【勝田班月報:6910:合成培地系株細胞の脂肪酸】

《勝田報告》

 §4NQOによるラッテ肝細胞の培養内悪性化:

 これまでの実験を一応summarizeして報告する(復元成績をまとめた表を呈示)。

 対照として用いたRLC-10はA、B、Cと3種ある内,Bがtakeされてしまった。以後この系は実験に用いていないが、自然発癌というのは当研究室開設以来初めてのことで、面くらっている。ウィルスが関与していないかどうかも、今後検討の要があると思われる。

 染色体のモードは(分布図を呈示)、4NQO発癌の場合は、どういう訳か、2nから1〜2本減って、40本、41本というところにモードが見られる。面白い現象である。RLT-5では復元し、できた腫瘍を再培養したところ、モードがさらに1本減ってしまったことを示す。

亜系の染色体分布については、RLT-1B、CはCQ#42B、42Cに相当し、RLT-2B、B'、CはCQ#40B、B'、Cに、RLT-3CとRLT-4CはCQ#39Cと#41Cに夫々相当している。処理回数とは相関はみられず、何れも40〜41本にピークの集中している点が面白い。

 核型分析はまだ本式にやっていないが、ざっとのぞいてみると、(分析図を呈示)特に長い染色体は認められず、この点岡山の所見とは若干異なっている。



 

:質疑応答:

[高木]復元成績の中の細胞の接種量についてですが、私の実験では100〜200万cell/ratになるようにしていますが、ここでは400万〜800万までの間ですね。400万と800万では大分延命日数が違ってきませんか。

[高岡]定量的に腫瘍性をみるには、タイトレーションをするべきですが、ラッテの生産が間に合わないので、あるだけの細胞を接種して、とにかくラッテにtakeされるかされないかをみている訳です。それで細胞数が不揃いになりましたが、実際には、この程度の細胞数の違いなら生存率や延命日数に影響しないようです。

[堀川]4NQO処理の追打ちをかけた場合、腫瘍性がやや低下するという点について、どう考えますか。実験的に重要なことだと思いますが。

[勝田]高等動物では脱癌という事は考えにくいことですね。

[堀川]Reverseということは考えられないでしょうか。Selectionだとすれば、もっと薄い濃度で処理して耐性細胞をとってしらべてみられそうですね。

[山田]CQ60の実験系の場合、電気泳動的にみますと、4NQO1度処理に比べて、2度処理したものは、泳動値がかなり揃ってきています。このデータからみるとselectionのように思えますね。

[吉田]染色体の変化が2倍体から1〜2本減っているのは面白い現象ですね。マーカー染色体の認められる佐藤班員の場合より、早い時期の変化ではないかと思います。

[難波]復元して出来た固型の腫瘍からの再培養はトリプシンで処理しますか。

[高岡]再培養は腹水細胞からだけ採りましたから、トリプシンは全く使いませんでした。再培養系の継代にはトリプシンを使っています。

[難波]RLH-5・P3をモデル実験に使うと形態的な変化が追跡できなくて困りませんか。

[勝田]とにかく映画を撮って形態変化を動的に追ってみるつもりです。それと平行して細胞電気泳動的な変化と染色体の変化をしらべる予定です。

[山田]復元成績でRLT-1が一番悪性度が高いらしいのは電気泳動の結果とよくあっていますね。

[堀川]腫瘍性が高くなると電気泳動値が乱れるというような現象はありませんか。

[山田]そういうこともありますね。



《香川報告》

 §合成培地DM-120、DM-145で培養した数種の株細胞の脂肪酸:

 合成培地DM-120は脂質を含まず、細胞の内の不可欠脂肪酸や脂溶性ビタミンはないと考えられる。従来の実験ではDM-120中で長期継代したL・P3細胞で不可欠脂肪酸の欠除を見出した。本報告では、その後培養可能となったRLH-1、RLH-2、RLH-3、RLH-4、RLH-5、HeLa、RTH-1につき、この結論の再現性を確かめた。

 RLH-5・P3とHeLa・P3細胞についてはL・P3細胞と類似したデータを得た。すなわち18:1酸、16:1酸が多く、多價不飽和酸は認められなかった。RLH-1・P3、RLH-2・P3、RLH-3・P3、RLH-4・P3をDM-145で培養したもの、RLH-3・P3、RTH-1・P3をDM-120で培養したものではパルミトレイン酸(16:1酸)が上記の2つより更に増加していた。

 RTH-1・P3にリノール酸を添加し培養した場合は、16:1酸の減少がみられたが、RLH-5・P3の場合は、16:1酸の減少はそれほど著明ではなかった。



 

:質疑応答:

[堀川]リノール酸とか血清を添加すると、細胞は分裂と関係なくそれらを取り込み、組み込むのでしょうか。或いは組み込みには分裂が必要なのでしょうか。遺伝子の活性化は細胞分裂に伴うのでしょうか。例えば脂肪酸の不飽和化の能力などは培地にリノール酸を添加すると瞬時に止まってしまうのでしょうか。

[香川]遺伝子がマスクされても、合成は瞬時に止まるわけではありませんね。酵素とmRNAの寿命がありますから。細胞分裂との関係については、高等動物の細胞では増殖させずに培養することが大変むつかしいので、なかなか開明出来ませんね。

