【勝田班月報:7110:細胞電気泳動法による膜変化と抗原性変化】

《黒木報告》

 帰朝報告−アメリカでやって来た仕事のこと−

 1969年9月からちょうど2年間、ウィスコンシン大学McArdle癌研究所のDr.Charles Heidelbergerのもとで、Chemical carcinogenesis in vitroの仕事に従事していました。仕事の内容は大きく分けて、(1)Heidelbergerのところの前立腺細胞を用いてのtransformation (2)carcinogenic hydrocarbon(CH)の組織培養細胞核酸、蛋白質への結合 (3)CHのK-region誘導体の核酸、蛋白質への結合 (4)組織培養細胞からh-proteinの分離、の四つのテーマでした。

  1. 前立腺細胞を用いたtransformation:

     数種類の株細胞をC3Hマウス前立腺の器官培養から分離、樹立したが、Chenらの報告(Int.J.Cancer 4,166,1969)の一例を除いて、すべてHCによるtransformat.はnegativeであった。Chenらの細胞からcloningによって比較的高頻度(3-4 foci 1d)にMCAによってtransf.cloneを得たが(G23細胞)、これも次第にtransformationしないようになった。しかしMCA epoxideによって高頻度にtransformするところから、この細胞はMCA→MCA epoxideの酵素活性が低下したためtransf.しにくくなったものと思はれる。spont.transf.は比較的高頻度にみられる(培養40−50代頃に)なおこの細胞は3T3と同じようにcontact-inhibitionにsensitiveであり、形態はfibroblastsである。前立腺上皮の細胞株ではない。  Sukdeb Mondalのsingle cell transformationの実験は追試ができない。

     CHのK-領域誘導体epoxide、sis-dihydrodiol、phenolを用いたtransformation実験の結果、epoxideが他よりも高い頻度でtransformationを起すことが明らかになり、epoxideがproximal carcinogenである可能性が強くなった(Grover et al,PUAS,68,1098,1971)。

     

  2. CHの培養細胞、DNA、RNA、Proteinへの結合:

     H3ラベルのDBA及びBAのK-region epoxide、cis dihydrodiol、phenolを用いて、ハムスター胎児細胞及びG23細胞のDNA、RNA、蛋白質への結合を調べた。(図を呈示)BA epox.、diol、phenolのハムスター胎児細胞への結合である。epoxideが、特にDNAと親和性の強いことが明らかである。蛋白との結合の400μμmoles/mgはBA及び他のCHと比較しても異常に高い値である。DBAのbindingは、epoxideとphenolは同じような態度を示し、DNAに対して、特に強い結合は示さなかった。(KurokiほかCancer Res.投稿中)。このほかMCA、BP、DMBA、DB[ah]、DB[ac]AのDNA、RNA、Proteinへの結合一般についてのpaperは目下Cancer Res. in press。

     

  3. 培養細胞からh-proteinの検出:

     発癌剤と特異的に結合する蛋白質h-proteinはDAB投与後のラット肝、MCA塗布後のマウススキンより分離精製されている。しかし、これらの方法は多量の蛋白を必要とするため、最初にh-protein分離の手技の改善を試みた。200〜400x10の6乗(マウス一匹の背中の皮ふに相当する)からh-proteinを検出することができるようになった。その結果次のようなことが分った。(1)マウス皮ふ、前立腺細胞、ハムスター胎児、ラット胎児、チャイニーズハムスター胎児、マウス胎児などのrodentの細胞は、h-proteinをもつが、Specific Act.には差がある。(2)h-prot.はmol.weight 22,000のsubunitより成るdimer、Ip 8.05。(3)DBA epoxideはDBAの約8倍強くboundするが、phenol、diolは結合しない(図を呈示)。(4)transformした細胞は電気泳動的に同一の蛋白をもち、定量的には、正常細胞と差がないが、radioactivityはない。epox.を用いても変りない。(5)h-proteinの結合は、ethanol etherで除けないところから、covalentの結合と思はれる。(6)アミノ酸のとりこみは、h-proteinが特に多い訳ではない。(7)ヒトの細胞にはradioactivityがみられない。Biochemistry投稿中。



 h-proteinの精製法:
  1. 核の分離
  2. 100,000Gにより細胞質可溶性蛋白をとる。
  3. Sephadex G25による脱塩。
  4. DEAEセルロースによりbasic proteinをとる。
  5. SDS-polyacryl-amid gel
  6. scanning及びradioactivity
 マウススキンのように蛋白量の多いときは、4.の後にSephadex G-100、Isoelectro focusingを行う。シャープなシングルbandとして認る。



 

:質疑応答:

[安藤]h-proteinについて、酸性分劃のデータがありますか。

[黒木]一応やってみましたが、大変複雑なピークで解析が困難です。

[難波]薬剤投与してから24時間というところが、取り込み量が高いのですか。

[黒木]経時的にはまだ調べてありませんから何とも言えません。経時的に調べればもっと色んな事がはっきりすると思いますが、とにかく大量の細胞が要りますからね。

[佐藤二]in vitroのデータとin vivoの代謝機構とは平行していますか。それから薬剤に対する動物特異性と薬剤とh-proteinの結合の関係は−。

[黒木]酵素のspecific activityということでしたら、動物の種によって違います。

[梅田]発癌剤に対して耐性の出来た変異細胞の場合、薬剤の添加量を増せば、結合する量も増えるという事はありませんか。今迄は変異細胞ではh-proteinが無くなるとされていましたが、蛋白その物はあるのだという事になると何となく話がすっきりしますね。

[堀川]結合する全段階に何かあると考えるわけですか。

[梅田]そうです。h-proteinが変っていて薬剤が結合してもすぐ分解してしまうとか。

[佐藤茂]DABの場合の結合蛋白と同じものですか。

[黒木]KettererのDABのh-proteinとLitwackのcortisolのものとは同じものだと同定されています。その他mouse skinにMCAを処理してとったもの、anionによるy-protein等も私の精製したh-proteinと蛋白として大変似ていますが、まだ同定されていません。

[安藤]DNAについてはどうですか。

[黒木]結合するということだけしか、調べていません。

[堀川]結局、in vitroの発癌では再現性のある系そのものが確立されていませんね。

[黒木]矢張り新しいシステムを開発する必要があります。



《勝田報告》

     
  1. ラッテ肝癌AH-7974細胞の放出する毒性代謝物質について:

     これまで、AH-7974を4日間培養したあとの培地を、透析膜を通し、その低分子部分をSehadex G-25で分劃し、次にDowex 50(H+)で分劃してきたが、どうも再現性に乏しく、出てくるピークの位置が変ったり、毒性部分の分劃が変ったりで困っていたが、今回はDowex 50のelutionの方法を変えて、連続段階ではなく、はじめに水でeluteし、次に4NのNH4OHでeluteするように改めたところ、非常に再現性が高くなった。これでようやく次のStepに入れるというものである。

     (分劃図を呈示)分劃は3回行ったものが、全く酷似した溶出曲線が得られたので、これでやれやれと、安心したところである。  分劃I、II、III、IV、と大別してその毒性をしらべたが、このときは各分劃間での量は一定にせず得られた量に比例して培地に添加した。すなわち、Iは0.15mg/ml、IIは0.5mg/ml、IIIは1.6mg/ml、IVは0.2mg/mlであった。結果は分劃IIIに毒性活性(±)、IVに(+)であった。 第2回目の実験では、第III分劃のところがいくつものピークにきれいに分れたので、IIIをIII-1、III-2に分けて試験した。この実験ではいずれの分劃も0.2mg/mlに統一した。

     結果は(写真を呈示)第III-2分劃及び第IV分劃に著明な毒性が認められた。

     なお、これらの分劃の非活性を、増殖50%阻害を指標にして、乾燥重量/培地量で計算してみると、培地filtrate20%〜40%は2mg〜4mg/ml、Sephadex分劃Bは2.5mg〜5mg/ml、Dowex分劃III-2 or IVは0.2mg以下/mlという概算値になった。

     

  2. 初代培養による発癌実験:

     これまでは幼若ラット肝の増殖系を用いて癌化させてきたが、動物では成体の方が癌化する率が大きい筈である。そこで生後1月♀ラッテ(JAR-1系)を用い、肝の部分切除をおこない、培養内で次の3種の薬剤を投与してみた。i)DAB:1μg/ml、ii)4NQO:10-7乗M、iii)DEN:10μg/mlでいずれも4日間処理し、回転培養をおこなっている。現在までに約1カ月経過したが、未だに細胞増殖は開始されていない。

     

  3. RLC-10株細胞による発癌実験:

     この株には自然発癌した系やしない系や、いろいろの系ができているが、ここで用いたのはtakeされない系の内のRLC-10-4である。

     1971-6-29に3.3x10-6乗Mの4NQOで30分間処理し、以後隔時的に細胞電気泳動、軟寒天培地内培養、復元試験などを併行的にしらべている。電気泳動試験の結果は山田班員から報告されるであろうが、軟寒天はこれまで2回、1971-7-5、1971-7-26にシャーレ当り50,000コでまいたがcolonyを作らなかった。復元試験は、1971-8-14にラッテ当り500万個接種した。対照は0/2、4NQO処理のは2匹中1匹に腹水のたまっていることが判った。接種後約1カ月である。なお以後の経過を観察中。



 

:質疑応答:

[黒木]毒性物質の判定を形態変化だけに頼るのでは、不充分ではありませんか。

[勝田]今まで再現性のある分劃が決まらなかったので、一番簡単な方法でスクリーニングしてきたのです。それに充分な実験計画を立てられる程収量がないのです。

[佐藤茂]その物質の分子量は2,000位ですね。とするとポアサイズ10,000のダイアフローの濾過で活性は充分濾液に出ていますか。

[勝田]濾過前と濾過後で活性が変わらないというデータを持っています。

[乾 ]分劃III-2とIVとは同じ物質ですか。

[勝田]今のところ未同定です。

[黒木]熱にはどうですか。高圧はかけられますか。

[勝田]60℃、100℃の加熱には活性が落ちないというデータは持っていますが、高圧はやってみませんでしたね。

[藤井]この物質は、正常細胞は全く出していませんか。

[勝田]今の所、出しているとしても確認できる程の量ではありません。

[佐藤二]発癌実験の方についてですが、私も何時までも乳児を使って実験していては仕方がないという意見です。アダルトの肝を使いたいのですが、矢張り増殖がみられませんね。乳児とアダルトではDABの代謝も違うのではないでしょうか。発癌性のない例えばABなどを或る期間喰わせたラッテの肝なども培養してみようかと思っています。アダルトでも動物のレベルで少し変化させておけば、培養できるのではないかと考えています。

[乾 ]私の研究室のデータに、ラッテの生後1週から経週的に肝細胞の分裂頻度を調べたものがあります。それによると生後7週が一番分裂頻度が高いのです。そしてその7週からDABを与え始めるとDAB給餌後2〜3週に1時的に分裂頻度が上がります。その時期を培養に使ってみるのはどうでしょうか。

[黒木]しかし、Dr.サンフォードのように自然悪性化については乳児よりアダルトの方が高いという人もいますよ。そうでないというデータもありますが・・・。

[勝田]この発癌実験については、もう少し気長に観察してみようと思っています。
毒性物質の方は、やっとこれから物の同定にかかれる訳です。ペーパークロマトや電気泳動もやっておかねばなりませんし、DNA合成、RNA合成、蛋白合成の阻害をみる取り込み実験も予定しています。



《佐藤・難波報告》

 N-42.PC-2(コントロール)PCDT-2(DABにより悪性化)系細胞の培地内DABの代謝パターンの比較

 DABで培養内で悪性化した肝細胞(月報7106に報告)のDAB代謝バターンは、対照細胞のそれに比べ、どのように変化しているかは、興味あるところである。その為には、DABの代謝過程、及び、終末物質の検索が重要であるが、現在のところ方法論的にどうしていいか判らない。  そこで、一応DABを細胞に与えた場合、培地内のDABは経時的にどのように変化してゆくか、光電比色法で調べてみた。細胞に投与したDABは10%BS+MEMの培地内に溶かされており、この培地を細胞(TD40にほぼconfluentに生えた時、即ち約500万個cells/TD40)投与後、24hr.48hr.後の培地内のDABの変化をみた。(図を呈示)

 その結果現在までのところ、(1)対照細胞に較べDABにより悪性化した細胞に特異的なピークはみられなかった。(2)また、両者の細胞によって消費される培地内のDAB量にも差がみられなかった。即ち、DABの吸収のあるOD408mmのピークは両者で、同程度であった。

 N-43.PC-2(コントロール)、PCDT-2(DABによる悪性化)系の細胞の培地内DAB消費能

 DAB非処理、培養細胞とDABに処理(53日)により悪性化した細胞との培地内DAB消費能を比較した。実験は、2系統行った。

 第一の実験は、細胞が対数増殖期にあるとき、第二の実験は、細胞がconfluentになって増殖が止まっている時期、の2コの系でDAB消費能を検討した。DAB培地は、10〜20μg/ml DABを含む20%BS+MEMを使用した。結果は、対数増殖期(DAB投与、3日間)では、PC-2:52μgx10-6乗/細胞生活単位、PCDT-2:44μgx10-6乗/細胞生活単位。増殖静止期24hrでは、PC-2:87%、PCDT-2:97%。増殖静止期48hrでは、PC-2:99%、PCDT-2:100%であった。以上のことから、DABで変異した細胞に、DAB消費能が低下していない。

 N-44.ConcanavalinA(Con.A)は、DABで培養内で悪性化した細胞の増殖を特異的に抑制するか。

 月報7102に、4NQOで変異した細胞に対する、Con.Aの細胞の増殖に対する影響を報告した。その時の結果は、4NQOの非処理細胞に較べ、4NQOの変異細胞の増殖は、Con.Aによって有意な抑制はみられなかった。

