【勝田班月報:6906:4NQOの細胞DNAに対する障害と修復】
先月の月報に一寸かいたが、手持の色々な株についてイノシトール要求をしらべたところ、仲々面白いことが判った。 これをしらべるには、血清を用いることを避け、(表を呈示)表のようなDM系の合成培地を使い、それだけでは増殖せね場合のみ、3日間透析した仔牛血清を10%添加した。 RLH-1〜RLH-5はラッテ肝細胞を“なぎさ”培養で変異させた株で、夫々イノシトール要求が異なり、RLH-1、RLH-2、RLH-4は要求性、RLH-3とRLH-5が全く要求していないことが判った。DM-120にはイノシトールが含まれて居らず、DM-145はその組成にイノシトールを2mg/lに加えたものである。但しRLH-3は無蛋白にするとイノシトールを若干要求している可能性もある。 次にRTH-1株はラッテ胸腺細網細胞の株を“なぎさ”変異させたものであるが、これもイノシトールを要求していない。これらの内で現在合成培地DM-120だけで培養できているのは、RLH-3、RLH-5、RTH-1の3株である。 これらを通じて感じるのは、イノシトールを要求しない株の方が、合成培地で増殖しやすいのではないか、ということと、我々の周囲の色々な株や亜株のなかには案外合成培地で増殖できる細胞があるのではないかということである。皆さんもぜひ試みて頂きたいことである。 また、ある組織の細胞を合成培地で培養したいという場合、性質が若干変っても構わぬ場合は、わざと“なぎさ”培養で変異させて、合成培地に移すという手も考えられる。 これらのイノシトール要求をしらべるとき、2mg/lに一律に加えてしらべたが、AH-7974(JTC-16)の場合のように10mg/lが、至適というような例(DM-147)もあるので、他の株の場合も一応しらべてみる必要がある。 ついで、というわけでL-929原株についてもイノシトール要求をしらべてみた。この場合は透析血清を入れた群と、入れない群と、両方についてしらべた。 結果は、透析血清を入れた場合にはイノシトールを全く要求していないことが判ったが、蛋白を入れぬときは、どうもイノシトールを入れた方が増殖を促進されることが判った。Eagleは、HeLaはイノシトールを要求するが、Lは要求しないと報告した。彼の場合は透析血清を入れていたので我々の透析血清添加と同じ結果になったのであろう。蛋白のなかからイノシトールが遊離されてくるのか、それともイノシトールの代役をするものが出てくるのか、今のところでは何とも判らないが、今後の面白い課題の一つであろう。 次にラッテ腹水肝癌由来の3株についてイノシトール要求をしらべてみた。AH-130由来のJTC-1、AH-66由来のJTC-15、AH-7974由来のJTC-16である。 結果はJTC-1は明らかにイノシトールを要求しているが、JTC-15は要求せず、むしろ培地中に含まれていない方が増殖度が高いほどであった。JTC-16はきわめて顕著にイノシトール要求を示した。 今後イノシトールの前駆体その他を用いて、イノシトール代謝をしらべて行くのには、この株は実に好適の材料といえるであろう。
肝細胞株RLC-10を用いた4NQO発癌の実験系をまとめて図にしたものと、復元成績の表およびそれをSchemaにした図を呈示する。 そのなかの#CQ60という実験は、はじめから経過を追ってしらべている系の内の第1seriesであり、4NQO1回処理だけで復元して陽性(まだ死んではいないが)になっている。その第2seriesにあたる#CQ63でも1回処理で変化があらわれているので、4NQOは1回処理で充分といえるかも知れない。 RLC-10株は最近染色体数が42本の他に41本もふえてきたので、今後はもはや発癌実験には使わず、凍結してしまい、次の若い株(RLC-11、RLC-12)を使って行きたいと思っている。またラッテ肝の“なぎさ”変異株のRLH-5が合成培地内で活発に増えるので、これをクローニングして、合成培地内での発癌実験に使う、いわばモデル実験も併行しておこなって行きたいと思っている。もちろんRLH-5がたしかにtakeされないということを確かめておく必要があるが、この株は材料が純系になってからのJAR-1なので色々と好都合である。
