【勝田班月報:7010:各種細胞系への発癌剤処理実験】

 

《勝田報告》

 肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質について:

 この物質の本態を解明するため種々の生化学的方法でこれまで検索し、前月号の月報にも中間報告をしたが、その報告をくりかえすと共に、その先の研究成果も説明した。

 前々月号にG-25のSephadexで分劃した#35〜#38の分劃をさらにSephadexG-15で分劃すると、II及びIIIという大きなpeaksが現われ、その両者とも正常ラッテ肝細胞の増殖を阻害すると記載したが、IIIについてはさらにそれをDowex50で分析するには至らなかった。

 今回はこれを試み、(図を呈示)III-3の分劃がもっとも増殖を阻害することが明らかとなった。IIの方ではII-1が最も有害であったのに対して、これは意外な結果であったが、生物現象というものは、同じことを何回もくりかえしてみなければ何とも云えないという原則にしたがうつもりである。



 

:質疑応答:

[堀川]各分劃の濃度はどうやって決めていますか。乾燥重量で一定の%にしたのか、N量として一定にしたのか・・・。

[高岡]まだ物質として精製されていませんので、一番単純に分劃前の全部の活性が各々の分劃に集中したと考えて、容量での%です。ですから乾燥重量或いはN量としては一定になっていません。

[吉田]初代培養の細胞に対する影響は調べてありますか。

[堀川]対照としてもっと幅広くの細胞を調べてほしいですね。その上で同じ肝由来の細胞でも悪性化した系はやられないのだという結論がはっきり出たりすると、とても面白いですね。同じ癌でもヘテロに影響がありますか。

[勝田]なぎさ培養で変異した系についても調べてみたいと考えています。また癌細胞の方もAH-66ではどうか、AH-130は同じものをだしているかどうか。また人肝癌では・・・と、やらねばならないことは沢山あります。しかし今は先ずこの物質同定が先決問題だと思います。

[藤井]形態変化を起こすまでの日数はどの位ですか。

[勝田]今お見せしたのは、全部添加後2日の標本です。それでもう変化が起こっているのですから、かなりの毒性です。

[山田]トキソホルモンとはどう関係があるでしょうか。

[勝田]癌細胞が材料になっているという点は共通ですが、根本的にちがう点は、トキソホルモンは細胞をすりつぶして抽出しています。我々の物は試験管内で細胞がよく増殖して代謝が盛んでないと、出て来ない産物だという点です。

[永井]物が何かという仕事も大体いい線まで行っていて、有毒ペプチドのようです。

[勝田]だんだん大量に材料が要ることになって、培地を集めるのが仲々大変です。

[山田]腹水肝癌の腹水中には出ていませんか。腹水なら大量に集めるのは簡単です。

[勝田]腹水では蛋白性のいろんな物が混じっていますから、分劃が大変ですよ。我々の場合も始めは培地にラクトアルブミン水解物を使っていましたから、分劃してみたらピークが沢山出て追跡が難しくなりました。それからいろいろ培地を工夫して、今やっと単純な且つ増殖度の高い培地に辿りついた所なんですよ。

[堀川]こういう毒素のようなものを先ずアクセプトするのは細胞膜でしょうか。このものをAH-7974細胞で吸収すると、毒性が無くなりはしないでしょうか。

[山田]白血病の細胞なども出しているでしょうか。

[勝田]その他、マウスの癌の出しているものがラッテに効くかどうかなども問題ですね。どうも発癌機構をいくらやっても癌は治せないような気がしてね。この物を追う方が癌をやっつける道に近いと思います。



《難波報告》

 N-27:培養内で4NQO処理によって悪性変異したラット肝に由来する上皮性細胞の動物復元によって生じた腫瘍の組織像(顕微鏡写真を呈示)

 月報7008、7009に於いて、ラット肝に由来するクローン化した上皮性細胞(LC-2,LC-10の2系)の発癌成績を報告した。今回はその組織像を報告する。LC-2系の細胞によって生じた組織像は、分化した肝癌の形態を示している。この組織像から結論されることは、LC-2のクローンは肝細胞由来と考えられる。LC-10によって生じた腫瘍の組織像は未分化肝癌ではあるまいか。なお、このLC-2、LC-10系の細胞の4NQO処理条件、及び剖検の肉眼的所見は、月報7008に記した。

 N-28:培養内で4NQOによって癌化したラット肝由来クローン細胞LC-10系の4NQO耐性の有無

 3.3x10-6乗M 4NQO 1hr処理を2回行って癌化した細胞と、その4NQO非処理対照細胞との4NQO感受性の差をPEで比較した。4NQOの処理条件は10-8乗Mの4NQOを含む培地で1週間培養後、4NQOなしの培地で更に1週間培養し形成されたコロニー数を数えた。対照には、それらの4NQO処理悪性化細胞と、非処理細胞とを4NQOを含まぬ培地で、2週間培養して形成されるコロニー数をとった。その結果は(表を呈示)4NQOによって癌化したものに、やや耐性があるように思える。