[堀川]しかし面白い系ですね。この系が悪性化によってリピッドの構成がぐっと変わったりすると、更に面白いでしょうね。

[難波]リピッドの変化は即ちミトコンドリアの変化と考えてよいのでしょうか。

[香川]全部の膜の総計になります。ミトコンドリアは大体1/3を占めています。

[難波]すると変化はパラレルに起こるわけですか。

[香川]そうだと思います。

[吉田]蛋白合成の場合は遺伝子との関係がよくわかっていますが、脂肪酸の場合はどうですか。

[香川]脂肪酸を合成する酵素(7つのSubunitをもつ複合酵素)が1つだということは判っています。Polycistronicなenzymeです。

[山田]イノシトールは栄養要求の問題として考えられていますか。

[香川]動物細胞は原則としてイノシトール合成の遺伝子を持っています。培地にイノシトールを添加していなくても細胞内のイノシトールを定量するとちゃんと持っています。イノシトール要求性のあるものでも少しは合成する事が出来るはずです。

[山田]イノシトールの要求性の場合、イノシトールを除いてから4日間は増殖をつづけ、その後急に増殖が落ちていますね。必須アミノ酸でもそうですか。

[勝田]アミノ酸要求の場合は、イノシトールと同じ傾向のものと、除くと直ちにカタンと増殖が落ちてしまうものと両方あるようです。

[安村]私の細胞(vero)の場合、ビオチン、イノシトールを除いても3月位増殖がみられます。3月程すると増殖がだんだん落ちますが、その時イノシトールを入れてやると増殖は回復します。ビオチンでは回復しません。

[香川]ビオチンは動物細胞では合成出来ないことになっていますから、除いても増えるという系は面白いですね。ただ他のものから、ごく微量に混入していないかに気をつける必要があります。



《山田報告》

 ◇前回報告した分も併せて、その後のイノシトール合成培地内要求株の表面構造についての成績を報告します。

(結果の表を呈示)

 前回に認められた傾向は更に確かなものとなり、イノシトールを要求する株、RLH-1、RLH-2、RLH-4の細胞表面にはカルシウムが吸着され難く、シアル酸依存荷電量が比較的多いことがわかりました。

 またイノシトールを必要とせず、合成培地内で増殖するRLH-3、RLH-5及びRTH-1の細胞表面にはカルシウムがより多く吸着され、シアル酸依存荷電量が極めて少いことがわかりました。

 in vitroでの増殖には細胞内の条件と共に、培養管壁との附着性が関係することは良く知られて居ますが、後者の株がイノシトール無しに増殖出来る理由には、この表面の構造にも関係する可能性があると考へます。特にカルシウムの附着は極性結合により燐酸基と結びつく可能性が大きいことは基礎実験で確めてありますので、表面への燐酸基の露出が、合成培地内での増殖に密接に関係があると考へます。

 高分子を入れた通常の培養液内では、表面の荷電の性質如何にかかわらず、無撰擇に極性結合する蛋白其の他が存在するので、管壁との附着は容易であろうと思われます。

 合成培地内とOriginalの培地内でそれぞれ増殖した各細胞系の表面構造相互の差は、この成績からあまり、明確な差を見出せません。

 細胞表面荷電のうちで燐酸基を擔う物質中、より可能性のある物質の一つにphosphatidyl inositolが考へられますので、イノシトールの細胞膜への取り込みと、表面荷電の変化が今後興味ある問題として残ります。

 ◇4NQOにより癌化した細胞群CQ39、40、41、42、50の系の細胞電気泳動度を調べた所、昨年夏の成績では変異株ではあるが、悪性型を示さないと云う結果を得たことを既に報告しました。これは、悪性化した細胞数が少いためであり、事実この癌化株(CQ42)をラットに復元した腫瘍を再培養した後の細胞系では明らかに悪性型の泳動パターンを示すことも報告しました。今回はそれから丁度1年経ちましたので、これらの株の悪性細胞の数が増加して居るのではないかと思い、再検した結果を示します。全部の細胞系がシアリダーゼ感受性が増加し、特にCQ42(RLT-1)では明らかに悪性型を示す様になりました。この系について写真記録式泳動装置によりどの様な形態を示す細胞がシアリダーゼ感受性があるのか調べました。明らかに中型で核膜硬化があり核小体の大きい細胞がシアリダーゼ感受性があり、悪性細胞と思われ、その頻度は約30%ありました。(図と写真を呈示)



 

:質疑応答:

[勝田]培養日数が長くなると、細胞がひろがってくるので、ガルス面への附着が要求されると云われましたが、むしろ細胞が密集してくるので、ガラス面への附着が要求されるということでしょうね。

[山田]イノシトールがくっつくということと関係があるかどうかは、浮遊培養をしてみると、はっきりさせられるのではないでしょうか。

[安村]細胞によって、いろいろ違いがあるでしょうね。

[山田]ガラス面への附着は燐酸のチャージが関係あると思います。2価イオンなしで培養するとどうでしょうか。

[香川]カルシウムはとにかくとして、マグネシウムはゼロにすると細胞が生きていられないでしょう。

[吉田]ウニの卵ではカルシウム・マグネシウム無しの液で培養すると、細胞がばらばらになって、くっつかないで発生するという事です。

[山田]イノシトールは、直接に細胞膜の合成に使われている、とは考えられないでしょうか。

[香川]少なくともラッテでは、C14を使っての実験で、イノシトールを合成出来るという事が判っていますから、培地から直接使う必要はないと思うのですが・・・。合成出来ない系があるとすれば遺伝子がマスクされているのでしょうか。

