【勝田班月報・6508・DABによる発癌の諸問題】

《勝田報告》

  1. “なぎさ”変異細胞の復元接種試験

    1. )復元接種試験成績

      これまで報告した以後の復元接種試験の成績を表で示す(表を展示)。ラッテとハムスターを用いた。3-18に接種したハムスターポーチの腫瘤は、4日後に培養に移し、TC25日後にコロニーを生じたので、第32日に継代して今日に至っている。ラッテ接種例では、'64-12-12に脳内に接種した例で、RLH-1群2匹の内1匹が第24日に脳水腫で死亡した。残りは第40日に全例解剖したが、RLH-3群の2匹中1匹に脳水腫がみられた。ハムスターは、まだ技術的に馴れていないせいか、腫瘤形成率が悪い。

       ここで反省してみたのであるが、RLH-1〜4の4種の変異細胞の生じた元の細胞株は、F11頃の未だ完全には純系化していないJARラッテの肝由来の細胞である。だから現在の純系化したJARラッテへこれらを復元接種することには問題があるのではないか、と思われる点がある。つまりこれらの母細胞を得た頃のラッテと同格のラッテは今日ではすでに存在していないからである。

       そこで、反って系の異なるラッテの方がtakeするかも知れぬという観点から、ウィスター系や雑系のラッテに復元をおこなってみた。しかし今日までのところはっきり腫瘍形成を示した例は未だ得られていない。

    2. )これまでの復元接種の成績から、今後は上記のように動物の種類を色々撰択してみる必要があることと、観察期間をさらに長期(少なくとも半年間)に延長する必要のあることを痛感した。

  2. “なぎさ”培養とDAB高濃度添加の併用の影響

     “なぎさ”培養とDAB高濃度添加を併用すると、細胞の変化が早く起る事が最近判った。すなわち“なぎさ”培養によって変化をおこさせた細胞を、TD-15瓶その他に継代し、これに直ちにDABを10μg/mlに添加しはじめると、4日後の第1回の培地交新のときは培地内のDABの色が非常に薄くなって、DABの消費されていることを示しているが、次の3日後の培地交新のときに調べると、DABの色がそのまま残っていることが多い。試みにコールマンの比色計で培地の色を測ってみると、BlankにDABなしの培地を入れ、450mμの吸収を測った結果は表のようになった(表を呈示)。これは4日間の消費である。これによると、16例中4例だけが消費をつづけるが、他の12例は代謝能が無くなっている。但し、4例中JとQの2例は“なぎさ”培養をおこなわず、DABの前処理を施してある。これらの培養法の詳細は別表に示してある。DAB肝癌がもはやDAB代謝に関与する蛋白を失っていて且、急速に増殖している、という事実を考え合わせると、この実験法によって極めて短時間に細胞の変異をおこさせることができる、と云えることになる。

     これらの“なぎさ”→DAB処理の細胞の動態を顕微鏡映画で観察すると実に興味深い結果が得られた(映画展示)。つまり正常の肝細胞がほとんど積極的な運動を示さぬのに対し、肝癌はよく活発に運動することがこれまでの研究で判っているが、この肝癌そっくりの形態や運動を示す系も得られた。ことに(C)が著明である。これらの細胞については、目下復元接種中、あるいはその準備中であるので、成績はいずれ報告する。

     “なぎさ”培養とDAB添加を同時に平行しておこなっている実験もあるが、この成績は今後報告することにする。

:質疑応答:

[寺山]DABを与えずに“なぎさ”培養のままだとどの位DABを消費するものでしょう。

[高岡]測ってはありませんが、肉眼的にみたところでは、DAB5μg/mlで0.16の吸収の時、0.04位になるという減り方と同じ位の消費をします。

[勝田]“なぎさ”1ケ月、DAB 2〜3週で、能率よく変異株を得られるのではないかと思っています。

[寺山]最初にDABを加えて、吸収が減ってきた時の細胞の増殖の仕方は、加える以前とちがいますか。

[高岡]subculutreするわけでなく、培地だけ変えているので、増殖の度合いははっきりわかりませんが、細胞数は減っていないし、分裂もあります。

[高木]2核細胞の“なぎさ”培養での運命は?

