【勝田班月報:6512:3'-Me-DABによる培養内発癌は果たして成功だったのか】

☆☆☆今回は特に、佐藤班員の最近の業績(3'-Me-DABによるラッテ肝細胞の培養内悪性化)について、若しそれが本当に3'-Me-DABの作用による変異であるのならば極めて重要な業績であるだけに、そして且それが班の共同研究の一部であるだけに、果して本当に3'-Me-DABによったのかどうかを各班員が納得できるように理解するため、大部分の時間を佐藤班員の報告とそれに対する質疑にあてることにした。☆☆☆

《勝田報告》

  1. “なぎさ”培養よりDAB処理に移して生じた変異細胞について:

     前回にも報告したが正常ラッテ肝細胞を“なぎさ”状態で1〜数カ月間培養し、これを継代してTD-15瓶に移し、DABを5或いは10μg/mlに与えると1週間以内に培地のDABを消費しないようにそのCell populationの性質が変化する。“なぎさ”培養だけの場合に比べ、この処置をおこなった場合の特徴として、非常に高率に変異細胞の現れることと、非常に短期間のDAB処理でpopulationとしての変化があらわれることである。この際の“変異”のcriterionとして“DABの消費能”に注目したが、これは結果的には消費能だけでなく、染色体数のモードにも変化のあらわれていることが後にわかった。また“消費能の低下あるいは消失”はかなり安定した変化で、第1回の測定(DAB処理約1月後)のさらに3月後にもほとんどの細胞群がそれを回復していなかった。Sublines、A、K、P、R、TはRLC-5よりできたものであり、BはRLC-6、CはRLC-7からできた(各系の染色体数分布図を呈示)。

    この場合問題にしなくてはならないのは、RLC-5の原株である。Rができるころまではよかったが、以後染色体のモードに変化があらわれ、継代とともにしだいにモードの本数が減少して行ってしまった。Tは減少しはじめてから実験にかかったものである。これらの変化はあとになってから染色体数をかぞえてみて判ったことで、やはり株を継代しているとき、特に実験に用いているときには、時々染色体用の標本を作っておくばかりでなく、その数もなるべく早くかぞえておいた方が良い、ということが判った。ともあれ、RLC-5の原株がこのようにかぞえるたびにモードの染色体数が減って行くのは面白い現象で、今後どの位まで減ってしまうか、別の意味で期待されるところである。

     他の発癌実験では、これまですべて、染色体モードが42にあり、細胞の形態も異常のない株を我々は使ってきた。そして少しでも大小不同とか異型性のあらわれた場合は、これはみな凍結してしまった。今後の実験でもやはりこの方針は守り、且、なるべく生体から取り出した以後の日数の少い内に実験に用いるようにしたいと思っている。

  2. Tween20の細胞増殖に対する影響:

     Azodyesをとかすのにtween20を用いてきたが、このtween20のcytotoxicityが問題になるのではないか、つまりazodyeで悪性化したとしても、そこにterrn20が一役買っていると事が面倒になるので、RLC-7(正常ラッテ肝)とJTC-2(ラッテ肝癌AH-130)の両株を使い、DABを5μg/ml finallyになるように揃えて、tween20の濃度を0.005%、0.01%、0.025%、0.05%とかえ、7日間の増殖に対する影響をしらべた。RLC-7では、薄い3濃度では細胞増殖を抑え、3者間にあまり差がない(controlの増殖度が低いため)が、0.05%で著明に細胞がこわされて行った。つまりtween20がDABの増殖阻害を促進している。JTC-2では濃度に比例してはっきり増殖抑制がみられ、殊に(DAB5μg/ml+Tw.20:0.025%)の群と(DAB5μg/ml+Tw.20:0.05%)との間に(DABなし、Tw.20のみ0.05%)の群が入ったほどであった。



:質疑応答:

[奥村]Tween20は、どの位まで濃度を下げられますか。

[高岡]加熱してうすめれば1/10まで下げられます。その代りすぐ培地で稀釋しなくてはなりません。

[奥村]佐藤先生の所は?

[佐藤]定量する時には、もっとTween20の濃度をあげないと、はかれません。血清が入っていると溶解しやすいように思います。寺山氏の所ではアルコールで溶すそうです。

[黒木]山田先生のHeLaでのコロニー形成に対するTween20の影響は、どんな結果だったでしょうか。

[奥村]Tween20添加で細胞増殖をおさえるということは、動物での発癌と培養での発癌との間に、大きな違いがあるということですね。細胞表面などに変化があるだろうと思われるし、直接に働く所などもちがうでしょうね。

