【勝田班月報:7005:培養細胞8種のT抗原】《勝田報告》ラッテ及びサルの腎細胞の培養内4NQO処理:ラッテとサルの腎臓細胞の培養に、4NQOをかけ、そのtransformationをしらべた。これは当研究室にきて仕事をしている昭和医大泌尿器科の落合元宏君の仕事である。
:質疑応答:[勝田]この実験は膀胱を材料にしてまとめる計画だったのですが、膀胱から分離した細胞を長期間培養することが仲々難しくて、とうとう腎臓に乗り換えた訳です。[難波]私の所でも腎臓を使って発癌実験を始める計画をもっています。腎臓はadultでも培養できますから、片方だけとって培養しautoへ復元できるという利点がありますね。 [梅田]ラッテ由来の系でpile upしている像がみられましたが、あの細胞は上皮性でしょうか。 [勝田]上皮様細胞です。 [難波]薬剤の毒性と発癌性との関係はどうなっているのでしょうか。6カルボキシ4NQOは発癌性があるのに毒性がないのですね。 [勝田]そこが面白い所だと思います。6カルボキシ4NQOで処理した系も早く復元してみる予定でいます。 [安藤]山田正篤先生の所で、ハムスター胎児細胞を6カルボキシ4NQOで処理して悪性化に成功したというデータを出しておられますね。 [堀川]4HAQOも毒性は弱いが、発癌性は強いものの一つですね。 [安藤]6カルボキシ4NQOはDNAを切らないのですね。10-4乗Mという濃度でもDNAの切断を起こしません。それから4NPOは毒性はないようでしたが、DNAの切断は起こします。 [梅田]DNAレベルでの切断では、切れるか切れないかの問題だけでなく、そのあと回復出来るかどうかの問題もあるのではないでしょうか。 [堀川]ブレオマイシンのように物すごく小さく切ってしまうものもありますが、そういう特別な例以外はたいてい回復すると思いますね。 [志方]腎臓に出来る癌は動物の年齢によって種類が違うということはありませんか。使ったラッテの年齢は・・・。 [落合]ラッテは生後17日の乳児を使いました。それから、腎臓癌は今の所、年齢に関わらず尿細管から発生するということになっています。此の実験の場合、使った細胞が何に由来しているものか同定する目的で、水銀ネオヒドリンの取り込みをオートラヂオグラフィでみてみる予定でいます。 [勝田]先ず無処理の対照群についてしらべてみるべきですね。 [落合]培養を開始して間のない初代培養を使って取り込みの基礎実験を始めています。培養内でどういう形態の細胞が取り込むのかを知りたい訳です。水銀ネオヒドリンは癌化した細胞にも取り込みが見られるということです。 [安村]水銀ネオヒドリンについてin vitroでの実験はありますか。 [落合]発表されているのはin vivoでのデータばかりのようです。 [安村]ポリオの例ではin vivoでは腎臓でウィルスが増殖していないのに、培養した腎細胞の中ではウィルスがどんどん増殖します。in vivoの知識がそのままin vitroにあてはまらない場合もありますから、御注意。 [山田]膀胱癌の方がoriginがはっきりしていて面白いんですがね。 [勝田]私もそう思いますが、とにかく培養がむつかしくてね。 [安村]私もやってみましたが、だめでしたね。初代はきれいに生えるんですよ。ところがバラして2代目に移すと、消えてしまうのですよ。
《難波報告》N-19:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響従来、4NQOによるラット肝細胞の試験管内発癌を報告して来たが、今後(1)発癌を確実にしかも定量的に起こさせる、(2)発癌の機構解析の基礎的データを集める。の2点を進める意味でもう一度出発に帰って培養肝細胞に対する4NQOの影響を検討する必要があると思われるので以下の実験を行った。使用した細胞はクローン化したLC-2系の肝細胞で、培地は20%BS+Eagle'sMEMである。
