【勝田班月報:7111:4NQOによる連結蛋白切断の再結合】

     
  1. ラッテ純系について:

     当研究室では約15年前より春日部系の日本産白ラッテより純系ラッテを樹立することを計画し、1963年には皮膚の交換移植試験で全例がtakeされ、今日ではF40に至っている。この系はJAR-1(Japaneas Albino Rat)と命名されているが、唯一の難点として、産児数及び産児回数が少ないので、実験の進捗がそれに支配されてしまうことである。(表を呈示)そこで今度は産児数の多い純系をさらに作ろうとして、JAR-1のF27の♀と春日部の雑系ラッテの♂とをかけ合わせ、兄妹交配を重ね、今夏遂にF20に達した。この系は産児数も回数も多く、実験に使用するのに極めて適している。最高産児数は18匹である。F20で皮膚の交換移植をおこなったが、これは全例がtakeされた。今後の研究に大いに貢献すると思っている。

     

  2. JAR-2ラッテを用いての培養内発癌実験:

     上記のようにJAR-2系が確立されたので、早速それを用いて実験にとりかかることにし、1971-10-3;F21生後10日の♂から、肝細胞及び皮下センイ芽細胞の初代培養をroller tube法で開始した。

     

  3. JAR-2ラッテを用いての動物内化学発癌:

     JAR-2を用い動物継代可能の化学発癌腫瘍を早急に作りたいと目下準備を進めている。

     

  4. 軟寒天培地法によるJTC-15及びJTC-16株よりのCloning:

     (表を呈示)軟寒天法を用い、JTC-15株(ラッテ腹水肝癌AH-66由来)及びJTC-16株(同AH-7974)より6及び5clonesを拾った。おそらく寒天温度が高すぎたためPEの低かった例もあり、目下再実験を計画している。また以前にJTC-15よりとった7クローンには移植性が見出されたので、今回のclonesについても移植試験を計画している。

     JTC-16株のhexokinase活性(isozyme中のIII型)については佐藤茂秋氏と共同で研究を進めているところで、その説明については同氏の記載にゆずる。



《佐藤茂秋報告》

 吉田腹水肝癌AH-7974の細胞は、ラットの腹水型として継代されている時は、ヘキソキナーゼのI、II、III型アイソザイムを持ち、その内II型活性が高い。この組織培養系(JTC-16)はI、II型ヘキソキナーゼのみを持ちIII型は見られないが、この細胞をラット腹腔に戻し移植すると、I、II型に加え、III型が出現する。戻し移植して腹水型となった細胞を再び組織培養し、そのヘキソキナーゼアイソザイムを経時的に調べると培養後5週間位までIII型は保持されているが、8週、23週目ではIII型は非常に弱くなった。この細胞について培養後約11週目に、軟寒天上でクローニングを行い5つのクローンを得た。その各々のクローンについてヘキソキナーゼを調べたところ、3つのクローンはI、II型のみを示したが、他の2つはI、II型の他にわずかながらIII型を持っていた。



 

:質疑応答:

[佐藤茂]解明するための方法の一つとしてdiffusion chamberを使ってみたいと思って計画しています。ラッテへ復元した時出てくるIII型が宿主由来の細胞からくるものではないかどうか、ということと腹腔内でのIII型の出現を経時的に追ってみたい訳です。

[安村]培養系にはなくて、再培養系にはある。それはよいのですが、拾ったクロンの中にもっとはっきり+のものがないと困りますね。クロンを拾った時期がおそかったのではありませんか。

[高岡]クロンはIII型が+の時期の再培養系から拾いました。拾ってから酵素を調べる間でには大分時間がたっていますが。それからIII型が完全に−という系をラッテへ復元してやはり+になるかという事も問題だと思います。今まで−が+になった実験はクロンを用いていなかったので、単にポピュレーションchangeだろうと言われますから。

[山田]酵素を調べるために必要な細胞数はどの位ですか。

[佐藤茂]10の7乗です。

[山田]10の7乗の中にIII型を持った細胞が何%混じっていると、どの位の濃さのバンドになるかということは判っていますか。何だか1コの細胞を問題にするクロンを拾ったりしていながら、測定が10の7乗の細胞を要するのでは感度が違いすぎる気がしますね。 [吉田]酵素の測定法は・・・。