 ◇DABによる発癌実験

 ラット肝よりクローン化した上皮性細胞のLC-2は培養内で4NQO処理によって癌化し、動物復元で比較的分化した肝癌を形成した。そこで、この4NQO未処理対照細胞を使用してDABによる試験管内発癌を計画している。まず、その基礎的データを得る為に以下の2実験を行った。

  1. 種々の濃度のDABがLC-2系細胞の増殖に及ぼす影響。
  2. LC-2細胞の培地中からのDAB消費能。

     
  1. DAB濃度と細胞増殖との関係(図を呈示)は培養2日目に終濃度2.1、6.0、11.6、26.0μg/mlのDABを含む培地にかえ、培養5日目にそれぞれの細胞数を数えた。コントロールには、培地のみのものと、エタノールを1%含む培地(DAB 26.0μg/mlの培地中に、DABの溶媒として含まれるエタノール濃度)とで培養した。その結果11.6μg/mlDAB添加の培養より増殖がやや低下し、26μg/mlではコントロールに比べ増殖率が約50%阻害された。

  2. 上の実験で、添加したDABの3日間での培地中からの細胞による消費を調べた結果、LC-2細胞は、DAB濃度が17.4μg/1.5ml培地/33万個cellsの条件中で、添加したDABをほぼ100%消費することが分かった。



 

:質疑応答:

[山田]今の組織像はかなり分化した形の肝癌、モーリスの肝癌の組織像に似ていますね。それからクローン化された系では悪性化が早い、ということについて何か考えがありますか。

[難波]クローンだからというより、総培養日数が長い為だと考えられます。

[吉田]染色体の分析はしてありますか。

[難波]LC-2は3〜4倍体の辺にモードがあり、染色体数の分布はバラツイテいます。LC-10は41本にモードがあります。

[吉田]増殖度はどうですか。

[難波]LC-2とLC-10は同じ位の増殖率のようです。

[佐藤]DABの実験では昔やった実験に比べて、DABの濃度を濃くしても細胞が死なないのは、溶剤をアルコールに変えたせいだと思います。今のやり方だと3日間培養して20μg位消費できますから、ずっと手掛けてきたDAB消費の問題も何とか片付けられると思います。4NQOの実験では、クローンをとった時すでに総培養日数が600日だったということは問題があると思います。それから高濃度で処理したものが悪性化しなかったことについては、セレクトの問題があると考えています。4NQOの耐性については、処理時間を長くすると出来るようです。

[難波]4NQOに対する抵抗性は発癌とは関係がないようです。

[堀川]フィラデルフィアの山本氏の話では、HeLa細胞に仙台ウィルスを感染させたところ、4NQOに対する耐性が高まったと言っていました。ウィルスによる障害を修復しているうちに、細胞側の4NQOに対する抵抗性が強くなったと考えられます。

[下条]使ったウィルスがDNAウィルスだと、細胞のDNAにウィルスDNAが組み込まれたことで変化が起こったとも考えられますが、仙台ウィルスはRNAウィルスですから、細胞側の機構の変化だとはっきり言えるわけですね。

[堀川]しかし、ウィルスが一枚かむと事が難しくなりますね。私の経験では、ウィルス感染株のX線耐性が対照群の100倍にまで上がったことがあります。

[勝田]その場合、X線で壊されなくなるのでしょうか。或いは修復能力が高まるのでしょうか。

[難波]4NQO発癌の場合にも、潜在ウィルスの問題を考えなくてよいでしょうか。

[堀川]それを考えると、また難しくなってしまいますね。

[下条]ラベルしたウリジンを使ってウィルスの存在をかなり敏感にチェックすることが出来ますよ。



《高木報告》

     
  1. 腫瘍細胞と対照(正常)細胞との混合移植実験について

    前報のその後の結果及び繰返し行った実験の結果(表を呈示)、RG-18細胞1,000コ接種ではRL細胞を100,000コ、10,000コ混じた時latent periodが長くなるように思えたが、RG-18、56代目のものを用いて繰返し行った実験ではRG-18 1,000だけ接種した場合と殆ど変らないdataをえた。以上のdataからはRG-18 1,000コ接種でははっきりした差があるとは云えない。RG-18 100コではRL細胞を混じた方がlatent periodは短縮したと思われる。RG-18 10コではRL細胞100万個、10万個と数多く混じた方がRG-18単独より腫瘍の形成した動物においてlatent periodは短かく思われたが、RL細胞10,000コ、1,000コ混じたものに腫瘍を作っていない点の解釈がむつかしい。

     以上現在の処はっきりしたことが云えないが、これは用いたRG-10細胞の悪性度が(?)つよすぎるため1,000コではこれに混ずるRL細胞の影響をうけないと云うことも考えられる。また10コでは細胞数が少ないため、動物に接種する際の誤差が加ってdataにバラツキが出るとも思われる。従ってもう少し悪性度のよわい(?)細胞、つまり1,000コ位でやっと腫瘍を形成する位の細胞を用いた方がはっきりしたdataがえられるのかも知れない。

     その外この実験の問題点として用いた細胞がcloningされていない点、移植する動物が全て同腹ではない点などがあげられる。

     