[勝田]Cell cheetでは、2核細胞と、単核細胞との間には、たえず移行があります。

[佐藤]“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたということは考えられませんか。

[寺山]“なぎさ”培養での細胞のDAB消費酵素の活性の低下が、一時的なものか獲得したものかは一寸はっきりしませんね。

[佐藤]生体での変異は他方向であってもその殆どが消えてしまうのに対し、培養ではかなり残るのではないでしょうか。

[寺山]DAB添加下で増殖するような変異細胞はくさいと思いますよ。

[渡辺]DABを食わせますとネズミ肝のazoreductaseの活性が急激に低下しますが、与えるのを止めると1週間でまた回復します。homogenatesにDAB、TPNなどを加え、DABの減少でこの活性を定量します。

[寺山]450mμの所はアゾ色素の吸収だから、450mμでみた吸光度は殆ど特異的にアゾ色素のものでしょう。DABの添加は、短期間では効果がないと思います。むしろ、DAB添加下でどんどん増えるものを選んでいったら如何ですか。

[勝田]佐藤君がさっき、“なぎさ”で変異したものをDABでselectしたのではないかというように言っていましたが、私は“なぎさ”で酵素がいためられていて、DABを加えるとそれが急速にやられてしまうのではないか、と考えています。

[佐藤]しかし、アゾ色素のつく蛋白がなくなると肝癌になるのだから、矢張りその蛋白がなくなるのではないかと思いますが・・・。

[寺山]DABの消費と、蛋白との結合とは、必ずしも一致しません。マウスの肝のhomogenatesの方がRatの肝のhomogenatesよりずっとDABの消費は多いが結合は少ない。

[勝田]Demethylationで色がなくなるのですか。何段階位でなくなるのでしょう?

[寺山]Demethylationでは色は残り、azoreducationで消えます。この二つは平行的に起るものです。そして主にmetaboliteがtoxicなのです。azoreductivityの高いのは、むしろresistantなのではないでしょうか。一時的でなく、geneticalな変化を起させる必要があります。“なぎさ”の細胞を、DAB添加下でsubcultureして、DAB存在下で増殖するものを、選んでゆくというのは面白いと思いますよ。AH系ではDAB存在下でもどんどん増殖するのでしょう。

[佐藤]10万位の単位でDAB1μg/mlでは、増えます。

[高岡]1μg/mlの濃度なら正常の肝細胞でも増えるでしょう。



《佐藤報告》

表1〜5を展示。

     
  • 表1は、復元成功第1号[RLD-10(10μg-20μg)株]を含むRLD-10株亜株の簡単な実験系図です。前月報の改定です。◇表2は復元成功(2-20 C86(88G)右)以後各亜株について行われた復元実験及びその成績表で、表1と表2を比較してみると、現在未だ確実な事は云えませんが、結論だけ書けば、RLD-10株について現在の細胞数と3'-Me-DABの量を基準にすれば、3'-Me-DABは10μgのみでは直接投与しても発癌しない。勿論間欠投与だけではだめである。10μg連続の状態で時にそれより高濃度を与えると発癌すると思いたい。一度で発癌したらLD+20%BSで存在し得ると思います。このことと10μg 3'-Me-DABの存在が必要なこととは一見矛盾するようにみえますが、別に差支えないと思います。

