【勝田班月報:7012:旋回培養による組織集塊形成能】

《勝田報告》

     
  1. 合成培地内継代細胞株の4NQO処理

     たとえば安藤班員は合成培地内継代株の数種を用い、4NQOによるDNA鎖の切断と修復をしらべているが、これらの株が4NQO処理により悪性化したという実証を示さない限り、それは発癌機構の研究をしているとは云えない点に重大な弱みがある。  我々はこれらの株のなからか、JTC-25・P3株、JTC-21・P3株をえらび4NQOによる悪性化を図っている。両者ともラッテ肝由来で“なぎさ”培養で変異した株であり、前者はもとRLH-5・P3とよばれ、月報にもしばしば現れた株である。後者はもとRLH-1・P3とよばれた株で、4NQO実験は最近はじめたばかりである。

     この両株をえらんだ理由は、前者はイノシトール要求を持たず、形態的には硝子面に敷石状にひろがるのに対し、後者はイノシトール要求を有し、球状の細胞が多く、硝子面への接着性も低い、という対蹠的な性状をもっているからである。

     RLH-5・P3(JTC-25・P3)は、4NQOに対する抵抗性が高く、細胞電気泳動像においては“なぎさ”細胞型を示すことを山田班員が報告している。しかし、10-5乗Mの4NQOで1回30分宛、処理をくりかえすと、悪性型の像に変化したそうである。そこで処理群と非処理群とをそれぞれ2匹宛の生後24時間以内のラッテに復元接種した。しかし結果は陰性らしく、これまでのところでは腫瘍は形成されていない。そこで新しい方法でさらに復元接種をしてみているが、これについては近い内に報告する。

     JTC-21・P3(RLH-1・P3)株は4NQOに対する感受性がきわめて高く、10-5乗Mと3.3x10-6乗Mの2種類の濃度で30分間処理したところ、いずれも細胞が全部死滅してしまった。もちろん前者の濃度の方がその打撃の与え方は早かった。

     これらの合成培地内継代株を4NQOで悪性化できるかどうかということは、今後の研究のためにぜひ確かめておかなくてはならぬ問題であるので、これからも継続して行う予定である。

     

  2. 4NQO処理により培養内悪性化したラッテ肝細胞株の染色体分析(各々図を呈示)

       
    1. 自然発癌した系(RLC-10(B)):

      染色体モードは40本にあり、あまり広いばらつきは示さないが、32本以下の数のかなり多いことは少し気にかかる。この細胞集団に異常分裂の多いことを示唆し、あるいはその内にこのモードも変わってしまうかも知れぬことを暗示している。

       

    2. その系を動物に復元接種し、さらに再培養して継代している系(RLC-10/R/TC):

      モードは39本に減少し、30本以下のものも減少している。

       

    3. 4NQOによる癌化細胞系(RLT-1株):

      41本がモードで、35本以下もかなり多く、ばらつきは余り広くない。

    4. その復元腫瘍の再培養系(CulaTC株):

      この系はきわめて珍しく、モードが74本に移り、しかも染色体数が広く分散している。Selectionによるものか、Mutationによるのか、或は培養内で悪性化細胞を永く継代して行くとこのように染色体数が3倍体rangeに移り易いものか、色々のことを考えさせるデータである。

       

    5. 4NQOによる培養内悪性化系(RLT-2株):

      これも他の4NQO悪性化株と同様に、モードが少し左にずれ、41本となっている。

       

    6. その復元腫瘍の再培養系(CulbTC株):

      これはひどいばらつきを示し辛じて40本がモードと云えるかどうかという始末である。

       

    7. 4NQOによる培養内悪性化株(RLT-5株):

      やはり40本にモードが下がっている。34本以下も多い。

       

    8. その復元腫瘍の再培養系(CuleTC株):

      この培養もモードが左に移り39本である。

 

:質疑応答:

[難波]染色体数の少ない所にもピークがあるのは何か意味がありますか。

[高岡]このデータは染色体を主観的に選ばずに、無作為に標本を写真に撮って染色体数を数えました。ですから染色体の一部が散らばっていても残りの染色体が一塊になっていて見かけ上、分裂細胞1個分に見えるようなものが、染色体数の少ないものとして頻度数に入ったものと思います。

[吉田]そうでしょうね。大体39本とか40本位のものは染色体数としては減っていてもセットとしては減っていない場合が多いのです。例えば棒状染色体2本がくっついて1本のメタセントリック染色体になると1本減ったことになります。それ以上に非常に少ない数の染色体はたいてい標本を作る時に散らばってしまったものだと考えられます。

