【勝田班月報:6907:4NQO処理L・P3DNAはTURNOVERしているか】

《勝田報告》

 4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:

 昨年末より山田班員とも連絡をとりながら、4NQO処理後の肝細胞の変化を、形態、動態、染色体、細胞電気泳動、復元接種その他の面から並行的にしらべる実験をはじめ、これまで2系列の実験をおこなっているので、顕微鏡映画を供覧すると共に、その経過について説明する。実験番号はCQ#60とCQ#63である。株はRLC-10。

     
  1. CQ#60:1968〜1969年:

    • 11-29:4NQO-3x10-6乗M、30分処理。
    • 2-7(70日):細胞電気泳動。
    • 2-26(89日):細胞電気泳動。
    • 3-1(92日):復元接種(JAR-1、F31、生後1日、I.P.、500万/rat:→6-4(95日)に1/2死)。
    • 3-5(96日):染色体分析。

       ☆1968-11-29〜1969-3-10顕微鏡映画撮影。

    • 4-23(145日):細胞電気泳動(泳動値にばらつきが現われ、シアリダーゼ処理により値が落ちる傾向を示しはじめた)。
    • 4-23(146日):一部の培養を4NQOで再処理(復元の結果がまだ判らなかったため)。
    • 5-26(178日:細胞電気泳動(値に非常にバラツキが多く、且、シアリダーゼ処理で低下する)。
    • 6-22(205日):染色体標本作製。
    • 6-25(208日):細胞電気泳動。
    • 6-26(209日):復元接種試験(JAR-1xJAR-2、F1、新生児I.P.、400万/rat、2匹)。
    • 7-5(218日):現在、観察中。
     
  2. CQ#63:1969年:

    • 3-4:4NQO処理(同上)、細胞電気泳動。
    • 4-23(50日):細胞電気泳動。
    • 4-24(51日):4NQO再処理。
    • 5-26(83日):細胞電気泳動。
    • 6-6(94日):復元接種(JAR-1♂xJAR-2♀、F1、生後4日、500万/rat、I.P.、2匹)
    • 6-22(110日):染色体標本作製。

       ☆4-26〜6-23顕微鏡映画撮影。

    • 6-25(113日)細胞電気泳動。
    • 7-5(123日):現在観察中。
     
  3. 顕微鏡映画の所見

       
    1. CQ#60:

       1968-11-29処理直後より12-5までの間に撮影視野内の細胞は変性に陥り、全部死んでしまった。12-5より別視野では、すでに異常分裂も見られるようになり、しだいに細胞分裂が多くなった。12-11よりのカットでは、小型細胞と大型細胞の混在がみられ、小型細胞はその後しだいに細胞質を拡げて行った。異常分裂は依然認められた。12-23ごろより細胞間の密着性の低下が見られるようになり、小型細胞がケイレン状に動いていた。12-29よりは細胞の歩行性も若干みられ、細胞間の密着性ははっきり低下していた。1969-1-12よりのカットでも、小型細胞と大型細胞が混在していたが、小型の方に分裂が多かった。1-22にいたっても、細胞は一杯のcell sheetを作りながらpiling upは認められなかった。これらの所見は3-10(映画撮影をやめるまで)変らなかった。

       

    2. CQ#63:

       この系は、山田班員の指摘するように、CQ#60とは電気泳動像でかなり異なる所見を示し、一旦悪性細胞のパターンを示しながら、また正常型に戻ってしまった系である。映画による動態観察でもCQ#60とはかなり異なる所見が得られた。

       1969-4-26処理直後より、細胞の変性が現われ、しだいに細胞が死んで行った。5-6より異常分裂も見られ、歩行性はほとんど見られず、5-22よりのカットでは細胞集団が拡がって行くにもかかわらず、colonyから細胞が脱出しない(集団性の強さ?)状況がみられた。6-17〜23に至っても同様の所見で、形態的に肝細胞に酷似しており、分裂もかなり認められたが、歩行性はほとんど見られなかった。

     

    :質疑応答:

    [藤井]映画をみて考えたのですが、4NQOの処理をされた細胞のあの動きは悪性化した細胞と悪性化していない細胞とが混合しているために、それらが反発しあって起る動きだという風にもとれますね。

    [山田]動きが非常に活発であったCQ60は電気泳動的には非常に悪性です。

    [吉田]悪性化をmobilityの面からみようとするのは面白いみかたですね。4NQO処理をしていない細胞ではこういう動きは起こりませんか。

    [勝田]起こりません。

    [堀川]追い打ちをかけるという考え方も面白いですね。追い打ちが、すでに発癌剤処理によって悪性化した細胞の中のあるものを更に変異させるのでしょうか。それとも、その中の悪性のものをselectしてゆくのでしょうか。動物への復元実験をして、takeされるまでの期間とtakeされる率とで悪性度を測るとして、どう違ってくるか知りたいですね。

    [山田]しかし動物へ復元する時は、大量の細胞を接種するので接種された細胞の中の悪性細胞の量が増している場合と、個々の細胞の悪性度が強くなっている場合との判定がつかないでしょうね。

    [勝田]薬剤処理後の個々の細胞の運命と、大量の細胞を集団としてみたDNAレベルでの分析とをもっと結び合わせてみたいですね。

    [安藤]L・P3の実験で1x10-6乗MではDNAが切れないが、3.3x10-6乗Mの処理ではDNAで切れてしまう。そしてRLC-10の実験では、やはり3.3x10-6乗Mで悪性化した、ということを考え合わせると4NQOでは3.3x10-6乗Mという濃度に何か意味があるように思います。

