【勝田班月報:6906:4NQOの細胞DNAに対する障害と修復】

     
  1. 各種細胞株のイノシトール要求:(各実験毎に増殖曲線図を呈示)

     先月の月報に一寸かいたが、手持の色々な株についてイノシトール要求をしらべたところ、仲々面白いことが判った。

     これをしらべるには、血清を用いることを避け、(表を呈示)表のようなDM系の合成培地を使い、それだけでは増殖せね場合のみ、3日間透析した仔牛血清を10%添加した。

     RLH-1〜RLH-5はラッテ肝細胞を“なぎさ”培養で変異させた株で、夫々イノシトール要求が異なり、RLH-1、RLH-2、RLH-4は要求性、RLH-3とRLH-5が全く要求していないことが判った。DM-120にはイノシトールが含まれて居らず、DM-145はその組成にイノシトールを2mg/lに加えたものである。但しRLH-3は無蛋白にするとイノシトールを若干要求している可能性もある。

     次にRTH-1株はラッテ胸腺細網細胞の株を“なぎさ”変異させたものであるが、これもイノシトールを要求していない。これらの内で現在合成培地DM-120だけで培養できているのは、RLH-3、RLH-5、RTH-1の3株である。  これらを通じて感じるのは、イノシトールを要求しない株の方が、合成培地で増殖しやすいのではないか、ということと、我々の周囲の色々な株や亜株のなかには案外合成培地で増殖できる細胞があるのではないかということである。皆さんもぜひ試みて頂きたいことである。

     また、ある組織の細胞を合成培地で培養したいという場合、性質が若干変っても構わぬ場合は、わざと“なぎさ”培養で変異させて、合成培地に移すという手も考えられる。

     これらのイノシトール要求をしらべるとき、2mg/lに一律に加えてしらべたが、AH-7974(JTC-16)の場合のように10mg/lが、至適というような例(DM-147)もあるので、他の株の場合も一応しらべてみる必要がある。

    ついで、というわけでL-929原株についてもイノシトール要求をしらべてみた。この場合は透析血清を入れた群と、入れない群と、両方についてしらべた。

     結果は、透析血清を入れた場合にはイノシトールを全く要求していないことが判ったが、蛋白を入れぬときは、どうもイノシトールを入れた方が増殖を促進されることが判った。Eagleは、HeLaはイノシトールを要求するが、Lは要求しないと報告した。彼の場合は透析血清を入れていたので我々の透析血清添加と同じ結果になったのであろう。蛋白のなかからイノシトールが遊離されてくるのか、それともイノシトールの代役をするものが出てくるのか、今のところでは何とも判らないが、今後の面白い課題の一つであろう。

     次にラッテ腹水肝癌由来の3株についてイノシトール要求をしらべてみた。AH-130由来のJTC-1、AH-66由来のJTC-15、AH-7974由来のJTC-16である。

     結果はJTC-1は明らかにイノシトールを要求しているが、JTC-15は要求せず、むしろ培地中に含まれていない方が増殖度が高いほどであった。JTC-16はきわめて顕著にイノシトール要求を示した。

     今後イノシトールの前駆体その他を用いて、イノシトール代謝をしらべて行くのには、この株は実に好適の材料といえるであろう。

  2. 培養内で4NQO処理されたラッテ肝細胞の復元接種試験:

     肝細胞株RLC-10を用いた4NQO発癌の実験系をまとめて図にしたものと、復元成績の表およびそれをSchemaにした図を呈示する。

    そのなかの#CQ60という実験は、はじめから経過を追ってしらべている系の内の第1seriesであり、4NQO1回処理だけで復元して陽性(まだ死んではいないが)になっている。その第2seriesにあたる#CQ63でも1回処理で変化があらわれているので、4NQOは1回処理で充分といえるかも知れない。

     RLC-10株は最近染色体数が42本の他に41本もふえてきたので、今後はもはや発癌実験には使わず、凍結してしまい、次の若い株(RLC-11、RLC-12)を使って行きたいと思っている。またラッテ肝の“なぎさ”変異株のRLH-5が合成培地内で活発に増えるので、これをクローニングして、合成培地内での発癌実験に使う、いわばモデル実験も併行しておこなって行きたいと思っている。もちろんRLH-5がたしかにtakeされないということを確かめておく必要があるが、この株は材料が純系になってからのJAR-1なので色々と好都合である。



 

:質疑応答:

[高木]イノシトールを要求する細胞の場合、イノシトールの無い培地で4日間までは増殖しているのですね。4日から7日へかけて急に壊れているのは何故でしょうか。

[勝田]細胞のイノシトール消費量が非常に少ないという事ではないでしょうか。ですから培地からイノシトールを除いてしまっても暫くの間はプールで間に合うのでしょう。

[難波]濃度はどの位ですか。

[勝田]この実験では2mg/lです。しかしJTC-16で10mg/lの方がより増殖を高めるというデータが出ています。

[安村]Lの場合、合成培地だとイノシトールを添加した方が、増殖度が高いという結果が出ていますが、これは透析血清にイノシトールが入っているということでしょうか。又イノシトールが無くても増殖するが、あればなおよく増えるというのは矢張りイノシトールが何かやっているのでしょうね。私もイノシトール無しの培地でもコロニーは出来るが、イノシトールを入れた培地と比べると、コロニーサイズの上でずっと劣るというデータを持っています。