:質疑応答:[堀川]4NQO処理後の群のPEが対照群のPEを上まわるのは6日までのデータの中では6日だけなのですが、もっと長期間追ってみるとどうなりますか。[難波]薬剤処理によって1時期PEは落ちますが、変異して安定してしまうと対照群と差がありません。 [安藤]6日目には対照群のPEが落ちていますが、何故ですか。 [難波]対照群の場合、培養が古くなるにつれてPEが落ちます。 [堀川]アグリゲイトの問題ですが、4NQOで処理して変化したものはどうですか。 [難波]佐藤先生のデータで、4NQOで悪性化したものはアグリゲイトを作ります。 [堀川]色々な系を使って悪性度とアグリゲイトを作ることが平行するかどうか、調べてほしいですね。 [山田]アグリゲイトのことは事実としては面白いのですが、物理学的な現象なのか、生物学的な現象なのか、もっとはっきりした前提をもって実験を進めて頂きたいですね。 [堀川]細胞膜の問題だと山田先生の実験とも関連してくるわけですね。 [勝田]アグリゲイトを切片にして組織学的に調べてみましたか。細胞間に何かありませんか。 [難波]パス染色では何も染まりませんでした。 [勝田]アクリヂンオレンヂでは・・・。 [難波]みていません。 [梅田]電顕像はどうですか。 [難波]電顕所見は対照群と実験群の間に違いがみられません。 [勝田]流パラを使ってのクローニングは私も昔やってみましたが、流パラの中の水滴はレンズ効果になってしまうので、細胞が1コかどうかよく判らずに困ったのですが、どうしていますか。 [難波]流パラの中へ細胞が1匹入った水滴を一滴一滴たらすのではなく、流パラの中へたらした水滴の中には細胞が何匹も居るのですが、その水滴の縁の方の1匹を毛細管ピペットで吸い取っています。文献によれば、流パラは炭酸ガスを通すので、流パラの中に水滴を落とした状態で培養できるようですが、私がやってみた所では増殖しませんでした。 [滝井]私も流パラを使ってみましたが、1匹から立ち上がるのは難しいようですが、細胞が多ければ増えるようです。
《山田報告》
:質疑応答:[山田]難波さんの意見では、電気泳動の撮影でひょろ長く見える細胞は平たい細胞を横に見た図で、センイ芽細胞ではないということですが・・・。[堀川]細胞そのものに裏表があるでしょうか。かき落とすと丸くなってしまうのでありませんか。 [難波]でも、未処理の肝細胞の系を少数まいて出てくるコロニーにセンイ芽細胞は殆ど無いのです。小型の上皮性細胞から成るコロニー、中位の矢張り上皮性細胞のコロニー、大型の上皮性細胞から成る少しシートのルーズなコロニー、この3種が出てきます。 [志方]その大、中、小の細胞のクロンを取って染色体数を調べてみられましたか。 [難波]調べてはみましたが、バラツイテいてはっきり結果が出ていません。 [勝田]私の経験では映画で追跡して小型の上皮様細胞はよく分裂増殖するようです。 [安村]さっき一寸出ましたが、細胞のうらおもては本当にあるのでしょうか。生体内では細胞がきっちりつまっていて判らないでしょうが、培養内でガラス面にはりつく側が定まっているでしょうか。 [勝田]映画でみていると、MM2細胞がリンパ球を喰う時は、一定の場所があるように見えますね。 [山田]それは度々見られますか。 [勝田]或る時点でそういう印象を受けるという程度です。 [山田]セルローズ膜の上に細胞を生やすと、デスモゾームが出来るという話もありますね。そうなると方向性が無いとも言えます。 [堀川]何か、例えばアイソトープを使って確かめる方法はないでしょうかね。 [下条]免疫血清で処理をすると、泳動値が変わるという実験には、正常ラッテ血清の処理を対照にしてありますか。 [山田]正常ラッテ血清の処理では、泳動値に影響がないことは確かめてあります。 [藤井]結果としては、RLH-5・P3の抗原が、4NQO処理のHQ1Bでは減っているという事ですね。 [山田]そうです。次にHQ-1Bの抗血清を作って、RLH-5・P3で吸収してみれば、新しい抗原が出ているかどうか判ると思います。
《堀川報告》培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(21)前報では45℃で30分間処理した後に10-4乗M 4-HAQOで更に30分間処理することによって誘発されたEhrlich細胞の一本鎖切断は再結合し得ることを報告したが、この場合温度及び4-HAQO処理をうけた細胞のH3-thymidineの取り込み能でみたDNA合成能はまったく何らの処理を加えない正常細胞のDNA合成能の500分の1に抑えられている計算になるわけで、こういった意味から切断DNAの再結合のためには障害をうけた細胞内に僅かのDNA合成酵素が残存すれば充分であることが示唆された。 