    [難波]岡山での実験では1x10-6乗Mで処理していますが、1回ではだめで、最少限5回は処理しなければ悪性化しません。

    [堀川]4NQOの場合、criticalな濃度は細胞数との関係が重要ですね。それも単に細胞数でなく、細胞密度が非常に問題です。

    [堀川]4NQOの実験を進めてゆくと、どうも発癌に直接関係のある物質は4NQOでも4HAQOでもなく、その先のもののようですね。

    [黒木]直接働いているのは、アゾ結合した物質だというデータを、遠藤さんが出していますね。



    《山田報告》

     先月に引続き4NQO(3.3x10-6乗M、1回30分)に接触させた後のラット肝細胞(RLC-10)の変化を検索しました。今回はこれまで報告した分も併せて成績を示し、現時点での発癌に伴う変化についての考へをまとめてみました。(実験ごとにまとめた図を呈示)

     4NQOに接触させた直後の変化を二系統の肝細胞CQ62、CQ63についての検索は、接触後4時間では細胞の泳動度に変化がないか、或いはむしろ増加しますが、シアリダーゼ処理によりいづれもかなり泳動度は低下します。(これはシアリダーゼの酵素作用と云うより4NQOの直接障害により細胞表面に変化が生じて居るためと考へます。)

     接触翌日より泳動度は漸次低下し5日目になお低下の傾向を示すCQ62、そしてCQ63は4日目からむしろ増加回復している所見をみました。

     後者では、4NQOの直接影響がより少く、より早くその表面の変化が回復し初めてゐると考へました。

     回復しつつある5日目のCQ63のシアリダーゼ感受性が、なお回復して居ない5日目のCQ62に比較して大きいことには意味があるかもしれません。しかし5日目までの変化には悪性化を思わせる所見は全くありません。

     このCQ63について、引続き経時的に検索しました。

     CQ62は5日目までで打切りましたが、それ以前に同一条件で4NQOに接触させたCQ60の系統についてみますと、まず対象のRLC-10は、一回だけシアリダーゼ処理により著しく泳動度が増加し、正常肝細胞を示しましたが、他はすべて、この処理により全く変化せず、また個々の細胞の泳動度にばらつきの程度が比較的少く、悪性化の泳動度のパターンは全く示して居ません。

     これに対し4NQO処理群では著明な変化がみられました。まず70日目の細胞ですが、シアリダーゼ処理により泳動度が0.159μ/sec./V/cm低下して居ますが−この成績は測定した細胞の数が少くて必ずしも正しい値が得られて居るか自信がなかったので、以前には報告しなかったものです。従って直ちに細胞を増してもらい90日目に再び検索したわけです。所がこの時はシアリダーゼ処理により泳動度が僅かに増加する所見を得ましたので、この測定時にはいまだ悪性化せずとの結論を下したわけです。(この時点でラットに復元したらtakeされたとの事です。)

     しかし次の145日目の測定結果では明らかに悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。シアリダーゼ処理により泳動度が低下すると共に個々の細胞の泳動値にばらつきが強くなったのですが、これが179日目になると更に典型的となり、211日目にはいままで、in vitroに於いて4NQOで発癌した細胞にみられる様な悪性型の泳動度のパターンを示す様になりました。

     所が145日目に、この細胞の一部にもう一度4NQOを同一条件で接触させた系統の細胞は、179日目の検索結果ではシアリダーゼに対する感受性が一回接触した細胞より低くなりました。しかし、211日目になると、両者の成績は同様になって来ましたが、依然として2回4NQO接触細胞の方が、泳動度のばらつきが少ないと云う結果になりました。4NQOの2回目の処理が悪性化細胞にSelectiveに働いたと解釈したい所です。

     これに対してCQ63の態度はかなり違います。50日目に既にシアリダーゼ処理により0.162μ/sec./v/cmの低下をみましたが、この時の対象RLC-10も0.077μ/sec./V/cm低下して居ますので、その意味づけに迷って居ました。  しかも84日目にも同様な変化を認めたので一応悪性化したものと解釈しましたが、113日目の細胞はシアリダーゼ処理により泳動度の低下が少なくなり、その時の対象細胞はCQ63の対象と殆んど同様ですので、悪性化した細胞群の細胞構成に変化を生じたのでないかと推定してみました。

     50日目の細胞の一部に再び2回目の4NQOを同一条件で接触させた像には、このCQ63の細胞のシアリダーゼ感受性は全くなくなり、それは113日目まで依然として反応しません。この解釈にもSelectionの考へを導入せざるを得ません。

     これらのCQ60、CQ63の細胞は、これまての変化の途上で幾回かラットに復元したとのことですので、その結果を待ちたいと思います。

     現時点での考へは「4NQOにより少数細胞が癌化した後に順調に増殖して非癌細胞を駆逐したのがCQ60であり、また発癌した少数の細胞が非癌化細胞の増殖により増殖を抑へられた(或いは現象した)場合がCQ63であり、また4NQOをくりかへして與へると、かへって癌化細胞を減少させる可能性がある」と云う推定を下しました。盲想(?)かも知れません。

     これまでの経験では、現在の条件による4NQOのラット肝細胞の癌化による細胞表面の変化は50日目〜150日目位に起こると想像されますので、CQ63はこれから烈しい変化が起こるかもしれません。



