【勝田班月報:6606:ハムスター胎児細胞への4NQO・4HAQOの作用】DENによる培養内発癌実験について:
中型細胞は、細胞質が明るく、余裕のある限り互いに密着しない。顕微鏡映画で観察すると(供覧)非常によく動く。しかし分裂はきわめて低頻度である。大型の細胞は硝子面に広く伸展し、細胞質が灰色に見える。これは変性しかけた細胞ではないかと思われる。小型の細胞は互いに強く密着し、ほとんど立体的に押上げ合っているかのように見える。これも余り動きはなく、何れにせよ変性への過程に入っている細胞ではないかと想像される。 これらの培養はDENを50μg/mlから、100μg/ml、現在は1,000μg/mlまで上げて連続的に投与している群である。先般も報告したようにDENはμgレベル(100μg/ml位)で明らかに肝細胞の増殖を促進し、DAB発癌とDEN発癌とでは機構がかなり異なることを示唆している。 今後はさらに若い株の肝細胞を用い、短期間での変異を狙いたいと思っている。 胸腺細網細胞の培養による抗体産生の実験は、昨日報告したので省略する。今後はできた抗体の特異性について証明することに努力したい。
:質疑応答:[螺良]DENの作用で、映画に見られたような動きの活発な細胞と、そうでないのとに分れたのですか。[勝田]そうだと思います。分れたというより変ったということです。 [黒木]継代すれば分離できるのではないでしょうか。 [三宅]変性細胞と、動きの早い細胞の島との間に、膜があるように見えましたが、膜でしょうか。 [勝田]そんな風に見えましたね。しかし本当のところはまだ判りません。 [黒木]DENは安定ですか。pHの変化その他に対して・・・。 [勝田]光以外に対しては安定だそうです。 [黒木]DMNではどうですか。動物実験ではDENと同じような結果が得られているそうですが・・・。 [勝田]DMNも使ってみたいのですが、水に易溶性の点でDENから使いはじめました。癌研・高山氏の話では、DENも水にとかして与えると胆管上皮癌が多く、油にとかして与えると肝癌が多くできるそうですね。 [黒木]杉村先生の話では4NQOでも水にとけるのができたそうです。 [螺良]DENは1mg/mlで細胞変性はどうですか。 [高岡]1mg/mlでは増殖は抑えますが、変性は少いようです。 [勝田]DEN発癌の肝臓は、DABのときのような激しい破壊像が少くて、出血巣があって、その周囲に増殖像がみられるということです。しかし、DABに比べ、動物発癌のレベルでもデータが少いので困っています。 [堀川]2種の発癌剤を組合せて試みてみましたか。 [勝田]薬剤で2種というのはやっていません。“なぎさ”培養のあと高濃度DAB処理−というのはやってみました。今後はDABをはじめに投与し、次にDENというのはやってみる予定で居ります。
《佐藤報告》発癌実験:RLD-10(Donryu系ラッテ生後14日の肝をprimary cultureし、最初の4日間のみ1μg/mlのDABを添加し、以後DABを除いて増殖株となった細胞)に3'-Me-DABを添加して発癌させる実験は計4回行われた。そのうち2回は既に報告した。第3回目については昨年暮ラッテの復元成績判定日が来るまで待って報告する様お約束していました。現在(66'-4-30日)でみると(復元表を呈示)
:質疑応答:[堀川]Tumorの区別は簡単にできますか。[佐藤]それは出来ます。それから、ラッテ継代も出来ますから、間違いはないと思います。 [螺良]はっきりしないもののassayのためには、1,000万個位接種する必要があるわけですか。 [佐藤]新生児では1,000万個の必要はありません。100万個で100日で殺せばcheck出来る、という方式でやろうと思っています。 [螺良]少数細胞で長期間見るより、大量接種して早くみる方に揃えた方がよくありませんか。 [佐藤]少数で長くかかってつくということで、腫瘍性の低いものをcheck出来ます。 [黒木]100万個の方は省略して、500万個だけでデータを出した方がよいのではないでしょうか。 [佐藤]100万個の方は途中で殺して、中間の低い腫瘍性をしらべ、500万個は死ぬまでおくという、ちがう方法のつもりです。 [堀川・黒木・螺良]実験方式は出来る限り簡潔に確実にすべきですね。 [高井]100万個で3ケ月のもので、どの位の%に判別出来るとお思いですか。 [佐藤]つくべきものなら100%判ります。 [勝田]自分のこれまでのデータをよく整理して、接種量、観察期間、take率などに関する一つの表を作ってみて下さい。 [螺良]対照に腫瘍性があるかどうかのcheckを気にしているのか、対照と3'-Me-DAB処理群との差をみることに重点をおいているのかどちらですか。 [佐藤]両方とも考えています。 [勝田]細胞への復元接種について我々の間でこれまで問題になってきたことを、新しい方々も居られますので、簡単に要約してみますと、
[黒木]腹水腫瘍細胞を動物に接種した場合の細胞数と、生存日数の関係は図示できます。また図から計算した結果はautoradiographyで調べたgeneration timeと一致しました。 [佐藤]この図でみると、100万個で死ぬまでみて、500万個で1ケ月という方がよいということでしょうか。 [高井]腫瘍細胞のgeneration timeで死亡日数が決まるわけですね。すると100万個が500万個にふえるのに必要な日数が、100万個と500万個の死亡日数の差になるわけですか。 [黒木]ただ佐藤先生のような場合、接種した細胞100万個が皆同じような悪性細胞というわけではないのですから、この腹水腫瘍のデータが必ずしもあてはまるわけではないでしょう。 [勝田]もう一つの問題はRLN-39(9日ラッテ)のように、2年以上培養しただけで、ラッテにtakeされたものがあるのですから、実験は2年以内、出来れば1年以内にすませなくてはならないということですね。 [佐藤]はっきりは云えませんが、材料をとったラッテの年齢が若いほど早く悪性化するように思えます。とにかく、人工的でも或る形式を定めて、復元実験をやろうと思っています。 [高井]結局、佐藤先生のplan通りでよいようですね。
《高井報告》HVJ(Hemagglutinating Virus of Japan)による細胞融合現象を細胞のmalignancyの有無の判定に利用する試み:われわれが組織培養内での発癌をねらって仕事を進める場合に問題になる重要な事柄の一つは、細胞のmalignancyの判定であります。もちろん、この問題は最終的にはgeneticに適当なhostに復元接種を行うとすれば、非常に多くの動物を要し、時間的、空間的、並びに経済的にかなりの負担になります。そこで、簡単なsystemでmalignancyの有無が短時間内に、たとえ大ざっぱにしても判定出来て復元接種のための目安が得られれば有用であろうと思われます。
ところで、御承知の様に、阪大微研の岡田等は、数年来HVJによる細胞融合現象を詳しく追求しておられますが、この現象を上記の目的に使用できる可能性もありそうに思えます。すなわち、彼等の報告によれば、mouse腹水腫瘍(Ehrlich、Sarcoma180、Sarcoma37、SN36、Actinomycin Sarcome、MH-134)、組織培養株細胞(KB、HeLa、FL、Chang Liver、MS、ERK、L)、並びに人間のmyeloid leukemia cellsは高いfusion capacityを有するのに対し、monkey kidney、mouse embryo fibroblast、chick embryo fibroblastの2代目ではfusion capasityは極めて低く、正常leukocytesはfusion capacityを有しないとの事です(Okada et al.,Exptl.Cell Res.32,417-430,1963)。