[難波]L細胞は何系のマウスに復元するのですか。

[勝田]C3Hです。

[堀川]L株はC3Hでもつかない方が多いですね。

[梅田]癌研の乾氏の、タバコタールで処理してtakeされるようになった、という報告があります。

[高岡]L・P3を4NQOで長期間処理したものを、C3Hマウスの皮下へ接種したら、小さなtumorを作ったことがあります。

[難波]その処理の濃度と添加期間はどの位ですか。

[高岡]濃度は3.3x10-6乗M30分を3回その後5x10-6乗Mで47日間添加し続けました。

[山田]L・P3は軟寒天内でコロニーを作りますか。

[安村]L・P3を軟寒天で培養したデータを持っていません。

[安藤]私はやってみましたが、合成培地だけではコロニーを作りません。血清を添加すれば作ります。



《山田報告》

 ラット肝細胞培養中、自然発癌化前後の細胞電気泳動的構成の変動;(各々図を呈示)

 凍結保存前のRLC-10株の泳動的変化

 ラット培養肝細胞RLC-10系は本来形態的に均一であり、そのTumorgenesityの証明されない時点でのヒストグラムは、電気泳動的に極めて均一な細胞集団であり、ノイラミダーゼ処理により、平均泳動度は増加して居ましたが、其の後復元接種して腫瘍性の証明された時点では泳動パターンがかなり変化して来ました。A、B、CのSublineとして維持された株について検索した所、泳動的な細胞構成にばらつきがやや生じ、しかもノイラミダーゼ処理により平均泳動度が殆んど変化しない状態になりました。この時点でpopulation analysisをすると、明らかに4NQOで癌化したRLT-1、Exp.7-1(岡大株)等の悪性化肝細胞集団に比較して、悪性化が推定される(泳動的に)細胞の出現頻度がこの自然癌化株には少く、従って細胞群全体としての泳動パターンは悪性型を示さないことが明らかにされました。この自然癌化株RLC-10のA、B、CのSubline中、最も本来のRLC-10の泳動パターンと類似している系は“C”であることもわかりました。

 凍結保存後のRLC-10(C)のクローン株の泳動パターン

 最もoriginalの型に近い(C)株の凍結保存後の培養株からのコロニー株の三系(clone1,2,3)が分離されましたので、これと更にこれらのコロニーを取り去った残りの細胞をmixした系(miced株)について、その泳動パターンを検索しました。

 この三系の泳動パターンのうち、最も均一な集団と思われるものは、clone2であり、ノイラミダーゼ感受性を検索した成績ではclone1及びmixed株にその感受性が出現して来ました。clone1の染色体モードが73であり、clone2及び3のそれは42、mixed株のそれは41であると云う成績(No.7011、勝田)とこの泳動パターンの成績はよく一致して居ると考へられます。即ち

     
  1. clone2が最もoriginalなRLC-10株によく似ている。しかしノイラミダーゼ処理による変化は異る。  
  2. clone1とMixed株は悪性化している可能性が大きい。

 という所見です。この成績を更に写真記録式泳動装置により分析し、clone2株内に悪性化が推定される細胞があるか、若しあればどの程度の頻度で存在するかをこれから検索したいと思って居ります。

 寒天培地に生じたRLT-1のコロニー株

 形態学的にoriginalのRLC-10株のそれに近いコロニーがRLT-1より得られ分離されたので、その泳動パターンを検索してみました。この株の泳動パターンは均一です。前項のclone2より更に均一です。この株は4NQOにより悪性化した時点における泳動パターンと極めて良く似て居ます。即ち悪性化した後、約1年後にかなりheterogenousな構成を示し、全体としてノイラミダーゼ処理により泳動度が低下したものが、再び悪性化直後と同様な状態の株として分離されたと云う結果です。

 しかし、このコロニー株が非悪性集団であると云うより、悪性化した細胞数が少ない集団であると考へた方が妥当と思われる。この株についてもpopulation onalysisを行いその構成をこれから調べてみたいと思って居ます。

 細胞電気泳動による細胞集団分劃装置“Elphor”(Cell electrophoretic fractionation)

 漸くこの機械が手許に届きました。泳動的な性質に差のある細胞集団を分劃する機械です。約50cmの間隔にある電極の間に30-50V/cmの電圧勾配をかけて細胞を泳動させることが出来ます(従来の測定装置では3-5v/cmの電流を用いていますから約10倍の電気勾配)。

 試みにこの機械を用いて、5種の酸性色素を混合した液を分劃した所、きれいに分離されました。従ってこの泳動条件を種々工夫することにより細胞集団を分劃することが出来さうです。

 即ち悪性化細胞を含む細胞集団から、悪性化細胞のみを分離出来る可能性があるわけですが、しかしなお分離には種々の基礎実験が必要です。  少くとも細胞を泳動させるメヂウムの撰択、また分離された細胞を再培養するために、この機械の消毒をどの様にしたらよいか等々解決しなければならない問題が山積して居ます。なんとか努力したいと思って居ます。



 

:質疑応答:

[安藤]この分劃装置では途中の管の内壁に細胞が附着しませんか。

[山田]これから色々試してみます。

[藤井]この機械で実際に細胞を分劃している人が居ますか。

[山田]血球細胞を分けたデータがあります。

[藤井]赤血球と白血球はきれいに分かれますか。

[山田]赤血球とリンパ球は多少混じるゆです。白血球はきれいに分かれます。

[藤井]免疫学的なことにも活用出来ますね。

[堀川]細胞を無菌的に分けられると色々使えますね。泳動度と発癌性の問題も解決できそうですね。

[吉田]染色体の分劃はどうですか。

[山田]染色体の場合は分劃の際のArtifactが問題になりますね。

[勝田]無菌的に分劃出来るとなれば、発癌剤処理後の細胞を経時的にとって悪性化した細胞を拾い出すことも出来ますね。これは安村班員に軟寒天を使って調べてもらいたかったのですがね。

[安村]軟寒天内でコロニーを作った細胞は悪性のものが多いというだけで、必ずしも腫瘍性と平行していません。私は癌化という現象は1ステップの変化ではないと考えていますので、経時的に追ってもどこで悪性化したかを捕らえるのは難しい事ですね。

[吉田]癌化現象は1パツではありませんね。変異とセレクションをくり返して癌化に至ると思います。しかし癌化という定義をどこにおくのか、最初の1パツを癌化というのだと又話は別ですね。

[安村]悪性化したといっても動物にtakeされなければ仕方がないじゃないか−という、そこを何とかしなければ、癌化の定義といっても問題が難しいですね。非常にグロープな物差しでしか測れない所が癌の宿命でしょうか。

[堀川]高等動物の細胞では前癌状態からでもreverseできるのではないでしょうか。前癌状態から本当の癌になるのに又何段階か必要ですね。

[勝田]一度悪性化した細胞が又変異して可移植性を失っても、それはもとの正常に戻った訳ではありません。腫瘍性と可移植性とは区別して考えなければなりませんね。DNAの間違った修復が変異に関係しているとは考え難いという意見が多くなってきましたね。

[堀川]放射線屋は関係していると考えたいのですが、実際には修復能力をもたないものに癌化が多いというのが苦しい所です。

[山田]ところで、この機械で扱ってはならない細胞があったら教えてください。例えばウィルス発癌の細胞を一度かけたら、あとのものは皆そのウィルスに感染して駄目になったというような事になると困りますから。

[安村]まあ、マウスの系は危ないでしょうね。SV40などのかかったものも、やめておいた方が安全ですね。



《高木報告》

     
  1. 腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験について

     この実験は始めに行ったものでcontrolの細胞が50代で1/3にtakeしたので、はっきりしたことは云えなくなったが、54代であ0/2でtakeされておらず兎も角これまでのまとめが出たので一応掲載することにした。(膨大な成績表を呈示)

     これをみると、RG-18 10万個では特に差はなく、1万個でRT-9(control)を100万個混じた場合潜伏期が短縮され、RG-18 5,000コ、1,000コでは有意の差なく、100コではRT-9を100万個、10万個混じた場合、takeされた率および、潜伏期ともに腫瘍形成能の促進を思わせた。RG-18、10の場合もRT-9、1万個、10万個、100万個混じた場合むしろ“促進”を思わせるdataであった。

     この様な傾向はつづいて行った対照細胞としてRL細胞を用いた場合にもみられることは、すでに報告したところである。現在、腫瘍細胞も正常細胞もWKA rat originのものを用いた実験を計画中である。

     

  2. ラット胃の培養について

     これはすでに先に報告したが、今回は今少し詳細にのべてみたい。

    生後0〜5日目までのラットの胃を無菌的に摘出し、漿膜は出来るだけはがして抗生物質(Pc、SM、Mycostatin)を含むHanks液中にしばらく浸し、メスで細切してplasma clotを用いることなくTD-15型培養瓶にて培養した。LH、199、MEM、LH199、Mod.Eagle・・に10%CSをまぜた培地を用いたが、これらの中ではLH+199が最もよい様に思われた。

     上皮様の核小体の比較的はっきりした細胞の増殖がおこるが、pas染色は陰性であり、これらの細胞はrefeedしている間に3〜4週で発育はとまってしまう。長期間培養出来るように検討中である。(写真を呈示)

     細胞が索状にあるいは腺腔を形成するかの如くして増殖している場所もみられた。

     

  3. l-asparagineのラット腫瘍細胞の増殖に及ぼす影響

     先の班会議でl-asparagineが、ラット腫瘍細胞(spont.transformationをおこしたもの)に対して増殖促進効果はないようであると報告したが、その後の実験によりやはり効果が認められるようで、目下検討中である。

     この細胞は1603+5%CSで最もよい増殖がみられ、ついでMEM+Asp.+5%CS、MEM+5%CSの順である。加えるAspragineの濃度はこれまでの報告されているように50μg/mlが一番適しているようであった。



 

:質疑応答:

[難波]この細胞系では何日くらい培養した時に自然発癌しましたか。

[滝井]約1年半くらいです。

[勝田]報告は最後にちゃんと結論を云わにゃいけません。動物に復元接種する時、正常細胞を混ぜてやると悪性細胞単独で復元した時よりもtakeされる率も高くなるし、延命日数も短くなる、ということですね。

[山田]其の理由について何か考えていますか。

[高木]使っている細胞をとった動物の系と接種した動物の系が、ウィスターキングAとウィスターで免疫的にやや問題がありますので、宿主側に免疫的撹乱が起こるということも考えられます。

[山田]正常細胞を混ぜた時と混ぜない時とで出来た腫瘍の像に違いがありますか。

[高木]殆ど違いがありません。

[堀川]宿主側の免疫的撹乱という事なら、生きている細胞でなくてもよい訳ですね。

[高木]混ぜる正常細胞の方を全く種の違うもの、例えば猿の細胞を混ぜてみるとか、死細胞を混ぜてみるとか、又完全にアイソの系でどうなるかとか、色々実験をしてみたいと思っています。

[堀川]単独実験で腫瘍の発現までの日数が、入れた細胞の分裂回数と平行しているでしょうか。少数細胞の方が比として早く発現しているのではないか、つまり必要以上の細胞を入れると無駄な分裂があるのではないかという感じがします。

[吉田]ウィスターとウィスターキングAとでは抗原性は余り違わないのではないかと思いますが・・・。

[梅田]培地中の牛血清に対する抗体ができることが一枚かんでいませんか。

[難波]血清に対する抗体が出来る前に腫瘍が発現すると思います。

[高木]そうですね。

[藤井]単独接種では抗原量として不足で、混合接種の方は抗原量を満たすという事は考えられませんか。抗体が出来ることで腫瘍の増殖が増すというデータもあります。

[勝田]正常と腫瘍の接種部位を変えるとどうでしょうか。

[山田]又は接種する時間を少しずらしてみると、夫々の細胞の反応がはっきりすると思います。

[三宅]胃の細胞はもとの胃のどこの部分が培養されたか判りますか。

[高木]パス陰性です。どこの部分から出たのか今はまだ判っていません。



《堀川報告》

 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(28)

 (表を呈示)SDS法で細胞をlysisさせる際、そこにpronaseや2-mercaptoethanolが存在すると中性蔗糖勾配遠心で分析されるDNAは更に小さなものになる。さらにまた4-HAQO処理をうけた細胞をpronaseを含むSDSで処理しても、4-HAQOとpronaseの両効果は相加的に現れない。つまり4-HAQOのDNA上のattack siteはどうもpronase sensitiveのsiteではないかとする安藤さん達の実験が追試し得た。

 またEhrlich細胞蛋白をあらかじめH3-leucineでラベルしたものを用いて、このlabeled proteinをSDS溶液中に含まれるpronaseで、あるいは4-HAQOで処理した際、pronaseはSDS中でも蛋白を分解する能力をもつが、4-HAQOはこのような能力はなく、このことから、同じ蛋白部分をattackするにしても4-HAQOの場合にはpronaseとは異なった反応で蛋白部分の切断を起こすものと思われる。

 またpronaseとX線との関係を、pronaseと4-HAQOの相互関係で調べたように検索しているが、それらについての明確な結果はもう少し実験を重ねた上で報告する。



 

:質疑応答:

[安藤]レプリカに使った道具の作り方について一寸説明して下さい。

[堀川]プレートにキャピラリーを沢山立てて、そのキャピラリーの先にリング状のスポンジを糊で張り付けます。このスポンジがないとガラス面にキャピラリーの先が密着しないために、うまく複製することが出来ません。

