【勝田班月報:6602:器官培養による発癌実験の試み】

《勝田報告》

  1. DAB-N-Oxideについて:

     DABの発癌性中間代謝物としてDAB-N-Oxideが寺山氏によって主張されていますが、これはきわめてよく水に可溶で、1mg/mlでも溶け、高圧滅菌が可能でした。そこでまずRLC-9株(正常JAR系ラッテ肝細胞)を使って、その増殖に対する影響を1、5、10、20μg/mlの各種濃度でしらべました。こういう薬剤の効果をしらべるとき、細胞をsuspensionでinoculateするときから加えるのと、細胞がmonolayerを作ってから加えるのとではかなり効果に差があることが判っていましたので、今回はその両方を試み、且比較してみました。

     (増殖曲線の図を呈示)細胞をまくとき同時にN-oxideを入れた例と、細胞をまいてから2日おいて、細胞が硝子面にくっついてからN-oxideを加えた例とを比較すると、何れも濃度に比例して増殖を抑えていますが、やはり初めから加えた方が抑え方が強くなっています。

     次にN-oxideを加えた培養の細胞の形態変化を顕微鏡映画で追いましたのでそれをお目にかけます。(映画供覧)10μg/mlに加えても、分裂する細胞はどんどん分裂しますし、一方、こわれてしまう細胞もあります。こわれる場合は、分裂の直後ではなく、間期にこわれるのが多いようです。

     ところで困ったことに、DAB-N-oxideはヘモグロビンやFeがあると簡単に分解してしまい、MABやDABなどになってしまいます。水溶液は320mμにmaxの吸収があり、220〜230、420〜440mμのところにも吸収があるのですが、培地に加えて2日間低温で保存しただけでも、このpeakは消えてしまい、410mμに移りました。この410mμのpeakは培養すると低くなりました(おそらくDABでしょう)。N-oxide単液ですとHClを加えて酸性にしても赤色にならないのですが、培地と混合したものは赤変しました。培地は20%CS+0.4%Lhです。ですからN-oxideを加えても、それがN-oxideとして働いている時間はごく短くて、別のものに変って働いているわけで、これもどうも余り具合の良い道具ではなさそうです。昨日の合同報告会で癌研の高山氏がニトロソアミンの話をされ、これは水溶性で具合が良さそうなので、今後はニトロソアミンも試み、その他4NQOなども要に応じて使ってみます。こうなったら手当り次第です。

  2. AH-7974、RLC-8に対するアルコール、Tween20の影響:

     表面活性剤の細胞増殖に対する影響をしらべる一端として、まずこれらをしらべましたが、Tween20はかなりtoxicでした。アルコールは不思議ですが余り抑制効果がなく、エタノール0.01%では明らかに増殖促進が認められました。非水溶性の発癌剤をとかすにはTweenよりもアルコール(エタノール)の方が良さそうです。

  3. ラッテ胸腺・細網細胞によるin vitro抗体産生の実験:

     4月の病理学会の小グループ討論会に映画で展示するべく、目下さかんに実験をすすめています。先日、細網細胞のなかで作られて貯められている抗体を、新生児ラッテの胸腺リンパ球にtransmitさせる実験をやって、うまく成功しました。生後24時間以内の、まだ抗体の見出されないthymocytesを細網細胞と一緒にしてincubateし、映画をとりましたら、thymocytesがreticulum cellsに近寄り、細胞膜にくっついたり乗ったりしました。2.5時間後にAnti-rat-β-γ-rabbit serumで、蛍光抗体法でしらべたところ、thymocytesがきれいに光るようになっていたのです。



:質疑応答:

[黒木]in vivoで抗体を作らせた細網細胞を使ったのですか。それともin vitroで抗体を作らせたのですか。

[勝田]うちでラッテ胸腺から作った4細胞株の内、抗ラッテβγグロブリン家兎血清で光る3つのものを抗体産生をしているとして使うのです。

[黒木]乳のみラッテの、その胸腺リンパ球は光らないわけですね。

[勝田]光らないことを確かめました。

[高木]PPLOの共通抗原のデータがありましたね。

[勝田]PPLOというのは、なかなか種類が多くて知られているのも知られてないのもあるから困ります。

[杉村]RLC-9が肝実質細胞ということは、何か生化学的特質で、証拠付けられていますか。

[勝田]生化学的にはまだ確かめていません。形態学的にそうだと思うのです。

[佐藤]エチルアルコールで溶けるDABの量は、非常に少いので、高濃度のDABは使えません。

[勝田]ニトロソアミンは、4℃保存といいますが、37℃であたためるとどうなりますかね。

[杉村]コダックの瓶には、暗い所に保存とかいてあるだけで、冷やしておけとは書いてありません。

[奥村]DABはプロピレン・グリコールで溶けないでしょうか。

[勝田]映画でお見せしたように、DAB-N-oxideを10μg/mlに入れても平気で細胞分裂しますし、一方そのN-oxideの吸収ピークが消えてしまったりするのですから、薬剤の選択では、その濃度と共に分解あるいは変性の問題も考慮に入れる必要があります。

