【勝田班月報:7005:培養細胞8種のT抗原】

《勝田報告》

 ラッテ及びサルの腎細胞の培養内4NQO処理:

 ラッテとサルの腎臓細胞の培養に、4NQOをかけ、そのtransformationをしらべた。これは当研究室にきて仕事をしている昭和医大泌尿器科の落合元宏君の仕事である。

     
  1. ラッテ腎細胞

     ラッテの腎細胞は、トリプシン消化で浮遊液を作ったが、JAR-2系の生後17日の雌ラッテ6匹の腎をプールした。しかしどうも増殖率は高くなく且長く培養していると消えてしまう(彼の技術によるのかどうかは別として)。

     継代第1代の培養第3日に各種濃度の4NQOを培地に加え、30分間処理し、以後は無添加の培地で培養した結果、やはり濃度に比例して細胞がこわされている(増殖図を呈示)。

    (実験経過図を呈示)4NQO処理は30分1回だけである。処理後56日経ったとき、処理した培養にコロニーが一つ発見され、9日後にさらに一つ、その2日後にさらに第3のコロニーが見出された。そこでその3日後に第1(R2K-1)と第2(R2K-2)のコロニーをとって別の容器に移し、残りはそのまま、混ったまま培養を続けた。これらはいずれも増殖が活発で、継代9日後に染色体数の分布をしらべると(分布図を呈示)、高3倍体(R2K-1は67本、R2K-2は66本)に最頻値が現われた。ラッテ肝の場合とかなり異なる所見であり、今後検討の余地があると思われる。

     (培養瓶の写真を呈示)対照では細胞のコロニーは全く見られないのに対し、3.3x10-6乗M 4NQO処理培養ではコロニーが形成されている。

     (顕微鏡写真を呈示)培養を開始したときのラッテ腎細胞の形態であり、何種類かの細胞から成っている。変異コロニーでは、核小体の肥大が目立ち、細胞もpile upしている。明らかに培養開始時の細胞とは異なった形態をしている。

     

  2. サル腎細胞(JTC-12株)

    以下はcynomolgus monkeyの腎由来の細胞株JTC-12を用いた実験である。

     10-6乗M、3.3x10-6乗M、10-5乗Mの3種の濃度に揃え、4NQO及びその非発癌性、癌原性誘導体について、細胞増殖への影響をしらべた。(各実験の増殖曲線図を呈示)

     4NQO処理:ラッテ腎の場合と同様にやはり4NQOの濃度に比例して細胞増殖が抑制され、或は細胞がこわされている。

     2-Methyl-4NQO処理:これも同様に濃度に比例して抑制・阻害が現れた。

     6-Carboxy-4NQO処理:この薬剤は癌原性を有しているにも拘わらず、どういう訳か、細胞増殖を抑制しない。細胞毒性と発癌性とは一致しないことを示す一つの証拠かも知れない。

     4NPO処理:これは他の非癌原性誘導体と同様に細胞毒性をほとんど示さない。

     6NQO(非癌原性)処理:細胞毒性は全く認められない。

     4AQO(非癌原性)処理:これも細胞毒性が全く認められない。

     JTC-12株をメタノール・ギムザで染色した顕微鏡写真を呈示。継代21日後の対照細胞に比して、10-5乗M・4NQOで30分間処理後、21日目のJTC-12株細胞は、核の大小不同、異型性が目立っている。また角膜の肥厚も認められる。

     

  3. 復元接種試験

       
    1. ラッテ、サルともに、ハムスターのチークポーチとラッテの腹腔内に接種し、目下観察中である。接種量は各10万個宛である。  
    2. さらに100万個〜1,000万個を接種できるように、現在細胞をふやし準備中である。



 

:質疑応答:

[勝田]この実験は膀胱を材料にしてまとめる計画だったのですが、膀胱から分離した細胞を長期間培養することが仲々難しくて、とうとう腎臓に乗り換えた訳です。

[難波]私の所でも腎臓を使って発癌実験を始める計画をもっています。腎臓はadultでも培養できますから、片方だけとって培養しautoへ復元できるという利点がありますね。

[梅田]ラッテ由来の系でpile upしている像がみられましたが、あの細胞は上皮性でしょうか。

[勝田]上皮様細胞です。

[難波]薬剤の毒性と発癌性との関係はどうなっているのでしょうか。6カルボキシ4NQOは発癌性があるのに毒性がないのですね。

[勝田]そこが面白い所だと思います。6カルボキシ4NQOで処理した系も早く復元してみる予定でいます。

[安藤]山田正篤先生の所で、ハムスター胎児細胞を6カルボキシ4NQOで処理して悪性化に成功したというデータを出しておられますね。

[堀川]4HAQOも毒性は弱いが、発癌性は強いものの一つですね。

[安藤]6カルボキシ4NQOはDNAを切らないのですね。10-4乗Mという濃度でもDNAの切断を起こしません。それから4NPOは毒性はないようでしたが、DNAの切断は起こします。

[梅田]DNAレベルでの切断では、切れるか切れないかの問題だけでなく、そのあと回復出来るかどうかの問題もあるのではないでしょうか。

[堀川]ブレオマイシンのように物すごく小さく切ってしまうものもありますが、そういう特別な例以外はたいてい回復すると思いますね。

[志方]腎臓に出来る癌は動物の年齢によって種類が違うということはありませんか。使ったラッテの年齢は・・・。

[落合]ラッテは生後17日の乳児を使いました。それから、腎臓癌は今の所、年齢に関わらず尿細管から発生するということになっています。此の実験の場合、使った細胞が何に由来しているものか同定する目的で、水銀ネオヒドリンの取り込みをオートラヂオグラフィでみてみる予定でいます。