     

    :質疑応答:

    [安村]私の方でも、4NQOで1回だけ処理をした細胞について軟寒天内でのコロニー形成能の変化を経時的に調べる予定でいます。

    [勝田]一つの群の中から電気泳動度の早いものとおそいものとを、それぞれ集めてシアリダーゼ処理による泳動度のちがいをみてみる必要がありますね。

    [堀川]フィコールのグラディエント法を利用して細胞を分別し、それぞれの分劃について泳動度をしらべてみるという手もありますね。それから4NQO処理の追い打ちをかけると、泳動度からみるとかえって処理前のものに近くなっているようなデータですが、これは耐性ということと関係があるでしょうか。4NQO処理回数が増すに従って細胞の4NQOに対する耐性は高まりますか。

    [黒木]多少高くなるようですが、あまりはっきりした結果を得ていません。

    [堀川]株細胞を使えば、クローニングをして耐性+と−の系をとり、それぞれの変異率をしらべて、耐性と変異との関連を知ることが出来るのではないでしょうか。

    [難波]ハイドロカーボンを使っての実験では耐性+の細胞と−の細胞とでは変異率に差はないというデータが出ています。

    [堀川]とすると追い打ちはランダムセレクションということでしょうか。

    [山田]そんな感じですね。しかし、悪性度が直接加算されてゆくのか、セレクションされて強くなってゆくのかは、究明しなくてはならない問題だと思います。

    [黒木]よほど計画的にやらなくては結果が出ないでしょうね。
    電気泳動度測定の技術的なことについてですが、計数20コでは数が少なすぎませんか。せめて100コ位にしては・・・。

    [山田]それは一応基礎実験でデータをとってあります。20コと100コでは全く同じ結果が出ます。万という単位ででも測定すればもっと何かわかってくるかも知れませんが、労力的にとても無理です。

    [勝田]泳動度の違いと染色体数の違いは比較出来ないでしょうか。

    [吉田]それをみるには、矢張り泳動度の違いによって、細胞を分別出来なくてはなりませんね。

    [山田]エールリッヒの腹水細胞については、数値が細胞の大きさに比例するというデータが出ていますが、大きさには全く影響されない系もあります。



    《安藤報告》

       
    1. 4NQO処理L・P3細胞DNAはTURNOVERしているか:

       月報No.6905、6906で報告したように、L・P3、RLH-5・P3いずれの細胞に於ても4NQO 10-5乗M、30分処理後少くとも24時間以内では細胞当りの高分子DNAの絶対量は不変である。しかしながらDNAの分子鎖切断が起り分子量としては〜1/100程度に切れ、それが又4NQO除去により殆ど元の分子量に迄修復されるという、高分子DNAレベルでの変化が見出されたわけである。

       以上の実験で一つの陥し穴があるのは、次の可能性を否定していない事である。すなわちDNAの分子鎖切断を調べた実験に於て、H3-TdRでDNAをラベルし、そのcountが酸可溶性となる事なく高分子DNA内に留っているのは、見かけ上だけの現象であり、実はH3-TdRのカウントは低分子になるがそれが直ちに次のDNA合成に速やかに再利用されているために或時間的な断面をとらえた場合、それが常に高分子DNAとして存在しているように見えるのではないか。すなわちTurnoverしているのではないかという事である。

       この可能性をチェックするためには、4NQO処理、回復実験を行う際に大量のcold trap、すなわちラベルのないThymidineを培地中に与え、もしラベルのチミジンあるいはチミジル酸が分解により生じて来ても、それが新たなDNA合成に再利用される方を止めてしまえばよい。すなわち大量のチミジン存在下にprelabeledDNAのカウントが低くなればTurnover+、チミジンがあってもなおカウントが落ちなければTurnover−と判定すれば良い。結果は(図を呈示)、殆ど一定値を保っていた。すなわちTurnover(−)であった。

       

    2. BUdR(ブロムデオキシウリジン)置換L・P3細胞のDNA合成能:-4NQO処理L・P3細胞がどの程度Repair合成を行うか:

       UV照射されたHeLa細胞は照射後、DNAのRepair合成を行う事が知られている(Painter等)。4NQO処理L・P3細胞においてはどの程度のRepair合成があるだろうか。これを調べるために先ず予備実験としてBU置換L・P3細胞を4NQO処理をした場合、どれ程のH3-チミジンのDNA中へのとりこみがあるかを見た。

       先ずBU置換の方法は、二日(48時間)後に丁度フルシートになる程の細胞(短試)にBUdRを27μg/mlに加え、48時間incubateする。後4NQO、10-5乗Mで30分処理を行い、薬剤を洗去後、培地を2ml加えさらにH3-チミジンを0.5μc/mlとなるように加える。37℃、5時間、24時間後に短試中の全細胞をあつめH3-DNAを測定した。

       (表を呈示)その結果から云える事は、先ずBU置換細胞はコントロール細胞と同程度のDNA合成能を持っている。第2に4NQO処理によりDNA合成能がそれ程低下しない。最後に50〜60万個の細胞当り60,000cpmのDNA合成があれば、更に次のステップとしてこの合成DNAの内どれ程がRepair合成であるかをCacl密度平衡遠心法で調べるに充分量である。この分析は目下進行中である。



     

    :質疑応答:

    [勝田]4NQO処理によるDNAのこわれ方がどうもきれいすぎるように思うのですがね。こわれたものが、殆ど一つのピークへ集まるというのが不思議に思えるのです。何か方法に問題があるのではありませんか。

