【勝田班月報:6705】班長・巻頭言変異か淘汰か: 最近培養内発癌実験において、発癌剤その他の作用が果して真の変異を起させているのか、それとも初めから混在していた悪性ないし準悪性の細胞を淘汰しているのか、ということが国際レベルで問題にされている。これは非常に重要な問題であり、生体内における発癌の機構にも、胎児では初段階、成体では第2段階の経過として、一応考慮に入れてよい現象である。それにも拘らず実際に研究に従事する者は、その点に虚心坦懐に疑問をおいて実験を組立てようとする者が少く、大部分は、何とか変異させたことを証明しようと、いわば初めから色めがねをかけて実験をおこない、しかもプランを立てている。これでは万一そのような事実が起っているとした場合、その事実を見逃してしまう危険性がある。我々は常に事実に忠実でなくてはならないが、我々のグループでも一人くらい逆の目を以てこの点を追求してみようとする者が現れてもよいのではあるまいか。 Leo Sacksの仕事がこのごろ相継いで発表されているが、それらに共通していることは、ハムスター胎児の細胞を用いており、対照群がいずれも増殖しなくなってしまうこと、仕事がどれも実にきれいすぎることである。生体内の細胞、特に胎児の体細胞に、たえずどの位にVariantsが生まれているか。これは重要な問題であり、これは一つには技術的困難さが障害となっていると思われるが、Gotlieb-Stematskyらのように、ハムスター胎児組織をexplantで培養するとmalignantにならないが、細胞一個一個バラバラにしてcoloniesを作らせるとtransformしたのが出てくる。したがって、はじめからmalignantないしsub-malignantの細胞が混在していて、ただ周囲の正常細胞によって増殖が抑えられているにすぎないのだ、という知見が出てくると、これはEmbryonal developmentの問題とも関与し、あらためて、このNormal cell group内の解析の重要性が再び浮び上ってくることになる。以前の報告と同レベルでなく、精密な且、信頼度の高いデータを出すためには、まず技術的に数レベル上の方法をとらなくてはならないので、今からじっくり考えてみる必要があるのではなかろうか。 |