[勝田]先ず無処理の対照群についてしらべてみるべきですね。

[落合]培養を開始して間のない初代培養を使って取り込みの基礎実験を始めています。培養内でどういう形態の細胞が取り込むのかを知りたい訳です。水銀ネオヒドリンは癌化した細胞にも取り込みが見られるということです。

[安村]水銀ネオヒドリンについてin vitroでの実験はありますか。

[落合]発表されているのはin vivoでのデータばかりのようです。

[安村]ポリオの例ではin vivoでは腎臓でウィルスが増殖していないのに、培養した腎細胞の中ではウィルスがどんどん増殖します。in vivoの知識がそのままin vitroにあてはまらない場合もありますから、御注意。

[山田]膀胱癌の方がoriginがはっきりしていて面白いんですがね。

[勝田]私もそう思いますが、とにかく培養がむつかしくてね。

[安村]私もやってみましたが、だめでしたね。初代はきれいに生えるんですよ。ところがバラして2代目に移すと、消えてしまうのですよ。



《難波報告》

 N-19:クローン化したラット肝細胞に及ぼす4NQOの影響

 従来、4NQOによるラット肝細胞の試験管内発癌を報告して来たが、今後(1)発癌を確実にしかも定量的に起こさせる、(2)発癌の機構解析の基礎的データを集める。の2点を進める意味でもう一度出発に帰って培養肝細胞に対する4NQOの影響を検討する必要があると思われるので以下の実験を行った。使用した細胞はクローン化したLC-2系の肝細胞で、培地は20%BS+Eagle'sMEMである。

     
  1. 処理時間の検討(実験毎に図を呈示)

     培養3日目、或いは2日目に10-6乗M 4NQO1時間処理した。4NQOは上記の培地に溶いた。以後経時的(30分、1、2、4、6、8、12、24時間)に4NQOを含まぬ培地で4NQO培地を更新し、実験2日目に生存細胞数を算えた。48時間のものは2日間4NQO培地で培養した。その結果、30分処理のものは細胞障害が軽いが、1時間以上48時間のものには大差ないことが判った。それから、案外24時間処理のものが細胞障害が強かった。

     

  2. 4NQO処理時の細胞数と細胞障害との関係について

     4NQOの濃度を変えて細胞障害度を調べることも重要であるが、むしろそれより、4NQOの処理時の細胞数によって、細胞がどの程度障害を受けるかを検討することが重要であると考えられる。その理由は、細胞に及ぼす影響を4NQOの濃度を変えて調べるだけでは、処理時の細胞数のバラツキがあれば、なかなか一定した結果が得がたいことにある。そこで、4NQOの処理条件(10-6乗M、1hr.、37℃)を一定にし、処理細胞数を変えて、その細胞増殖に及ぼす影響を検討した。その結果は、4NQOの細胞増殖に及ぼす影響は非常に細胞数に依存することが判った。同じ実験をもう一度繰り返し、4NQO処理時の細胞数を横軸にし、縦軸に、4NQO処理後から48時間後の非処理細胞数(コントロール)に対する4NQO処理細胞数の割合(%Survival)をとると、50%Survivalになる処理細胞数はだいたい100,000コ前後になるようである。またこれらの表から全細胞が死亡する細胞数を20,000コとして、1コの細胞が死ぬのに必要な4NQOの分子量を計算すると、だいたい1コの細胞に10の10乗分子が入れば細胞は死ぬ計算になる。ただしこの場合4NQOの分子数は圧倒的に多いので、4NQOは細胞内へ必要にして十分入ったものと仮定している。

     

  3. 4NQOの残留効果:4NQOは細胞増殖を促進するか?

     培養2日目に10-6乗M 4NQO1hr処理し、その後細胞を経時的に数えると共に、1週間ごとに継代し、対照細胞群と4NQO処理群との累積増殖曲線を描いた。実験はだいたい1カ月行い2つの実験から、このクローン化した肝細胞にはこの程度の4NQO処置は増殖促進作用を示さないことが判った。

     また、10-6乗M 4NQO1hrの4NQO処置が、それ以後の数時間の細胞増殖にどの程度の障害を残すものか検討した。その理由は、4NQOを繰り返し処理するとすれば、その間隔はどのくらいが適当かを決めることにあった。4NQO処理後7日まで1日おきに細胞を数えてみると、処理後2日間或いは4日間細胞増殖が抑制されていることが判った。そこで、このことを更に確実にするために同型培養を行い、4NQO処理直後、及び1日目、2日目、4日目、6日目に少数細胞をシャーレにまきコロニー形成率をみた。対照としては同時期の4NQO非処理細胞をまいた。そして対照細胞のabsolutePEを100%として、そのときの4NQO処理細胞のabsolutePEを補正して、一応Recoveryの目安とすると4日目で対照細胞のコロニー形成率100%に対し、4NQO処理細胞は84%になりほぼ細胞障害は回復しているようである。6日目では遂に4NQO処理群のPEの方が対照より高いのは、対照細胞は細胞が増殖しすぎて状態が悪くなっているのに比較し、4NQOの処理群のものは障害より回復した細胞が良好な増殖状態に入っているのではなかるまいか。

     なお、細胞をまき込む時、ニグロシンにて細胞の生死を判定したが、ニグロシン法ではまき込んだ細胞は対照及び4NQO処理細胞とも色素をとり込んでいなかった。



 

:質疑応答:

[堀川]4NQO処理後の群のPEが対照群のPEを上まわるのは6日までのデータの中では6日だけなのですが、もっと長期間追ってみるとどうなりますか。

[難波]薬剤処理によって1時期PEは落ちますが、変異して安定してしまうと対照群と差がありません。

[安藤]6日目には対照群のPEが落ちていますが、何故ですか。

[難波]対照群の場合、培養が古くなるにつれてPEが落ちます。

[堀川]アグリゲイトの問題ですが、4NQOで処理して変化したものはどうですか。

[難波]佐藤先生のデータで、4NQOで悪性化したものはアグリゲイトを作ります。

[堀川]色々な系を使って悪性度とアグリゲイトを作ることが平行するかどうか、調べてほしいですね。

[山田]アグリゲイトのことは事実としては面白いのですが、物理学的な現象なのか、生物学的な現象なのか、もっとはっきりした前提をもって実験を進めて頂きたいですね。

[堀川]細胞膜の問題だと山田先生の実験とも関連してくるわけですね。

[勝田]アグリゲイトを切片にして組織学的に調べてみましたか。細胞間に何かありませんか。

[難波]パス染色では何も染まりませんでした。

[勝田]アクリヂンオレンヂでは・・・。

[難波]みていません。

[梅田]電顕像はどうですか。

[難波]電顕所見は対照群と実験群の間に違いがみられません。

[勝田]流パラを使ってのクローニングは私も昔やってみましたが、流パラの中の水滴はレンズ効果になってしまうので、細胞が1コかどうかよく判らずに困ったのですが、どうしていますか。

[難波]流パラの中へ細胞が1匹入った水滴を一滴一滴たらすのではなく、流パラの中へたらした水滴の中には細胞が何匹も居るのですが、その水滴の縁の方の1匹を毛細管ピペットで吸い取っています。文献によれば、流パラは炭酸ガスを通すので、流パラの中に水滴を落とした状態で培養できるようですが、私がやってみた所では増殖しませんでした。

[滝井]私も流パラを使ってみましたが、1匹から立ち上がるのは難しいようですが、細胞が多ければ増えるようです。



《山田報告》

     
  1. HQ系細胞(4NQO処理後のRLH-5・P3)の経時的変化のまとめ;

     これまで各時期に写真記録泳動装置にて検索した結果を報告しましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。しかし現在までに移植による腫瘍性の検索は、はっきりして居ません。(尚ほ、本報に書く泳動的に悪性型という意味は、箇々の細胞の泳動度が高く、従来通りの条件でシアリダーゼ処理することにより10%以上泳動度が低下する場合です)

  2. HQ1系;

     4NQO処理後既に168日5〜6ケ月を経ましたが、(泳動度の変化図を呈示)4NQO処理後26日(1ケ月前後)では、泳動度が速く、シアリダーゼに感受性の高い小型細胞がかなり認められましたが、しかしこれと同種の細胞は対照群にもあり、しかも50日以後漸次減少し168日目では極めて少くなりました。全経過を通じfibroblasticな細胞は出現せず、また対照細胞群は174日でも全く変化がありません。

     50日目頃より大型円型細胞が出現し、92日目にはかなり増加すると共に、この細胞が悪性型を示す様になりましたが、168日目にはむしろ減少して来ました。平均泳動度をみると、92日目にはシアリダーゼ感受性が高まり(-0.172μ/sec/V/cm)、また50日目より箇々の細胞の泳動どのバラツキが出現し、全体として悪性型を示しましたが、この傾向が、168にはむしろ減少する様になりました。

     これに対し28日以後に再び2回目の4NQOにより処理したHQ1B系についてみると、70日目に全体として悪性型の泳動パターンを示すと共に、特に中型の細胞に高頻度の悪性型の泳動型を示し、この細胞が168日目には更に増加して来ました。168日以後に免疫学的に検索した所、この中型細胞にその対照であるRLH-5・P3に対する抗体が相対的に反応し難くなり、本来のこの細胞の抗原姓が、この中型細胞に一部失われてゐると云う推定が下されました。従って168日以後の現在では、HQ1Bが特に悪性化して居ると云う可能性を考へざるを得ません。

     

  3. In vitro発癌過程における変異細胞の出現様式の解析;

     従来in vitroの細胞発癌様式については二つの可能性、

       
    1. 癌化当初は細胞の悪性化の程度が少く、経時的に悪性度が増加する(progression after malignant transformation)。  
    2. 癌化当初は少数の細胞のみが悪性化し、以後経時的に漸次悪性細胞が撰たく的に増加して、細胞集団の大多数を占める様になる(Selective proliferation after malignant transformation)。

     が考へられて居ますが、これまでの細胞電気泳動による成績を綜合すると、むしろ後者の可能性が高いと思われますので、改めてその成績をまとめて書き、考へてみたいと思います。

     (図を呈示)発癌当初において細胞群全体の電気泳動パターンが悪性型を示さない細胞群でも、それを宿主へ移植して腫瘤を作らせ、再培養すると明らかに悪性型(平均泳動度が高く、シアリダーゼ感受性がたかまる)を示す様になると云う成績です。宿主内で撰擇されて、悪性化細胞がより多く再培養されるとしか考へられません。

     次ぎにこれまで写真記録式電気泳動装置にて、泳動的にpopulation analysisを行った例のうちで、次の5種類の細胞群を撰んで改めて比較してみました。(いづれもラット肝細胞)

       
    1. 癌化以来、全体としての平均泳動パターンが悪性型を示さず、経時的に急に変化しない細胞群、RLT-5(CQ50)、RLC-10-A、RLC-10-B  
    2. 癌化当初は全体として平均泳動パターンが悪性型を示さなかったが、約1年後に悪性型を示す様になった細胞群、RLT-1(CQ42)  
    3. 癌化当初から全体として平均泳動パターンが悪性型を示す細胞群(くりかへし4NQOを接触させた岡大株Exp.7-2)  
    4. 宿主に移植して再培養し、典型的な悪性型泳動パターンを示す細胞群(Exp.7-2RTC)

      これらの細胞群について、それぞれ細胞群全体中に於ける推定変異細胞の出現率と、特にそのなかで変異細胞の出現率の最も多いと思われる細胞集団における推定変異細胞の出現率をまとめました。(表を呈示)

