが生えてこないです。注意するのは皮下組織を剥す時、乾かしてしまわないこと。ハムスターは1匹から3ml(約20万個)位とれます。20℃で2〜3時間トリプシン処理します。培地、特に血清の選択が必要です。

    [山根]僕の経験ではCollagenaseが一番ですが高すぎます。Pronase0.05%、30分、37℃位が良いです。

    [勝田]Aseの作用時間をなるべく短くすることが必要です。初代で使うのでなければ、細胞数の少いときは試験管を立てて培養する方が良いでしょう。

    [奥村]これは仲々むずかしい仕事ですよ。僕のところも、はじめはずい分苦労しました。下の筋肉までとってしまっていないか、と思って、はじめはplasma clotを使って生やしてみたりしました。

    [高木]どうして皮下を使うのですか。

    [高井]動物実験でActinomycinの皮下接種でtumorを作る、という例がありますから。

    [黒木]37℃でのActinomycinの安定性は?

    [山根]安定性はかなり良いですね。

    [奥村]皮下だけでなく肺も使ってみたら良いでしょう。

    [勝田]embryoでない限り、肺は雑菌が入り易いですね。

    *その他Trypsin濃度についてのdiscussionあり、0.2〜0.5%の間で使っていることが判った。

《山田報告》

    HeLaS3細胞の増殖サイクルにおけるアミノ酸とりこみの推移:

    ケンビ鏡映画とH3-ウリジンのとりこみを併用して、個々の細胞のRNA合成度をオートラジオグラフィーで調べたことは前に報告した。同じ手技を用いてヒストン合成の時期と部位を検討することにし、その方法論について1、2考えたことがあるので報告する。

    使用したアミノ酸はLysine、Tryptophan、Phenylalanineである。このうちLysineはヒストンの中にもっとも多く(10〜15%)、Tryptophanはヒストンにほとんどふくまれていないことが判っているので、この2種のアミノ酸のとりこみの型からヒストン合成の推移を推定することにした。Phenylalanineはヒストン中に3%程度ふくまれ、前2者の中間に位置するものと思われる。なお核酸については酸可溶性低分子分劃を除去する方法が一応確立しているが、蛋白質については、低分子物質を水洗で除くと同時に水溶性蛋白質が除去される可能性があり、いろいろ考えたが結局一定の時間(15分)の水洗で残ったものを蛋白質として一応扱うことにした。

    3種のアミノ酸とりこみの推移は図に示す(図を呈示)が、それぞれのアミノ酸のとりこまれ方、またback groundその他均等でないために、定量的な操作を行うことができず、型の相違から定性的に論ずる段階である。そのような見方で調べると、Tryptophanは分裂後、核内へ次第に多くとりこまれるようになり、G2期まで連続的に増加しているが、Lysineははじめ4〜6時間までに変動なく、以後増加して、S期まで続き、G2期に入ると、急激に低下することが明らかにされた。その他、nucleolusでは、LysineのとりこみがS期後半にピークを作り、G2期で急激に低下することを認めた。

    さらに定量的な扱いをするために、2NのHCl、室温で一晩処理すると、蛋白質のなかでヒストンだけが抽出されることが知られているので、この操作によりヒストン以外の蛋白質合成の推移を検討することにした。ただしこの操作により染色性が著しく落ちるので、オートラジオグラフィーまで行ったものの、まだgrain countを実施していない。この染色を検討した後、実施する予定です。

:質疑応答:

    [勝田]DNAの場合以外は「くみ込み」と「turnover」との区別が仲々つき難いと思うんですが・・・。核の中のproteinの内で、ヒストンと非ヒストンとの比率はどの位ですか?