 今回の実験方法は、SigmaのJack beanから抽出したCon.Aを500μg/ml Eagle's MEMに溶き、細胞をまき込み後2日目に、培地を捨て、上記Con.A溶液で1、2、4、6hr 37℃細胞処理後、20%BS+MEMに培地をかえ、更に続け2日間培養した実験系と、Con.Aの濃度を500、250、125、62μg/mlに段階稀釋して、6hr 37℃処理した実験系とを行った。その結果は(図を呈示)、いずれの実験系に於ても、DABで悪性化した細胞の増殖が対照細胞のそれに比べ、有意に抑制されることはなかった。



 

:質疑応答:

DAB関係について

[黒木]この実験ではアゾ結合の切れ方だけをみている事になって、DAB発癌とはあまり関係がないのではありませんか。培地にトロールを入れて振って水溶性のものとトロールでとれるものとを分けて吸光度をみれば差がでてくるのではありませんか。

[難波]やってみます。

[安藤]細胞に結合しているものについては、変異細胞の方はみていないのですか。

[難波]これから調べるつもりです。

[堀川]こういう実験でin vivoで起こっている事と、in vitroでの現象を結びつけて考えるのは難しいですね。

[佐藤二]DABの代謝と、結合蛋白についてとを分けて調べられる系がほしいのです。

[安藤]生体側の解毒機能を働かせないで、発癌させるというDABがあるとよいですね。

[黒木]オートラジオグラフィで捕まらないというのは、どういう事でしょうか。

[佐藤二]どうしてでしょうか。オートラジオグラフィで正常細胞と変異細胞の間に結合の差があるかどうかみようとしたのですが・・・。

[勝田]うまく行っても結論は出ないと思います。私の5年前発表した仕事で、変異細胞の中にも、DABを代謝して死ぬ系、代謝するが死なない系、代謝しないで死ぬもの、代謝せず死にもしないもの、と色々な態度の系がある事が判っているのですから。

[黒木]色が消えるかどうかより、矢張り蛋白への結合でみるべきですね。それから非活性の低いものを使う時は、液体シンチレーションを使えばよいですね。

Concanavalin Aの実験について

[山田]Con.Aで癌細胞だけが凝集するという事、細胞膜表面の構造から考えて、そうくっきりと癌だけが凝集し、正常細胞はしないとは信じられませんね。

[藤井]αフィトグロブリンについてデータがありますか。

[難波]それもやってみようと思っています。



《堀川報告》

 HeLaS3細胞をMNNGで処理し、つづいて100ergs/平方mmのUV照射、さらにBUdRを含む培地中で培養した後、光を当てるという一連の処理を繰り返すことによってS-1M細胞(1回処理群)、S-2M細胞(2回処理群)と名づけるUV感受性細胞が分離されたことについては以前に報告したが、今回はその後に得られたこれらのUV感受性細胞の特性について報告する。

 HeLaS3原株細胞のUV照射に対するLD50が96ergs/平方mmであるのに対し、S-1M細胞、S-2M細胞のLD50はそれぞれ50ergs/平方mm、30ergs/平方mmであることからして、これらのUV感受性細胞はUV照射に対して著しい感受性を増大したことが分かる。一方X線照射に対する三者の感受性はどうかというと(図を呈示)、3者の間には何らかの差異は認められないで、HeLaS3細胞もUV感受性細胞もほぼ同等のX繊感受性を示す。つまり、このことはUV感受性を支配する機構とX線のそれとは無関係であることを示唆している。

 またUV照射によってHeLaS3細胞あるいはS-1M、S-2M細胞内のDNA中に誘起されるTT(thimine dimer)の量には殆ど差違が認められないが、これらTTの除去能に於いて(図を呈示)大きな差違が認められる。つまりUV照射後、6〜8時間のincubationでHeLaS3のDNA中に誘起されたTTの約50%は除去されるが、S-1M細胞、S-2M細胞では約9%しか除去されないことが分かった。

 こうした結果は、我々の分離したUV感受性株は、HeLaS3原株細胞にくらべてUV照射によって誘起されたTTの除去能がすごく低下した細胞であることを示すものであり、同時に細胞間のUV感受性差はTTの除去能の差異に依存していると思われる。

 尚お、その他UV感受性細胞の特性としてまず染色体数は原株細胞にくらべてそれ程大きな変化はなく(S-1M細胞に関する限り。S-2Mについては現在検討中)、ただchromosome distributionの幅が幾分狭くなり或る程度のクローン化が行われているようである。また細胞増殖に関してはHeLaS3原株細胞のdoubling timeが、20.2hursであるのに対して、S-1M、S-2M細胞のそれは、それぞれ28.8hoursおよび24.6hoursである。なお、こうして得られたUV感受性細胞がヒト遺伝病Xeroderma pigmentosumの患者から得た細胞と同様のDNA障害修復機構欠損株であるか否かについては目下検索中である。



 

:質疑応答:

[難波]そのクロンの安定性はどうですか。そして染色体数は・・・。

[堀川]今の所安定しています。染色体のモードは大体62本位で原株と殆ど変わりませんが、distributionは狭くなっています。

[黒木]endonuclease、exonuclease活性の酵素はありますか。

[堀川]直接測定はしていませんが、そのどちらかの活性が変異株では低下しているかも知れないとは考えています。

[安藤]alkaliのgradientでDNAの大きさを調べましたか。

[堀川]まだみていません。

[安村]ergをきっちり測れる紫外線発生装置がありますか。

[堀川]モノクロームのもので、ergの計算がきちんと出来るようになっています。

[安村]始めにかける紫外線の線量をもう少し落とせば、変異株のとれる率がもっと高くなるような気がしますね。

[堀川]紫外線、MNNG、BUdR、というファクターの組合わせについては、まだ色々考える余地はあると思いますが、とにかくこの条件で感受性株が拾えたものですから。

[安村]紫外線をかける事で感受性細胞を殺してはいないでしょうか。

[堀川]それはあるかも知れません。今L株で実験をくり返していますが、LはMNNG、紫外線どちらにも比較的強い株のせいか、変異コロニー出現率はずっと高いのです。

[黒木]コロニーを作らせるのに2カ月もかかるのですか。

[堀川]変異株がとれるか、とれないかが問題なものですから、充分増殖するまで長くおきました。

[安藤]doubling timeは変わっていますか。

[堀川]原株が20.2hr、S-1Mは28.8hr、S-2Mは24.6hrとなっています。

[黒木]MNNGの処理で、変異の性質がfixする為には分裂することが必要なのですから、その処理時間は24hrより48hr位の方が変異の効率がよくなると思いますが。それからXeroderma pigmentosumの患者は皮膚だけが感受性なのですか。例えば肝細胞などは・・・。

[堀川]それは調べられていないでしょう。



《高木報告》

  1. 混合移植実験

       
    1. homologousな移植系(RG-18+RFL細胞→WKAラット)

       (表を呈示)腫瘍発現率、腫瘍発現までの日数などからみた場合、RFL細胞を混ずることによりRG-18細胞の腫瘍形成能は促進されていると解釈してよいと思う。このhomologousな実験群ではRG-18細胞のみのいずれの細胞数接種群でも生じた腫瘍のregressが高率にみられた。

       

    2. isologousな移植率(RRLC-11+RFL細胞→WKAラット)

       その後の結果は(表を呈示)、RRLC-11細胞1万個、千個接種群はずべてに腫瘍の発現をみた。RRLC-11細胞 100コと50コで、RFL細胞を混ずることにより腫瘍形成能が抑制されているようにも思われるが、有意着とは考えられず、影響はないと解釈すべきであろう。

     
  2. 混合colony形成実験(in vitro)

     上記の混合移植実験と平行して、これら細胞を混じてpetri dishにまいた場合、どのような結果がえられるか試みた。まずRRLC-11細胞400コとRFL細胞1,000コとを混じてまいたところ、2週後に一部のRFL細胞のcolonyが変性におちいっているのを見出した。そこでさきにRFL細胞からcolony形成をくりかえしてえたclone C-3とC-5細胞を用い、これら200コとRRLC細胞200コを混じてまいたところC-3細胞のcolonyはすべて変性をおこしたが、C-5細胞のcolonyは変性をおこさずC-5とRRLC-11の両細胞colonyが共存している像がみられた。一方RG-18細胞は200コまいてもcolony形成はみられなかったが、RFL C-5細胞200コを共にまくと30コ前後のRG-18細胞colonyの形成がみられた。培地はMEM+10%CSで、さらに検討中である。



 

:質疑応答:

[難波]C-3のコロニーを作らせておいて、RRLC-11を添加すると、どの位の期間でC-3が死ぬか調べてありますか。またウィルスの心配はありませんか。

[高木]どの位の期間で死ぬかは今実験中です。ウィルスについては私も心配で、今電顕で調べて貰っています。ところで腫瘍細胞が出す毒性物質についてのデータを出している人は他にあるでしょうか。

[勝田]生かした状態の癌細胞が出す毒性物質というのは、私の実験が初めてで、他にはないと思います。大抵は癌の組織をすりつぶして抽出していますね。



《藤井報告》

 前号の月報に報告された実験について改めて詳細に説明がなされた。



 

:質疑応答:

[高岡]これらの実験のカウントの絶対数で、各実験を比較する事はできませんか。

[藤井]実験毎に少しづつ条件が違うのて、或実験でのカウント数が、次の実験では同じ群が同じ数値にならないという事があります。各実験毎に比較して傾向をみています。

[勝田]血清は非働化して使っているのですか。

[藤井]ラッテの場合は、新鮮なラッテ血清を使っています。

[梅田]担癌のリンパ球ではどうですか。

[藤井]これから実験する予定です。

[梅田]そこに興味がありますね。

[佐藤二]培養液中の異種蛋白に対する反応は出ませんか。

[藤井]同じ培養液を使った対照細胞に反応が出ませんから、心配ないと思います。



《山田報告》

 引続き4NQO処理後のラット肝細胞RLC-10-C、#2の電気泳動的変化ならびに、その抗原性の変化を追求して居ますが、今回はこれまでの抗原性と最近の成績と合わせてまとめて書いてみたいと思います。

 電気泳動法による、細胞表面の抗原抗体反応の定量的検出方法については既に書きましたが、これを要約すると、細胞表面の抗原と結合した抗体に加へて補体の作用により起される細胞表面の顕微鏡以下の破壊(micro-dissection)を、カルシウムイオンの表面への吸着性の変化として、定量的に測定するわけです。したがって常にaliquotの抗血清を56℃30分熱処理して非活化したものを対照として用い、これに対し活性の血清と反応することにより起る泳動度の低下をカルシウムを含むメヂウム内で測定する様に実験を行っています。(以下、図と表を呈示)

 この方法は既に完全な定量的測定法であることを確認して居ますが、まずin vivoに維持されている細胞と、それを培養してin vitroで増殖した状態の細胞との反応の違いをラット腹水肝癌AH62Fについて検索しました。結果は、培養AH62F 1,000万個を腹腔に(ドンリュウラット)移植した後、18日目の抗血清を0.5ml、細胞200万個、反応メヂウム(pH7.0 Tris塩酸緩衝液Ca、Na、Mg、K微量含む)と混合して37℃30分反応させた後に10mMのカルシウムを含むヴェロナール緩衝液内で測定した結果、明らかに培養状態では抗血清の反応が強く、5倍以上も細胞の泳動度の低下を認めました。この同種抗血清の反応を目安として4NQO処理細胞に対する抗血清の反応を検査してみました。

 4NQOによる変異株の抗原性の変化:

 反応条件及び抗血清製作の条件は従来と同一として検査すると、まず4NQO処理した今回のRLC-10#2の株の泳動度の低下は、そのoriginalのRLC-10#2にくらべて約1/3程度に減少しました(表を呈示)。これに対し前回検索した無蛋白培地培養したなぎさ変異株JTC-25・P3の反応は著しく高度で、しかも変異株はそれよりやや減少しています。すなわち、使用する細胞系により宿主の反応性が異なり(細胞の宿主に対する抗原性の差)しかもこれが4NQO処理により変異すると、本来の抗原性も変化することが理解されます。

 次ぎに4NQOで処理した株をtarget Cellとして移植して得た抗血清について検索しました(表を呈示)。4NQO処理して得た変異細胞の抗原性はむしろoriginal Cellのそれにくらべて弱く、特に4NQOによりin vitroで変異し、泳動的にも明らかに悪性型であり、また宿主へ復元してtumorigenicityの証明されたRLT-1細胞では、この条件では殆んど抗原性の宿主との違いを認めることが出来ないことがわかりました。

 今回の4NQO処理したRLC-10-#2に対する抗血清ではそのoriginal Cellの反応にくらべてかなり強く、新しい抗原性の出現が考へられました。同様のことが、JTC-25・P3株の4NQO処理した細胞においても認められました。

 変異した細胞が、その原株より宿主への反応が弱いと云うことは一見理解しがたいと思いますが、なほ他の変異細胞について種々検索した後に結論を出したいと思います。

 いづれにしろin vitroでの悪性化の証明が、そのisologousの宿主動物へ復元移植してそのtumorigenicityを知ることによってのみ得られている現在、in vitroにおける抗原性の変化を知らないで、今後のCarcinogenesis in vitroの研究における発展はないと思う様になりました。

 f(phenotypical change・antigenic change)=tumorigenicityであることを漠然たる理解でなしに、具体的に解析を始めるべきであると思うわけです。



  

:質疑応答:

[難波]なぎさ変異の細胞の様にあまりに変異しすぎてtakeされなくなった系でも、又発癌剤の処理を加えて、抗原性を変えてもとの生体にtakeされるようになるでしょうか。

[山田]腫瘍性と抗原性とは別物だと考えています。Cule-TCのように抗原性は弱くても腫瘍性はちゃんとあるという系もあるのですから。



《安藤報告》

 “連結蛋白質”の分離の試み(2)