  2. RT-10(rat thymus origin)細胞のPlating efficiencyに及ぼす培地の影響

     RT-10細胞を1,000コ、10,000コlevel Falcon petridishにまいて、培地組成が細胞のPEに及ぼす影響をみた。すなわちconditioned medium、Bactopeptone、牛血清濃度などのおよぼす影響である。

     これまでのdataから牛血清20%群が10,000コ細胞数の時PEは最もよく、ついでconditioned medium、Bactopepton 0.1%、牛血清10%がよかった。

     ただ細胞数5,000コの時には後者の方が良い様な結果をえている。

     牛血清濃度20%について、さらにBactopepton、conditioned mediumなど検討の予定である。

     

  3. その他

     1)NG-24、NG-26の2実験をスタートしsoftagar内のcolony形成能をTumorigenicityについて時日の経過と共に追求している。

     またNGを作用させる際の細胞数−NG濃度の関係をみるべく、細胞を10,000、50,000、100,000、200,000コinoculateして2月後に10-4乗MのNGをHanks液にとかして2時間作用せしめ、以後細胞の変性状況をみたが、この濃度では毒作用がつよすぎ6日後には殆ど全ての実験群の細胞は死滅した。

     ただその間、細胞数による差異はみられ、10,000コでは作用せしめた翌日はすべての細胞はcell roundingをおこしているのに対し、50,000コでは30〜40%、100,000コでは10%位、200,000コではごくわずかの細胞のroundingがみられた。さらにNGの濃度をおとして観察の予定である。



 

:質疑応答:

[吉田]両種の細胞を混ぜてすぐにラッテへ接種したのですか。

[滝井]そうです。

[吉田]この実験の狙いがよくわからないのですが、混ぜて培養してから接種するとどうなるでしょうか。

[勝田]混ぜて培養してしまうと、意味が変わってしまいます。この実験ではin vitroで悪性化した細胞集団の中に、まだ悪性化しない細胞が残っていた場合、それが復元成績にどう影響するかを、人工的に正常:悪性の比率を変えて復元してみているわけです。

[安村]実験として同じ代数、同じ条件で比較出来ない処があって一寸解析が難しいのですが、全体をみわたしたイメージとしては、正常細胞を添加して復元するとtake率が良くなるようですね。

[佐藤]実験を始めた時の考えでは、正常細胞が交じっていることがラッテへのtakeを阻害しているのではないかということでしたが、これでは逆の結果が出たわけですね。悪性細胞が胸腺由来、正常細胞が肺油来ということから出た結果とは言えませんか。

[難波]再培養の系は悪性度が強くなっているので、in vitroで悪性化した細胞の代表と言うには不適当だと思います。

[安村]今のところ、そんな事はかまいませんよ。10コで動物にtakeされる細胞というのは、なかなか貴重ですよ。

[堀川]私の興味としては、悪性化の経過を代を追って動物に復元してみて、どこでLD50がバンと上がるのかが見られないだろうかという所です。

[安村]考えとしては、誰しもそう思うのですが、実際問題として物すごく沢山の細胞が必要です。とてもとても・・・。

[下条]RG-18という細胞系は何か同定できるマーカーを持っていますか。

[勝田]マーカーとして広く使われているのは染色体ですね。

[吉田]ラッテの場合、正2倍体はどの位の期間保たれますか。

[勝田]培養の仕方によって違うでしょうね。私の所では2年位です。

[佐藤]私の所では500日位です。

[三宅]胃の培養について説明して下さい。

[高木]乳児を1日親から離しておきます。そして胃を取り出しミルクを除いてナイスタチン200u/ml、カナマイ300u/mlでよく洗います。それから粘液をよく除いてからメスで細切して炭酸ガスフランキで培養しました。

[山田]前胃と後胃は分けましたか。

[高木]どちらも一緒にしてしまいました。

[山田]ラッテの胃癌の場合前胃は癌化しやすいが、腺癌をというなら後胃の方が出来やすいというデータがあります。あとの同定のためにも分けて培養出来るとよいですね。



《安村報告》

 ☆ラット肝細胞の初代培養からのクローン化の試み(つづき)

 ラット肝由来細胞Hepro細胞のOrnithine transcarbamylase(OTC)活性について.

 Mary Jonesらによって開発され、G.Satoによって培養肝細胞で試みられた肝細胞同定の最も信頼されているマーカーとしてOrnitine transcarbamylase活性をHepro細胞で調べてみた。

 細胞はAssayの直前24時間1mg/mlのOrnithine含有の培養液(EagleMEM+コウシ血清10%)で培養され、3度生理食塩水で洗ったのち、ラバーポリスマンでかきとり遠心し、細胞塊を0.5mlの蒸留水に浮遊し、0℃でSonicate(20KC)した。

 酵素活性のassay:OTC活性は37℃、10分間の測定による。反応系は0.1Mのtriethanolamine-HCl(pH7.4)、5μmoles L-Ornithine、5μmoles carbamyl-phosphate、細胞ホモジネート、(最終容量1.0ml)から成りたっている。Archbaldの方法によって発色。Carbamylphosphateの分解を知るために、上の反応系とは別にCarbamylphosphateを加えない反応系でassayされた。