    確実にTumorが存在し再培養でもTumorらしいものが現在増殖しつつあるもの、のみから考えますと低率ですが、死亡或は死戦期をむかえて殺し、脳内に著明な脳水腫をみとめたもの(一部のものには小さな粟粒大の灰白色、弾力性硬のTumorを数ケ認めたが腫瘍の確認が未だ出来ていないもの、このものは種々の所見或は結果からTumorが存在すると思われるものが多い)を含みますと高率となります。又C91の腹水は既に再培養されていますので、C86と比較してみた所、C91には遊離細胞が多い様にみえました。C91はC86の原株に比して更にDABが与えられた事になりますので又興味があります。

     

  • 表3は、C85の復元実験における詳細であって、C86の復元成績の詳細と併せるとHydrocephalusが脳内腫瘍形成とかなり関係が深いことが分ります。

     

  • 表2には省略しましたが、他の株は未だいづれも発癌したものはありません。

     

  • 表4は、RLD-10control株と、AH-TC86t株(再培養)との核の大きさの比較を写真にとってその核を切りとって秤量したものです。AH-86t(cancer)の方が明らかに大きく、山が二つある様に見えます。Microphotoで見た場合、大小不同が著しく且つ核膜に凹凸があり多形多核の多い事が目立ちます。Cineをとってみると面白いと考えています。

     

  • 表5は、AH-TC86t株の毒性について動物継代によるもの及び培養細胞からの動物への再復元によって調査中でありまして現在までのところ、1万/animal接種でI.C.の例の2例が48日目に1例死亡、49日目死戦期1例であり、AH-130の例から考えますと、腫瘍性現段階ではかなり弱いと考えています。

     

  • 再現実験はかなり進んでいますが、復元後、まだ判定の日数に達していません。
Primary Cultureのもの(C-98)6-3=0日には最近継代してTD40に移し、3'Me-DABを1μg/mlよりStartしました。又他の株RLN-21株(箒星状細胞)は最近投与を始めましたが3'-Me-DABに対しRLD-10株より抵抗が強いようです。

:質疑応答:

[寺山]動物の場合、DABでも3'-MeDABでも、つづけて与えないと癌が出来ないですね。与えたり与えなかったりすると駄目です。

[堀 ]はじめに示された肝癌の判定はどうなさいましたか。殊に肝癌になるまでのものの場合は?

[佐藤]DABを与えているラッテを、3、4、5、6、7月後という具合に殺して、その肝をとり出し、一部はラッテに接種、一部は培養するわけです。勿論組織切片も作ります。そして、再生結節、腺腫、癌と判定しているのです。この実験は、動物にDABを喰わせ、その癌化の途中の細胞をとって培養し、培養内でつづけてDABを添加すると、培養内の癌化が早いのではないか、という予測のもとにはじめた実験です。

[堀 ]組織化学的にいって、同じような変化をもっている再生肝を培養した場合、そのGrowthは、それぞれ異なると思いますか。

[佐藤]それは、それぞれ違うと思います。

[堀 ]DABの投与量と、再生肝の組織化学的な像とは、必ずしも並行しないのではないかと思います。いま自分がやっているDAB給餌ラッテの実験で、G6Pの誘導を見ていると、これは30%蛋白食で誘導するのですが、どの段階でも、色々な癌化の段階の細胞がみられます。今までDABの発癌過程というのは日を追ってみていましたが、果して日を追うだけで良いか、という疑問を持ちはじめています。

[寺山]個々の細胞では、そうかもしれないが、populationとしてみるからいいのではないですか。

[黒木]ねずみ内の発癌の各段階からとった肝臓を培養した場合の増殖コロニーの形のシェーマで、はじめは丸くふえるのが、だんだん索状にふえるようになる、ということをどう考えられますか。間に空隙が出来たりするのは、細胞の運動性のせいと考えてよいか、或いはpopulationの異なったものが混っているということから起るのか、どうでしょう。

[佐藤]悪性になるとバラバラになります。

[勝田]黒木君の云うので正しいと思います。つまり色々と性質の違った細胞が生じているので、走りやすいものもあれば、そうでないものもある。そこで平均して出てこないという結果になるのでしょう。