[藤井]常に培地中になくても、一旦細胞に薬剤が入ってしまえば、それで作用しないでしょうか。

[勝田]それでは細胞が分裂するたびに薄まってしまいますね。

[黒木]しかし薬剤を除いたあとも影響がつづくという例もありますね。Leo Sacksはある程度コロニー形成をさせてから最後の2日位に薬剤を添加すると変異コロニーが現れるという、つまり非常に短期間の内に細胞の運動性などが変り得るということですね。N-oxideでは肝癌ができますか。

[勝田]ラッテに呑ませて6ケ月で11/13匹にできたと寺山氏は云っておられます。

[黒木]呑ませてだと結局DAB-N-oxideの形でというより、変った形のが効果があるのではないでしょうか。

[杉村]変異したことをあとで確認するためには純系株を使うべきではありませんか。

[勝田]勿論そうです。しかし純系株を作るのは非常に面倒なので、まず誰にもできる方法でやってみようという訳です。

[藤井]ある程度以下の薬剤濃度だと、一方ではやられ、他方は反って促進されたりするかも知れませんね。



《高井報告》

  1. bE.IX.及びbE.II.群のその後の経過:

     前回の班会議に於て、bE.IX.Ac.(通算33日目、Ac.0.01μg/ml28日間処理)が、ASS.IV.(in vivoで作ったActinomycin肉腫の培養細胞)によく似ていることを報告しました。その後、これがどうなるかを興味をもって見ていたのですが、bE.IX.Ac.は培養40日目(Ac.35日間処理)頃からだんだん小形の紡錘形の細胞が多くなって来ました。この小形の細胞は、Control群の細胞に比し、細胞の突起が非常に少いこと、及び細胞質のbasophiliaが強い点で、はっきり異っていますが、同時に又、目標であるASS.IV.の細胞ともかなり異っています。即ち、ASS.IV.に比し、小さく、又、形も整っていて、大小不同も少く、ずっとおとなしい感じの細胞であります。このbE.IX.Ac.群は、その後、漸次、増殖がおとろえ、培養67日目(Ac.62日間処理)以後、Ac.を含まない培地にかえましたが、遂に絶滅してしまいました。今から考えると、ASS.IV.に似ていた時期に、Ac.処理を中止した方が良かったのかも知れません。

     bE.II.群は12月26日培養開始、1月4日よりActinomycin処理を始めました。bE.II.Ac.はAc.処理(0.01μg/ml)10日目までは殆どControl群と変りのない細胞であり、Ac.処理22日目には既に、上記bE.IX.Ac.40日目(Ac.処理35日間)に似た小型の紡錘形細胞が多くなっており、ASS.IV.に似た時期をとらえることは出来ませんでした。

  2. ASS.IV.細胞(in vivoで作ったActinomycin肉腫をトリプシン処理で、バラバラにしたもの)の少数移植実験:

     前月号の月報に書きました実験における、各Tumorの増殖速度を計測したDataを表示します(表を呈示する)。移植部位(皮下)に生じたTumorを、皮膚の上から計測したもので、かなり測定誤差も大きいと考えられ、とても定量的な取扱いは出来ないものと考えられますが、接種細胞数が1/10になると、Tumor発見までの時期が約2週間位おくれる傾向が見られます。又、1,000個移植した群でも5匹中2匹takeしなかったものがあり、100個移植せる群では、Tumorがregressionしてしまったものがあることは、このbtk mouseが、まだgeneticallyに充分homogeneousでない事を示すものとも考えられます。

     しかしながら、このDataと実際にin vivoでactinomycinによって肉腫が生ずるのに要する日数(actinomycinSを週2回、4カ月注射した場合、早いものでも、注射終了後60〜70日してからtumor触知)を考え合せると、実際にin vivoでmalignant transformationをおこす細胞は、多くても100個以下、おそらく10個位ではないかと考えられます。10個接種群、1/5でその1例は接種後52日に発見。100個接種群は2/5で接種後40日に発見。1,000個接種群は3/5で接種後26日に発見。



:質疑応答:

[黒木]これは細胞学的には肉腫ですね。

[高井]そうです。

[勝田]in vivoで出来たアクチノマイシン肉腫を長期培養するときれる−ということは、in vivoのアクチノマイシン肉腫細胞と同じような性質に細胞が培養内で変った場合、その細胞もやっぱり切れてしまう可能性を示しているでしょう。ですから、in vivoの肉腫細胞をよく増殖させられるような培養条件をまず検討する必要があるでしょう。

それからマウスの胎児組織は自然癌化率が高いから、短期間で勝負をつけなくてはいけないですね。

[難波]復元箇所をもっといろいろ試してみたら如何でしょう。

[奥村]対照の細胞をもっと、きれいに保持できるようにすると、差をよむことがもっとはっきり出来ると思う。それから少数細胞移植の時は動物の系のこともよく考えておくべきだと思います。

[螺良]マウスはどんなマウスですか。btkというのは?

