【勝田班月報:7003:抗原抗体反応による細胞膜の変化】

《勝田報告》

     
  1. ラッテ肝の4NQO処理による変異株(RLT-1〜5)及びその対照株(RLC-10)のラッテへの復元成績:

     (各実験系の結果図を呈示)これらの結果は、4NQOによる処理回数が多いからといって、復元接種後の生存日数が必ずしも短くはならない、ということを示唆している。(表現をかえれば、頻回に処理しても、必ずしも細胞の悪性度が高まるとは限らぬ、という結果である。  対照群は、初めの内は復元成績は陰性であったが、その内自然発癌してしまい、A系列とB系列は陽性となってしまった。但しその時点は処理群よりもおくれている。  これらの悪性化系の内では、RLT-1株が最高の腫瘍性を示し、山田班員の検索結果と非常に一致していた。

     

  2. 若い培養系の4NQO処理:

     上記のようにRLC-10株が自然発癌してしまったので、以後はこの株を用いず、若い、まだ株化には至らぬ肝細胞系を用いた。この場合、ラッテはまだ完全には純系化されていないJAR-2系を用いたので、系の名称にはRとLの間に“2”をはさんである。

       
    1. R2LC-1(JAR-2、F11生後4日♀)

       培養継代第2代(総培養日数87日)に4NQO(3.3x10-6乗M、30分、1回)の処理をおこない(1969-10-12)、2月12日現在で113日経過しており、TD-40瓶1本であるが、細胞の増殖を待っているところである。

       

    2. R2LC-2(JAR-2、F11、生後4日♀)

       継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。これも増殖待ちである。

       

    3. R2SC-1(JAR-2、F11、生後4日♀、皮下センイ芽細胞)

       継代第2代(総培養日数71日)に上記と同様の4NQO処理をほどこし、現在123日経過。TD-40瓶1本。目下増殖待ち。

     
  3. RLH-5・P3株の4NQO処理:

     この株はラッテ(JAR-1)肝由来で“なぎさ”で変異し、純合成培地内で継代されている亜株である。

     Ex0.#HQ-1

     3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、現在154日経過している。
     復元接種試験は#HQ-1:処理50日後に復元:104日経過で?/2、144日経過は1,500万個/ratに接種し9日後に親に食われてしまったので結果不明。
     対照:無処理RLH-5・P3は302日経過し0/2。



 

:質疑応答:

[佐藤]班長の所で自然発癌が1例出来てくれて、ヤレヤレ大安心ですよ。これで私の所の自然発癌がウィルスのためだと言われなくてすむでしょう。

[勝田]まだまだ・・・。岡山のウィルスの疑いは消えていませんよ。・・笑・・

[佐藤]私の所のデータでも4NQOを数多く処理すると細胞質に空胞や脂肪胞が多くなって、動物への復元成績が悪くなるようです。

[勝田]4NQO1回処理の場合、処理後培養を継続すると、処理された時変異した細胞がポピュレーションとして増えるのではないかと思います。それが何度も処理をくり返すと、その増え始めている変異細胞集団を叩いてしまう結果になるのではないでしょうか。

[佐藤]4NQOとDABとでは癌化の過程が大変違っているようですね。4NQOは1度処理しただけでもその後、悪性が進行するようですが、DABは変異した状態が割に安定していて、再処理によってその悪性度がcumulativeに増えてゆくのではないでしょうか。

[勝田]動物実験でも4NQOは1回の接種で癌を作ることが出来るが、DABは長期間与えなければなりませんね。ということはDAB発癌では発癌剤が或る程度、細胞内に蓄積されることが必要なのでしょうか。

[吉田]4NQOは直接にDNAに影響を与えますから、放射線に似た作用を持つと言えますね。アゾ色素にはそういう作用はないとされていますから、培養細胞に対する作用の違いは理に適っているようですね。

[山田]4NQO処理の追い打ちをかけた場合、復元成績からみると確かに動物の生存日数は長くなっていて、その点からみると悪性度は増していないように見えます。しかし接種した細胞の全部が悪性化しているのではない場合、3カ月とか4カ月とかの長期間かかって死んでいることから考えて、あまりはっきりした判定は下せないのではないでしょうか。少なくとも、細胞電気泳動のデータからみると集団としては悪性度の強いものが4NQO処理を重ねることによって増えてきます。

[勝田]4NQO処理によって少数の変異細胞が出来、徐々に変化がすすむので、動物にtakeされるようになるのか、又は少数の悪性化した細胞が出来、それが集団として増殖して動物にtakeされるようになるのか・・・。これはこれからの問題ですね。4NQO処理後の初期に軟寒天で変異細胞を拾うとか、細胞電気泳動で泳動値の異なるものを拾うとか方法を考えなくてはなりませんね。それから高木班員の宿題にしたと思いますが、悪性化した細胞に正常細胞を混ぜて復元すると、どういう結果になるか知りたいですね。

[高木]その実験は試みたのですが、実は正常細胞として混ぜたものが、自然発癌していたことが判って、全く無意味なことになってしまいました。・・笑・・

[佐藤]DAB処理の実験の場合は経時的にコロニーを拾って復元しておけば、うまくゆけばtakeされるコロニーとtakeされないコロニーとをはっきりさせられると思います。しかし4NQO処理では処理後早いうちにコロニーを拾ったとしても、クローンの増殖を待つ間に悪性化が進んでしまうから駄目ですね。