[難波]Cellサイクルによって細胞の大きさが違ってくるのではありませんか。

[勝田]細胞の大小はcellサイクルの関係だけではないでしょう。

[香川]菌では大小が遺伝形質として分けられますが、動物細胞では分けられないでしょうね。

[安村]培養細胞の場合、形の大小は遺伝的性質ではないと思います。

[山田]多核で大きい細胞はシアリダーゼ感受性が少ないという結果が出ています。



《難波報告》

 ◇N-7:4NQO処理により発癌した培養ラット肝細胞のplating efficiencyとAltered coloniesの出現率について  月報6908で、4NQO処理により発癌過程にあるラット胎児細胞のPEと変異コロニー(当時、transformed coloniesと報告しましたが、この言葉について班会議でいろいろ論議がありましたので、以後、Altered coloniesと云う言葉で表現したいと思いますが、皆様いかがでしょうか。)の出現率とについて報告した。同様の実験を4NQO処理ラット肝細胞で試みた。(結果の表を呈示)

     
  • 培地:Eagle's MEM+20%BS。

     

  • 細胞:Exp.7-2系の細胞を300cells/plt.3枚のシャーレにSeedingした。

     

  • 培養:炭酸ガスフランキ中で、2週間行い、1週間目に一度培養を更新した。

     

  • 判定:Altered coloniesとして、Control cellsでのcolonyにみられないcolonyを目安とした。即ち1)piling upする細胞よりなるcolonies、2)Pleomorphic cellsよりなるcoloniesを一応Altered coloniesと考えた。

     

  • 結果:
       
    1. 4NQO処理細胞のPEはコントロール細胞に較べ高かった。

       

    2. 4NQO処理回数が増すにつれ、PEは高くなる傾向にあり、同時にAltered coloniesの出現率も上昇しcolony sizeも増大する傾向にあった。

       

    3. この肝細胞は、4NQO処理8回で造腫瘍性を示したもので、その時点ではAltered coloniesが出現していない。

       

    4. 以上のことから4NQOの発癌実験にラット肝細胞を使用する場合、細胞の造腫瘍性の獲得と、その細胞のPE及びcolonial morphologyとの間に少しずれがあるように思える。そのずれの原因として

         
      1. 観察した細胞数が少なすぎたためか。  
      2. コロニーレベルでの変化が出るまでには、発癌後ある期間が、必要なのかも知れない。

      などの点が考えられるので、これらの点を今後解析してゆきたい。しかしラット肝細胞の試験管内発癌の一応の目安として

         
      1. PEの上昇  
      2. Altered coloniesの出現率の増加

      は参考になるのではないかと考えられる。


 ◇N-8:ラット皮下繊維芽細胞のクローニング

 新生児ラットの皮下組織をトリプシン処理し遊離細胞を集め初代培養を行い、6日目に継代1代目でSingle cellを拾い増殖してきた1ケのコロニーを培養26日目に2枚のシャーレに継代した。以後だいたい1ケ月経過したが細胞はガラス壁についたまま、あまり増殖を示していない。

 その後もどんどんSingle cellsを拾ってクローニングを試みていますが、どうも細胞の増殖が良くなく、困っております。今後培地の検討を行いたいと考えますが、何かいい知恵があればお教え下さい。



 

:質疑応答:

・・・標本の作り方について諸々の質問があり

[難波]旋回培養して出来たアグリゲイトを試験管に集めて、以後固定→脱水→包埋まで試験管の中で行います。そして切片にして染めたのが、先程の顕微鏡写真です。

[勝田]どの系についても同じ結果が出ていますか。

[難波]2系だけですが、2系ともこういう傾向です。

[堀川]旋回培養を試みた理由は何ですか。

[難波]悪性化の同定を形態的にみる方法として使えるのではないかと考えました。

[山田]Populationの殆どが悪性化しないと、はっきりした結果が得られないのではないでしょうか。そういう点からみて余り適当な同定法でないように思われますね。

[安村]癌化と未分化ということをはっきり分けて考えないといけないと思います。癌は癌として進んでいるのであって、決して胎児の細胞のように未分化になっただけで、癌化というわけではありません。

[堀川]同定にというより、recognizationの問題として培養内に出来た大きな塊だけを拾って、動物に接種するとtakeされるという風にでも使うと、旋回培養もいい方法だと思います。

[難波]しかし、傾向としてadultを材料とした培養細胞は凝集しないのに、胎児だと大きな塊を作ります。生後1週のものでは、初代は凝集しないのに、それから分離した系では凝集塊を作る、つまり胎児に近づいたのだと言いたいのですが。

[安村・他何人か]それは言わない方がよいと思います。むしろ分化、未分化の問題なら、テラトーマなどを材料にして培養してみれば面白いのではないでしょうか。

[山田]変異コロニーの細胞は動物を腫瘍死させますか。

[難波]1,000コの細胞を接種して、1月で腫瘍死しました。

[堀川]アグリゲイトを作る物質の本体は何でしょうか。60℃で加熱して細胞を殺してから培養してもアグリゲイトを作るのではないでしょうか。

[山田]腹水肝癌を動物の腹腔内で増殖させておいて、腹腔内へアルカリなど入れると、一過性に大きなアグリゲイトを作りますね。

[梅田]脱癌というのは、元に戻ることでしょうか。

[堀川]再分化とか再変化とかではないでしょうか。

[勝田]脱癌といわずに、可移植性の消失とでも云うべきではないでしょうか。



《高木報告》

     
  1. NG-20(再現実験)について

     この実験を開始したのは昨年の11月3日で、培養開始118日目のWKArat胸腺細胞にNG 10μg/mlを作用せしめた。3系列の実験を行った。(図を呈示)

       
    1. seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめ、さらに培地を追加して3日間培養をつづけたものである。NGfreeにして49日目にinitial changeと思われるものに気付いた。210日目のchromosomeのmodeは、controlが主としてdiploidを中心に存在するのに対し、実験群はnear diploid rangeの数がましていた。約300日の現在形態的に可成りの変化がみられ、復元実験中である。