[安藤]トリチウム水の濃度はどの位ですか。

[堀川]1,000μc/mlの濃度から始めました。4日間で9,000r当たっても生きた細胞が残っています。X線とβ線はやはり違うものですね。

[安藤]トリチウム水で培地をつくるわけですね。細胞の増殖に対して、影響はありませんか。

[堀川]トリチウム水が入っただけで分裂は抑えられます。しかしトリチウムを含まない培地にもどすと、すぐ又分裂増殖を始めます。

[吉田]コロニーレベルでレヂスタントがとれる訳ですね。それぞれのコロニーの染色体は調べましたか。

[堀川]まだ染色体を調べるところまで行っていません。細菌と違ってはじめからプレートにまく訳にゆきませんでしたので、今濃縮している段階です。

[藤井]X線の場合、温度とか酸素の影響はどうですか。

[堀川]温度については、はっきり判りませんが、酸素存在下ではラジカルが出来ても安定化されtoxicityが上昇するので細胞がよく死ぬと言われています。

[藤井]するとこのやり方でselectionに使えるかも知れませんね。

[堀川]それも考えられます。私としてはX線と4NQOがどうしてああいう違った切り方をするのかという事に興味があります。

[吉田]紫外線はどうですか。

[堀川]紫外線も使うつもりですが、照射してから後に又小さく切れるので、なかなか解析が難しくなります。

[吉田]X線と化学発癌剤では切る場所が違うのでしょうか。



《安藤報告》

 L・P3DNAの二重鎖切断に対する還元剤の効果

 メルカプトエタノール(ME)がL・P3細胞のDNAに二重鎖切断を起す事(連結蛋白の切断)を報告して来た。これに関連してMEその他の還元剤がファージλ、ポリオーマのDNAに対してヌクレオチド結合の切断を起すことが報告されている(PNAS,53,1104,1965;J.Mol.Biol.,26,125,1967)。しかしそれ等の作用は、これ等の還元剤により生ずるラジカルによる切断である事も示されている。そこで我々もMEの他にどのような還元剤がL・P3DNAに作用するかを調べた。(図を呈示)アスコルビン酸(ビタミンC)は20mMでpronaseで切断される大きさ迄分解した。ハイドロキノンも同様に切断を起したが100mMでもなおpronaseのレベル迄は分解出来なかった。次にもしもこれ等の還元剤による切断がラジカル反応によっているとすれば、いわゆるradical scavengerによって抑制される筈である。今回はMEの作用に対してエタノールの効果を調べてみた。結果は全く効果はなかった。すなわちMEの二重鎖切断の作用は還元作用によるのであって、ラジカルによる切断ではないことを示唆している。しかしこの点は更に追究する必要がある。



 

:質疑応答:

[堀川]プロナーゼで最高に切っておいて更にビタミンCをかけるとどうなるでしょうか。又温度の影響も大きいと思います。

[安藤]薬剤の濃度もincubation timemo小さく切れる限度があって、それ以上濃くしても時間をかけても切断は進まないようです。

[堀川]radicalの可能性をエタノールをradical scavengerとして用いた実験だけで否定することは出来ないと思います。その他にもcysteine、cysteaminなど用いて実験する必要がありますね。特に動物細胞の系でエタノールがscavengerだという実験はまだされていないようです。

[梅田]DNAに蛋白があり、S-S結合が切れる−という所はよいと思いますが、4NQOが本当にS-S結合を切っているのでしょうか。

[安藤]S-S結合を特異的に切っているというevidenceはありません。単に蛋白を切っているということです。

[永井]ビタミンCと4NQOではどちらがより小さく切れますか。

[安藤]濃度にもよりますが、4NQOの方が小さくまで切ることが出来るようです。ですからその作用は同じではないと思っています。

[永井]ビタミンCとか4NQOのDNA切断がfree radicalによらないという点がまだ問題ですね。そこを何とかはっきりさせられると、もっとはっきりした見方が出来るのではないでしょうか。

[堀川]そうですね。もう切断の薬剤のほうはあまり数を増やさずにscavengerの方を増やして一つ一つ事をはっきりさせて行く方がよいと思います。

[安藤]4NQOとMEのDNA切断の違いを考えると、MEは二重鎖を切る、4NQOは二重鎖も切るが一重鎖も切る、そして濃度を上げてゆくと一重鎖切断が多くなって二重鎖の切断に近いような重なった切り方も増えてくるという事ではないでしょうか。

[勝田]4NQOでもphotodynamic actionがあるのですから、free radicalの可能性はそう簡単に否定できませんね。

[堀川]UVの実験のように暗室でやると、違った結果が出るかも知れませんね。

[藤井]プロナーゼ、MEなどはin vivoでも作用がありますか。

[安藤]プロナーゼはまだやってみていません。トリプシンではDNAの切れ方がsingle peakになりませんでした。

[永井]4NQOがアミノ基の末端、カルボキシ末端につくとすると非常に特殊なつき方をしていると考えられますね。DNAと蛋白との結合の様式がどんなものか考えてみるのも面白いですね。

[堀川]大場氏はDNAそのものには影響がなくても、DNAをサポートしているものがプロナーゼで切られると、現象としてDNA切断が起こるという考えです。

[梅田]DNAの中に挟まっているらしい蛋白同志の端と端がくっついているという事は考えられませんか。

[永井]それは、あまり特殊な形になりすぎます。もっとシンプルな形を考えてみたいですね。

[堀川]nucleotideの中に直接はいらずに、蛋白がprotectしているとも考えられます。ヒストン的な結合ですね。

[永井]そうだとすると、二次的な結合になりますから、何か他の方法で蛋白をはずしてみれば、DNAは小さくなるはずですね。

[安藤]みているDNA peakの蛋白含有量が問題ですね。5%以下です。ヒストンは殆ど含まれていないと思います。

[堀川]一重鎖切断が起きない程度の処理をしてサイミジンの取り込みがあるかどうかみておく必要がありますね。

[安藤]それはやってみるつもりです。4NQOを除いた回復の時、DNA合成が必要かどうか。DNA合成をblockした時の戻り方をみようと思っています。

[吉田]このDNAの中にある蛋白は塩基性ですか。

[安藤]わかりません。

《難波報告》

 N-30:培養内で癌化したラット肝細胞の旋回培養による細胞集塊形成能の検討

 上皮性の細胞を培養内で癌化させる場合、細胞が悪性化したか否かを、なるだけ早く培養内で捉えることが出来れば、(しかも、定量的に捉えられれば)、現在の培養内での発癌の仕事は大きく進展することが期待される。