[黒木]保存中に析出するのは、どの濃度からですか。

[高岡]低温保存で1/2稀釋までは析出しません。

[黒木]3'メチルDABの場合も同じように溶かすのですか。

[佐藤]同じです。

[奥村]3'メチルDABの方が少しは溶かしやすいのではないでしょうか。

[佐藤]そんな気もしますが、よく分かりません。勝田先生の株で2nを保つのは2年位ですね。

[奥村]九大の高木先生の株などは、わりに早く多い方へ移ったようですね。

[黒木]腹水癌は(ラッテの場合)低2倍体へ移ることが多いようですね。



《佐藤報告》

 班会議で最近の実験について纏めて話す様、連絡がありましたので、一部はコピーにして持参します。できる限り御了解いただける様、説明いたしますが、完全に理解いただけるかどうか心配です。

RLD-10細胞に20〜10μgを添加して最初に出来た腹水癌の腹水所見、その再培養細胞の所見。更にin vitroで20〜10μg添加をつづけた後、復元して出来た腹水癌細胞AH-TC91aの腹水所見、その再培養細胞の所見。

RLD-10細胞から15μgDAB添加により出来た腹水細胞(AH・TC-97)とその再培養細胞の所見。RLD-10細胞に10μgDABを添加した後出来た腹水癌細胞(AH・TC-96)とその再培養細胞の所見。(顕微鏡写真を呈示)

それらの4系の腹水中にある癌細胞の島を構成する細胞の数を比較すると、1個が主流のものが3系、AH・TC91a系だけが、1個と11個以上とが同数でした。

 次に4系の腹水癌の動物継代の所見をみると、いづれの系でも継代によって生存日数が短縮しています。例えばAH・TC-97aでは、復元第1代は73日生存していますが第6代は11日生存です。
 (染色体数分布図を呈示)染色体は親株RLD-10(in vitro)をはじめ、どの系も正2倍体ではありません。

 RLD-10の対照系であるRLN-10に3'-Me-DABを添加した場合は、RLD-10に比して3'-Me-DABに対する抵抗が弱いこと。核仁の増大の殆んどないこと。等が特長です。20μgの3'-Me-DABを添加すると殆んどの細胞が変性するが、少数のtransform or selectionの細胞がのこる。



:質疑応答:

[奥村]染色体数の分布図を拝見しましたが、検索してあるのは数だけですね。

[佐藤]そうです。

[黒木]復元接種したときはやはり途中経過をみるべきだと思います。

[佐藤]途中でtumor cellが見つけられたのに、結局死なないで生きているという例がありますから・・・。

[黒木]その経過について説明して下さい。

[佐藤]途中で腹水をとってみたら、tumor cellがあったのに、その後60日以上も生き続けているのがあるのです。

[黒木]では癌がなおったというのではないのですね。

[奥村]RLN-8のラッテについたというのが、動物の既成の腹水癌の混入でないという根拠は形態だけのことですか。個人的にコンタミの可能性があると思いますか。

[佐藤]形態でだけのことです。コンタミということは考えられません。

[勝田]RLN-8の動物に復元して、増えたものの染色体数は?

[佐藤]未だ調べていません。

[黒木]剖検所見をみると、悪性の腹水癌の像に似ていて、緩慢に増えるものとは似ていませんね。非常に長い潜伏期があって、増え出してからは急速に増えたのではないでしょうか。

[佐藤]それは充分考えられます。そしてそれを動物へ継代すると、2代目は早くなって20日位で死ぬようになります。なぜこんなに長い潜伏期があるのかは、わからないのですが。

[黒木]他のcontrol lineの形態は?

[佐藤]今日は持ってきていませんが、RLN-8は他のlineに比べて、増殖は速く細胞質の塩基性も強くシートの出来方についていうと、それぞれの細胞同志の間のつながりが弱いように思えます。

[黒木]RLD-10のことですが「3'-Me-DABで出来た肝癌と、無処置の培養からの肝癌との間には圧倒的なちがいがある」というのは生存日数のことですか。

[佐藤]生存日数のことと、発生率のことです。

[勝田]圧倒的な差異といっていいのでしょうか。

[佐藤]takeする率が非常にちがいます。RLD-10のcontrolは2/9、150日死亡、DAB長期投与群は22/25、70〜80日で死亡です。今後の実験では、復元試験の観察を2ケ月で打切ろうかと思うがどうでしょうか。

[奥村]矢張り死ぬまでみるべきだと思います。

[勝田]この2/9と22/25という分母のとり方は接種量を一定にしなければ意味ないのではありませんか。

[高井]しかし、それぞれを詳細にみると、22/25という方が接種細胞数の少ないものが多いのだから、悪性が強いのだろうとはいえますね。

[黒木]復元接種試験の結果からすると、脳内での復元は意味ないということですね。細胞数を揃えて腹腔内に接種すれば、実験的にはもっと整理できますね。

[勝田]死亡表の黒丸の基準は?