    [吉田]4NQOがDNAの或る場所を特異的に切るということではありませんか。

    [勝田]そう考えたい所です。しかし、あんまり話がウマスギル時は少し警戒しなくてはね。

    [吉田]染色体レベルではノンランダム、つまり特定の場所を切ります。

    [安藤]それは大変有難い裏づけになります。

    [勝田]処理後0時間と24時間との細胞数は同じ数か。映画でみていると、10-5乗Mの処理では細胞がずい分死んでしまうのですが・・・。

    [安藤]この実験では24時間後の細胞は殆ど生きていました。

    [堀川]X線や紫外線の照射の場合は、DNAレベルでシングルとダブルの切り方から色々解析が出来るのですが、どうも4NQOの切り方には不可解なところがあって、解析がむつかしいですね。

    [梅田]G.C、.G.C.の多い所にカットが起こるのではないでしょうか。

    [堀川]その考え方も面白いと思いますが、その場合はシングルのカットもユニフォームになるのではないでしょうか。

    [勝田]とにかく切られたDNAの末端をしらべてみることが必要ですね。

    [安藤]それは予定しています。

    [勝田]それから処理後、0時間と24時間のDNAのDNAレベルでの質的な違いを、DNAのhybridizationで調べてみられませんか。

    [堀川]hybridizationのような方法では、とても差は出ないと思います。それより取り込みだけでなく、酸可溶性分劃への放出も調べてみるべきではないかと思いますが。

    [勝田]しかし4NQO処理によって死ぬ細胞が少しでもあると、放出でなく、細胞の崩壊によるものが酸可溶性分劃へ出てくることになりますよ。

    [堀川]それは困ります。24時間で死ぬ細胞が全く無いということを確かめておかねばなりません。

    [勝田]BUdRで片方のDNAシングルストランドだけを重くするというやり方ですと、BUdRと4NQOの相互作用ということも考えておかなくてはいけないと思います。

    [堀川]両方ともダブルストランドをラベルする方がきれいにデータが出るように思いますが。この方法ではリペアがシングルであるかダブルであるかがわかりませんね。

    [安藤]それを調べるのは次の問題だと考えています。

    [難波]4NQOで変異した細胞と処理前の細胞との間に4NQO処理によるDNAの切れ方に違いがあるでしょうか。

    [堀川]それは大きな問題だと思います。耐性獲得の問題が修復機構に関係があるのか、或いは毒性物質の解毒作用に関係があるのかの解明に近づけますね。

    [安村]Tumorを持っている生体から採った細胞と、持っていない生体からの細胞とを比較すると、担癌生体からの細胞の方が薬剤による変異が早く起こるというデータがあります。それからラウスウィルスで悪性化した細胞は変異するとすぐウィルス産生をやめてしまうが、4NQOで処理しておいて、ラウスをかけると細胞が変異した後も長くウィルス産生がつづくというデータも出ています。



    《難波報告》

       
    • N-1.従来4NQOを使用して培養されたラット細胞の発癌を報告して来たが、4NQOが

      1. 真に細胞の癌化の変異剤として働いたか
      2. 培養内に本来混在する、又は自然に生じた癌細胞の選択的増殖を許すように作用したのか
      3. 或は4NQOが細胞の増殖を誘導し、その結果、細胞癌化がおこるのか
      4. もし3の事実が確かとすれば、細胞の増殖と癌化とは如何なる関係にあるのか

       と云った問題については直接証明がなされていなかった。そこで本年の私の研究はクローン化された細胞を使用して上記の問題を検討する予定である。クローン化には2種類の細胞を使用する予定で目下仕事は進行中である。2種類の細胞は(1)ラッ皮下より培養化される繊維芽細胞及び(2)ラット肝より得られる上皮性の細胞である。本月報では(1)の細胞について報告する。

       

    • N-2.Plating efficiency of rat fibroblasts in the primary and the first subculture.

       新生児ラットの皮下組織をTrypsinにて処理し10〜100コの細胞を60mmPetri-dish(1実験に5枚)に植込んだ。培地は20%BS+Eagle MEMを使用した。Exp.1では初代で1,000コ細胞をまいたが2週間後にconfluentになったので、この細胞を使用してPEを出した。このExp.1の結果から、初代細胞のまき込みは、10〜100コの細胞で十分であることが判ったので、Exp.2、Exp.3では細胞数を10〜100コにした。その結果初代でも十分高いPEが得られた(63、72%)ので、初代よりクローン化した細胞を使用して発癌実験を開始したいと考えている。

       

    • N-3.培養日数の浅いラット繊維芽細胞を使用して4NQOの濃度を検討

       N-2の述べたExp.1の細胞(クローン化されていないもの)を使用した。細胞は培養日数29日4代のものである。4NQOは20%BS+Eagle MEMの培地中に終濃度10-6乗M、10-5.5乗M、10-5乗Mに溶き30分間投与した。

       4NQOの処理後は、正常培地にもどして2日目、4日目の生存細胞数を算えた。その結果、(図を呈示)4NQOは10-6乗M〜10-5.5乗Mの濃度で投与出来るのではないかと考えられる。10-5乗Mでは2日後に生存細胞は認められなかった。従って、N-2.のExp.4からクローン化された細胞を使用して4NQOの発癌実験を開始する予定である。



    《佐藤報告》

     ◇RLN-251の染色体分析(そのII)