       

    2. seriesはNG 10/ml 2hr.作用せしめて培地を交換したものである。52日目にinitial changeに気付いた。141日目のchromosomeはcontrol、実験群共に殆どdiploidにmodeがあったが、213日目のものではcontrolに比して実験群ではnear tetraploid rangeのものの数が可成りましている傾向がみえた。形態的に約300日の現在実験群の細胞は上皮様細胞の感がつよい。

       

    3. seriesはNG 1μg/ml 2hr.を10日間にわたり3回作用せしめたもので、39日目にinitial chnage特にpiling upの像がみられた。この中の1seriesは121日目にさらにNGを10μg/ml 2hr.作用せしめた。第2回目作用後55日目(初回作用後176日目)のchromosomeはcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に可成り広く散在しており、両者間に有意の差はみられなかった。第2回目作用後84日目(初回後205日目)のものではcontrol、実験群共diploidとtetraploidを中心に集まり、バラツキの少くなった傾向がみられた。約300日現在形態的にはcontrolの細胞が小さくcriss-crossの感がつよい。

     これら3seriesの細胞についてはNG作用後200日をすぎた頃から復元実験を試みたが、脳内、皮下接種ラットともに接種ラットが生存せず失敗をくり返し、やっと300日をすぎた時点で皮下接種ラットが生存し、目下観察中である。chromosomeについても再度検討の予定で、またsoft agar中のcolony forming efficiencyも検討している。

     

  2. NG-7のsoft agar内におけるCFEと移植性とについて

     月報6909にCFEのみにつき表示し、移植性についてはふれなかったが、その後のdataを表示する。未だ観察期間は充分でないから中間報告と云うことになると思う。

     8コロニーのCFEは0.05〜72.9%と可成りの幅があった。実験T-4は動物に腫瘍を形成した。



 

:質疑応答:

[難波]コロニーからコロニーへまく時、細胞をどうやってsingle cellにしますか。

[高木]コロニーからすぐに又シャーレにまくのではなく、1度試験管で増やしてから、改めてトリプシンでばらばらにしてまきます。

[安村]コロニーのLとSの関係は矢張りはっきりしない様ですね。



《安村報告》

 ☆Soft Agar法(つづき)

     
  1. AH-7974-TC(JTC-16)細胞クローンのうちS、L系の代表的なものC3-LとC6-S:

     1-1.Colony forming efficiencyの比較。(図を呈示)C.F.E.はともに30%近くにあって有意の差があるようには考えられない。

     月報(6908)にのべたようにこの両系間(S、L)には増殖率にも差がない。ただ形態的には液体培地でmonolayerのsystemではS系は細胞の大きさはL系より小さかった。

     それではLarge colonyを形成する細胞は形態がSmall colonyを形成する細胞より大きいために、同じ増殖率(両系とも)のもとでLarge colonyをつくるのか?

     L系の細胞はSより形態が大きいのだろうか、この問題を解明するために次の実験を試みた。

     1-2.Colony sizeとColonyを形成する細胞数の関係。(図を呈示)C3-LのColonyを65コ、C6-Sのコロニーを62コひろい、それらの直径と細胞数をしらべてみた。

     結果はL系がS系より形態が大きいとはいえないことを示した。

     この結果の解釈には、立体構造をしたcolonyを、いちおうplateの上から測定した直径の3乗に比例すると考えている。もしこのcolonyの3次構造が不規則なものであるとしたら、それに由来する誤差を考えにいれなければならない。S系、L系のそれぞれの細胞あたりのDNA量、蛋白量もしらべてみたが、まだなんともそれらの結果からは細胞の大小について統一した相関関係をうちだすことができないようである。(このことについては次号にでも書けるでしょう)。

     現在、S、Lの出現はSingle cellのSoft agar中での立ちあがりに差があると考えている。S、L形質はheritableではないことはS→S→S、L→L→Lと拾って行ってもなおかつSからLは出現するし、LからSもでてくることからもそのことはうなずける。Single cellの増殖への立ちあがりの差というのはあるSingle cellはplatingののちすぐ立ちあがって分裂するが、あるsingle cellはlatent periodが長く、2日、3日、4日というぐあいに、数日後にして立ちあがる。そのような差がS、L colonyになってあらわれるということであろう。このような現象は液体培地でもcolony formationをさせるときにWindows techniqueなりをつかってわかっていることである。そんなわけで、少くともAH-77974-TCに関してはS、L、形質(形質と呼ぶのはふさわしくないが)はheritableでなく、phenotypicなものであると結論してよいかと思われる。またS、L形質はtumorigenicityとも有意な相関がないという結果からも以上の見解は支持されるだろう。

     

  2. マウス胎児細胞系:

     前号の月報でふれた1年間近く培養継代した(あまり熱心に継代しなかった)マウス胎児細胞系の12代めからSoft Agar中でcolonyを得ることができた。(表を呈示)100万個細胞をまいて平均21コのコロニーができた。このコロニーを数個ひろって次代でWild typeとC.F.E.を比較中である。100万個以下ではcolonyは出来なかった。



 

:質疑応答:

[堀川]コロニーLのstartが実は1コでなく2コだったという事はあり得ませんか。

[安村]そうではないとは言えませんね。しかし、もうLとSはおしまいにする積もりです。

[堀川]細胞数はどうやって数えたのですか。

[安村]コロニーを1つ1つ吸い出して、クエン酸0.1ml中に入れて、寒天をくだいて細胞の核数を数えました。

[堀川]増殖率の方は・・・。

[安村]試験管内で、培地は液体培地です。

[堀川]増殖率の違いでもない、細胞1コ1コの大きさの違いでもないとなると、寒天内での接触阻害のような影響を受けるとは考えられませんか。DNA合成をみてLの方がぐっと取り込みが多いという事でもあると面白いですね。

