【勝田班月報:7105:癌とは何か、判らなくなった話】《勝田報告》§癌とは何か、判らなくなった話:
悪性化の指標として、これまでさまざまの特性変化が追求されてきた。
まず可移植性と軟寒天培地増殖能が平行するか否かの問題をとりあげてみよう。(表を呈示)安村班員のデータも混ぜてあるが、正常組織由来のラット肝は培養1300日で2/2とtakeされるようになってしまったが、このとき軟寒天内ではコロニーを作らない。ところが1460日になるとコロニーを作るようになった(しかも無数に)。なぎさ培養で変異した株はtakeされないが軟寒天内P.E.はかなり高い。AH-66からの株はそのまま復元すると、腫瘍を作らないが、軟寒天に生えた細胞を拾って増やすとtakeされる。 合成培地内で継代しているRLH-5・P3株を、4NQOで1年間に8回処理し、細胞電気泳動では“まさしく悪性”と山田班員に判定された系の復元成績で、同系の生後24時間以内のラットにI.P.で接種して、いわゆるImmunotoleranceをもたせた上、再び1,500万個をI.P.で接種したがtakeされなかったという実験で、ラッテではこの時期の接種ではtoleranceをもはや作らぬのかとも思わされる。なぎさ変異株は細胞電気泳動像では悪性型のがあってもtakeされぬのは、異なる抗原性を強く持つようになったためではないかと思うが、免疫関係の班員はその辺を仲々しゃっきりさせてくれない。軟寒天内の増殖性と悪性とは平行しないことを安村班員は掴んでいるのに、それをちゃんと発表しないから、釜洞一味は平行するように述べ立てる。 (写真を呈示)正常ラッテ肝の初代8日目の培養の中には、きわめて大きな核小体を保有する細胞がおり、悪性細胞と見誤る位である。正常ラッテ脾のセンイ芽細胞の初代8日には見事なcriss-crossを見せている。形態学もあてにならない。復元も宿主をX線で叩いておいて接種すれば・・などというのでは、それが本当の癌とよべるのかどうか。
癌化したという判定を、我々はいったい、どんな指標によって下したら良いのか判らなくなってしまう。やればやるほどQuestion markは大きくなる感じで、以て“癌とは何か、判らなくなってしまう”話である。
:質疑応答:[吉田]動物への可移植性は組織親和性と関連していますから、可移植性だけで細胞の悪性化を知ろうとするのは問題がありますね。[山田]in vitroでの実験は動物実験と違って宿主の影響を受けないという事が利点なのに、結局復元実験に頼らねばならないという事は退歩しているような気もしますね。 [藤井]新生児に復元しているのなら免疫的な意味では、むしろ始めのimmunotoleranceは不要だと思います。接種した細胞が増え出して宿主の反応が現れ始める頃に何か手をうつことを考えたらどうしょうか。 [安村]宿主側を始めからもっど痛めつけておくのはどうでしょうか。昔ながらの方法ですが、X線照射とかコーチゾン処理とか。それから、なぎさ変異の細胞はAH-7974の出すような毒素をあまり出さないのではありませんか。 [勝田]双子培養の結果では、なぎさ細胞も正常細胞をやっつけていますがね。 [佐藤]復元実験はどの位の期間観察していますか。 [高岡]takeされない時は、半年以上生かしてあります。 [佐藤]自然悪性化の系の場合、復元してから500日以上たって腫瘍死したというデータを持っています。もっと長く観察する必要があるのではありませんか。むしろ今までtakeされていた系でtakeされなくなったものを使って免疫現象を調べてみたらどうですか。 [堀川]癌とは、生体で起こった沢山の変異の中で、あまり生体とかけ離れた抗原性を持つ細胞は生体から排除されてしまって、生体と似たような抗原を持った細胞だけが残され、それが生体の制御から外れて増殖を始めたというものではないでしょうか。 [勝田]そういう事は考えられますし、非常に可能性はあります。しかし、どうやって証明しますか。証明できなければ意味がありません。今持っているデータ、例えばJTC-16(AH-7974)はラッテへ復元して腹水中で増殖させると、ヘキソカイネースのアイソザイムパターンが変わってくるという事や、JTC-15(AH-66)はラッテにtakeされなくなっている系ですが、軟寒天内に出来たコロニーから増やしたsublineはラッテにtakeされるという事など、問題として整理してみる必要がありますね。 [吉田]ごく僅かに混じっている細胞が問題かも知れませんね。それらの細胞に抗原性があって宿主を刺戟して免疫反応を起こさせ、結局takeされない事も考えられますね。 [藤井]癌の場合では、生体を刺戟する抗原をもっていて生体を刺戟することが、むしろ癌の成長を促進するということがあります。 [吉田]純度の高い動物を使うことですね。 [藤井]マウスではC3Hのように100代も継代して確立された純系がありますが、ラッテではありませんね。 [山田]しかし今の問題は動物の純度についてではなくて、今ある材料を使ってin vitroで変異した細胞の抗原性をどうやってチェックするかという事ではないでしょうか。 [吉田]そこで癌化=可移植性という系で実験すると、事の開明が簡単だろうと考えたのですが・・・。 [堀川]抗原の量の問題でなく質の問題でしょうね。細胞1コで動物にtakeされるという系をin vitroの変異で作ることが出来れば、いろいろ調べられると思います。 [山田]massとしての解釈と、その中に含まれるpopulationとしての解釈とが重なるので、事を難しくしているのですね。 [安村]どうでしょうね。in vitroの癌化の問題から、動物への復元実験というものを全く外してしまったら・・・。 ・・・全員爆笑・・・ [藤井]しかし実際問題としては、癌はin vitroの問題ではなくて、生体のコントロールの枠を外れて増殖するのが問題になるのだと思います。 [勝田]そうです。ですから復元にコーチゾンを使わなくては−、X線照射をしなくては−、takeされないというのでは困るのです。 [安村]細菌では、ふだんは無害なものが、生体のコントロールを外れたら感染症を起こす原因になるということもありますよ。変異ではなくてね。 [堀川]in vitroの系では、変異は全方向に向かって起こるが、生体では生体の中で増殖可能なものが選別されて残るので、それ以外の変異は調べる事が出来ないのですね。 [勝田]in vitroでいろんな方向への変異が出てくる時期に、生体に近い条件を与えて選別するという手もありますね。しかしラッテの細胞にラッテ血清を加えると増殖を阻害しますしね。イヤ、生体でも或るものは生存を阻止されているのだから、ラッテ血清などを使うのが自然かな。 [永井]ラッテ由来の培養細胞がラッテの血清で増殖を阻害されるとすると、ラッテの生体で癌化した細胞を培養してラッテの血清を与えると、どんな影響がみられますか。 [高岡]具体的なデータは出せませんが、増殖を促進する事は余り見られません。 [難波]ラッテの血清を使う場合、採血の条件を考える必要があります。エーテルやクロロフォルムで麻酔して採血すると、血液内に麻酔剤が入ってその影響があると思います。私の経験では、血清成分を全部ラッテ血清にすると細胞は増殖しませんが、だんだんにラッテ血清に馴らすことは出来ます。 [藤井]ラッテのリンパ球の培養には増殖させるのでなく維持するだけですが、ラッテ血清が一番適しています。それも非働化せずに又凍結もしない新鮮な物が良いようです。 [山田]標的細胞にリンパ球を加え、血清を入れて免疫反応をみる時も、凍結溶解した血清を使うと確かにリンパ球の反応が低下しますね。 [藤井]又、復元の問題ですが、新生児の胸腺を切除しておいて復元すると、なぎさ細胞でもtakeされるのではないでしょうか。 [吉田]元の個体へ戻してtakeされなくてはいけないのではないでしょうか。新生児やコーチゾン処理でやっとtakeされたものを癌といえるかどうか。 [勝田]それも、いろいろとやってみましたがね。肝臓の場合など部分切除出来る年齢のラッテではもう培養しても増殖しませんしね。 [吉田]尻尾の培養などはどうですか。どの年齢のネズミからでも簡単に培養できるし、培養するとfibroblastがどんどん増えてきますから、処理して皮下へ戻せば肉腫が出来るでしょう。 [藤井]杉村先生の言によれば、癌になった細胞は誰にでも判るが、癌になる細胞かどうかが判るのは、神さまだけですと・・・。 [山田]しかし、in vitroで発癌と取り組んでゆくには、それが重要な問題ですね。 [勝田]我々の乗り越えるべき垣・・イヤ石塀ですね。
《高木報告》
:質疑応答:[堀川]腫瘍化している細胞に正常細胞が混じっている方が、動物によくtakeされるという事は判りましたが、混ぜる正常細胞は生きていることが必要ですか。[高木]殺した正常細胞がどうかはまだ実験してみていません。 [勝田]次の問題として考える必要がありますね。混ぜる正常細胞は同じ組織由来のものを使うべきではありませんか。復元実験の問題に関しては、今ある腹水癌が佐々木研のAH-7974とかAH-130とか、雑系で作ったものばかりで困りますね。純系ラッテ由来の動物継代腹水癌で使いよい系を作る必要があると思っています。 [吉田]復元はどこへ接種しましたが。 [高木]皮下接種です。 [吉田]接種した細胞は散らばりはしませんね。しかし生体から受ける影響が一番少ないという点から脳内接種の方がよいと思いますが・・・。 [高木]脳内接種も試みましたが、失敗で、1週間位でラッテが死んでしまいました。