    前回の月報にて大部分の結果について報告しましたが、今回はx25、x40回処理のデータを追加し、この系の染色体変化について全般的な検討を加えた。

     そもそもRLN251系を用いた4NQOによる染色体と発癌との関係を追求しようと試みたが、満足な結果が得られず、結局、失敗に終ったようである。その理由は次の様なことが考えられる。

     この系に於いて4NQO処理を開始した時点(総培養日数252日)の細胞集団は、染色体数が42を示すものが70%前後にみられたが、このうち正二倍体のものは約20%で残りは偽二倍体細胞であった。従って染色体上からみて既に正常なものから相当偏異していたと考えられる。この偏異した状態に、4NQOが処理され、その経時的変化が追求されたが、対照群と処理群との比較では、染色体数の変化及び出現した異常染色体の種類と頻度からみて、4NQOに特異的と考えられる変化を見出すことが出来なかった。

     4NQOを処理したin vitroの時点で、仮にinitial neoplastic changeが生じていたとしても、それを直ちにcatchする手立が無い現在、どうしても動物に復元し、発癌した細胞が増殖して腹水の貯溜乃至は充実腫瘤として認知出来るまでの可成りの時間(此の系では平均3ケ月間)を待たねばならない。従って我々のデータの如く、4NQO処理時点の細胞集団と腫瘍の細胞集団とに大きな隔りがあるのは当然と云えよう。それ故に腫瘍の染色体所見はinitial neoplastic changeに近い時点のものを見ているのではなくて、腫瘍が増殖してしまった時点のものを見ているに過ぎないと考えるからである。今後前記の目的で研究するには、primary cultureのものを用いるとか、株細胞の場合なら確実に正二倍体細胞株(少くとも75%以上の正二倍体を含むもの)を用いて、染色体上出来る限り最小偏異の腫瘍を作らねば詳細な解析は不可能である。

     しかしながら最近、Hori,S.H.,Al-Saadi & Beirewaltis,及びNowellらは正二倍体腫瘍の存在することを報告しており、染色体変化は癌化に不可欠なものでないように思えるという考え方を主張する人が増えているので、染色体というパラメーターで真に癌化に直結した変化を見つけることは大変な仕事だとつくづく思っている次第です。

     扠て今回追加されたデータにつき少し説明を加えますと、x25回処理の腫瘍は充実腫瘍で今迄のものと同様に非常に堅く、脂肪粒が多く、再培養をしたが仲々生えてこずやっと2〜3ケ処から上皮性の細胞がコロニー様に急速に増殖して来た。従って外観上均一な細胞で再培養開始後26日目に染色体検査することが出来た。(結果図を呈示)モードは53(12/50)、比較的まとまった分布をしている。核型のうちで特にMarkerについてみると、median sized or large sized decentric chromosomeは92%(46/50)と高率に含くまれ、次いでlarge sized submeta.chro.が26%(13/50)であった。その他にも数種類のMerkerが認められた。

     前報で未だ検索していなかったx40回処理時点のデータも追加しております。

     なほ今回は今迄のデータを整理しなおし、訂正したり、更に詳細な分析を加えましたので、新しい図表の中のデータで前号のものと異った箇所もありますが、悪しからずお許し下さい。

     特に対照群のデータを再調査したところ、median sized dicentric chromosomeが0〜6%にも存在していることが解り、これが何等、4NQOとも癌化とも無関係であることが明確になりました。



     

    :質疑応答:

    [勝田]難波君の仕事で気がついたのですが、処理回数と処理後の日数が並行して行くような実験の組み方では、処理後ただ培養しておくだけで悪性度が加算されてゆくのか、或いは処理する度に悪性になってゆくのかが、はっきりしませんね。それから細胞の形態をみる時、本当にパイルアップしているのか、死んだ細胞が押し上げられているのか、よく見分けなくてはいけませんね。

    [安村]ラッテの皮下のfibroblastsが初代でコロニー形成能63%から72%とは全くおどろき!ですね。本当かしら。一寸よすぎますね。呑竜ratが材料だという処が「みそ」なのでしょうか。初代培養だと10%でも大変よいと思う位ですのに。シャーレは何を使っていますか。

    [難波]ガラスのものを使っています。

    [安村]細胞が1コづつになっているという事も確かめてありますか。

    [難波]数時間後に顕微鏡でみてチェックしてあります。

    [安村]稀釋の仕方は・・・。

    [難波]1,000コ/ml液を作ってあとは10倍稀釋です。

    [勝田]安村君より腕がいいのじゃないか。・・・みんなニヤニヤ・・・。 しかし、寒天でかためていない場合のPEは、私は信用しませんね。映画でみてごらんなさい。始、確かに1コでいた細胞のそばへ、そっくり似た形の細胞が歩いて来て、くっついてしまったりします。くっついた所だけみると、正に分裂して2コになったとしか見えません。

    [黒木]変異コロニーの判別に対する自信はどの位もてますか。

    [難波]むつかしい質問ですね。最後的な決定はその変異コロニーを増殖させて、動物へ復元して、腫瘍性をチェックしておくつもりです。

    [山田]“Transform”という言葉を使わずに“metamorphy”とか何とか云う方がよいと思いますよ。

    [吉田]そうですね。単に形態的に変わったというだけで、すぐトランスフォームと言ってよいかどうか問題ですね。

    [勝田]アブノーマルコロニーとでも言っておけばよいでしょう。

    [山田]それから先程、勝田班長の言われた本当のパイルアップかどうかという問題、固定する前にニグロシンででも生体染色をしてみれば解ることではないでしょうか。

    [勝田]映画を撮って見ればすぐ解ります。それから、染色体のことについてですが、マーカー染色体として大きなメタセントリックのもの、それからメタに近いようなサブメタセントリックの大きなものが挙げられていますね。私の方の実験では、悪性化した培養細胞にも、それを動物へ復元した再培養にもああいう形のものは殆ど出ていません。



