【勝田班月報:6606:ハムスター胎児細胞への4NQO・4HAQOの作用】

DENによる培養内発癌実験について:

     前月にひきつづいてラッテ肝細胞の培養にDEN(ディエチルニトロソアミン)の添加をつづけている。最近、肝細胞のシートに縞模様があらわれ、これは三種類の細胞(何れも肝細胞ではあるが)が集団をつくり合っている為にできたものと判った(略図を呈示)。

     中型細胞は、細胞質が明るく、余裕のある限り互いに密着しない。顕微鏡映画で観察すると(供覧)非常によく動く。しかし分裂はきわめて低頻度である。大型の細胞は硝子面に広く伸展し、細胞質が灰色に見える。これは変性しかけた細胞ではないかと思われる。小型の細胞は互いに強く密着し、ほとんど立体的に押上げ合っているかのように見える。これも余り動きはなく、何れにせよ変性への過程に入っている細胞ではないかと想像される。

     これらの培養はDENを50μg/mlから、100μg/ml、現在は1,000μg/mlまで上げて連続的に投与している群である。先般も報告したようにDENはμgレベル(100μg/ml位)で明らかに肝細胞の増殖を促進し、DAB発癌とDEN発癌とでは機構がかなり異なることを示唆している。

     今後はさらに若い株の肝細胞を用い、短期間での変異を狙いたいと思っている。

     胸腺細網細胞の培養による抗体産生の実験は、昨日報告したので省略する。今後はできた抗体の特異性について証明することに努力したい。



:質疑応答:

[螺良]DENの作用で、映画に見られたような動きの活発な細胞と、そうでないのとに分れたのですか。

[勝田]そうだと思います。分れたというより変ったということです。

[黒木]継代すれば分離できるのではないでしょうか。

[三宅]変性細胞と、動きの早い細胞の島との間に、膜があるように見えましたが、膜でしょうか。

[勝田]そんな風に見えましたね。しかし本当のところはまだ判りません。

[黒木]DENは安定ですか。pHの変化その他に対して・・・。

[勝田]光以外に対しては安定だそうです。

[黒木]DMNではどうですか。動物実験ではDENと同じような結果が得られているそうですが・・・。

[勝田]DMNも使ってみたいのですが、水に易溶性の点でDENから使いはじめました。癌研・高山氏の話では、DENも水にとかして与えると胆管上皮癌が多く、油にとかして与えると肝癌が多くできるそうですね。

[黒木]杉村先生の話では4NQOでも水にとけるのができたそうです。

[螺良]DENは1mg/mlで細胞変性はどうですか。

[高岡]1mg/mlでは増殖は抑えますが、変性は少いようです。

[勝田]DEN発癌の肝臓は、DABのときのような激しい破壊像が少くて、出血巣があって、その周囲に増殖像がみられるということです。しかし、DABに比べ、動物発癌のレベルでもデータが少いので困っています。

[堀川]2種の発癌剤を組合せて試みてみましたか。

[勝田]薬剤で2種というのはやっていません。“なぎさ”培養のあと高濃度DAB処理−というのはやってみました。今後はDABをはじめに投与し、次にDENというのはやってみる予定で居ります。



《佐藤報告》

発癌実験:RLD-10(Donryu系ラッテ生後14日の肝をprimary cultureし、最初の4日間のみ1μg/mlのDABを添加し、以後DABを除いて増殖株となった細胞)に3'-Me-DABを添加して発癌させる実験は計4回行われた。そのうち2回は既に報告した。第3回目については昨年暮ラッテの復元成績判定日が来るまで待って報告する様お約束していました。

 現在(66'-4-30日)でみると(復元表を呈示) 

  1. )RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加しないで復元すると、培養1091日で所謂spontaneous transformationがおこっているのが分る(腹腔内接種のみ)。培養1235日の復元接種では極めて強い癌性が認められたが、培養1313日、1337日両培養細胞の復元接種では現在までの所腫瘍は認めれない(127日及び108日経過)。この間の癌性の低下の理由は分らない。 

  2. )RLD-10細胞に3'-Me-DABを添加した場合を見ると添加日数が160日を越えた場合、癌性の増強が明かに見られる(この点は第II回実験と同様である)。腫瘍をつくったものとつくらないものについて、投与方法を検討して見ると、3'-Me-DABを連続投与するか、極めて変性が強くなる迄投与するかの方法が有効であり、10μg/mlと0μg/mlを交換する方法では効果が少い様に思われた。復元接種の方法としては、100万個細胞接種→3ケ月屠殺開腹、500万個細胞接種→死亡まで(少くとも1年)観察の方法が最適と考えられる。

培養上の自然発癌について

     
  1. )RLN-8(正常Donryu系ラッテ生後9日の肝より株化されたもの)が自然発癌したことは前号の記録を参照していただきたい。記録中、復元時培養日数1192、接種細胞数100万個、観察中の3匹の内1匹は149日で腫瘍発生、この細胞は培養日数1268日で生後31日のラッテ腹腔に100万個、500万個、1,000万個復元接種したとき、復元後178日の屠殺開腹で夫々0/1、0/2、2/3の腫瘍腹水の発生を見た。
     又、RLN-8培養日数1109日でnew born Donryu系ラッテに復元接種し、復元後130日たって出来た腫瘍腹水を再培養しSp-1と名付けた。再培養後55日に1,000万個の細胞を生後34日のDonryu系ラッテに移植した場合には、49、64、75日で3/3腫瘍死した。

     

  2. )RLN-39細胞の自然発癌

     前号RLN-39細胞の復元表中、287日死亡頭部化膿と記載のものは病理組織標本検索の結果、腫瘍細胞を確認、又i.p.303観察中0/3の内1例は腹腔中にTumor発見310日死亡。従ってRLN-39は発癌していたことになります。



:質疑応答:

[堀川]Tumorの区別は簡単にできますか。

[佐藤]それは出来ます。それから、ラッテ継代も出来ますから、間違いはないと思います。

[螺良]はっきりしないもののassayのためには、1,000万個位接種する必要があるわけですか。

[佐藤]新生児では1,000万個の必要はありません。100万個で100日で殺せばcheck出来る、という方式でやろうと思っています。

[螺良]少数細胞で長期間見るより、大量接種して早くみる方に揃えた方がよくありませんか。

[佐藤]少数で長くかかってつくということで、腫瘍性の低いものをcheck出来ます。

[黒木]100万個の方は省略して、500万個だけでデータを出した方がよいのではないでしょうか。

[佐藤]100万個の方は途中で殺して、中間の低い腫瘍性をしらべ、500万個は死ぬまでおくという、ちがう方法のつもりです。

[堀川・黒木・螺良]実験方式は出来る限り簡潔に確実にすべきですね。

[高井]100万個で3ケ月のもので、どの位の%に判別出来るとお思いですか。

[佐藤]つくべきものなら100%判ります。

[勝田]自分のこれまでのデータをよく整理して、接種量、観察期間、take率などに関する一つの表を作ってみて下さい。

[螺良]対照に腫瘍性があるかどうかのcheckを気にしているのか、対照と3'-Me-DAB処理群との差をみることに重点をおいているのかどちらですか。

[佐藤]両方とも考えています。

[勝田]細胞への復元接種について我々の間でこれまで問題になってきたことを、新しい方々も居られますので、簡単に要約してみますと、

  1. 培養内での変異細胞を少数の内に確実に捕えるため、色々な復元接種法を試みた結果、佐藤班員の経験では、新生児腹腔内接種が最高の成績を示しました。

  2. 次に接種した動物を何時まで観察すべきか・・という問題があります。Evansなどは1.5年はみるべきと云っていますが、1.5年もおいてはじめて出来た腫瘤が果たして接種細胞の作ったものかどうか、という問題が残ります。

佐藤班員が「私は今後こうやろうと思う」と云っても、そうやりたいということの根拠をもっと皆にはっきり判るように説明しなくてはならないと思います。実際的には100万個で3ケ月ということで、変異細胞のchecking、500万個で死ぬまでということで、使った正常細胞の悪性のcheckingということになりますかね。

[黒木]腹水腫瘍細胞を動物に接種した場合の細胞数と、生存日数の関係は図示できます。また図から計算した結果はautoradiographyで調べたgeneration timeと一致しました。

[佐藤]この図でみると、100万個で死ぬまでみて、500万個で1ケ月という方がよいということでしょうか。

[高井]腫瘍細胞のgeneration timeで死亡日数が決まるわけですね。すると100万個が500万個にふえるのに必要な日数が、100万個と500万個の死亡日数の差になるわけですか。

[黒木]ただ佐藤先生のような場合、接種した細胞100万個が皆同じような悪性細胞というわけではないのですから、この腹水腫瘍のデータが必ずしもあてはまるわけではないでしょう。

[勝田]もう一つの問題はRLN-39(9日ラッテ)のように、2年以上培養しただけで、ラッテにtakeされたものがあるのですから、実験は2年以内、出来れば1年以内にすませなくてはならないということですね。

[佐藤]はっきりは云えませんが、材料をとったラッテの年齢が若いほど早く悪性化するように思えます。とにかく、人工的でも或る形式を定めて、復元実験をやろうと思っています。

[高井]結局、佐藤先生のplan通りでよいようですね。



《高井報告》

HVJ(Hemagglutinating Virus of Japan)による細胞融合現象を細胞のmalignancyの有無の判定に利用する試み:

 われわれが組織培養内での発癌をねらって仕事を進める場合に問題になる重要な事柄の一つは、細胞のmalignancyの判定であります。もちろん、この問題は最終的にはgeneticに適当なhostに復元接種を行うとすれば、非常に多くの動物を要し、時間的、空間的、並びに経済的にかなりの負担になります。そこで、簡単なsystemでmalignancyの有無が短時間内に、たとえ大ざっぱにしても判定出来て復元接種のための目安が得られれば有用であろうと思われます。

 ところで、御承知の様に、阪大微研の岡田等は、数年来HVJによる細胞融合現象を詳しく追求しておられますが、この現象を上記の目的に使用できる可能性もありそうに思えます。すなわち、彼等の報告によれば、mouse腹水腫瘍(Ehrlich、Sarcoma180、Sarcoma37、SN36、Actinomycin Sarcome、MH-134)、組織培養株細胞(KB、HeLa、FL、Chang Liver、MS、ERK、L)、並びに人間のmyeloid leukemia cellsは高いfusion capacityを有するのに対し、monkey kidney、mouse embryo fibroblast、chick embryo fibroblastの2代目ではfusion capasityは極めて低く、正常leukocytesはfusion capacityを有しないとの事です(Okada et al.,Exptl.Cell Res.32,417-430,1963)。彼ら自身「Fusion capacityが細胞の癌化のindicatorになり得るかを正確に検定してみる必要がある。」とも述べています。
(岡田その他、細胞化学シンポジウム、15巻、159-177、1966)。

 そこで、この現象が私の現在維持しているbEIIK(9代目)(btk mouse embryo fibroblasts、対照群)並びにAS.T-d26-T(JTC-14株−actinomycin induced sarcomaのstrain−の株でmalignancy(+))について、おこるかどうかを試してみました。なお、必ずfusionをおこす筈の細胞としてHeLaも同時に使用しました。岡田等のroutineに使用している方法はcell suspensionの状態でHVJと混合し、37℃で60分間振盪する方法ですが、これでは1,000万個のorderの細胞数を必要とします。上記の復元接種のための予備試験という意味に使うには、とてもこれだけ多くの細胞は使えないので、今回はタンザク入りの小角ビンを使用し、cellがガラス壁に附着したままの状態でHVJと接触させてみました。

 最初は小角ビンに1mlの新しいmediumを入れたところへ、HVJ液0.1mlを加え、10分間iced waterで冷してから、incubtor(37℃)に入れ、24時間後固定染色してみましたが、これではHeLaでさえ余りfusionしていませんでした。  

そこで、Newcastle Disease Virusで同様な現象を観察しているKohnの方法(A.Kohn,Virology 26,228-245,1965)に準じて、mediumを捨てた後、HVJ液0.1mlを直接cell sheetに添加し、30分間37℃にincubate後、新しいmedium0.9mlを加えて24時間更にincubateしてみました。この方法によれば、HeLaはfusion(++)ですが、AS.T-d26-Tは(-)、bEIIKは(±)〜(-)といった状態でした。当然fusionするだろうと思っていたAS.T-d26-Tがうまく融合しないので困っています。

