勝田班月報:7102:AH-7974の毒性代謝物質

《永井報告》

    肝癌AH-7974細胞の毒性代謝物質の化学的研究(続報) 月報6811、7008、7010号での報告に引き続いて、ラッテ肝癌細胞AH-7974によって培地中に放出される物質で、正常ラッテ肝細胞の生残乃至増殖を阻害するような毒性代謝物質について報告する。(実験毎に分劃図を呈示)

    これまでに、Sephadex G25によるゲルクロマトグラフィーによってえられる活性分劃には、塩基性および酸性の2種類の毒性物質が存在することを、イオン交換クロマトグラフィーによって明らかにした。

    今回は、このうち塩基性物質について、Dowex 50(H+)でのstepwise elutionクロマトグラフィーによって、精製を試みたので、報告する。アンモニアによるstepwise elutionで、I〜VIの6つのニンヒドリン陽性分劃が得られた。活性テストは医科研癌細胞研究部でおこなわれ、その結果は別項に示されている。

    それによれば分劃IIIに活性がみられ、IIに弱い活性が見出されたほかは、分劃I、IV、V、VIには活性は見出されなかった。従って活性物質は、分劃IIIに大部分が濃縮精製されたことになる。そこで分劃IIIにこの分劃にのみ存在するペプチドが検出されるかどうかを、ペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で調べた。物質の検出はニンヒドリン法でおこなっているので、呈色スポットはニンヒドリン陽性物質の存在を示している。

    分劃IIIに特徴的なペプチドが存在しているようにはみえない。分劃IIIで検出されたスポットは、IIIにのみ見られるものでなく、他の分劃にも見出されるからである。

    以上の結果を考察すると、次のようなことが考えられる。

    1. 活性物質は非ニンヒドリン陽性か。すなわち、ペプチドではないX物質か。

    2. 活性物質は、予想したようにやはりペプチドである。(a)しかし、それは、ホルモンOxyctocinのような環状ペプチドで、アミノ基が修飾されているようなペプチドか。(b)普通のペプチドであるがアミノ基が修飾されているものか。(c)今回使ったペーパークロマトグラフィー、高圧ロ紙電気泳動法で、他のペプチドスポットと重なって、分離されなかったために、ペプチドであるが活性ペプチドスポットとして検出されなかった。

    以上のような可能性が考えられるが、もしアミノ基が修飾されているならば、電荷を失うわけだから、Dowex 50(H+)には、吸着されないはずで、おかしなことになる。だから今のところ、(1)か(2)-(c)の可能性が最も高い。活性物質は、加水分解によって活性を失うから、(1)の場合でも、その化学的性質は複合物質として存在するか、強酸に弱い物質が考えられねばならない。生体に存在する物質で、このような性質をもつものは、それ程多くない。糖反応は陰性だから多糖の可能性もない。そこで現在は、なおペプチド説を考えてゆきたい。また、分劃IIIは約12mgで、活性の収量は、出発物質の345mgを考えると、あまりにも少なすぎる。このことについては、Sephadex G-25で分劃後、Dowex 50(H+)にかけるまで、長時間経過しており、この時に、分解を活性物質が蒙ったものと思われる。活性検定についても、今後は、定量的におこなえるようにしなければならない段階に入ったものと思う。

:質疑応答:
    [安藤]Sephadex G-25で分劃した時のpatternは培養前と後との間に違いがありますか。

    [永井]培養前の培地を分劃した時はみられなかったpeakが培養後の培地を分劃したものにはあります。そしてそのpeakに今の所、活性があるのです。

    [堀川]活性の表し方はどうしていますか。

    [永井]Specific activityは出せていません。そこが少し弱いので、今、定量的にやり始めています。

    [堀川]AH-7974以外の細胞系でやってみましたか。正常細胞からは出していませんか。

    [永井]次の問題としてやってみるつもりです。

    [山田]このJTC-16という系は電気泳動的に悪性度の最も強い系ですから、こういう問題にも適していると思いますよ。

    [安藤]電気泳動の結果についてですが、IIIのpeakの物質には先端に違うものがあるように見えますね。

    [永井]そうかも知れませんが、まだ何とも断定できません。

    [難波]IV、V、VIの分劃のgrowthに対する影響はありますか。

    [高岡]今回使った濃度ではほとんど影響はありませんでした。

    [堀川]他に環状ペプチドで毒性をもつものの報告はありますか。ペプチド以外の物質だという可能性も強いですね。

    [永井]毒性のあるペプチドについての報告は幾つかあります。この物質には糖の反応はありません。

    [吉田]トキソホルモンとの関係はどうですか。

    [永井]トキソホルモンは癌細胞そのものをするつぶして抽出していますが、この物質はAH-7974細胞の代謝産物です。

    [佐藤]in vitroでなく動物の腹腔内で増殖させたらどうですか。

    [永井]この実験はもう数年前からやっていて、時々御報告してはいるのですが・・・。分劃する材料がなるべく単純なものである事が必要です。始どうしても仕事が進まなかったのは、仔牛血清20%+Lh0.4%という培地で培養していた為、分劃しても無数にpeakが出て活性の所在がはっきりしなかったからです。それから色々と培地を工夫してやっとここまでこぎつけた所です。今から腹水では後戻りする事になります。

    [堀川]熱には安定ですか。

    [永井]100℃までは安定です。

    [安藤]アルカリ、酸にはどうですか。

    [永井]分劃の過程から考えて、かなり安定だと考えます。今問題なのはassay法です。

    [難波]colony法など使ったらどうですか。

    [梅田]colony法もよいのですが、培地が沢山要ります。私が発癌物質の毒性のスクリーニングに使っているプラスチックプレートを使う方法の方が簡便で良いと思います。