[佐藤茂]細胞をつぶして遠沈をかけ、上清を使っています。

[黒木]上清だけを調べているとすると、パーティクルに結合している酵素については調べられない訳ですね。

[佐藤茂]実験として液性の方がやりやすいので、先ず上清から始めました。しかしパーティクルにもまだ問題は残っていると思います。

[安村]動物継代している癌細胞の或酵素が培養系にもって行くと消失してしまう。そして動物へ戻すと又出てくる、という話は面白い材料ですが、よく考えてやらないと、結局in vitroとin vivoの違いとして片付けられてしまう恐れがあります。私も昔ホルモン産生細胞の実験で苦労したことがあります。その場合はクローニングを重ねる事によって産生能を維持できたのでpopulationのchangeの問題でしたが。このAH-7974の系ではIII型を持っているクロンが拾えていないのが困りますね。

[佐藤二]肝癌にもっと特異的な酵素を選んだ方がよくないでしょうか。

[佐藤茂]今の所、特にこれといった酵素が見つからないのです。

[安村]このJTC-16(AH-7974)という株は材料として不適ではないでしょうか。私もこの株で大分実験をやりましたが、どうも変異の幅の広い株で、やりにくかったですね。安定した結論が得られなくて閉口したウラメシイ株ですね。

[堀川]いや、発癌の機構を調べるには、そういう変異の多い分からない材料の方が適していますよ。

[山田]AH-7974は形態をみていても変異の幅が広いようですね。矢張りもう少し変異の幅が少ない方が実験はやりいいでしょうね。

[吉田]私の扱っているγグロブリン産生系の腫瘍もとても変異の幅の広い系ですが、それなりに面白いですよ。変異が多いといっても必ず或るパターンがあると思います。それを見つければいいのです。

[高岡]この系は染色体数もやたらに多くて、調べるのが大変です。

[黒木]こういう実験では染色体は調べなくてもよいでしょう。酵素だけ追えば。

[堀川]染色体の動きも平行して調べるのは又面白いと思います。

[佐藤二]動物の問題ですが、純系の条件は何でしょうか。

[吉田]先ず20代同腹交配をすることです。そして皮膚移植が可能なことでしょうね。

[藤井]皮膚移植でも♂から♀へ植えるとつかない事がありますね。Y染色体のせいでしょうか。それから200日以上して落ちる事もありますから、長期間観察する必要があります。選び方が悪いと26代でもつかなかった例があります。

[佐藤二]私の所の呑竜系は一応同腹交配していますが、染色体がハイブリッドです。



《佐藤二郎報告》

 10月30日に仙台で東北医学会例会があり、そこで培養ラッテ肝細胞のアゾ色素による発癌−その現況と問題点−と題して発表を行って来ました。その総括の一部をシェーマにしました。不完全なものと思いますが、討論の材料とします。(3つの表を呈示)

(1)の表は横軸に培養日数、縦軸に培養による細胞の変化をとり、最高値でDonryu系ラッテ生後24時間乃至48時間の仔に移植するとTumorを形成する。培養細胞は培養開始後、200日前後で形態学的変化(Diploid cellの減少)をおこし、次第にその変化を増強して造腫瘍性を獲得する。現在までのDAB発癌実験ではSpontaneous malignant transformationが進行して動物にTakeする少し前の時期にin vitroでDABを使用するのが、動物Takeという指標で見る限り最も効果的である。その他の時期のアゾ色素使用では形態学的変化とか生物学的な変化などの指標では変化が認められるが、動物Takeという指標では変化が認められない。

(2)表は肝臓をLD培地+20%BSで組織片培養すると肝実質細胞が撰択的に増殖的に増殖する。又炭酸ガス培養でコロニー性のdiploid肝実質細胞(?)が分離されるが、このような細胞とアゾ色素の感受性は未だ明確でない。したがって細胞を均一系にすればするほど感受性の問題を重視しなければなるまい。

(3)はRLD-10肝細胞系において3'-Me-DAB添加により動物ラッテ(new born)に腹水性腫瘍をつくった。その腫瘍の再培養細胞をControlとし更に10μg/mlの3'-Me-DABを添加して動物(new born)におけるsurvival dayを比較した。survival dayは再添加によって短くなった。即ち腫瘍性が増殖したことを示す。