[安村]細胞学としては面白いかも知れませんが、腫瘍性との関係ははっきりしませんから、矢張りLとSはもうおしまいです。

[勝田]マウスの細胞についてですが、マウスではエバンスたちが半年で前例悪性化してしまったという報告をしていますね。ですから400日もおかずに早く復元してみるべきでしたね。

[安村]いや、この場合は原株と軟寒天内で拾った細胞との間に、動物に対する悪性度の違いがあるかどうかをみようとしただけです。対照として使っていたのが、いつの間にか悪性化したらしいので、軟寒天内で拾った細胞が悪性なのかどうかという裏付けにでも使おうということです。

[堀川]L→L→L、S→S→Sを捨てるのは寂しいですな。安村さんの効能書きが面白かったですから。

[吉田]遺伝形質として、LとSの本質を担っているものもあるのではないかしら。それを調べるのには3回のクローニングではだめだったのでは・・・。

[安村]1回ではダメ、2回でもダメ、3回のクローニングでもダメと言われたのでは、何時になっても仕事が終わりません。

[堀川]63才になってもね。

[安村]ですから、もうLとSはおしまいにします。



《堀川報告》

 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(15)

 4-NQOおよび4-HAQOは濃度に依存して培養細胞内DNAの一本鎖および二本鎖切断を誘起させることについては前報で報告した。またこれらの両切断のうち一本鎖切断はアルカリ性蔗糖勾配遠心法でみた限りでは再結合することがわかったが、では一体DNA切断の際nucleotides fragmentの酸可溶性分劃への切り出しがみられるかどうかが問題になってくる。

 Ehrlich細胞をあらかじめ1μCi H3-thymidine/mlを含くむ培地中で24時間培養し、DNAをラベルする。つづいて細胞を1x10-5乗M 4-NQOで30分間処理した後に、10μg cold thymidine/mlを含くむ培地にもどして種々の時間培養後に細胞を集め酸可溶性分劃と酸不溶性分劃にわけてそれぞれの分劃に含まれるradioactivityを測定した。(図を呈示)  4-NQO未処理(対照群)の細胞では酸可溶性分劃中のradioactivityは培養時間と共に減少する。つまりこのことは細胞分裂に伴うDNA合成に利用されるか、或いは、Cold thymidineと置き代ってmedium内に放出されることを意味すると思われる。勿論、酸可溶性分劃内のradioactivityはこの程度の培養時間では誤差範囲の変動しか認められない。一方、4-NQOで処理した細胞群においては酸不溶性分劃内のradioactivityには大きな変化は認められないが、酸可溶性分劃内のradioactivityが培養時間と共に増加することがわかる。つまり4-NQOによって切断されたDNA fragmentが酸不溶性分劃から酸可溶性分劃に移ることが示唆された。

 ここで次の問題として紫外線照射によってDNA中に形成されたthymine dimerを切り出す能力を欠くmouse L細胞において同上の現象が認められるか否かという疑問が生じてくる。Ehrlich細胞について行なったとまったく同一の方法で処理し、この点を検討した。(図を呈示)結果は、L細胞でもEhrlich細胞同様に、4-NQOによって切断されたDNA fragmentが酸可溶性分劃に放出されることがわかった。

 このようなL細胞とEhrlich細胞の間のDNA fragmentを放出する能力に於いて差が認められないという結果は、4-NQO処理後の細胞のunscheduled DNA合成をみた場合の結果とも良く一致し、この場合にもEhrlichとL細胞の間にはunscheduled DNA合成能に於いて差は認められていない。

 以上のごとくUV照射の場合のdimer除去能力のないL細胞にも4-NQOで切断されたDNA fragmentの酸可溶性分劃への放出能は認められる。またUV照射と4-NQO処理に対する(colony forming methodでみた)細胞株間の感受性の間には何らの相関関係もみとめられないという結果から考察すると、UVと4-NQOに対する障害修復機構は同一のものとは考えにくい。少くともmammalian cellsに於いては修復過程のどこか一部分が異なっているように考えられる。



 

:質疑応答:

[梅田]一本鎖の切れ方はユニフォームでなく、ばらついているのに、二本鎖では一定の切れ方をするようですね。

[堀川]そうですが、そのメカニズムは判りませんね。

[安藤]私の実験でも同じような結果です。処理後30分でもうユニフォームになってしまいます。もっと短い時間に切れてしまうのではないかと考えて、タイムコースをとってみたら5分でもうユニフォームになっていました。2分だともう少し大きなものもあるようです。

[勝田]X線で切られた場合も二本鎖切断の移行は、4NQOでの場合と同じようにユニフォームですか。つまりピークがありますか。

[堀川]4NQO処理の場合はピークですがX線照射の場合はアトランダムな切れ方です。

[安藤]熱処理をしたり、乾燥させたりすると、細胞の生命は死んでしまいますが、酵素の活性は残っています。とすると、60℃加熱後4NQO処理の実験結果を物理的にだけ、しぼったものとみてよいでしょうか。

[堀川]そういう問題は残ると思います。しかし結果としては先ず乾燥したものも、加熱したものも、DNAの切断が起こらないという、生きた細胞と違う結果が出て居るところが面白いと思っています。そして4NQOでは切れないが、次の実験として4HAQOを作用させてみて、もし、切れれば杉村さんのDNAレベルの話と合ってくるということになります。