今回はこう云った問題をも含めて切断DNAの再結合のさいに細胞は外部から加えたDNA前駆物質を利用し、しかも再結合されて高分子化したDNA分子内にこれらDNA前駆物質が取り込まれるか否かを検討した。(図を呈示) まず細胞DNAをH3-thymidineでラベルしておいてから、1x10-5乗M 4NQOで30分間処理して一本鎖切断を誘起させる。次いで、1μCi C14-thymidineを含くむ培地内で6時間、24時間培養した際のC14-thymidineの再結合DNA内への入り方をみた。これらの結果から、6時間培養後にすでにC14-thymidineの1部が高分子化されたDNA分子内に入っていることがわかる。また同様の実験を4-HAQO処理によって誘発された一本鎖切断の再結合のさいについてみたのであるが、この場合は細胞をH3-thymidineでラベルしてから4-HAQO処理までの間48時間をH3-thymidine freeの培地で培養しておいて、前駆物質プールをからっぽにしておき、4-HAQO処理後のC14-thymidineの高分子DNA内への取り込みを顕著にして追跡しようとした。結果的には、この48時間のH3-thymidine free培地での培養がそれ程、4-HAQO処理後のC14-thymidineの取り込みを一段とchearにしているとは思われない。 しかしいづれにしても、4-HAQO処理後8時間迄は低分子DNA分劃に入っていたC14-thymidineは培養24時間目には再結合によって高分子化されたDNA分劃中に一部入ってくることがわかる。こうした実験から示唆されることは、4-NQOまたは4-HAQO処理によって切断されたDNA一本鎖の再結合の際には細胞内の素材が利用される。つまりさらに強くいえば、単なる切断DNAの物理化学的結合(重合)によって高分子DNAが現れるのではなくて、切断DNAの再結合の際には細胞内の素材を利用し得るための修復酵素系なるものが動的に関与していることを更に強く示唆するものであると思われる。
:質疑応答:[安藤]45℃の加熱はsuspensionの状態での処理ですか。[堀川]細胞の障害がなるべく少なくすむように考えて、monolayerの状態で処理しました。 [勝田]fragmentとそれが修復した時のDNAの分子量を計算しておいて下さい。 [難波]エールリッヒ腹水癌のような増殖の早い細胞と、肝細胞のように増殖のおそい細との間にDNAの回復について違いがありますか。 [堀川]時間的な差はあります。 [難波]24時間でDNAは回復しても、細胞としてコロニーを作る能力はどうですか。 [堀川]DNAの一本鎖では回復しても、その点が0だということに困っています。 [安藤]一重鎖の方は私も同じ実験結果を得ていますが、二重鎖の切断の回復については全く反対の立場をとっている訳ですね。実験条件の細かい点で何か違いがありませんか。私の方では炭酸ガスフランキを使っていますから、pHが少し低いかと思います。 [堀川]その位のことはあまり結果にひびかないと思いますがね。今まで細菌を使っての実験でも二重鎖の切断は回復しないというデータしか出されていません。現象としてつかんでいることは確かでしょうが、どう説明するか、そこが大変難しい所ですね。 [藤井]再結合したDNAを電子顕微鏡で確かめてありますか。 [堀川]見たいとは思っているのですが、蔗糖がじゃまをして仲々うまく標本が作れずにいます。 [梅田]4NQO処理でDNAが切断された場合、その再結合がきれいすぎますね。 [堀川]そうです。X線の場合など時間を追ってピークがだんだんと移行するのが普通ですが、4NQOは処理のあとまで細胞内に残って再結合を妨げているようですね。それが6時間後にポンともとの大きさまで戻ってしまう。そこに何かマジックがありますね。 [下条]修復酵素系を45℃で不活化してから、DNAを切断するという実験は結果として一重鎖のDNAが回復したということなら酵素は不活化されていなかったという訳ですね。 [梅田]ごく少量の4HAQOが4NQOに混じっていれば、DNA切断が起こるのだということですと、4HAQO単独の場合かえって濃度を高くしなければ切れないのは何故でしょうか。 [堀川]わかりませんね。 [勝田]4NQOの絶対量と細胞1コ当たりの取り込み量の関係をつきつめる必要がありますね。