(4)図は4NQOとアゾ色素の発癌機構の変化を示す。4NQOの場合には一定の濃度によって発癌のprocessがきざまれると、以後発癌剤を加へなくとも細胞の癌化が進んでTumorを復元によって生ずるようになる。アゾ色素の場合には発癌のprocessは連続的な蓄積によって生ずる。又細胞分裂だけでは発癌のprocessの進行はおこらない。



 

:質疑応答:

[黒木]DABでの悪性化の場合、DAB処理を1回やる毎に腫瘍性が増すということのようですが、具体的なデータとして変異コロニーを数的にチェックなさったのでしょうか。

[佐藤二]そういう事はまだみてありません。その内に調べてみるつもりです。

[黒木]同じ肝細胞系を使ってコロニーレベルで、4NQOでは変異細胞のコロニー出現率が処理をくり返さなくても増えてゆくが、DABの場合は処理毎に増えてゆく、といったデータがあれば判りますが・・・。

[佐藤二]今考えていることは動物レベルで先ずDABによるアデノームを作って、それを培養に移します。そしてその系からクロンを拾って今度は培養内でDABを添加して悪性化させ、その経過をDAB無添加と比較しようと思っています。

[堀川]ターゲットセオリーの立場からみますと、4NQOもDABもターゲットは同じで弱い強いがあるというより、それぞれのターゲットが違うのではないかと考えられます。だとすると、4NQOとDABの両方の組合せで処理すると、もっと早く強く悪性化させられるのではないでしょうか。

[吉田]私もその点に興味をもっています。ターゲットが異なると、できたtumorに差がありますか。

[難波]全く同じものが出来るかどうか判りませんが、少なくとも同じクローンを使えば、4NQOでは肉腫が出来、DABでは肝癌が出来るというような事はありません。

[堀川]ターゲットが違うかどうかという事は、腫瘍性の獲得と腫瘍性の強さとについて比較してみればよいと思います。

[勝田]話としては大変面白いようですが、実験としては難しいですね。

[黒木]4NQOは毒性が強くて有効な濃度の幅が狭いから、実験がやりにくいですね。

[安村]悪性になってtakeされていたものが、つかなくなったというのは、どういう風に考えますか。

[堀川]遺伝的にはターゲットの修復だと考えられます。

[佐藤二]脱癌は今は悪性化のゆきすぎだという事になっているようです。

[吉田]悪性化のゆきすぎとは考えられませんね。戻るとは考えられますが。

[佐藤二]考えてもよいと思いますが。なぎさ細胞などもそうではないでしょうか。

[勝田]なぎさの場合は培養内で無方向に変異して抗原性までが変わってしまったので、もとの動物にtakeされなくなったのではないかと考えています。

[吉田]遺伝的には悪性を担う遺伝子が落ちて、動物につかなくなるという考え方は明快だと思います。

[安村]悪性度が増して生体が受け入れ難いような変なものが出来たとしたら、生体側の反応が起こって処分されてしまって、takeされないという結果になる事も考えられませんか。細胞レベルの証明だけでは癌の問題はとても解決しませんね。

[吉田]しかし今議論して居るのは細胞レベルの問題です。

[難波]4NQOを何回も処理して悪性化させた場合の実験で、処理5回でも一応動物にtakeされるようになるのですが、可移植性を維持できない。しかし20会処理をくり返すと矢張りtakeされ、且つその可移植性はずっと維持できるというデータを持っています。

[勝田]発癌剤の処理後takeされるまでに何故日数が必要かという問題はどうですか。

[吉田]染色体の中の遺伝子が1コ変わっただけで悪性化する場合は、すぐ変異するはずです。ショウジョウバエの場合などその1例で実に簡単に癌化します。哺乳動物ではきっと悪性化に関係する遺伝子が1コではないので、悪性化に時間がかかるのでしょう。

[高木]私の例では培養開始後、若い時期にNGを処理すると処理後悪性化までに長くかかり、培養日数がかなり長いものを処理すると処理後短い期間で悪性化した。つまり培養する事だけで癌化への変異が少しづつ進んでいるように考えられます。

[安藤]最初の障害が次々と変異をよぶとも考えられますね。DNAポリメラーゼに変異が起こるという事は、既に知られている事でもありますから。

[勝田]しかし、癌化は或るターゲットがやられるだけとは考えられませんね。同じ場所がやられるなら、同じ癌が出来てもよさそうなものでしょうが、同じDABで処理しても色んな腹水肝癌ができるのですから。