    [藤井]細胞のextractにも活性はありますか。

    [高岡]一番初めに培地を高分子と低分子に分けた時、高分子分劃にも阻害活性はありましたから、細胞内にもあるかも知れませんが、分劃して行くのに低分子の方が扱い易いので、培地の低分子から出発したわけです。

    [堀川]大体OKですね。あとSpecific activityをきちんと出してください。


《勝田報告》

    ラッテ肝細胞株RLC-10(4)の培養に、上記永井報告の分劃I〜VIを添加して各分劃の毒性度を形態学的にしらべた。培地は仔牛血清20%・ラクトアルブミン培地を80%+各分劃を塩類溶液に溶かしたもの20%、添加4日後に培地更新(同量の各分劃を含有)、添加後、計8日にメタノールで固定し、ギムザで染色した。結果は第III分劃を添加した群の細胞にのみ強い形態変化がみられた。対照群は分劃を含まない塩類溶液を等量添加した培地で、実験群と同期間培養した。(顕微鏡写真を呈示)

    つづいて同細胞株の培養に分劃III及びI〜VIを含むdowex 50による分劃II-Iを添加し5.5日間連続観察した映画と、対照としてラッテ肺センイ芽細胞株RLG-1の培養に分劃II-Iを添加し、同様に観察した映画を供覧した。結果は分劃II-IはRLC-10株に対して添加2〜3日の間に細胞が殆ど死滅する程の強い毒性を示すが、センイ芽細胞株に対する毒性は軽度であった。分劃III添加群では培養初期に於いて細胞分裂がかなりみられたが、対照群に比して強度に増殖を阻害された。

:質疑応答:
    [堀川]この物質の毒性はreversibleでしょうか。培地から除くと細胞は回復しますか。多分G2blockだろうと思われますが、DNA合成RNA合成のどこを抑えるのでしょうか。またこの物は細胞のどの部分にbindするのでしょうか。

    [高岡]今やっと物として分劃できそうになった所ですから、それらの事はこれからの問題です。

    [安藤]RLC-10がconfluentになってから、この物質を添加しても効果がありますか。

    [高岡]まだやってみていません。しかしconfluentになった時という意味が、細胞が活発に増殖していない時ということでしたら、培地の血清が不良で増殖度が低かったとき、阻害効果が少なかったというデータはあります。

    [安村]なぜ肝細胞に特異的に効果があるのか、という事に興味がありますね。fibroblastとの区別に使えますね。

    [藤井]ラッテに接種するとどんな影響があるでしょうか。

    [高岡]考えていますが、効果があったかどうかを判定する指標が難しいですね。

    [安村]肝機能の検査をすればよいでしょう。

    [山田]映画から作用機序がわかりませんかね。

    [吉田]種特異性はありますか。

    [高岡]種については解りません。今の所ラッテ由来の細胞について調べています。

    [佐藤]in vitroの悪性化の実験の中に位置付けると、悪性化の過程で悪性化した細胞がこういう毒物を出して正常細胞をやっつけ、癌細胞をセレクトして残すという事になるでしょうか。


《梅田報告》

    乳のみハムスター肺の培養細胞に4NQO、Nitrosobutylurea(NBU)、Monocrotalineを投与して長期継代を続けた一連の実験系について報告する。

  1. 第1の細胞系は4NQO 10-5.5乗Mの培地で1時間処理後、ハンクス液で2回洗い正常培地に戻す操作を2回行って後、ずっと長期継代を続けた(Cumulative growth curvesを呈示)。4NQO処理後13代約110日後から急激な増殖の促進が認められ、その後は一様に早い増殖を示している。形態像は処理後しばらくの間コントロールの細胞と同じ大小様々の細胞で一様に染色性が悪く核も明るい核質をもっていた(Carnoy固定、HE染色)。

    増殖の早くなったのと殆一致して今迄より小型でSpindle shapedの細胞が多くなり、piling up、criss-crossを示して又染色性は細胞質、核共に非常に良くなり核染色質は凝塊を作る。しかし染色性の悪い明るい細胞も混在している。

    染色体数を19代目で調べた所(分布図を呈示)41本にpeakがあり、全体にhypodiploidの細胞が多くなっている。4nに近いover 60の染色体数を持つ細胞もやや多くなっている。

    Controlの細胞の19代目の染色体数もややhypodiploidの細胞が増加していた。技術的な不手際があるかも知れないので更に精査したい。

  2. 次の例はNitrosobutylurea(小田嶋先生、菅野先生がhematopoietic organのMalignizationを起すとして報告している)を培地中に10-2.0乗Mとかし、その培地で2日間培養後、正常培地に戻す操作を2回繰り返した。この細胞は形態的にもcontrolと似ていて大小の染色性の悪い細胞が継代されていたが、15〜16代頃よりその様な細胞の間にはさまって小型の細胞の集団が見出される様になり、丁度24代目培養(NBU処理後)180日頃より急に増殖率が上昇した。この時点より4NQO処理と同じく、やや小型のspindle-shaped cellからなるpile up、criss-crossの著明な形態を示す様になり、明らかな形態像のtransformationを示した。染色性も非常に良くなったが、染色性の悪い薄い細胞は徐々に消失していく様である。このものの染色体数は目下検索中である。

  3. MonocrotalineはNBUと同じ様に10-2.5乗M培地で2日間処理を2回行った(累積カーブを呈示)。処理後非常に悪い増殖率を示していたが、処理後13代、130日を過ぎた時に急激な増殖率の変化が認められた。以後は良好なconstant growthを示している。形態的には13代に到る迄は巨大な異型細胞の出現が目立ち、又多核細胞も見出され多彩な像を示し、何時培養が不能になるかと思われる様な状態であった。之等の巨細胞の染色性も低く、核も明るかったが、13代目以後は4NQO、NBU処理と同じ様な小型spindle-shaped cellでどんどん置きかえられる傾向を示している。