 何れにしても、この現象は今までcell suspensionでの解析はずい分詳しく検討されて来ていますが、cell sheetでの反応の条件については、今まで殆ど検討されていない様です。殊に融合をおこすのはイキの良い細胞に限られ、degenerateしたcellは融合しないということもあります。更にVirusの量の問題もあり、当然、細胞数も問題になる筈です。これらの色々な問題について、もう少し検討しないことには、目的は達せられないわけですが、この現象のspecificityについて、まだはっきり「正常のものは融合しない、悪性のものはする」と言い切れるかどうか疑わしい現在では、余り深く追求することは、本来の発癌実験をやる上で、望しくないかも知れません。しかし、もう少しだけ、この問題を検討してみたいと考えています。



:質疑応答:

[堀川]高井さんの場合、このHVJを腫瘍化を見付ける手段に使うつもりですね。

[高井]これが非常に簡単にできるのなら使えると思いますが、なかなか難しいかもしれません。

[堀川]Ideaとしてはよいが、本当に使おうと思うなら、やはり、その作用機構がはっきりわかってからでないと、使うのは無理ではないでしょうかね。

[勝田]岡田氏のDataをみると、正常細胞の実験が不足ですね。

[高井]私のcontrolの細胞で代を追ってcheckしようかとも思っていますが、細胞の条件が非常によくないとよくくっつかないそうなので、negativeを決定するのが難しいと思います。



《螺良報告》

 現在組織培養の研究は次の3つの系列で行っている。

  1. )マウス乳癌の組織培養

    これは一昨日のシンポジウムで発表したように、培養細胞とその戻し移植におけるウィルス様粒子の産生を電顕的に調べているものである。とくに戻し移植をするマウスについては乳因子のあるDD系、乳因子のない(C57BLxDD)F1、及びDDfBの3系について比較している。勿論電顕的なスクリーニングは非常に粗い網目であり、またその粒子は必ずしも乳因子を意味しないが、ともかく最も迅速なスクリーニングとして電顕をねらった。
    今迄の結論は

    1. 培養によってもHistocompatibilityは不変である。
    2. 培養細胞ではほぼ成熟ウィルスはみられなくなった。
    3. 乳因子のある系統への戻し移植ではウィルス様粒子を認めることがあった。
    4. 乳因子のない系統への戻し移植では今迄のところ確実なウィルス様粒子らしいものは見つかっていない。

    (2)(3)(4)の順でこの結論は不確かさが多い。従って今後これらを確かめると共に、発癌物質を用いてウィルスの成熟が促進されることがないかも確かめたい。

  2. )マウス肺腺腫の組織培養

     A系マウスの肺腺腫は移植につれて腺癌様の形態に移行する。この移植性肺腫瘍からYLH或はYLE培地に10%〜50%コウシ血清を加えて、トリプシナイズした組織から静置培養を試みたが、今まで数回反覆しても常に最初の2週間はかなりの増殖を見るものの以後発育の停止を来すことが常であった。

     マウスの肺腺腫は組織学的に段階を追って腺癌に移行するもので、もし正常組織が培養できた場合、in vitroの発癌実験を行い癌化の過程を追求する上に好適な材料と考えられるが、その為には先ず移植性肺腺腫の培養を物にしてから、正常肺の培養そしてそのTransformationという方向へ仕事を進めたい。

  3. )マウス及びラットの睾丸間細胞腫の組織培養

    1. Wistarラット

       このラットは生後2年以上で自然発生腫瘍が多く、しかもそれらは内分泌系由来のものである。之からYLHに10%コウシ血清を加えた培地で単層培養を試みたところ、睾丸間細胞腫2例、乳腺繊維腺腫1例、下垂体腫瘍1例は、初代培養で発育を認めた。しかし乳腺繊維腺腫以外は継代の見込みがない状態となった。(顕微鏡写真を呈示)

    2. KFマウス

       之に自然発生した睾丸間細胞腫は前記の培地によく発育し、現在継代しているものは1965年1月4日から培養したものである。この培養細胞のもとの原発腫瘍は、移植に関してホルモン依存性があり、たとえ同系のKFマウスでも女性ホルモンを投与していないものには移植できない。ところが一旦培養すると初代培養7日目でホルモン依存性なく移植でき、しかも動物に継代可能である。(表を呈示)

      この腫瘍で問題となることは、原発がホルモン産生臓器であるが、その機能が培養で維持されているか、また培養或は戻し移植で電顕的にウィルス様粒子が認められたが、これはこの腫瘍に如何なる関係があるかという2点である。之等についての現在のデータを示すと以下の通りである。

      1. )ホルモン産生能

         生物学的な方法と化学的な方法の2つがあるが、戻し移植したマウスの雌雄について各臓器とくに卵巣、子宮と睾丸、精嚢を無処置のものと比較した。子宮及び精嚢重量が増加しているが、これらは去勢動物を用いて確かめる必要があろう。

         また戻し移植腫瘍を阪大医学部・森君に組織化学的に調べてもらった。

        • Histochemistry of Re-inoculted Testicular tumor
        • Alkaline phosphatase -
        • Acid phosphatase -
        • Aminopeptidase -
        • β-Glucuronidase +++〜++++
        • Non-specific Esterase ±〜+
        • Succinic dehydrogenase ++++
        • Lactic dehydrogenase +++
        • Malic dehydrogenase ++
        • Glutamic dehydrogenase +
        • β-Glycerophosphate dehydrogenase +
        • Isocitrate dehydrogenase ++
        • Glucose-6-phosphate dehydrogenase ++

        ホルモン産生細胞ではGlucose-6-phosphate dehydrogenaseと3-β-ol dehydrogenase活性との間に平行関係があるが、この場合G-6-P dehydrogenaseしか行えなかった。然しその部位と活性程度からみても、ステロイドホルモン産生能はない様だとの見解であった。

         また移植腫瘍2gを阪大医学部遺伝の関さんに化学的に分析してもらったが、ステロイドホルモン(Testosterone、Androstendione、Estradiol、Estrone、Estriol)はかかってこなかった。