[佐藤]死んだものを黒丸にしてあります。124だけは、他のものと異って死なないうちに調べたら腹水がとれたので死ぬことを予想して黒にしました。しかしそのあと、まだ生きているので結局、白に戻しました。

[高井]その当時は腹水中に細胞があれば当然死ぬと思ったわけですね。

[勝田]一つの表の中で基準のちがうものが一緒の記号で混在しているのは、一寸変なセンスですね。

[高木・奥村]斜線にでもして、他と区別すればよいのではありませんか。

[勝田]RLD-10の系図の真中の所もtakeされたのですから黒になるわけですね。

[佐藤]程度のちがいはありますが、黒にするべきかも知れません。

[奥村]程度の差は別として、つくかつかないかの判定では黒にすべきですね。基準をどこにおくかの問題ですが、この場合何匹中の何匹であろうが、つけば黒にするべきと思います。

[黒木]この表は、定性的な問題を表しているのですから、黒にすべきですね。

[佐藤]訂正します。

[高井]今の判定基準でゆくと、この表に出ている65.2.20以前にもついていたかも知れませんね。

[佐藤]そうです。ですから、プライマリーから始めて、3年間のこの実験の再実験をやるべきだと思っています。

[黒木]9.15に枝分けして10μg加える以前の復元実験はないわけですね。

[佐藤]ありません。

[勝田]そうすると、定性的にいうと、中心の線の真中辺で細胞が変った可能性があるわけですね。我々として知りたいのは、その後の各系の染色体はどうなのか、ということですが。

[佐藤]動物へ復元して腹水系化したものについての染色体についてだけしかしらべてありません。

[高木]ついた系を、DABを除いて培養すると腫瘍性がおちるかどうか、わかっていますか。

[佐藤]それはやってみていません。

[勝田]その問題は、2次的なことと思います。

[奥村]生後24hr.の動物への復元では、トレランスということも考えねばならないのですね。

[高井]ついた例をみると、トレランスが成立するには、接種量が少なすぎると思いますが・・・。

[黒木]トレランスについて、説明して下さい。

[奥村]新生児に1,000万個以上の細胞を接種すると、immunotoleranceが成立して、癌細胞でなくてもつくという事を考えねばならないということです。

[佐藤]成ラッテにも、つけてみています。その方が悪性度の強弱に、ふるいがかけられて、判りよくなると思うのです。

[奥村]幼若ラッテの場合は、抗体産生能がないという意味で、成ラッテにコーチゾン又は、放射線処理した場合とは意味が異うと思いますね。

[高井]今後は、成ラッテへ復元テストする事にすればよいのではないでしょうか。

[奥村]幼若ラッテへの接種の場合、動物内で再変異して増殖するという可能性があるのではないかと思います。immunotoleranceの場合は1千万〜1億という大量の細胞を入れますが、この場合は入れた数がそれよりずっと少ないから、不完全なトレランスが成立しているとも考えられるようです。こういう実験の場合は、どの位の細胞を入れれば、どういう風にトレランスが成立するのか、をcontrolにおかなければならないと思います。

[黒木]アデノによる癌化細胞の場合も、成ラッテにはつかず、乳児に復元してtakeされる、というのはどう考えますか。矢張りimmunotoleranceの成立とみるのでしょうか。

[奥村]当然ひっかかってくると思いますね。

[黒木]奥村さんの言ったのがうなずけるのは、あの剖検例からは、そう考えると、その過程が説明できますからね。

[奥村]ハムスターなら生後3日、マウスは2日、ラットも2日位の間ならimmunotoleranceが成立するそうです。

[高井]immunotoleranceの問題にあまりかかわると、問題が複雑になると思います。抗原性が違うということで、ふるわれるものがあるにしても、復元は成体ラッテに限るという風にすればどうでしょうか。

[高岡]染色体数が34本になってからの再培養lineはtakeされますか。

[佐藤]やってみていません。

[勝田]このlineはさっき高木班員の言った「takeされた系をDABなしで培養継続すると、どうなるか」という質問の答になりますね。

[高木]そうですね。真中の線の途中、丁度枝分れしたあたりで、染色体数が変ったのではないか、ということが考えられますね。

[黒木]この変化は重大ですね。RLD-10にDABを添加する再実験のことですが、実験3と4との開始時期はRLD-10 control群がtakeされる前後ということになりますね。

[佐藤]そうなると思います。

[勝田]染色体数のばらつく時期の意味は・・・?