[吉田]それも原因か結果か難しいところですね。もっともっと数多く調べると何か最少公約数が判るのではないでしょうか。

[安村]先程話の出たショウジョウバエを使って発癌機構を調べれば簡単でしょうが、哺乳動物とは大分ちがうでしょうね。



《難波・佐藤報告》

 N-55 DABで悪性化した細胞の増殖及び細胞凝集に及ぼすConcanavalinAの影響

 月報7102、7110にConAの実験データを報告した。それらの報告では、4NQOで変異した細胞も、DABで変異した細胞も、その増殖は発癌剤未処理対照細胞の増殖と比較してConAによって特異的に抑制されなかった。

 今回、医科研癌細胞研究部よりConAの新しいLot(Calbiochem Lot 010229)を頂いたので、そのConAの、1)DAB未処理対照細胞とDAB変異細胞との増殖に及ぼす影響。2)両細胞に対するConAの細胞凝集能に及ぼす影響。3)ConA処理による細胞の形態的変化。を検討した。

 結果:

     
  1. ConAの細胞の増殖抑制作用は(表を呈示)、対照細胞と変異細胞との間に有意の差はなかった。(500μg/mlで6時間、37℃処理後、2日培養後の結果)  
  2. 凝集に及ぼす影響も、両者に差がなかった。ConA、wheat germ agglutinin、rathenium red(RR)、phytogemagglutininについても調べた(表を呈示)。多糖体の染色に利用するRRは、細胞膜に結合し、細胞凝集をおこす可能性がある。しかし、この実験では1mg/mlの濃度で凝集はみられなかった。

     ConAによる凝集は非常にきれいにおこる。(それぞれの写真を呈示)PBSに細胞を浮遊させたものでは、細胞の凝集はおこらない。500μg/ml、6hr、37℃処理後の所見、48時間後の変化は胞体内の空胞化が目立つがSudanIII染色で陰性であった。一部には脱核した細胞が認められる。

 N-56 ConAのDAB悪性変異細胞の動物移植性に及ぼす影響

 DABで培養内で悪性変化した細胞を動物に移植し、生じた腹水腫瘍の移植性に及ぼすConAの影響をみた。

 10の7乗コの腫瘍細胞を2mg/mlのConAで37℃30分処理後10の7乗宛動物の腹腔に移植し、その生存日数を比較した。その対照にはConAの溶媒PBSで同処理した細胞を用いた。

 実験結果は(図を呈示)両者とも差がなく、ConA処理細胞を接種された動物の平均生存日数も未処理細胞を接種されたそれも、ともに49日であった。



 

:質疑応答:

[永井]悪性化していない対照群も凝集するのは何故でしょうか。

[難波]初代培養と株化した細胞では膜がもう変わっているのでしょう。

[永井]ConAによる凝集が癌と正常とで違いがあるという事が本当なのかどうか。或いはウィルスによる発癌の場合だけConAに親和性のある特定の構造をもったサイトが出来るという事なのか、といった事をもっとはっきりさせたいですね。

[黒木]凝集することに違いがあるのは当たり前で、結合量の方に問題があるのではないでしょうか。

[山田]処理直後の細胞の形態的変化は、みる所表面活性剤を作用させた時によく似ていますね。

[安藤]ウィルス発癌の場合もサイトの数的な違いで、質的な違いは判りませんね。

[勝田]とにかく凝集そのものが定量的でなく定性的ですからね。

[永井]そのせいか、出して居るデータはきれいでも、その研究室に行ってやらないと同じデータが出ないという妙な事もあるようですね。それから、核の抜けてしまった像がみられましたが、あれはどういう事でしょうか。

[難波]判りません。空胞が出来るのも何故か考えてみています。



《高木報告》

     
  1. 混合移植実験

       
    1. )isologousな移植系

       これまでのdataをまとめてならべかえてみた(図を呈示)。腫瘍細胞であるRRLC-11細胞1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じて移植した場合のTPD50はそれぞれ16、6及び10で、これらの間に有意の差はみられなかった。すなわちRRLC-11細胞は腫瘍形成能が強いせいがあるかも知れないが、非腫瘍細胞たるRFL細胞を混ずることにより造腫瘍性に影響はみられなかった。LD50についてみるとRFL細胞100万個混じたときやや促進、1,000個では抑制の傾向がみられた。

