上の結果を綜合するとtryptophan代謝産物のうち一番proximateと考えられている3HOAと、AAFのproximateの形と考えられているN-OH-AAFと、Nitrosobutylurea、更に発癌性は証明されていないが多彩な病変を惹起するrubratoxinBでgrowth-promoting effectのあることが証明された。そのうち2系列では薬剤処理後目立ったlagがなく、constantな増殖を示した。他の4系列では一時増殖が止ったかに見える時期が続き、処理後120〜150日頃より増殖が再現し、constantな増殖を示す様になった。前者は最近epithelioid、後4者はfibroblasticな形態を示す。3HOA、N-OH-AAF処理後の4系列については再3のsoft agar法による検査でcolony形成を認めず、Hamsterのcheek pouchへの移植実験でも腫瘍形成に致らない。
以上の様な結果から判断するとすれば、之等物質はこのHamsterのfibroblast in vitro系でgrowth-promoting actionしかないと云えるかも知れない。しかし我々のtechniqueの違いからこの様な結果をまねいているのかも知れない。目下4NQO処理によるin vitro carcinogeneisisの実験を進行中であるので、その結果により上記のことがはっきりと云えると思う。(各実験の累積曲線図を呈示)
:質疑応答:
[安村]4NQOによる培養内悪性化の実験で黒木氏のデータでは、ハムスター胎児細胞はどの位の期間で悪性化していますか。
[梅田]大体1〜2カ月ですね。
[安村]これらの薬剤が動物実験のレベルで発癌性があるかどうか確かめておく必要がありますね。殊にハムスターに対して・・・。
[梅田]ハムスターに対して発癌性があるかどうか、分かっているものもあり、分かっていないものもありますから、調べておきます。
[安村]処理後、細胞の形態は変わりませんでしたか。
[梅田]増殖がモタモタしている間は平ったい形の細胞でしたが、どんどん増えるようになってからは、センイ芽細胞らしくなりました。
[安村]培養細胞が悪性化した場合、始の発見はたいてい形態変化ですね。形態変化なしに悪性化したというデータがあるでしょうか。
[勝田]ハムスター細胞を使った場合は知りませんが、ラッテ肝細胞は染色標本では全く形態変化がみつかりませんが、映画でみると動きが違います。
[安村]次に軟寒天内でのコロニー形成によって悪性化を知るには、100万個/シャーレの接種量からみないと、つかまらない場合があります。
[梅田]私の実験は10万個から稀釋していますから、もう一段多い方をみる必要があるわけですね。
[堀川]こういう種類の仕事は労ばかり多くて大変ですね。一番効率のよい発癌剤を選ぶにはどういう方法が一番よいでしょうか。コロニー形成率でみるのがよいか、形態変化でみるのがよいか・・・。
[吉田]目で見ていてパッと変化を知る方法はないものですかね。
[勝田]それは、無いことを保証しますよ。
[安村]今のところ、一義的に発癌とむすびついた現象はありませんね。たまたまハムスターではパイリング アップという現象が悪性化と平行しているらしい事が見つかったので、仕事が進んでいるわけです。
《堀川報告》
培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(23)
前報では熱処理またはhydroxyurea処理をうけた細胞で相当までにDNA合成能を低下させた状態においても、その後に4-HAQO処理によって切断されるDNAの一本鎖切断を再結合し得る能力をもつことを示したが、今回はこの仕事に関連してpuromycin処理後の細胞について得られた結果を報告する。
10μg puromycin/mlを含む培地中で前もって72時間培養した細胞を(10μg puromycin/mlという濃度は基礎実験から得られた濃度であるが、ここではそれらの実験については省略する。) 1x10-4乗M 4-HAQOで30分間処理し、その後同濃度のpuromycinと1μci H3thymidine/mlを含む培地中で培養し、各時点で細胞をとり出し、細胞内DNA中に取り込まれたH3\TdRの活性を測定した。(図を呈示)結果を、前報と同様に対照区(puromycinや4-HAQOで全く処理されていない細胞群)の24時間目における全放射活性を100とした場合の各実験の活性でみると、puromycinで前もって72時間処理され、次いで4-HAQOでDNAの切断をうけ、しかる後、puromycin存在下でDNA合成能をみたものでは、対照区の1/350にまでその活性が低下している。又同時にpuromycinのみで処理された細胞群や、4-HAQOのみで処理された細胞群(この場合はH3TdR取り込み時にpuromycinは存在しない)では対照群に比べて、取り込み能は、それぞれ1/20または1/100にまで低下している。