[山田]4NQOの毒性をうんと減らして、セレクションの可能性を低くする事を考えてみたらどうでしょう。

[勝田]マルチフォーカスかモノフォーカスかということを確かめる方法を考えてみたいですね。

[吉田]なるべく短期間に変異し、また変異までの期間も大体一定という系がほしいですね。しかし期間は一定にならないようですね。

[勝田]変異細胞の出現までの期間が、まちまちだということは変異説にとって有力なデータですね。それからかなり難しいことだとは思いますが、発癌剤の爪アトを見つけることも大切なことだと思います。

[佐藤]DAB発癌の実験で自然発癌の細胞とDABで発癌した細胞との間に、DABの消費について量的に違いがあるようです。動物にDABを与えて出来た肝癌もそうですが、組織培養で長期間DABを添加して出来た肝癌はDABを消費しなくなります。自然発癌の系はDABを消費します。

[吉田]それは癌と関係があるかどうか判りませんよ。耐性の問題かも知れません。

[勝田]それもこれからの問題ですね。



《山田報告》

 前回報告しましたごとく、抗原抗体反応によって惹起される細胞膜の表面の変化を、カルシウムイオン細胞表面吸着性の増減により検索しています。すなわちその基礎実験としてラット腹水肝癌AH62Fをドンリューラットに1,000万個I.P.に移植し、18日目に大動脈より採血、この血清中に産生されてゐる同種移植抗体を抗原細胞(AH62F)に種々の条件で反応させ、その細胞膜の変化をカルシウムを含むメヂウム内での電気泳動度の測定により検索してゐます。その二、三の成績は既に前報に書きましたが、改めて測定の標準誤差を附した表を示します。  この実験を含めて、以後すべての実験の対照としてaliquotの血清を温度処理したものを用いてゐます。即ち56℃30分温度処理により血清中に含まれる補体を非働化したものを対照としたわけです。補体はすべて正常ラット血清を0℃で3回AH62Fを加へて自然抗体を吸着した後のものを使用しています。

 結果はメヂウム内にカルシウムを加へると細胞膜の変化がより明確に検索出来ます。

 Antiserumによって細胞表面へのカルシウム吸着性が増加します。

 今回は更にpilotの実験を幾つか行いました。その成績を報告します。

     
  • 抗原抗体反応に於ける補体量:

     まず反応時の抗体量と表面の変化(カルシウム吸着性)との関係を検索したいのですが、抗血清中に含まれる補体量を簡単に検査出来ないので、その前に抗体を一定(血清0.5ml)にして補体量の増加に伴う細胞表面の吸着性の変化をしらべてみました。

     (図を呈示)反応時の補体量の増加と共に、カルシウム吸着性が増し、活性の抗血清を加へた細胞電気泳動度は著明に低下しました。しかし非活性化した血清を加えた際も、その量の多少により泳動度は変化し、非特異的蛋白の細胞表面への吸着も一部にはあるものと思われます。

     

  • 抗血清のSpecificity:

     この抗AH62F血清のAH62Fに対する特異反応性を検索する意味で、同種のラット腹水肝癌AH414と抗AH62F血清との反応を検索してみました。AH414はAH62Fと同様な発生起源を持ち、同様に単離状にラットの腹腔内で増殖する移植性の腹水肝癌細胞です。抗AH62F血清によりAH414細胞のカルシウム吸着性は全く増加せず、抗原であるAH62Fに対してはカルシウムの吸着を増加させています。この実験ではcomplementは加へてありませんので、カルシウム吸着の増加は前実験程大きくはありません。この成績で考へられるのは、AH414の泳動度の測定誤差がAH62Fのそれより大きいのですが、既に以前に充分なる検索の結果、AH414の泳動度のバラツキがAH62Fのそれにくらべて極めて大きいことが判明していますので、免疫血清の影響がその測定誤差にひびいて居るとは思えません(実験毎に表を呈示)。

     

  • Bovine albumine-Antiserum Complexによる補体の吸収:

     温度処理による補体の非活性化が果たして完全なものか、或いはこの処理により抗体までも非活性化しているか?と云う事を検索する意味で、補体をBovine albumine-Antiserum Complexにより吸収した抗AH62F血清の影響をしらべてみました。これはablumineに対する抗体をモルモットに作らせ、その抗体にalbumineを結合させたものを(固体)、0℃の条件で抗AH62F血清に混合して補体を吸収させ、直ちに遠沈してこのComplexを除いたものです。結果は、Bovine albumine-Antiserum Complexの方が温度処理にくらべて完全に補体を吸収する様です。少くとも温度の処理により抗体を非活性化することはない様です。またこの実験に用いた細胞の色素透過性をニグロシンにより検索した所、いづれの細胞も全く染らず、従ってこの細胞電気泳動法による検索は所謂intoxication testより精度が良ささうです。

     これら実験はすべてpilotですので、改めて細かく基礎実験を行ひ、この方法の精度、及び他の方法との比較についてしらべてみたいと思ってゐます。

     

  • 4NQO処理後のRLH-5・P3株(HQ系)の其の後の変化:

     前報にRLH-5・P3株が4NQO処理後徐々に変化し、殊に前回はシアリダーゼに対する感受性が増加して来たことを報告しましたが、処理後91日目に写真記録式細胞電気泳動法により検索した結果でも、その変化は著明です。一般に大型細胞が増加して居ます。しかしシアリダーゼの感受性の増加が特定の大きさの細胞のみに出現すると云うCQ系のごとき変化はない様です。従ってCQ系のごとく直ちにこの変化を悪性化に結びつけるべきか否か?解りません。