《佐藤報告》RLN-B2ラッテ肝細胞の培養歴史と実験を図で示す。即ちラッテ肝をtripsinizeしてコロニーを作らせ、上皮性の性格を示す細胞のコロニーをつって炭酸ガスフランキ中で継代し、171日から閉鎖系で培養されたRLN-B2cell lineを使用した。実験は培養257日から292日にかけて出発した。DAB及び3'-Me-DABはalcoholに溶解して後、血清に混じ更にEagle'sMEMと混合する方法を採用した。濃度は計算上、ml当り10μg、20μg及び40μgになるようにしたが、培地添加時遠心を行って後添加したので実験時の添加濃度は計算値より低い。(培養細胞による培地内DAB及び3'-Me-DABの消費を換算するために培地交新時、消費量を実測した。) 10μg/ml例、20μg/ml例は連続添加、40μg/ml例は継続添加を行なった。対照として80%Eagle'sMEM+20%BS及び上記培地に0.4%(20μgAzo dyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)及び0.8%(40μgAzodyes/mlに含まれるfinalのalcohol量)に夫々alcholを含む培地を使用した。今回は20μg/ml例に就いて、細胞(RLN-B2)の増殖とAzo dyesの関係を示す(累積増殖図を呈示)。Eagle'sMEM+BS、及び0.4%alcohol群の間には増殖率の変動は殆んど認められない。DAB実験群は第1回の継代までは増殖を示さなかったが、継代前後各2日間のDAB除去により以後、DAB添加によって細胞は増殖を維持した。3'-Me-DABの場合も殆んど同様の結果を示した。(第1回継代時、実験細胞が取れなかったので、次の継代まで3'-Me-DABを除去した。)以上の結果はRLN-B2細胞ではAzo dyesに対して何らかの処置(細胞分裂?)によって、Azo dyesに対して増殖耐性を得ることを示している。 Azo dyesの添加の増加と共にRLN-B2がコロニアルレベルでどのように変化するか。 (表を呈示)DAB 20μg/ml例の第1継代後の細胞、第2、第3、及び第4継代のものを検索した結果、P.E.がばらついているので再度実験を試みなければならないが、次第に大型のコロニーが現れ(0→7.4)、且つpiled upするコロニー(0→6.57)が現われた。 3'-Me-DABの場合にも同様の結果が得られた。 次にDAB系についてシャーレ当り10,000コ細胞を0μg、1μg、5μg及び10μg/mlのDABを含む培地中に3日間、次いで4日間夫々0μgとし、更に0μgで3日間、計10日目のP.E.を計算し、最初の3日間の0μgに対しての%で、コロニアルのDAB増殖耐性をみた。第1継代のものは測定されなかったが、DAB添加時間(日数)の増加に比例して、DABによる変性乃至増殖阻止が低くなる結果を得た。
:質疑応答:[堀川]大コロニー当たりの細胞数が多いというのは、本当に数が多いのでしょうか。細胞が大きくなったのでコロニーサイズが大きくなったという事はありませんか。[佐藤]数が多いのです。細胞数を数えていますから、間違いありません。 [高木]動物実験でDABを喰わせて、発癌しない程度の肝臓を培養すると増殖しますか。 [佐藤]30日位喰わせてまだ発癌していない時の肝臓でも、トリプシン処理をして培養すれば増殖します。 [高木]続けて喰わせても発癌しない程度の低い濃度のものはどうですか。 [佐藤]それはやってみていません。 [勝田]私達が昔やった実験でなぎさ+DAB処理というやり方では、DABをどんどん消費しながら増殖する型と、DABがあっても全く消費しないで増殖する型の2種の変異株がとれました。耐性といっても、そういう両方の型があることも考えておくべきでしょうね。 [佐藤]DAB代謝には蛋白に結合して発癌に関係する代謝と、単にアゾ基を壊すというだけの代謝があると思います。 [吉田]今日報告された系はラッテにtakeされますか。 [佐藤]まだtakeされません。変異剤と発癌剤とを組み合わせて処理すると、効率よく悪性化させられるのではないかと考えたりしています。 [堀川]発癌のターゲットは他に求めて、DABはプッシュに使おうという考え方ですか。 [佐藤]DABの作用は悪性度の増強ということではないかと考えています。正2倍体を保っている系にDABを作用させても仲々悪性化しませんが、古株だと効率よく悪性化します。又、再培養系にDABをかけると腫瘍性が高められるというデータも持っています。 [吉田]2度目のDAB処理で悪性をセレクトしているという事は考えられませんか。 [堀川]DABに対する耐性は増殖度の高くなることと平行しているのですか。 [佐藤]そこまでは考えていません。2倍体で、肝細胞の機能を持っているというクローンを欲しいと思うのですが仲々得られません。今ある株について酵素活性を調べて貰ったのですが、成体のものと較べると胎児性になっているという事でした。それは前癌ということでしょうかね。
《難波報告》N-34:培養内で癌化したラット肝細胞の悪性化の指標を探す試み−Wheat germ lipase(WGL)は癌細胞を特異的に凝集させるか−すでに、培養内で4NQOによって悪性化したラット肝細胞の増殖に対するWGLの影響を報告した。同時に“WGLが悪性細胞を特異的に凝集させる"ことを報告した文献を紹介した。 そこで今回は培養内で4NQOによって癌化したラット肝細胞のWGLによる凝集能について報告する。 実験方法:
細胞: PC-2・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。 PCT-2・PC-2を10-6乗Mで1回の処理時間1hr.間欠的に計10回処理後、 動物に復元して生じた腹水腫瘍を再培養したもの。 PC-10・クローン化した4NQO未処理ラット肝細胞。 PCT-10・PC-10を3.3x10-6乗M 4NQO、1時間処理2回で癌化させた腫瘍細胞。単層培養された上記の細胞をトリプシン処理し、浮遊細胞にし、20%BS+Eagle'sMEMの培地で(100万個Cells/ml)旋回培養を5時間行い、トリプシン処理による細胞の膜面の障害の回復を図る。その後、細胞をEDTA-Solutionで3回洗い、WGLをEDTA-sol.に段階的に2倍稀釋した試験管内に50万個/tubeの細胞を入れ、室温に1hr放置後、試験管底に生じる細胞の凝集をみた。 結果:(表を呈示)
:質疑応答:[勝田]piling upといっても盛り上がった部分の細胞が死んで居るように見えますが、どうですか。対照群でも培養期間の長いものは似たような像がみられると思いますが。[難波]saturation densityも倍位違いますし、実験群の方はみるみるうちに重なってきますから、矢張りpiling upだと考えています。脳内接種というのは難しいですね。 [佐藤]第3脳室へ入れるのが普通だときいていますが・・・。
[安村]いや脳室へ入れるのは危ないですね。大脳のhemisphereに入れます。そしてコツは針を刺して物を入れたら暫く待ってから、針を引き抜きます。その暫くという時間は、私は“いきなくろべい、みこしのまーつに”そこまで唄ってさっと針を引き抜くようにしています。
《梅田報告》
:質疑応答:[堀川]対照群のDNA量が多くてRNA・蛋白質は少ないのですね。対照群には4倍体の細胞が多いのですか。[山田]細胞当たりの数値と蛋白当たりに計算した時の数値が違ってきますが、それはどう読みますか。 [堀川]何をみるかという事にもよりますが、普通はDNA量と蛋白量は平行していますがね。どうも定量誤差が大きい数値のようですね。薬剤処理をして巨細胞が沢山出たり、2核細胞が増えたりすると定量値も大きくなることは考えられますが。 [梅田]定量は又やり直してみます。heterochromatinのcondensationは悪性化にどんな関係と意味があるでしょうか。 [山田]剥離細胞診断でのcondensationは細胞のpopulation内での差が大きいですね。全体に起こるというのでなく、アトランダムに見られることに意味があります。又chromatinの電気泳動をやってみますと、乾燥するとCa++の吸着が増しますし、2〜3日放置したり固定したりで、又泳動度が変わります。染色の条件ということもありますし、chromatinの事だけから、あまり大きな事は云わない方がよいでしょう。