[梅田]Ehrlich細胞だけでなく、正常細胞でも同じような実験をやってみる必要がありますね。

[吉田]この実験条件だと、4NQO無処理のものでもDNAは随分切れているのではないでしょうか。Ehrlichですと、DNAの長さは2cmもあるものがあるはずですから。

[堀川]それはそうかも知れません。しかし或る一定の操作下に処理しているのですから、4NQO無処理細胞の結果については、人によっても又時によっても、ピークは大体同じ所にくるはずだと思います。勿論生きて居る細胞のDNAに比べれば、何分の1かの長さになっているとは思います。



《安藤報告》

     
  1. 4NQOによるL・P3DNAの二重鎖切断のkinetics

     月報No.6906に4NQOはL・P3DNAの二重鎖切断を起す事、薬剤の濃度依存的に一定の分子量で小さくなる事、又薬剤除去後24時間回復培養を行うことによって殆ど元の大きさに又再結合が起る事を報告した。今回は鎖切断が起り一定の分子種になる過程で早い時間をとれば、その中間体がつかまるか否かを調べた。

     4NQO処理2分、5分、15分と調べた所(図を呈示)、この切断反応は極めて速やかな反応であり、すでに2分の反応で30〜40%のDNAがこわれ始め、5分で殆ど分解は完了してしまう。但し、4NQOとの接触時間が2分、5分であって、分析迄には10〜20分はlysed cellの状たいでいるので、この間に分解した分がどれ程あるかは不明である。

     それから、4NQO、30分処理で生成した均一なDNA分子は、遠心分離の際のArtifactではなく、やはり切断産物は均一分子種である。

     

  2. 4NQO処理L・P3はRepair合成(non-conservative Replication)を行うか(2)

     月報No.6908の続き:L・P3にBUdRを16μg/mlで48時間培養、一夜chase、4NQO、10-5乗M、30分処理、H3-チミジン5時間ラベルし、表題のような目的でDNAをCsCl中で分析したものがNo.6908の図です。今回はBUdRの濃度を下げ5μg/mlとして同様の実験を行った。

     中性CsCl密度平衡遠心し、hybridDNAピークをpoolし、透析後、再びアルカリ性CsCl密度平衡遠心分析をした。一方、放射性のピークは4NQO処理した場合もしない場合も、全てlight peakに集中していた。(分劃図を呈示)

     この実験事実のRationaleは、BUdR 48時間ラベルで、大部分のDNAはhybridDNAとなる。このようなDNAを持った細胞を4NQO処理し、H3-TdRでラベルすると色々なDNA分子が出来る事が予想される(模式図を呈示)。すなわちrepair合成が全く起らないとすれば、まだらにBUdRを取り込んだ分子は生成しない。repair合成が起るとしたら、まだらな分子が生成する筈である。そこで中性CsClによりhybrid regionを集めるとBUdRがまだらに入った分子と片方にだけ入った分子の混合物がえられる。次にこれをアルカリ性CsCl分析を行うと二重鎖が一重鎖となるので、始めてまだらに取り込んだ分子はheavy域に回収されるので、radioactivityがheavy域にあればrepair合成があった事が結論される。repair合成がなければ、片方だけにBUdRが入った分子だけなので、heavy域にはradioactivityは入って来ない筈である。

     したがって本実験の条件に於いては検出可能なrepair合成はなかった事になる。しかし、4NQO濃度を上げるか、あるいは正常な半保存的なDNA合成を抑制するような手段を用いれば、あるいは検出可能となって来るかもしれない。



 

:質疑応答:

[堀川]私の実験と違う点は二重鎖でも修復が起こるという所ですが、これは本当の修復ではなく、L・P3が死んでしまったためにDNAが凝集して大きくなったとは考えられませんか。

[安藤]形態的にみても、細胞数を数えてみても、そんなに死んでいないのです。

[勝田]修復されたDNAはもとのものと全く同じものになっているでしょうか。DNAのハイブリダイゼーションで判りませんか。

[安藤]とても判らないと思います。

[勝田]部分的なrepairは行われないという結論ですか。

[安藤]セシウム法で検出出来る程のrepair合成はみられなかったということです。

[堀川]UV照射の実験では、同じ方法で修復合成をdetect出来る程のカウントが得られているという報告がありますね。X線の場合の修復合成もdetect出来ません。二重鎖の場合の修復は殆ど合成なしに、くっついてしまうのかも知れませんね。

[吉田]UVとは、又違った修復が起こっているのかも知れませんよ。ダイマーの出来るのは・・・。

[堀川]UVだけです。

[安村]カウントに関係のない修復合成があったとは考えられませんか。

[梅田]そうですね。ラベルがチミジンだから、取り込まれないので、カウントに出ない。例えばグアニンだと取り込まれているということも考えられます。

[堀川]4NQOの切り方が、非常に特異的選択的だとすると、そういうことも考える必要がありますね。

[難波]放射線と違って4NQOの場合、処理後に4NQOが細胞内に残っているということはありませんか。

[堀川]あり得ることです。そしてそれが放射線障害の場合のようには短時間に修復されないということの原因になっているとも考えられます。

[勝田]4NQO処理後にシャーレにまくとPEが対照より低く。コンフルエントで1日おくと対照と同じ位に回復するというのは、何を意味していますか。

[堀川]4NQO処理直後は、DNAが切られたままの状態で修復されていないので、DNA合成→分裂と立ち上がることが出来ないのでしょう。コンフルエントにしておくとDNAの修復が先ず行われるので、1日たつとDNA合成に入れる態勢になる、ということではないでしょうか。