        従って原発がどうであったかは別問題であるが、少くとも培養の戻し移植でもホルモン産生能はなくなっていて、培養細胞でも同様消失しているという可能性が強くなった。

      2. )ウィルス様粒子

         戻し移植から電顕的に100mμ大の細胞表面から遊離されヌクレオイドをもつウィルス様粒子が認められた。京大翆川氏もA系に誘発し移植性とした間細胞腫を培養し、培養細胞にウィルス様粒子を認め、発癌性乃至はホルモン産生との関係を暗示した。しかし私の見解では之が乳因子ではないかと考えている。(電顕像を呈示)

        その根拠はA系、KF系とも乳癌の発生があり、乳因子をもっていることが確かで、それらに同様のウィルス様粒子を見ること、また乳因子は或程度carrier stateで培養されるが多くの成績では半年以後次第に消失してゆくようであって、翆川氏のもその様な傾向にあること、また私の場合、培養10月で電顕的にウィルス様粒子のないものに乳癌をcontact cultureすると乳癌細胞は培養されなかったのに、間細胞腫は4月後にもなお電顕的にウィルス様粒子がみられ、乳因子が感染してcarrier stateで維持されているのでないかと考えられるという結果が出たからである。

         尤も造腫瘍性を確かめるには、生物学的な方法によらねばならぬので、ウィルス様粒子のある移植腫瘍からcell-freeのextractを作って新生KFマウスの皮下及び腹腔と、幼若KFマウスの1側睾丸内に接種を行ったが、約6ケ月を経過して腫瘍の発生は未だない。

        以上ホルモン産生及びウィルス様粒子とも何れも否定的な方向に結果がゆきそうであるが、この培養細胞が乳因子或は白血病ウィルス等の持続感染系に使えないかという点に、腫瘍ウィルスの研究をしている者として興味をもっている。



:質疑応答:

[高木]戻し移植は、Testisを除去した動物へ戻しているのですか。

[螺良]いいえ、無処理の動物に戻しています。

[勝田]これから、どういう方面へ仕事を進めて行きますかね。肺のepthelをうまく培養出来れば、adenomaの実験など面白いのではありませんか。私達の経験では、使う動物の年齢が培養内増殖に非常に影響しますから、年齢を追って培養に移してみて、どういう条件で上皮の培養ができるか、という所をまず調べてみることですね。ただ、この場合のadenomaは自然発癌したから、培養内ではどういうやり方をするか、問題がありますね。

[螺良]肺の上皮細胞は特異顆粒があるので良いマーカーになります。

[勝田]私達の班として希望するるのは、マウスの肺の上皮細胞を培養することから始めて頂くことでしょうね。

[螺良]正常な細胞と、発癌したものとでは、どちらが培養しやすいでしょう。adenomaを培養してみても2週間位しか生えていないのです。

[黒木]培地からYEをぬいて、Eagleのビタミンを加えてみたらどうでしょう。

[勝田]Yeast extractは、大抵の細胞に増殖抑制的ですね。

[堀川]腫瘍ウィルスでの発癌機構は、どのウィルスでも同じようなものと、考えて居られますか。

[螺良]RNA型、DNA型でちがいますが、余りはっきりはしていません。


☆☆☆ 各班員の今年度の研究計画についての話合い:

[勝田]今年は大別して次の三つの仕事をしたいと思います。

  1. )ラッテ肝を使い、DENなどによるin vitroの発癌実験。
  2. )正常細胞と癌細胞との間の相互作用、特にその作用因子を物質的に追うこと。
  3. )胸腺の培養内抗体産生の仕事をもう少しはっきりさせる。\

[佐藤]ラッテを使います。
  1. )古くからある正常肝由来の株細胞に3'-Me-DABを添加する。
  2. )初代培養に3'-Me-DABを添加する。
  3. )培養肝細胞の機能について調べる。

[高木]HVJの問題をもう少しやりたいと思っています。

[螺良]主に次の三つです。

  1. )乳癌の継代培養で、ウィルス粒子が出てくるか、否か、発癌物質でたたいた場合どうか。
  2. )マウス、ラッテの睾丸間細胞腫の培養。
  3. )A strainマウスの肺のadenomaの培養。正常から段階を追って培養し、in vivoとの比較をしたい。

[勝田]正常の肺上皮が癌化した場合、どうなるかを知っておくために、adenomaを培養して慣れておくのはよいことですね。

[三宅]胎児の皮膚の器官培養の検討です。強く増殖させないで、正常の状態で調べたいと思います。それからメチルコラントレンを使って電顕レベルまで持って行きたい。アイソトープをラベルしたメチルコラントレンを使って、どこへはいるか位は調べてみたいと思います。

[堀川]

  1. )ショウジョウバエを使って、細胞の分のregulationをみること。
  2. )mammalian cellsでUVやX線などの生細胞への影響、特にrepairingの問題。
  3. )発癌の仕事については考慮中です。

[勝田]堀川氏の場合には、放射線を使っての発癌を狙うとか、或はもっと基礎的なところを調べてもらうと良いですね。

[勝田]遠藤君、メチルコラントレンの定量は簡単ですか。

[遠藤]培地を有機溶媒でふって、O.D.で見られる筈です。結合したものはとりにくいかもしれませんが、Heidelbergerは、C14、H3をラベルしたメチルコラントレンを使っていますね。



《黒木報告》

Hamster Whole Embryo Cellへの4NQO・4HAQOの作用(3)
 (継代のoutlineの図を呈示)全部で10のsublineから出来ています。
     
  1. Control:

    Zen-1・1、1・2、1・3、1・4の4つに分けて維持、このうちZen-1・1は継代間隔を比較的長くしてあります。

     

  2. 4NQO:

    NQ-1:7日間培養後、4x10-6乗Mの4NQOを7日間加え、以後4NQO free med.
    NQ-2:9日間培養後、4NQO 4x10-6乗M 10日間加え、1日おいて継代
    NQ-3:NQ-2のsubline、3Gで4日おいて再び4NQO 4x10-6乗M 10日間添加

     

  3. 4HAQO:

    HA-1:7日間おいて、4x10-6乗M 4HAQO 2日間加え、つづいて10-5乗Mを10日間加える(total 12日)
    HA-2:HA-1のsubline、3Gで再び10-5乗M 14日間加える

     

  4. 6-chloro-4NQO:

    Cl-NQ-1:Ca 4x10-6乗Mの6-chloro 4NQOを1回、12日間

     

  5. 発癌剤の添加方法:

     4NQOは血清と室温で30分間おくと発癌性がなくなることが知られています(中原、福岡、Gann,50,1〜15,1959)。また4HAQOはpH7.0近くではきわめて不安定で、室温30分間でその吸光度曲線は著しく変化します(PBS(-)中)。月報6505に詳述。

     これらの点を考慮に入れると、4NQOはSH基及び血清のない状態で細胞と接触させるのがよく、4HAQOはpH4.0で接触させるのがよいことになります。しかしpH4.0は無理ですし、Goldblatt、CameronのごとくあとでEinwandの入るキケンもあるという訳で、もっとも簡便な方法に統一しました。すなはち(略図を呈示)培地をびんの先の方にあつめておき(瓶を傾けて)細胞の上に培地のないようにしておきます。そこに0.1mの先端目盛のメスピペットで一定量の4NQO、4HAQOを吹きつける訳です。
    (なお4NQO、4HAQOは10-2乗MにEtOHに溶解後、dis.waterで10-3乗Mとし、millipore filtration、この原液をそのまま加えます。4x10-6乗Mのときは0.036ml、10-5乗Mのときは0.08ml、4HAQOは塩酸塩ですのでこの原液のpHは4.0前後です。発癌剤は、1週間〜10日毎に作りなおし、保存は0.5mlづつ小分けにして凍結-20℃しておきます。なお、光に対しては特別の注意を払っていません。)

     Carcinogenの添加は、2日に1回とします。従って、前に記したそれぞれの群の添加回数は、NQ-1;4、NQ-2;5、NQ-3;10、HA-1;6、HA-2;13、6-Cl-NQ;1(溶液の作り方が失敗したため1回きり)となります。このことはCarcinogenの有効時間との関係で問題になるでしょう。

     Carcinogenを除くときには、前のresidual effectにこりてPBS3回、complete med.1回と回数をふやしました。

     Carcinogenの濃度:4NQO 4x10-6乗Mの濃度は、以前のrat、ハムスター腎のときの経験からきめました。

    10-5.25乗M(5.5x10-6乗M)は強すぎ、10-5.5乗M(3.16x10-6乗M)は弱いという経験から、その中間をとった訳です。4NQO 4x10-6乗Mは0.76μg/ml、4HAQO・HCl 10-5乗Mは2.25μg/mlになります。

     

  6. その他の培養手技:

       
    • 培地はEagle MEM(autoclaved)+1.0mM Pyruvate+0.2mM Serine+1.0mg/l of biotine+10%of Bov.Ser.(Lotは統一)。
       
    • 酵素は0.02%Pronase。
       
    • 継代のinoc.Sizeは10万個/ml。
       
    • うえかけ後3〜4日はアルミホイルでsealし、炭酸ガスフランキ、cell sheetが出来たらゴム栓にする。  
    • 培地交換は週2回。  
    • 培地はControl用とExp.用に分け、ピペットも一本毎にかえ、cell contaminationには十分気をつけた。
     
  7. 培養経過:

       
    1. Control

       初代から2〜3代まではきわめて活発に増殖する。

       細胞の形態は比較的よくそろっており、培養2代1週間前後のときは、fibroblastともepithelialともつかないようであった。培養20日目にはGiemsa染色すると(写真を呈示)きれいなfibroblastのmonolayerであった。細胞の配列は方向性をもったfibroblastのそれであった。細胞の大きさもよくそろっている。しかし、10日後(29日)にはこの細胞の形は変り、細胞質はうすく広がり、細胞の形からはfibroblastとは云えないようになっていた。さらに10日経て、40日位になるとintercellularにCollagen(?)様のものが網状に形成されて来る(写真呈示)これは細胞質のしわのように思われる。位相差では細胞質のうすく広がった細胞から成っている。細胞がこのように変る前(30日前後)に細胞質内の顆粒の増えた時期があった。増殖は継代の略図からも分るように、30日すぎはほとんどとまってしまっている。現在(70日すぎ)は、やっと細胞を維持している状態でとても継代は出来ない。

       

    2. 4NQO添加群

       4x10-6乗M(10-5.4乗M、0.76μg/ml)の4NQOを添加すると細胞変性と配列の乱れが起って来ます。その結果、月報6604に記した如く、フェルトのような厚い部分と細胞の変性脱落の二つの部分が、一本の培養びん中に同時に出現します。

       NQ-1は4NQO free med.にかえてから20日間培地交換をつづけ、継代しました。継代時にはフェルトの部分はますますあつくなり、そこから細胞のない部分へのmigrationはほとんどありません。継代後の細胞はmultilayerになる傾向が少く、培養3G 49d.(7-7-35)にはflatなepithelialのcellから成るように変化しました。

       NQ-2は(9-10→)のスケジュールでcarcinogenが加えられたのですが、3代目へ継代後には、あちこちにfusiform cellのcriscrossした像から成るfocusが出現して来ました。このfocusのbackgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。focus以外の部分にも、細胞の大小不同が目につきます。しかし、細胞の形は培養50日すぎから余り特色がなく、multilayerを形成する傾向も少くなり、また同時に増殖も低下して来ました。

       NQ-3は(9-10-5-10→)と二回に恒って4NQOを加えたのですが、2回目の4NQO添加がoverであったらしく、小さなfocus(直径5mm前後)を1ケとそのまわりのうすい細胞層を残すのみで、増殖はまだおこりません。

       以上のように4NQO添加群は最初の40日位までは明らかなmorphological transformationがみられるのですが、それ以後、またもとに逆もどりするようです。4NQOの添加方式等も考慮に入れて再実験を行うつもりです。

       ただ、4NQOそのものにcarcinogenecityはなく、4HAQOがmetabolic activityと一般に云はれ、4NQO→4HAQOは酵素的に反応がすすむとされていますので、用いている細胞にその酵素がなければ発癌しない訳です。

       