《堀川報告》今回は動物細胞DNA鎖中に連結タンパクの存在を示唆する最近の代表的な論文について紹介する。☆By Alexander L.Dounce:Nuclear gels and chromosomal structure:American Scientist,59,74-83(1971)☆ 種々の細胞から得たNuclear gelについて各種薬剤、酵素等で処理した際のviscoelasticな特性の変化を特殊な装置を用いて解析するという、これまでの彼の精力的な仕事をまとめたものである。それによるとDNA二重螺旋中には或る一定の大きさのDNAを連結する連結タンパク、つまり彼の言葉をかりると“residual protein”の存在を強力に指示している。同時にこれらのresidual proteinのアミノ酸組成についても分析を試みている。彼によって示されたresidual proteinの特性は以下のように要約出来る。
またDounceによって示されたchoromosomal fibersの構造の模式図を図に示す。 ☆By J,T.Lett,E.S.Klusis,and C.Sun.:ON the size of the DNA in the mammalian chromosome.Structural subunits.:Biophysical J.,10,277-292(1970)☆ LettらはDNA連結タンパクについて直接解析を加えようとしたものではないが、放射線照射後の細胞の一本鎖DNAの再結合機構を検討する過程において細胞をアルカリ性蔗糖勾配のtop layer(NaOHとEDTA溶液部分)にのせてlysisさせる時、細胞をのせてから超遠心を開始するまでに1〜18時間の間隔をおいた時、超遠心後に得られる沈降像が異なることを認めた。つまり細胞をNaOH+EDTA溶液にのせてから、超遠心開始までの時間が長ければ長い程single strand DNAのSvalueは減少することを見出し、このことから培養動物細胞内のDNAは或る一定の大きさのDNA(DNA subunit)がアルカリに不安定な蛋白かペプチドによって連結されているのではないかと推論している。 また、こうした現象はChinese hamster Ovary細胞、マウスL細胞、5178Y細胞、あるいはHeLa細胞の3種の細胞についても殆んど同じように認められると言う。 また、こうしたDNA subunit連結物質の存在は染色体のtranslocationとかinversionといった生物学的現象の説明にも不可欠であるということが両研究者によって示唆されている。その他のものについては都合により省略する。
:質疑応答:[堀川]リンカーという考え方は昔からありますが、それがどんな形であって何の為にあるのかは、判っていないのですね。[難波]residual proteinの長さはどの位ですか。 [堀川]判っていません。数が何本あるかも判りません。 [安藤]臓器によって量が違うようですが、大体30%程度あるようです。sucroseでみているDNA peakの蛋白量よりはるかに多い量です。 [吉田]染色体というものはDNAで連続していると、今まで言われてきましたが、こういう構造から考えるとDNA strandとしては切れ目がある訳ですね。 [堀川]そう考えられます。 [山田]臓器によって違うということから思い当たるのですが、形態的にもchromatin patternが違います。アゾカルミン染色でみると、かたまり方が点状、不規則、雲状とあります。これはresidual proteinと関係があるかも知れませんね。 [吉田]interphaseのchromatinがどんな形なのか問題です。 [堀川]発癌剤の作用によって染色体にtranslocatinやinversionが起こる場合、それが起こりやすい特別なsiteがありますか。 [吉田]あります。 [堀川]X線照射によるDNA切断はrandomなのですが、4NQOの場合はどうも特異な場所を切っているようです。そういう事が発癌と関係するかも知れませんね。よい材料を選んでDNA切断の意味をはっきりさせておかなければならないと思います。 [安藤]pronase処理では50℃が一番よく切れるという結果がでていますが、pronaseなしで50℃にするとDNAは切断がおこりますか。 [堀川]それはまだみていません。 [安藤]切断の数はX線で600、4NQOで35となっていますが、今までのデータでもそんなに大きく違っていましたか。 [堀川]そんな大きな差はありません。50℃で処理すると大きく差が出ます。