 結果(表を呈示)、Specific activityはSampleA<0.01μmoles/10min/0.4/4.8mg prot.≒0.005μmoles/10min/mg proteinであった。



 

:質疑応答:

[難波]4.8mg蛋白というと、どの位の細胞数に相当しますか。

[安村]400万個で約1mgです。

[難波]培地中の血清蛋白はどうやって除きますか。

[安村]PBSで3回洗っています。

[吉田]ホルモン等を産生する機能を持った細胞でも、培養で継代していると産生しなくなるものでしょうか。

[安村]私の経験で少なくともステロイドホルモンを産生する細胞系では、ランダムに培養していると機能が低下してしまうのですが、始終クローニングをしてホルモンを産生しているものを拾っても、その中から又、産生しない細胞がでてきます。それを又クローニングで落としてゆくという訳で、そういうやり方で5年以上ステロイド産生能を維持出来ています。

[吉田]ホルモン産生はステムcellがありますか。

[安村]クローニング出来るわけですから、ステムcellがあるとは考えていません。

[堀川]ステロイドホルモン産生系の場合はそうでしょうが、他のホルモン産生系では、まだわかりませんね。

[吉田]プラスマ腫瘍の場合には、ステムcellがあります。

[安村]プラスマcellとステロイド産生細胞とでは分化の程度が違いますからね。

[藤井]ステロイド産生の場合、脳下垂体の刺戟がなくても産生しますか。

[安村]ステロイドホルモン産生については遺伝子がregulateされないでopenになってしまうので、刺戟がなくてもどんどん産生するのだろうと考えられます。

[堀川]始めにクローニングして産生細胞を拾い、その中から産生しない系が出て来た場合、その産生しない系に刺戟ホルモンを加えると機能を復活するというようなことはありませんか。

[安村]産生量においての中間的段階はありますが、全く産生しなくなってしまうと、もうどうしても復活はしませんでした。

[藤井]肝細胞のアルブミン産生能と、肝癌になったらどうなるかという事についての実験はありますか。

[安村]そういうことをin vitroの系でやってみたい訳ですね。



《山田報告》

 RLC-10凍結株;培養ラット正常肝細胞が再び利用出来るかもしれないとの事ゆえまずとりあえず電気泳動度を測定しましたが、培養1日目のせいか、形態も不揃いで泳動度も曾ての如く均一ではありませんでした。あらためて増殖期に泳動度を測ってみたいと思って居ます。しかし同時に測定した他の株CulbTC、HQ1Bに比較すれば、その構成は均一で、シアリダーゼに対する感受性は極めて弱い所見です。

 CuleTC;CQ50宿主へbacktransplantした後の再培養株。この株のOriginalは腫瘍性がありながら、悪性泳動パターンを示さなかった株。他のCQ40〜42等の場合と同じく、宿主へかへすと、腫瘍細胞のみが撰擇されて悪性パターンを示す所見です。

 HQ1B;4NQO 3.3x10-6乗M3回処理したRLH-5・P3株、今回も明らかに悪性泳動パターンです。前回報告しました様にどうもRLH-5系の細胞の抗原性はかなり宿主(JAR-1)とは違って来ている様で、そのために宿主へbackしてもtakeされないと思わざるを得ません。



 

:質疑応答:

[山田]in vitroでの悪性化は、動物につくかつかないかでけで判定しているので最後まで抗原性の問題をチェックしなければなりませんね。藤井先生の方はどうですか。

[藤井]抗血清が出来なくて困っています。CulbはJAR-2系のラッテに接種してもモリモリと腫瘍を作ってしまうのです。

[下条]ウィルスで悪性化した細胞の復元の場合は、始めに細胞のホモジネイトをアジュバントと一緒に接種しておきます。そして3カ月程たってから生きた細胞を居れると、ぐっと抗体価が上がります。

[藤井]アジュバントは使いませんでしたが、凍結融解した細胞を接種し、それから生きた細胞を入れてみた事もありますが、やはり大きな腫瘍が出来てしまって抗体価は高くなりませんでした。

[堀川]山田班員の実験結果は免疫反応としてだけみてもよいものでしょうか。

[山田]特異的な抗血清が出来ていれば、抗原抗体反応としての結果がはっきりと出ています。

[下条]他の方法も使って反応をみていますか。

[山田]IAをやっています。IAでは平行した結果が出ています。腫瘍自身の抗原性ということには問題が残ると思いますが、発癌剤の処理によって細胞が免疫的にも変異して居るということは、云えると思います。

[藤井]癌と免疫という問題は難しいですね。抗体が出来て補体を覆ってしまって、細胞性抗体の働く余地がなくなってしまって、腫瘍がかえって大きくなるという事さえあります。又、皮膚移植の実験で植えた皮膚がついている間は抗体が出来ないという事があります。動物にtakeされるような腫瘍は抗体が出来ないのではないでしょうか。