[勝田]映画でみていると、随分死んでいく細胞が多いと思いますがね。

[安村]対照群と同じPEといっても、5%ですから、その5%は始めから4NQO耐性だったのかも知れませんよ。そして残りの95%の死んでゆく細胞の中に勝田さんの映画でみている、死ぬ細胞というのが含まれているのでしょう。

[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方についてですが、薄い濃度の処理でも長い時間処理すれば、濃い濃度の短時間位に小さく切れるでしょうか。

[堀川]薄い濃度の処理だとすぐ修復されてしまって、小さく切れてしまうことは無いでしょうね。

[勝田]そういう結果がでれば、それは又、薄い濃度で悪性化の起こらないことの裏付けにもなる訳ですから、ぜひ結果を出しておくとよいですね。



《梅田報告》

     
  1. 今迄N-OH-AAFをrat liver culture、HeLa細胞等に投与した時、核が大き目になり、核質は淡明、核小体は小さくなることを報告してきた(6707-II)。Aflatoxin投与でも同じ様な変化であるが、核小体はpin pointの様になり、更に著明な変化と云える(6811-I)。

     N-OH-AAFをHeLa細胞に投与した時、H3-TdR、H3-URの摂り込みは抑えられ、H3-Lewの摂り込みは比較的良く保たれていること(6903-II、6905-I)、Aflatoxin投与では文献的にActinomycinD様の作用があると云われていることから、核質の淡明化、核小体の縮小化が、RNA合成阻害、蛋白合成持続に関係していると考えていた。更にDNA、蛋白合成を抑えるが、RNA合成は抑えない赤カビ毒素のNivalenol投与によると、細胞は小さ目であるのに核小体は丸く非常に大きくなっている。

     以上の事実を今迄班会議で報告の際、吉田先生から「本当に核小体が小さいのかどうか疑問だ」との指摘をうけ、又山田先生からも「位相差で観察したら」とのsuggestionをうけた。  先生方の提案にもとずいて、rat newbornのliver、lung、kidneyの、及びHeLa細胞のタンザク培養を用意して、N-OH-AAF 10-4.0乗M、10-4.5乗M、Aflatoxin 3.2、1.0μg/ml、Fusarenon-X(NivalenolのAcetoxy化された誘導体)1.0、0.32μg/mlを投与して位相差顕微鏡観察を行った。

     N-OH-AAF、Aflatoxin投与により、今迄報告した様な肝実質細胞の変性が認められ、又細胞が重ったりしていて観察は充分に行なえないが、核小体は染色標本でみる程縮少していない。これに反し、Fusarenon-X投与では明らかに核小体の増大がみられた。しかも位相差で観察した同じタンザクをCarnoy固定、HE染色してみると、N-OH-AAF、Aflatoxin投与例では核小体は小さくなっている。

     細胞の摂り込み実験からすると、核小体がN-OH-AAF、Aflatoxin投与で小さくなることは説明つくと思っていたが、吉田先生、山田先生指摘の様に、固定によるartifactであるかも知れない。Aflatoxin投与による電顕的観察(Floyd et al.:E.C.R.51:423,'68)では、その大きさは減少し、fibrillarとgrannlar componentsがseggregateされると報告されている。それ故、上の変化がCarnoy固定によるArtifactとしても固定により核小体が縮小しやすい何かがあると考えては如何だろう。

     

  2. 上の様なことが動機になって、作用機序のわかっている物質について、形態的変化を比較検討してみた。HeLa細胞に投与して3日目のタンザクを型の如くCarnoy固定HE染色した。物質数と観察がまだ不充分なので中間報告する。

       
    1. FUDR(thymidylate synthetase阻害によるDNA合成阻害剤):細胞は大きく核も大きく、核質は淡明、核小体もそれに応じて大きい。核小体は不規則形。分裂細胞殆んどなし。  
    2. IUDR(DNA合成過程でTdRとのcompetitive inhibitor。IUDR自身、DNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNAを合成する):FUDRよりやや弱いが同じ様な変化。細胞、核、核小体すべて大き目になり、核質は淡明である。  
    3. Cytosine arabinoside(deoxy cytidine合成阻害によるDNA合成阻害):FUDRと殆同じ様な変化。  
    4. FUR(UridineのかわりにRNAに摂り込まれfrandnlent(?)DNA形成):細胞、核の大きさは普通。核質も普通に近い。核小体は丸くなっており、数が1〜2ケ(正常は2〜4ケ位)しかし正常と同じ位の大きさを示す。  
    5. 8Azaguanine(guanineのAntimetabolite):細胞は萎縮し、大小不整となり、細胞質はそざつ、核小体1〜2ケ丸く大きさはそれ程小さくなっていない。  
    6. Amethopterin(Antifolic agent.DNA、Purine蛋白合成阻害に働く):細胞はSpindle-shapedになり小さ目。核はやや小さ目、核質は斑点状で一様でない。核小体は丸く、数小さい。  
    7. ActinomycineC(DNA dependentRNA合成阻害):Act.DがないのでAct.Cで実験を行った。細胞は萎縮し小さくなり、核小体は0.01/ml0.0032/ml0.01/ml
    8. Proflavin
    9. MitomycinC(Alkylity agent、DNA合成阻害):FUDRと似た変化を示す。

     以上の変化をあまり数が多いので密着写真で示した。



 

:質疑応答:

[安藤]この実験の意味は、作用機作の分かって居る薬剤を作用させて、その形態的な変化を確認したということですか。

[勝田]未知の薬剤を使う前に、既知のものを使って確認したというところですね。

[難波]アクリジンオレンジで染めると、核小体はもっと綺麗に染まってはっきりすると思います。

[山田]非特異的な変性に伴う変化もあるようですね。その薬剤特有の典型的な変化が認められる場合はよいのですが、そうでもない場合はよほど対照をかっちりととっておかないと異論が出ると思いますよ。ブリリアン クレシング ブルー(B.C.B)などで染めてみるのも手だと思います。



《藤井報告》

     
  1. ラット抗Culb血清について

    医科研癌細胞研でラット肝細胞の培養内発癌を見たRLC-10→RLT-2→Culb→Culb-TC各細胞の抗原性の変化を調べる目的で、癌細胞研のラット(JAR-2系)にCulb腫瘍細胞(JAR-1ラットで腹腔内継代されたもの)を注射して免疫したが、Culb細胞は皮下接種でJAR-2系ラットにもtakeしてしまい、未だ検査に用いうる同種抗Culb血清は得ていない。現在までに2匹のうつ一匹は腫瘍死し、他の1匹は腫瘍を結紮して脱落させたところ、転移はおこらず生存中で、9月22日、されにCulb細胞で追加免疫をおこなった。

     以上のラットより得ている各時期の血清について、Immune adherence法で抗体の有無を確かめてみた。  標的細胞はRLT-2、Culb-TCで、平底のmicroplateの各wellに1日間培養した細胞である。1日培養の細胞であるためか、反応操作中に培養面からはがれて落ちる細胞が多く、成績は残った細胞について、IA像の強弱を比較するに止まった。(結果の表を呈示)

     

  2. ウサギ抗Culb血清によるRLT-2、Culb-TCの比較:

     1日培養したRLT-2、Culb-TC細胞について、ウサギ抗Culb血清(FR85〜87、051969)、ウサギ抗ラット肝血清(FR51、52、030269)によるIAのおこり方を比較した。IAの方法は既報の如くであるが、細胞の洗滌、とくに人赤血球を反応させた後の洗滌は入念にやる必要があり、Plateをmedium(K++をふくんだveronal buffer)中で底面を上にして静置(約30分)し、非粘着赤血球を落し去った。この実験でも培養標的細胞が操作過程で脱落し、残った細胞についてIA像の強弱を、粘着する赤血球の多少で比較するに止った。(表を呈示)

     microplate上でのIAの技術上の改良とくに培養細胞を底に固定させるに必要な日数の検討等がなお残されたわけであるが、上の成績から、RLT-2もCulb-TCと同じ程度にIAをおこしている。AH-130-TCもおこすが、程度は弱い。−即ち腫瘍細胞1ケに粘着するヒト赤血球の数が一様に少いことが見出された。こういう傾向は、Anti-rat liver serumとCulb-TC、AH-130-TC等の間でも云えることで、抗体に反応する抗原のsitesが少いということであろう。Anti-Culb血清と、Culb-TCやRLT-2で強いIAを示す抗体がCulb腫瘍特異なものであるかどうかは未だはっきり云えない。Anti-Culb血清をラット肝組織で吸収したばあい、その稀釋血清はCulb-TC、RLT-2細胞に弱いがIA(1+)を示した。後日、細かく検討するつもりである。



 

:質疑応答:

[山田]抗Culb血清はRat liverで吸収するべきではないでしょうか。

[勝田]此の場合、抗Culb血清と抗Rat Liver血清のタイターが違っていると、比較の意味がなくなりますね。

[藤井]実は、当然抗Culb血清はRat Liverで吸収して反応をみるべきだとは考えていますが、何分タイターが低いので吸収すると何も出なくなってしまう可能性もあると考えて、先ずこのデータを出して比べてみたわけです。

[山田]判定のボーダーラインをはっきり定めてありますか。

[藤井]+以上はたいてい20%〜50%位の細胞に血球が附着しています。その附着している血球の数が数個で+、まわり中附着していると+++という風に定めています。



《吉田報告》

 最近、吉田肉腫の染色体を詳しくしらべてみると、分裂中期にも、ほぐれたまま固まらない部分を持つ染色体が見出された。遺伝研の吉田肉腫では80〜90%、佐々木研でも80〜90%、岐阜では50%、東北大では5%、武田では90%のmetaphaseに見られた。なおその部分の短いものは、他の染色体と一緒にDNA合成がおこなわれるが、長いものはH3-TdRのとり込みがおくれていた。先の方がまた固まっているのも見られ、13%位に染色体と染色体の間に細く繋がっているものも見られた。これは3年前までの標本には見られない。最近認められる現象である。(模式図を呈示)



 

:質疑応答:

[勝田]それは染色体と呼ぶべきでなく、Chromatinではありませんか。

[吉田]そうです。或は染色糸というか。

[山田]Heterochromatinですか。

[吉田]片方はそうらしいが、片方はちがうようです。石館氏のところでは薬剤耐性の株に率が高いようです。

[勝田]特種染色ですか。

[吉田]いや、FeulgenでもGiemsaでも見られます。

[勝田]どうもVirus感染による変化かも知れませんね。

[吉田]その疑はあります。

[堀川]Telophaseまで残りますか。

[吉田]核小体と関係があるかと思ってしらべたら、Metaphaseまではlight greenで染めると核小体が残っている。但し、コルヒチンや低張処理をすると消えます。今までは核小体はmetaphaseでは消えると云われていたのですが。

[梅田]昔は使わなかったdisposableの注射器(移植時の使用)などが原因では・・。

[吉田]いや、やはりウィルスが疑わしいですね。