     対照欄は培養細胞をそのまま測定した成績であり、S-処理欄はシアリダーゼ処理後の細胞についての測定値ですが、前者における推定変異細胞は、平均泳動度より10%以上の高値を示す細胞を計算し、後者は、処理前の平均泳動度より10%以上シアリダーゼ処理により泳動度が低下してゐる細胞を推定変異として計算したものです。綜合欄は対照群とS処理群のそれぞれの推定変異細胞出現率の積を100で割ったもので、最低の変異細胞出現率を示すものと考へました。

     各細胞系の全細胞集団中の推定変異細胞の出現率は、前記第一群(全体として悪性型の泳動パターンを示さない細胞群)RLC-10-A、RLC-10-B、では綜合的には3、6%の変異細胞が出現して居ると推定され、高頻度にこの変異細胞のみられる中型の細胞群では5、10%の変異細胞の出現率しか認められない。同一の前記第一群中のRLT-5(CQ50)ではこれより変異細胞の出現率が高く、前者では6%、後者では16%の出現率を認める。第二群では更に増加し、(RLT-1)前者では10%、後者では25%の出現率を認める。更に第三群で発癌当初より悪性型の泳動パターンを示したExp.7-2に就いては、前者では18%、後者では25%の最高の出現率を認める。宿主へ移植後の再培養株では(Exp.7-2 RTC)特定の細胞に変異細胞が偏在してゐることはなく全体として悪性型を示す細胞が認められます。

     この所見より、一群〜2群のごとく4NQOを一回接触させた場合には(自然癌化株を含む)癌化当初に少数細胞が悪性化し、経時的に悪性細胞数が漸次増加する。また数回4NQOを接触させたExp.7-2株では癌化当初から多数の細胞が悪性化して居ると云う推定が可能と考へます。



 

:質疑応答:

[山田]難波さんの意見では、電気泳動の撮影でひょろ長く見える細胞は平たい細胞を横に見た図で、センイ芽細胞ではないということですが・・・。

[堀川]細胞そのものに裏表があるでしょうか。かき落とすと丸くなってしまうのでありませんか。

[難波]でも、未処理の肝細胞の系を少数まいて出てくるコロニーにセンイ芽細胞は殆ど無いのです。小型の上皮性細胞から成るコロニー、中位の矢張り上皮性細胞のコロニー、大型の上皮性細胞から成る少しシートのルーズなコロニー、この3種が出てきます。

[志方]その大、中、小の細胞のクロンを取って染色体数を調べてみられましたか。

[難波]調べてはみましたが、バラツイテいてはっきり結果が出ていません。

[勝田]私の経験では映画で追跡して小型の上皮様細胞はよく分裂増殖するようです。

[安村]さっき一寸出ましたが、細胞のうらおもては本当にあるのでしょうか。生体内では細胞がきっちりつまっていて判らないでしょうが、培養内でガラス面にはりつく側が定まっているでしょうか。

[勝田]映画でみていると、MM2細胞がリンパ球を喰う時は、一定の場所があるように見えますね。

[山田]それは度々見られますか。

[勝田]或る時点でそういう印象を受けるという程度です。

[山田]セルローズ膜の上に細胞を生やすと、デスモゾームが出来るという話もありますね。そうなると方向性が無いとも言えます。

[堀川]何か、例えばアイソトープを使って確かめる方法はないでしょうかね。

[下条]免疫血清で処理をすると、泳動値が変わるという実験には、正常ラッテ血清の処理を対照にしてありますか。

[山田]正常ラッテ血清の処理では、泳動値に影響がないことは確かめてあります。

[藤井]結果としては、RLH-5・P3の抗原が、4NQO処理のHQ1Bでは減っているという事ですね。

[山田]そうです。次にHQ-1Bの抗血清を作って、RLH-5・P3で吸収してみれば、新しい抗原が出ているかどうか判ると思います。



《堀川報告》

 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(21)

前報では45℃で30分間処理した後に10-4乗M 4-HAQOで更に30分間処理することによって誘発されたEhrlich細胞の一本鎖切断は再結合し得ることを報告したが、この場合温度及び4-HAQO処理をうけた細胞のH3-thymidineの取り込み能でみたDNA合成能はまったく何らの処理を加えない正常細胞のDNA合成能の500分の1に抑えられている計算になるわけで、こういった意味から切断DNAの再結合のためには障害をうけた細胞内に僅かのDNA合成酵素が残存すれば充分であることが示唆された。

 今回はこう云った問題をも含めて切断DNAの再結合のさいに細胞は外部から加えたDNA前駆物質を利用し、しかも再結合されて高分子化したDNA分子内にこれらDNA前駆物質が取り込まれるか否かを検討した。(図を呈示)

 まず細胞DNAをH3-thymidineでラベルしておいてから、1x10-5乗M 4NQOで30分間処理して一本鎖切断を誘起させる。次いで、1μCi C14-thymidineを含くむ培地内で6時間、24時間培養した際のC14-thymidineの再結合DNA内への入り方をみた。これらの結果から、6時間培養後にすでにC14-thymidineの1部が高分子化されたDNA分子内に入っていることがわかる。また同様の実験を4-HAQO処理によって誘発された一本鎖切断の再結合のさいについてみたのであるが、この場合は細胞をH3-thymidineでラベルしてから4-HAQO処理までの間48時間をH3-thymidine freeの培地で培養しておいて、前駆物質プールをからっぽにしておき、4-HAQO処理後のC14-thymidineの高分子DNA内への取り込みを顕著にして追跡しようとした。結果的には、この48時間のH3-thymidine free培地での培養がそれ程、4-HAQO処理後のC14-thymidineの取り込みを一段とchearにしているとは思われない。