 現在まで、多くの悪性化の指標が報告されているが、いづれも悪性化の決定的な指標になり得ず、いくつかの指標がそろえば、細胞が悪性化したと推定している段階である。

 今回は、旋回培養法を用いて、対照細胞、悪性細胞の細胞集塊形成能を検討し、その集塊形成能が、悪性化の指標になり得るかどうかを検討した。またDAB飼育ラッテ肝の培養細胞については、癌化と共に細胞集塊の増大することをこの秋の癌学会で報告した。

 使用した細胞:1)RLN-E7系の対照細胞、4NQO処理悪性化細胞、この悪性化した細胞を復元して生じた腫瘍を再培養した細胞。2)RLN-E7系の対照細胞より単個培養してクローン化した(LC-10)4NQO未処理対照細胞。4NQO処理悪性化細胞、腫瘍の再培養細胞。3)長期培養により自然発癌したラット肝細胞(RLN-8)、培養初期に1μg/ml DABを4日間作用させ、長期培養後、動物に造腫瘍性を示すようになった細胞(RLD-10(1μg))、この細胞に更に10〜20μg/mlの3'-Me-DABを投与し、その造腫瘍性を高めた細胞(RLD-10(10〜20μg))。

 旋回培養法:月報7002に報告した。

 結果:1)RLN-E7、LC-10両系では、細胞集塊の大きさは、腫瘍細胞>4NQO処理悪性化細胞>対照細胞の順になった(図を呈示)。培養24時間目、48時間目の細胞集塊の大きさを比較した結果、48時間では、腫瘍細胞の細胞集塊の大きさが減少した。このことから、それ以後の全ての実験は、24時間の旋回培養を行った。at randomに選んだ細胞集塊を、その直径の大きさに順じて並べ、大きさの分布を示した。2)自然発癌したRLN-8系の細胞集塊はそれほど大きくなかった。これは、この細胞の悪性化の程度が低い為か、或は集団中の悪性化細胞の数が少いか、あるいは、また造腫瘍性獲得後の変化の為かも知れない。3'-Me-DAB処理細胞では細胞集塊の大きさが増大した。

 以上のことから旋回培養法による細胞集塊能の増大は、細胞の培養内悪性化の指標と考えられる。

 ◇DABによる発癌実験

 5)培養日数の比較的短い株細胞をDAB及び3'-Me-DABでtransformさせる実験

 月報7008で報告したRLN-B2 liver cell lineを使用、TD40に20万/mlで10ml inoculateし2日後、DAB及び3'-Me-DABを添加し続ける。

 TD40に10ケ所印をつけて、位相差で追跡する。視野に入る広さは0.34平方mmである。細胞数をplotすると、20%BS+80%Eagle'sMEM及び+0.4%アルコール群は7日間で殆んど変らない。DAB群は添加後、添加直前の平均細胞数と変らないで23日間の添加に耐えている。3'-Me-DAB群は最初の3日間で減少したように見えるが以後20日間平均細胞数は変らない。(10ケ所の細胞数を個々に検討すると、TD40の比較的肩の部位1、2、9、10の位置で3日間の減少が著しい。従ってこれは技術的な誤りと考えた方がよいかも知れない。他の6ケ所の平均ではDABの所見と似ている)。平均細胞数では変化がないが、核分裂は少数ではあるが行われている様で目下、映画フィルムを作製中。気付いた点は下記の通り。(1)細胞の運動は発癌剤添加により極めて少くなる。(2)細胞が集まってコロニーをつくる能力がなくなり離解する。(3)細胞質が大きくなり胞体内に顆粒が増加する。



 

:質疑応答:

[安藤]DAB消費としてみているのであって、取り込みをみているわけではないのですね。4NQOの場合も培地中の残量という点では時間に平行して減ってゆきます。

[難波]今ラベルしたDABを使って取り込みも調べようとしています。

[堀川]細胞数が増えるのでDABの残量が減るのではありませんか。

[難波]検討してみます。

[難波]細胞集塊ではピューロマイシンを培地に添加すると出来方が抑制されます。

[堀川]添加してすぐその現象が起こりますか。

[難波]すぐです。

[堀川]大きな細胞集塊を作るようになるには、腫瘍であることが必要なのか、培養日数に関係があるのか確認してほしいですね。

[難波]それはもっときっちりやっておきたいとは考えています。しかし今までのデータでも4NQO処理で悪性化した系は大きな細胞集塊を作りますが、その対照の未処理群は同じ培養日数でも大きな細胞集塊を作りませんから腫瘍性と関係がある様に考えられます。