       

    2. )homologousな移植系

       移植するラットの系に対してhomologousなoriginである腫瘍細胞RG-18の1,000〜10にRFL細胞100万個、1,000個混じた場合、および混じないで腫瘍細胞のみ移植した場合のTPD50は、それぞれ100、400および250で、RFL細胞100万個混ずるとRG-18細胞の造腫瘍性に促進の傾向が、1,000個混じた場合には抑制の傾向がみられた。RFL細胞を100万個混じた際の造腫瘍性促進についてはRG-18が移植されたhomologousな宿主に定着して増殖をはじめる間、RFL細胞が生体の免疫学的な拒絶反応からこれを守るか、あるいはfeederとしての役目を果す可能性を示すと思われる。しかしRFL細胞を1,000個混じたときむしろ造腫瘍性を抑制する傾向がみられることについては解釈が困難である。  LD50についてもRFL 1,000個混じたときやや抑制の傾向がみられる。

     
  2. 腫瘍細胞と正常細胞との培養内における相互作用

     先の班会議でRRLC-11さいぼうとRFL細胞とを混合して培養内でコロニーを形成せしめるとRFL細胞のコロニーの一部に変性がおこり、さらにRFL細胞よりコロニー形成をくり返してえた純化された亜株とRRLC-11細胞とを混合して培養すると、細胞の種類によりRRLC-11細胞との共存における反応の仕方がことなり、RFLC-3細胞は殆ど完全に変性をおこすことを報じた。今回はRFLC-3を示標としてRRLC-11が培地中に放出する細胞毒性を示す物質につき、いささか検討を加えてみた。

     まずRRLC-11細胞の電顕写真をとってみたが、培養7日をへた細胞でわずかながらC粒子が認められた。その培地を30,000rpm1時間超遠心してその上清について超遠心しない培地との比較において毒性を調べてみたが、毒性はわずかに低下している程度で超遠心による影響はまずないと考えられた。ウィルスによる可能性は否定してよいのではないかと考える。次いでRRLC-11細胞ならびにRFL細胞をTD-40に3本ずつ1本あたり20万個の細胞を植え込み、培養3、6、9日目に培地をあつめて各々poolしその直後にRFLC-3培地に加えたものを対照として毒性を比較した。培地は新鮮培地に50%の割に加えた。(図を呈示)培養日数が進むと共にRFLC-3の培地を加えたときのRFLC-3細胞の増殖は低下したが、RRLC-11細胞の培地を加えたときも同様培養日数と共に増殖抑制度がつよまり、RFLC-3の培地を加えたときの細胞増殖を100とした場合RRLC-11による抑制度は大体一定で90%前後であった。さらにRRLC-11培地を加える濃度による毒性作用の差異をみるため50%、20%、10%、5%と新鮮培地に加えてRFLC-3細胞の増殖に及ぼす効果をみたが、5%のときやや毒作用が劣るが10%以上では有意と思われる差はみられず、以後の実験では20%加えることとした。

    またvisking tubeを用いて限外濾過し、その内、外液について毒性作用を調べたが、外液には濾過しない培地と同様な効果がみられた。なお内液にも毒性作用がみられたが、これは内液にこの物質が残っていたためと考えられ本物質は低分子であることが予想された。さらに濃度に対する影響など目下検討中である。



 

:質疑応答:

[山田]混合移植の実験はあれだけのデータを出すのも、なかなか大変だったろうと思いますが、どうもはっきりした結論が出ませんね。

[安村]一度に頭数を揃えて復元したデータではないので、統計的な処理も難しいと思いますが、統計の専門家に見せると又何かうまい処理法があるのではないでしょうか。

[高木]結局homologousの系では正常細胞を混ぜるとラッテへのtake率や延命日数がやや促進気味だと思われます。

[安村]まあpoor correlationという表現ならよいでしょう。

[永井]毒性物質の方の話で、その物質は癌細胞に対しても何か作用がありますか。

[高木]癌細胞にはやってみていませんが、正常細胞に何種類か添加してみました所、細胞によって影響され方に大分違いがありました。

[佐藤二]腫瘍の起源と正常の起源とに何か関係がありませんか。

[高木]全部fibroblastsです。

[勝田]fibroblastといっても臓器によって違うのではないかと常々考えています。

[高木]私も今度は他の臓器からfibroblastをとってみようと考えています。

[佐藤二]動物に接種してから又再培養にもってゆくと、よくfibroblastが混じってきますが、それなども調べてみるとよいでしょう。tumorの増殖をin vivoで阻害して居る格好のfibroblastの働きなどもin vitroで調べてみると面白いと思います。