     この細胞系の変化を抗原性の面からも調べてみました。まだ基礎実験が固っていないので、ほんの試みにすぎないのですが、RLH-5そのものの抗原性が本来のラット肝細胞とかなり異ってゐるのではないかと云う興味もあるので検索してみました。方法としては対照細胞であるRLH-5・P3(元来JAR-1ラット由来)を1,000万個JAR-2の皮下へ移植して18日目に採血された(医科研)ものを貰ひ、RLH-5・P3及びその変異株HQ1、HQ1Bに反応させてみました。(抗血清0.5ml、補体0.1mlに対し各細胞200〜300万個、37℃10分接触)

     その結果をみますと、いづれの細胞もactiveな抗血清の作用により強く反応し、あたかも異種抗血清を反応させた様な形態を示しました。しかし計算してみると抗血清による細胞のカルシウム吸着性の増加は抗原細胞であるRLH-5・P3と、HQ-1との間に差がないか、或ひは後者に大きく、HQ-1Bのみが若干カルシウム吸着性の増加が少く抗原性が異ると云う結果が得られました。しかしこの結果はなほroughなもので、更に細かく分析する必要があり、決定的な成績とは云へませんが、どうやらRLH-5・P3の抗原性はJAR-2とは異ると云うことは云へさうです。この成績を手がかりとして、これから発癌に伴う抗原性の変化も徐々に検索して行きたいと思っています。



 

:質疑応答:

[難波]酵素処理で細胞はばらばらになりませんか。又死ぬ細胞はありませんか。

[山田]ばらばらになったり、死んだりする細胞はありません。それからシアリダーゼ処理で荷電がおちるということが、シアル酸の減少と、ダイレクトに言えるかどうか判りませんね。

[難波]細胞膜だけを分離して泳動度をみるとか、核だけにして泳動度をみるとかは出来ませんか。

[山田]膜の分離というのは複雑な操作が必要で、むつかしいですね。裸核のデータは持ってはいますが、裸核にするまでの操作が泳動度に大変影響します。

[藤井]同種抗体の影響は抗体の濃度を変えると、どうなりますか。

[山田]まだ、詳しいデータは持っていません。

[藤井]RLH-5・P3の抗血清はどうやって作りましたか。

[高岡]RLH-5・P3はJAR-1から出来た系なので、JAR-2の腹腔内へ1,000万個/rat生きたままで接種しました。

[藤井]CulbはJAR-2にもついてしまいます。ウィスター系ならすぐ抗体が出来るのですが、同じJAR-1から出来た系でもなぎさ変異の細胞は抗原性が違うようですね。
抗原抗体反応の感度を細胞電気泳動法と従来の色んな方法と比べてみてどうですか。

[山田]トリパン青による生死判別でのデータよりはずっと感度が高いです。
自然抗体を吸収するのはどうすればよいでしょうか。

[藤井]RLH-5・P3の出来た系−JAR-1のラッテ肝で吸収するのがよいでしょう。

[吉田]マウスではH2抗原で系特異抗原がずい分調べられていますが、ラッテについてはあまりデータがありませんね。この方法で調べられませんか。

[山田]間接的には調べられると思います。



《難波報告》

 N-15:4NQOによるラット胎児培養細胞の癌化に、4NQOの処理回数が重要なのか、培養日数が必要なのかを検討

 これまで、私共のところでのラット培養細胞を4NQOで癌化させる実験では、細胞を10-6乗M4NQOで頻回に処理しなければ発癌しなかった。即ち、未株化全胎児、肺細胞の場合は最低20回、株化した肝細胞を使用した場合は最低5回の処理をしなければ細胞は癌化しなかった。

 今回は、全胎児培養細胞(RE-7)を使用して、細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いたのか、処理はそれほど必要でなく培養日数を重ねることの方が重要であったのか、の2点を検討したので報告する。(図を呈示)9、12、15、20回4NQO処理当時の復元では造腫瘍性のなかった細胞を、更に培養を続け培養216〜226日目にそれぞれの細胞を復元した。なお、この系では4NQO処理24回培養165日のものを復元すると、進行性の増殖を示す可移植性の腫瘤の形成が認められている。

 結果は9回、12回処理のものは造腫瘍性がなく、15回のものでは3匹中1匹に復元後2カ月後に接種部位の皮下に母指頭大の腫瘤の形成があるが、現在6カ月後腫瘍は退縮の傾向を示している。20回処理のものでは1/2に動物は腫瘍死した。以上のことから結論されることは、私共の発癌実験系では細胞の癌化に4NQOの処理回数が効いていることが判る。培養細胞の癌化の機構を考える場合、発癌剤を頻回に処理したのでは、その機構を解析する際複雑になるので、今後は発癌剤の処理回数を少くするよう努力したいと考えている。

更に、以上の現象を、4NQO処理回数を増し、細胞が癌化に近づくにつれ、変異集落の出現がどの様になるかを検討した。(表を呈示)結論されることは

     
  1. 集落形成率は4NQO処理によりやや上昇する傾向にある。  
  2. 細胞の造腫瘍性と変異集落の出現とはよく一致している。

の2点である。

 では、はたして変異集落は造腫瘍性を有する細胞よりなるかどうかが問題になる。そこで変異集落の腫瘍性の有無を検討した。4NQO処理24回の培養細胞より5コの変異集落をクローニングして動物に復元した。復元に使用した動物は、生後2日目の新生仔ラットを使用し、各集落細胞の悪性度を比較するために、C-3以外は同腹のラットを使用した。その成績(表を呈示)から結論されることは