    このものの染色体数は16代目で検索したが(図を呈示)、42本にpeakがありdistributionも散っているが、hyperploidのものはない。

  4. 上記3細胞とコントロール細胞についてusual plateでのcolony formationとsoft agar中でのcolony formationノ率をみた。(表を呈示)

     Usual plateでは4NQOとmonocrotaline処理でPlating efficiency(PE)の上昇をみ、NBUでは調べた16代目ではまだ完全に形態的transformする前だったためPEは低い。之等のcolonyのうちで一見pile upしている細胞よりなるdense colonyのPEだけを別に数えてみた。4NQO、monocrotaline処理で上昇しているが、全体のPEのcontrolに較べての上昇率よりずっと低い。更に代が進めばdense colonyのPEが上昇するかどうかこれから調べたい。

    Soft agarでは増殖率が早くなり、形態的にtransformationを起こした時期よりmicro-colony形成が明らかに認められる様になっている。まだ大コロニーは出現していないが、これが技術的不手際か、培養が進めば大コロニーになるのか検索中である。

    動物復元に関しては接種された動物が死亡して了ったので、再び実験を繰り返すべく準備中である。

:質疑応答:
    [吉田]染色体数が増えてゆく場合は、はじめに不均等分離が起こります。マウスなら39本と41本という具合に。その次に遺伝子が少なくなった39本が死んで41本が残るという事をくり返してだんだん増えると考えられますが、hypoの場合はアームの数としては減っていないという方が多いのではないでしょうか。ゴールデンハムスターのようにゲノムの上で4倍体だと考えられるようなものは、多少数が減っても生存に影響ないでしょうね。梅田さんの場合もっと行先長く経過をみてほしいですね。

    [佐藤]培養細胞では最初染色体数が少し減って、それの倍数体が出来て大体3倍体あたりに落ち着くというのが多いですね。

    [吉田]培養細胞でなくても腹水癌でもそういう現象はありますね。

    [佐藤]発癌剤を処理する時、その濃度が発癌に対して大きく影響すると思います。それから4NQOなどは1回の処理で悪性化することが判っていますが、DABの様に効果が加算されて悪性化する発癌剤もありますから、うまくゆかないものは何回も処理するのもよいと思います。

    [梅田]今回やっと変異までがうまくいった理由としては、定期的にきちんと餌がえをすることと、細胞のシートが一杯になったら必ずsubcultureをするということを守ったからかと考えています。

    [山田]黒木さんのデータを参考にしてみてみると、成長曲線の上からは良性腫瘍を作るといった時期ですね。

    [吉田]in vitroの悪性化では材料の年齢がどう関係するか判っていますか。in vivoでは癌は老齢の方がなりやすいという事ですが、in vitroでもありますか。

    [佐藤]肝細胞の実験では乳児しか培養が出来ないので、比較がむつかしいですね。

    [吉田]染色体の上では年を取るとアニュープロイドが多くなりますね。

    [堀川]セットの上では異常なものが増えても、それは増殖までもってゆけないのではないでしょうか。

    [佐藤]上皮性のものは老齢に多く、肉腫は若い時多いですね。

    [山田]老齢の癌化が多いといっても、萌芽は若い時にあるのではありませんか。

    [安村]癌の場合は二重の生物学になりますからね。仲々解析は難しいですよ。

    [堀川]無菌動物の様に外界からの刺戟のない状態で実験してみる必要もありますね。

    [安村]生体内の細胞は2倍体だということになっていますが、実際には何%位が2倍体ですか。

    [吉田]90〜99%くらいです。

    [安村]それは何コの分裂細胞を数えての結果ですか。1万個も数えたでしょうか。

    [吉田]そう、実際に1万個も数えたデータがあります。

    [佐藤]培養内で正2倍体がどの位長く保てるのか知りたいと思います。それが材料の年齢とも関係があるのかどうかも調べてみるとよいですね。生体ではとにかく正2倍体が長く続くわけでしょうから、その状態をin vitroで再現したいと思います。

    [吉田]人の2倍体の細胞の培養の場合、老齢の人から採った培養はアニュープロイドが早く出てきます。


《山田報告》

    前回報告しましたラット正常肝由来の細胞RLC-10のコロニーRLC-10-2及び-4、及びRLT-1のコロニーについて、写真記録式電気泳動装置によりPopulation analysisを行っています。写真はとってあるのですが、テクニシャンの交代で焼付が間にあわず、次回その結果を報告します。

    Elphor Va PII型装置による細胞集団分劃の基礎実験;

      この装置により数種の混合色素を分離することは、直ちに成功しましたが、細胞群を分離する実験はなほ幾多の問題がありさうです。

      まずメヂウムの問題です。

      通常の電解質では、比重が軽いため、細胞がどんどん沈下してしまいうまくありませんでした。そこで比重を高めようとすると、今度は粘稠度が高すぎて泳動が抑制されます。そこで文献を参考にして種々実験した所、次のメヂウムが良いことがわかりました。

      『30mM Tris-Maleate buffer pH7.0:200mM Sucrose:10% ficoll(分子量40万)』この液の比重は1.065であり、4℃でラット赤血球を24時間保存しておいても、このメヂウム中で沈降しません。

      このメヂウムを用いて60ml/hの速度で流し、これにラット赤血球を1ml/hの割合で連続滴下し、300mMの直流電流を流して分離した所、比較的揃った所の試験管5本に集まりました(全部で50本に集る様に作られてあります)。 この状態ですと約1〜1.5hで6-7cm泳動したことになります。この時間内に流した赤血球は2x10の8乗で、きれいな分布が得られました(図をを呈示)。これで一応赤血球についてはOKと思いましたが、良くみると、分離泳動の途中で、一部の赤血球が凝集し、その地点から泳動速度が急に低下しています。