《安藤報告》DNAの連結蛋白の再結合のKinetics:私共は月報No.7104において、L・P3において4NQOを10-5乗Mで作用させた場合、FM3Aにおいては1x10-6乗Mを作用させた場合には、DNA部分ではなしに連結蛋白部分の切断によって、中性蔗糖密度勾配遠心上での沈降常数の低下を起すことを報告した。今回はこの連結蛋白の切断が再結合される際のtime courseと温度依存性を調べた。 先ずtime courseを調べた場合、(図を呈示)FM3Aにおいては比較的速やかに起こり、6時間ですでに大部分12時間でほぼ完全に再結合が起っていた。次に4NQO処理後細胞を10、28、37℃に4.5時間放置した後、分析すると、10℃においては再結合は全く起ってはいなかった。28℃では中程度の回復、37℃では最も良く再結合が起っていた。この事実は連結蛋白の再結合は酵素的反応である事を示唆している。
:質疑応答:[堀川]今まで私のデータと安藤班員のデータは、DNA二重鎖の切断→修復のところで、食い違っていましたが、今日の話ではっきりしましたね。私の場合4NQOの処理濃度は5x10-5乗Mという高濃度だったから二重鎖の修復がみられなかったということですね。[佐藤]ところで、この実験では実際の発癌とどう繋げられますか。つまり悪性化と関係のある濃度はどこか、その場合DNAが修復されるのかどうか、という事です。もっと発癌実験と関係のある材料でやってほしいですね。 [堀川]DNAの修復のミスが発癌と関係があるのかどうかという事は、大事な難しい問題です。私自身もミスリペアを言い出した一人ですが、今は大分疑問を感じています。発癌にはactiveな増殖が必要なようですね。発癌剤処理の後、半分は増殖を抑えるpoorな培地、片方はどんどん増殖させるrichな培地で培養を継続して、どちらが発癌率が高いか調べてみると、少しははっきりするかも知れません。 [安藤]私たちはmisrepairよりも連結蛋白の組み違いからgene expressionが変わって悪性化するのではないかと考えています。 [吉田]回復したあとのDNAの活性は処理前と同じになっていますか。 [堀川]生物学的な証明はありません。 [安藤]増殖を続けられるという事は、活性の一つの証明だと思います。 [佐藤]同じ細胞系を何回も4NQOで処理していると、切れる位置が変わってくるのではないでしょうか。DNAの切断ということが本当に発癌と関係があるのかどうか知りたいのです。癌性が高まるにつれてDNAの切れ方が違ってくるはずの様な気がするのですが。 [安藤]かりに切れる位置が変わってきても、今の方法で判るかどうか疑問です。又今日報告した実験に使ったFM3Aは癌細胞ですから、4NQOによるDNA切断の傾向としては正常、腫瘍により違いがなさそうです。 [堀川]細菌の場合はrepairの能力の大きいもの程、mutation rateは大きいですね。しかし修復酵素が欠けているために発癌するというxeroderma-pigmentosumの例からはmis-repairが発癌に結びつくという事は否定されます。といっても癌は複雑ですから、やはりmis-repairも発癌に関与しているのかも知れません。 [安藤]mutagenは必ずしも発癌性と平行しませんね。 [吉田]変異にもいろいろありますね。遺伝子のレベルの変異、染色体のレベルでのもの、癌とはどのレベルでの変異でしょうか。 [勝田]ヒストンに対しては4NQOはどう働いていますか。DNAだけ切ってヒストンが切れなければDNAもばらばらにはならない筈だと思いますか。 [安藤]蛋白については構造の分かっているペプチド等使ってモデル実験をしてみればどこが切れるのか見当はつくと思います。 [吉田]4NQO処理した細胞を染色体レベルでみると染色体がジュズ玉の様な構造になっている事が度々あります。ヒストンの方がDNAより4NQOに対してsensitiveらしいという気がします。少なくともhistchemicalにはそういう傾向があります。 [安藤]bindする量からみても、4NQOはDNAより蛋白の方にずっと多くbindしますね。 [下条]DNAが切断されるような状態の時、細胞膜に変化がきていますか。又DNAに結合している蛋白についてはどうでしょうか(Dr.H.Green論文の紹介)。 [安藤]細胞膜については判っていません。 [下条]ウィルス発癌の場合、細胞の悪性化が確認されない感染後のごく初期(20hr位の頃)に短い期間ですが膜に変化が認められます。化学発癌の場合はどうでしょうか。 [勝田]細胞電気泳動の場合も、そんな短い期間のは調べてありませんね。 [吉田]ウィルスの場合はDNAに組み込まれるとすぐ発現するけれど、化学発癌剤の場合はすぐに変異が発現しないのではないでしょうか。 [下条]ウィルス発癌の方ではウィルスDNAの増える前に宿主のDNAが増え、又膜が変化します。そういう初期変化をウィルス感染の結果というより、後に出てくる発癌現象のモデルとして捉えようとしています。 [堀川]化学発癌剤によるdirectな発癌など本当はなくて、そこへウィルスが一役買っているのかも知れませんね。 [下条]しかしウィルスの場合もウィルスが癌をつくるということではなくて、何かgene expressionを変えるので細胞自体が変わるのだろうと考えています。4NQOなど化学発癌剤による初期変化に興味がありますね。 [難波]化学発癌剤でもtransformした細胞はagglutinabilityが高まっています。