彼ら自身「Fusion capacityが細胞の癌化のindicatorになり得るかを正確に検定してみる必要がある。」とも述べています。 そこで、この現象が私の現在維持しているbEIIK(9代目)(btk mouse embryo fibroblasts、対照群)並びにAS.T-d26-T(JTC-14株−actinomycin induced sarcomaのstrain−の株でmalignancy(+))について、おこるかどうかを試してみました。なお、必ずfusionをおこす筈の細胞としてHeLaも同時に使用しました。岡田等のroutineに使用している方法はcell suspensionの状態でHVJと混合し、37℃で60分間振盪する方法ですが、これでは1,000万個のorderの細胞数を必要とします。上記の復元接種のための予備試験という意味に使うには、とてもこれだけ多くの細胞は使えないので、今回はタンザク入りの小角ビンを使用し、cellがガラス壁に附着したままの状態でHVJと接触させてみました。 最初は小角ビンに1mlの新しいmediumを入れたところへ、HVJ液0.1mlを加え、10分間iced waterで冷してから、incubtor(37℃)に入れ、24時間後固定染色してみましたが、これではHeLaでさえ余りfusionしていませんでした。 そこで、Newcastle Disease Virusで同様な現象を観察しているKohnの方法(A.Kohn,Virology 26,228-245,1965)に準じて、mediumを捨てた後、HVJ液0.1mlを直接cell sheetに添加し、30分間37℃にincubate後、新しいmedium0.9mlを加えて24時間更にincubateしてみました。この方法によれば、HeLaはfusion(++)ですが、AS.T-d26-Tは(-)、bEIIKは(±)〜(-)といった状態でした。当然fusionするだろうと思っていたAS.T-d26-Tがうまく融合しないので困っています。 何れにしても、この現象は今までcell suspensionでの解析はずい分詳しく検討されて来ていますが、cell sheetでの反応の条件については、今まで殆ど検討されていない様です。殊に融合をおこすのはイキの良い細胞に限られ、degenerateしたcellは融合しないということもあります。更にVirusの量の問題もあり、当然、細胞数も問題になる筈です。これらの色々な問題について、もう少し検討しないことには、目的は達せられないわけですが、この現象のspecificityについて、まだはっきり「正常のものは融合しない、悪性のものはする」と言い切れるかどうか疑わしい現在では、余り深く追求することは、本来の発癌実験をやる上で、望しくないかも知れません。しかし、もう少しだけ、この問題を検討してみたいと考えています。
:質疑応答:[堀川]高井さんの場合、このHVJを腫瘍化を見付ける手段に使うつもりですね。[高井]これが非常に簡単にできるのなら使えると思いますが、なかなか難しいかもしれません。 [堀川]Ideaとしてはよいが、本当に使おうと思うなら、やはり、その作用機構がはっきりわかってからでないと、使うのは無理ではないでしょうかね。 [勝田]岡田氏のDataをみると、正常細胞の実験が不足ですね。 [高井]私のcontrolの細胞で代を追ってcheckしようかとも思っていますが、細胞の条件が非常によくないとよくくっつかないそうなので、negativeを決定するのが難しいと思います。
《螺良報告》現在組織培養の研究は次の3つの系列で行っている。
これは一昨日のシンポジウムで発表したように、培養細胞とその戻し移植におけるウィルス様粒子の産生を電顕的に調べているものである。とくに戻し移植をするマウスについては乳因子のあるDD系、乳因子のない(C57BLxDD)F1、及びDDfBの3系について比較している。勿論電顕的なスクリーニングは非常に粗い網目であり、またその粒子は必ずしも乳因子を意味しないが、ともかく最も迅速なスクリーニングとして電顕をねらった。