[高井]C57BLの亜系でTとの近親系のようなものです。
少数細胞のとき、その稀釋法には自信がありませんが、井坂先生の所などは稀釋法はどうやっているのでしょう。

[黒木]稀釋法はよく知りませんが、少数の時はうすめてから接種までの時間をなるべく短かくすることに気を使っているようです。

[奥村]この薬品は、他の動物にも発癌剤として有効ですか。もしハムスターでも使えるのなら、ハムスターの皮下細胞を使うといいですね。これなら培養条件は大分調べてありますから。

[藤井]自分の実験(皮膚移植)の結果では、DDDマウスでは27代ものinbreedingでも10匹中数匹は移植した皮膚のおちることがあります。F1の場合にもつくまでに期間がかかるし、数多く動物を使うとバラツキがずい分できます。それから腫瘍復元場所の問題も、皮下はバラツキが多いが腹腔は割に少ないとか、いろいろ考えるべきことがありますね。

[奥村]H-2因子ということだけで解決できないことが多くあるが、生まれてからの感染なども問題になります。

[藤井]皮膚移植では全部つくのに、その系でできたtumorを植えるとバラツクというのは、どういうことでしょうね。

[勝田]高井君の仕事での問題をまとめてみると、培養条件の問題と、期間を短期間でやらねばという問題、多種の動物、ハムスターなどにつけてみること、それから発癌剤の濃度の問題ということになりますね。

[黒木]今の濃度で細胞が変性しますか。

[高井]増殖はずっと落ちます。

[勝田]増殖が落ちる位で驚いてはいけないよ。ガシャッとやっつけなくてはならないんじゃないですかね。

[奥村]in vitroのことだけ考えるなら、僕の所のハムスターのfibroblast株を持っていって実験すれば良いのではないかと思いますね。



《佐藤報告》

◇発癌実験

 ラッテ肝←3'-Me-DABの組合わせにおいての発癌実験をstartがら始めました。(1)培養に使用するDonryu系のラッテは乳児ラッテ♂としました。(2)使用するBovine serum又はCalf Serumはpoolして一系列の少くも2年継続可能のように準備しました。(3)培地更新は更新する試験管に対しコマゴメを1本づつかえて行ひました。(4)継代して静置培養するとき試験管を直立させて液境界面に細胞が現れないようにする。(5)培養日数の比較的早い時期から、染色体数、核型、形態に関する永久標本及び凍結保存を行う。(6)出来れば上皮様実質細胞のcloningを行う。

 進行状況:現在(1月31日)で培養73、56、24、17、12日の計5つの初代培養が行われている。73日目のものはぼつぼつ実験のための材料になると思います。

◇DAB飼育ラッテ肝臓の組織培養

 2月4日の特定研究「ガン」綜合研究16班報告会及びシンポジウムで班長報告の後、纏めて報告しました。此の論文は勝田班長の多大の援助により完成し、Japan.J.Exp.Med.Vol35,491-511に掲載される予定です。後程おわたしします。要点のみ記載します。

     
  1. DAB飼育を行うと飼育が57日をこすと、ラッテ日齢が30日をこえても初代培養で増殖型肝細胞が現れる。  
  2. 初代培養で現れる増殖型肝細胞は前癌I、前癌II、癌I、癌IIの4つのtypeに分けられ、互に移行像がある所から、この様な段階を経て発癌すると考えられる。  
  3. DAB飼育57日、107日、142日、191日、236日、312日の肝臓から株細胞をつくり形態を比較した。DABの飼育日数が長くなるほど核及び細胞質の異型性が増加、核仁の総量が増加、核仁の配列が不規則化、又細胞質面積に比し核の面積増大が見られた。191日、236日、312日DAB飼育の3匹のラッテ肝臓よりの株細胞は腫瘍性があった。



:質疑応答:

[奥村]最初からin vitroでDABをかけた場合、in vivoでDABを与えて経時的にとった培養の細胞の形態の変化と似ていますか。

[佐藤]ある程度似ていると思います。形態でみて、或程度の悪性度の判断はつけられると思います。

[黒木]連続的に変化していると思いますが、顆粒の出てくるのだけ前後とつながらないような感じですね。

[難波]♂の方が発癌率が高いのは♂の方が餌をよく食べるからではないでしょうか。

[佐藤]そういうこともあると思います。

[杉村]馬場氏のデータだと♀が発癌は遅れるが、終局的には同じになっていますね。

[勝田]後の方のやり方のことですが、このやり方だとその時期々々の増殖「可能」細胞はつかまえられるが、それが連続していると断定することは危険だと思います。

[佐藤]発癌していない肝から取った培養も、長期培養した場合に自然発癌するという問題もあります。

[勝田]populationとしての形態の変化を、あのように言って良いでしょうかね。正常肝の培養でもあの中の悪性という略図に似ている場合もあります。

[難波]発癌していない肝の培養でも増殖してくるというのは、増殖誘導されているのでしょうか。

[堀 ]正常の肝では1/10,000位の分裂頻度です。部分切除すると、それが3%位になり、その内tetraが60%、diploidが30%位です。DABを与えて部分切除すると、diploidが60%、tetraが30%と、逆になります。5日位の短期でもそういう現象が起っています。

[勝田]Tetraの場合、endoreduplicationのような形になっていませんか。2核の肝細胞の核が同時に分裂形式に入って、1核宛の細胞2ケに分れることがありますので。

[堀 ]それは調べられていません。初代培養で得られるのは、tetraでなくdiploidだと思います。Azo色素を喰わせて、出てくるのもdiploidが多いだろうという感じですね。



《黒木報告》

ハムスター腎細胞に対する4NQO、4HAQOの効果:

 昨年12月号の月報で、生後7日の♀ハムスターの肺、腎、肝からexplant outgrowth、albumin mediumにより培養細胞を得たことを報告しました。

 今回はこれらのうち、腎由来のセンイ芽細胞(Jin-11)に4NQO、4HAQOを加えた結果を述べます。  結論から先に記しますと、4NQO 10-5.25乗M、4HAQO 10-5.0乗Mの濃度で細胞変性を起したのですが、細胞増殖回復後も、形態学的変化(細胞の配列も含めて)がみられず、培養後80日の現在(1966年1月31日)では、control、4NQO、4HAQOのいずれの群も増殖がとまり細胞変性を来たしつつあります。

 (培養の大凡の経過を図で呈示)初代12日目にいくつかのbottleをpoolし、TD-403本に培養、その他コロニー形成観察のため三春P-3シャーレに10,000個、1,000個、100個/dishでinoculum(TD-40の接種細胞は175,000個/mlx10ml)、コロニー形成はみられなかった。

 2G、5日目(5Y30、17days)に4NQO、4HAQOをそれぞれ10-6.0乗M,24hrs.contact、形態学的な変化はみとめられなかった。
 3Gへの継代は、7日培養後に行はれた。10,000個/ml、TD-40にinoc.残りは凍結保存する。3Gでsheetがきれいに形成されてから4NQO、4HAQOを10-6.0乗M、10-5.5乗M→10-5.25乗Mと段階的に濃度を上げ、10-5.25乗Mで4NQOは細胞変性をみる。4HAQOは10-5.0乗Mで変性が出現、この細胞変性は4NQO、4HAQOを除いてからもしばらくつづく。(特に4NQOは長引く)

 細胞変性は細胞の剥離及び細胞が大きく丸くなり(形は不正)、しかし、細胞内構造は位相差で明瞭にみえる、というような形態を経たのちに死メツすることが特徴的のようです。
 細胞の剥離変性は(特に4NQOの場合)は細胞配列の中心部に著明、帯状に残ったところから又、細胞がmigrateするようです。(略図を呈示)細胞が流れの上に配列していると→その中心部がまず変性し→網目状に残った細胞から中に新しくcellが出る。

 4HAQO群は回復がはやく、39daysに4Gへ継代、sheetを作ってから10-5.0乗M添加1d、変性なし(このあと正月休み)。

 培養56日目に4NQO群も相当程度回復したので、再び10-5.25乗M、及び4HAQO 10-5乗M添加。  しかし、この頃からcontrolの増殖はとまり細胞変性剥離がみられた。同時に4NQO、4HAQOもcell damegeから回復出来なくなり、現在に到っている。

 なお、以上の経過の中で、継代後3日間、及びcell degenerationのみられたときは、TD-40にアルミホイルでcapし、炭酸ガスフランキに入れた。他のときはsealed。

 この次は凍結した細胞と新たな培養によりはじめるつもりですが、どのような方法をとるべきか迷っています。

    いきなり10-5.25乗M,10-5乗Mでexp.する(あるいはもう少し低濃度)
  1. 形態学その他のマーカーがほしい。
  2. feederを用いたcolony形成はどうか。
  3. target cellは何か、等々。