    3. 4-hydroxy amino quinoline-1-oxide 4HAQO添加群

       4HAQOは、4NQOのごときcytopathic effectが少なく、10-5乗Mでも細胞変性はみられません。

       HA-1(7-2(4x10-6乗M)-10(10-5乗M)→)、4HAQOを加えて3日目には一部分に4NQOと同じような細胞の配列の乱れがみられましたが、他の部分はcontrolと同じような細胞から成っています。3代目に移しかえるとき(7-12-1)には肉眼的にmultilayerのfocusのごときものがみられるようになりました。3代目に継代してから最初の一週間は、細胞はcontrolと同じようで特別の変化はみられなかったのですが、その後培養びんのあちこちにtransformed fociの出現をみました。このfocusはfusiformな細胞のcrisscrossした像から成ります。そのbackgroundには、controlにみるような細胞のsheetがみられます。継代をつづけるに従い、このcontrolのような細胞はselection or dilutionされ、現在(76日)では、ほとんどが、このtransformed cellから構成されています。増殖度はcontrolにみられた30〜40日頃からのcrisisにおちいることもなく、活発に増殖つづけております。

       HA-2(7-12-5-14→)、1回目の4HAQO添加後、再び4HAQOを10-5乗M 14日添加したものです。HA-1と同じように、継代3代目にtransformed fociが出現し、backgroundにはcontrolと同じような細胞がみられます。HA-1と同じように継代に従い、transformed cellがselectionされ、またgrowthも低下することなく現在に及んでいます。

       このように、HA-1とHA-2は、細胞の形態、増殖度からみても全く同じ経過をたどっています。二回目の4HAQOを14日間添加したことの意味は現在のところなさそうに思えます(将来悪性化したとき、悪性度の差などで現れないとは限りませんが)。

       以上の4HAQO添加群の結果をまとめると次のようになります。

      1. 紡錘形の細胞が無方向性に配列するtransformed fociの出現。
      2. 培養40〜50日までは、コントロールにみられるようなフラットな大きく拡った細胞のmix.、それ以後はなくなる。
      3. 増殖は途中で落ちることなく、3〜4times/Wのわりで増殖をつづける。
      4. Giemsa染色でもtransformed cellにはintercellularな物質はみられない。
      5. 培地のpH低下が早い(これはphenol redからみた感じにすぎないのですが、24hrs.後には黄色くなっています)。
       
    4. 6-chloro-4NQO添加

      6-chloro-4NQOが手許にあったので、4NQOと同じように加えてみました。これは非常にとけにくく、とけても(EtOH、propylene glycol)水を加えるとたちまち沈殿がでます。このため一度加えただけですが、はじめは4NQOと同じように細胞の乱れと、multilayerが出現しました。しかし継代50日頃には、flatなepthelialなcell sheetにもどってしまいました。

     
  8. コロニー形成の試み:

     上記の如きmorphological transformationがおこったにしても、cloneレベルで仕事をしない限りはpopulationのselectionといううたがいが残ります。また、morphlogical transformationのおこっているのを確定し、人を納得させるためにも、矢張りcolony formationは絶対に必要です。

     このため、培養当初より、cloneあるいはコロニー形成のための予備実験をつづけて来ました。

     最初に行ったfeeder layerなし、Standard med.(20% or 10%Bov.S.、Eagle MEM)では全くcolonyは作られません。100コ、1,000コでは増殖せず、10,000コ、100,000コでは培養11日でfull sheetになりました。

     そこでfeeder layerの作成方法と培地の検討に着手しました。

     feeder layerとしてはsoflex(軟X線)照射を行ってみたのですが、cell growthをとめるには致らずに終ってしまいました。止むを得ず、少し離れた大学病院に行き、コバルト60照射2,500r〜5,000rによりauthenticなfeeder layerを作りcolony形成に用いました。(コバルト60のかけ方はdishにmonolayerにまいたものと、suspensionの二つの群に分ける、どちらも同じ)

     培地としては、山根教授のところで改良されたmodified Eagle(bov.albumine fract,V 0.75%、Bact-peptone 0.1%に含む)を用いてみました。その結果は、この培地がハムスター細胞には非常によい結果を与えることが分りました。

  9. NQ-2のコロニー形成: Cells:NQ-2,3G,34days in vitro,10days incubation

    cells/dish      Modified Eagle         Eagle 
      100.000         full sheet           full sheet
        10.000        colonial sheet      sparcely
          1,000        15,18,21,25         no growth
            100          3, 3, 5, 0          no growth
    
  10. HA-1のコロニー形成: Cells:HA-1,3G,34days in vitro,10days incubation

    cells/disy       Modified Eagle         Eagle
      100,000         full sheet           full sheet
        10,000       colonial sheet       sparsely
          1,000          1,2,2,5,             no growth
            100         no growth           no growth
    
     予想に反して、feeder layer群には全くコロニー形成はみられません(modified Eagle)(NQ-2,4G,46days、HA-1,4G,46days)。

     

  11. コロニーの形態:

     HQ-2、HA-1のどちらでも、transformed cellから成るコロニーが多くみられます。

     コロニーの形はfusiformなcellがcrisscrossしmultilayerを形成するものや、multilayerは形成せず、典型的なfibroblastのコロニーを示すもの、細胞がお互いに連絡し合ず、パラパラと散布するものなど様々です。またcontrolのようなflatな拡ったcellから成るコロニーもあります。これらのコロニーの形態とその分類についてはまだ十分に検討しておりませんので詳しいことは次にゆずります。(写真を呈示)

     

  12. 培養細胞の移植実験について:

     ハムスターnewborn皮下、adult SC、ch-p.へ培養細胞各100万の移植を行い、腫瘍形成能をみた。

     結果はHA-1、5G、56d.ではnewborn SC 9匹は、移植後7日、20日目腫瘤形成なし。adult SCではNo.41は7日目に2x2mmの硬い腫瘤形成をみたが20日目には消失。No.42は7日目には2x4mm、20日目には4x4mmで皮膚とユ着。adult.ch-p.No.43は7日目に3x4mm硬、20日目には3x2mm。

    NQ-2、5G、56d.ではNo.53、ch-p.は7日目には2x2mmの硬く白い腫瘤をみたが、20日目には(-)。

     Zen-2-1、4G、26d.はNo.54、ch-p.で7日目に2x2の赤く軟い腫瘤をみたが、20日目には(-)。

     HA-2、5G、65d.はNo.55〜63でnewborn SCは13d.に腫瘤なし。No.65、adult SC.は11日目には8x5mmのよく動く硬い腫瘤があり13日目には6x6とやや縮小。No.66はadult ch-p.、11日目に7x7x5mmの硬い白色の腫瘤。No.67、adult ch-p.、11日目に7x7x5mm剔出して組織標本を作る。