 しかしいづれにしても、4-HAQO処理後8時間迄は低分子DNA分劃に入っていたC14-thymidineは培養24時間目には再結合によって高分子化されたDNA分劃中に一部入ってくることがわかる。こうした実験から示唆されることは、4-NQOまたは4-HAQO処理によって切断されたDNA一本鎖の再結合の際には細胞内の素材が利用される。つまりさらに強くいえば、単なる切断DNAの物理化学的結合(重合)によって高分子DNAが現れるのではなくて、切断DNAの再結合の際には細胞内の素材を利用し得るための修復酵素系なるものが動的に関与していることを更に強く示唆するものであると思われる。



 

:質疑応答:

[安藤]45℃の加熱はsuspensionの状態での処理ですか。

[堀川]細胞の障害がなるべく少なくすむように考えて、monolayerの状態で処理しました。

[勝田]fragmentとそれが修復した時のDNAの分子量を計算しておいて下さい。

[難波]エールリッヒ腹水癌のような増殖の早い細胞と、肝細胞のように増殖のおそい細との間にDNAの回復について違いがありますか。

[堀川]時間的な差はあります。

[難波]24時間でDNAは回復しても、細胞としてコロニーを作る能力はどうですか。

[堀川]DNAの一本鎖では回復しても、その点が0だということに困っています。

[安藤]一重鎖の方は私も同じ実験結果を得ていますが、二重鎖の切断の回復については全く反対の立場をとっている訳ですね。実験条件の細かい点で何か違いがありませんか。私の方では炭酸ガスフランキを使っていますから、pHが少し低いかと思います。

[堀川]その位のことはあまり結果にひびかないと思いますがね。今まで細菌を使っての実験でも二重鎖の切断は回復しないというデータしか出されていません。現象としてつかんでいることは確かでしょうが、どう説明するか、そこが大変難しい所ですね。

[藤井]再結合したDNAを電子顕微鏡で確かめてありますか。

[堀川]見たいとは思っているのですが、蔗糖がじゃまをして仲々うまく標本が作れずにいます。

[梅田]4NQO処理でDNAが切断された場合、その再結合がきれいすぎますね。

[堀川]そうです。X線の場合など時間を追ってピークがだんだんと移行するのが普通ですが、4NQOは処理のあとまで細胞内に残って再結合を妨げているようですね。それが6時間後にポンともとの大きさまで戻ってしまう。そこに何かマジックがありますね。

[下条]修復酵素系を45℃で不活化してから、DNAを切断するという実験は結果として一重鎖のDNAが回復したということなら酵素は不活化されていなかったという訳ですね。

[梅田]ごく少量の4HAQOが4NQOに混じっていれば、DNA切断が起こるのだということですと、4HAQO単独の場合かえって濃度を高くしなければ切れないのは何故でしょうか。

[堀川]わかりませんね。

[勝田]4NQOの絶対量と細胞1コ当たりの取り込み量の関係をつきつめる必要がありますね。



《安藤報告》

     
  1. 4NQOによるRLH-5・P3DNAの二重鎖切断の回復に対する血清の効果

     私の方の実験結果によるL・P3でもRLH-5・P3でも4NQOにより生じたDNAの二重鎖切断は24時間の回復培養によって再結合された。一方堀川班員の使っているEhrlichおよびLではこの再結合が見られないと報告している。そこでこの食い違いの原因を種々考えてみると、第1にstrainの違いによる能力の差、第2に培養条件の違い(DM-120対牛血清入りLD)、第3に実験操作の違い等であるが先ず本実験では第2点の血清の有無を検討してみた。

     RLH-5・P3細胞を仔牛血清2%を含むDM-120培地に10日間増殖させる。ちなみにL・P3細胞を血清培地で1週間養うとそのリン脂質の構成は全くL型になってしまう。その後に無血清培地中での実験と同様にH3-チミジンラベル、4NQO 10-5乗M、30分処理、洗滌、回復培養を行った。結果は(図を呈示)4NQOで二重鎖切断を起したものが回復培養24時間目には完全にコントロールと同じ所(遠心管の底)迄回復、再結合が起っていた。  もしも血清が再結合の酵素系をrepressしているとすれば、このRLH-5・P3細胞のこの培地中でのdoubling timeから10日間の培養で40〜50倍の増殖があった事になり、逆に元の細胞の成分は1/40〜1/50に減少している筈である。ところが結果はDM-120だけの場合と全く同様であったので、この実験から結論出来る事は、安藤、堀川間の違いは血清の有無によるものではない事になる。

     

  2. L(金沢由来)細胞使用しての4NQOによる二重鎖切断の回復実験

     第(I)項で血清添加に効果がなかったので今度はstrainの差を調べてみた。すなわち堀川さんよりいただいたL金沢lineを0.4%LDビタミン混液(DM-120の半量)、CS 10%で培養、同様に実験を行った。結果は(図を呈示)4NQOにより二重鎖切断を起したDNAは回復培養によって再結合されている事がわかった。実験は密度勾配遠心の時間を40分としコントロールDNAが底に沈まない条件で行った。念のため再度全く同じ事をくり返し、遠心はいつもの通り60分行った結果も同様であった。(図を呈示)

 以上(I)(II)の実験を通して結論出来る事は、安藤、堀川両者の違いは、培養培地の差でもなく、strainの差によるのでもなく、実験操作の差によるという事になる。なお最終的結論については堀川班員と討論の予定である。



 

:質疑応答:

[梅田]密度勾配遠心法によるDNAのピークの分析の問題についてですが、プロナーゼで切れるというのはどういう事でしょうか。

[山田]プロナーゼを使った意味は・・・。

[安藤]何があるかがわからない材料ですから、より広く蛋白を切ることの出来る酵素として使いました。

[下条]トリプシンでは切れませんか。

[安藤]試していません。

[下条]トリプシンを使えば、トリプシンに特異的な阻害剤があるのですから、自由に酵素活性を止められて便利だと思います。

[山田]そこにあるらしい蛋白はヒストンのようなものを考えているのですか。

[安藤]リジンの取り込みのないことから、ヒストン以外のものを考えています。

[勝田]取り込み実験は何時間入れておきましたか。

[安藤]24時間です。

[勝田]24時間では取り込みなしと結論するのに短かすぎませんか。

[堀川]その位の時間で充分だと思います。リジンの取り込みがないということでヒストンではないと考えてよいでしょう。

[山田]又、堀川班員と安藤班員のデータの対立についての話ですが、培地などは違いませんか。

[堀川]仔牛血清+199です。

[安藤]仔牛血清+LD+DM-120の1/2量ビタミン添加です。

[堀川]遠沈の条件は中性の場合20,000rpm、45分間です。

[安藤]私の法は30,000rpmで、45分間か60分間です。

[野瀬]細胞の状態が片方はstationary、片方はlogarithmicという違いがあるようで、それは影響しないでしょうか。

[勝田]案外そんな所に問題があるのかも知れませんね。

[安村]それにしても、あまりに結果が違い過ぎますね。今度は堀川班員の所でL・P3を使って実験してみる必要があると思います。

[勝田]しかし、同じことをやっていて、お互いに矛盾した結果がでると、かえって解決への手掛かりがつかめる場合もありますよ。



《高木報告》

     
  1. NG処理細胞の復元により生じた腫瘍の動物継代成績

     (表を呈示)NG-18細胞−すなわちNG 10μg1回処理により悪性化したWistar rat胸腺よりの由来細胞−を復元して生じたtumorを再培養し、その16代目の細胞を100万個cells WKA ratに復元して生じたtumorの動物による継代移植をこころみた。

     移植の方法は、tumorを無菌的に摘出した後、等量の培地を加えてteflon homogenizerで出来るだけこまかいcell suspensionを作り、その0.1mlをnewbornから生後75日のrat皮下に移植した。移植間隔は13〜42日とまちまちであるが、3代目では移植35日たったtumorを生後12日および33日目のratにそれぞれ移植、後者に生じたtumorは移植17日後に5代目に移植した。生じたtumorは組織学的にNG-18細胞を復元して生じたtumorとよく似た肉腫であったが、継代と共にfibrousな感が強くなったようである。

     7代継代の現在、未だ生後日数のたったratに移植すると成績が良くないようである。

     1代目、4代目に生じたtumorの再培養を行い、その染色体を検索中である。

     

  2. 腫瘍細胞と対照(正常)細胞の混合移植実験

     腫瘍細胞としてRG-18、正常細胞としてNG-19Kを用いた。前者はNG-18(T-1)細胞を復元して生じたtumorの再培養系であり、後者はWKA rat胸腺由来の無処理培養細胞である。

     月報No.7004で一部記載したが、今回はこれまで行った実験Scheduleすべてを記載した。移植にはすべてWKA newborn ratを用い、cell suspension 0.1ml中に上記細胞数を含ませるようにして皮下に接種した。

     未だ結果が出揃っていないが、腫瘍細胞10万個群では、正常細胞100万個混合した場合に1/2にtumorの発生がややおくれた(約10日)。腫瘍細胞1万個群では正常細胞、0、1、10万個混合したが結果に殆ど差はみられなかった。

     なお正常細胞として用いたNG-19K、rat胸腺細胞株は100万個の復元で現在105日、50日を経ているがtumorの発生をみていない。



 

:質疑応答:

[下条]復元する時、正常細胞を混ぜるという実験の目的は何ですか。

[滝井]発癌剤処理で悪性化したと思われる細胞群の軟寒天内でのPEと復元成績とが平行しないので・・・。

[勝田]その細胞群の100%が悪性化したのではないと考えると、残って居る正常細胞が腫瘍化した細胞の動物へのtakeをおさえるのではないかとも考えられます。そこで実験的に、正常細胞と腫瘍細胞を色々な比率で混ぜて復元したわけです。

[安村]逆に正常細胞がfeederになっているのではないかという前提で角永氏がデータを出していますが、結局正常細胞を混ぜたことによる差は出ていません。もっとも角永氏の使った腫瘍細胞の系は、少数で動物にtakeされる系でしたから、例としてはあまりうまくありませんがね。

[勝田]正常細胞の方の比率をぐっと上げられませんか。

[滝井]腫瘍細胞の方の接種数を少しづつ下げていますので、1,000コでtakeすることが確実になれば、正常細胞の方の比率を上げられるわけです。

[山田]1,000コの腫瘍細胞で確実に動物を殺せるというデータをもっていますか。

[滝井]目下結果が出るのを待っています。

[藤井]接種数が少なくなると、動物は延命するわけですか。

[安村]そうですね。ずい分長生きしますね。

[下条]皮下接種はしないのですか。皮下接種だと日を追って経過を観察できるという利点と、再現性が高いという利点があります。

[山田]肉腫の復元は皮下もよいのですが、腹水肝癌の中には皮下につかないものもあります。接種部位によってずい分腫瘍の成長が違います。

[堀川]復元に使った動物の数が少なすぎますね。

[下条]私もそう思います。1群に2匹とか3匹では、一寸あとの数的な処理に困りますね。

[安村]ウィルス屋としてはそう思いますが、ラッテをつかって培養細胞というと、色々難しい問題があるんですね。



《梅田報告》

 今迄報告してきた長期継代例の染色体について報告する。(それぞれ分布図を呈示)

     
  1. (T#150 of 7003-I)ラット肝の移植片から生え出した系で位相差、染色標本観察で比較的奇麗で一様な細胞群から成っていると思われた。しかし染色体数はAneuploidになり、しかも幅広い分布を示している。4倍体に近い染色体数をもつ細胞も認められる。

     