[黒木]悪性になったもののcolonyの形が索状なのは、細胞の運動に方向性があり、次に方向性がなくなってバラバラになる、と考えられるかと思います。復元は何匹づつしましたか。

[佐藤]3匹づつさしています。

[黒木]毒力の判定は何で表現されますか。

[佐藤]死亡日数で判定しています。

[黒木](図を呈示)動物の生存日数から計算して、縦軸をプロビット展開すると直線になります。これは、正規確率グラフ用紙というのを買ってきて使えばすぐ出来ます。横軸はlog目盛と普通目盛との両方あります。薬剤効果などを記すときはlogの方が良いでしょう。この直線が平行して移動するか、それとも線の傾斜が変化するか、が問題で、前者が定量的変化を示すのに対して、後者は質的な変化を現わしていることになります。

[勝田]佐藤君の実験での問題点をあえて拾上げてみますと、まず細胞として株細胞を使っており、その培養期間が3年にも及ぶということ、次にDABを添加した期間が動物発癌に必要の期間よりもはるかに長いということ、また別の細胞系で再現性があるかどうかということ、ですね。それからこの癌が出来るまでの細胞の変化の経過をなるべく詳しく紹介して欲しいですね。

[寺山]DABの濃度は、どこまであげられますか。

[佐藤]10μgまで位です。

[寺山]動物発癌の場合、肝細胞はどの位の濃度のDABにさらされているか? 渡辺さん、どうでしょう。

[渡辺]血液中(門脈血)では非常に少ないです。平常DABは血中にはあまり遊んでいません。みんな肝臓に貯まっています。ラッテが1日6〜10mgDABを食べるとして、肝全体で1日当り数mgのDABにさらされていることになります。

[佐藤]動物の場合、沢山食べるとその時はDABは高濃度になるし、あまり食わないでいると低くなると考えられる。培養でもそういう波が必要だろうと思うのです。

[黒木]DAB発癌の場合、DAB耐性細胞を選び出すということが試験管内発癌の必須条件というわけですか。

[佐藤]DAB耐性細胞が出来るということと発癌そのものとは、直接どう結びつけられるかははっきりしないが、耐性細胞を作ることが試験管内発癌の必須条件といえると思います。

[勝田]将来のことですが、細胞1ケ当りどの位までDABを蓄積し得るのかという事をみる必要もありますね。少量の添加でもだんだん蛋白についてたまってくるということも考えられると思うが、癌化するのにどうしてあんな高濃度のDABが必要なんでしょうね。

[寺山]大部分は発癌に関係ない方向に流れ、発癌に関与するのはごく少しだからですよ。発癌にはやはりthresholdというか、或必要最少量があるのでしょう。

[佐藤]少ない量では蓄積できないのでしょう。

[勝田]DABの分解酵素がなくなるというのは、必須条件でなく、余儀なくそうなってしまうのではないでしょうか。

[奥村]分解酵素はどこにありますか。

[寺山]DABの酵素はミクロゾーム分劃にあります。結合蛋白も、はじめはミクロゾーム内ですが、後には細胞質全体にひろがります。それから復元接種ですが、肝の部分切除をおこなっておいた動物だとtakeされ易いのではないでしょうか。ホルモン的な統御を考えますと・・・。

[高木]復元した細胞をまたTC内で継代すると、いつもあんな風に多形性が強いのですか。増殖はどうですか。

[佐藤]あの写真は6代の継代です。増殖はまだおそいようです。

[高木]正常細胞を培養にうつすと、どの位で酵素活性が変りますか。

[勝田]Liebermanたちが大分前に報告しているではありませんか。大抵の酵素活性は4〜5日で低下するように云っていたでしょう。増えるのも若干ありますが。

[佐藤]DABにメタルをつけて、電子顕微鏡でみるということは出来ないでしょうか。

[寺山]オートグラフィでみる方がよいのではないですか。

[勝田]DABの蛋白結合は、強いですか。

[寺山]強いですね。

[勝田]では抗原となり得るわけですね。

[寺山]それをやっている人がいます。

[難波]抗原としてどの程度、純度がありますか。

[寺山]かなりbasicな蛋白と結合します。等電点8に近い所で割合はっきり分劃されます。この蛋白が或geneのreprsserの役割をする蛋白だと考えると、遺伝的にも解釈が成立つと思いますね。