    [山田]ヒストンが数10%で、非ヒストン蛋白よりずっと多いと思いますが、はっきりしません。しらべておきます。

    [土井田]寺島氏のようにSynchronizeさせた細胞ではやらないのですか。

    [山田]やれると思いますが、Synchroと云ってもpopulationが混っていますから、寺島氏のではRNAの谷が出てきません。私のやり方では数多くは追えませんが。

    [勝田]山田君の方が映画で追っているからずっと正確でしょう。

    [土井田]最初の15分のラベルだけでなく、ラベル後時間をおいてHClで処理して、染色体にどう乗っているかを・・・。

    [山田]それは良い方法ですね。すぐやってみます。

《奥村報告》

    ハムスター肺由来細胞の株化と生物学的性状(仮名HmLu細胞):

    ハムスター3日目の乳飲仔の肺から細胞株をとり、更にその細胞から通算75ケのコロニーを分離培養した。これらの細胞系のうち数種を選び、いくつかん性状をしらべた。(全過程の詳細図を呈示)株化の過程は比較的順調で、現在で106代目に至る。

    以下この株細胞の性質について順次述べます。

    なお培地はTC199に仔牛血清を20%に添加したもの。

    1. 増殖:22、25代目では一週に7〜8倍。40、45代では一週に10〜12倍。83、86、94代では一週に50〜80。

      25代目頃まではlag phaseが長く72hrs.位でしたが、83代目以後では24hrs.を越えることがなく、時には殆んど認められないこともあった。但し、増殖が非常によくなったのが何代目からであるかは明かでないが、大体60〜70代頃からであろうと想像される。

    2. cell cycleの決定:94代目の細胞を用い、H3-TdR(0.05μg/1μC/ml)のpulse labeling(20min.)の取り込みからG1、S、G2の各期の時間を算出すると、Generation timeは11hrs.、G1は3hrs.、Sは7.0hrs.、G2は1hr.となる。*percent labeled mitosisはlate prophaseからanaphaseまでをpick upして算出した。

    3. PPLOの検出:2種類の材料(1.whole cell+medium、2.medium中で凍結融解したもの)について、増殖培養後、PPLO培地に血清添加したもので検出を試みたが結果はNegativeであった。
    4. 核小体数の推移:継代100代目に至るまで適当な間隔をおいて一細胞(一核)当りの核小体の数をしらべると、50代目頃より、数のdistributionが拡がり、100代目では4〜8個のものが多かった。

    5. 種属特異抗原の検査:a)染色体の構成からみると、ヒト、ラット、マウスの細胞株(in vitro)のうちで、私共の研究室で保存している細胞とは明かに異り、区別し得る。b)免疫学的同定は赤血球凝集試験、細胞毒性試験、蛍光抗体法、更に一部の系(後述)の細胞ではHA-inhibition testを行い明かに他の動物由来細胞株と反応が異り、かなり強く種特異性が認められた。なお、用いた抗血清は次の通り。

      1. Anti-normal hamster lung/Rabbit serum

      2. Anti-normal hamster kidney/Rabbit serum

      3. Anti-human(HEp-2)/Rabbit serum

      4. Anti-mouse(L)/Rabbit serum

      5. Anti HmLu cell/Rabbit serum

      6. Anti-rat γglobulin/Rabbit serum

    6. 形態:Primaruy cultureでは2〜3種の細胞のmixed populationであるが、その後は殆んどがfibroblasticな細胞で、70代目頃よりFibroblasticともEpithelial likeとも区別しにくいものが若干見られる様になった。分離したcolonyの数種のものは非常にepithelialに似た形態を示している。

    7. 同種動物(Syrian hamster)への復元実験:この実験の詳細は後日報告しますが、現在までに明かになった事は次の通りである。

      1. 9日目の乳飲ハムスターの皮下に100,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められるようになる。

      2. 生後24hrs.以内のハムスターの脳内に1,000個のcellを入れると約2ケ月位で明かにtumorを認められる。

      3. 生後24hrs.以内のハムスターの脳内に100,000個のcellを入れると、1,000個入れた時よりもsurvival timeが明かに短縮される。

      4. 皮下、及び脳内接種で出現してくるtumorは病理学的にはFibro-sarcomaの像を示していた。

    8. 株細胞及び分離colonyのchromosome no.のdistribution:現在まで約20種類の分枝系の細胞についてその染色体の数と核型をしらべたが、その一部を図で示す(図を呈示)。染色体数については42〜45本にピークのあるものが多いが、78〜80本、更に86〜90本にピークのあるものも分離されている。なおこの他にchrom.no.の少ない(30本代)clonial cloneが2種類分離されている。

      核型の特徴については次報で述べる、要するに以前から狙っている培養細胞(この場合はHmLu)の、chromosome levelでの最小基本単位の検出に一歩づつ近づいています。

:質疑応答:

    [佐藤]染色体数の少くなることと増殖の落ちることとの間に何か関係があるのではありませんか?