  2. (T#170 of 7003-II)ラット肺を継代し増生してきた系で多角形の上皮性細胞群が石垣状に並び、その間を境する様に繊維芽細胞群が増生している2種類の細胞群から成っている。染色体標本では一応42本にmodeがあり、diploidを保っていることがわかる。

     

  3. (N#29F of 7003-V)ハムスター胎児培養細胞に3HOA 2.5x10-4乗M、6日間作用後長期間継代を続けているもので、6代目、9代目にハムスター頬袋に移植しているが、いまだ腫瘍を作るに至っていない。形態的には最近epithelioidと云った感じの細胞になっている。20代目のものでは、数えた細胞が少いが44本にpeakがあり、更に80本の4nに近い細胞がかなり増加している。

     

  4. (N#29 control of 7003-V)N#29のcontrolで17代目の染色体標本である。この系は前回班会議(7003)で報告した時より増殖がコンスタントに良くなっている。N#29Fと殆同じ染色体数分布を示している。

     

  5. (N#34J of 7004-I)ハムスター胎児細胞に10-4乗M 3HOA 5日間作用後無処置細胞で継代を重ねている系で、培養100日目11〜12代頃より増生がコンスタントになった。形態的にはN#29Fと異り明らかにfibroblastic cellから成っている。このものの染色体数は、42本にpeakがあってhypodiploidであり、又4n近辺にかなりの細胞があることがわかる。

     

  6. (T#211 D)先月月報にT#217Hについて記載したが、これは標本作製に失敗して染色体数を数え得なかった。殆diploid rangeにmodeがあり、ひどいanewploidyにはなっていない模様である。

     一方今回初めて報告する系であるが、T#217Hと同じN-OH-AAFを10-4.5乗M6日間作用させたハムスター胎児細胞が最近増殖が盛んになった。累積増殖カーブを示すが、培養140日目より増殖が極端に良くなったことがわかる。染色体数の分布は42本にピークがあってhypodiploidを示している。4n近辺の細胞はN#29F、N#34Jの細胞より少ない。興味あることはbreak fusionのあまりにも激しい変化を示すmitotic cellが1ケであるが見出されたことである。N-OH-AAF処理は150日近くも前のことであるし、これ程著しい変化を示しているのはふにおちない感じがする。(今迄沢山の標本を観察してきたが、controlでgapは見られてもbreak、fusionがこれ程多く見られたのは初めてである。)

     

  7. Soft agar法をN#29F、Control、N#34J細胞系で行ってみた。いずれもcolony形成が見られず、次いで培地中に0.1%の濃度でpolypeptone(Bactopeptoneと殆同じ効力がある)を加えてみたが、これでもcolony形成は認められなかった。湿度が下り易い炭酸ガスフランキを使っての結果であるが、usual plateでのColony countの結果は(表を呈示)、N#29F系15代のP.E.は6.5%、21代は7.6%、Fibroblastic piled up colonyは13%と6.5%であった。N#29 controlでは18代のP.E.は4.0%、piled up colonyは0であった。N#34J系では14代のP.E.は13.4%、piled up colonyは12%であった。N#29 controlで増殖が盛んになったと記載したが、本実験ではfibroblastic colony形成はなく、N#29F、N#34Jとは一応異ると思われる。fibroblastic colonyの他はepithelioid、endthelialの細胞から成るcolonyである。



 

:質疑応答:

[堀川]pile upしたfocusはみられましたか。

[梅田]みられました。

[勝田]染色体数の分布の最頻値が変わってきているのですから、変異したということは言えますね。腫瘍化と言えるかどうかは未だわからないが・・・。

[梅田]4NQO処理直後に染色体の断裂が多く見られました。

[山田]その場合染色体の断裂を起こしたような細胞があと生きのびて子孫を残すのでしょうかね。

[堀川]ああいう断裂を起こした状態の染色体をみていると、どういう風にreplicationするのか想像もつきませんね。

[勝田]復元してみましたか。

[梅田]復元接種はしてありますが、まだ結果は出ていません。

[堀川]あと復元実験がものを云うわけですね。

[下条]余談になりますが、湿度の下がりやすい悪い炭酸ガスフランキを使う時には、フランキの中に水槽を置いてそれに何枚ものガーゼをたらして、水を吸い上げるようにしておきます。そうするとかなり蒸気が立って、湿度を保つ事ができます。



《藤井報告》

 前号の月報に掲載したデータについて更に詳細に発表。



 

:質疑応答:

[下条]免疫学的な実験の場合、矢張り純系同系の動物で腫瘍抗体を作らせるのでないと、結局けりがつかないのではありませんか。JAR-1系−ウィスターキングという組み合わせでは、又問題が残りますね。

[藤井]同系でも試みたのですが、どうしても抗体が出来なくて、とうとうWKAに切りかえたのです。

[下条]抗原に使う細胞をX線でたたくとか、いろいろ方法を考えてどうにか同系にもってゆくべきですね。それからMHA(mixed hemadsorption)は非常にタイターが高く数万倍のケタだと思っているのですが・・・。

[藤井]ヘテロの系だと数万倍に出ます。でもこの場合、タイターは低いのですが、対照とは有意の差があります。

[山田]IAで反応がなくてMHAで反応が出たというのは、どういう事でしょうか。

[藤井]細胞の種類によってIAで出るものとMHAで出るものとありますね。それは細胞膜面のサイトの問題ではないでしょうか。

[堀川]丸い細胞に赤血球がついているようでしたがcell cycleと関係がありますか。

[高岡]CulbTCでは普通の状態ではこんなに丸い細胞は多くありません。反応を起こした細胞が丸くなっているのだと考えられます。



《下条報告》

 勝田先生から培養細胞のT抗原をしらべるように依頼され、44年中に8株の細胞についてadeno-virus12、SV40のT抗原をFAでしらべた。その結果SV40T抗原は全部陰性、adenovirus12T抗原は7株完全に陰性、1株のみ少し蛍光がみられたが、形態からみてT抗原らしくないので、これも陰性としてよいであろう。検査はすべて陽性対照(adenovirus12 or SV40 transformed cells)を同時においてある。

 adenovirus12、SV40のanti-T conjugateは常用しているので、上の検査は簡単にできたが、研究費を少しいただいた。上の検査には費用は殆どかかっていない。そこでこの研究費を我が国では未だ誰も作っていないadenovirus7とpolyoma virusのanti-T conjugateを作るのに使った。adeno virus7は山本弘史君(予研村山分室)、polyoma virusは田口文章君(北里大)に検討を依頼したので、研究費も御両人にさしあげた。現在色々の方法でハムスターを免疫し、CFでT抗体価、抗細胞成分抗体価などをcheckしている所で、未だconjugateを作るところまでには行っていない。