《高井報告》

  1. )bEI.Ac.群: 雑菌感染を免れた短試1本の細胞を急速にふやしつつあり、7月5日現在、第8代短試5本にまでなりました。増殖もかなり旺盛になって来た様で、細胞の大きさ、形は割合に小型で、JTC-14に似て来た様な気もします。短試の垂直静置培養のため、底に細胞があって、写真がとれないのですが、もうすぐTD15に移せる位になると思います。充分な細胞数が得られれば、復元の予定です。

  2. )bEIII群: bEIIIAc群の細胞集団は、(写真1〜3呈示)写真1)の通りで、月報6506の写真1)2)のbEIAc群の細胞と似ていると思っているのですが、6月末にこの細胞群が剥げ落ちてしまい、現在は、写真2)の如きControl群と同様な細胞しか残っていません。継代の時期を誤った様です。

  3. )bEIV群: 著変なし

  4. )bEV群: 6月26日培養開始。今迄の群と異なり、頭部、肺、胸廓、背柱を除いた軟部組織をトリプシン処理して培養しました。又、この群は20%CS・YLH培地にしてみました。(今迄のは20%CS・LE)現在まだActinomycinを加えずに、少しふやしてから処理する予定です。

 現在までの結果は、以上の通りですが、この辺で実験方法について少し反省してみたいと思います。

 私共がこれまでやって来たActinomycinS 0.01μg/ml持続作用という方法が発癌のために果して適当かどうかは勿論大いに疑問があります。どういう濃度、作用時間が適当かは、色々試みる他ないわけですが、in vivoでの発癌実験に出来るだけ近い条件をin viatroで再現してやるのも一つの行き方といえましょう。

 川俣教授らの報告によれば、in vivoでActinomycin肉腫を作る時の実験条件は、btk mouse(生後5〜10週)に、所要濃度のActinomycinSの生食溶液を0.1〜0.4ml週2回皮下注射であり、7.5μg/kg(体重)では、平均28週で注射部位にTumorを生じ、15μg/kg、30μg/kgでは、Tumor出現までの期間が短縮される傾向がみられたとのことです。これから計算してみれば、注射する液のActinomycinSの濃度は1.5〜2.25μg/mlと思われます。

 皮下注射されたActinomycinSがどの位の時間で吸収され、どんな経過で局所の組織内濃度が低下して行くかはわかりませんが、上記の値から考えて、注射部位の細胞は少くともある一定の期間は、私共の用いた0.01μg/mlよりも、はるかに高濃度のActinomycinSに接触していることになり、これが週に2回繰返されることになります。

 従って今後は、1.5〜3μg/ml程度の高濃度のActinomycinを短期間作用させることを繰返すというsystemもやってみたいと考えています。



:質疑応答:

[勝田]アイソトープをラベルしたアクチノマイシンSで、動物発癌の場合のアクチノマイシンS拡散のパターンを見られませんか。また、発癌経過につれての局所の組織像を一度見せてもらったらどうですか。アクチノマイシンSをとかすのに有機溶媒を使っているところを見ると、その局所に薬剤が残りやすいということも関係があると思いますが・・・。

[高井]アクチノマイシンSは、たしかに吸収がわるくて、Dに比べて局所に残ります。

[黒木]対照の増殖はどうですか。また添加は何日目位から・・・?