    [山田]Polyoma virusで発癌させている仕事の内で、発癌しても細胞の形が全然変らない、というのがありますね。

    [山根]自分のところの培養では、染色体数のpeakがもっとはっきりしているのですが・・・。

    [奥村]染色体の核型をどれだけしらべるかによると思います。自分のところでは、写真にとるのはわずかですが、ずいぶん沢山の細胞について分析しています。出来るだけのものをしらべています。

    [山根]生体内ではあまり染色体数のばらつきは無いですね。だから培養条件をもっと良くすれば、ばらつきの少いcloneが得られるのではないでしょうか。それから奥村法のクローニングだと、隣のコロニーもとってしまう可能性がありませんか。

    [奥村]さっきお目にかけたスライドはわざとcolonyの多いのをえらんだのでして、実際にクローンをとるときは、シャーレに7〜8位しかcoloniesを作らないようなplatingをしてとります。(Plating efficiencyをみるときは沢山まきますが・・・。)それを何度もくりかえしてcloneにするのです。

    [山根]Cloneにするには2回以上Cloningしないといけない、というのは本当ですね。本当のcloneというのは、ただ1ケの細胞からの系をいうべきです。

    [高木]だから奥村さんの場合のようなのは、“Colony selection”と呼べば良いと思います。

    [山根]培地条件が悪くなると、バラツキが多くなると思いますが・・・。

    [土井田]人の血球の場合は、条件が悪くなると、反ってピークの幅が狭くなります。

    [勝田]Lの場合、PVPを入れた無蛋白培地で継代しているL・P1細胞は、奥村君がしらべてくれたのですが、peakの染色体数は原株と変らず、バラツキの幅が原株よりずっとせまくなっています。 (ここで高木班員よりPancreasよりの細胞株、RPline2及びline4の蛍光抗体のスライド2枚と、line2に見られた4極分裂の像のdemonstrationあり。)

《黒木報告》

    In vitroにおける「発癌実験」を始めるに当って:

    吉田肉腫、腹水肝癌の仕事が一段落し、この次は、In vitroにおける発癌に入ることにしました。

    今度の癌学会に出席して感じたことは、発癌の問題をより分析的により深く研究しようとすると、どうしても「癌」から離れ、例えばphage、枯草菌、原虫を用いて行かざるを得ないのではないかと云うことです。 発癌に対するするどい問題意識を生かすためには、従来の発癌実験−動物に薬を投与し、癌の出来るのを待つ−は、いかに複雑で、そしてまだるっこいことか。

    そこを突き破り、新しい道を開かんがためには、細胞レベルにおける「発癌」が有力な突破口になると思はれます。

    そこで、如何なる方法で実験をすすめるかについて、あらましの考えを記します。

    1. 発癌剤

        a.作用した部分に直接に癌のできるもの

        b.作用機序の調べられているもの

        を条件にして考え、4NQOを選びました。Nitrosamin、DABはa.にあはず、メチルコランスレンはb.にあいません。 4NQOは4HAQOとの関係が明らかになり、どちらも入手出来ること、H3-4NQOも入手可能のことが有利です。

    2. 動物

      1. 純系の程度、Mouse≫Rat(Donryu)≫Hamster
        Donryuの皮膚移植の成績(本年度の癌学会演題249)はこのラットが純系とは云えぬまでも可成り均一であることを示しています。

      2. 4NQOによる発癌、Mouse=Rat Hamster(?)

      3. 培養のしやすさ、Mouse>Hamster & Rat(?)