浮いて培養できる肺細胞の培養:

 前回の月報でも報告しましたように、初代から浮いている細胞がハムスター肺からとれました(Hai-11、7day suckling。 Hai-21、embryo)。この細胞の特徴は

  1. 浮いているか、又はガラス壁に伸展せずに附着している。位相差で核など内部構造がよくみえない。
  2. Smear preparationでは、剥離細胞の如く核が小さく、うすい細胞質をもっている。核は一方に偏していることが多い。
  3. PAS(+)。
  4. 分裂像がみられない。
  5. 軽く圧力をかけて位相差でみると、phagocytosisを行っているように細胞内に小さい顆粒が沢山みえる。(顕微鏡写真を呈示)
  6. 培養後80日の現在、細胞は大分へってしまったが、依然として生きている(もちろんtrypan blueには染まらない)
  7. 肺以外からはとれない。
  8. ラットではみられなかった(もう一度やりなおす積り)

この細胞の本態はalveolar epithel(肺胞上皮)か又はalveolar macrophageと云はれている細胞と思はれます(血液由来ではないだろう)。

 今後、phagocytosisの研究、Harzfehler zellenとの関連性などの研究に使えそうです。DNA、RNA、Protein合成をH3-TdR、H3-UdR、H3-Leucinでみると同時に墨によるphagocytosisをみて、細胞の機能との関係に入りたいと思っています。



:質疑応答:

[勝田]その肺からの細胞はセン毛をもっていませんか。

[黒木]ありません。

[杉村]4NQOをtetrahymenaに与えて異型細胞が出来る場合、cell cycleの或る時期にしかその遺伝形質に作用しない、ということがあります。培養細胞の場合は、いろんな状態の細胞が混っているから、遺伝的変化をおこすものと、単なる変性とが混っているようですね。

[黒木]4NQOはその作用がずい分後まで残りますから、かけ方に注意が必要ですね。

[勝田]この細胞は、1世代どの位の時間ですか。若し非常に長いとすると、G1でブロックされるのかも知れませんね。

[杉村]封入体の出来た細胞の運命はどうですか。

[黒木]処理後、3hrs.がいちばん見やすいが、その後だんだんよく見えなくなってしまいます。どうなるのでしょうね。

[堀 ]あれは本当に封入体ですか。仁が消えたみたいに見えますが・・・。

[勝田]そうですね。しかし、以前報告した連中が、あれを封入体様と言っているんですよ。

[杉村]あれが発癌のレールにのっているものか、死んでゆくものか、疑問ですね。

[高木]遠藤氏は死んでゆくものだと言っています。

[黒木]ただ、同じ副産物としても、発癌性のあるものに特異的に出るというので重要視されています。問題は今後どういうsystemで進めてゆくか、ということですが、難しいことだと思います。

[杉村]肝臓の場合は、4NQOから4HAQOを作る酵素がはっきり判っていて、purifyされています。この酵素はdiacoumarol(?)を少し与えると特異的に阻害されて、4HAQOができなくなります。

[黒木]段階的に添加してゆくというやり方も、時間のロスが多くて効果的でないですね。それと4NQOでハムスターに癌が出来るのですか。

[杉村]伝研の青山君が以前にハムスターポーチに4HAQOを入れていましたが、そのときは出来ませんでしたね。DABを少しやっておいて、あと4NQOを注射すると、肝癌発生率が高まります。注射は皆やっているが、食べさせるというのはやってませんね。森さんは、レシチンにとかして与えて色々なtumorを作っています。ただし、一度に沢山注射すると、局所が肉腫になってしまいます。

[螺良]局所に出来てしまうと、それを切除しているようです。肺ガンや何かが出来るまで・・・。

[杉村]4NQOの水溶性のがありますよ。発癌性は少し落ちますが・・・。



《高木報告》

 今回はこれまでの結果をとりまとめて、更にその後の若干の発展について報告します。実験初期のものは大体Eagle's Basal Medium又はModified Eagle's MediumにBovine serum、C.E.E.を加えた液体培地又は寒天培地を用いて、マウス、ラットの皮膚、肺、腎、顎下腺等を培養し、一部のものに発癌剤として4NQO 10-4乗〜10-7乗Molを添加してみましたが、いづれも、10日かせいぜい2週間維持するのがやっと、と云う有様で認むべき成果は得られませんでした。