     

  13. 4NQO、4HAQOによるハムスターの発癌実験:

     4NQO及びそのderivativesの発癌性は今まで、マウス、モルモット、ジュウシマツなどで確認されていますが、どういう訳かハムスターを用いた成績は出ておりません。そこで、ハムスターの細胞を用いている都合上、動物でも(又はでは)発癌するというdataがほしく、実験を開始した訳です。今までのいろいろの文献を参考にし、solvent of carcinogenはpropylen glycol、4NQO及び4HAQOをそれぞれ1.0mg、5.0mgづつ10匹のハムスターに接種しました。部位は右ソケイ部、10日おきに5回、皮下注射(0.2ml)です。

     4NQO、4HAQOはかなり強い作用があるらしく、局所にはnecrosis ulcerをみます。5回目の注射を終った現在では、4HAQO群に特にひどいulcerが残っています。いずれの群でも、皮下に硬結を触れるようになりました。



 

:質疑応答:

[佐藤]発癌剤を入れない対照のものでも、コロニーを作らせると、transformedと同じ様なコロニーが出来るのではありませんか。

[黒木]対照では、増殖がわるいので、その点は調べられませんでした。

[佐藤]Collagenなんかを出している様な細胞は、mesenchymalなものの様です。何日の胎児を使いましたか。 [黒木]15〜16日で、産まれるにはまだ間のあるものです。

[佐藤]15〜16日というと、肝や肺など、上皮性の細胞もあるわけですが・・・。

[遠藤]東京に居た頃、Changのliver cellの株を4NQOで10-5乗Mで、24hrs.作用させてみたことがあります。そして、やはり増殖の早い細胞群も現れてきたのをみたことがあります。巨細胞や、多核細胞は見られませんでしたか。

[黒木]みられないようでした。

[遠藤]4HAQOというのは、すごく扱いにくい薬品です。0.4%位のHClで、保存するのが一番良いと思います。実験のとき中性のbufferに吹き込んで使います。細胞のない培地だけで、培地に吹き込んでどの位4HAQOがもつかを調べてみると、4HAQOの形では、10分位しか存在していない。みている間に酸化をうけて、赤い沈殿ができてきます(但しNgas中ではできない)。細胞内で酵素に還元され、activeの形に変って行きます。4NQOは比較的安定ですが血清特にSH量にdependentです。Cystineはよいが、Cysteineとglutathioneが問題です。

[高木]窒素と炭酸ガスで調節しながら(対照も)実験すれば、かなり良いわけですね。

[遠藤]そうですね。とにかく4HAQOの場合、何日間添加しても効いていたのは10分間だけということを、考慮に入れてやって下さい。何日入れたと云わず、何回入れたと書いた方がよいと思います。4NQOの場合は培地中では安定で、細胞内で4HAQOに変って作用します。PRを入れているとわからないが、入れていないと、赤い沈殿がよくわかります。

[堀川]4HAQOがcell内のどの分劃に結び付くか、調べてありますか。

[遠藤]4NQOでやってみたことがあるが、はっきりしませんでした。

[黒木]癌研の高山先生が、Autoradiographyで調べて、核の中にあると言って居られました。

[高木]4NQOは水溶液で低温におくとどの位保ちますか。

[遠藤]3週間位保ちます。高木氏の云われた様に酸素に触れないようにしておくと、4HAQOの効果が出ないということも考えられますね。

[勝田]染色体の標本は作ってありますか。

[黒木]途中、凍結してはあるが、標本にはしていません。

[勝田]対照が生えにくいというのは、クローニンなどに困りますね。

[黒木]しかし、途中で対照が消えてしまうというのが、利点でもあります。

[遠藤]4NQOでもっと低濃度(影響が形の上に表れない位)で長くやるというのも、やってみたらどうですか。

[勝田]発癌剤を使うとき、2種類の方法があります。DABみたいに、どかんとCell damageと起こさせるというやり方と、死なせずに低濃度で長く作用させるというやり方ですね。遠藤氏に伺いますが、水に溶けないという物質も、実際は少しは溶けるものでしょう。

[遠藤]水に溶けていなくてもいつの間にか沈殿がなくなるということはありますね。

[螺良]ガラスに塗って添加するということも出来ますね。

[勝田]胎児より新生児を使った方が良いと思います。ハムスター胎児組織の培養で、自然発癌のデータが出てきましたからね。それと材料をはっきりさせないと、変異でなくて、始めからあったものが、selectされたのではないかということも指摘される恐れがあります。

[黒木]私の変異株の場合は、pHがすごく下ります。

[佐藤]私の場合は、takeされる細胞では脂肪顆粒が出てきます。

[黒木]今の実験方式で、詳細に検討、及び再現実験を試みたいと思います。復元もしっこくやるつもりです。また、発癌性のない4NQOもやってみたいと思います。変異細胞のcloningももっとうまくやらなければ、と思っています。

[勝田]もし腫瘍を作るようになったら、逆にさかのぼって、何回処置をすれば変異させられるか、最少回数と量を調べなければね。

[螺良]ハムスターを使った理由は?

[黒木]いろいろありますが、細胞を同種のcheek pouchにもどせることと、ハムスター胎児については、山根先生が培養材料及び条件の検討をしていられるので、便利だからです。

[遠藤]横へひろげるにも、余り無計画でなく、薬品をよく選ぶようにして下さい。ある構造のものは細胞内に取り込まれても還元されず、発癌しません。



《高木報告》

 再びハムスター皮フの培養条件について

 先月はハムスター胎児皮フの培養にハムスター胎児抽出液(H.E.E.)を用いて可成りの効果があったことを報告しましたが、その後の2〜3の試みについて報告します。

     
  1. )胎生中期ハムスター皮フの培養

     動物の大きさによる培養の難易をみる為、胎生中期ハムスター背部の皮フを、皮下組織と共にハサミで切り取って培養しました。Mediumとしては、C.E.E.とChick plasma1:3からなるclotを用い、その上にサージロンを置いて皮フ片を載せ、37℃、3%炭酸ガス、97%酸素通気下に培養し、4日毎に固定染色して観察しました。培養前の組織は胎生末期のものに比べてかなり未分化の状態にありますが、培養後4日目のものでもこの傾向がみられ、表皮、真皮の区別はあまりはっきりしませんが8日目になると、H.E.E.を用いて胎生末期のものを培養したときに似て、表皮、真皮ははっきり区別され基底細胞層の配列も規則正しく明らかなMitosisも認められます。更に13日目までこの傾向が同様にみられますが、17日目あたりになると角質層は表皮層からやや剥離した状態になり、表皮細胞の配列もくずれてきました。以前行った胎生末期の組織の培養では4日以後は殆んど組織を維持することが出来なかったのに比べ、この結果はMediumの条件もさること乍ら培養される組織の側の条件(特に胎生時期の問題)もかなり大きいことを暗示しています。