《山田報告》これまでの仕事のうち、細胞電気泳動法による細胞表面の抗原抗体反応を定量的に検索する方法も開発して来ましたが、これを更に発展させて、所謂細胞結合性抗体を感作リンパ球より、また抗原癌細胞の表面より抗原をそれぞれ分離させ、これを細胞電気泳動法により検出する方法を種々工夫して来ました。漸く実用化する可能性が出て来たので、少しまとめてみたいと思います。この抗体の分離は、試験管内発癌過程における癌細胞の抗原性の定性的及び定量的な変化を測定するために役に立つと思いますので。モデル実験としてラット腹水肝癌AH62F 1,000万個をドンリューラットの腹腔内へ移植した後4〜5日目に宿主ラットの脾臓を摘出し、これを細切、濾過してリンパ球様細胞を採取。これにデオキシコレート(DOCA)0.2〜0.05%を加えて(手順表を呈示)処理。(リンパ球様細胞10の8乗当り3mlのDOCAを混合)その上清のみを集めて、一晩セロファン膜により透析。これにより用いたDOCAを可及的に除き、上清へ遊離物質のみの浮遊液を集めます。 この様に処理した上澄2mlに、標的細胞AH62F 200万個/0.5ml生食、Tris-Hcl緩衝液(pH7.0)0.5ml、そして補体として0.5mlの正常ラット血清を加へて全量2mlとし、37℃10分間静置保存後、生食にて2回洗い、10mMの塩化カルシウムを含むM/10ヴェロナール緩衝液(pH7.0)をメヂウムとして、その標的細胞AH62Fの電気泳動度を測定。対照としては、aliquotの試料のうち補体のみを56℃30分熱処理により非働化したものを用いた。 抗体の分離; まず上澄の透析しない前の液について検索すると、DOCAの影響が加わり、感作リンパ球様細胞上澄と、正常リンパ球様細胞上澄の標的癌細胞に対する反応はあまり差がありません。しかし、透析してDOCAを可及的に除いた上澄について検索すると明らかに感作リンパ球からの上澄は補体の存在の下に、標的癌細胞AH62Fに反応してその電気泳動度を低下させますが、正常リンバ球様細胞からの上澄は補体が存在しても反応しません。 この上澄の反応物質は従来の研究結果ではγグロブリンであろうと推定されます。そこで感作リンパ球様細胞の上澄に抗γグロブリン家兎血清(AH62Fにより自然抗体を吸収したもの)を加へ沈殿物を除いた後に、標的癌細胞と反応させると、その泳動度の低下は減少し半分以下となります。2回くりかへした実験成績は同じ結果を示しています。 次に同じ条件で感作したドンリューラットの18日目の抗血清及びこの上澄のもとである感作リンパ球様細胞の作用と、この上澄の作用を比較してみました。リンパ球様細胞のDOCA処理による上澄をあらかじめ反応させた後に、二次的に抗血清及び感作リンパ球様細胞を加へてその標的癌細胞の泳動度の変化をみると、あらかじめ感作リンパ球上澄を反応させた標的癌細胞は二次的に抗血清は反応しなくなるが、正常リンパ球上澄を反応させた場合は二次的に抗血清と反応します。感作リンパ球様細胞を用いても同様な反応が二次的に起こります。即ちこのDOCA処理により得られた上澄の作用と、抗血清及び感作リンパ球の作用は同様の反応であり、同一場所の癌細胞表面に変化を起こすものと思われます。この上澄には抗体が遊離していると考へられるわけです。 抗原の分離; 同様の方法により標的癌細胞AH62FをDOCA処理した上澄を、同一条件で感作リンパ球様細胞に反応させてみました。感作リンパ球様細胞へこの上澄は反応して、その電気泳動度を増加させますが、正常リンパ球様細胞へは反応しません。リンパ球及び、その悪性細胞の表面で抗原抗体反応が起こると、その電気泳動度はむしろ増加するという従来の知見と、この上澄の反応結果は全く一致します。この抗原の分離についてはなほ現在検討中です。抗原を分離出来る可能性は大きいと思って居ます。(それぞれ実験毎に表を呈示)