[奥村]一般的に考えると、いろいろな性質のものが、わっと出てきていると思われますね。

[勝田]低3nといっているものの間に、核型にちがいがあるかどうか、調べなくてもよいのでしょうか。

[奥村]しらべるべきでしょうね。

[佐藤]此頃は、永久標本にしていますから、この次までには核型を並べて来るつもりです。

[奥村]お宅の以前の染色体のしらべ方は、標本の作り方や計数の対照とするものの選び方について非常に問題があって、あまり正確なデータが得られていないのではないかと思います。

[佐藤]私もそう思います。

[奥村]いくつ宛算定していますか。

[佐藤]50ケです。

[奥村]染色体の数え方及び分析というのは、矢張りかなりのキャリアが必要と思います。50コという頻度は、非常になれた人が結論を出すために必要な最少限ですね。なれない内は、少なくとも200コ位数えないと、このピークがはたしてそれぞれの特徴かどうか、はっきり言えないと思うのです。

[勝田]佐藤班員は、この仕事の結論を自分でどう考えますか。

[佐藤]

  1. まず3'メチルDABによって細胞の形態が変るということは云えると思います。
  2. controlの分のtakeされる率や生存日数の長いことから考えて、3'メチルDABはtakeされる率を高め、生存日数を短くする働きがあると思います。再培養細胞に3'メチルDABを加えた場合も生存日数を短くすることを確めています。

[黒木]ということは、もともと或る程度腫瘍性をもっているものに対して、3'メチルDABが腫瘍性を増す働きをするということですね。

[奥村]とすると、このRLD-10の系の実験について、この真中の系が、どこで、何故腫瘍化したかが、クローズアップされねばならないですね。
 *黒木班員が黒板に系図を書き、日数を入れて解説を試みるが、判らなくなり中途で挫折する。

[勝田]実験のやり方が乱雑すぎるから、他人に納得させにくいんです。

[佐藤]RLD-10にDAB添加しての再実験の系がtakeされない件ですが、今日は云わなかったが、それらの群で、当然DABを消費しなくなっていると思われる系が依然消費することがわかっています。

[高岡]RLD-10のoriginal lineの維持の仕方は・・・?

[勝田]1本のものから分けて使っているのですか? 我々の実験では、同じように継代していても二つのtubeの間に違いが出て来たということがあります。そういうことはありませんか。

[佐藤]もとのものは1本の瓶で、実験の度に分けて使っています。

[高井]継代時の接種細胞数は?

[佐藤]700〜1,000万個/TD40をとって5〜10万個/mlつまり100万個/TD40位にして使います。週に10〜20倍に増えます。

[高井]復元したねずみの腹水の細胞濃度は?

[佐藤]1,000万個/ml位です。

[高井]3'-Me-DAB処理群とcontrol群のtakeの差は、腫瘍細胞全体の性質がちがうことと、腫瘍性のある細胞が少数まざっていたということと、二つ考えられますね。継代時に二つ或は三つに分けた時、その少数の腫瘍細胞が入った瓶と、入らなかった瓶が出来たということは考えられませんか。

[奥村]今日聞いた限りでは、これらのデータで定量的に討論することは全く出来ないと思います。自分の考えでは、これらの実験は予備実験として、これから本実験に入らねばならないのではないかと思います。

[佐藤]これからの実験予定としては、これらの株についてはもはや発癌実験には使えないと思っています。初代培養を使うこと、特に完全な純クローンを使って実験を始めようと思っています。一番困ることは、つかなかった場合にもつかないということが言い切れない点です。

[黒木]cloneでもすぐ変った細胞が出てくるので、絶対とは言えませんね。

[高岡]材料を厳選することも必要と思いますが、例数を増やすこと、再現性を高めること、を先に考えるべきだと思います。

[奥村]これを予備実験として生かすには、3年間constantにcontrolを培養出来るようにして、この実験を再現してみるべきだと思います。それができて初めて、発表するべきでしょうね。

[佐藤]そこで聞きたいことは、どういう材料を使えば、もっときれいな実験がやれるかということについて教えて欲しいです。血清などは、大量にプールして始めるよう、またcloneのことも計画しています。CSとBSのちがい、トリプシンとかき落すのとのちがいも検討する予定です。

[勝田]班の研究の一端として、この実験の将来計画について、皆さんから御意見を伺いたいと思います。

[高木]もう一度新しく再出発して、一つの系はこの実験と同じことをくり返して再現性を確かめてみるべきだと思います。

[黒木]Exp.IIIとIVとの結果を待ってみて、それがIIを再現するか否かで、佐藤結論が正しいかどうかが決まると思います。この実験をどうやってやりなおすかという事になると、いま云われたCSとBSのちがい、トリプシンとかき落し、DABの+と−、という風な実験プランにすると、又もっと複雑になるのではありませんか。どちらにしても何時かは、自然発癌する系で実験している訳ですね。ですから関与する条件を簡単にすること、DAB添加条件も簡単にすること、cloneに必ずしも頼らなくてもよい、系を枝分けする時は必ず一部を凍結保存することと検査する必要があると思います。