 その中で、マウスの皮膚を高濃度の4NQO(10-4乗Mol)中で短期間培養したものに幾分の変化がみられたかと思います。

 その後Plasma clot methodにより主として人胎児(4〜5ケ月のもの)、マウス、ハムスター(胎児或は新生児)の皮膚及び腎を培養することを試みました。先ず皮膚について、生直前と思われるスイスマウスの背部の皮膚を用いてPlasma clot上で30日間培養しました。Medium作成法は前に述べた通りですが、今回は14日目以後のPlasma採取は全部シリコンを塗布した注射器を用いて行い、他に抗凝固剤は一切使用しませんでした。4NQOは10-5乗Molを13日まで加え、その後何も加えない群と、対照群とをおきました。

 培地交換は大体3〜5日に行いましたが、これは新しいplasma clot上に組織片を移してから3〜4日になると、組織片の下及びその周辺部にclotの融解がおこり始めるからです。培養後5日目毎に固定してH & E染色により30日目まで観察しました。このシリコン塗布注射器により採血したPlasmaはMc-Gowan等が人胎児皮膚のorgan cultureに用いて好成績を得ているものですが、ヘパリン等の抗凝固剤を加えて採血する場合と異り採血後凝固し易く、その点、技術的にかなり困難が伴います。培養結果、5日目のものではこれまで種々の培養法において等しく認められた様に、角質の増生が目立ち、この傾向は、4NQO群と対照群との間に差を認めません。

 その後は、角質のそれ以上の増生はあまり起こらない様です。これに反して、表皮、真皮についてはこれまでの合成培地との相違が目立ち5日目の組織において已に核の濃縮がかなり認められますが、その程度はその後も変らず、又、両群共に同様で4NQOの影響は認められません。

今回の実験は30日目で打切りましたが、30日目のもので核の濃縮は5日目のもの同様に可成り認められますが、表皮全般の状態はあまり変りなく依然として組織は生存し続けていると思われます。この結果より見ますと、更に長期の培養も可能であろうとの希望が持たれます。

 続いて約6ケ月と思われる人胎児の腎を同様Plasma clotにより培養して22日目まで一応organizeされた状態に維持出来ました。

 今回は最初からシリコン塗布注射器により得たPlasmaを用いました。
 培養8日目、已にcentral necrosisはかなり目立ちますが、周辺部の細胞はほとんど変化がなく、12、17、22、27日と固定しましたが、22日目のものまで一応健常に保たれており、glomerulusらしき構造が認められます。但し、27日目のものではglomerulusの構造はほとんど認められず、少数の尿細管を認める他にFibroblast増殖が強くなっています。他に人胎児の皮膚も現在培養中ですが、無菌的な皮膚はなかなか入手困難で、今までのところ成果は上っていません。次回位にはなんとかきれいな写真を載せたいものと思っています。 顕微鏡写真を呈示:マウス胎児(生直前)の皮膚。同胎児皮膚を80%EBM、10%B.S.、10%C.E.E.、4NQO 10-4乗Molにて3日間培養後。約6ケ月の人胎児腎組織。同人胎児腎組織をPlasma clot methodにより22日間培養後・glomerulus及び尿細管はかなりよくその構造を保っている。



:質疑応答:

[勝田]Epidermisが、とび出してくる時期に、そこだけ切り取って培養するということは出来ませんか。

[高木]大変むつかしいと思いますが、やってみられるとは思います。ただ、添加後3日位なので、そんな短期間で本当に変化が起きたかどうか自信がありません。

[黒木]発癌にそういうstromaが必要だということも考えられるでしょう。

[高木]ネズミの背の皮膚にぬって、発癌前にその部分の皮膚をきれいに取って隣へ移したら、移した方でなく、取った後に癌が出来たという実験があって、stromaの重要性を強調している人がいます。

[勝田]高木君の場合だけでなく、他の発癌剤にでも、dimethyl sulfoxideを混ぜて与えると、発癌剤の浸透が促進されて面白いと思いますね。

[高木]発癌ということにも、異った細胞の間の相互関係を重要視したいので器官培養をやっていますが、器官培養は長期間行えないという欠点があります。

[杉村]長く維持出来ないというのは?

[高木]栄養分や酸素の補給が不充分だからです。

[杉村]サイズの問題ですね。

[螺良]器官培養では細胞は生きているだけなのですか。分化しているのですか。プラス・マイナス・ゼロということですか。

[高木]増えたり、死んだりで、プラス・マイナス・ゼロというのが理想的ですが、なかなかそうは行かないのです。骨みたいに、丸ごと培養して分化もさせるというのもありますが、今やっている培養は組織片で、液相と気相の境界線で培養しているという所がミソです。

[勝田]別の話ですが、肝の再生の指令はどこから出るのでしょうね。正常ラッテ肝由来の株を正常肝の初代培養とparabiotic cultureすると、前者の増殖が抑えられるので、これは後者からrepresserが出ているためかと思って、後者の代りに再生肝を使ってみたことがありますが、やっぱり前者の増殖が抑えられてしまいました。それから、肝に4nが多いというのは、G2で止まっているのがあるからではないでしょうか。