(2)(3)(4)の順でこの結論は不確かさが多い。従って今後これらを確かめると共に、発癌物質を用いてウィルスの成熟が促進されることがないかも確かめたい。
A系マウスの肺腺腫は移植につれて腺癌様の形態に移行する。この移植性肺腫瘍からYLH或はYLE培地に10%〜50%コウシ血清を加えて、トリプシナイズした組織から静置培養を試みたが、今まで数回反覆しても常に最初の2週間はかなりの増殖を見るものの以後発育の停止を来すことが常であった。 マウスの肺腺腫は組織学的に段階を追って腺癌に移行するもので、もし正常組織が培養できた場合、in vitroの発癌実験を行い癌化の過程を追求する上に好適な材料と考えられるが、その為には先ず移植性肺腺腫の培養を物にしてから、正常肺の培養そしてそのTransformationという方向へ仕事を進めたい。
:質疑応答:[高木]戻し移植は、Testisを除去した動物へ戻しているのですか。[螺良]いいえ、無処理の動物に戻しています。 [勝田]これから、どういう方面へ仕事を進めて行きますかね。肺のepthelをうまく培養出来れば、adenomaの実験など面白いのではありませんか。私達の経験では、使う動物の年齢が培養内増殖に非常に影響しますから、年齢を追って培養に移してみて、どういう条件で上皮の培養ができるか、という所をまず調べてみることですね。ただ、この場合のadenomaは自然発癌したから、培養内ではどういうやり方をするか、問題がありますね。 [螺良]肺の上皮細胞は特異顆粒があるので良いマーカーになります。 [勝田]私達の班として希望するるのは、マウスの肺の上皮細胞を培養することから始めて頂くことでしょうね。 [螺良]正常な細胞と、発癌したものとでは、どちらが培養しやすいでしょう。adenomaを培養してみても2週間位しか生えていないのです。 [黒木]培地からYEをぬいて、Eagleのビタミンを加えてみたらどうでしょう。 [勝田]Yeast extractは、大抵の細胞に増殖抑制的ですね。 [堀川]腫瘍ウィルスでの発癌機構は、どのウィルスでも同じようなものと、考えて居られますか。 [螺良]RNA型、DNA型でちがいますが、余りはっきりはしていません。
[勝田]今年は大別して次の三つの仕事をしたいと思います。
[佐藤]ラッテを使います。
[高木]HVJの問題をもう少しやりたいと思っています。 [螺良]主に次の三つです。
[勝田]正常の肺上皮が癌化した場合、どうなるかを知っておくために、adenomaを培養して慣れておくのはよいことですね。 [三宅]胎児の皮膚の器官培養の検討です。強く増殖させないで、正常の状態で調べたいと思います。それからメチルコラントレンを使って電顕レベルまで持って行きたい。アイソトープをラベルしたメチルコラントレンを使って、どこへはいるか位は調べてみたいと思います。 [堀川]
[勝田]堀川氏の場合には、放射線を使っての発癌を狙うとか、或はもっと基礎的なところを調べてもらうと良いですね。 [勝田]遠藤君、メチルコラントレンの定量は簡単ですか。 [遠藤]培地を有機溶媒でふって、O.D.で見られる筈です。結合したものはとりにくいかもしれませんが、Heidelbergerは、C14、H3をラベルしたメチルコラントレンを使っていますね。
《黒木報告》Hamster Whole Embryo Cellへの4NQO・4HAQOの作用(3)(継代のoutlineの図を呈示)全部で10のsublineから出来ています。
Zen-1・1、1・2、1・3、1・4の4つに分けて維持、このうちZen-1・1は継代間隔を比較的長くしてあります。
NQ-1:7日間培養後、4x10-6乗Mの4NQOを7日間加え、以後4NQO free med.