[堀川]血清の分劃中にイノシトールがあるかどうかも確かめた方がよいですね。

[山田]今のデータをみていて考えたのですが、イノシトール要求性のJTC-16、RLH-4はシアリダーゼ処理で著明に泳動度がおちる株細胞です。そしてイノシトールを要求しないJTC-15、RLH-3、RLH-5はシアリダーゼ処理では泳動度が殆ど変わりません。何か膜表面に関係がありそうですね。

[安藤]イノシトールはホスホリピドとくっついているわけですから、膜とは関係があるでしょうね。最近は核の中にもあるということが判っています。

[山田]チャージはどうなっていますか。

[安藤]イノシトールそのものはチャージはありませんが、ホスホリピドとついてマイナスチャージになります。

[安村]イノシトールの無い培地で飼うと細胞同士の附着が少なくなるようです。とにかくコロニーサイズが大きくならないのが不思議です。

[勝田]合成培地で簡単に継代出来る株細胞に共通しているのは、イノシトールを要求しないということのようです。RLH-1のような例外もありますが。栄養要求を調べるには透析血清を使ってはだめですね。結果がはっきり出ません。

[安村]合成培地で培養する時、大切なのはイニシアルpHですね。少し低い方が良いと思います。

[堀川]血清には強い緩衝能力がありますからね。

[吉田]RLC-10は樹立して、どの位たってから、実験に使い始めましたか。

[勝田]3年位でしょうか。もうそろそろ新しい株に切り替えようと考えています。

[吉田]株細胞を使うと、発癌剤による悪性化が早いようですね。初代培養ではなかなか悪性化しません。

[難波]確かに初代培養の方が悪性化の時期がおくれます。

[安村]しかし、株細胞を使うと再現性の高い実験をすることが出来ます。初代培養ではなかなかデータが一定になりません。血清の問題などが、大きな原因になっているのかも知れませんね。

[安藤]RLH-5を実験に使う場合、もとの動物−この場合ラッテの−抗原性をすでに持っていないかも知れないという難点があるのではないでしょうか。

[安村]何とか培養条件をもっと良くして、生体内と同じ条件で実験出来るように、細胞を維持したいものですね。

[勝田]肝細胞などは増殖せずに維持出来るのですから材料としては好適な訳ですね。

[梅田]しかし、黒木氏のデータが本当なら、発癌剤処理後にDNA合成をしなければ悪性化が起こらないということで、細胞が増殖せずに静止してしまっては、悪性化が起こらないということになって、都合が悪いですね。



《佐藤報告》

 §RLN-251の染色体分析

 この系は4NQOの処理群とその対照群について経時的に染色体分析を行っており、その間5、10、16、20、25、31、35、40の各回数処理した時点で動物復元を行っていた。今回はこれらの動物にtakeされた腫瘍の染色体分析の結果をそれぞれの同時点の対照群、処理群、と比較検討したい。(図および表を呈示)

     
  1. 対照群と処理群の染色体

     対照群と処理群の染色体数の経時的変化を図にしてみると、染色体数では対照群も処理群も大した相違はみられなかった。即ち培養日数が進むに従って、染色体は正二倍体のものが減少し代りに偽二倍体が増えてくる。核型の異常と共に核型の不安定が目立ち、次いで低二倍体にモードが移る。その後低四倍体領域の細胞がみられるようになり、低四倍体と低二倍体の比率は逆転し、低四倍体が優位となってくる。以上のようなpatternが両群に等しく認められた。

     異常染色体、特にMarker chromosomeについて調べてみると、対照群ではlarge telocentric chromosomeが可成の頻度にみられたのに比し、処理群でみられるMarkerは図に示すような種類と発生頻度がみられる。即ち最も頻度の高いものはmedian-sized dicentric chromosomで、16回処理以後のものでは40%以上に認められた。次いでlarge metacentric chromosomeが各回のものに全般にわたり低率にみられた。対照群にみられたlarge telocentric chromosomeは全く見当らなかった。なおこの系以外の既に報告した系に多数認められたlarge subtelocentricのものは、31回処理のものに10%に認められただけである。

     

  2. 腫瘍の染色体

     この系の復元動物に発生した腫瘍は腹水型のものが多く、一見再培養が容易で、染色体分析も楽かと思われたが、細胞の異型性が著明で思ったより染色体分析に手間どった。又充実腫瘍のみのものも二三みられたが、非常に堅く、脂肪粒が多く再培養に非常に困難をきわめた。ともかく10、16、20、31及び40回処理のものの復元動物のうち各々一匹づつの計5例の腫瘍の再培養を行い、染色体分析を行うことが出来た。