[奥村]いや、肝細胞はG1で止まっていると云われていますよ。

[杉村]in vivoで再生肝を作って、器官培養をやると、再生肝らしく維持されますか。

[勝田]肝臓を丸ごと器官培養するということはまだやっていないと思います。やってみないと判りませんね。



《堀 報告》

G6Pdehydrogenase isozymes:

 まずnormal male ratのliverと前報の如くinductionを行ったrat liverにおけるZymogramの比較を行うべく実験を始めました。第1に染色液が極めて高価なので成可く経済的であること、材料に培養細胞を使う場合資料が少いので出来る丈装置を小さくすること、第2にnormalと誘導された肝では酵素活性が著しく異り、前者では極めて活性が低く、両者を同様の方法で泳動にかけることは出来ないことなどの点を考慮して、try & errorで結局、次の如く方法を定めました。

     
  1. homogenateは1:2の水で作り、10,000gで30分遠沈、上清を取り、正常のものに限りこれを凍結乾燥で脱水、後、元の量の5分の1の水で溶かして5倍濃度液を作った。  
  2. 正常、誘導肝共に材料0.01mlを0.1mlのspacer gelに混ぜ、その適当量(0.05〜0.1ml)を泳動にかけた。  
  3. 泳動には・・3mm〜5mmのガラス板にスライドグラスを細く切ってエポキシ樹脂ではりつけ、これに上からガラス板をかぶせセメダインで貼りつけ、泳動後はこれをはずしてゲルを取出す様にした・・手作りのtrayを用い、Ornstein & Davis法により17〜20℃、2hrs.通電(tray1本当り2.5mA)。  
  4. 前述の如き染色液にて37℃、2hrs.染色。初めは、泳動の都度、異ったZymogramが得られ、その原因が不明で大分苦労したが、どうもhomogenateが古くなると酵素活性が落ちてパターンに変化をきたすらしい。
     Spacer gelやSmall pore gelの濃度や量を色々調節してみたが、結局、Small poreは7.7%、Spacerは3.1%0.3mlがよいことが分った。殺して直ちに泳動にかけた場合より、数日凍結保存後に泳動した場合の方がzymogramの差が極めて明瞭となる。

 結論としてはバンド4と5がinduced liverではっきり出るのに、normalでは5がうすくなる。この事はnormalの資料を多くしても同じであることから、単なるspecific activityの差ではなさそうである。

 さて、培養肝細胞であるが、初期培養1週間の肝片90〜100コ位、2週間のものを60コ位、水でhomogenateとし、凍結乾燥後、出来る丈少量のspacer gelに溶かして泳動した。結果は全くのNegativeで明らかに手法上の誤りがあったと考えられる。即ち、組織片が少なすぎたのかもしれない。今後、更に検討する。

 前報の培養約1年の肝originのcell lineであるが、極めて増殖が遅くTD-15に1ぱいにsheetを作るには数ケ月もかかると考えられる。カバーグラスの小片を染色して観察した結果、極めて形態的多様性を示す細胞の集りで、核はおとなしいものからhyperchromatismを示す巨大なものまで雑多であることが分った。細胞質の染色性もまちまちである。細胞同志はきわめて密な接触を保っている様で、中には黄紅色の色素顆粒を有するものもある。また、可成り多くのものが変性壊死の過程にあった。これらのことから、これらの細胞はまだ悪性化の途上にあると考えられる。



:質疑応答:

[勝田]培養細胞の場合、細胞数が非常に少ないのではないのですか。

[堀 ]そうなのです。

[奥村]どの位の数がありましたか。大体10,000,000個必要だそうです。

[勝田]生化学屋さんは定量の感度を一桁上げて欲しいものですね。

[奥村]100,000位でできればいいですね。

[難波]展開剤は何ですか。

[堀 ]TRIS燐酸緩衝液です。実験群と対照群とでバンドの出方が違うので、何かいいinhibitorを加えて、バンドを消すことができれば・・・。Inhibitorが見つかれば面白いと思います。



《奥村報告》

  1. ウサギ子宮内膜細胞に対するホルモンの影響

     現在までにえられた結果ではProgesterone、Estradiolとも細胞増殖に対し促進的に働くことが判ったが、その作用機序については全く不明である。そこでH3をラベルしたホルモンを用い、細胞への取込み実験を行ない、はたしてホルモンが細胞内へどの程度、又どこに入るのかをAutoradiographicalに検べてみた。しかし結果はなかなかclear-cutに出ず、或程度の傾向を掴むことに止まった。細胞内におけるホルモンの局在性に関しては不明であるが、細胞内に取り込まれることでかは確かのようで、次のような結果から推論出来ると思う。Estradiol(0.01μg/ml)添加では1細胞当たりのgrain数は平均6.7、Progesterone(0.1μg/ml)添加では1細胞当たり平均6.9であった。