      この原因を充分開明しない限り有核細胞の分析には入れないので、まずこの点について検索しています。今の所わかったことは、同一条件でB.T.B.色素を流してメヂウムのpHをしらべた所、途中の経路におけるpHは全く変化がないと云うことのみです。またこの様に一部凝集した赤血球は分離採取しても、そのViabilityが変化していないことをニグロシン染色でたしかめました。

      なほこれから実用になるまで、まだ幾多の問題がありさうですが、早く解決して行きたいと考へています。


《堀川報告》

    培養哺乳動物細胞のDNA障害と修復機構(29)

    4-NQOはpronaseや2-mercaptoethanol sensitive siteをattackするようであるということは安藤班員によって示されたが、このことは2.5x10-6乗M 4HAQOで30分間処理した細胞をpronaseで再処理した際、DNAの二重鎖切断量は相加的に増加しないという実験結果からも確認された(図を呈示)。

    今回はこの方法を用いて、4-HAQOあるいはX線でEhrlich細胞を処理した後にpronaseで再処理した場合のDNAの切断量の変化、更には4-HAQO(またはX線)で細胞を処理し、DNA切断を誘起した後に、X線(または4-HAQO)で再処理した場合、DNAの二重鎖切断がどのように変化するかを解析するといった方法で、X線と4-HAQOの作用機構の相違性を検索した結果を報告する。4-HAQOまたはX線で前処理または前照射した後にpronaseで再処理した際の細胞内の二重鎖切断の変化を総括的に略図で示す。

    (それぞれに図を呈示)4-HAQOで前処理し、pronaseで後処理する場合には総切断量は処理要因のうち切断量の多いいずれかに依存する。一方、X線前処理の場合は少し様子が異なり、少線量でわずかの切断を誘起した後、pronaseで多量の切断をおこさせるような条件で再処理しても、pronaseの作用はまったく現われないことが分かった。

    一方、4-HAQO(又はX線)で前処理した細胞をX線(又は4-HAQO)で再処理した場合のDNAの二重鎖切断量の変化の場合にも、4-HAQOで前処理する場合に対して、X線で前照射し次いで4-HAQOで再処理する場合が問題になってくる。つまりX線で前照射した細胞を4-HAQOで再処理する場合には、DNAの二重鎖切断誘起能からみた範囲では、再処理要因である4-HAQOの作用は現れない場合が観察されたり、更にはX線で切断した二重鎖切断を再処理要因である4-HAQOが再結合させるような結果が得られたりして事態は複雑である。

    しかし、いずれにしても、こうした結果はX線と4-HAQOによって誘起された一本鎖切断が同じスピードで再結合されるとか、あるいは、X線と4-HAQOによって誘起された一本鎖DNAの再結合が、同一代謝阻害剤で阻止されるという結果が示唆してきた両者の作用機構の類似性に“待った”をかけるものであり、本質的には両者の作用機序に違いのあることを物語るものと思われる。

    以上の結果を総合して、これらの問題を解析するための仕事を進めている。 :質疑応答:

    [佐藤]4NQO処理の場合は細胞数によってDNAの切れ方が違うわけですが、X線の場合はどうでしょうか。

    [堀川]X線では細胞数に影響されません。4NQOの場合は4NQOの量に対して細胞数が多いと一度他の細胞に代謝されて形を変えられた4NQOを取り込む細胞が多くなり、細胞数が少ないと全部の細胞が4NQOそのものを直接取り込んで障害を受けるということが考えられます。放射線の場合はそういった代謝産物の影響はありませんから。

    [佐藤]一次の取り込みに違いがあるのは、細胞の分裂周期に関係があるでしょうか。

    [堀川]同調培養してみないとはっきり判りませんが、関係があるかも知れませんね。

    [高岡]浮遊状態で4NQO処理をすると細胞数の影響が減るのではないでしょうか。

    [安藤]私達はFM3Aも使って実験していますが、これは浮遊培養で増殖する系です。濃度とDNA切断に関係がありましたか。

    [井出]切断についてはまだ調べていません。

    [佐藤]細胞濃度より細胞のphaseの方が大きな問題だと思います。DNAの合成期とそうでない時期とでは作用の受け方が違うのではないでしょうか。

    [高岡]そうとばかりは言えないようなデータを持っています。L・P3を使った実験で、細胞を浮遊状態で4NQO処理をし処理後に細胞数を変えて培養すると細胞数の少ない群の方が障害を強く受けること、そしてL・P3のdonditioned培地を加えると、その障害度を少なくすることが判っています。

    [安村]30分処理では4NQOが出たり入ったりするというなら、プレートを沢山用意して一度取り込まれて放出する位の短い時間の処理をし、処理後の培地を次々と細胞にかけてゆくと何回取り込まれたら癌化作用が無くなるかが分かるでしょう。

    [安藤]一度細胞にかけた4NQOは変化していて、もう細胞に取り込まれなくなります。

    [堀川]その場合心配なのは、トリチウムでラベルしていると放射能で測定された取り込み量と、本当の取り込み量が平行しない事もあるのではないか、H3は水の中にとぶ事もありますから。

    [安藤]入れたものは放射能として殆ど残っています。4NQOは有機溶媒によく溶けるものですが、代謝された物質は水溶液で有機溶媒に溶けなくなっています。メチールコラントレンでも同じような現象があったという文献もみました。そしてその物をSephadex G15にかけますと、もとの4NQOの所のピークが消えて、新しく5つのピークが出てきます。

    [堀川]発癌の可能性がDNAの切れることと平行しないのは何故でしょうか。4NQOの場合自分の切ったDNAの切れ目へ4NQOが入って埋めてしまうという事はありませんかね。

    [安藤]4NQO処理後の細胞の核酸をとってみると、直後ではrRNAに一番多く付いていますが、処理後24時間たってDNAが修復された時期にはDNAだけに残っています。