     各細胞は全般にBreakageが多数にみられ、その結果として生じる、Fragment、Minute、Acentric chromomoseが目立ち、染色体数の算定すら困難をきわめた。又更にTranslocation、triragical乃至はtetraragical figureもしばしば認められた。特に気付いたことであるが、一つの中期像の中で他の大部分の染色体はintactであるがsingle chromosomeがくづれたpulverizationのfigureもしばしばみられた。(以上の所見は処理群にも程度こそ軽いが認められている。)

     このうち算定の可能な中期像を選び染色体数の分布を5例につきみてみると、2nから6nまで広い分布を示し、3nと4nの間にモードを有していた。

     次いでMarker chromosomeについて調べてみると、処理群において半数以上に認められ、そして又この系での4NQOによるspecificなmarkerでないかと期待していたdicentric chromosomeは、期待に反して、median-sizedのものと、又別にtranslocationにより余分のchromatidが加わってlarge-sizedのものになったものの二種類が10回と40回処理のものにそれぞれ20%、38%に認められただけで、16回及び20回処理のものには全く認められなかった。

     これとは反対にlarge metacentric chromosomeのものは処理群のものより全般的に頻度は増えており、40回処理のものでは96%にも達している。次に他の系(既に報告したRLN-E-7、RE-5)において高頻度に認められたlarge subtelocentric chromosomeは31回処理のものに18%認められたのみであった。外にmarkerとして10回処理のものではsatelliteを伴ったmedian-sized subtelocentricが52%にも認められた。

     以上RLN-251の系における腫瘍の染色体分析の一部を報告しましたが、今後は今回報告しなかったもの及びRLN-251の全般にわたっての染色体変化について報告する予定です。



 

:質疑応答:

[吉田]染色体の変化についてですが、マーカークロモゾームにあまりとらわれなくても、よいのではないでしょうか。4NQOの処理回数が多くなるにつれて悪性化が進む、そして染色体数のバラツキがひどくなる、そして動物にtakeされるようになる、その頃の染色体数は4倍体が多くなっている、ということで面白いと思います。

[勝田]クローニングしてみる必要がありますね。

[安村]そうですね。

[難波]現在やりつつあります。変異した系からコロニーを拾って復元してみましたが、結果はまだ出ていません。

[勝田]顕微鏡写真をみていると、悪性化したものの形態は2核以上のものが多かったようですね。本当の4倍体ではなくて2核の細胞の核が同時に分裂して4倍体のようになっているという疑いもありますね。

[安村]マーカークロモゾームを拾い出して移植すると、移植された細胞は動物にtakeされるなどということになると面白いのですがね。

[山田]4NQO処理の回数が増えると、細胞個々の悪性度が進むのでしょうか。それとも悪性細胞の集団が増えるのでしょうか。

[勝田]1回だけ4NQOの処理をしてから2群に分け、1群はそのまま培養をつづける、もう1群は何回か4NQO処理を重ねる、そして何カ月か後に動物に復元して両群の腫瘍性を比較してみると、もう少しはっきりするのではないでしょうか。

[堀川]何回も処理していると、耐性=悪性という細胞をセレクションする可能性もありますね。それから、耐性細胞の染色体数の減り方も面白いですね。私の耐性(放射線)細胞では、照射前3倍体のものが耐性を高めるにつれて2倍体までおち、暫くして4倍体に増え、そして又3倍体におちて落ち着いたというのがあります。

[吉田]生体では2倍体が必要最少限なのでしょうね。そして培養細胞では3倍体が多いようですね。

[堀川]生体では2倍体で間に合っていますがin vitroでは2倍体では生存のために不足なのではないでしょうか。昆虫の培養だともっともっと染色体数が増えてしまいます。

[藤井]培養細胞にリンパ球を入れて、リンパ球の幼若化をみて、培養細胞が変異を起こしたかどうか知ることが出来ませんか。

[梅田]癌患者の細胞を材料にして白血球の幼若化を起こさせ、H3チミジンの取り込み実験をやってみていますが、PHAの場合に比べると数値は1/10位しか出ませんが、何とかデータは出せそうです。

[勝田]しかし培養細胞での悪性化をみたい場合ですと、変異した事はわかっても、悪性化かどうかはわかりませんね。

[堀川]デュフュージョンチャンバーを使って、復元過程を追うことが出来ると、変異した細胞の移植性や悪性度などしらべられるのではないでしょうか。免疫関係では実にうまくデュフュージョンチャンバーを使っています。

[山田]免疫のように1週間単位で勝負のつけられるものはよいけれど、何カ月という長期間の実験ではなかなか難しいと思いますね。



《高木報告》

     
  1. NG-18実験の復元成績

    この実験系は1968年6月11日、Wistar newborn ratの胸腺を培養開始してえられたfibroblastic cell lineを用いたものである。

     培養開始後179日目、18代目の継代後5日目の細胞にNG10μg/ml、acidic Hanksにとかして2時間、37℃で1回作用せしめ、直ちに洗ってfresh mediumと交換して培養をつづけた。

    NG作用後にはgiant cellsを多く認めたが以後形態的にcontrolと著変なく、growth rateも作用後2代目よりcontrolと特に変りなかった。

     作用後17日目にcontrolおよび処理細胞の200万個を、Wistar newborn ratのそれぞれ6匹および2匹の皮下に接種したが、5カ月をへた今日いずれもtumorの発生をみない。