     又更にProg.とEst.の2種のホルモンをそれぞれ適当な濃度で組み合わせ細胞の増殖をみた結果は、Estradiolを0.1、0.05、0.01、0.005μg/mlとProgesteroneを0.1、0.05、0.01μg/mlの組み合わせにおいて、controlの増殖を1として、Estradiol 0.01μg添加でProgestrone 0.05μg/mlでは1.8、0.01μg/mlでは3.2であった。またEstradiolを0.005μg/mlにProgesteroneを0.1μg/ml添加すると3.8となり、少くとも増殖促進を指標とした場合に、この組み合わせが効果的のようである。(培養20日後に算定)

  2. JTC-4細胞のDNA量の測定

     JTC-4細胞(予研亜株)のDNA量が正常細胞(体細胞)のそれよりも少ないことが推測されてきたが、その事についてその後2度測定した結果やはり正常体細胞(2n)のDNA量よりも少ない結果を得た。それぞれの細胞のNucleiについてのDNA量は10-12乗g/N値として、Spermは5.5、Heartは11.9、Liverは24.7、JTC-4(対数増殖期の細胞でG2期及びS期の半分(後期)にある細胞が全体の約35〜40%であることが観察された)は9.2であった(Standard deviationは1.1〜3.8)。この結果をMSP(DNA-Feulgen)及びchromosome compositionの分析と比較すると、やはりいづれの分析からもDNA contentの減少(2nより)が見られ、その減少の量については未だ正確なことは判らない。

     なおこの細胞がchromosome karyotype、plating efficiency、colony sizeなどからみて、従来の株細胞などと比較して相当purityが高いことが想像されるので、細胞生物学的材料としてかなり有効なものであろうと考えている。



:質疑応答:

「杉村]チミヂンなどと違って、ホルモンの場合は構造物にとり込まれずに、作用しているので、coldを入れるとすぐおきかわってしまうおそれがありますね。

[勝田]細胞当りのDNA値から換算して、JTC-4-Yはploidyにすると何nになりますか。

[奥村]1.3〜1.6n位になると思います。

[杉村]最少単位のDNAはあるのですか。ハプロイドの染色体は維持しているのですか。

[勝田]染色体のペアでないのがあるということは、分裂したあと、片方の娘細胞の死ぬ、或は増殖しないことがある、という可能性も示しますね。H3-TdRを長く入れ放しでautographyをやってみましたか。細胞の何%位がラベルされるか・・・。

[奥村]それは、やってみませんが、flush labellingですと、第1ピークでmitosisの95%がラベルされ、第2のピークも90%位です。S期は14〜18時間で普通より長いです。シャーレにまくと、colony sizeはよく揃うのですが、plating efficiencyが60%位で余りよくありません。一般に培養細胞は、遺伝的解析という面で大変わずらわしい、という事をこれまで感じているので、この細胞によってその点を克服できるかと期待しています。

[黒木]Phenotypeはどうですか。

[勝田]JTC-4というのは異常な位collagenを作ります。こんなに作る細胞は他にあまりないでしょう。



《堀川氏より勝田班長への手紙》

 御無沙汰致しております。御変りございませんか。いつもながら月報や連絡書御送りいただき厚く御礼申しあげます。

 私の方もいよいよ帰国を前にあわただしい毎日を送っておりますが、本来ガタガタとあわただしい生活の好きな私には、これが何よりも大きな刺戟で楽しんでおります。過去2年と少しばかり当地に来て出来た仕事をふり返っておりますが、結局は習うことより教えることに追い廻され、加えてTissue Cultureの設備のない所で自分でsetし、新しいInsect tissue-cultureに体当りした訳で、まあこれ位いの所で満足せねばと云う段階でMadisonを離れます。しかし、これからいよいよ本格的な実験に入ろうとする所でここを離れて行く事は、組み立てたSystemを後の人々に残して行く様ではがゆい感じです。日本の京大の医学部という所で、Insectを主体としたGeneticsをどこまでのばすべきか、またはどこでmammalian cell或いは他のmaterialsに転向すべきかなど思いをめぐらしているのが現在のいつわりのない私の気持です。しかしGenetics出身の私にしてみれば、やはり現在の仕事を発展させて1968年東京で開かれる国際遺伝学会にそなえたい気持で一杯です。いづれ、こうした問題は帰国後ゆっくり考えて見たいと思いますし、また勝田先生にも御相談する機会を持てることを希望しております。

・・・後略・・・