《安藤報告》
:質疑応答:[梅田]密度勾配遠心法によるDNAのピークの分析の問題についてですが、プロナーゼで切れるというのはどういう事でしょうか。[山田]プロナーゼを使った意味は・・・。 [安藤]何があるかがわからない材料ですから、より広く蛋白を切ることの出来る酵素として使いました。 [下条]トリプシンでは切れませんか。 [安藤]試していません。 [下条]トリプシンを使えば、トリプシンに特異的な阻害剤があるのですから、自由に酵素活性を止められて便利だと思います。 [山田]そこにあるらしい蛋白はヒストンのようなものを考えているのですか。 [安藤]リジンの取り込みのないことから、ヒストン以外のものを考えています。 [勝田]取り込み実験は何時間入れておきましたか。 [安藤]24時間です。 [勝田]24時間では取り込みなしと結論するのに短かすぎませんか。 [堀川]その位の時間で充分だと思います。リジンの取り込みがないということでヒストンではないと考えてよいでしょう。 [山田]又、堀川班員と安藤班員のデータの対立についての話ですが、培地などは違いませんか。 [堀川]仔牛血清+199です。 [安藤]仔牛血清+LD+DM-120の1/2量ビタミン添加です。 [堀川]遠沈の条件は中性の場合20,000rpm、45分間です。 [安藤]私の法は30,000rpmで、45分間か60分間です。 [野瀬]細胞の状態が片方はstationary、片方はlogarithmicという違いがあるようで、それは影響しないでしょうか。 [勝田]案外そんな所に問題があるのかも知れませんね。 [安村]それにしても、あまりに結果が違い過ぎますね。今度は堀川班員の所でL・P3を使って実験してみる必要があると思います。 [勝田]しかし、同じことをやっていて、お互いに矛盾した結果がでると、かえって解決への手掛かりがつかめる場合もありますよ。
《高木報告》
:質疑応答:[下条]復元する時、正常細胞を混ぜるという実験の目的は何ですか。[滝井]発癌剤処理で悪性化したと思われる細胞群の軟寒天内でのPEと復元成績とが平行しないので・・・。 [勝田]その細胞群の100%が悪性化したのではないと考えると、残って居る正常細胞が腫瘍化した細胞の動物へのtakeをおさえるのではないかとも考えられます。そこで実験的に、正常細胞と腫瘍細胞を色々な比率で混ぜて復元したわけです。 [安村]逆に正常細胞がfeederになっているのではないかという前提で角永氏がデータを出していますが、結局正常細胞を混ぜたことによる差は出ていません。もっとも角永氏の使った腫瘍細胞の系は、少数で動物にtakeされる系でしたから、例としてはあまりうまくありませんがね。 [勝田]正常細胞の方の比率をぐっと上げられませんか。 [滝井]腫瘍細胞の方の接種数を少しづつ下げていますので、1,000コでtakeすることが確実になれば、正常細胞の方の比率を上げられるわけです。 [山田]1,000コの腫瘍細胞で確実に動物を殺せるというデータをもっていますか。 [滝井]目下結果が出るのを待っています。 [藤井]接種数が少なくなると、動物は延命するわけですか。 [安村]そうですね。ずい分長生きしますね。 [下条]皮下接種はしないのですか。皮下接種だと日を追って経過を観察できるという利点と、再現性が高いという利点があります。 [山田]肉腫の復元は皮下もよいのですが、腹水肝癌の中には皮下につかないものもあります。接種部位によってずい分腫瘍の成長が違います。 [堀川]復元に使った動物の数が少なすぎますね。 [下条]私もそう思います。1群に2匹とか3匹では、一寸あとの数的な処理に困りますね。 [安村]ウィルス屋としてはそう思いますが、ラッテをつかって培養細胞というと、色々難しい問題があるんですね。
《梅田報告》今迄報告してきた長期継代例の染色体について報告する。(それぞれ分布図を呈示)