     さらにNG処理後113日目の、形態的にcontrolと特に変りない16代目の細胞200万個を、同じくWistar newborn rat6匹の皮下に接種した。接種したratはいずれも毛ばだって発育が悪かったが、controlの細胞を接種した3匹のratはすべて5週以内に死亡、また処理細胞を接種した6匹のratの中4匹も5週以内に死亡した。死因は肺炎で、死亡時tumorの発生はみられなかった。

     しかし処理細胞を接種したratの中生残った2匹は、いずれも接種後50日目頃よりtumorの発生を認めた。

     2回目の復元実験と殆ど同じ時期に行ったsoft agarによるcolony formationの実験で、control、処理細胞共、10,000cellsをP-3シャーレにまいたが、6週後controlは2つのシャーレに各21、28のcolonyを生じたのに対し、処理細胞は全くcolonyを生じなかった。この点はさらに検討しなければならない。

     この実験もcontrolの細胞を接種したratがすべて死亡しているので、早速追試実験にかかっているが、NG-4の実験でcontrolの細胞は培養開始後394日目でもnewborn ratにtumorを生じなかったので、ここに用いた細胞がNG-4に用いた細胞と同種のものとすればcontrolがtumorを作る可能性は少いと思う。

     NG-18がNG-4とことなる点は、培養開始後可成りたった細胞を用いたこと、NGを2時間しか作用させなかったこと、処理後113日目の形態的にcontrolと変っていない細胞を接種して50日でtumorの発生をみたことなどである。(略図を呈示)

     

  2. No.3 rat tumor再培養の復元実験

     月報6905にかいたように再培養細胞100万個を培養開始後93日目に、newborn ratに皮下接種し6/6にtumorを生じた。現在接種後60日をすぎ巨大な腫瘤になりつつある。なおこの中1匹は60日目に死亡し、1匹は62日目にsacrificeした。割に軟いnecrosisの少いtumorでmetastasisは認められなかった。(再培養のround cellとepithelial cellのコロニーの顕微鏡写真を呈示)



 

:質疑応答:

[藤井]対照群の細胞を接種した動物が早い時期に死んでしまうのは何故でしょうか。

[高木]今の所、何故だかわかりません。

[勝田]復元実験の途中で、腫瘍死するには少し早すぎる時期に、原因がわからずに死んでしまった動物は、どう記載すればよいでしょうか。

[吉田]事故死とするより仕方がないでしょうね。

[堀川]胸腺の細胞がそれ以外の細胞より悪性化しやすいということはありませんか。

[高木]胸腺以外の細胞は使っていませんので、わかりません。

[堀川]私の実験では胸腺の細胞が簡単に、短期間に、自然悪性化してしまうのです。しかし、マウスとラッテは違うかも知れませんね。

[高木]勝田班長からNG自身の動態を追うように言われたのですが、NGには特異吸収もないので、アイソトープでも使わないと調べられないので、まだ手がつかずにいます。



《梅田報告》

     
  1. 昨年来、DAB、Luteoskyrin、又AAF等をrat liverのprimary monolayer cellに投与して惹起されるAcute cytotoxicityを観察してきた。同時に之等はhepatocarcinogenをHeLa細胞に投与し、そのcytotoxicityの観察と更にN-OH-AAFの様な取り扱い易い物質について、その投与によって起るDNA、RNA、蛋白合成能の変化について検討してきた。之等はin vitro hepatocarcinogenesisの実験の単なる基礎的なもので本来の目的は第一段階としてin vitro hepatocarcinogenesisをconstantに起し得る系を作り出すことである。

     それ故今迄は上の実験に加え、DAB、Luteoskyrin、又AAFを投与して(あるものはcontinuousにあるものはintermittentlyに)長期に培養を続けてきた。途中contaminationなどできれた例もあるが、少くともすべての例で2〜3ケ月位でもluxuriant cell growthを示さなかった。培養は先細りで結局それ以上の培養を断念せざるを得なかった。

     最近ではDAB肝癌が♂に出来易く♀に出来難いことから、今迄の♀♂mixと異り、♂だけから培養をstartしAAFを投与してみたが、培養1ケ月で旺盛なgrowthを認めていない。

     ところでcontrolの無処置の培養ではどうか振り返ってみると、subcultureする毎にendothel様の細胞だけになっていつも継代困難であった。最近継代が旨く行った例でも3代目迄liver cellもgrowthしてくることが認められたがそれ以後growthは遅々としており、subculture出来ない状態である。

     この我々の行ってきたrat liverのprimary monolayer cultureでは明らかにliver cellのmitosisが観察されており、liver parenchymal cellも増えていることは確かである。しかし、培養が進むにつれて、所謂G0 stageの細胞が増えてくるのでないかという疑問が生じてきた。もしそうだとすると、黒木さんの云う発癌性変化のfixationのためにDNA合成が必要である、という考え方からすると、rat liverの我々の系では非常に成功し難いものではなかろうか、と云うこのになる。