:質疑応答:[難波]生体内のリンパ球は何かで感作されているはずだと思うのですが、蛍光抗体法で細胞表面の抗体を光らせたというデータはあまりみませんね。[藤井]蛍光抗体で光りますよ。ただとても弱いのです。それから19S抗体をリンパ球から抽出して普通の免疫電気泳動にかけると、殆どバンドが出ません。けれども抗19S抗体にラベルしてリンパ腺への取り込みをみますと確かに取り込みがあります。 [山田]流血抗体として出る前に、細胞性抗体として早い時期にキャッチ出来るかどうかということが、実際的な目的なのです。復元の問題なども早期に解決できるのではないかと思います。
《藤井報告》Mixed lymphocyte-tumor reaction(MLTR)によるがん抗原の研究:月報No.7102で、Culb-TC細胞とsyngeneic rat(JAR-1)の末梢リンパ球間のMLTRがみられることを予報として話しましたが、その後Culb-TC、RLC-10細胞とJAR-1リンパ球間のMLTRを何回か試み、反応のpeak時期、用いる抗原細胞量などの検討をおこないました。 reactant lymphocytesはJAR-1の末梢白血球中のものでsodium citrate、heparin処理血液より白血球を分離洗滌後、100万個cells/mlに調整。Antigenic cellsは培養Culb-TC、RLC-10細胞を培養ビンのまま4,000r.照射(CO60)し、洗滌してからrubber policemanで遊離させ、所定の細胞濃度に稀釋します。反応に用いるculture mediumは、RPMI 1640で、新鮮ラット血清(JAR-2)を10%に、Pen.(100u/ml)、SM(100μg/ml)を加えています。 reactant cells、100万個cells/mlの0.5mlと、種々濃度の抗原細胞浮遊液0.5mlを平底中試に混合し、37℃、炭酸ガスフランキ中にて静置します。1、3、5、7日後H3-thymidine 1μCi/0.02mlを加え16時間後harvestします。 結果:(図を呈示)抗原細胞(癌細胞)が多くなりすぎると、harvestで自己吸収(放射能の)が高くなり、リンパ球によるH3-TdRとり込み値がかえって低く出ます。白血球数50万個に対して、抗原細胞は10万個以下1万個あたりが適当です。Culb-TC、12,500コ、6,300コとRLC-10、12,500コ、6,300コのMLTRを比較してみますと、Culb-TCはRLC-10細胞に比し、著明に高いcpm値をもたらしています。Culb-TC、RLC-10ともに、4,000r照射により、H3-TdRの有意なとり込みはなくかっています。反応のpeakは4〜6日で大体6日とみてよいようです。 この実験は、reactant cellsの同一なときに、そのcpm値の比較が可能なわけで、次の計画として、Culb-TC、RLT-2、RLC-10、Cula、Culeの同時比較、その他のin vitro transformed cellsについても検討して行くつもりです。臨床癌についてのMLTRの検討は、昨年来2〜3文献にも出ており、われわれもその着手を急いでいます。
:質疑応答:[梅田]リンパ球を採る動物の方は何か処置をしてありますか。[藤井]ありません。 [山田]この場合の反応は異物認識ですね。 [難波]これだと対照は生体にtakeされて癌は排除されるような感じですね。 [山田]このデータで抗原性が変わったとは言えるわけですか。 [藤井]言えると思います。 [山田]なぎさ変異の細胞ではどうですか。 [藤井]まだみてありません。 [佐藤]細胞数はどの位要りますか。 [藤井]リンパ球は50万、tumorは10万位入れます。 [山田]私の実験ではリンパ球を20倍位入れます。 [佐藤]リンパ節由来のリンパ球の中に、どの位免疫反応を起こすものがありますか。 [藤井]蛍光抗体法でみて10%位です。 [山田]それは免疫反応を起こす細胞すべてではなく、蛍光抗体法で陽性の%ですね。 [勝田]山田班員の場合も含めて、免疫屋がリンパ球といっているものの全部がリンパ球というわけではありませんね。それからin vitroでリンパ球を感作しておいて生体に戻すと、生体内で抗体を作るでしょうか。 [藤井]私の実験系の場合、抗原になる細胞とリンパ球を混ぜて培養してしまうので、感作後リンパ球だけ集めるのが困難ですね。 [勝田]その位のことは、ミリポアフィルターでも間に入れれば解決するでしょう。
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