     
  1. 変異集落を形成する細胞に造腫瘍性があることが明白になった。  
  2. 平均生存日数から各変異集落間には悪性度に差異がある。

以上のことから、間葉性由来と思われる細胞を使用して、発癌実験を行う場合、変異集落の出現破砕棒の癌化の指標になると考えられる。



 

:質疑応答:

[吉田]クロンの復元についてですが、もとの培養が悪性化したことが判ってからコロニーを拾ったのですか。それとも悪性化以前に拾ったのですか。

[難波]悪性化していることが判ってからです。

[勝田]軟寒天で拾ったのですか。

[難波]液体培地です。カップ法で拾いました。

[山田]細胞集塊の実験についてですが、細胞集塊の出来ることをどう考えますか。

[佐藤]どうして出来るのかは判りません。実験的にみて胎児の細胞は旋回培養で細胞集塊を作ります。成ラッテの肝細胞では細胞集塊は出来ません。そして悪性化したラッテの肝細胞も細胞集塊を作ります。悪性化ということが未分化とつながるのかとも考えています。細胞集塊を作らせ、その組織像をみることによって、悪性化の過程を追えるかと考えて始めた仕事です。

それから、胎児から出発したデータと、あとの肝細胞のクロンから出発したデータを混同しないで理解して頂きたい。クロンは株になったものから拾っています。もっと若い培養からクロンを拾いたいと努力していますが、難しいですね。

[勝田]4NQO処理のあとの形態異常は必ずしも発癌剤のせいと言えないのではないでしょうか。増殖障害に伴うごく一般的な所見のようです。

[高岡]クロン化してからの染色体数のバラツキが大きすぎるように思いますが、1コの細胞から出発しても結局あんなにバラツイてしまうのは何故でしょうか。

[佐藤]細胞自体のせいか、培地のせいか判りませんね。例えばエールリッヒの株などは、少数細胞をまいて100%コロニーが出来ます。そしてそれぞれ染色体数の違う、又きれいなピークを持ったクロンがとれるのです。それから継代法によっても細胞の性質の安定度が変わりますね。



《安藤報告》

 4NQOによるL・P3細胞DNAの“二重鎖切断”の再結合について。

 昨年来報告して来たようにL・P3、RLH-5・P3のDNAの4NQOによる二重鎖切断は回復培養によって再結合される。一方、堀川班員によるとEhrlich、Lいずれを使っても再結合はされないという。そこで現在この点の矛盾を解くべく実験を行っているが、先ず今回はL・P3細胞での結果の再確認実験の結果を述べる。

 (図を呈示)4NQO 10-5乗M、30分処理直後にはDNAはトップから1/3に来ているが、回復培養24時間後には再びボトム近く迄移動し、大きなDNAに再結合している事がわかる。なおこの再結合の程度は少しずつ実験によって異るが、再結合が起る事は確実である。但しこの再結合が厳密な意味でDNAのデオキシリボース、リン酸結合の再結合であるか否かについては目下検討中である。



 

:質疑応答:

[勝田]4NQO処理によるDNAの切れ方は、何時も同じ大きさに切れますか。

[安藤]何回か同じ実験をくり返しましたが、大体一定の分子量に切れるようです。

[勝田]同じ方法で何回もくり返すだけでなく、別の方法も使って確かに何時も同じ大きさに切れるのかどうか、確かめてほしいですね。

[吉田]4NQOはDNAを切っているのでしょうか。それともリンカーのような物を取り除いているのでしょうか。あんなに、きれいにピークを作るという事は、でたらめでない切れ方をしているのでしょうね。4NQOの濃度を変えると切れる大きさは違ってきますか。

[安藤]違ってきます。

[佐藤]4NQOの濃度を上げると切れ方が小さくなる訳ですね。そこは判りますが、次に回復出来なくなる限度があるなずですね。この実験法でそこが判ると、悪性化の一番効率のよい濃度を知る事が出来るのではないでしょうか。

[吉田]DNAが出来るだけ小さく切断されて、しかも修復の出来る可能性もあるという濃度ですね。

[安藤]しらべてみる必要がありますね。

[吉田]処理後、24時間の分析は、細胞の一部がこわれ一部は増殖しているという状態のものについて、調べているのではありませんか。

[安藤]顕微鏡で調べたところでは、こわれた細胞は見当たりませんでしたが。

[佐藤]DNAに4NQOが結合したような形の場合、4NQOはDNAの修復の障害にはならないものと考えますか。

[安藤]DNAの修復そのものには障害にならないかも知れませんか、それが次々とサイクルをまわるにつれて変異の原因になるかも知れません。

[吉田]4NQO処理によって切断されたDNAの二重鎖が、24時間培養すると再結合してもとの大きさ近くになるということは判りましたが、もう1サイクル分位追ってみないと、その先細胞がどうなるかということは判りませんね。

[勝田]それから堀川班員とのデータの違いを解明するには、L・P3を血清培地で培養して、4NQO処理をしてみれば良いのではありませんか。



《高木報告》

     
  1. NG発癌実験系 NG-11の対照細胞の自然発癌について:

     NG-11、1968年4月2日に生後3日目のWKA rat肺をprimary cultureし、以後NGを2時間ずつ7回作用させた処理群と対照群とに分けて継代して来たもので、最終処理後288日目にWKA newborn ratに200万個細胞を接種して、95〜130日のlatent periodをもって3/3に腫瘤を生じた系である。

     以後この系の復元実験ではすべて100万個細胞をWKA newborn ratの皮下に接種した。

     対照細胞は継代を重ね、培養開始後289日目、32代、および318日目、36代でそれぞれ復元したが、0/1、0/3でいずれも腫瘤を生じなかった。その後、430日目、52代にNGの再現実験を行うべく、この対照細胞の一部を継代し、3日後、NG 10-4乗Mで2時間細胞を処理し、処理および対照群と分けて継代を続けた。(NG-21) 535日目にはさらに再現実験を行うべく対照細胞を継代し、その一部を同様NGで処理した。(NG-22)