[勝田]実験動物の純系の純度といったものについて、一寸・・アイソと言ってもランダムに増産した系ではどんなものでしょうか。

[吉田]又変わってしまうでしょうね。

[藤井]DDマウス等、純系といっても皮膚移植をして同腹でなければつきませんね。C3Hのように同腹のかけ合わせを何十代もやってある系は、遺伝的にはしっかり安定していますね。



《堀川報告》

 培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(26)

 前報では培養動物細胞をX線または4-NQO(あるいは4-HAQO)で処理した際のDNA切断による分子量の低下とbreaks数の増加を線量または濃度に関連づけて図説したが、今回はこうした処理によって誘発されたDNAの一本鎖切断が、その後どの様にincubation timeと共にrejoiningして高分子化されていくかについて解析した結果を報告する。

 (図を呈示)図は、10KR、5KR、2KRのX線照射後、種々の時間細胞をincubateした時のDNAの分子量の増大とbreaks数の減少を示したものであり、これからincubation timeと共に切断DNA一本鎖は再結合されることがわかる。

 (図を呈示)また同様に1x10-4乗Mと5x10乗-5M 4-HAQOで細胞を30分間処理した後、種々の時間incubateした時のDNA再結合状態をみた。  これらの結果から、X線照射または4-HAQO処理によって誘発されたDNA切断の再結合は直線的、つまり一定スピードで進行するのでなくincubation初期において非常に早く再結合の進む部分と、その後比較的ゆっくり進行する部分のあることが分かる。又、こうした結果を別の方法で書き表してみた(図を呈示)。

 X線照射または4-HAQO処理によって誘発された切断DNA一本鎖の再結合状態、つまりincubation timeに対する分子量の増加現象と、これとは逆にincubation timeとともに1分間当たりの切断DNAの再結合能が減少して行く状態を図でみると、X線照射または4-HAQO処理によって生じたDNA一本鎖切断の再結合は殆ど同じスピードで進むことがわかる。このこのは、非常に強引かつ早計な結論かもしれぬが、X線と4-HAQOのattackするDNA上のmain siteは比較的類似の部位であり、しかも、その修復は同じprocessによって進行するということを暗示しているのかも知れない。また急速に再結合する部分はnon enzymaticにrepairされる部分で、その後にみられる比較的ゆっくりと進行する再結合部分がenzymatic repairであろう等と考える説もあるが、こうした結論を導びくためには、今後更に多くの実験を必要とする。



 

:質疑応答:

[勝田]温度条件を変えることによって修復が進むかどうかみると、酵素活性のせいかどうかわかりませんか。

[堀川]X線照射の場合、0℃にすると修復されませんが、それでも矢張り酵素的なのかどうか分からないですね。

[安藤]UV100ergsかけたあと、なおDNAが切れて小さくなるということは、UVの直接の影響ではないということですね。

[堀川]チミンダイマーの場合、照射直後に全部切り出せているわけではありません。照射中の殆ど終わりでも、終わりころにはもう修復し始めているものもあり、まだ切り出しているものもありという時間的なずれがあって解析が難しいのです。修復のスピードからみるとX線と4NQOはよく似ています。

[勝田]DNAの修復にはunscheduled DNA synthesisは否定されますか。

[堀川]いや肯定します。ハイドロキシウレアのようなDNA合成を直接おさえる物質を添加した場合には、修復がみられ、ピロマイシンのような蛋白合成阻害物質を添加して酵素活性をおさえると修復はみられないのです。

[安藤]この実験で前処理は必要ですか。

[堀川]前処理をしないと、あとの条件をいくら変えても皆修復してしまいます。細胞が生存出来ないような条件でも処理直後にはDNAの修復はみられます。

[吉田]染色体レベルのブリッケージとDNAレベルでの切断は大体平行していますね。ジニトロフェノールも修復をおさえますね。

[安藤]バクテリアでもピロマイシンを入れると修復がおさえられます。

[堀川]ゼネラルな意味での蛋白合成阻害剤がなぜ修復酵素の活性をおさえるかということです。動物細胞でも前処理をしてプールの酵素をカラッポにしておくことによって細菌と同じようにゆく所までわかりました。

[吉田]嫌気的にすることでは影響はありませんか。

[堀川]あるでしょうね。酸素を入れると放射線の効果がぐっと上がり、逆に窒素を入れると効果をおさえます。それからUV照射の場合、今まで再現性がなくて困っていたのですが、照射後からの動きがそれぞれ違っていた事がわかって、仕事が進められるようになりました。4HAQOや4NQOがDNAを切る時は直接に切るのではなく、フリーラジカルのようなものが出来てそれから切れると考えられますね。



《安藤報告》

     
  1. EM3A細胞(マウス乳癌細胞)のDNAの二重鎖切断に対する4NQOの効果

     従来行って来たDNAの二重鎖切断と再結合の実験はL・P3とRLH-5・P3についてだったが、今回マウス乳癌由来のFM3A細胞を使って同様の実験を行った。目的は(1)懸濁培養可能なこの細胞を使って、Cell cycleのstageと二重鎖切断の再結合との間に何らかの関連があるか否かを調べるための予備実験として、切断再結合の様相を知る事、(2)細胞種が異っても同様の現象が見られるか、(3)4NQO濃度に、二重鎖切断の再結合が起らなくなる程の濃度限界があるか。