[佐藤]培養日数がかなり長くて培養状態の良好な系でも、takeされない系では大きな細胞集塊を作りませんから、ある程度腫瘍性と平行していると考えられますね。

[勝田]発癌剤処理して日の浅い系のものでも大きな塊を拾うと、腫瘍性のあるものが拾えるようだと、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。

[堀川]初代培養からでもこの方法でふるい分けられるかも知れませんね。培養することを考えに入れると、電気泳動法より簡単にクローニング出来るという事になりますね。

[吉田]細胞集塊の出来る機構について何か考えがありますか。細胞が均一な時は皆同じように回ってくっつかないが、多様性が増すと機械的な要素でくっつくのではないでしょうか。

[難波]温度を下げると細胞集塊が出来なくなりますから、あまり機械的な要素とは思えません。

[勝田]細胞膜の問題だと思いますね。

[安藤]アグリゲイトの出来ない細胞に、トリプシンをかけて、この方法で培養するとアグリゲイトが出来るようにならないでしょうか。

[難波]株細胞はトリプシンでばらばらにして、この培養にかけています。膜の表面構造を変えるようなものを加えて実験をしてみようと思っています。膜の表面をトリプシンで処理した場合、回復するのにどの位の時間がかかりますか。

[永井]5〜6時間位でしょうか。

[堀川]発癌剤の処理後、大きな塊を作るものと小さいままのものをふり分けて、増やして電気泳動度を調べてみると面白いですね。

[難波]ぜひやってみたいと思います。



《梅田報告》

 Mycotoxin投与により惹起されるDNA single strand breakについて

 発癌性の証明された又はその検索中のMycotoxin6種について、培養細胞DNAにsingle strand breakが惹起されるかどうか、また惹起された場合の回復能の有無について検索したので報告する。

 細胞はHeLa細胞を用い48時間H3-TdRでPrelabelした後、各種Mycotoxinで1時間及び24時間処理する。細胞をrubber cleanerではがし、アルカリ蔗糖勾配遠心法(30,000rpm 90分遠心)により解析を行った。回復能の有無はMycotoxinで1時間処理した後、細胞を洗い適当な時間培養し、解析した。(以下各実験毎に図を呈示)

     
  1. Luteoskyrin;Penicillium islandicumの生産するMycotoxinでマウス、ラットに肝癌を生ずる。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理、1μg/ml24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。

     

  2. Aflatoxin B1;Aspergillus flavusの生産する強力な発癌性を有するMycotoxinでラット、ヒツジ、アヒル、マスなど多様な動物に肝癌を生ずることが報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで準致死的である。100μg/ml1時間処理、10μg/ml 24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。

     

  3. Rubratoxin;Pen.rubrum、Pen.purpurogenumの生産するMycotoxonで動物の増殖細胞及び肝、腎、に特異な病変を起こす。発癌性については目下検索中である。HeLa細胞には100μg/mlで増殖阻害に働く。1μg/ml1時間処理、100μg/ml 24時間処理ともDNA single strand breakは認められなかった。

     

  4. Fusarenon X;Fusarium nivaleの液体培養蘆液から単離されたScirpene系化合物で腸管上皮、骨髄など動物の増殖細胞に強い障害を与え、目下白血病との関係が検索されつつある。HeLa細胞には1μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理で軽いDNA single strand breakが認められたが1μg/ml 24時間処理では認められなかった。

     

  5. Patulin;Pen.urticae、Asp.clavatus、Asp.terreusなどの生産するMycotoxinでラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。HeLa細胞には10μg/mlで致死的である。32μg/ml1時間処理でDNA single strand breakが認められ、100μg/ml1時間処理ではさらに顕著である。又10μg/ml 24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。

     続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。

     

  6. Penicillic acid;各種のカビ代謝産物より分離されており、ラット皮下投与により肉腫の発生が報告されている。32μg/mlでHeLa細胞には致死的である。320μg/ml1時間処理で軽い、1mg/ml1時間処理で著明なDNA single strand breakが認められた。又100μg/ml 24時間処理でもDNA single strand breakが認められた。

 続いて回復能の有無を検討したが回復は認められず、逆にDNA single strand breakが顕著になって行く傾向が認められた。

 §結果§

 検索を行った6種のMycotoxinのうちPatulin、Penicillic acidの2種に著明なDNA single strand breakが認められたが、ともに回復能は認められなかった。又はっきり発癌性の証明されているAflatoxin、LuteoskyrinにはDNA single strand breakは認められなかった。



 

:質疑応答:

[難波]回復能の有無は薬剤の代謝速度に関係があるのでしょうか。

[堀川]或いは薬剤が細胞内に残って回復を阻害するのではないでしょうか。

[梅田]アルキレーションの作用のあるものについて回復をみようと思っています。そのほかにもアクチノマイシンDなどのように、DNAに入り込んでしまうものについてもDNAの切断があるかどうか調べてみるつもりです。でも発癌性のある物質でもDNA切断のみられないものが有ったということは大変ショックでした。色々な薬剤について幅ひろく調べてゆこうと考えています。

[吉田]染色体の切断はどうですか。DNAレベルの切断とパラレルに行っていますか。

[梅田]あまり平行していないようですね。染色体の切断の方はまだ調べていないものがありますが・・・。

[堀川]ナイトロゲン・マスタード等のデータでも切断のあと修復されないものはないようですね。ですから修復されない場合は細胞内に薬剤が残っている可能性が大きいのではないでしょうか。それから、4NQOのように一旦取り込んでから又吐き出すのか、又は細胞内に残っているのか調べてください。

[安藤]二重鎖の方も調べてください。

[吉田]生きた細胞への処理でなく、DNAレベルでの直接の処理によるDNA切断はどうですか。

[安藤]それは発癌性と必ずしも平行しませんね。

[堀川]4NQOの場合、裸のDNAでは切らないが、4HAQOだと切る、しかし細胞内のDNAですと4NQOでも切るということもあります。

 ☆☆このデータはDNA鎖切断の誤修復が発癌とは関与しないかも知れぬということを示唆し、その意味で非常に興味のあるところである。しかし、安藤班員、堀川班員の場合もそうであるが、これらの研究では大量の細胞を使用して分析している。細胞の発癌率から考えて、それで悪性化細胞がひっかかるものかどうかということになる。勝田☆☆



《安村報告》

 §腫瘍細胞の薬剤耐性株のtransplantability

 約2年ほどまえからCell hybridizationのsystemづくりの一環として、Littlefieldの法にもとづいて、一つはpurine analogである8-Azaguanine、一つはpyrimidine analogであるBUdRに対する耐性株づくりが始められました。

 材料の細胞株は1954-4-7樹立のFRUKTO株で、マウス果糖肉腫(滝沢肉腫)由来、現在routineにはEagle MEM+CS2%で継代されてきているものです。

 8-Azaguanine 50μg/ml耐性のFRUKTO-A、BUdR 50μg/ml耐性のFRUKTO-Bの2種が現在えられております。

 前者はSoft agarでcloningされています。後者は液体培地でcloningされました。予備段階でFRUCTO-Bのtransplantabilityが5,000コ/マウス脳内接種で認められなかったので今回、transplantabilityを原株とFRUKTO-Aと共に調べてみました。脳内接種で生後3日目のdd-Yマウスを用いました。

 結果は(表を呈示)、8-Azaguanine耐性株がtransplantabilityを原株と比較しうるほどに維持しているのに反して、BUdR耐性株はこの実験では10,000コの接種細胞数でもTumorの発生がまったく認められなかった。このことはSilagiらのmelanoma cellsでのBUdR実験(BUdRの存在下ではmelaninの産生、tumorigenicityともに低下する、growthには影響がない)と比較して興味ある結果であろう。



 

:質疑応答:

[堀川]BUdR耐性の細胞で腫瘍性が消失したものは、耐性になったことが関係しているのか、或いはBUdRによる単なる脱分化なのか判りませんね。

[安村]とにかくsingle stepの変化ではないと考えています。

[堀川]親株の中にBUdRに耐性のある細胞が混ざっていて、それは又腫瘍性もなかった、そしてその細胞がselectionで残ってきたとも考えられますね。

[吉田]この一例だけでそれを云々することは出来ませんね。先ず耐性細胞を幾系もとってみて、その腫瘍性を調べてみなくてはなりませんね。

[堀川]BUdRを除いて培養しておくと腫瘍性を再び獲得しますか。

[安村]それはまだやっていません。しかし8アザ耐性の細胞は腫瘍性を失わないので、動物にtakeされたものを再培養してみると矢張り8アザに対する耐性も失わずにいます。ですから8アザ耐性のものは動物内でその耐性を確保したまま増えるわけです。

[安藤]BUdRを除いてチミジンカイネースの無い細胞は増殖出来ない培地で選別し、増殖してきた細胞の腫瘍性について調べてみれば耐性と腫瘍性の関係ははっきりします。

[安村]私はチミジンカイネースだけが腫瘍に結びついているとは考えていません。かりにチミジンカイネースが戻ってきたら腫瘍性も戻ってきたとしても“ハイ、そうですか”というだけの事だと思っています。

[梅田]BUdRは良い抗癌剤ですし、耐性を持つ細胞が腫瘍性をもたないとすると、すごく良い治療剤で完全に癌を治せるはずですがね。

[安村]治療という場合は生命が無くなってしまうと意味が無くなります。腫瘍細胞にBUdR耐性が出来る前に人間が死んでしまうという事でしょう。