:質疑応答:[高木]イノシトールを要求する細胞の場合、イノシトールの無い培地で4日間までは増殖しているのですね。4日から7日へかけて急に壊れているのは何故でしょうか。[勝田]細胞のイノシトール消費量が非常に少ないという事ではないでしょうか。ですから培地からイノシトールを除いてしまっても暫くの間はプールで間に合うのでしょう。 [難波]濃度はどの位ですか。 [勝田]この実験では2mg/lです。しかしJTC-16で10mg/lの方がより増殖を高めるというデータが出ています。 [安村]Lの場合、合成培地だとイノシトールを添加した方が、増殖度が高いという結果が出ていますが、これは透析血清にイノシトールが入っているということでしょうか。又イノシトールが無くても増殖するが、あればなおよく増えるというのは矢張りイノシトールが何かやっているのでしょうね。私もイノシトール無しの培地でもコロニーは出来るが、イノシトールを入れた培地と比べると、コロニーサイズの上でずっと劣るというデータを持っています。 [堀川]血清の分劃中にイノシトールがあるかどうかも確かめた方がよいですね。 [山田]今のデータをみていて考えたのですが、イノシトール要求性のJTC-16、RLH-4はシアリダーゼ処理で著明に泳動度がおちる株細胞です。そしてイノシトールを要求しないJTC-15、RLH-3、RLH-5はシアリダーゼ処理では泳動度が殆ど変わりません。何か膜表面に関係がありそうですね。 [安藤]イノシトールはホスホリピドとくっついているわけですから、膜とは関係があるでしょうね。最近は核の中にもあるということが判っています。 [山田]チャージはどうなっていますか。 [安藤]イノシトールそのものはチャージはありませんが、ホスホリピドとついてマイナスチャージになります。 [安村]イノシトールの無い培地で飼うと細胞同士の附着が少なくなるようです。とにかくコロニーサイズが大きくならないのが不思議です。 [勝田]合成培地で簡単に継代出来る株細胞に共通しているのは、イノシトールを要求しないということのようです。RLH-1のような例外もありますが。栄養要求を調べるには透析血清を使ってはだめですね。結果がはっきり出ません。 [安村]合成培地で培養する時、大切なのはイニシアルpHですね。少し低い方が良いと思います。 [堀川]血清には強い緩衝能力がありますからね。 [吉田]RLC-10は樹立して、どの位たってから、実験に使い始めましたか。 [勝田]3年位でしょうか。もうそろそろ新しい株に切り替えようと考えています。 [吉田]株細胞を使うと、発癌剤による悪性化が早いようですね。初代培養ではなかなか悪性化しません。 [難波]確かに初代培養の方が悪性化の時期がおくれます。 [安村]しかし、株細胞を使うと再現性の高い実験をすることが出来ます。初代培養ではなかなかデータが一定になりません。血清の問題などが、大きな原因になっているのかも知れませんね。 [安藤]RLH-5を実験に使う場合、もとの動物−この場合ラッテの−抗原性をすでに持っていないかも知れないという難点があるのではないでしょうか。 [安村]何とか培養条件をもっと良くして、生体内と同じ条件で実験出来るように、細胞を維持したいものですね。 [勝田]肝細胞などは増殖せずに維持出来るのですから材料としては好適な訳ですね。 [梅田]しかし、黒木氏のデータが本当なら、発癌剤処理後にDNA合成をしなければ悪性化が起こらないということで、細胞が増殖せずに静止してしまっては、悪性化が起こらないということになって、都合が悪いですね。
《佐藤報告》§RLN-251の染色体分析この系は4NQOの処理群とその対照群について経時的に染色体分析を行っており、その間5、10、16、20、25、31、35、40の各回数処理した時点で動物復元を行っていた。今回はこれらの動物にtakeされた腫瘍の染色体分析の結果をそれぞれの同時点の対照群、処理群、と比較検討したい。(図および表を呈示)
:質疑応答:[吉田]染色体の変化についてですが、マーカークロモゾームにあまりとらわれなくても、よいのではないでしょうか。4NQOの処理回数が多くなるにつれて悪性化が進む、そして染色体数のバラツキがひどくなる、そして動物にtakeされるようになる、その頃の染色体数は4倍体が多くなっている、ということで面白いと思います。[勝田]クローニングしてみる必要がありますね。 [安村]そうですね。 [難波]現在やりつつあります。変異した系からコロニーを拾って復元してみましたが、結果はまだ出ていません。 [勝田]顕微鏡写真をみていると、悪性化したものの形態は2核以上のものが多かったようですね。本当の4倍体ではなくて2核の細胞の核が同時に分裂して4倍体のようになっているという疑いもありますね。 [安村]マーカークロモゾームを拾い出して移植すると、移植された細胞は動物にtakeされるなどということになると面白いのですがね。 [山田]4NQO処理の回数が増えると、細胞個々の悪性度が進むのでしょうか。それとも悪性細胞の集団が増えるのでしょうか。 [勝田]1回だけ4NQOの処理をしてから2群に分け、1群はそのまま培養をつづける、もう1群は何回か4NQO処理を重ねる、そして何カ月か後に動物に復元して両群の腫瘍性を比較してみると、もう少しはっきりするのではないでしょうか。 [堀川]何回も処理していると、耐性=悪性という細胞をセレクションする可能性もありますね。それから、耐性細胞の染色体数の減り方も面白いですね。私の耐性(放射線)細胞では、照射前3倍体のものが耐性を高めるにつれて2倍体までおち、暫くして4倍体に増え、そして又3倍体におちて落ち着いたというのがあります。 [吉田]生体では2倍体が必要最少限なのでしょうね。そして培養細胞では3倍体が多いようですね。 [堀川]生体では2倍体で間に合っていますがin vitroでは2倍体では生存のために不足なのではないでしょうか。昆虫の培養だともっともっと染色体数が増えてしまいます。 [藤井]培養細胞にリンパ球を入れて、リンパ球の幼若化をみて、培養細胞が変異を起こしたかどうか知ることが出来ませんか。 [梅田]癌患者の細胞を材料にして白血球の幼若化を起こさせ、H3チミジンの取り込み実験をやってみていますが、PHAの場合に比べると数値は1/10位しか出ませんが、何とかデータは出せそうです。 [勝田]しかし培養細胞での悪性化をみたい場合ですと、変異した事はわかっても、悪性化かどうかはわかりませんね。 [堀川]デュフュージョンチャンバーを使って、復元過程を追うことが出来ると、変異した細胞の移植性や悪性度などしらべられるのではないでしょうか。免疫関係では実にうまくデュフュージョンチャンバーを使っています。 [山田]免疫のように1週間単位で勝負のつけられるものはよいけれど、何カ月という長期間の実験ではなかなか難しいと思いますね。
《高木報告》
:質疑応答:[藤井]対照群の細胞を接種した動物が早い時期に死んでしまうのは何故でしょうか。[高木]今の所、何故だかわかりません。 [勝田]復元実験の途中で、腫瘍死するには少し早すぎる時期に、原因がわからずに死んでしまった動物は、どう記載すればよいでしょうか。 [吉田]事故死とするより仕方がないでしょうね。 [堀川]胸腺の細胞がそれ以外の細胞より悪性化しやすいということはありませんか。 [高木]胸腺以外の細胞は使っていませんので、わかりません。 [堀川]私の実験では胸腺の細胞が簡単に、短期間に、自然悪性化してしまうのです。しかし、マウスとラッテは違うかも知れませんね。 [高木]勝田班長からNG自身の動態を追うように言われたのですが、NGには特異吸収もないので、アイソトープでも使わないと調べられないので、まだ手がつかずにいます。
《梅田報告》
:質疑応答:[安藤]3-ハイドロキシ-キヌレニンは正常な代謝系にある物質ではありませんか。[安村]栄養要求性の方からみて、トリプトファンの要求は大変範囲がせまいようです。ですから正常な代謝系の産物であっても、量が非生理的な量ですと、発癌に関係するのではないかということが考えられます。 [勝田]DABを動物に与えて発癌させる時、♂の方が♀よりも発癌率が高いと云われましたが、馬場氏のデータによると♀の方が発癌の時期がおくれるだけで、長期間の観察での発癌率はほとんど同じだということになっていますよ。 [梅田]私のしらべた所では、DAB発癌は性ホルモンに関係がある、それは発癌第一歩のDAB自身の変化が♀の肝ホモヂネイトより♂の肝ホモヂネイトに添加した場合の方が早く起こるというデータから考えられる、というのがありました。でも動物レベルとは多少ちがいがあるのかも知れませんね。
《安村報告》☆Soft Agar法(つづき)これまでモデルとして取扱ってきたAH-7974-TC細胞の系での実験の結果をふまえて、こんごは4NQOによるin vitro malignancyとsoft agar法による細胞のcolony formationとの関係を追って行きたい。
(大学紛争のあおりをくらって、データをもちあるきながらも報告を書くに至らず、前号の月報6905にはシメキリに間に合わず、今月号に前号の分ものせてもらいました)。前号分のSoft agar法の1.にのべたQ1につづいて、Q2の系の結果から始めます。