     以上の様なことから我々の系で増生してくる各種細胞についての経時的なcellular kineticsを追いかける必要が痛感される様になった。考えてみれば、勝田先生も、佐藤先生も、先ずconstantにgrowth可能な細胞を得て、それから発癌実験をstartしている。

     

  2. 上のいきずまりを解消したいのが一つの理由、第2に各種物質についての発癌性をin vitroで早く見出す方法の確立、第3にDAB等のorgan specificityが高い物質でも、そのproxmate carcinogen(例えばDABのbenzoyloxy誘導体でも)を使えばfibroblastでもtransformし得るのでないか、その証明をしたい、等の理由から、Hamster embryo cellのtransformationに興味をもった。

     N-OH-AAFを投与した時、Hamster embryo cell(5代目のもの)に対する毒性はHeLa細胞に対する濃度と殆ど同じで、10-4乗Mでかなりやられてくる。これを3日間培養後、普通の培地に戻して培養を続けていると、上皮性の大型細胞の出現をみ、細胞質の顆粒出現も特異的であった。

     Tryptophan代謝産物について調べてみた所、良く溶解せずsuspensionの形で投与したことになるが、発癌性のないKynurenineでは10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで軽い増殖阻害を認め、又同じく発癌性のないKynurenic acidの場合は10-2乗Mでやや増殖阻害があり、10-2.5乗Mではcontrolと変らない。発癌性のある3-Hydroxy Kynurenine投与では10-2乗Mでlethal、10-2.5乗Mで60〜70%の細胞が障害をうけ、3日後培地交新して培養を続けた所、9日目には明らかなcriss-cross、piling up等の所見を見出した。

     その直後、上記細胞すべてLaboratory引越しの際のincubatorの故障のため、細胞をきって了った。



 

:質疑応答:

[安藤]3-ハイドロキシ-キヌレニンは正常な代謝系にある物質ではありませんか。

[安村]栄養要求性の方からみて、トリプトファンの要求は大変範囲がせまいようです。ですから正常な代謝系の産物であっても、量が非生理的な量ですと、発癌に関係するのではないかということが考えられます。

[勝田]DABを動物に与えて発癌させる時、♂の方が♀よりも発癌率が高いと云われましたが、馬場氏のデータによると♀の方が発癌の時期がおくれるだけで、長期間の観察での発癌率はほとんど同じだということになっていますよ。

[梅田]私のしらべた所では、DAB発癌は性ホルモンに関係がある、それは発癌第一歩のDAB自身の変化が♀の肝ホモヂネイトより♂の肝ホモヂネイトに添加した場合の方が早く起こるというデータから考えられる、というのがありました。でも動物レベルとは多少ちがいがあるのかも知れませんね。



《安村報告》

 ☆Soft Agar法(つづき)

 これまでモデルとして取扱ってきたAH-7974-TC細胞の系での実験の結果をふまえて、こんごは4NQOによるin vitro malignancyとsoft agar法による細胞のcolony formationとの関係を追って行きたい。

     
  1. Cula-TCのLarge colony cellとSmall colony cellの比較:

     Cula-TCは、RLC-10をin vitroで4NQOで処理後、ラットに接種してえられたtumorの再培養系の一つで、これまでCQ-42と記載したことのあるものです。このCula-TCからSoft Agarでlarge colony由来と、small colony由来の系がとれた。(正確にいえば、Cula-TCから液体培地でrandomにcolonyが2つひろわれQ1、Q2と名付けて継代され、その後Soft Agarでひろわれたものです。ここではそのうちQ1由来のlarge colony cellとsmall colony cellが実験に供されました。(結果の表を呈示:接種細胞数1,250ではQ1-Lは平均103コ、Q1-Sは55コ、10,000では両方とも無数のコロニーができた)

     colony forming efficiencyではLの方がSより高く、約2倍ありました。できてきたcolonyのsizeはLの方がSより大きいのですが、いずれも2mm以上の径のものは見当りません。判定は4wめ。

     同時に行われたCulb-TCの系では10,000/plt.のところでもcolony formationはみられませんでした。

     

  2. RLC-10細胞とRLC細胞:

     上記1.のcontrol実験としてラット肝由来のRLC-10とRLCがsoft agarにまかれた。前者はJAR-1inbred由来、後者はJAR-2由来(F8のあたりのもので、inbredとはもうしがたいが)です。いずれも100,000/plt.のorderでcolony formationはみられなかった。

     

  3. ハムスター胎児細胞:

     Control実験として昨年来継代されてきているハムスター胎児細胞の8代めをつかった実験でも90,000/plt.のorderでcolony formationはなかった。

 ☆AH-7974TC細胞の復元

     
  1. C1-ss細胞、C3-s細胞、C6-35細胞間の比較:

     月報6904の3で行なわれたSoft Agarによるcolony formationの比較と同時に復元実験がなされた。つまりtumorigenicityのtitrationをやってみた。C1、C3、C6の系を0.05ml細胞浮遊液(PBS中に)/newborn ratに接種、細胞数は650,000から10倍稀釋で650まで脳内接種では、はっきりと差が見出せなかった。(結果表を呈示)

 ☆Soft agar法(つづき)