 

:質疑応答:

[堀川]発癌剤で悪性化しても知られていないウィルスとの相関性をどう考えますか。

[下条]Todaroのhypothesisではウィルスがde-depressionに働くのだとしていますね。変異するためにはウィルスが関与しても増殖にはもはやウィルスは不要だというような事実を幾つか合わせ考えるとde-depression説が正しいかなとも思いますね。しかし、九大の森氏のprogressionという説もありますしね。

[安藤]4NQOがDNAを切る、切られた所に例えばウィルスのDNAがはまり込むということで、de-depressionが起こるとは考えられませんか。

[下条]ウィルスを使うのは、あとにマーカーを残すという点がよいですね。ウィルスに対する感受性を細胞の変異をみる手段として使うのも便利だと思います。

[藤井]抗血清で細胞を処理して細胞膜に変化を与えることによって、変異を起こせないでしょうか。DNAに直接作用を及ぼさない方法という意味で・・・。



《安村報告》

 この4月からいままでの教室名が細菌学教室であったのが、微生物学教室と変更してよいとの内示がありました。これで多少の気がねなく細胞をとりあつかってもよいことになりました。Cell as microorganismとかCell as microbeというコトバが総説にあらわれる時代ですから。もちろんこのCellはMammalian cellの意味でつかわれていることは申すまでもありません。

 ☆AH-7974TC細胞(JTC-16)のQ1-LLLクローンとQ1-SSSクローンの移植成績:

 これまでのL-Sの比較の最後のまとめとしての移植実験の結果をお知らせします。

 ラットは生後6日のJAR-2、脳内接種による6カ月観察の結果(表を呈示)、Q1-LLLのばあいはTID50(Tumor inducing dose 50%)は約3,125コの細胞。Q1-SSSのばあいは10,000コのところで全部生きのこりでclearな結果にならなかった。大勢において、LとSの間にこれまたclrarなひらきが移植実験成績からもえられなかった。野性株のこれまでの移植成績よりおとっている。

 ついで行われた4NQOによる悪性化細胞の腫瘍よりの再培養系Cula-TCとCulb-TCの移植実験の成績は(表を呈示)、Culb-TCの移植率はCula-TCのそれより大幅に高いことがわかりました。このことはSoft agar中におけるcolony formation rateの成績(Culaの法がCulbよりもrateが高い)と逆の関係で、このことからもこれまでのSoft agarの実験成績、つまりS−Lの関係、colony formation rateとの関係にはcorrelationがpoorであるということになりました。はてさて最初の見込みがずれにずれてしまって、しめくくりに大変苦労することになりそうですし、さても悪性化というものは怪物であるとの感が深くなりました。markerとかparameterそのものがmultiple orderであったようですし、一次的に“悪性化”とcorrelateするmarkerの発見そのものが絶望的に困難な様相です。とにもかくにも地道に歩兵の如く匍伏前進というところです。



 

:質疑応答:

[下条]復元実験のタイトレーションで100,000コと1,000コがtakeされ、10,000コがtakeされなかったという結果は必ずしも矛盾した結果とも言えません。腫瘍細胞の復元の場合、接種量が或る程度多いとImmunoresponseが起こることを抑えてしまう。少なすぎると反応が起こるに至らない。というと10,000コ位が丁度反応を起こす適当な抗原量であったかも知れませんから。そうだとするとCulaの方が免疫反応を起こしやすく、Culbは反応の少ない系とも言えます。藤井さんの実験もCulaに変えると同系で抗血清が出来るかもしれませんよ。

[堀川]HAVITOの系でBuDR、8アザグアニンそれぞれどの位耐性が出来ていますか。

[安村]8アザグアニンは未だ。BuDRは10μg/mlまでゆきました。

[堀川]まだ低いですね。

[梅田]ダウン氏症候群の場合、発癌率が高いという話がありますね。

[安村]そう、染色体XXYのものと、正常のXYのものと細胞系を作ってそれぞれ4NQOで処理して変異率を調べてみようかと考えています。

[勝田]悪性化したかどうか何で判定しますか。

[安村]ハムスターのチークポーチへの復元と軟寒天でのPEです。

《三宅報告》

 前回報告したd.d.系マウス胎児由来の細胞に4NQOを処理したものT10は526日を経過し、20代となった。4NQO未処理の群でもその増殖力が強いことを発見し、この細胞がspontaneousに発癌したと考えられる節が増して来た。

 処理群の染色体のmodeは60、または64であることは既報の通りであるが、未処理のものが66(10代目)であることが判明した。また後者では倍増時間が20時間(12代目)で処理群よりも短い。

 液体培地(modifyed Eagle MEM+20%Calf serum)よりcloning efficiencyを検した所(図を呈示)これでも未処理群の方が高い。

 今両群について4回のcloningを完成し、細胞をTD40の閉鎖系に移し、再び染色体、増殖曲線を検索している。なお軟寒天培地での傾向を調査中である。4月3日、18代目の細胞を元の系のマウスの脳に100,000コ及び10,000コ復元接種した。