 月報No.7109に報告した表記の実験の記載の不備をおぎない、今後の実験計画を立てて御批判をいただきたい。

 先ずnon-essential amino acidでラベルする場合、L・P3をMEMでprecultureしてからC14-serine、-alanine、-glutamic acidで2日間培養した。essential amino acidでラベルする場合には(図を呈示)MEMにnonessential amino acidを7種、nucleoside5種加えた培地E2Nで3日培養し、phe、tyrを抜いたE2Nで10時間starveさせ1/20量のphe、tyrを加えた培地中でC14-phe、tyrを加え更に3日間培養した。これ等の細胞を常法通り中性蔗糖密度勾配遠心を行った結果が先月号の図であった。

 今後の方針としては、ラベルの条件は今回のessential amino acidの場合にならい、もう少しscale upして行いたい。第1にアガロースゲルカラムを使用してDNAとsoluble proteinと分離する方法、第2に調整的Cscl遠心を行う事によりDNAと他の成分と分離する。これ等のいずれかの方法で連結蛋白の大量調整が可能であると考え実験中。



 

:質疑応答:

[黒木]ピークがポイント1つしかないというのは一寸不安ですね。何点かをつないてピークになるような条件にできませんか。

[堀川]私の同様な実験ではピークは何点かになっています。そして私の場合リジンでみていますが、矢張りDNAのピークにアミノ酸が入ることが判っています。単なる結合ではなく、DNAが作られる時に何か僅かな物が組み込まれているという感じですね。



《梅田報告》

     
  1. AAFとそのproximate carcinogensをHeLa細胞及びハムスター胎児細胞に投与して惹起される形態的変化について報告した(月報7105)。即ちAAFとそのproximateの形であるN-OH-AAF、更にproximateであるN-AcO-AAFを投与した。AAFでは細胞が萎縮ぎみでspindle-shapedになり核も濃染する。N-OH-AAF、N-AcO-AAF投与では細胞は大型化し核質は一様に微細になる。この際proximate carcinogensでは核小体がやや小さ目で丸みを帯びていたがそれ程小さくなっていなかった。尚Nの位置でなく7の位置にhydroxylationをうけた7-OH-AAFではAAFと同じ様な形態を示した。

     

  2. 今回はラット肝臓培養に投与してみたのでその結果を報告する。培養は今迄度々報告してきたと同じ生後5日以内のJAR2ラット肝のmonolayer primary cultureである。

     AAF投与により10-3.5乗Mで肝実質細胞は強く障害され脂肪編成を起す。間葉系の細胞は核は幾分大きくなり、核質も明る気味のか多く、核小体も小さ目である。7-OH-AAF 10-3.5乗M投与ではあまり変化が認められない。

    N-OH-AAFは10-4.0乗M投与で肝実質細胞の変性壊死、間葉系細胞核の大型化、核質淡明化、核小体の縮小化が著明である。N-AcO-AAF投与では10-4.5乗Mで上と同じ様な変化が更に強く惹起された。

     

  3. 肝培養細胞に投与した時は、HeLa或はハムスター胎児培養細胞に投与した時とAAFに対する反応性がやや異っていたわけである。その理由として肝培養細胞にはAAFを一部ではあろうがOH化してN-OH-AAFにする酵素を持つが、HeLa、ハムスター胎児培養細胞は持たないのであろうと考えられる。この考え方を証明するために培地中のAAFの変化をこれから検索したいと考えている。

     

  4. ここで気になるのは斎藤守教授の下でいろいろのカビ毒の細胞毒性の検索を続けてきていると、非常に面白いカビ毒に遭遇する。その一つに細胞を大きくし核も大型化、核質微細一様に点状〜網目状、核小体は極端に縮少化させるものがいくつか見つかった(HeLa細胞に対して)。そのうちのチーズのカビpenicillium roquefortiの代謝産物をHeLa以外の細胞に投与してみた。ところがハムスター胎児培養細胞に投与しても、ラット肝培養細胞に投与しても、核、核小体の変化は認められなかった。

     

  5. 以上をN-OH-AAFの場合と比較してみると、HeLa、ハムスター胎児培養細胞では核小体が円形化していたが、それ程縮少化していなかったのに対し、肝培養細胞では核小体の縮少化が非常に著明であった。P.roqueforti代謝産物の場合はこれと異なり、HeLaで核小体が極端に縮少化し、ハムスター胎児細胞、肝培養細胞ではその様な現象はみられなかった。因みにaflatoxinB1の投与ではN-OH-AAF投与と同じ様な像、即ちHeLaで核小体の縮少化は著明でなく、肝培養細胞で著明な核小体縮少化がみられている。

     核小体の縮少化と、核質の淡明化の現象がどの様なmechanismで起ってくるのか興味がある。(表を呈示)



 

:質疑応答:

[堀川]アフラトキシンで処理した細胞は核小体が大きくなっていますが、分裂増殖はしているのですか。

[梅田]アフラトキシン10μg/mlで処理したものは、初期には分裂像がみられますが、培養を長くつづけると増殖しなくなります。

[吉田]核小体が多くなったとか、小さくなったとかいうことは、本当に核小体そのものの大きさの変化ですか。染色性の問題だとは考えられませんか。

[梅田]私自身はデータを持っていないのですが、電顕レベルでみられる変化と染色してみた時の変化が、かなり一致しているという報告もあります。

[吉田]処理後どの位たつと変化が出てきますか。

[梅田]処理する物質によてまちまちです。すぐに変化するものもありますし、4日もして変化が出てくるものもあります。

[吉田]DNA合成の阻害か、蛋白合成の阻害かというようなことも調べていますか。

[梅田]取り込み実験も平行してやっています。



《佐藤茂報告》

     
  1. マウス脳腫瘍細胞の組織培養下での変化

     マウスの皮下に継代移植されていた脳腫瘍細胞を組織培養に移してから約4カ月になる。同じ培養条件下で9回の継代をくり返したが形態的な変化は見られていない。又アルドラーゼのアイソザイムパターンに於ても、培養初期の頃と変化はなく筋型(A型)、脳型(C型)及び両者のハイブリッド分子が見られる。又100万個の培養細胞をマウス皮下に戻し移植したところすべてのマウスで腫瘍形成が見られた。

     種々の染色法や脳内への戻し移植による形態学的な細胞の同定を行う予定である。又生化学的な方法としてアルドラーゼパターン以外に神経膠細胞に特異的と言われるS-100蛋白質の検出も試みているが、皮下継代腫瘍にはこの蛋白質の存在する事が抗原抗体反応により確かめられた。

     

  2. S-100蛋白質の精製と抗体の作製

     1965年Moore等によって発見された脳に特異的な酸性蛋白質、S-100は、神経膠細胞に存在する事が明らかとなり、これに対する抗体は多くの動物間で交叉反応を示し、神経原性の細胞の同定には有力な指標となると思われる。細胞培養されたマウスの脳腫瘍細胞の同定及び種々の培養条件下でのS-100の消長等を調べる為、まずウシの脳よりのS-100の精製を試みた。

     ウシ脳のホモジネートを10,000回転30分間遠心した上清の80%飽和(pH7.2)から100%飽和(pH4.2)硫安分劃をとり、これをデンプンブロックを用いて電気泳動する事により、電気泳動的又免疫学的にS-100と同定される蛋白分劃を得た。以後、DEAE-Sephadexによるカラムクロマトグラフィーで精製しウサギに抗体を作らせる予定である。



 

:質疑応答:

[勝田]S-100蛋白質の抗体が沢山作れたら、色んな培養細胞を調べてみて下さい。

[安藤]S-100という名前の由来は・・・。

[佐藤茂]100%の硫安にsolubleのSをとってS-100です。

[黒木]分子量はどの位ですか。

[佐藤茂]大体30,000位です。しかしこの蛋白は、シングルではなくさらに数本のバンドに分かれ、それぞれ少しづつ違います。

[難波]種特異性はないのですか。

[佐藤茂]牛のS-100の抗体を兎に作らせますと、その抗血清は鶏にまで反応します。脳の中にしかない蛋白なので、種特異性があまりなくても抗体ができるのでしょうね。



《吉田報告》

 最近の染色体の研究の動向:

 最近の動向として、分裂期の染色体を特殊な染色、又は処理をすることによって、その構成物質を染め分けようとしている。具体的な方法としては大別して3種ある。

     
  1. キナクリンマスタードの溶液で10分間位処理して蛍光顕微鏡でみる。
  2. 高温処理、固定後60℃の溶液で処理して普通に染色する。  
  3. 低温処理、0℃に12〜24r.放置してから標本を作る。(この方法は植物ではよく用いられて居る。こうして作った標本は部分的に染色性がおちている)
 これらの方法で染めた染色体はバンドができて、1.では部分的に蛍光を発する。2.3.では部分的に染色性に違いが生じる。それらの違いが染色体によってそれぞれ特異的なので、どの染色体が性染色体か、又どれとどれがペアかを決定するのに便利である。



《下条報告》

 Con.Aについて:

最近、Con.Aを使って実験をしていて困ったことがあった。Ni63ラベルのCon.Aを使って細胞との結合量を定量的に出そうとしたが、それがCon.Aの凝集のデータと合わない。技術的に何か問題があるのかと困っていたら、最近次のような報告が出た。「H3、I125でラベルしたCon.Aを使って調べてみるとCon.Aの細胞との結合量には差がないのに凝集は細胞によって異なった」、「仙台ウィルスには動物の赤血球を凝集するものとしないものとあるが、凝集する、しないと関係なく、細胞へのウィルスの吸着量は同じであった」。これらの報告とも合わせて考えて“Con.Aが細胞膜に結合するので細胞が凝集する”という説はどうやらウソだと思われる。