[安村]いや案外tumorの中のfibroblastを拾うのは難しいですよ。



《梅田報告》

 各種mycotoxinをHeLa細胞に投与して惹起されるDNA strand breakについて報告してきた。月報7108、7109にdouble strand breakについて述べた。今回は今迄の報告も加え、回復実験の結果を合せ報告し、総まとめしてみる。(それぞれに図、表を呈示)

     (
  1. )Patulin:月報7109で述べた如く32μg/ml投与1時間後に中性蔗糖密度勾配法で検索した所、bottomより11本目、10μg/ml投与では3本目に単ピークが現れた。32μg/ml処理1時間後、培地を洗い去って新しい培地で更に培養を続けると、この場合は1時間処理直後bottomより9本目にあったピークが、2時間後には11本目、5時間後には15本目にピークが移り、double strand breakは更に切断が時間と共に進む様な像を呈した。

     (

  2. )月報7109で述べた如く、1mg/ml投与1時間後の検索でbottomより14本目、320μg/ml投与1時間後の検索で3本目に単ピークが現われた。この場合の回復実験の結果は、少くとも検索した3時間迄の回復培養では回復してこなかった。

     (

  3. )Luteoskyrin、rubratoxinB、FusarenonX:月報7109で述べた如く中性蔗糖の検索で、しかも24時間処理の長期間処理後の検索でもbreakは認められなかった。

     (

  4. )aflatoxinB:月報7108で述べた如く、32μg/ml投与後24時間目にアルカリ蔗糖密度勾配での遠心結果はbottomにcountのばらつきが認められ、更に回復培養5時間24時間と経るにつれ、ばらつきはなくなり、底に放射能があつまってくることが観察された。

     中性蔗糖での結果は月報7108で述べた如く、アルカリ蔗糖での結果と同じ様に、32μg/ml 24時間処理でbottomより6本目にピークが現われ、breakの生ずるためには長時間処理が必要なことがわかる。このbreakは回復実験で明らかに回復の進むことがわかる。

     (

  5. )以上の結果を昨年報告したsingle strand breakの結果と合せまとめた。

     (

  6. )之等mycotoxinのHeLa細胞に対する致死濃度(増殖阻害)、H3-TdR、H3-UR、H3-Leuの摂り込みによるDNA、RNA、蛋白合成をおさえる濃度を並べた(表を呈示)。致死濃度はmycotoxin投与3日後に細胞が殆んど死滅する濃度であるが、DNA、RNA、蛋白合成阻害の実験は、作用後2時間での夫々の摂り込みの50%阻害を起す濃度を示してある。したがって時間の因子を考えながら参考にする必要がある。

     Patulinは投与後阻害が非常に強く早く起り致死濃度よりずっと低い濃度で合成阻害が生じている。Penicillic acidはDNA合成が強く阻害されるが作用2時間での50%合成阻害濃度が殆3日後の致死濃度に近い値を示している。

     之等に反しLuteoskyrinは致死濃度より10x以上も濃い濃度で合成阻害が現れており、このtoxinが非常に遅効性であることを示していると思われる。

     RubratoxinBはPenicillic acidに近い像を示している。FusarenXはDNA、蛋白合成阻害が特異でその作用は直接的速効的に致死効果につながることを示唆している。AflatoxinB1はDNA、RNA合成阻害がやや強く、Penicillic acidに近い像を示している。

     (

  7. )作用の上からはVIの如くであるが、これを今回報告したstrand breakの結果とを合せ大胆に考察してみると、Patulinは直接的速効的toxinにも拘らず致死濃度の3倍も濃い濃度を投与しないとbreakが生ぜずしかも回復が認められないのはPatulinの作用がlysosome emzymeの活性化にあってもよい様な解釈が成り立つ。この点実証してみたいと計画している。Penicillic acidもこの様な作用があってもよい可能性がある。