     1969年9月30日、NG-21の処理細胞の腫瘍性発現を検すべく、4匹に復元したところ1/4に腫瘤を生じた。しかし同時に培養開始後546日目に復元した対照細胞も1/2に腫瘤を生じた。ここで、はじめてNG-11系の対照細胞の自然発癌に気付いた訳である。このNG-21の処理細胞は、さらに37日後の11月6日にも復元したが、0/2で未だ腫瘤の発生をみない。一方同時に、すなわち培養開始後583日目に復元した対照細胞は、1/2に腫瘍を作っている。また自然発癌がおこる以前と思われる535日目に継代し、3日後にNG処理した細胞(NG-22)は処理後65日目の11月26日に行った復元実験成績では、今日までのところ0/4で腫瘤を生じていない。

     なおこれら3系列の細胞の間に形態学的差異は認められない。私共の研究室で、rat細胞の自然発癌をみたのははじめてである。当研究室ではvirusは扱っていないが、その可能性も一応考慮して検討しなければならないと思う。

     次に復元実験と大体平行して行ったsoft agarの実験で、これら細胞の間に興味ある知見がえられた。すなわち対照細胞では自然発癌がおこる以前と思われる培養開始後430日目および458日目ではCFEはそれぞれ0.02%、0.08%であり、おこった後の611日目でも0.08%と差程の違いはみられなかったが、6月10日にNG処理したNG-21では、処理後24日目には0.24%、158日目(培養開始後616日)には2.4%と漸次CFEは上昇の傾向を示し、また9月22日に処理したNG-22でも処理後65日目(培養開始後603日目)には3.5%と明らかなCFEの上昇をしめした。

     soft agar内に作ったcolonyの大きさは対照群ではすべて割に大きく、処理細胞のそれは小さく、やっと肉眼で見える程度であった。さらに経過を追って検討の予定である。

     

  2. Argan culture−培養条件の検討:

     2-3の組織につき、温度をかえ、気圧をかえ、ガス組成をかえて培養条件を検討中である。その一部は先の月報で報告したが、班会議では各条件下の組織の状況をスライドで供覧し、御批判をあおぎたい。



 

:質疑応答:

[梅田]器官培養用の組織は、どういう方法で薄切りにしていますか。

[高木]マイクロチョッパーという道具を使っています。

[勝田]チョッピングの場合の培養法は・・・。

[高木]普通の器官培養と同じように培養しています。

[勝田]圧をかけるにはどうしていますか。

[高木]三春製作所に特別に作らせました。高圧滅菌器のような構造のものを使っています。

[藤井]高圧がよいのは、組織片の中まで培地や気層が滲みこむためですか。

[高木]そうでしょうね。

[難波]温度の低い法がよいのは、代謝が低くなるからでしょうか。

[高木]そうだろうと思っています。インシュリン産生が低温の場合どうなのか調べてみたいと思っています。



《梅田報告》

 目下培養中の長期継代例をまとめて累積増殖カーブを画いて比較したので、それについて述べる。

     
  1. (実験番号T#150)培養開始1969年5月31日。

     ラット(JAR-2)生後3日目の肝を細切し、6cmシャーレに移植片として植えついだ。初代の増殖は良好で9日後の6月6日に継代。その後変性していく細胞があり、継代は79日後の8月27日更に65日後の10月31日に行った。その頃より多角形でやや細長い細胞の増殖が安定して認められる様になり、2週間毎に約2〜3.5xの増殖を示す。染色標本、位相差顕微鏡写真で観察すると、細胞質がひろがった多角形細胞で、核は丸く、時に細長い細胞である。累積カーブとして(実験毎に図を呈示)初代だけ細胞数が不正確なので、2代目のものから累積すると、4〜5代目(200日)頃より増殖がやや早くなっていることがわかる。

     

  2. (実験番号T#170)培養開始は1969年7月26日。

    JAR-1とJAR-2のF1の♀、生後3日目の肺をトリプシン処理して植えたもので、初代は8月4日、9日後に継代出来た。その後一進一退の増殖を示し、11月20日108日後にやっと継代出来る程度になった。しかし、その後の増殖は非常に急速で、10日で5倍近くの増殖率である。形態的には、上皮性の細胞を繊維芽細胞様の細胞群がとりまいて境している様な感じを与える。上皮性の細胞は肝培養細胞から得られた細胞群と良く似ている。累積カーブで見ると培養150日目より急激な増殖を示す様になったことが歴然とわかる。

     

  3. (実験番号T#186)1969年8月23日に生後2日の♂、JAR-2ラットの肝をいつもの如くトリプシン処理、スプラーゼ処理した単層培養を開始した。3日後からN-OH-AAF 2.5x10-5乗M培地に変え、更に3日後無処理培地に戻した。その後、無処理培地でずっと培地交新を行っていたが、増殖は一進一退で118日後の12月22日に初めて継代可能になった。その後の増殖は急速で、2週間で5倍以上の増殖率を示す。形態的には多角形の細胞で占められている。

     