では、このように前もって72時間puromycin処理をうけた細胞ではその後に起こる4-HAQOによって切断されたDNAの一本鎖切断をpuromycin存在下で再結合しうるか否かということが問題になってくる。この点をalkaline sucrose gradient法によって、検討した結果、此のような条件下では全くと言っていい位に再結合は認められない。
ここで興味あることは4-HAQO処理を含めて熱処理、あるいはhydroxy-urea処理をした場合には対照区のDNA合成能のそれぞれ1/555または1/750にまで細胞内DNA合成能を低下させることが出来た。しかるにこれらの条件下では総じて完全と言っていい位に、一本鎖切断の再結合は起り得た。一方、今回のpuromycin処理では対照区のDNA合成能の1/350にまでしか低下出来ないにもかかわらず、4-HAQO処理によって切断されたDNAの再結合は起り得ないという結果が得られた訳である。
以上の結果は正常DNA合成系と修復DNA合成系は、やはり全く別個の過程と考えるべきで、こうした条件下ではpuromycinによって修復DNA合成系に関与する酵素あるいは酵素群の生成は抑えられるために、切断DNAの再結合は進まないと考えるのが妥当ではなかろうか。
:質疑応答:
[安藤]X線とH3のβ線とを同じとみたわけですね。
[堀川]そうです。
[勝田]4NQO処理でアンスケジュールドDNAを認められるのはどの位の時間ですか。
[堀川]約1時間です。
[勝田]それでは処理後もっと短い時間の取り込みも調べておく必要がありますね。
[永井]X線の量を増してゆくとランダムになってしまうのですね。
[堀川]私共の場合、治療用のX線を実験に使っているものですから、10,000r照射するのに1時間もかかります。勿論いろいろ注意し乍ら実験していますが、そういうドースレイトの大きさから来る乱れがあるのです。しかし又化学物質の場合は、処理時の細胞濃度、処理後の残存物の問題など細かい調整が必要ですね。
[永井]4NQOの処理濃度が高くなると、DNAの一本鎖切断が時間的におくれてくることも大きな問題ですね。
《安藤報告》
SDS−プロナーゼによるDNAピークの蛋白含量について
月報No.7006に報告したように、これまで使用されて来た動物細胞DNAの分析法であるいわゆる寺島法は問題があった。すなわち連続的なphosphodiester結合をしているDNAとして分析しているのではなくpronase感受性な結合、すなわち蛋白を介してDNAが結合し一見巨大分子として遠心場で沈降しているにすぎなかった。この点は更に他の蛋白分解酵素その他の方法によって確認しつつある。詳しくは次の機会に報告します。
次にこの結合蛋白はどのような性格のものでありどのような機能をもっているのであろうか。DNAの複製、DNA上の遺伝情報の発現との関連は?等々種々の問題を提起している。先ず今回は蛋白含量を正確に測定してみた結果である。方法は蔗糖密度勾配遠心で得られたDNAピーク(プロナーゼ±で)をpoolし、ホルマリン固定をした後にCscl中で密度平衡遠心を行い、そこで測定された密度から蛋白含量を計算する方法である。(結果図を呈示)FreeDNAと各ピーク分劃の位置を比べると明らかに後者はFreeDNAよりも軽い密度の側にskewしている。したがってこれ等の蔗糖密度分劃は完全にFreeのDNAではなく、密度を軽くするような物質とのcomplexである事を示唆している。そして、この物質はpronaseの作用その他の事から考えると蛋白と思われる。蛋白とすると次の式に当てはめてその正確な含量を計算出来る。
(計算式と表をを呈示)結果はPronase±いずれの場合も蛋白含量0−2.3%となる。
Chromatinの中のDNA対蛋白比は1.0〜1.5くらいである事、この蛋白の殆ど全てはhistoneである。一方ここで分析された本物質の蛋白含量は2.3%、したがってこの蛋白はhistoneではないと思われる。今後この蛋白のより詳しい性格ずけを急ぎたいと思う。
:質疑応答:
[勝田]4NQOとプロナーゼが共存した場合、4NQOがプロナーゼを失活させるという事は考えられませんか。