[高井]大変おそいです。2〜3週でやっと継代です。添加は初代から入れています。

[黒木]その時は、細胞はどうなりますか。

[高井]そんなにどんどん死んでしまうということはないが、対照と同じテンポで継代するわけには行きません。

[勝田]この組合せは有望と思います。しかし何といっても材料がマウス胎児であるという点に問題がありますから、なるべく短期間で勝負をつけるようにしなくてはなりませんね。



《堀 報告》

今迄得られた結果の総括

 前回の班会議には出席出来なかったので、4月以来やってきた、正常肝細胞の培養初期の組織化学的変化について総括的に報告します。

 Acid Phosphatase活性を示す顆粒の分布については、Hepatome-96、-99、HeLa、gTD-4、Takeda、Yoshida、MTK-IIIの既に確立された系について調査したが、癌の系統によって特異的な分布を示すということは見当らなかった。また、肝細胞の培養したものでは、in vivoの分布に極めて類似した配列を示す顆粒は観察されたが、必ずしもそれが全てではなく、種々雑多の分布を示すものが多く、結局はこのAPase顆粒をもって、肝細胞のmarkerとし、それによって培養期間中に肝細胞の変化を追求しようということは不可能であることが分った。

 次にG6PaseとPhosphorylaseの検出であるが、これが予想以上に難行して、目下の処、後者の染色は培養材料で全く成功していない。G6Paseについては、肝培養後、3、5、8、20時間、2日、8日と日を追って移植片を凍結切片として調べた処、培養開始後necroseを起さず生き残っている移植片周辺の細胞に極めて強い反応を認めることが出来たが、移植片より遊出してカバーグラスに広く伸びた細胞では極めて低頻度で弱い反応が顆粒状、或いは、Network状に見られた。目下、なおPhosphorylaseについては検討中であるが、当初の予想に反して、これら2つのglycogenolysisに関与した2つの酵素をliver cellのmarkerとしようという試みはどうも失敗のようである。

この様にliver cell特有の酵素が極めて培養の初期に失活しているということは、注目すべきことであるが、活性を染められないということが、即ち、酵素蛋白の消失を意味するか否かは問題の残る処で、今後は、唯、単に種々な酵素を染色してみるということよりも、最近、Biochemistryで注目されている酵素の誘導という方向を、私の研究に取り入れて、肝細胞の酵素誘導能の変化を培養においてみてゆきたいと考える。なおG6Pdehydrogenaseの誘導については、既にin vivoでのcarcinogenesisにおける変化をみているので、これを参考として実験を進める。



:質疑応答:

[高木]培地中のglucose濃度は?

[堀 ]0.1%の80%です。

[高木]glucose濃度をふやすと、グリコーゲンは減らないのではないでしょうか。

[堀 ]問題は、組織化学的に決まるか決まらないかということが、果してどれだけの意味をもつか、ということだと思います。

[土井田]酵素活性がin vitroで3hrでなくなるというのはどういうことなのでしょう。

[堀 ]どういうことなのかと、いま考えているところです。

[土井田]一度無くなったものがまた回復するということもあるのではありませんか。

[堀 ]培養条件によってはそういうこともあると思います。

[土井田]定量的にはいえなくても、定性的には組織化学で判断できるのではないか。

[堀 ]そう思ってやっていますが、なかなか問題があるのです。

[土井田]細胞が1ケだと染まらないのが、沢山かたまっていると染まることがあるというのは、活性があっても染め出せないという問題もあるでしょう。

[難波]glycogen染色の固定法は?