     先ず、FM3A細胞の増殖曲線と4NQO、30分処理後の増殖の程度を調べた。1x10-6乗Mではわずかな増殖阻害、3x10-6乗M以上では全く阻害される(図を呈示)。

     次に、4NQO各種濃度におけるDNAの二重鎖切断の程度と、その後の回復培養においてどれ程再結合が起るかを調べた。(図を呈示)それぞれの濃度の時に二重鎖の切断は次第に大きくなり、3x10-6乗Mの場合約50%が再結合され、残りが更に低分子化していた。1x10-5乗M、3x10-5乗Mにおいては、切断されたDNAは大部分再結合されず低分子化してしまっていた。

     この事実は次の事を強く示唆している。再結合されうるための限界の大きさが在る。それ以上に4NQOで切断された場合にはもはや再結合されない。この限界の大きさは恐らく、今迄示されて来た連結蛋白(linking protein)と連結蛋白の間のDNAの大きさに相当するのであろう。この点は更に追究されなければならない。

     

  2. 中性蔗糖密度勾配上のDNAピークの電子顕微鏡観察

     中性でDNAの大きさを分析する時に、チミジンでラベルされたピークを一応DNAピークとして取扱って来たが、100%純すいなDNAである保証はない。先にそのピークのCscl液中での浮遊密度を求めた所1.685−1.700であり2%程の蛋白の混在を示唆していた。今回は更に電顕的にどの程度純粋なDNAを扱っているのかを調べた。サンプルは(1)無処理DNA、(2)プロナーゼ処理DNA、(3)4NQO処理DNA、(4)除蛋白精製DNA、(5)メルカプトエタノール処理DNAである。(以下それぞれの写真を呈示)

       
    • 無処理蔗糖勾配分劃(x20,000):

       無処理のDNAも電顕観察のサンプルを調整する過程で相当な物理的障害を受け低分子化していた。これ等の写真からいえる事はここで扱っているDNAが、相当きれいなものである事、すなわちヒストンその他のDNA以外のクロマチン構成物質の混在は少ない。次に恐らくartifactと思われる中心体がある。これは濃度の高いDNAをチトクロームC法で展開した時に、からまり合った結び目である可能性が大きい。

       

    • プロナーゼ処理DNA:

      プロナーゼ処理DNAの電顕写真はコントロールと比べて特に目立った特徴はない。大きさはまちまちでしかも中心体を持っている。

       

    • 4NQO処理DNA:

       4NQO処理DNAの特徴は、DNA鎖をよく見ると二重鎖がほどけ一重鎖となっている部分を持っている事である。それ以外は無処理と同じようだ。

       

    • 精製DNA(凍結標品を融解させた直後):

       クロロホルムによる除蛋白法で精製、更にCscl密度平衡遠心により精製されたサンプル。可成り小さな断片となっている。恐らくそのために、からまらないで中心体が出来ないものと思われる。

       

    • 精製DNA(上記のサンプルをNH4・Acに対して一夜透析):

       上記精製DNAを常法にしたがってNH・4Acに対して透析した所、上記では見られなかった中心体が現れてきた。しかしこの中心体は無処理のものとは少し異っているようだ。

       無処理DNAをメルカプトエタノール処理したもの:

      コントロールDNAを遠心後集めてメルカプトエタノール処理を行ってみた。メルカプトエタノールで結合蛋白が切られるためか、中心体は見当らなかった。

     以上、種々な処理を行ったL・P3DNAの電顕像をお目にかけたが、これ等の事から云える事は次の事であろう。(1)細胞を直接蔗糖密度勾配上に重層して行う、この寺島法で得られるDNAピークは比較的きれいなDNAである。(2)蔗糖密度勾配の位置の違いによる分子量の差は電顕レベルではとらえる事が出来ない。(3)DNA鎖を結合していると思われる結合蛋白(linking protein)は見る事は出来なかった。



 

:質疑応答:

[堀川]細胞が生きている状態でトリプシン処理をして、それから遠沈するとどうなるでしょうか。

[安藤]偶然にそういう処理をした事がありますが、パターンが乱れて結果を解析できませんでした。

[堀川]酵素処理を先にして、そのあと分劃したDNAをインタクトに回収して更に4NQOを作用させたらどうなるか知りたいのですが、このやり方では難しいですね。

[勝田]トリプシンを使って細胞を継代すると、変異をおこしやすいのはトリプシンがDNAを切るからでしょうか。

[安藤]そういう事も考えられますね。

[梅田]しかし、生細胞はトリプシンでは作用を受けないことになっています。堀川班員の考えておられるような酵素で切っておいて、4NQOで切るという実験にはメルカプトエタノール処理がよいと思います。培地に添加してみて生きた状態でDNAが切断されるかどうか先ずみてからですが。パパインはどうですか。パパインならSS結合を切ります。