    《高木報告》

     これまでに行ったNGによる発癌実験で、NG-4とNG-18の2実験系が成功したことを報告したが、今回はさらにもう1つの実験系NG-11についても復元したratに腫瘍を生じたのでこれを紹介する。

       
    1. NG-11

       1968年4月、生後3日目のWKA ratの肺をprimary cultureし、10日目に2代に継代した。継代後3日目、すなわち培養開始後13日目にNG1μg/mlを2時間作用せしめ、以後17日間にわたり合計7回、各2回ずつ作用せしめた。最終処理後2週間で核の大小不同、核小体の増加などがみられ、細胞の増殖の低下は差程著明でなかった。最終処理後150日頃criss-crossの像が著明となり、多核、巨核細胞が多数出現した。この時の細胞のproliferation rateは対照の細胞では15〜20倍/週に対し、transformed cellsでは5倍/週で対照の1/2〜1/3の増殖を示した。

       最終処理後288日目にWKA newborn ratに200万個cellsを接種した処、95〜130日のlatent periodをおいて3/3に腫瘤を生じた。

       対照の細胞は同時に200万個cellsを接種したが、150日を経た現在0/3で腫瘤の発生をみない。

       

    2. NG-18およびNG-4における対照と処理しtransformした細胞との染色体数の比較

       NG-18:本年5月20日、対照の細胞は培養開始後43代目、345日目のものにつき、また処理細胞の中、前月報に紹介したものは私共がT-1とよんでいるもので、NG 10μg/ml2時間作用後174日目に、T-2、すなわちT-1にさらにNG 10μg/mlを86日後2時間作用させたものでは、第2回目処理後88日目に染色体数を算定した。

       (図を呈示)対照の細胞ではtetraploidに主なる分布があり、処理した細胞ではdiploid 42本に明らかなpeakを認め、少数ながらnear diploid rangeにもあった(T1、T2共)。

       NG-4はこれと全く異なり(図を呈示)対照ではmajor rangeがnear diploidにあり、treated cellsではhypotetraploidにあった。



     

    :質疑応答:

    [堀川]対照群では染色体数があんなに変わっているのに、動物にtakeされないというのは不思議ですね。

    [吉田]実験群が42本に戻ったというのも今までの報告と逆で面白いですね。しかし、核型の分析をしてみないと、どういう変異があったかわかりませんね。



    《梅田報告》

     今迄報告したAAFの結果も合せ、N-OH-AAFについてのdataをまとめてみる(I→IV)

       
    1. N-OH-AAFをHeLa細胞に投与し増殖に及ぼす影響について調べた。10-4.0乗Mでlethalであり、10-5.0乗Mで軽い増殖阻害が認められた。10-4.0乗M6時間作用後control mediumに返してやると細胞増殖能はrecoverするが24時間作用後control mediumに戻してもrecoverしない。

       N-OH-AAFをL-5178Y cellsに投与した時の増殖に及ぼす影響は、全くHeLaと同じ濃度でlethalに又増殖阻害に働いた。

       前に報告した結果はrat liver cultureでは同じく10-4.0乗Mで、同じrat lung cultureでも10-4.0乗Mで、hamster embryonic cellのcultureでも10-4.0乗Mでlethalに働いており、今迄調べた範囲では細胞によるsusceptibilityの違いはない様である。目下吉田肉腫細胞のin vitro細胞について調べている。

       

    2. 形態学的には今迄述べた様に(月報6903)rat liver cultureでは肝実質細胞の細胞質空胞変性(脂肪変性)と、核・核小体の萎縮が認められ、更に間葉系、中間系の細胞も一般に大きくなり、大小不整が著しくなり、核は淡明に染り、核小体は円形化縮少する。rat lung cultureでは、間葉系の細胞と同じ様な変化を示す。

       HeLa細胞では、核の大小不整、核の膨化、核小体の縮小化が見られ、又変性細胞が混在し、Mitotic cellが減少するのが特徴である。

       

    3. N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して6時間、24時間後に染色体標本を作った。10-4.0乗M投与例では6時間後2.1%、24時間後0.3%、10-4.5乗M投与例では6時間後1.4%、24時間後1.3%のmitotic coefficientを示した。(control 3〜4%)

       10-4.0乗M6時間作用後の分裂細胞の染色体像は比較的正常に近いが、24時間作用後のものはrod-shapedの染色質の集塊を示すもの、染色体のgapを示すものがあり、強い変性像を示すものが多かった。10-4.5乗M作用のもので、gapは多くは認められなかった。

       

    4. 以前に報告した様に(月報6903)、N-OH-AAFをHeLa細胞に投与して、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込み率を調べた所、H3-TdR、H3-UR摂り込み率は共に10-4.0乗Mでcontrolの40%におち、H3-Leuは90%値を示した。経時的に摂り込み率を追ったのは月報6905で報告したが、これによるとN-OH-AAF投与後直ちにH3-Precursorの摂り込み率が一様に悪くなるが完全にstopすることなく僅かずつ時間と共に進行することがわかった。そのslideについてautoradiograph作成中であるが、特にH3-TdR摂り込み率の低下がlabelling indexの低下によるものか、grains/cellの低下によるものか調べる予定である。