[堀 ]-70℃のアセトンです。水は全然使いません。

[勝田]培養ごく初期に酵素活性が落ちるというのは、無くなるというより、ただ忘れているだけで、何か手段を使って思い出させれば、また復活するのではないかと私は考えています。



《高木報告》

  1. 発癌実験

     先の実験で10-5乗M/ml濃度の4NQOはorgan culture levelで毒性がやや強すぎる様に思えるので、今回の実験では10-6乗と10-7乗M/mlを最終濃度として用いた。

     組織はfoetal mouse skinで4mm平方の大きさに切って液体培地に接したlenspaperの上において培養した。培地はModified Eagle's media+10%BS+10%CEE(1:1)である。培養7日目(現在)まで組織は良くその構造が維持されており、10-6乗、10-7乗M/ml 4NQO実験群の間ではさしたる組織学的所見の違いはなく、一部にStratum germinationの増殖及びstromaの増殖が認められたが、対照との間に有意と思われる差ではない。

     Lasnitzkiがmouse prostateに20MCを作用させてその影響をみた仕事では、natural mediaの方がsemi-difined mediaより明らかにepithelial hyperplasiaを認め得たと云う報告をしているが、これがそのままskinの発癌実験にあてはまるかどうかは問題があるとしても、一応natural mediaについても検討する必要があろう。また今回は液体培地を用いて実験を行っているが、これは前回の班会議の時にも指摘された様に代謝産物及びcarcinogenのdiffusionの問題を考えての事で、skinはsolid mediaの方がよいかも知れず、組織片の周に孔をあけるか、または溝をほってそれに培地を流してやる方法も考えており、近々検討の予定である。これまでの培養のslideを供覧する。

  2. その他

    i ) 膵のorgan culture:どうやら私が帰国する前の仕事のlevelまで持って行けた様でrat pancreasの培養が比較的うまく行った。Schweisthalも行っている様にrabbitと異なりratの方がAldehyde Fuchsin染色により培養後長くβ顆粒を追求する事が出来た。それらのslideを供覧する。

    いよいよin vitroでラ氏島β細胞に対する種々agentの効果をみる段階に入る。効果の判定法としては蛍光抗体法、A & F染色と共にmedium中のInsulin assayも行う予定で目下rat epididymal fat tissueを用いたassay法を検討中である(I131-insulinを用いたimmunoassayは現状では実施不能であるので・・)またα細胞についても現在glucagon分泌にからんで未だ色々問題のある処でこれを解明すべく努力しているのであるが、どうやらchromium Hematoxylin PhloxineとAnti glucagon serumとによって周の切片を染色する事に成功し、まず一歩踏出したと云える。いよいよこれからFerritin抗体法による電顕所見も併せて検討することになる。またα細胞のin vitroにおけるfateの追求についてもStartした処である。

    ii ) その他これまでに分離した株細胞の写真を供覧する。



:質疑応答:

☆討論の前に、梶山氏より各種株細胞の種特異性に関する免疫学的検索のデータの展示あり。

[高木]細胞は組織培養しても種特異性抗原は変化しないとこれまで考えられてきています。しかし私はどうもその点問題があると思いますが・・・。

[堀 ]全細胞を抗原とすると、蛍光抗体法でどうしても核が染まらない。核を分劃して抗原にしても、やっぱり核は染まらない。これは不思議なことだと思います。

[黒木]種特異性でなく、系の特異性はでますか?

[堀 ]Isozymesでは、マウスの系によって差があるというデータをもっていますが・・・。

[勝田]顕微鏡写真の中でヘマトキシリンで濃く染る細胞はピクノーシスではありませんか。

[高木]そうではありませんよ。

[難波]メラニンか何かでは・・・?

[高木]細胞ですよ。増殖していますから。



《黒木報告》

ラット胎児肺組織の培養(3)

 4NQ、4HAQOを作用させる材料としてRat(Donryu)胎児肺の培養を試みていますが、まだ思うような結果が出ないで、いささか行き詰りの状態です。

Pronase digestでGrowthしてくる細胞は(写真を呈示)photo1の如きfibroblastが一部にみられますが、大部分はep.の様です。細胞質がうすく拡がり核の周りに顆粒がみられます。