[安藤]パパインもきれいな物を手に入れて、ぜひやってみたいと思っています。

[山田]細胞診でクロマチンの形だけをみていますと、トリプシン処理で変化するように思います。

[堀川]この電顕像ではDNAの切断は見られませんか。

[井出]白金でシャドーイングをするので細かい切れ目などは、はっきりしなくなってしまいます。ただ、あちこちに一本鎖らしい切れ切れのものが見られます。

[吉田]細胞のステージはインターフェイズでしょうね。

[山田]中心があるのは、インタクトな細胞ということでしょうか。

[堀川]放射線処理では、物によって電顕レベルでDNAの切断がみられるのですが、4NQOの処理の場合は無理というわけですね。

[難波]こんなかたまりが、1コの細胞の中に幾つありますか。

[安藤]6万個〜数万個という計算になります。

[吉田]電顕像とシェーマをどう繋ぎますか。

[安藤]今の所まだわかりません。

[吉田]ランプブラッシュ染色体という考え方がありますが、共通点がありますね。

[勝田]電顕像でみると、あまり小さくなっていないようですね。分劃したものでは長さが測れたのでしたね。

[井出]電顕でみたものの大きさは、10の8乗〜10の9乗です。ですが、切れ目がはっきりしないので、修復をこの方法でみるのは無理です。

[下条]ひろげてシャドーイングをする前に何か処理をして、切れ目をはっきりさせることは出来ませんか。

[井出]色々やってみましたが、膜が汚れてしまって駄目でした。

[安藤]アミノ酸をラベルして修復時に取り込ませ、電顕レベルのオートラジオグラフィで調べてみようと思います。

[堀川]X線もUVもDNAを切るのに何故4NQOだけDNAの切断が発癌に繋がるのでしょう。

[安藤]X線やUVでも生体では発癌するでしょう。

[堀川]生体に放射線をかけて、出来るのは殆どウィルス性で白血病が主です。

[安藤]切り方が同じだとは言えませんね。X線の様な場合のDNA切断は致死に働きますが、4HAQO、4NQOでは切れても又修復します。そして修復する時DNAレベルの間違いの起こる機会があるわけです。

[吉田]X線でも染色体レベルのトランスロケーションがあります。

[堀川]UVは変異を起こしますが、発癌はあまりありませんね。X線は薬剤と似た所もあります。

[難波]薬剤だと、あとに残るということはどうですか。4NQO処理の場合DNAの切れた端に4NQOがついていませんか。

[安藤]端かどうかは分かりませんが、とにかく、DNAが切れても切れたDNAのどこかに4NQOが入っているようです。それから薬剤でも、変異は起こしても発癌は起こさないものもあります。

[安村]薬剤には色々あって、DNAを切断してもそこに残らないものは変異だけを起こし、DNAに残るものは発癌剤になる。放射線は切るだけなので、変異を起こすだけという事になりませんか。4NQOで癌細胞を正常に戻せるでしょうか。

[勝田]癌センターの小山氏のデータがありますが、リバータントとは言えませんね。

[安村]悪性かどうかを復元だけで決めるというのが問題です。



《梅田報告》

     
  1. 月報(7008)で報告したハムスター細胞のその後の培養経過についてまとめてみた。(表を呈示)N#29の無処理細胞は現在培養日数364日を数える。形態的にはepithelioidといった感じで、227日以後の累積増殖カーブでみても増殖はおそいがconstantである。培養227日目に培養をわけて4NQO 10-5.5乗M投与した亜系は、形態的に原株と大差なく、又増殖率も原株と殆ど変りない(増殖曲線図を呈示)。この系は9月26日現在、4NQO投与後約140日になるが、4NQOによるtransformationを思わせる変化は見当らない。Soft agar中でもColony形成は認められない。

     N#34J細胞は培養125日目にcloningしてJ1、J2、J3、J4と4つのcloneをとった。原株とJ2、J4は一応培養を切って、J1とJ3の2系に、更に4NQOを投与した亜系を作った。培養165日以後の累積増殖カーブは(図を呈示)、無処理J1細胞と4NQO処理J1細胞とで殆んど大差ない増殖率を示している。J1はcontaminationを起し途中で切って了ったが、4NQO処理細胞は非常に良い増殖を示し、一様なfibroblasticの形態を示し、最近criss-cross様patternが多少認められる様になった。Soft agarでmicrocolonyが最近認められる様になった。

     J3は培養252日に4NQOを投与するSublineを作った。その時以後の累積増殖カーブ(図を呈示)では無処理細胞は非常に良好でコンスタントな増殖を示している。4NQO処理細胞は始めやや増殖率が下がったが、処理後30日頃より、無処理J3細胞より更に良い増殖率を示し、Saturation densityも上昇し、形態的に、はっきりとcriss-crossが認められる様になった。Soft agarでは両者共にmicrocolonyを形成する様になったので、目下その定量実験を施行中である。之等細胞のhamsterへのback transplantationも計画中である。

     