    [永井]pronaseで切れる分子当たりに4NQOは何分子付くことになりますか。

    [安藤]約1,000コになります。


《安藤報告》

§4NQOにより切断されたDNAの“連結蛋白”の再結合に新たな蛋白合成は必要か。

    4NQOはL・P3細胞のDNAに作用し、DNA部分のヌクレオチド結合の切断を起すと同時に“連結蛋白”部分にも作用し切断を起す事を報告した。この4NQOによる蛋白切断が4NQO代謝物による直接作用か、蛋白分解酵素の活性化によるのかは今の所不明である。これ等の両種の切断箇所は、細胞を4NQOフリーの培地中でincubateする事により再結合された。

    今回はこれ等の再結合が起る際に蛋白質の新たな合成が必要であるか否かを検討した。使用細胞は実験のやり易さのためにsuspension cultureされるFM3A(マウス乳癌由来)を使用した。先ず蛋白合成阻害剤であるcycloheximide(CH)によってどの程度蛋白合成阻害が起るかを調べた。1μg/mlで90%以上阻害された。ついでにCHによるDNA合成の阻害の程度を調べた所80%の阻害が見られた。(それぞれ図を呈示)

    次にCHによって細胞の増殖がどのように抑えられるかを調べた所、細胞数約50万個/mlの時に4NQO 10-6乗M 30分処理を行い、3分する。(1)は処理後正常培地に移すと細胞数は増加し続ける(4NQO)、(2)は4NQO無処理の細胞にCHを加えると細胞数の増加は全く起らない(Cycloheximide)、(3)は処理細胞にCHを加えた場合にも細胞増殖は見られなかった(4NQO、Cycloheximide)。(図を呈示)

    この事実からCH1μg/mlで蛋白合成、細胞増殖は殆ど抑制されてしまう事がわかった。次にこの4NQO処理後の三群について0時間、24時間後に於けるDNAのパターンを調べた。

    中性でDNAの二重鎖切断(蛋白部分の切断)が起っていた(0時間)。アルカリ性密度勾配遠心によってDNA部分の一重鎖切断も起こっていた(0時間)。24時間、それぞれの処理を受けた細胞DNAはCH存在下にも二重鎖の再結合(蛋白部分の)及び一重鎖の再結合を受けていた。(それぞれ図を呈示)

    以上の諸事実より、次のように結論する事が出来る。

    1. 4NQOによりDNAの一重鎖切断、連結蛋白切断を受けた細胞は、これらの障害を修復し、増殖を継続する。
    2. これ等の二種類の障害の修復には蛋白質の新たな合成は必要ではない。しかし、この際障害を受けた蛋白がそのまま再結合されるのか、細胞内プールにあるかもしれない既製の蛋白が利用されるのかは不明である。
:質疑応答:
    [堀川]Cycloheximide処理は、4NQO処理の後ですか。

    [安藤]そうです。

    [堀川]処理後では、もう遅すぎるのではありませんか。プールのものから補給できますから。回復のための新たな蛋白合成をしないですむと思います。

    [安藤]それは言えますね。

    [堀川]タイムコースを変えて4NQO処理の前にかけてみると、どうでしょうか。

    [安藤]それにも問題がありますね。4NQO処理の前にかけると、全体の条件が変わりますから。

    [梅田]X線の場合はどうでしたか。

    [堀川]ピューロマイシンを72hr前に処理すると、回復が抑えられますが、他のものでは皆回復してしまいます。

    [安藤]その場合の生死判別はどうなっていますか。

    [堀川]問題を分けて生死と関係なく、回復のプロセスを追った実験です。あと4NQOがfree radicalで作用するのかも知れないという問題が残っていますね。scavengerの事もやってみる必要があるかも知れません。


《藤井報告》

    Culb-TC細胞とsyngeneic lymphocyteのmixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)

    Culb-TC細胞をsygeneicなJAR-1に移植して、結紮解放、摘出などを試み、JAR-1を免疫して抵抗性を賦与し、tumor specific transplantation antigen(TSTA)を証明し、あわせて抗血清を得ようつする試みは失敗に終った。そこで、JAR-1ラットのリンパ球が、syngeneic tumorであるCulb-TC、その他の抗原を認識して幼若化現象がおこるかどうかを検討しようと企てた。

    ラット、マウスのリンパ球を培養し、その幼若化現象を見ている報告はあるが、実際にやってみると極めて困難であった。ここに報告するMLTRの予報は、ラット、マウスのリンパ球を用いたmixed lymphocyte culture、lymphocyte target cell destructionの手技を確立する目的で、医科研細菌感染、中野助教授と、外科研究部の藤井、西平らが協同でおこなったものである。

    ラットリンパ球の幼若化にともなうH3-TdRの摂取は、培養液にRPMI1640を用い、新鮮(凍結しない)ラット血清を10%に加えることによって再現性のある成績が得られるようになった。

    実験に用いたCulb-TC細胞は、8,000R照射したのちガラス面より機械的にはがし、RPMI液(10%ラット血清加)に浮遊し20万個cells/mlと8万個cells/mlに合した。(細胞をガラス面から外す前に培養液をすて、RPMI液で3回洗った。)

    reactant cellsとして、JAR-2ラット♂の末梢リンパ球を用いた。ラットの腋窩動脈を切断し、直ちに2.5%citrate in Hanks sol. 2.5mlを腋窩に注入して混和し採血する。この血液を試験管にとって静置、30分。上清を集めて遠心(700rpm、10分間)し、沈殿した細胞をRPMI+10%ラット血清に浮遊し、100万個cells/mlに調製した。

    抗原用細胞に、RLC-10細胞をCulb-TC同様の操作をして用意した。

    用意したreactant lymphocytes suspension、100万個cells/ml、0.5mlと抗原細胞−Culb-TC irradiatedあるいは RLC-10 irradiatedのそれぞれ0.5mlを平底中試にとり、炭酸ガスフランキ中に入れ、37℃に5日、6日間保存した。この保存後、各tubeにH3-TdR 0.5μCiを加え、16時間後その摂り込みを測定に供した。