:質疑応答:[堀川]pile upしたfocusはみられましたか。[梅田]みられました。 [勝田]染色体数の分布の最頻値が変わってきているのですから、変異したということは言えますね。腫瘍化と言えるかどうかは未だわからないが・・・。 [梅田]4NQO処理直後に染色体の断裂が多く見られました。 [山田]その場合染色体の断裂を起こしたような細胞があと生きのびて子孫を残すのでしょうかね。 [堀川]ああいう断裂を起こした状態の染色体をみていると、どういう風にreplicationするのか想像もつきませんね。 [勝田]復元してみましたか。 [梅田]復元接種はしてありますが、まだ結果は出ていません。 [堀川]あと復元実験がものを云うわけですね。 [下条]余談になりますが、湿度の下がりやすい悪い炭酸ガスフランキを使う時には、フランキの中に水槽を置いてそれに何枚ものガーゼをたらして、水を吸い上げるようにしておきます。そうするとかなり蒸気が立って、湿度を保つ事ができます。
《藤井報告》前号の月報に掲載したデータについて更に詳細に発表。
:質疑応答:[下条]免疫学的な実験の場合、矢張り純系同系の動物で腫瘍抗体を作らせるのでないと、結局けりがつかないのではありませんか。JAR-1系−ウィスターキングという組み合わせでは、又問題が残りますね。[藤井]同系でも試みたのですが、どうしても抗体が出来なくて、とうとうWKAに切りかえたのです。 [下条]抗原に使う細胞をX線でたたくとか、いろいろ方法を考えてどうにか同系にもってゆくべきですね。それからMHA(mixed hemadsorption)は非常にタイターが高く数万倍のケタだと思っているのですが・・・。 [藤井]ヘテロの系だと数万倍に出ます。でもこの場合、タイターは低いのですが、対照とは有意の差があります。 [山田]IAで反応がなくてMHAで反応が出たというのは、どういう事でしょうか。 [藤井]細胞の種類によってIAで出るものとMHAで出るものとありますね。それは細胞膜面のサイトの問題ではないでしょうか。 [堀川]丸い細胞に赤血球がついているようでしたがcell cycleと関係がありますか。 [高岡]CulbTCでは普通の状態ではこんなに丸い細胞は多くありません。反応を起こした細胞が丸くなっているのだと考えられます。
《下条報告》勝田先生から培養細胞のT抗原をしらべるように依頼され、44年中に8株の細胞についてadeno-virus12、SV40のT抗原をFAでしらべた。その結果SV40T抗原は全部陰性、adenovirus12T抗原は7株完全に陰性、1株のみ少し蛍光がみられたが、形態からみてT抗原らしくないので、これも陰性としてよいであろう。検査はすべて陽性対照(adenovirus12 or SV40 transformed cells)を同時においてある。adenovirus12、SV40のanti-T conjugateは常用しているので、上の検査は簡単にできたが、研究費を少しいただいた。上の検査には費用は殆どかかっていない。そこでこの研究費を我が国では未だ誰も作っていないadenovirus7とpolyoma virusのanti-T conjugateを作るのに使った。adeno virus7は山本弘史君(予研村山分室)、polyoma virusは田口文章君(北里大)に検討を依頼したので、研究費も御両人にさしあげた。現在色々の方法でハムスターを免疫し、CFでT抗体価、抗細胞成分抗体価などをcheckしている所で、未だconjugateを作るところまでには行っていない。
:質疑応答:[堀川]発癌剤で悪性化しても知られていないウィルスとの相関性をどう考えますか。[下条]Todaroのhypothesisではウィルスがde-depressionに働くのだとしていますね。変異するためにはウィルスが関与しても増殖にはもはやウィルスは不要だというような事実を幾つか合わせ考えるとde-depression説が正しいかなとも思いますね。しかし、九大の森氏のprogressionという説もありますしね。 [安藤]4NQOがDNAを切る、切られた所に例えばウィルスのDNAがはまり込むということで、de-depressionが起こるとは考えられませんか。 [下条]ウィルスを使うのは、あとにマーカーを残すという点がよいですね。ウィルスに対する感受性を細胞の変異をみる手段として使うのも便利だと思います。 [藤井]抗血清で細胞を処理して細胞膜に変化を与えることによって、変異を起こせないでしょうか。DNAに直接作用を及ぼさない方法という意味で・・・。