[勝田]この実験系図をみていると、Exp.IIに関しては、他の系とは非常に異った或るfactorが加わっているのではないかと思われます。例えば、ウィルスの感染があるとか・・・。それからRLD-10以外には、こういうDAB添加実験をやっていないのですか。

[佐藤]他にはやっていません。

[勝田]どんなCell lineを使っても再現性がなくてはいけないですね。

[奥村]それは必ずしもそうでなくてもよいのではないですか。DABの実験に入る前にもし変異していたりすると、同じ結果にはならないと思います。

[勝田]勿論、100%でなくても、50%でも再現性がなければね。

[黒木]この実験をどう評価するか、何を追求するかですね。

[奥村]途中経過をちゃんとみて、杭をきちんきちんと打っておかずに、どんどん進んでしまった観がありますね。

[黒木]3'メチルDABだけで細胞に癌化を起すことは出来ないが、或る変化を起した細胞に3'メチルDABヲ加えると、腫瘍化する、ということはいえますか?

[高木]系図の左側の方がつかないというのは、どう説明しますか。

[勝田]問題はもはや佐藤個人ではなく、班としての態度の問題です。癌学会で発表して、試験管内で3'メチルDABで腫瘍化成功、という印象を与えていますから、何とか論文ででもありのままを発表したいところですが、1例報告ということではどうも問題がありますね。

[高木]厳密に言えば何も言えないのではないですか。事実としては、何となくDABが腫瘍化を促進しているというように思えても・・・。

[黒木]使うcell lineが安定するにはどの位かかりますか。

[佐藤]1年半位かかると思います。

[高井]私は高木班員と同じような意見です。進行中の実験IIIとIVとの結果をみて、この実験を打ち切る方がよいと思います。自分自身の感じとしては、こんなに厳密に時々染色体や復元をチェックし、その時々の細胞の保存も必要となると、とても自分にはやってゆけないような気がします。

[高木]今まではとにかく復元してtakeされる細胞をと、そこに焦点をあわせていたが、こうなると又だいぶむずかしくなるわけですね。

[勝田]ついたついたといっても、それがまず自分で再現でき、また他人も追試できなくては科学とはいえませんね。

[高木]継代はあくまで1本から1本ですか。

[佐藤]1本です。TD-40、1コです。

[勝田]枝分けする前の染色体分布が広い幅の場合、その途中の処置をちがえた事でselectされるとは、必ずしも云えないのではないでしょうか。つまり分けた時すでにちがった細胞が分注されているという事なら、最後に染色体数のちがう系が出来ても当たり前ではないでしょうか。

今後の我々の方針としては、もっと短期間の発癌実験をねらうべきですね。それから癌学会で発表したことの後始末はどうしましょう?

[佐藤]提出原稿には、control群もtakeしたということをはっきり書いて出しました。

[黒木]Exp.IIIとIVの結果を待ってから論文にしておくべきだと思います。

[勝田]Exp.IIIとIVの結果は何時わかりますか。

[佐藤]来年4月か5月です。

[奥村]何れにしても正式に発表するべきだと思います。来年の癌学会には出すべきでしょう。

[高井]黒木班員の云うように、学会に出すだけでなく、事実を事実として論文にすべきだと思います。他の問題と一緒でなく、この問題だけ、独立した論文にすべきだと思います。

[勝田]結論として、今は論文にしない、少なくともIIIとIVとの結果がわかってから、もう一度討論して決める、ということですね。佐藤班員が今後補足すべき実験として、どんなものが考えられますか。それからもはややめるべき実験も・・・。

[黒木]動物継代、再培養はやめてよいと思います。10μgL2というlineがつくかどうかはみて欲しいですね。

[高木]真中のlineのtransformationについて、確めることと、DABを長い間添加した系は復元するとどうか、ということをみて欲しい。

[黒木]これは重要ですね。こんなに長い間DABを入れて、それが何の役にも立っていないとすると妙ですね。

[勝田]染色体は全部みておくことが必要ですね。黒木君の云った10μgL2の復元成績をみることも必要でしょう。こうしてみると、RLN-8とRLD-10が自然腫瘍化を起した。それからRLD-10のDAB添加実験については幾つも系があるが、結局元は一つだから、元の一つが自然腫瘍化した・・・ということになりますね。



《高木報告》

 前報の如くwatch glass methodによるplasma clot上のorgan cultureを少し宛始めた。結論から云うと、初回の事なので不慣れの為か、Liquid Mediaを用いたこれまでの培養より寧ろ悪い様であった。以下、その方法を記する。

  1. 生後約3ケ月の雄鶏を1日絶食させてHeparin加採血後Plasmaを分離する。11日発育卵よりChick embryo extract(1:1)を得て、3.5cm watch glassにplasmaを6滴、C.E.E.を2滴、滴下して撹拌後、放置するとclotを生ずる。ついでこのcolt上にサージロンをおき、その上に組織片をならべて培養した。