  4. (実験番号T#194)1969年9月8日、生後4日目♂のラット肝(JAR-2)からいちもの如く単層培養を開始した。3日後9月11日に4HAQO 10-5乗M培地に変え、2日後に障害がかなり強く認められたので正常培地に戻した。以後正常培地で培地交新を行っているが、11月20日第1回のpass、12月30日に第2回のpassが可能になり、その後かなりconstantな増殖を示している。2W間で約3倍の増殖率である。これに対しコントロールは12月9日似第1回のpassが可能になり、更に本年2月5日に3代目のpassを行った。累積カーブはtreatedとcontrolとで極端な増殖率の差が認められる。形態的には処理群は多角形の細胞で占められているが、コントロール群はfibroblasticな細胞が主体をなしている。

     

  5. (実験番号N#29)ハムスター胎児細胞に3HOA 10-3.6乗M培地で2日毎3回、培地交新を行い、その後無処理培地で継代を続けている系が、累積カーブでわかる様にコントロールと明らかな増殖率の差が現れてきた。

     処理群は始めやや増殖が遅かったのに2代目よりconstantになったのに対し、コントロールは50日頃より一進一退の増殖を示す様になった。途中でハムスターの頬袋に注入して、移植性を獲得しているかどうか見ているが、今の所腫瘍発生は認められない。形態的には処理群は、やや小型でfibroblastic→polygonalの移行型の様な形をとっているが、コントロールは、細胞質の先がみだれた、ひろがったfibroblastic細胞である。

     以上の様な細胞質について以後、cloning、生物学的性状の検討、無処理細胞には更に発癌剤投与を行っている計画をたて、実行に移った段階である。

     

  6. ラット肝のprimary cultureにDAB、N-OH-AAFを投与すると肝実質細胞に特異的な脂肪変性の生ずることは、今迄度々述べてきた。更にLuteoskyrin、含塩素ペプタイド、Aflatoxinの様な肝障害を来すと同時にhepatocarcinogenic mycotoxinsでも脂肪変性が、肝実質細胞に強く起ることも述べた。

     今回は更にRubratoxin(Pen.purpurogenineからとれたhepato-and nephrotoxicであり、更にproliferating cell damegeも惹起する)。Penicillic acid(かなり広範に存在するmycotoxinでmitotic stageでとめる作用がある。hepatotoxicityはない)。Patulin(Asp.ochracene等かなり広範に存在するMycotoxin)で非常に強い毒性をもつ)について検討を加えた。(表を呈示)その結果から少くともhepatotoxic specificの物質は肝実質細胞が特異的に侵されることがわかる。Rubratoxinはhepatotoxicでもあるがproliferating cellにもtoxicなので障害性は各種細胞によって差が出ていない。



 

:質疑応答:

[安藤]ペニシリックアシドとはどういうものですか。

[梅田]ペニシリンの分解産物といったものと関係があるもののようです。

[高岡]株化したものの染色体数はわかっていますか。

[梅田]染色体やダブリングタイムについて、これからしらべる予定です。



《藤井報告》

 Mixed hemadsorption法によるCulb-TCとRLC-10細胞の抗原差の検定;吸収抗血清による反応。

 前回の月報で、WKAラットにCulb細胞を接種して得た同種抗血清でmixed hemadsorptionをおこなって、Culb-TC細胞がその変異前の株であるRLC-10より有意に強い反応を示したことを報告した。

 今回は、ラット抗Culb血清(WKA)を、Culb腫瘍細胞の由来したJAR-1系ラットの肝細胞で吸収し、吸収後なおCulb細胞に反応する抗体が残っているかどうかをしらべた。

 抗血清の吸収:WKAラット抗Culb血清(Fr16A)、0.3mlにあらかじめ冷しておいた(氷水中)洗滌ラット肝細胞(packed cells)0.15mlを加え、0℃、60分間、ときどき揺りながら反応させ、その後遠心して(2,500rpm、30分間)得た上清を吸収血清とした。  Mixed hemadsorption(Exp.012870):抗血清が少いのでマイクロ法を用いた。microdisposo-trayに1日培養したCulb-TCとRLC-10について、前号に記した方法でmixed hemadsorption(MHA)をおこなった。

 (表を呈示)成績は、Culb-TC細胞を標的細胞とする成績は、抗血清を正常ラット肝で吸収しても、吸収前の抗血清とほぼ同程度のMHA反応を示している。一方、RLC-10細胞を標的細胞とすると、抗血清、1/3、1/9稀釋のいづれにおいてもMHA反応の低下がみられた。すなわち、ラット抗Culb抗体(群)には、正常ラット肝組織では吸収されない抗Culb抗体のふくまれていることが示唆される。

 RLC-10細胞に対する反応が、抗血清の吸収後にもなお残っていることには、次の2つの理由が考えられる。1つは、すでに勝田教授から報告があったように、この株はspontaneous transformationをきたしており、正常ラット肝組織で吸収されにくい抗原をもっているかもしれないこと。もう一つの説明は吸収が、上記の0℃、60分館では不充分であり、特に反応後の遠心が2,500rpm、30分間であることは、溶解細胞片が除去できていない可能性がつよい。(写真を呈示)吸収血清でのMHAでは、indicator red cellsが標的細胞の無いガラス面に附着していることが多く、反応の読みを妨げる、これは抗体を結合した溶解細胞片がガラス面や細胞に附着しその上にMHA-反応がおこった可能性がつよい。

 以上の成績や、同種抗Culb血清で示唆された抗Culb-TC、RLC-10細胞の反応の強弱、異種抗Culb血清で示唆された抗Culb抗体の存在などは、未だなお決定的ではないが、in vitro chemically induced malignanciesの抗原を示すものである。