:質疑応答:[安村]JTC-16のクローンの形態についての結論は、Lの方は細胞も大きくて核小体が多い。Sは細胞の大きさも小さくて核小体の数は少ないが、核小体1コの大きさはLより大きいということです。[何人かが一度に]そうでしょうか。どうも少し混じっている感じのようだが・・・ガヤガヤガヤ。 [堀川]初めの着想では、Lの方が悪性を担っていると考えておられたようでしたが、動物への復元成績ははっきりそうだとは言えないようですね。 [安村]そうなのです。どちらの系でも600コの細胞接種で、動物が腫瘍死してしまいます。或いはもっと少ない数だと差が出るのかも知れませんが。 [堀川]完全に正常な、つまり悪性化していない細胞からLとSを拾って復元してみればどうでしょうか。 [安村]悪性化していない系からでは、軟寒天内にコロニーを作らせられないのです。 [勝田]LとSそれぞれの系の増殖度もしらべてみて、細胞が大きいのが本当か、或いは増殖が早くて大きくなるのか、結論を出す必要がありますね。 [梅田]軟寒天内で拾ったコロニーは、大きなコロニーでも小さなコロニーでも腫瘍性があるということですと、寒天では拾えない細胞を、何か別の方法でクローニングして、寒天でコロニーを作らない細胞には腫瘍性がないということを確認しておく必要もありますね。 [山田]これらのクローンは細胞1コから増えているのですか。 [安村]何回かクローニングを繰り返していますから、計算上では1コから増えていることになっています。それから軟寒天の中で増殖できるということが、腫瘍性と大体平行していると考えて、実験を初めているわけですが・・・。 [高木]腫瘍性の度合いとコロニーを作る%を比較するには、復元部位はどこがよいでしょうか。 [安村]部位は何れにしてもタイトレーションしなくてはなりません。
《山田報告》JTC-16(AH-7974TC)のクローン5株5系について、その電気泳動度を検索しました。(結果のヒストグラムを呈示)通常のごとく、未処理細胞M/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)に浮かせて測定した値と、30単位/0.1ml cell pack・37℃・30分のシアリダーゼ処理細胞の値の図です。いづれのクローン株も予想に反し、その電気泳動値は、細胞によりかなりのばらつきがあり、クローン化しても、個々の細胞の表面の性質は直ちにばらつくものと考へました。しかし株により、その平均電気泳動値にはかなり差があり、しかもシアリダーゼ処理による泳動度の低下は株により差が著しい様です。この成績と、各株の生物学的性質に関係があると面白いのですが、残念ながら生物学的性質も不安定で比較が出来ません。 Cula、Culb株について同様にクローン株化して居るさうですから、その電気泳動度と生物学的性質の比較に期待したいと思います。同株は細胞電気泳動度からみても比較的ばらつきが少いので、そのクローン株も安定して居るのでないかと期待して居ます。
:質疑応答:[難波]膜の表面積が泳動度に関係しませんか。[山田]泳動度はチャージの密度に比例するのでtotalのチャージには関係しません。 [堀川]核だけにして泳動度を比較できませんか。 [山田]核だけにするために、いろいろ処理しなくてはなりませんが、その処理の仕方によって結果が違ってしまい、きちんとしたデータにならないのです。 [吉田]染色体にすれば、差がでるのではないでしょうか。 [堀川]それは核よりも難しいのではないでしょうか。再現性がないという意味で。 [山田]RLT-1とCula-TCとは寒天内でのPEはどう違いますか。 [安村]Cula-TCの方がずっとPEが高くコロニーサイズも大きいです。 [堀川]寒天内のコロニーはどうやって拾いますか。 [安村]簡単です。毛細管ピペットでコロニーを吸い取り、液体培地を入れた試験管の中で、コロニーと一緒に吸いとられた寒天をくずして、液体培地の中でコロニーをsuspensionにするというわけです。 [堀川]細菌の手法の様にレプリカは出来ないでしょうか。 [安村]とても難しいですね。
《安藤報告》4NQOの細胞DNAに対する障害およびその修復について(前号よりの続き)