       

    5. Rat liver cultureにDABを投与して2日後control mediumに戻してやると、肝実質細胞に認められた脂肪滴が減少し、更に核が奇麗になるが、大小不整となっていることを報告した(月報6908)。これが異型細胞の出現に連なると思い、ずっとcultureを続けてもいつもtransformed cellのluxuriant growthが認められない。この核が奇麗になったと云っても、どの程度DNA合成能をもって分裂する事が出来るかを調べる目的で次の実験を行った。rat liver culture作成後DAB 10-3.5乗M投与、2日後control mediumに戻し、更に2日後、H3-TdR 0.1μc/mlを投与し、2日間放置したものについてautoradiographを作った。まだlabbelling indexとしてcountしていないが、DABを投与していないCultureのliver parenchmal cellのlabelling数に較べ、DAB投与群では非常にlabelされた細胞が少い。大小不整で異型にはなっているが、DNAはあまり合成していないことがわかった。



     

    :質疑応答:

    [吉田]このAAFという薬剤はcell cycleを分裂期でとめてしまうのではないかという疑いをもちます。今見せて貰った染色体像には分裂前期が殆ど見られませんでしたからね。低張処理をすると染色体が少しふくらんでしまって、はっきりしなくなりますから、低張処理をせずに標本を作って分裂各時期に相当する像が見られるかどうか確かめておいた方がいでしょう。

    [難波]無処置の細胞が死ぬ時期はcell cycleのどの時期が多いのでしょうか。

    [堀川]G1が多いでしょう。

    [勝田]M期のあと、つまりG1の初期が多いですね。

    [吉田]Sに入るとG1あたりまではずっと進行してしまうのでしょうね。

    [黒木]ひとしきりcycleをまわってから死ぬという場合はどう考えますか。

    [堀川]合成がとまっても手持ちでしばらくはやってゆけるという事ではありませんか。エイジングの問題でしょうね。

    [勝田]卵の場合、黄身を半分にすると、発生はどうなってしまうでしょうか。



    《安村報告》

     ☆Soft Agar法(つづき)

     こんど始めてin vitroで4NQOによってMalignantになったRLT-1、RLT-2の両細胞系のそれぞれからSoft agar中にcolony形成させることに成功した。

       
    1. RLT-1、RLT-2細胞系細胞のcolony形成:

       RLT-1は#CQ42と呼ばれたことのある系で、4NQO処理によりMalignantになった(動物復元によってtumorigenicであった)細胞系である。その後in vitroで継代を続けてきたもので動物通過を経ていない。

       RLT-2は#CQ40と呼ばれたことのある系で、経過はRLT-1と同様と考えてよいものである。 結果は(表を呈示)、RLT-1は28,000コから2倍稀釋3,500コの接種でC.F.E.は2.8〜1.9%、RLT-2は40,000コから5,000コ接種でC.F.E.は0.5〜0.4%であった。

       RLT-1,RLT-2とも形成されたColonyはいずれもsmallでlarge typeは出現しなかった。RLT-1についていえば、この系の動物復元株の培養系Cula-TCと、それらのcolony forming efficiencyを較べると(月報No.6906)前者は後者の半分以下である。またRLT-2とCulb-TCとではそのefficiencyにあまり差はない(月報No.6906)。(図を呈示)

       

    2. Q1-SSとQ1-LLの比較:

       月報No.6906にひきつづいてCula-TC-Q1-Lからlarge colonyを、Cula-TC-Q1-Sからsmall colonyをひろい、それぞれQ1-LL、Q1-SSとして再び両者間のcolony forming efficiencyとともにS-Lのdissociation rateをしらべてみた。(表を呈示)前回と逆にQ1-SSの方がQ1-LLよりC.F.E.がすぐれ、またlarge colonyの出現率がよい。原因についてはよくわからない。ひとつにはtrypsinizationに問題があるかもしれない(とくにQ1-LLの方に)。



     

    :質疑応答:

    [勝田]コロニーのSだのLだのというのは何の意味があるのですか。

    [安村]大きいか、小さいかが腫瘍性と並行するかどうか調べたいのです。

    [黒木]それで、SとLとでは動物への腫瘍性は違うのですか。

    [安村]今の所takeの率は同じです。

    [堀川]結論としてLもSも細胞の増殖率は同じだとすると、個々の細胞の大きさが違うということでしょうか。

    [安藤]しかし、細胞の増殖は、液体培地内で調べているのですから、軟寒天内でのそれぞれのコロニーの増殖率はまだわかりません。

    [黒木]私の最近の実験でわかったことは、動物へ復元して全くregressせずにtumorを作る「M3」にならないと軟寒天内でコロニーを形成しないということです。



    《藤井報告》

     培養内変異細胞の癌化に伴う抗原性の変化を追求するためには、結局、異種抗血清をもってしては決定的な結論が出ない。これは、多くの文献の教えるところであり、私自身のこれまでの成績からも云えることである。そこで培養内で変異し、復元可能なラット肝癌が次々と得られるようになった時点で、この比較的大量に得られる培養内癌化細胞に対する同種抗血清をつくり、癌化の過程における抗原性の変化を追跡することにした。このばあいは、癌化に伴って取得されると思われる抗原−おそらく癌抗原−がどの時点で、どの位のpopulationで取得されてくるかが問題となる。