 今回の実験で、抗Culb血清のCulb細胞による吸収も試みたが、用いたCulb細胞は凍結保存していたもので、吸収操作後も細胞溶解が強く抗原を除くことが不充分であったので、除外した。同種抗血清の量が少く、吸収後の超遠心ができなかったが、この点の検討と、同種抗血清をI125あるいはI131で標識し、そのCulb-TC、RLC-10による吸収実験と追加交叉吸収実験を準備しています。



 

:質疑応答:

[勝田]血清を沃度のアイソトープで標識して使う場合、フリーの沃度を洗い落とすことなど、よく気をつけてください。

[藤井]はい。とにかく+−でなく数字でデータを出したいのです。

[勝田]細胞についた赤血球を集めて溶血させて数値に出来ませんか。

[藤井]そういう方法を使っている人もあります。

[高木]吸収する時、細胞はこわさなくてもよいのですか。

[藤井]今みているのは細胞表面の抗原をみているので、細胞をこわすと、又違うものが出てくると思います。

[難波]トリプシナイズしても、又変わってくるでしょうね。

[高木]吸収は0℃でする方がよいのですか。

[藤井]血清を非働化していないので、補体が働かないようにと考えて0℃で反応させています。

[難波]吸収にラッテの胎児の肝細胞を使ってみたらどうでしょうか。

[藤井]吸収についても色々考えていますが、何しろ抗体値の高い血清を作ることが先ず必要で、それが又なかなか難しいのです。CulbはJAR-2系のラッテでは抗体値の高い血清が出来ないようです。



《三宅報告》

前の班会議でのべたT10というd.d.系マウスのEmbryonic cellのtransformしたと考えられる系について継代9代及び11代目のクロモゾームの分布をしらべた。(図を呈示)Modeの1つは60に、1つは64にあった。Karyo typeの分析を施行中である。なおこの細胞の増殖曲線をみると、(図を呈示)7日間で約48倍となり、前にAuto radio graphyで求めたtg=23hという数字とよく一致することを知った。

 またこの細胞のCell suspensionを作り、Sponge matrix cultureを行い、その間葉性の組織学的性格を知りたいと思ったが、Spongeの中心間隙にしみこんだ細胞は変性し、この試みの第一は失敗に帰した。



 

:質疑応答:

[難波]スポンジの大きさはどの位ですか。

[三宅]5ミリ〜7ミリ位の角です。

[藤井]培地は何を使われましたか。

[三宅]こうし血清+Eagle MEMです。

[高木]tumorはスポンヂの中へはいって行ったのですか。

[三宅]それは、はっきりわかりません。始めに押し込んだ分かも知れません。

[高木]suspensionの場合のやり方は・・・。

[三宅]なるべく濃いcell suspensionをスポンヂェルにしみ込ませて培養しました。

[梅田]培養の初期にはスポンヂの中に生きている細胞が居たわけですね。

[三宅]そうだろうと思いますが、途中経過を追っていないのでわかりません。

[難波]繊維は銀染色だけでみて居られるようですが、もっと他の例えばワンギーソンとかマロリーを染めてみるとよいと思います。



《安村報告》

 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み:

 In vitroのchemical carcinogenesisの研究のこれまでの実績(みなさまの)にわたしなりになにかcontributeしようと思って始めたのが初代培養からのクローン化の仕事です。できるだけ実験条件をsimpleに、variablesを最少限にする出発点は細胞の側からいえばpure cloneでありましょう。この仕事は井上幹茂君がまだ医科研癌細胞研究部におられたときに始めたものです。

 “思いは高く暮らしは貧し”のたとえの如く、これまで得られた結果はかんばしくありません。cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです。ここでは経過報告ということになります。

 (1969-8-4) 7月29日生れの(つまり生後6日めの)JAR-2(F11)の♂♀1ぴきづつの肝が出発材料です。肝を細切して、PBSで洗ってから2,000u/mlモチダトリプシリンを加え、10分、37℃におき、mediumを加え遠沈、上清をすて、沈渣にスプラーゼを1ml加え、遠沈、mediumを加えてメッシュを通してから、3たびmediumで洗い、細胞浮遊液をつくった。細胞浮遊液をしばらく(2〜5分)放置し、上清部分を♂、♀由来のものそれぞれパストゥールピペットで一滴ずつプラスチックシャーレ(径50mm)にまいた。(♂由来4枚、♀由来4枚)、もう1群は細胞浮遊液0.5ml/plateのものを♂由来4枚、♀由来4枚作った。mediumはEagle MEM+CS 10%。

 (1969-8-16) 12日めになって♂由来の細胞浮遊液1滴の群の1枚のシャーレに径約0.5mmのEpithelialのコロニーが1コ発見された(シャーレをくまなくしらべたがこの1コ以外に細胞コロニーはみつからなかった)。

 ♀由来の同群のシャーレ1枚に2コのコロニーがみつかった。1コはEpithelialで他の1コはfibroblast-likeであった。これらのコロニーをステンレススチールのカップで拾いあげ、♂由来のものから4枚のシャーレにまき、♀由来のものから3枚のシャーレにまかれた。

 (1969-9-6) その後3週たって♂由来の4枚のシャーレのうち1枚−かりにE1系とした−から5コのepithelialの細胞コロニーが発見された。  ♀由来のものではEpithelial colony(かりにE2とした)からは3コのepithelial colonysが出現し、fibroblast-likeのものからは1コのコロニーもできなかった。(図を呈示)

 そこでそれぞれのコロニーを再び拾いあげ、E1-1コロニーからE1-4までそれぞれ4枚のシャーレにまかれた。E2-1、E2-2はコロニーが小さすぎたので1本ずつの短試にいれ、0.5mlのmediumを加えて培養した。E1-5コロニーも小さいので1枚のシャーレへ、E2-3は3枚のシャーレにまかれた。