 (大学紛争のあおりをくらって、データをもちあるきながらも報告を書くに至らず、前号の月報6905にはシメキリに間に合わず、今月号に前号の分ものせてもらいました)。前号分のSoft agar法の1.にのべたQ1につづいて、Q2の系の結果から始めます。

     
  1. Cula-TC-Q2A細胞:

     Q2AのAはSoft agarでひろったcolony由来で假にAgarのAをつけてあります。現在では以下の実験からえられたlarge colony cellとsmall coloy cellの2系が分けられていますが、まだ、その2系についてのdissociation rateの仕事は進行中です。(結果は表を呈示)Cula-TC-Q1の2倍のefficiencyでした。

     

  2. Culb-TC細胞:

     前号分のSoft agarの1で1行書きたしました時はこのCulb-TCは10,000/plt.の接種でcolony formationがみられませんでした。今回は小さいcolonyながら(表を呈示)、接種数1,250/plt.で4週後の判定で4コ、10,000/pltなら44コと、とにかくcolonyをつくらせることができるようになりました。しかしefficiencyははるかにCula-TCの系におとることがわかりました。このCulb-TCはこれまでにCQ-40とも記載してきたものです。

 ☆AH-7974-TC細胞の復元(つづき)、(付)Cula-TCの復元.

  1. C1SS細胞とC1LL細胞間の比較:

     Small colony cellとlarge colony cellとの間にtumorigenicityの差があるかを調べてみました。(表を呈示)期待に反してあまりよい結果ではありません。いちおう差がはっきりしません。次回にはもっと接種細胞数を減らして実験をしたいと思います。細胞数の少いところでは差がでるかもしれません。

     

  2. Cula-TC-Q2Aの復元:

     1,000個で1/3の率で、tumorigenicityはかなり高いと考えられる。

     

  3. C3-L細胞とC1-LL細胞間の比較:

     (表を呈示)この結果をこれまでの復元実験の結果とくらべてみるとC3-Lはどうやらtumorigenicityが他の系より低いようにみえる。C3-Sよりも低いように出たのがどうやらぐあいがわるい。期待したところはLがSより高くあってほしかった。SとLのtumorigenicityの差をいまいちど平行して実験する必要があるかもしれない。



 

:質疑応答:

[安村]JTC-16のクローンの形態についての結論は、Lの方は細胞も大きくて核小体が多い。Sは細胞の大きさも小さくて核小体の数は少ないが、核小体1コの大きさはLより大きいということです。

[何人かが一度に]そうでしょうか。どうも少し混じっている感じのようだが・・・ガヤガヤガヤ。

[堀川]初めの着想では、Lの方が悪性を担っていると考えておられたようでしたが、動物への復元成績ははっきりそうだとは言えないようですね。

[安村]そうなのです。どちらの系でも600コの細胞接種で、動物が腫瘍死してしまいます。或いはもっと少ない数だと差が出るのかも知れませんが。

[堀川]完全に正常な、つまり悪性化していない細胞からLとSを拾って復元してみればどうでしょうか。

[安村]悪性化していない系からでは、軟寒天内にコロニーを作らせられないのです。

[勝田]LとSそれぞれの系の増殖度もしらべてみて、細胞が大きいのが本当か、或いは増殖が早くて大きくなるのか、結論を出す必要がありますね。

[梅田]軟寒天内で拾ったコロニーは、大きなコロニーでも小さなコロニーでも腫瘍性があるということですと、寒天では拾えない細胞を、何か別の方法でクローニングして、寒天でコロニーを作らない細胞には腫瘍性がないということを確認しておく必要もありますね。

[山田]これらのクローンは細胞1コから増えているのですか。

[安村]何回かクローニングを繰り返していますから、計算上では1コから増えていることになっています。それから軟寒天の中で増殖できるということが、腫瘍性と大体平行していると考えて、実験を初めているわけですが・・・。

[高木]腫瘍性の度合いとコロニーを作る%を比較するには、復元部位はどこがよいでしょうか。

[安村]部位は何れにしてもタイトレーションしなくてはなりません。



《山田報告》

 JTC-16(AH-7974TC)のクローン5株5系について、その電気泳動度を検索しました。(結果のヒストグラムを呈示)通常のごとく、未処理細胞M/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)に浮かせて測定した値と、30単位/0.1ml cell pack・37℃・30分のシアリダーゼ処理細胞の値の図です。

 いづれのクローン株も予想に反し、その電気泳動値は、細胞によりかなりのばらつきがあり、クローン化しても、個々の細胞の表面の性質は直ちにばらつくものと考へました。しかし株により、その平均電気泳動値にはかなり差があり、しかもシアリダーゼ処理による泳動度の低下は株により差が著しい様です。この成績と、各株の生物学的性質に関係があると面白いのですが、残念ながら生物学的性質も不安定で比較が出来ません。

 Cula、Culb株について同様にクローン株化して居るさうですから、その電気泳動度と生物学的性質の比較に期待したいと思います。同株は細胞電気泳動度からみても比較的ばらつきが少いので、そのクローン株も安定して居るのでないかと期待して居ます。