《安村報告》この4月からいままでの教室名が細菌学教室であったのが、微生物学教室と変更してよいとの内示がありました。これで多少の気がねなく細胞をとりあつかってもよいことになりました。Cell as microorganismとかCell as microbeというコトバが総説にあらわれる時代ですから。もちろんこのCellはMammalian cellの意味でつかわれていることは申すまでもありません。☆AH-7974TC細胞(JTC-16)のQ1-LLLクローンとQ1-SSSクローンの移植成績: これまでのL-Sの比較の最後のまとめとしての移植実験の結果をお知らせします。 ラットは生後6日のJAR-2、脳内接種による6カ月観察の結果(表を呈示)、Q1-LLLのばあいはTID50(Tumor inducing dose 50%)は約3,125コの細胞。Q1-SSSのばあいは10,000コのところで全部生きのこりでclearな結果にならなかった。大勢において、LとSの間にこれまたclrarなひらきが移植実験成績からもえられなかった。野性株のこれまでの移植成績よりおとっている。 ついで行われた4NQOによる悪性化細胞の腫瘍よりの再培養系Cula-TCとCulb-TCの移植実験の成績は(表を呈示)、Culb-TCの移植率はCula-TCのそれより大幅に高いことがわかりました。このことはSoft agar中におけるcolony formation rateの成績(Culaの法がCulbよりもrateが高い)と逆の関係で、このことからもこれまでのSoft agarの実験成績、つまりS−Lの関係、colony formation rateとの関係にはcorrelationがpoorであるということになりました。はてさて最初の見込みがずれにずれてしまって、しめくくりに大変苦労することになりそうですし、さても悪性化というものは怪物であるとの感が深くなりました。markerとかparameterそのものがmultiple orderであったようですし、一次的に“悪性化”とcorrelateするmarkerの発見そのものが絶望的に困難な様相です。とにもかくにも地道に歩兵の如く匍伏前進というところです。
:質疑応答:[下条]復元実験のタイトレーションで100,000コと1,000コがtakeされ、10,000コがtakeされなかったという結果は必ずしも矛盾した結果とも言えません。腫瘍細胞の復元の場合、接種量が或る程度多いとImmunoresponseが起こることを抑えてしまう。少なすぎると反応が起こるに至らない。というと10,000コ位が丁度反応を起こす適当な抗原量であったかも知れませんから。そうだとするとCulaの方が免疫反応を起こしやすく、Culbは反応の少ない系とも言えます。藤井さんの実験もCulaに変えると同系で抗血清が出来るかもしれませんよ。[堀川]HAVITOの系でBuDR、8アザグアニンそれぞれどの位耐性が出来ていますか。 [安村]8アザグアニンは未だ。BuDRは10μg/mlまでゆきました。 [堀川]まだ低いですね。 [梅田]ダウン氏症候群の場合、発癌率が高いという話がありますね。 [安村]そう、染色体XXYのものと、正常のXYのものと細胞系を作ってそれぞれ4NQOで処理して変異率を調べてみようかと考えています。 [勝田]悪性化したかどうか何で判定しますか。 [安村]ハムスターのチークポーチへの復元と軟寒天でのPEです。
《三宅報告》前回報告したd.d.系マウス胎児由来の細胞に4NQOを処理したものT10は526日を経過し、20代となった。4NQO未処理の群でもその増殖力が強いことを発見し、この細胞がspontaneousに発癌したと考えられる節が増して来た。処理群の染色体のmodeは60、または64であることは既報の通りであるが、未処理のものが66(10代目)であることが判明した。また後者では倍増時間が20時間(12代目)で処理群よりも短い。 液体培地(modifyed Eagle MEM+20%Calf serum)よりcloning efficiencyを検した所(図を呈示)これでも未処理群の方が高い。 今両群について4回のcloningを完成し、細胞をTD40の閉鎖系に移し、再び染色体、増殖曲線を検索している。なお軟寒天培地での傾向を調査中である。4月3日、18代目の細胞を元の系のマウスの脳に100,000コ及び10,000コ復元接種した。 |