     サージロンは最近入手した合成繊維のmeshで組織を移し換える時の障害を防ぐ為に用いたもので、あらかじめ蒸留水、エタノール、エーテルにて清浄後、高圧滅菌を行い1x1cmの小片に切ったものを用いた。Watch glassはそのまま6cmのpetri dishに入れ、全体をmoist 炭酸ガス Chamberに入れて培養した。

     MaterialはSwiss mouseの生直前と思われる胎児の皮フで、胎児を無菌的に摘出後、Hanks液で数回洗って、ハサミで背部の皮フを剥ぎ取り、2x3mmに細切してplasma clot上に置いた。4NQOを10-5乗Mol最終濃度に入れたものと、controlを設けたが、4NQOはあらかじめplasmaに加えて所定の最終濃度になる様にした。これらは夫々3〜4日毎に培地の更新を行い、この時meshと共に持ち挙げて移したので、組織に対する外力による物理的障害は比較的軽度で済んだと思う。培養開始後、9、13、19日目に夫々固定染色して観察したが、始めに触れた様に結果については全く期待はずれで、培養19日目のものではほとんど全滅の状態であり、13日目のものでも現在までに行ったLiquid mediaによる培養結果に比べてかなり生きが悪かった。

     惟、最初から懸念された様に、サージロンにかなり硬く附着しているものもあるので、これ等は剥す際に大部分の健常な組織がmeshの方に残って了うのではないかと考えられるので、その点、工夫を要する。またBang等の報告ではHeparinはtoxicであるとしてこれを用いず、siliconをcoatした注射器でplasmaを得ているが、この点も更に検討すべき問題であると思う。

     現在、更に多数のものについて、出来るだけ長期間培養する様に新たな実験を行っている。

  2. 上記の実験と同時に牛血清の影響をみる為、Liquid Mediaによる高濃度B.S.含有培地によるfoetal mouse skinの培養を行った。方法はEagles basal mediumを用い、これに夫々B.S. 20、40、60%を含む三群を置き、C.E.E.は全く加えなかった。他の点についてはこれまで報告したLiquid mediaによる方法と同じで、refeedingの時mediumの半量宛を交換した。培養後、9、13、19、23日目に夫々固定染色して観察したが、19日目のものを見ると、B.S.60%を加えたものが最も組織が健常に保たれ、40%、20%と濃度が低くなるにつれて壊死の度合が強くなる様に思われた。しかし何分にも例数が少く、今後更に例数を殖すと同時に一層多くの血清濃度の段階を設けて検討する予定である。

  3. 次いで11月10日より予備的にC3Hmouse乳癌組織の培養をWalffの方法に従って行ってみた。方法は周知の如く、Embryo extract、Bovine serum、Hanks soln.を3:3:6の割合に取り、0.5%にagarを混じたもの2mlを3.5cmのpetridishに入れ、固った後に2x3mmの組織片と、8日目のchick embryoより摘出した1〜2mm径のmesonephrosを相接して培養した。

     またこれと比較する意味でEagle's basal medium、B.S.、C.E.E.を6:3:3に含むLiquid mediaを用いたstainless mesh上の培養も併せ行った。両者共に4〜5日毎にmedium changeを行い、特にLiquid mediaのものはその半量宛を交換し、夫々5日、12日目に固定染色後、観察した。培養5日目のものではcentral necrosisを中等度に認めるのみで、両群共に大差はなかったが、12日目に至るとmesonephrosを共存させたものではcentral necrosisは可成り強くみられたが、未だ周辺部に健常な細胞群が認められるのに反し、mesonephros−のものでは腫瘍組織はほとんど溶解した様になり細胞構造が全く認められなかった。



《黒木報告》

ハムスター細胞の培養(1)

 4NQOのhost cellとして今までRat embryoのlungを用いて来ましたが、3-4 transfer generationでgrowthがstopし、又細胞の形態も、epithelial(むしろRES originを思はせる)であったため、ハムスターに切りかえてみました。

 ハムスターの場合はTodaroらによりAlbuminの高濃度添加がGrowthを維持する旨報告され、又、山根研においても追試されていますので、その培地を用いる事にしました。培地の構成はEagle MEMにアミノ酸PRO. 0.1mM、GLY. 0.1mM、SER. 0.2mMと、Pyruvate 1.0mM、Bacto-Peptone 0.1%、Bov.Albumin(Armour Bov.Alb.Fract.V)1.0%を加えBov.Ser.を20%添加しました。現在はC.S.を用いています。(山根研の培地はPRO.とGLY.を除いてあります) 13/XI'65 生後1週間のハムスター♀から、肺、肝、腎を剔出、Explant outgrowth法でdish、TD-15、TD-40にてcultureした。細胞の名は次の如し。Hai-11(肺由来)、Kan-11(肝由来)、Jin-11(腎由来)。それぞれ一週間後にはほぼfull sheet近くなった。