[安藤]それも考えられます。しかしこの実験では先ず4NQOで30分間処理してからプロナーゼ処理をしています。4NQOは処理後30分で細胞内には4NQOの形で残っていないというデータを持っていますから、この場合はプロナーゼの失活は考えなくてよいと思います。
[勝田]4NQO処理後のアミノ酸の取り込みはみてありますか。
[安藤]みていません。
[難波]パパイン、トリプシンではどうですか。
[安藤]まだみていません。
[堀川]プロナーゼと4NQOがDNAを同じように切断するというデータは、私のデータの説明にも役に立ちます。アンスケジュールドDNAの取り込みについては、まだはっきり説明出来ませんね。
[勝田]前にも言いましたが、電顕レベルでみておく必要があります。処理後に或る種のアミノ酸を特異的に取り込むかどうかということも、アミノ酸をラベルしておいて取り込ませ電顕レベルのオートラヂオグラフィでみられるのではありませんか。
[永井]プロナーゼの阻害剤を使ってどうかということも、みておく必要がありますね。それから4NQOが直接にアミノ酸の化学結合を切るというより4NQOが附くことによって、細胞内のプロナーゼ活性のようなものがひき起こされるとも考えられますね。
[難波]アミノ酸とアミノ酸の間が切れるのですか。アミノ酸とDNAの間が切れるのですか。
[梅田]SH基の問題はありませんか。
[吉田]ヒストンとは関係ありませんか。又リンカー間のDNAの長さはどの位ですか。
[安藤]ヒストンはありません。DNAは5x10の8乗の長さに切れます。
[永井]プロナーゼは無差別に蛋白を切りますから、他の色々な蛋白分解酵素で特異的な所を切るかどうか、調べてみる必要もありますね。
[松村]プロナーゼが切ったということだけで、リンカーとしてのアミノ酸があると簡単に言い切ってよいものでしょうか。プロナーゼで切ってしまうと細胞を殺してしまいますから、そういう形でDNAが切れていると考えられませんか。
[勝田]若しアミノ酸が切られているとすると、DNAの修復はどういう形で行っていると考えますか。
[野瀬]必ずしも縦につなげるリンカーと考えなくても、DNAの束をたばねる形の蛋白かも知れません。
[堀川]リンカーとして説明する事は易しいのですが、まだ色々と問題はありますね。
[永井]4NQOとリンカーとの関係は、4NQOがプロナーゼ処理の時と同じ大きさにDNAをきるという一点だけですね。リンカーがあるというのは、うなずけますが、4NQOとリンカーとの関係は、まだはっきりしているとは言えませんね。
[勝田]4NQOで処理した場合、ヒストンは切れますか。
[安藤]ヒストンの問題は塩濃度を変えることによって除外出来ますから、この場合考えなくてよいと思います。
[梅田]アルカリの方はやってみましたか。
[安藤]やってみたいと思っていますが、技術的に大変難しいのです。どうしたら信用できるデータが出せるか問題です。リンカーの事は今までも大勢の人が問題にしながら、結論が出ないまま、過ぎてきたことなので、十分慎重にやりたいと考えています。
[梅田]二重鎖の場合の切断がバラバラにならないでピークになるということの理由は、少なくとも説明できますね。
[吉田]化学発癌剤が細胞をアタックする場合、細胞の中へ入ってライソザイムを壊すのでしょうか。
[安藤]4NQOの場合ラジカルが出来て、ラジカルを生ずるものが発癌性があるとされています。松村さんの協力で、アンチラジカルを使うとDNA切断を抑える事が出来るかどうか実験を計画中です。
《山田報告》
今月も引続き、細胞表面の抗原抗体反応を細胞電気泳動法により測定する方法を基礎的に検索し、直接培養細胞を使って居ませんので、その実験成績を簡単に書きます。
同種抗体(血清中)の検索に引続き、免疫物質を産生すると云われている感作脾リンパ球様細胞とtarget cellとしてのAH62F(ラット腹水肝癌)とを直接接触させた後の、癌細胞の変化を細胞電気泳動法により検索しました。AH62F 1,000万個 I.P.移植後(ラット)5〜6日目に脾摘出し、前報で書いた様に脾細胞浮遊液を製作。AH62F 200万個に対し感作脾細胞4,000万個(20倍)を混合し、これに正常ラット血清(自然抗体を吸収したもの)0.5mlたしたもの、そして細胞を同様に混合した後に、56℃30分非働化した正常ラット血清を加へたもの、更に脾細胞とAH62FをそれぞれTwin tubeの片方づつに入れ、血清を含む上澄のみが、Twin tubeの窓に挿入されたミリポアフィルター(孔径0.45μ)を通して交通させる様にした、3つの組合せの細胞群を同一条件で37℃、30分、Slow agitationした。其の後Slowの遠沈により可及的にAH62Fのみをそれぞれ集めて、その細胞の電気泳動度を10mMのカルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液中にて測定した。それぞれの平均泳動値及び、その測定標準誤差を表に示します。(表を呈示)