 初代では前回報告したようにAlbumin添加も非添加も同様に3〜4日でfull sheetになります。

 2代目の植えつぎは0.02%pronase5min. at 37℃で細胞を剥し、40万個/dishで5cm dishに植えこみました。

24hrs.後には、alb(+)培地26.5万個/dish、alb(-)培地42.5万個/dish、更に4日後のtransfer時には、alb(+)培地36.8万個/dish、殆ど増殖の傾向がみられませんでした。(alb(-)はカビのcontami)。

 3代目は、alb(+)は35万個/dish→4日後には1.9万個/dish、alb(-)は35万個/dish→4日後には5万個/dish、細胞が殆んど増殖していないことが分ります。

特にalb.はtoxicに働くように思はれます。photo3はalbumin(-)の培地の細胞形態ですが、alb(+)培地を48hrs.作用させると、photo4の如く変性してしまいます。todaro、山根らのDataはhamsterを用いていますので、Albuminの作用がspeciesにより左右されることを示唆するものと考えられます。



《土井田報告》

RLH各系の細胞遺伝学的研究

 月報6507にRLH-1〜-4系細胞の染色体数を予報的に報告したが、この結果を多少補足するデータを得つつある。核型分析の結果はまだ報告する段階に至っていない。

     
  • RLH-1:染色体数のモードは69で、この値は以前の報告と同じである。核型も以前の報告と同じく、meta-、sub-meta-centric chromosomeが多い。この系の細胞はかなり安定状態になっていると考えられる。
  • RLH-2:染色体数のモードは78であった。核型分析はまだ行っていない。  
  • RLH-3:染色体数のモードは58であった。此の系の細胞の染色体数については既に報告したが、その際は63にモードがあった。染色体数の減少の理由については、更に核型の方からのデータもふやし、検討することを考えている。顕微鏡的に見た限りにおいて、此の細胞はtelocentric chromosomeを多く有している。
  • RLH-4:データが不充分であって、今後研究せねばならないが、染色体数のモードは一応69にある。(染色体数分布図を展示)



:質疑応答:

[佐藤]この4ツの染色体の核型は、お互いに似ているのがありますか。

[土井田]2と4はまだ核型を調べてありませんが、1と3に関しては全く似ていません。



《奥村報告》(書面による報告のみ)

  1. JTC-4Y細胞の核型分析に関する実験

     JTC-4細胞をcloningして、そのcloneの中から染色体数の少ない細胞系を分離する試みを続けてきた。現在までに分離したcloneのうちでchrom.no.が少ないものは、A:24〜28、B:27〜32、C:30〜33、D:34〜36、E:36〜38、F:38〜42である。これらのうちで継代中に、chromosomal aberrationが非常に少ないものは“D”で最終cloningから10ケ月経過した後にも、かなり高いpurityを示している。

     この“D”cloneの細胞のcell cycleをH3-TdRのpulse labelingによって分析すると、Sphaseの時間が16〜18hrs.という極めて特異的なlife cycle patternを示す。このcycle analysisは現在最後の確認実験を実施中。同時にchromosomeレベルでDNA合成のtime patternの分析も進行中。

  2. Autoradiographyによる培養細胞へのホルモン取込み実験

     6月号でH3-Progesterone、H3-Estradiolの細胞内取り込みの実験でオートラジオグラフィーがうまく行かないことを報告した。その後、細胞固定、ホルモンが細胞内の蛋白と結合する場合のことを考えて蛋白沈殿剤の種類(uranyl acetate)などを検討しているが、それらのことから一応次の事柄を問題点として拾い上げることが出来る。

    1. ホルモン濃度を0.1μg/ml(Prog.)、0.01μg/ml(Estrad.)のdoseでは細胞内への取り込みをautoradiographyで明瞭にみとめることはむづかしい。
    2. 固定、蛋白沈殿剤としては重金属含有液はbackのgrainが非常に出現しやすくて、きれいな標本を作ることはむづかしい。現在までのところcarnoy固定が至適である。