    結果(図を呈示)、Culb-TC、10万個に対するリンパ球のH3-TdR摂取は5日−1008(cpm)、6日−2888(cpm)であり、Culb-TC、4万個に対してはこれより低く5日−1064、6日−1319であった。すなわち抗原細胞の多い程、リンパ球のH3-TdR摂り込みが高い。またRLC-10細胞も同様に抗原細胞の多い方が高いcpmを示しているが、Culb-TCのばあいより、6日のcpm値はずっと低い。

    この実験は、培養Culb-TCおよびRLC-10細胞が少く、培養日数、抗原細胞数の検討ができなかったのであるが、少くとも、4NQO in vitro induced Culb-TCがsyngeneicなJAR-1のリンパ球に幼若化刺戟を与へたことが示されたものと云える。なおCulb-TC、RLC-10細胞およびreactant cellsだけではcpmははるかに低い。

    続いて培養日数、抗原細胞数によるH3TdR摂取ピークの検討、抗原細胞のX線照射、MM-C処理の比較、autoradiogramによる幼若化現象とH3-TdR摂取の確認などをおこない、その上でCulb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Cule、etc.についてその抗原性の検討をする予定です。

:質疑応答:
    [高岡]いくら放射線をかけられていても、リンパ球を添加したことによって、癌細胞の方が回復してDNA合成を始めるという心配はありませんか。

    [藤井]8,000rで線量は充分でしょうか。

    [堀川]lethal doseということでしたら、4,000rでも充分といえるでしょう。ただ死の定義となると難しいですね。酵素活性などは残っていますし、わずかにDNA合成があることもあります。

    [安藤]autoradiographyをやってみれば、摂り込みのある細胞が判るでしょう。

    [藤井]勝田班長にもよく言われていますから、形態の方の裏付けもしっかりみておくつもりです。この方法にも色々問題はあります。放射線をかけただけで同系のリンパ球でも抗原刺戟があったというデータもあります。

    [山田]幼若化する細胞は抗体産生をする細胞と同じ位の%ですか。

    [藤井]幼若化の方がずっと少ないですね。培養中にある程度死んでしまいますから。

    [山田]RLC-10は細胞電気泳動的にも大分変わっていますから、やはりもっと生体に近い系を使った方がよいでしょうね。

    [佐藤]幼若化したものは増殖するのですか。

    [藤井]わかりませんね。判ったようなことを書いてある文献もありますが・・・。

    [佐藤]培地に仔牛血清を使っていますが、その影響はありませんか。洗った位では残ると思いますが。

    [藤井]牛血清は影響がありますが、対照群も同じ条件で比較値を出していますから。

    [山田]血清が問題になるなら、吸収しておけばいいではありませんか。

    [藤井]そうですね、血清immunoadsorbentでgel化すれば吸収できます。

    [山田]純粋にリンパ球ばかりでないのも問題でしょう。テフロンファイバーを使うとリンパ球をきれいに分離できます。

    [滝井]最近の仕事でコンラキシンでリンパ球だけを分離したというのがありました。

    [安藤]ラベルの条件は・・・。

    [藤井]0.5μc〜1.0μc/mlで16hrラベルしました。


《安村報告》

§ラット肝由来細胞系(Hepro)のその後:

    これまで数回このHepro細胞について月報に書きました。ラット肝細胞の初代培養のクローン化をその後Wistar系で試みましたが、これまで一度も成功しませんでした。そこでこのHepro細胞に再びたちかえって、実験系として使えるように育てあげることに努力を集中しました。肝実質細胞であろうとのcriteriaの一つであるOTC(Ornithine transcarbamylase)の活性はin vivoのラット肝の10-3乗のorderで低いことはすでに報告しました。

    このHepro細胞は植えつぎに大変キムズカシイのですが、とにかく増殖の程度がよくなってきました。現在routineにはウシ血清1%のEagleMEMで継代されています。2月2日から血清なしのEagleMEMで増殖させることに成功しました。(顕微鏡写真を呈示)

:質疑応答:

    [梅田]8AG耐性、BUdR耐性の細胞のdoubling timeに差がありますか。

    [安村]8AG耐性の方は原株と変わりませんね。BUdRの方は大分長くなっている様です。

    [梅田]BUdRの場合、増殖しないので大きくなるとは考えられませんか。

    [安村]そうかも知れませんね。復元してもtakeされないというのは、その増殖しないという事のせいかも知れないとも考えています。

    [堀川]BUdRそのものの影響がダイレクトにあるとは考えられませんか。

    [安村]BUdRを除いても形態も増殖度も変わりませんね。

    [堀川]それならOKですよ。

    [梅田]私の経験でもDNA合成がおそくてdoubling timeの長いものは、ペタッとした大きな形態をしている細胞が多いですね。

    [堀川]BUdR耐性のものが動物にtakeされなくなったというのは、どういう事でしょうか。BUdRそのものがtumorの遺伝子をeliminateしてしまったのか、又はmutationなのか。BUdRが腫瘍性の弱いものをselectionしたのか。裏返すとBUdR感受性細胞は腫瘍性が高いという事になるわけですね。

    [安村]私はphenotypicな変化だと思っています。ただtumorの遺伝子がマスクされているだけではないでしょうか。NG処理をしてすぐBUdR耐性を拾って腫瘍性をみるとよいかも知れませんね。