 GrowthをBov.Alb.のあるなしで比較すると、肝を除き、Alb.のある方がGrowthはよい、肝ではAlb.の有無に拘らず同じ様に増殖する。

 興味あるのは細胞の形態である。Kan-11はBov.alb.(+)でfibroblastic、(-)ではepithelial。Jin-11は(+)でpureなfibroblast、(-)では少しep.及び丸い細胞がmixするがFib.が多い。Hai-11は(+)でfibroblastは少しでepith.及び丸い細胞がmixしている、丸いのはsusp.でもgrowthするようである、(-)ではgrowthがみられなかった。

 すなわち、Kan、JinではBov.alb.の存在がセンイ芽細胞を選択するように思はれます。特にKanではこの傾向が著明です。(この機序が同一細胞の表現の差によるものか、又は違う細胞のSelectionによるかは明らかでありませんが)

 又Rat Embryo Lungのときのようにmultilayer格子模様が今回もJin株においてみられました。Contact inhibitionの概念も少し修正される必要がありそうです。
 ともかく、培地、臓器により、細胞に差のあることは確かですので、これらの組合せから目的にあったcellをとりたいと思っています。
 ハムスターの他に純系のバッファローラットが手に入りましたので、これでも試みてみる積りです。BuffaloはMorrisのminimum deviation hepatomaのhostとして有名です。

 4NQの添加はとりあえず、Jin-11のセンイ芽細胞から始めます。(顕微鏡写真を呈示)



《高井報告》

 in vivoで作ったActinomycin肉腫(固形)の細胞と、in vitroでActinomycin処理を行っている細胞との、ギムザ染色による比較について報告します。(夫々写真を呈示)

  1. 固形Actinomycin肉腫のTrypsin処理細胞浮遊液の塗抹標本。

     ActinomycinSを4カ月間皮下に注射して、btk mouseに作ったActinomycin肉腫を、primary cultureするために、Trypsinによって細胞を分散せしめた時に作った塗抹標本です。従って、細胞質はかなりdamageを受けています。大部分が腫瘍細胞と思われます。細胞の大小不同が著明であり、非常にbasophilicに染る細胞質をもつものと、basophilicではああるが、かなり淡く染る細胞質をもつものとの2種類の腫瘍細胞が、ほぼ同数位の割で混在しています。核は大きく長円形乃至腎臓形で、核小体は大きくて数コあります。

  2. ASS.IV.培養細胞(上記 1)をprimary cultureせるものの2代目)。

     上記の細胞浮遊液を培養し、2日目にTrypsinでタンザク入小角に継代したものの、継代後2日目の標本では、細胞は多形性に富み、突起の多い多角形、紡錘形のものが多く、大小不同も著明である。細胞質はbasophilicであるが、1)にのべた非常にbasophilicな細胞質をもつものは殆どない。核は長円形で核小体も大きい。

  3. bEIX K.3代目(通算34日目)(control群)。

     btk mouse embryoの皮下fibroblastのcontrol群であるが、これでも細胞の大小不同、多形性は著明で、核小体もかなり大きいが細胞質が明るくてbasophilicityが弱いことが2)に比してはっきり異っている。

  4. bEIX Ac.2代(通算33日目、Ac.0.01μg/ml持続、28日間処理)。

     2)に比べると、多形性がまだやや少い感があり、どことなく違っている様にも思われるが、核、核小体の形態も2)に似ており、殊に細胞質のbasophilicなことが2)によく似ている。この細胞を、btk mouse皮下に約200万個、ごく最近復元接種してあります。

    他に、C57BL mouseのembryo皮下fibroblastを培養して、同様なActinomycin処理を行っている系列もありますが、この方はまだ4)の如き2)に似た細胞にはなって居りません。

  5. ASS.IV細胞の移植実験。

     Actinomycinによって悪性化した細胞が、最少限何個あればtakeされるのか?又、その場合、Tumorが発見されるまでにどの位の期間が必要か?を知るための一つのモデルとして、上記1)の細胞を1,000コ、100コ、10コづつ、各群5匹のbtk mouse(♂)の皮下に移植しました。1週間後の現在までには、まだTumorは見出せません。もし、10コでもtakeされる様なら、今後in vitroの実験群の復元も容易になるのではないかと思います。



:質疑応答:

[勝田]この細胞はよく動きますか。

[高井]これから映画をとってしらべようと思っています。

[黒木]培養細胞は何時ごろから肉腫細胞に似てきましたか。

[高井]それがよく分からないのです。



《奥村報告》

  1. JTC-4細胞の染色体機能の解析:

     JTC-4(ラッテ由来)細胞株からのclone分離の結果、染色体数の極めて少ない系を得たことは以前に報告済みである。その後、この細胞を生物学的モデルとして、いくつかの実験を計画しているが、その中の1つとして染色体の機能、つまり細胞の形質と染色体の関連性を探る実験として、2つのcloneを用い、1〜2本の染色体を利用し、それらの染色体(DNA)によって作られる抗原物質を見出す実験をスタートした。方法は、

       
    • 細胞:Normal rat heart(primary)、JTC-4/Y-A2、JTC-4/Y-B2。  
    • 動物:Hamster(syrian)、mouse C3H/He。  
    • 免疫方法:各動物の生後24時間以内に各細胞を5千万個〜1億個/個体に接種(この際死亡するbabyは20〜50%)、1〜5週後に免疫用細胞を接種し、CPで抗体価を測定する。

  2. ウサギ子宮内膜細胞の培養(ステロイド系ホルモンとの関連性)

     Progesterone、Estradiolの各ホルモンを或濃度で作用させると、細胞増殖の促進が認められることは既報の通りであるが、濃度を高くすると、細胞質に空胞あるいは液胞状のものが出現する。これはホルモンに対する感受性細胞の特異的反応であるかないかは今後検討する予定である。ホルモン濃度を更に高くすると、一見非特異的と思われる変性像がみられる。細胞増殖促進濃度はProgesteroneで0.05μg〜0.5μg/ml、Estradiolで0.002μg〜0.01μg/ml。特異的反応(?)はProgesteroneで1.5μg〜2.5μg/ml、Estradiolで0.8μg〜1.5μg/ml。変性非特異的反応(?)はProgesteroneで3.5μg/ml以上、Estradiolで2.0μg/ml以上である。



:質疑応答:

[高木]Toleranceの作り方を教えて下さい。

[奥村]生後24時間以内に、5千万個〜1億個の細胞を接種します。これでtoleranceが成立します。

[高木]免疫はどうしますか。

[奥村]生後7日後、14日後、30日後と細胞を接種して作ります。そのときtoleranceを、一つのcloneの細胞で作っておき、あとから同じ動物に他のcloneの細胞で免疫しますと、重複しない染色体の分の抗原に対する抗体ができます。早ければ1月位に抗血清がとれます。

[勝田]腫瘍抗原が核にあるというのは確かですか。

[奥村]SV40腫瘍の場合は文献にもありますし、自分たちの実験でもそうです。


☆☆☆次期の研究班の申請について☆☆☆


[奥村]存続した方がよいと思います。形は培養を中心においてもよいから、レパートリーをもっと広げて、直接発癌でなくても、生化学的な面から攻めてゆくし、免疫学的、或はウィルス発癌などをやる人を含めていったらどうでしょう。

[黒木]班長がそんなにいやならやめても、と一時は思いましたが、佐藤班員の問題の解明のためにも、ぜひ班という組織の中で解決してゆきたいと思うので、存続を希望します。それと、もう少し広い知識をとり入れるように図ることを希望します。もっともあまり拡げると、discussionが漫然としてしまうので、どの位拡げるかは問題ですが・・・。

[高木]黒木氏と同意見です。佐藤班員の仕事が、予備実験として終ったところですので存続した方がよいと思います。班の構成としては、virus屋も1人位良いのですが、核酸や蛋白に詳しい人も欲しいと思います。発癌というテーマにしぼりながら、もう少し幅をもたせるやり方がよいと思います。

[高井]前の方々と全く同意見です。

[佐藤]存続を希望します。個人的には、今後は量的には仕事量を減らし、もう少し質を上げたいと思っています。

[勝田]癌のことを知っていて、核酸、蛋白、に詳しい人間を探すのはむずかしいが・・・。

[高木]自分の所に居る高橋君も、核酸、蛋白に詳しいので、協力者として班会議に出席させて欲しいと思います。永井氏などはどうでしょう。

[勝田]小野氏、杉村氏なども考えられます。ただあまりあちこちの班に沢山入りすぎているのでね。

[黒木]大橋氏などは如何でしょう。

[勝田]奈良医大の螺良氏がこの班に入りたい希望をもっておられますが、如何でしょう。ウィルス発癌をやっておられますが・・・。

[高木・黒木・奥村]賛成です。

[奥村]各方面の専門家を入れるのは、協力者としてでなく、正式班員にするべきであると思います。それでないと傍観者的になる可能性が考えられます。

[勝田]では結論として、次期も班を継続することに決めましょう。そして今伺った皆さんの御意見を加味して、新しく入班して頂く方々について御意向を伺ってみます。結果は後から御報告します。☆☆☆