      4. Virusの汚染、Hamster>Mouse>Rat

      5. 復元部位、Hamster(チークポーチ)>Rat=Mouse

      6. 染色体の分析の容易、Rat≧Hamster≧Mouse 
         Mouseは全てteloでしかも大きさが本当にgradualに下がるので分析しにくい。Hamsterはteloが少い。

      7. Spontaneの悪性化、Mouse>Hamster>Rat(?)

      8. 二倍体の維持のしやすさ、Rat>Mouse=Hamster(?)
         Peturson 1964、Kroath 1964、Katsutaによる

      9. 動物の入手、扱いの容易、Mouse>Rat≫Hamster

      以上を総合判断し(特にd.f.g.h.重視)Ratにきめました。実中研のドンリュウ使用の予定です。

    3. 細胞

      Spontaneにmalignantになった細胞は、Evansらのliver parenchymal cell of C3H mouseを除いて全てfibroblastです。又、fibroblast←epith.の変化の多いため、前者の方が未分化と考えられます。 分離臓器は杉村隆氏のData(本年度癌学会演題53)及び昭和医大・森氏のDataから考えLungを選びました。

    4. 培養法

      Colony作製法をフルに利用するつもりです。培地はEagle MEM+supplementα+CS(10%or20%)、αとしてはpyruvate、serine、insulinを考えています。Autoradiographyも相当利用する積りです。

      (H3-TDR、H3-4NQO、etc.)

      とりあえず最初はprimary cultureのcolonyから行います。今後の御教示をお願い致します。

    :質疑応答:

      [山根]Primary cultureでcolonyはできますが、それを2代、3代とつづけていると、だんだん悪くなってしまいますね。

      [奥村]私もやっていますが、plating efficiencyは1%以下ですね。良くて数%という所です。

      [土井田]4NQOの仕事はここの田島先生がずっとやって居られますから少しお話を伺ってみると良いと思います。

      [勝田]移植を片付けて、黒木君がいよいよ発癌に入ってくれるのは本当にうれしいですね。

    《堀 浩氏の研究成果の紹介》

      生後2週の♂Wister ratの肝を1〜2mmに細切し、タンザクにつけ、20%CS+LYの培地に初め4日間だけDABを1μg/ml入れて回転培養します。その後6日してからexplantをとって組織切片をつくり、検鏡しました。explantの内部はnecrosisに陥っていましたが周辺ではbile ductの増殖、多層化も見られ、parenchymalの増殖も見られました。ほとんどのparenchymal cellsが死ぬにも拘らず、です。4日から10日までは少くとも見られました。(Kupfferのhypertrophyはcontrolでも見られました。)なおこの増殖parenchymal cellsの細胞質はHE染色では普通のhepatic cellsのようにはEosinで染まりません。

      Agar1%の上にexplantをのせ、或は卵の膜を使ってみますと、fibroblasticの増殖は胆管のと共にありますが、parenchymalのは出てきません。そして残っているliver cellsはeosinでよく染まります。またAzo day-diet-rat liverの再生細胞はeosinophiliaが低下し、basophiliaが強くなっています。ミトコンドリアの染色性も高まっています。

    :質疑応答:

      [佐藤]Controlの培養がちっとも生えんというのはおかしいな。

      [勝田]eosinophiliaの変化の件ですが、primaryのhepatic cellsは0.1Mクエン酸+クリスタル紫で処理しても、細胞質がとけず、細胞質が染まって見えます。ところがDABで生えだしてきた細胞は、株細胞と同じように、クエン酸で細胞質がよく解けます。細胞膜の透過性の問題か、とにかくそこに何らかの質的なちがいが出てくるわけです。堀さんの云われるeosinophiliaの低下と非常に関係があると思います。

      [ 堀 ]私は染色体でなく組織化学が好きですから、そちらの方を生かして発癌の研究をやって行きたいと思っています。

    《山根 績氏の談》

      [山根]私としては是非班に加わって発癌の仕事をやりたいが、ウィルスによる発癌を計画している上、人手が足りなくなるので、化学的物理的発癌には一寸手がまわりません。ウィルスではいけませんか。

      [勝田]Virusを使う発癌をやっている班は別に一つあるので、この班のやり方としてはたとえウィルスを使うと譲歩しても、たとえば発癌剤で少し叩いておいて、それに非癌源性ウィルスをかける、と云ったやり方でやってもらえれば、と思っています。