     

  2. )H.E.E.を用いたハムスター胎児皮フの培養

     先月報のものと同じH.E.E.を用いたPlasma clotにより先のものより更に出生が間近いと思われるハムスター胎児を培養しました。

     今回は固定染色を2日毎に行い頻回に観察しましたが、その結果培養後2日目ですでに角質層の増生を認め、表皮層も培養前の1〜2層に比べて3〜4層と徐々に厚くなって基底細胞層もその形を整えて来ますが、この実験では期待されたMitosisは殆んど見られませんでした。4日目、6日目、8日目と日を追って少しづつ表皮の厚さを増し、多いものでは5〜6層にまで達しますが矢張りMitosisは認められませんでした。



 

:質疑応答:

[高木]今後の問題ですが、1)PancreasはRabbitのβCellは片付いたので、ratやhumanのβcellをやっています。2)発癌関係は増殖の肥大の起らぬ状態で長く培養することを心掛けたいと思います。ハムスターのskinとkidneyのorgan cultureをやりたいと思いますが、hamster embryo extractが良さそうに思われます。DNBAも使いたいと考えています。またcell levelでの仕事もやりたいと思います。

[勝田]Embryo extractにはいろんな酵素が入っているから、それを入れた培地で4NQOがどの位失活しないでいられるか、問題がありますね。それからハムスターとなると、その培養条件についても、検討を始めなくてはなりませんね。

[遠藤]器官培養の場合、もっとよく維持させるために、ホルモン添加とか、培地の検討とか、考えられているのですか?

[高木]それも考えていますが、それより組織片の大きさ等が問題だと思います。

[勝田]発癌実験を皮膚の器官培養でやる利点は何でしょう。

[三宅]組織レベルで調べられることですね。

[勝田]動物での発癌過程の組織像をよくつかんでおく必要がありますね。

[遠藤]動物の場合なら皮膚癌を作らせるとき、paintingなどの方法があるが、器官培養の場合のそういう考慮は?

[三宅]パラフィンで固めた小さな塊をのせてみたことがありますが、与える期間の問題などが不適で、全部necrosisになってしまいました。

[黒木]4NQOを器官培養で与えた場合、epithelの方にも変化は起こりませんか。

[高木]余り起りません。

[三宅・高木]皮膚の器官培養の場合、大きさが大きすぎると、内部がnecrosisに陥るので困ります。

[黒木]発癌剤は下から吸い上げられるわけですか。

[高木]そうです。動物の時のように注射してみたらとも考えていますが。

[黒木]注射だと肉腫になるのではないでしょうか。

[遠藤]4HAQOの場合は、paintingでは成功せず(白洲がマウスで成功)1回注射でラッテに肉腫ができました。fibrosarcomaで癌にはなりにくいですね。たった一回、それも10分の作用でsarcomaが出来るという利点があります。4NQOは中原先生がpaintingでマウスに癌を作っておられるし、マウスの肉腫もあります。4NQO単独では肝癌は出来ません。DABをまず喰わせておいて皮膚に4NQOを塗って肝癌を作った例はあります。森さんは肝癌を作っておられます。

[勝田]methylcholanthreneはlotによって活性の低いのがあると云いますが、4NQOは?

[遠藤]ベルゾールにとかして、アルミナのクロマトを通して精製して使います。1時間もたたない内に出来ますよ。

[勝田]我々は精製ということに慣れないから、つい億劫がるのだね。発癌剤は強力なものを使った方が良いですね。

[遠藤]強力であり、水溶性で、作用機序のはっきりしているものであることが必要ですね。



《三宅報告》

 皮膚のOrgan Cultureについて、その将来。

 これから、ここに書きますことは実験についての所見ではありません。先般の福岡でのSymposiumの際に皆様からいただいたsuggestionについて、帰京して頭が落ちついて考えた私なりの考えなのです。この前の班会議の際にも申しましたように、皮膚のOrgan Cultureをしていて、我々を刺戟したものは、この中で類上皮癌が出来ないかということでした。そのために増殖を高めるということが、私共の第一の目標になったのです。その点では九大の高木先生のお考えとは少しづれていたようです。増殖をたかめてはならないという考え方が、どうした理念から出たものか、詳しく聞くことは出来ませんでしたから、まっこうにそれに相対してゆくことは、私には出来ませんが、若し、高木先生のお考えが、私が想像するように、癌細胞とは生体の中で決して増殖率が速くないものであるから、増殖率を細胞にたかめるという方法では、よしそれがin vitroでたかめられても、それだけでは決して癌とはいえないというものでしたら、私には反対の意見があります。私は癌とは増殖率が遅速があってもそれは問題ではなくて、それが無制限でなくてはならないと考えています。growth control mechanismのはずれが癌の特質と考えています。

 私達の皮膚のOrgan cultureの場合、Symposiumで表皮層の増殖曲線でお見せしたように、in vitroに移された3〜4日までの間に、激しいBasal layerの分裂があり、10〜11日目になると表皮の層の厚さは横ばいになります。どうやら角化層というendproductが出来るとBasal layerへのfeed backが働くと考えられるのです。それは、想像にすぎませんが、酵素的なものかも知れませんし、あるいはGeneがテンプレートを作るという所で、抑制をうけているのかも知れません。こうした考えからすると、皮膚のOrgan Cultureをして、それから無制限な増殖である癌を作ろうとするためには、培養条件を、少し落して、増殖をひかえさせるという方法よりも、むしろ逆にますます培養条件をよくして、このfeed back的なものを取り除くという方法をとるのも、決してあやまった方法でないと考えているのです。この道筋にそって、やり度いのです。