 

:質疑応答:

[難波]膜の表面積が泳動度に関係しませんか。

[山田]泳動度はチャージの密度に比例するのでtotalのチャージには関係しません。

[堀川]核だけにして泳動度を比較できませんか。

[山田]核だけにするために、いろいろ処理しなくてはなりませんが、その処理の仕方によって結果が違ってしまい、きちんとしたデータにならないのです。

[吉田]染色体にすれば、差がでるのではないでしょうか。

[堀川]それは核よりも難しいのではないでしょうか。再現性がないという意味で。

[山田]RLT-1とCula-TCとは寒天内でのPEはどう違いますか。

[安村]Cula-TCの方がずっとPEが高くコロニーサイズも大きいです。

[堀川]寒天内のコロニーはどうやって拾いますか。

[安村]簡単です。毛細管ピペットでコロニーを吸い取り、液体培地を入れた試験管の中で、コロニーと一緒に吸いとられた寒天をくずして、液体培地の中でコロニーをsuspensionにするというわけです。

[堀川]細菌の手法の様にレプリカは出来ないでしょうか。

[安村]とても難しいですね。



《安藤報告》

 4NQOの細胞DNAに対する障害およびその修復について(前号よりの続き)

  1. 4NQOの濃度変化のDNA鎖切断に対する影響

     月報No.6904にひきつづき、L・P3、RLH-5・P3細胞に対して4NQOの濃度を1x10-6乗M、3.3x10-6乗M、1x10-5乗Mと三段階かえて、37℃、30分ずつ処理をしDNA鎖切断効果を調べた。

     先ずアルカリ性蔗糖勾配遠心法により、single strand breakを調べた結果(図を呈示)、1x10-6乗Mでは両種細胞ともそれ程分解が起るとはいえないが、3.3x10-6乗Mになると明らかに切断が起り始め、1x10-5乗Mでは相当激しい切断が起っている。そしてその切断の程度は両種細胞において殆ど同じであった。この事実は少くとも、このDNA鎖切断の程度というcriterionで見るかぎり、両種細胞の間には感受性の差はないように思われる。

     次にDNAの二重鎖の同時切断に対する4NQO濃度変化の影響を調べた。細胞はRLH-5・P3だけである。結果は(図を呈示)、二重鎖の一方のみの切断の場合と同じく、3.3x10-6乗Mで二重鎖同時切断がはっきり観察されるようになり、1x10-5乗Mでは、分子量10の7乗オーダーにまで下ってしまった(ちなみに切断以前のDNAの分子量は2x10の10乗ダルトン)。厳密な分子量の計算は後でまとめる予定。

  2. L・P3DNAに4NQOにより生じた二重鎖同時切断は修復されるか

     月報No.6904に於て同設問を解く実験を行い、解答として修復されないと結論したが、その結論は4時間修復時間の限りでの結論であった。今回は24時間の修復時間を与えたらどうなるかをテストした。結果は(図を呈示)4時間の回復時間でははっきりしなかった修復が24時間後には極めて明瞭に起っていることが示された。この事実はsingle strand breakの修復に要する時間(〜3時間)は比較的短い事から考えると、やはり修復可能とはいえ、二重鎖に同時に切断が入った場合には、修復は一段と困なんのようだ。核のクロマチンの中でDNAの二重鎖が切れてしまえば、おそらく、クロマチンの構造がかなり変ってしまう事が想像される。したがってDNAの大きさとして元の大きさに戻ったとしてもとうてい元の正常なDNAに戻っている可能性は極めて少いであろう。

     現在私の使っている二重鎖切断の検出に使っている中性蔗糖密度勾配遠心法は寺島さん(放医研)の原法(BBA 174(1969)309-314)であるが、寺島氏自身蛋白のcontaminationがどれ程あるか調べておられないので、自分で調べてみた。

     方法はH3-チミジンでDNAを、C14-リジンで蛋白質をラベルし、適当な細胞数、適当なH3/C14比率となるように調整したサンプルを中性密度勾配遠心で短時間遠心し、得られたH3-DNAのピークにC14がどの程度入っているかを測定した。

     結果は(図を呈示)C14カウントはDNAピークには殆ど入って来ない。したがって扱っているものは確かにフリーのDNAであるとみてよい事になる。

     

  3. 4NQOにより切断されたDNA分子は、どの程度の分子サイズか直線的密度勾配遠心を行う時にReference markerを同時に加えておくと、その位置と未知なサイズのDNAの位置関係から、分子量の計算が可能である。すなわち、Dをメニスカスからの距離、Mを分子量とすると、次の関係が成立する。D2/D1=(M2/M1)0.35・・・中性密度勾配の場合。D2/D1=(M2/M1)0.38・・・アルカリ性密度勾配の場合。

     そこでλファージDNAの位置から4NQO、10-5乗M、30分処理直後および、4時間回復後のDNAの大きさを計算してみる。又single strandにした時の分子量も計算してみる。4NQ0、10-5乗M、30分処理後、Recovery 0h、single stranded DNAとして1.0x10の7乗−5x10の8乗dalton、double stranded DNAとして9.4x10の7乗dalton。Recovery 4h、single strandedDNAとして>10の9乗、doubule stranded DNAとして9.4X10の8乗daltonとなった。