:質疑応答:[勝田]DNAの切れた端が何なのか、調べる方法はないでしょうか。それから、どのベースに4NQOが結合しているかも調べてみて若し一致したら面白いですね。[安藤]方法はあると思います。やってみます。 [堀川]二重鎖が24hr.で回復するということを、どう考えておられますか。 [安藤]さぁ、まだどういうことかわかりません。single strandより時間はかかりますが、回復することは確かです。 [勝田]unscheduleのDNA合成は切れた所だけを修復するわけですね。だとすると4NQOを処理したあと、チミジンやウリジン等、それぞれラベルしたものを順に入れて、取り込みをみればベースのどこがとんでDNAが切れたのかが解るのではないでしょうか。 [堀川]DNAの切れ方にもいろいろ有りますね。4NQOの場合はすぐ切れますが、UV照射の場合など、6時間もかかります。 [勝田]DNAレベルで4NQOを作用させたデータはありませんか。 [堀川]杉村氏がやっていますね。DNAレベルでは4NQOはDNAを切りません。切るのは4HAQOだということです。ですから私達の実験の場合にも与えたのは4NQOでも実際にDNAに作用しているのは4HAQOに変ったものだと思われます。 [安藤]腹水細胞の実験でも、4NQOを与えて細胞内にむすびついているのは4HAQOだというデータがありますね。ところで染色体はどういう具合に分裂するのですか。 ☆☆そこで“染色体の複製の仕方、又分裂について”堀川班員から講義がありました。途中から吉田先生が救援されました。
《堀川報告》4-NQOによる培養細胞内DNAのSingle strand scissionsの誘導ならびにその再結合については従来、Alkaline sucrose gradient法ならびにAutoradiographyには4-NQO処理後の細胞のunscheduled DNA合成の検索などから証明してきた。今回は4-HAQO処理によるDNAのsingle strand scissionの誘起とその再結合について報告する。(図を呈示)種々の濃度の4-HAQOでEhrlich細胞を30分間処理した直後のDNAの一本鎖の切断をみたものであるが、4-HAQOでは1x10-4乗Mの濃度で顕著な切断がおきる。4-NQOの場合は1x10-5乗Mで同程度の切断がおきたわけで、4-HAQOは4-NQOの約10倍の濃度で切断を起すことがわかる。このことはcolony形成能あるいはChromosomalおよびChromatide aberrationなどでみた4-NQOおよび4-HAQOの細胞毒性の結果とよく一致する。 また1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した細胞を37℃で種々の時間正常培地中でincubateした後のDNAの再結合の様子を図に示す。incubation時間に伴って高分子のDNAにもどって行くことがわかる。 またPS細胞、Ehrlich細胞およびL細胞を10-5乗Mまたは10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した直後にAutoradiograph法でみたUnscheduled DNA合成の検索をした(表を呈示)。10-5乗M 4-HAQOで処理した後には3種の細胞ともにLight labelled cellsのpercentが増加してunscheduled DNA合成が起きていることがわかる。一方10-4乗Mで処理した場合にもLight labelled cellsのpercentは増加するが、これはHeavy labelled cellsのpercentが減少していることから、正常な細胞DNA合成が4-HAQOによって抑制されたことによるもので、真のunscheduled DNA合成をみているとは言えない。 然も10-4乗M 4-HAQO処理による正常DNA合成のinhibitionはL細胞で最も顕著であり、PS細胞のそれが4-HAQOに対して最も抵抗性であることがわかる。 これらの結果は従来調べて来たcolony形成能でみた3種の細胞の4-NQOoyobi4-HAQOに対する感受性の差異とよく一致する。 いづれにしても4-NQO、4-HAQO共に細胞内DNAのsingle strand scissionsをinduceする。しかもそのscissionsは細胞内で再結合されることがわかった。然しここで問題になるのは、4-NQOが細胞内で直接DNAのsingle strand scissionsを誘起するのか、あるいは細胞内に取り込まれた4-NQOが4-HAQOにreduceされてからこうしたDNA scissionsをinduceするのかということで、このことについて現在検討中である。 |