     抗原のdetectionの方法としては、

    1. Ouchterlony法等による沈降線分析が主たるものとして仕事を進めて来たが、この方法では、titerの高い抗血清とsoluble formの抗原が必要であり、同種移植、同系癌移植のばあいに沈降線をうることが未だ成功していない現状では極めてむつかしい。同種組織移植の研究を続けているので、並行して癌抗原の抽出を進めて行きたい。
    2. 当分はImmune-adherence
    3. Cytotoxicity test
    4. mixed hemadsorption等

    の方法で仕事をすすめて行く予定である。

     同種抗血清の作成

     医科研癌細胞研究部で培養内癌化し、復元されたCulb肝癌は、近交系ラットJAR-1由来である。腹水型となったCulb細胞を同種ラット、JAR-2(JAR-1x雑系ラット)F1に接種し、免疫を試みた。Culb細胞をふくむ腹水は比較的強く血性であるため、water shock法にて赤血球を除き、免疫に使用した。注射部位は両側側腹部皮下2ケ所である。

     免疫のプロトコールは次頁に示してある(図を呈示)が、経過中、皮下に結節性の腫瘤をつくり、徐々に増大するようになった。これはCulb細胞が継代接種中悪性度が高くなったか、あるいはJAR-2ラットに接種するうちにenhancement現象が出て来たか何れかであろう。目下1cm径大になったtumorを結紮して脱落せしめている。何れにしても、この状態では、titerの充分高い抗血清は得られていそうにない。

     Cytotoxicity testとIA

     抗血清には、上記のCulb細胞で免疫したJAR-2のうちBが生着したCulb腫瘍(固型)に抵抗性を示しているようにみえるので、免疫開始後41日目の血清(Frat 11.B.050869)を使用した。培養小角瓶に1日間培養したmonolayer cellsを、“199”液で3回洗滌し、抗血清0.1、モル新鮮血清0.2(1/3稀釋、ラット血球で吸収)を加え、37℃、45分間反応させ、上清を捨てたのち、0.3mlの“199”液と0.5%Trypan Blue 0.1を加え、青く染った細胞を算定した。

     IAには、洗滌monolayer cellsに、抗血清0.1ml、モル血清(ラット血球と人血球で吸収、1/25稀釋)0.2mlを加え37℃、20分間反応させてのち、2%人O血球、0.1mlを加え、60分間反応させた。反応後“199”液で3回軽く洗滌し、検鏡した。

     (表を呈示)抗Culb血清に対し、培養Culb細胞は29.6%の細胞障害を示したが、培養内変異した時期のRLT-2細胞は10.0%と低い。この成績からは、RLC-10細胞が癌化に伴ってCulb-特異抗原を取得しているようであるが、RLT-2の時点ではその程度が低いか、あるいはもっと可能性のつよいことは、非変異細胞が多数混在していることを示唆している。

     同じくRLC-10より変異した細胞で同じJAR-1ラットに復元された癌細胞でもCule-TCの他は、殆んど抗Culb抗体に反応しない。このような所見より、それぞれの癌にSpecificityがあるかどうかが、問題が出てくるが、今後慎重に検討したい。

     IAの結果は、その反応が弱く、結論をひき出せない。

     以上の成績から、同種抗血清をつかって、癌化した細胞の抗原がcytotoxicity testで調べられることがわかったが、未だこの抗血清のtiterでは不充分である。また以上の培養小角瓶では血清需要がどうしても多くなり、多くの検体が扱えないので、平底のmicroplateを用いての方法を試みてみるつもりである。



     

    :質疑応答:

     とくには無かったが、Immuno-Adherenceについて勝田が反駁し、最近撮した顕微鏡映画によって、腫瘍細胞の周囲に附着していると見られるリンパ球が、動的に観察すると実は腫瘍細胞に貪喰されてしまうことを展示した。

     §以後、今秋の癌学会への班としての演題申込が討議され、次のような順序で申込むことに決まった。

     ☆☆☆組織培養による発癌機構の研究☆☆☆

    • 第27報:ラッテ肝細胞の4NQOによる培養内変異(II):勝田・他
    • 第28報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−コロニーレベルでの解析−:難波・他
    • 第29報:培養内に於ける4NQO処理ラッテ細胞の経時的変化−染色体研究−:佐藤・他
    • 第30報:培養内で4NQO処理により癌化したラッテ肝細胞の、動物移植により生じた腹水腫瘍の性状:難波・他
    • 第31報:無蛋白無脂質合成培地内継代L・P3及びRLH-5・P3細胞のDNAの4NQOによる鎖切断及びその再結合:安藤・他
    • 第32報:放射線及び化学発癌剤による哺乳動物細胞DNAの切断とその再結合:堀川・他
    • 第33報:細胞変異に伴う細胞表面構造の変化(II):山田・他
    • 第34報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによるラット肺及び胸腺細胞の培養内悪性化:高木・他
    • 第35報:N-methyl-N'-Nitro-N-Nitrosoguanidineによる培養内悪性細胞の生物学的性状:高木・他
    • 第36報:培養哺乳動物細胞に及ぼすN-hydroxy-acetyl-aminofluorene(N-OH-AAF)の影響:梅田・他
    • 第37報:軟寒天法による悪性培養細胞のクローン分析:安村・他