非活性の血清を加へたもの、及びTwin tubeで細胞間を分離したものをそれぞれ対照として活性血清を加へて脾細胞とAH62Fと接触させた場合の電気泳動度の差は、感作脾細胞との接触によりAH62Fの泳動度は有意の差を持って低下してゐますが、正常ラット脾細胞との接触ではこの変化が起りません。
この変化は感作された脾細胞の表面に存在する抗体がAH62Fと接触することにより、その表面の抗原と反応して起きたものと考へます。しかもこの反応は補体或ひは正常血清に含まれる何かの物質を必要とすると考へられます。
従来細胞結合抗体は補体を必要としないと考へられて居ますが、この実験成績のごとく接触30分後の変化を測定観察してゐる様な成績の報告はありませんので、この反応の補体の意義についてはなほ不明な点が多く、或ひはこの実験で検出される変化は従来知られて居る細胞結合抗体と同じものかどうかわかりません。少くとも細胞電気泳動法では移植後3〜7日目の血清には流血中に抗体は検出されません。
:質疑応答:
[山田]細胞性抗体というものについて、どう考えますかね。
[藤井]細胞性免疫というのは、フモラールな抗体が細胞表面に附着することだとされていますね。
[安村]免疫と一口に言っても病気の場合にもいろいろありますね。血清抗体で話がつかなくて、リンパ球を移すことによってプロテクト出来るものもありますしね。
[勝田]マウスとかラッテ由来の培養細胞の場合、同種の血清が細胞の増殖を阻害することがあります。補体の問題以外に血清自身の細胞に対する影響も考えておく必要がありますね。脾臓からリンパ球をとるのはどうしていますか。リンパ球だけと言えますか。
[山田]脾臓をつぶして、ガーゼで濾過して小さなものを選んでいます。リンホイドcellであって、リンパ球だけではありません。
《安村報告》
☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき):
月報No.7003に“これまで得られた結果はかんばしくありません。Cloneがとれそうでいま一歩のところで足ぶみ状態というところです”と書きました。また討論のところで“試験管の方は増殖してくれませんでした”と答えました。
3月ごろまでの経過では、それぞれの系Hepro-1,2,3,4ともシャーレにまいた細胞は増殖をつづけてきたのにどういうわけでか、コロニーの中心部からnecrosisにかかり継代が困難になってきたところでした。“かんばしくありません”と書いたときはもはや継代が絶望的であると判断したために、そう報告したのでした。そのご、九死に一生というわけか、待てば海路の日よりというか、Hepro-4-1の一部分(それも、すべてシャーレにまいたあとシケンカンの残りカスに培養液を加えておいたもの)が(試験管に残っていた部分)が増殖をはじめてきたのに気付きました。
6月11日になって思いきってトリプシン消化後その細胞をシャーレにまいてみました。予期に反して(たいへんさいわいなことに)よく増殖して再びコロニーを作ってくれました。なんと昨年10月4日以来実に8か月ぶりということです。これから順調に増殖してくれることを望んでいます。細胞形態は初代の上皮性の形態とかわっていないようです。しかしいまのところ形態以外に肝実質細胞であるという証明はなされていません。
細胞数の絶対的な不足のため、具体的な実験がまだくめない状況です。いづれ細胞増殖が進んでから報告できると希望をもっています。希望だけに終らないようにしたいと希望しています。
細胞集団の中には2核の細胞やら、細胞の大小があります。これはin vivoでも肝に普通にみられるそうですから気にすることはないと思っています。分裂像も100xの一視野に多いところでは3〜4コもみられます。細胞質内に顆粒が多い。
:質疑応答:
[山田]昔、佐々木研の井坂氏が、動物継代のラッテ腹水肝癌の肝癌島の中にセンイが見られると言ったことがありましたね。
[三宅]本当のセンイかどうかは銀で染めて見ればすぐ分かります。
[高岡]岡山の株にしても、安村先生のクローンにしても1コから増やしたものが、染色体の面からみても、形態的にみてもずい分バラツキがあるのですね。
[安村]肝細胞の場合には、正常でも2核や何かがあります。染色体数の分布も、2倍体は60%位です。