     二重鎖DNAとしては元の正常DNAの分子(2x10の10乗dalton)よりも約200分の1小さくなっている。又一本鎖DNAとしては相当なheterogeneityがあるが、大きなピークとしては二つあり、2.7x10の7乗及び1.8x10の8乗であった。

     次に問題になるのは、これ等のDNAの切断がどこで起るかと云う事すなわち特定の塩基の場所で切れたのか、又その場所は4NQOの結合場所とどう云う関係にあるのかと云う事であろう。この点に関してはただ定性的に「恐らく4NQOの結合した位置でDNAの切断が起っているであろう」と云うに止める。何故ならば次の表(表を呈示)から読みとれるDNA分子当りの結合4NQOの数と、DNAの切断数がほぼ見合っているからである。すなわち約300分子の4NQO/1分子のDNA。



 

:質疑応答:

[勝田]DNAの切れた端が何なのか、調べる方法はないでしょうか。それから、どのベースに4NQOが結合しているかも調べてみて若し一致したら面白いですね。

[安藤]方法はあると思います。やってみます。

[堀川]二重鎖が24hr.で回復するということを、どう考えておられますか。

[安藤]さぁ、まだどういうことかわかりません。single strandより時間はかかりますが、回復することは確かです。

[勝田]unscheduleのDNA合成は切れた所だけを修復するわけですね。だとすると4NQOを処理したあと、チミジンやウリジン等、それぞれラベルしたものを順に入れて、取り込みをみればベースのどこがとんでDNAが切れたのかが解るのではないでしょうか。

[堀川]DNAの切れ方にもいろいろ有りますね。4NQOの場合はすぐ切れますが、UV照射の場合など、6時間もかかります。

[勝田]DNAレベルで4NQOを作用させたデータはありませんか。

[堀川]杉村氏がやっていますね。DNAレベルでは4NQOはDNAを切りません。切るのは4HAQOだということです。ですから私達の実験の場合にも与えたのは4NQOでも実際にDNAに作用しているのは4HAQOに変ったものだと思われます。

[安藤]腹水細胞の実験でも、4NQOを与えて細胞内にむすびついているのは4HAQOだというデータがありますね。ところで染色体はどういう具合に分裂するのですか。

 ☆☆そこで“染色体の複製の仕方、又分裂について”堀川班員から講義がありました。途中から吉田先生が救援されました。



《堀川報告》

 4-NQOによる培養細胞内DNAのSingle strand scissionsの誘導ならびにその再結合については従来、Alkaline sucrose gradient法ならびにAutoradiographyには4-NQO処理後の細胞のunscheduled DNA合成の検索などから証明してきた。今回は4-HAQO処理によるDNAのsingle strand scissionの誘起とその再結合について報告する。(図を呈示)種々の濃度の4-HAQOでEhrlich細胞を30分間処理した直後のDNAの一本鎖の切断をみたものであるが、4-HAQOでは1x10-4乗Mの濃度で顕著な切断がおきる。4-NQOの場合は1x10-5乗Mで同程度の切断がおきたわけで、4-HAQOは4-NQOの約10倍の濃度で切断を起すことがわかる。

 このことはcolony形成能あるいはChromosomalおよびChromatide aberrationなどでみた4-NQOおよび4-HAQOの細胞毒性の結果とよく一致する。

 また1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した細胞を37℃で種々の時間正常培地中でincubateした後のDNAの再結合の様子を図に示す。incubation時間に伴って高分子のDNAにもどって行くことがわかる。

 またPS細胞、Ehrlich細胞およびL細胞を10-5乗Mまたは10-4乗M 4-HAQOで30分間処理した直後にAutoradiograph法でみたUnscheduled DNA合成の検索をした(表を呈示)。10-5乗M 4-HAQOで処理した後には3種の細胞ともにLight labelled cellsのpercentが増加してunscheduled DNA合成が起きていることがわかる。一方10-4乗Mで処理した場合にもLight labelled cellsのpercentは増加するが、これはHeavy labelled cellsのpercentが減少していることから、正常な細胞DNA合成が4-HAQOによって抑制されたことによるもので、真のunscheduled DNA合成をみているとは言えない。

 然も10-4乗M 4-HAQO処理による正常DNA合成のinhibitionはL細胞で最も顕著であり、PS細胞のそれが4-HAQOに対して最も抵抗性であることがわかる。

 これらの結果は従来調べて来たcolony形成能でみた3種の細胞の4-NQOoyobi4-HAQOに対する感受性の差異とよく一致する。

いづれにしても4-NQO、4-HAQO共に細胞内DNAのsingle strand scissionsをinduceする。しかもそのscissionsは細胞内で再結合されることがわかった。然しここで問題になるのは、4-NQOが細胞内で直接DNAのsingle strand scissionsを誘起するのか、あるいは細胞内に取り込まれた4-NQOが4-HAQOにreduceされてからこうしたDNA scissionsをinduceするのかということで、このことについて現在検討中である。