HA-1:7日間おいて、4x10-6乗M 4HAQO 2日間加え、つづいて10-5乗Mを10日間加える(total 12日)
Cl-NQ-1:Ca 4x10-6乗Mの6-chloro 4NQOを1回、12日間
4NQOは血清と室温で30分間おくと発癌性がなくなることが知られています(中原、福岡、Gann,50,1〜15,1959)。また4HAQOはpH7.0近くではきわめて不安定で、室温30分間でその吸光度曲線は著しく変化します(PBS(-)中)。月報6505に詳述。
これらの点を考慮に入れると、4NQOはSH基及び血清のない状態で細胞と接触させるのがよく、4HAQOはpH4.0で接触させるのがよいことになります。しかしpH4.0は無理ですし、Goldblatt、CameronのごとくあとでEinwandの入るキケンもあるという訳で、もっとも簡便な方法に統一しました。すなはち(略図を呈示)培地をびんの先の方にあつめておき(瓶を傾けて)細胞の上に培地のないようにしておきます。そこに0.1mの先端目盛のメスピペットで一定量の4NQO、4HAQOを吹きつける訳です。 Carcinogenの添加は、2日に1回とします。従って、前に記したそれぞれの群の添加回数は、NQ-1;4、NQ-2;5、NQ-3;10、HA-1;6、HA-2;13、6-Cl-NQ;1(溶液の作り方が失敗したため1回きり)となります。このことはCarcinogenの有効時間との関係で問題になるでしょう。 Carcinogenを除くときには、前のresidual effectにこりてPBS3回、complete med.1回と回数をふやしました。 Carcinogenの濃度:4NQO 4x10-6乗Mの濃度は、以前のrat、ハムスター腎のときの経験からきめました。 10-5.25乗M(5.5x10-6乗M)は強すぎ、10-5.5乗M(3.16x10-6乗M)は弱いという経験から、その中間をとった訳です。4NQO 4x10-6乗Mは0.76μg/ml、4HAQO・HCl 10-5乗Mは2.25μg/mlになります。
上記の如きmorphological transformationがおこったにしても、cloneレベルで仕事をしない限りはpopulationのselectionといううたがいが残ります。また、morphlogical transformationのおこっているのを確定し、人を納得させるためにも、矢張りcolony formationは絶対に必要です。 このため、培養当初より、cloneあるいはコロニー形成のための予備実験をつづけて来ました。 最初に行ったfeeder layerなし、Standard med.(20% or 10%Bov.S.、Eagle MEM)では全くcolonyは作られません。100コ、1,000コでは増殖せず、10,000コ、100,000コでは培養11日でfull sheetになりました。 そこでfeeder layerの作成方法と培地の検討に着手しました。 feeder layerとしてはsoflex(軟X線)照射を行ってみたのですが、cell growthをとめるには致らずに終ってしまいました。止むを得ず、少し離れた大学病院に行き、コバルト60照射2,500r〜5,000rによりauthenticなfeeder layerを作りcolony形成に用いました。(コバルト60のかけ方はdishにmonolayerにまいたものと、suspensionの二つの群に分ける、どちらも同じ) 培地としては、山根教授のところで改良されたmodified Eagle(bov.albumine fract,V 0.75%、Bact-peptone 0.1%に含む)を用いてみました。その結果は、この培地がハムスター細胞には非常によい結果を与えることが分りました。
cells/dish Modified Eagle Eagle 100.000 full sheet full sheet 10.000 colonial sheet sparcely 1,000 15,18,21,25 no growth 100 3, 3, 5, 0 no growth