    [高木]もとの細胞集団はpureですか。

    [安村]出発材料としてはcloningしたものを使いましたが、もう二年もたっていますから、また変わっているかも知れません。

    [安藤]BUdRは、DNA合成をとめる処理をしても影響があります。DNA合成だけに限って考えないほうがよいかも知れません。

    [堀川]耐性細胞のとれる再現性はありますか。

    [安村]あります。6回やって全部とれました。

    [堀川]次の展開はどうなるか興味がありますね。


《高木報告》

1.腫瘍細胞と正常(対照)細胞との混合移植実験

    RG-18細胞、500および50とRL細胞との混合移植実験について追加を試みた。RG-18 500の実験では(表を呈示)RL細胞10万個、1万個を混合した場合に腫瘍を形成しないものがわずかに認められたが、その他は殆ど同じ潜伏期で腫瘍を形成した。しかしこの実験では移植後一定の期間を経て生じた腫瘍がregressする場合が多く、特に対照細胞を1,000コ、100コ混合した場合には全例regressしてしまった。RG-18細胞は50代継代以後in vitroで細胞の増殖がやや低下し、また腫瘍性が低下したように思われるので、一定の生物学的性状を有する細胞を使う意味でさらに実験を繰返す予定である。今回のdataに関する限り、大体同一levelの細胞数のRL細胞を混じたときに腫瘍の増殖は抑制されるように思われる。

    現在isologousな実験系として、RRLC-11(従来No.5Cとよんでいた細胞でWKA rat肺に由来し、in vitroでspontaneous transformationを起こした細胞の再培養株)を使った実験を開始している。なおRG-18、50の実験は移植後事故死するratが多く、未だdataになっていない。

2.NG発癌実験

    9月の班会議で一部報告したNG-24、NG-26についてその後の経過を報告する。

    共にWKA rat胎児の肺に由来する繊維芽細胞を使用し、NG-24は培養開始後18日目にNG 10-4乗M30分1回処理したもの、NG-26は培養開始後22日目にNG 10-4乗M30分、148日目に10-4乗M30分計2回処理したT-1、同様に10-5乗Mで2回処理したT-2、10-6乗Mで同様に2回処理したT-3である。(写真を呈示)

    NG-24では処理後約100日、170日で対照および処理細胞をsoft agarにまいたがcolonyの形成がみられず、またNG-26では処理後約100日、210日で同様soft agarにまいたがcolony形成はみられなかった。

    移植実験も試みたが共に今日まで腫瘍の形成をみない。

    NG-24、NG-26共処理後約270日で、199+20%CS+0.1BP+100μg/mlKMの培地を用い、P-3 petri dishに1,000コまいたが(表を呈示)、NG-24では処理細胞に多くのpile upするcolonyの出現をみた。

    NG-26ではcontrolにおいてT-2、T-3よりむしろcolony形成能が高く出ているが、この様なデータのばらつきは用いた細胞が同じWKA rat肺由来でもmixed populationであることが原因であると思う。この原因を取り除かねばこのdataからいろいろ推論することは危険である。現在行っているRL細胞(NG-24におけるuntreated control cells由来)を用いたcolony levelの発癌実験の試みで、その対照細胞に少く共2〜3種のcolonyが形成されることが明らかになった。

    NG-24、NG-26については兎も角目下移植実験とsoft agarにつき再検している。なおrat胃の細胞を用いた発癌実験も近日中に再開したいと思っている。

3.Colony levelの発癌実験の試み

    より定量的な実験系を組むべく、colony levelの発癌実験を試みている。

    この実験に先立って細胞数のちがいによるNGのtoxic effectの違いをみた(図を呈示)。細胞数の少い程同一濃度におけるtoxic effectは強くあらわれた。この実験は万単位の細胞数で行っているのでさらに千、百単位の細胞に対するNGのtoxic effectについてはcolony形成能に関して検討しなければならない。

    次にRL細胞のplating efficiencyに及ぼす培地の効果をみるため、199+20%CS、199+0.1%BP+20%CS、MEM+20%CSの3種類の培地について検討している。CSを20%としたのは月報No.7010、7011でCS濃度は20%がよいと考えられたからである。現在まで1,000コの細胞をseedしたものについて、MEM、199の間に差はみられないが、199にBPを加えた培地はPEがやや良いように思われる。現在colony levelの実験として、一応MEM+20%CSでRL cellsを5,000、1,000、500、100とseedし、NG 10-5乗Mを培養4日後に1時間作用させてさらに2週間培養をつづけ、その後一部固定染色し、一部は一緒にtrypsinizeして継代し、500ずつseedして経過を追っている。しかしRLcellsは先述の如く少く共2〜3種のcolonyを形成するので出来る丈pureな細胞集団をうるべくcolonyを拾う努力も同時に行っている。