 (1969-9-27) その後3週めにE1-2のシャーレ1枚より4コのコロニーをpick upし、再び別々のシャーレにまかれた。

 E1-2-1、E1-2-2、E1-2-3、E1-2-4と假の名を与えてそれぞれ2枚ずつのシャーレが作られた。

 (1969-10-4) その後1週それぞれのシャーレでの細胞の増殖がよく、E1-2-1の1枚のシャーレから短試に移されHepro-1、E1-2-2の1枚のシャーレから短試に移されHepro-2、と名付けられた。E1-2-3の1枚のシャーレから5コのコロニーが拾われHepro-3-1、3-2、3-3、3-4、3-5、べつの1枚のシャーレから2コのコロニーが拾われHepro-3-6、3-7、と名付けられた。E1-2-4の1枚のシャーレからは2コのコロニーが拾われHepro-4-1、4-2と命名された。(図を呈示)

 そのごは原因ははっきりしないが増殖が止って今日に至っている。



 

:質疑応答:

[勝田]3代目のものを一部試験管に移しておいたらどうですか。

[安村]たいていシャーレにまく時、同時に一部分試験管に入れておくのですが、試験管の方は増殖してくれませんでした。

[佐藤]私も初期の培養の肝細胞からクローンを拾おうと何回かやってみましたが、なかなかうまくゆきませんね。1コだけ釣ると増え出しません。又コロニーが出来ても何故かトリプシンではがれなくなります。

[安村]細胞が何故かうすくなってしまいますね。



《吉田報告》(概略)

 バラバラにした染色体を、異種の培養細胞に取り込ませ、そこで遺伝因子としての機能を発現させ得るかどうか試みている。材料としてはハイブリッドを作る系としてよく使われているチミヂンカイネースを持たないマウスの細胞へ人由来の染色体を取り込ませようとしているが、なかなか染色体を取り込んでくれない。いろいろ実験して今までに判ったことは、染色体にプロタミンをまぶしてやると細胞へ取り込まれる効率がぐっとよくなり、又細胞内で消化されにくい。



 

:質疑応答:

[安藤]フリーなDNAでは変異を起こせませんか。

[吉田]この種の実験に始に手をつけた癌センターの関口君はDNAでも変異が起こると言っていますが、私としては矢張り丸ごとの染色体の形のままで取り込ませたいのです。

[安藤]細胞融合の場合は一緒になった染色体の片方だけが消化されてしまうということは少ないのに、染色体レベルで取り込ませると、取り込まれた染色体がすぐ消化されてしまうのは何故でしょうか。

[吉田]染色体をバラバラにすると、どうしても染色体がダメージを受けます。そのために取り込まれてすぐ消化されてしまうのだろうと思います。染色体まで持ってゆかずに裸核の状態で取り込ませてみようと考えています。染色体にヒストンをまぶして取り込ませることも計画しています。

[安村]取り込む方の条件と取り込まれる側の条件とがインタクトだと共存するが、取り込まれる方が壊れていると異物として消化してしまうということですね。

[安藤]核として分離すれば、インタクトだという考え方でしょうが、核が分離されたとき、すでにDNAが分離されているというデータもありますよ。

[吉田]でも染色体だけにするより、ましでしょう。又取り込まれた染色体が消化されてしまわないようにライソゾームを持たない動物の細胞を培養して使ってみることも考えています。



《堀川報告》

 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(19)

 前報では温度処理した細胞を用いることにより、細胞内に取り込まれた4-HAQOがどうも第一義的にDNA鎖の切断に関与しているというだめ押し的な結果を報告したが、これに続いてでは45℃で30分間温度処理された細胞(つまり生存能を失った細胞)を4-HAQOで処理してDNAを切断させ、その切断されたDNAが再結合し得るかどうかを知ることは非常に興味があることである。

 こういった目的から今回は温度処理した細胞を1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理することにより、Single strand breaksを誘起させ、これがincubationと共に再結合するかどうかを検討してみた。(Double strand breaksは私共の実験では再結合しないことがわかっているのでこれはあえて実験に使用しなかった。)

 今回は学年末で何やかやと時間を雑務にとられ、図表をおみせ出来ないが、前述の温度処理後4-HAQOによって誘起されたsingle strand breksは4-HAQO処理しただけの対照区と殆ど同様に再結合することがわかった。ではこの温度処理をすることによって細胞内のactivityがどの様に変っているかを調べるため、細胞にH3-leucine、H3-Uridine、H3-Thymidineを取りこませ経時的に細胞を取出し、蛋白、RNA、DNAへの取り込みを調べた結果、温度処理(45℃、30分間)した細胞でも処理後少くとも24時間以内は正常細胞に比較して非常に低い活性ではあるが、これらの分劃への前駆体の取り込みのあることが分かった。

つまり以上の結果をひっくり返して考察すると、4-HAQOによって誘起されたsingle strand breaksの再結合のためには、その細胞は将来死すべき運命にあろうとどうであろうと、そこで既に内存する僅かのenzyme活性によって再結合は起り得るものであることを強く示唆しているように思われる。勿論こうした細胞内の分子的機構はたんに4-HAQOで誘起されたsingle strand breaksの再結合の場合にのみ考慮すべき現象ではなくて、莫大なX線の致死総量を照射して生じるsingle strand breaksの再結合の際にも当然あてはめて考えねばならない現象であることは言うまでもあるまい。次回には図表入りで詳しく説明したいと思います。