cells/disy Modified Eagle Eagle 100,000 full sheet full sheet 10,000 colonial sheet sparsely 1,000 1,2,2,5, no growth 100 no growth no growth予想に反して、feeder layer群には全くコロニー形成はみられません(modified Eagle)(NQ-2,4G,46days、HA-1,4G,46days)。
HQ-2、HA-1のどちらでも、transformed cellから成るコロニーが多くみられます。 コロニーの形はfusiformなcellがcrisscrossしmultilayerを形成するものや、multilayerは形成せず、典型的なfibroblastのコロニーを示すもの、細胞がお互いに連絡し合ず、パラパラと散布するものなど様々です。またcontrolのようなflatな拡ったcellから成るコロニーもあります。これらのコロニーの形態とその分類についてはまだ十分に検討しておりませんので詳しいことは次にゆずります。(写真を呈示)
ハムスターnewborn皮下、adult SC、ch-p.へ培養細胞各100万の移植を行い、腫瘍形成能をみた。 結果はHA-1、5G、56d.ではnewborn SC 9匹は、移植後7日、20日目腫瘤形成なし。adult SCではNo.41は7日目に2x2mmの硬い腫瘤形成をみたが20日目には消失。No.42は7日目には2x4mm、20日目には4x4mmで皮膚とユ着。adult.ch-p.No.43は7日目に3x4mm硬、20日目には3x2mm。 NQ-2、5G、56d.ではNo.53、ch-p.は7日目には2x2mmの硬く白い腫瘤をみたが、20日目には(-)。 Zen-2-1、4G、26d.はNo.54、ch-p.で7日目に2x2の赤く軟い腫瘤をみたが、20日目には(-)。 HA-2、5G、65d.はNo.55〜63でnewborn SCは13d.に腫瘤なし。No.65、adult SC.は11日目には8x5mmのよく動く硬い腫瘤があり13日目には6x6とやや縮小。No.66はadult ch-p.、11日目に7x7x5mmの硬い白色の腫瘤。No.67、adult ch-p.、11日目に7x7x5mm剔出して組織標本を作る。
4NQO及びそのderivativesの発癌性は今まで、マウス、モルモット、ジュウシマツなどで確認されていますが、どういう訳かハムスターを用いた成績は出ておりません。そこで、ハムスターの細胞を用いている都合上、動物でも(又はでは)発癌するというdataがほしく、実験を開始した訳です。今までのいろいろの文献を参考にし、solvent of carcinogenはpropylen glycol、4NQO及び4HAQOをそれぞれ1.0mg、5.0mgづつ10匹のハムスターに接種しました。部位は右ソケイ部、10日おきに5回、皮下注射(0.2ml)です。 4NQO、4HAQOはかなり強い作用があるらしく、局所にはnecrosis ulcerをみます。5回目の注射を終った現在では、4HAQO群に特にひどいulcerが残っています。いずれの群でも、皮下に硬結を触れるようになりました。
:質疑応答:[佐藤]発癌剤を入れない対照のものでも、コロニーを作らせると、transformedと同じ様なコロニーが出来るのではありませんか。[黒木]対照では、増殖がわるいので、その点は調べられませんでした。 [佐藤]Collagenなんかを出している様な細胞は、mesenchymalなものの様です。何日の胎児を使いましたか。 [黒木]15〜16日で、産まれるにはまだ間のあるものです。 [佐藤]15〜16日というと、肝や肺など、上皮性の細胞もあるわけですが・・・。 [遠藤]東京に居た頃、Changのliver cellの株を4NQOで10-5乗Mで、24hrs.作用させてみたことがあります。そして、やはり増殖の早い細胞群も現れてきたのをみたことがあります。巨細胞や、多核細胞は見られませんでしたか。 [黒木]みられないようでした。 [遠藤]4HAQOというのは、すごく扱いにくい薬品です。0.4%位のHClで、保存するのが一番良いと思います。実験のとき中性のbufferに吹き込んで使います。細胞のない培地だけで、培地に吹き込んでどの位4HAQOがもつかを調べてみると、4HAQOの形では、10分位しか存在していない。みている間に酸化をうけて、赤い沈殿ができてきます(但しNgas中ではできない)。細胞内で酵素に還元され、activeの形に変って行きます。