  2. N-OH-AAF投与例2株とRubratoxin(R)投与例の培養経過は(図を呈示)、増殖率はT253Eを除いてconstantで非常に早い。形態的には、fibroblastic cellから成るが、T253Eのみepithelialの感じのものである。Soft agarでT253EとT211Fの2系がmicrocolonyを形成する様になったが、まだ定量的データは出ていない。之等のbacktransplantationを行ったばかりなので、そのうちに本当に悪性化したかどうか、判明すると期待している。

     

  3. 上の結果で問題になるのは私共の行っている培養法だと非常にtransformし難いのでないかと思われることである。N#29 control cellのconstantに増殖している系に4NQOを投与してみても増殖率は上昇せず、N#34 3HOA処理後の細胞は4NQO処理しなくてもしたものも共にSoft agar中でmicrocolonyを形成している。T#253Eが培養150日目でSoft agar中でmicrocolonyを形成しているのが、一番早いtransformを思わせる変化である。又、他の系で4NQOを投与して数ケ月になるものもあるが、今の所まだ非常に遅い増殖率しか示していない。私共の薬剤処理法が悪いのか、培養条件がtransform実験には適さないのか。いろいろ検討すべき段階と思っている。

     

  4. Senecio alkaloidは肝・肺癌を作ることで有名であるが、化学構造としてpyrolizidine骨格が基本であり、いろいろの物質が報告されている。その中でmonocrotalineの供給をうけたので、HeLa細胞、JAR-2のsuckling liver、lung cultureに投与して急性変化を調べてみた。  HeLa細胞は10-2.0乗〜10-2.5乗Mで細胞の著明な空胞変性、核分裂異常が認められる。空胞は脂肪染色で染らない。核はやや大きくなっている。

     ラット肝細胞培養では10-2.5乗Mで同じ様な細胞質空胞変化が著明であるが、肝実質細胞の一部の空胞は脂肪で染る。核が不規則にfragmentationを起した様な細胞も出現する。

     ラット肺培養細胞に投与すると細胞質の著明な空胞変性、核のfragmentation細胞、異常分裂像が観察された。この場合の空胞は脂肪染色で染まらない。

     ラット肺培養細胞に、10-2.5乗Mのmonocrotalineを投与して時間を追って染色体標本を作製した。Mitotic coefficientと、染色体の形態を表に示したが、MCは処理群でやや減ずる程度である。Gapは投与後やや増加する程度である。投与後48時間後の標本で54%の細胞に極端な染色体異常(break、fusion等)が観察された。しかし36%の細胞は正常に見えた。

     目下の所dataはこれだけであるが、Autoradiographicalにでもattackの時期等調べる予定である。発癌剤としてこの様に激しい染色体異常を起すので、目下ハムスター細胞に投与してin vitro carcinogenesisの実験を開始した。



 

:質疑応答:

[吉田]ちっとも悪性化しないというのは、使って居る4NQOが悪いのではありませんか。4NQOはずい分製品むらがありますから。

[梅田]私もそう考えて新しく4NQOを入手して実験を始めました。セネキオアルカロイドというのは南米産で、食べると肝癌が出来ます。

[吉田]肝臓だけに染色体断裂が起こるのですか。

[梅田]肺の細胞にも起こります。肺癌を作るという報告もあります。

[下条]ウィルス処理の場合は、先ず少量のウィルス液を入れて、何時も細胞あたりのウィルス数を定めて実験します。薬剤の場合も、細胞あたりのモル数をはっきりさせてほしいですね。

[安村]ウィルスの場合は吸着がはっきりしますが、薬剤の場合そううまくはっきり出せるでしょうか。

[下条]ラベルした薬剤を使えば、取込み量がどの位になるかは判るはずです。培地に添加する量を定めるだけでは、細胞当たりどの位の薬剤が取り込まれたかはわかりません。



《吉田報告》

 クマネズミ(Rattus rattus)は染色体お呼び血清蛋白の所見よりアジア型とオセアニア型にわかれる。前者は2n=42で、N及びR型トランスフェリンをもち、後者は2n=38でC、D、E及びFのトランスフェリンをもっている。両者を実験室で交配させてF1を得た。F1の染色体は全て両者の混合型で2n=40となり、トランスフェリンも両者の混合型であった。F1同志の交配で1頭のF2を得たが、その染色体数は2n=39で、トランスフェリンと共にF1よりの分離型であった。

 自然界では南太平洋上のエニュエトク島で、オセアニア型とF2型のクマネズミを採集した。すなわち、6個体のうち、4個体はオセアニア型(2n=38)、他の2個体は実験室で得たのを全く同じF2型(2n=39)であった。2n=42のアジア型はアジア全域に分布しているが、2n=38のオセアニア型は、オーストラリア、ニュージランド、ニューギニア、ハワイ、テキサス、アルゼンチン及びイタリーに分布し、エジプトには両者が混在することが報告された。しかし雑種は発見されていない。

 分類学者によるとクマネズミは東南アジア原産といわれているので、2n=42のアジア型がこの種の原始型で、それが中近東よりヨーロッパへ入って染色体fusionがおこり、2n=38となり、それがヨーロッパ人と共にオセアニア、北米及び南米へ移動したと考えられた。