:質疑応答:
    [山田]一回の実験の群数を減らしても、一群の匹数を増やすようにして実験しないと、精度がよくありませんよ。

    [滝井]なかなか動物が思うように準備できないものですから。それから接種後すぐ死んでしまって、データにならないものも多いのです。

    [佐藤]正常細胞が混じっていることは、復元成績の妨げにならないのですね。

    [堀川]かえって促進している傾向がありますね。正常細胞がfeeder layerの役目をするのでしょうか。腫瘍の方を1コか2コにして接種するとどうでしょうか。

    [安村]1コ接種そのものが難しいですよ。

    [難波]100コのところはtakeされますか。

    [滝井]まだ日数がたっていないので、分かりません。

    [安藤]高木先生の仕事についてですが、NGはどこで処理するのですか。細胞が1コの時処理するのですか。

    [高木]なるべく1コの時がよいと思いますが、培養開始してすぐでは障害が大きすぎるので、培養4日たってから処理しています。

    [難波]コロニーの形態と感受性の関係はどうですか。

    [佐藤]耐性はありますか。

    [高木]growthカーブでみた所では耐性はありません。

    [堀川]発癌実験には10-5乗Mがよいのですか。

    [高木]いいと思います。大体増殖の50%阻害位です。

    [難波]始めにコロニーを拾ってcloneにしてから、処理をすればよいと思いますが。

    [高木]その計画で今拾っている所です。


《佐藤・難波報告》

    N-32:培養内で4NQOによって癌化したラット癌細胞の悪性化の指標を探す試み:Concanavalin A(Con.A)は、悪性化細胞の増殖を抑制するか、月報7101で悪性化したラット肝細胞の指標を探す試みとして、悪性化細胞の増殖に対するWheet germ lipase(WGL)の効果を検討した。その結果、WGLは特異的に悪性細胞の増殖を抑制しないことが分った。このネガティブデータの解釈として、1)使用したWGLには、もともと細胞の増殖抑制効果がなかったのか。2)使用した濃度が不適当であったのか。3)WGLが培地中のグルコースと反応して(グルコースがHapten様の働きをする)WGLの活性が低下したのか。などの問題が残った。そこで、培地中のグルコースと反応せず、しかも癌細胞の増殖を特異的に抑制すると報告されているCon.Aを使用して、悪性化ラット肝細胞の増殖に対する影響を検討してみた。

    実験方法:Con AはSigmaのjack beanから抽出した。所定の細胞を試験管にまき込み、2日目に20%BS+Eaglee'sMEMの培地中にCon.Aを終濃度425μg/mlに溶いた培地に変え、更に続けて3日培養し最終の細胞数を、Con.Aを含まぬ培地で培養した対照群の細胞数と比較した。使用した細胞は、LC-2系の対照細胞、この細胞にl0-6乗M 4NQO 1hr処理10回で悪性化した細胞、この悪性化細胞の復元で生じた腫瘍の再培養細胞を用いた。

    結果:Con.Aは、この実験条件のもとでは、悪性化細胞に対して、特異的な増殖抑制効果を示さなかった。いづれの細胞に対しても、Con.Aは、細胞の増殖に対して細胞の増殖促進或いは抑制効果はみられず、Con.A無添加培地内細胞の増殖にほぼ一致していた。

◇DABによる発癌実験
    5)培地内でDAB処理を受けた細胞の培地中からのDAB消費能について

    DABで生じた肝癌は、DABを代謝しないと報告されている。そこで、DAB代謝能と細胞のDAB消費能とは、関係ないかも知れないが、一応DAB処理を行った細胞のDAB消費能を検討してみた。細胞1コあたりのDAB消費能は、DAB投与時の細胞数に依存することを報告した。(月報7011)標準曲線は、クローン化した発癌剤無処理のラット肝細胞LC-2を使用して、作成した。そして、1)LC-2 DAB 20μg 30日処理。2)LC-2 DAB未処理 対照細胞。3)RLD-10 DAB 1μg 4日(培養開始時)。4)RLD-10 DAB 1μg 4日 その後3'-Me-DABを10μg〜20μgの濃度で156日間処理したもの。5)LC-10 クローン化したラット肝細胞、DAB未処理。6)培養株化されたエールリッヒ腹水癌。これらの細胞のDAB消費がどの程度か検討した。

    結果:現在までのところDAB処理後の細胞のDAB消費能は低下していない。現在、検討中であるがDAB消費能は細胞の増殖具合に依存しているようである。

    (図および表を呈示)B2Cell lineの累積曲線をみると、DAB、3'-Me共に27日間20μg/ml添加時最初は増殖を示さなかったが、DAB、3'-Meを無添加とし継代し再添加を行なった場合明らかに増殖することが分る。

    10μgについて2回、20μg5回と4回の期間、tube当り1日に消耗されたDAB、3'-Meの量は、10μg例の場合、かなり消費が少くなっているのが特異的である。DABの消費が細胞数及び細胞の生きていることが必要などと多くのfactorに左右されるので、詳細なことは補正しなければならない。或いは高濃度の場合と低濃度の場合、細胞に与える作用(特に癌化)が相違するかも知れない。

:質疑応答:

    [永井]WGLを添加した時、細胞は凝集しますか。

    [難波]ローテション培養でみていますと、やや塊が大きいと思われますが、どういう表現でまとめたらよいか考えています。

    [安藤]3日間添加しつづけるのですか。

    [難波]レオ・ザックスのデータではglucoseを除いての処理で数時間です。それもやってみる予定ですが、今日出したデータは添加しつづけています。

    [山田]癌の場合のみ凝集が大きいとすると、動物へ接種する前の変異株と動物からの再培養の系のように、正常と悪性の集団としての比率が明らかに違うものを使って、ちゃんとその比率に平行して凝集するかどうかを調べてほしいですね。

    [安藤]PHAにも色々あってglucoseに関係のないものもありますから、試してみるとようでしょう。それから同じ癌でも癌ウィルスによる変異は膜構造が一定方向に変わるが、化学発癌の場合は共通性がないという事も考えられます。

    [堀川]佐藤班員の仕事についてですが、DAB 20μg/ml処理の系ではDABを代謝しない細胞系ををselectしたとして、2度目にDABを添加した時はどうなりますか。

    [佐藤]2度目に添加すると消費します。

    [安藤]この問題は代謝酵素の活性についてと、DABの付くべき蛋白が無くなるのかどうかという事の二つに分けて、はっきりさせなければなりませんね。処理後の細胞蛋白当たりにどの位DABが付いているか、調べる必要もありますね。

    [佐藤]in vitroでの現象をin vivoのものと対比してみてゆきたいと思っています。in vitroの細胞では、培養日数が長くなるにつれてDAB代謝の活性が変わってきますね。

    [安藤]4NQOで発癌させた系のDAB消費はどうですか。

    [難波]対照と同じ位消費します。

    [高岡]なぎさ変異の株の中にはDABと全く関係しない変異なのに、DABを殆ど消費しないものもあります。

    [堀川]消費については方向がありませんね。

    [安藤]極端に代謝活性の異なる細胞系を使って、細胞内に結合しているDABを調べてみる必要もありますね。それから動物にDABを喰わせながら、in vivoでの代謝活性も調べてみたいですね。