4NQOは比較的安定ですが血清特にSH量にdependentです。Cystineはよいが、Cysteineとglutathioneが問題です。 [高木]窒素と炭酸ガスで調節しながら(対照も)実験すれば、かなり良いわけですね。 [遠藤]そうですね。とにかく4HAQOの場合、何日間添加しても効いていたのは10分間だけということを、考慮に入れてやって下さい。何日入れたと云わず、何回入れたと書いた方がよいと思います。4NQOの場合は培地中では安定で、細胞内で4HAQOに変って作用します。PRを入れているとわからないが、入れていないと、赤い沈殿がよくわかります。 [堀川]4HAQOがcell内のどの分劃に結び付くか、調べてありますか。 [遠藤]4NQOでやってみたことがあるが、はっきりしませんでした。 [黒木]癌研の高山先生が、Autoradiographyで調べて、核の中にあると言って居られました。 [高木]4NQOは水溶液で低温におくとどの位保ちますか。 [遠藤]3週間位保ちます。高木氏の云われた様に酸素に触れないようにしておくと、4HAQOの効果が出ないということも考えられますね。 [勝田]染色体の標本は作ってありますか。 [黒木]途中、凍結してはあるが、標本にはしていません。 [勝田]対照が生えにくいというのは、クローニンなどに困りますね。 [黒木]しかし、途中で対照が消えてしまうというのが、利点でもあります。 [遠藤]4NQOでもっと低濃度(影響が形の上に表れない位)で長くやるというのも、やってみたらどうですか。 [勝田]発癌剤を使うとき、2種類の方法があります。DABみたいに、どかんとCell damageと起こさせるというやり方と、死なせずに低濃度で長く作用させるというやり方ですね。遠藤氏に伺いますが、水に溶けないという物質も、実際は少しは溶けるものでしょう。 [遠藤]水に溶けていなくてもいつの間にか沈殿がなくなるということはありますね。 [螺良]ガラスに塗って添加するということも出来ますね。 [勝田]胎児より新生児を使った方が良いと思います。ハムスター胎児組織の培養で、自然発癌のデータが出てきましたからね。それと材料をはっきりさせないと、変異でなくて、始めからあったものが、selectされたのではないかということも指摘される恐れがあります。 [黒木]私の変異株の場合は、pHがすごく下ります。 [佐藤]私の場合は、takeされる細胞では脂肪顆粒が出てきます。 [黒木]今の実験方式で、詳細に検討、及び再現実験を試みたいと思います。復元もしっこくやるつもりです。また、発癌性のない4NQOもやってみたいと思います。変異細胞のcloningももっとうまくやらなければ、と思っています。 [勝田]もし腫瘍を作るようになったら、逆にさかのぼって、何回処置をすれば変異させられるか、最少回数と量を調べなければね。 [螺良]ハムスターを使った理由は? [黒木]いろいろありますが、細胞を同種のcheek pouchにもどせることと、ハムスター胎児については、山根先生が培養材料及び条件の検討をしていられるので、便利だからです。 [遠藤]横へひろげるにも、余り無計画でなく、薬品をよく選ぶようにして下さい。ある構造のものは細胞内に取り込まれても還元されず、発癌しません。
《高木報告》再びハムスター皮フの培養条件について先月はハムスター胎児皮フの培養にハムスター胎児抽出液(H.E.E.)を用いて可成りの効果があったことを報告しましたが、その後の2〜3の試みについて報告します。
:質疑応答:[高木]今後の問題ですが、1)PancreasはRabbitのβCellは片付いたので、ratやhumanのβcellをやっています。2)発癌関係は増殖の肥大の起らぬ状態で長く培養することを心掛けたいと思います。ハムスターのskinとkidneyのorgan cultureをやりたいと思いますが、hamster embryo extractが良さそうに思われます。DNBAも使いたいと考えています。またcell levelでの仕事もやりたいと思います。[勝田]Embryo extractにはいろんな酵素が入っているから、それを入れた培地で4NQOがどの位失活しないでいられるか、問題がありますね。それからハムスターとなると、その培養条件についても、検討を始めなくてはなりませんね。 [遠藤]器官培養の場合、もっとよく維持させるために、ホルモン添加とか、培地の検討とか、考えられているのですか? [高木]それも考えていますが、それより組織片の大きさ等が問題だと思います。 [勝田]発癌実験を皮膚の器官培養でやる利点は何でしょう。 [三宅]組織レベルで調べられることですね。 [勝田]動物での発癌過程の組織像をよくつかんでおく必要がありますね。 [遠藤]動物の場合なら皮膚癌を作らせるとき、paintingなどの方法があるが、器官培養の場合のそういう考慮は? [三宅]パラフィンで固めた小さな塊をのせてみたことがありますが、与える期間の問題などが不適で、全部necrosisになってしまいました。 [黒木]4NQOを器官培養で与えた場合、epithelの方にも変化は起こりませんか。 [高木]余り起りません。 [三宅・高木]皮膚の器官培養の場合、大きさが大きすぎると、内部がnecrosisに陥るので困ります。 [黒木]発癌剤は下から吸い上げられるわけですか。 [高木]そうです。動物の時のように注射してみたらとも考えていますが。 [黒木]注射だと肉腫になるのではないでしょうか。 [遠藤]4HAQOの場合は、paintingでは成功せず(白洲がマウスで成功)1回注射でラッテに肉腫ができました。fibrosarcomaで癌にはなりにくいですね。たった一回、それも10分の作用でsarcomaが出来るという利点があります。4NQOは中原先生がpaintingでマウスに癌を作っておられるし、マウスの肉腫もあります。4NQO単独では肝癌は出来ません。DABをまず喰わせておいて皮膚に4NQOを塗って肝癌を作った例はあります。森さんは肝癌を作っておられます。 [勝田]methylcholanthreneはlotによって活性の低いのがあると云いますが、4NQOは? [遠藤]ベルゾールにとかして、アルミナのクロマトを通して精製して使います。1時間もたたない内に出来ますよ。 [勝田]我々は精製ということに慣れないから、つい億劫がるのだね。発癌剤は強力なものを使った方が良いですね。 [遠藤]強力であり、水溶性で、作用機序のはっきりしているものであることが必要ですね。
《三宅報告》皮膚のOrgan Cultureについて、その将来。これから、ここに書きますことは実験についての所見ではありません。先般の福岡でのSymposiumの際に皆様からいただいたsuggestionについて、帰京して頭が落ちついて考えた私なりの考えなのです。この前の班会議の際にも申しましたように、皮膚のOrgan Cultureをしていて、我々を刺戟したものは、この中で類上皮癌が出来ないかということでした。そのために増殖を高めるということが、私共の第一の目標になったのです。その点では九大の高木先生のお考えとは少しづれていたようです。増殖をたかめてはならないという考え方が、どうした理念から出たものか、詳しく聞くことは出来ませんでしたから、まっこうにそれに相対してゆくことは、私には出来ませんが、若し、高木先生のお考えが、私が想像するように、癌細胞とは生体の中で決して増殖率が速くないものであるから、増殖率を細胞にたかめるという方法では、よしそれがin vitroでたかめられても、それだけでは決して癌とはいえないというものでしたら、私には反対の意見があります。私は癌とは増殖率が遅速があってもそれは問題ではなくて、それが無制限でなくてはならないと考えています。growth control mechanismのはずれが癌の特質と考えています。 私達の皮膚のOrgan cultureの場合、Symposiumで表皮層の増殖曲線でお見せしたように、in vitroに移された3〜4日までの間に、激しいBasal layerの分裂があり、10〜11日目になると表皮の層の厚さは横ばいになります。どうやら角化層というendproductが出来るとBasal layerへのfeed backが働くと考えられるのです。それは、想像にすぎませんが、酵素的なものかも知れませんし、あるいはGeneがテンプレートを作るという所で、抑制をうけているのかも知れません。こうした考えからすると、皮膚のOrgan Cultureをして、それから無制限な増殖である癌を作ろうとするためには、培養条件を、少し落して、増殖をひかえさせるという方法よりも、むしろ逆にますます培養条件をよくして、このfeed back的なものを取り除くという方法をとるのも、決してあやまった方法でないと考えているのです。この道筋にそって、やり度いのです。 |