     AflatoxinB1は相当高濃度1時間作用でbreakが生ぜず致死濃度附近で24時間作用させた時breakの生じたことは、AflatoxinB1がLuteoskyrinの様な遅効性作用を持っていると解釈され、標的オルガネラに達するのに時間を要するのか、又化学的修飾をうけproximateの作用物質になるのに時間を要するのか、今後の検討により解明される可能性が強い。ここでLuteoskyrinの場合も含め、AflatoxinB1の場合は生体での標的臓器が肝であることから、使用している細胞に問題があるので今後検討したい。更に大胆になればsingle strand breakはAflatoxinB1の場合比較的軽いのにdoubl strand breakの方がはっきりとbreakが認められしかも回復が認められた点、AflatoxinB1が実際に安藤さんの云うlinker proteinだけに作用して切断を惹起し、本来のDNA double strandにbreakは生じさせない(single strandも含めて)のかも知れないと考えている。

 以上の想定を作業仮説として、今後更にこの問題を追求する予定である。



 

:質疑応答:

[佐藤二]一重鎖は切らないが、二重鎖は切るという物もありますか。

[堀川]理論としては二重鎖が切れれば一重鎖は必ず切れるということになっています。そして二重鎖の切れ方より一重鎖の切れ方の方をもっと問題にした方がよいと思いますね。遠沈条件はもう少し工夫するとよいでしょう。アフラトキシンのデータで、24時間で少し切れるというのは一度切れてから修復されつつある所の像ではありませんか。

[勝田]DNAの一重鎖、二重鎖の切断と発癌性はpoor correlation?

[安藤]二重鎖切断で4NQOの場合は、蛋白部分が切れると考えているわけですが、梅田班員の場合はどうか知りたいですね。それから濃度を変えると切断、回復の像も変わってきますから、それも調べてみて下さい。

[黒木]ピークがシャープすぎるのが矢張り気になりますね。方法を変えても同じデータが出るでしょうか。

[野瀬]細胞を別の試験管の中で壊しておいて、層の上にのせ、遠沈するというやり方だとシングルピークにはなりません。

[堀川]しかし、この方法で遠沈してもX線の場合はシャープなピークにならず、だらだらしたピークになります。ですからシャープなものはシャープなのでしょう。

[安藤]細胞数を減らして、塊の出来る可能性を無くしてみましたが、むしろSバリュウは大きくなりました。ピークがシャープな事は同じでした。

[勝田]培地に添加したトキシンが活性を維持できる期間もみておく必要がありますね

[佐藤茂]AflatoxinはDNAに直接に作用しますが、他の物については判っていますか。

[梅田]よく判っていないようです。



《安藤報告》

     
  1. 4NQOによる連結蛋白質の切断の再結合

     4NQOは細胞内で代謝され、DNAの一本鎖切断と同時に連結蛋白部分の切断を惹起する。この切断部分は細胞の回復培養によって修復される。その修復機構を調べるために、回復培養時に種々の代謝阻害剤を加え、この切断の修復反応を調べた。先ずDNA合成阻害剤Hydroxyurea(HU)、ara C、FUdRをそれぞれの濃度で回復培養に添加する。記載の時間培養後分析した。(それぞれ図を呈示)4NQO処理10-6乗M30分後、回復6時間後、HU、araC、FUdRについて、HUは多少問題があるが、araC、FUdRの結果から明らかにDNA合成90%以上の阻害条件下にも連続蛋白切断は修復されている。

     次にactinomycinD(AcD)(RNA合成阻害90%以上)の場合には、DNA合成阻害の場合と同様に殆どcontrolのレベル迄回復していた。最後に蛋白合成阻害剤cycloheximide、puromycinの場合にも、同様に蛋白合成90%以上阻害条件において、ほぼ完全な修復が起っていた。なおcycloheximide 5μg/mlの場合にもrepairは起った。

     以上の事実から、4NQOによる連結蛋白質の切断の修復にはDNA、RNA、蛋白質の新たな合成は必要でないと思われる。そこでこれ等三種類の高分子合成以外の生体成分の合成に必要なATPの産生を阻害したらどうであろうか。(図を呈示)種々の阻害剤存在下に回復培養を行った所、殆どの場合完全に修復反応は起ってしまった。したがって、細胞内の既存のATPプール以上にはエネルギーを必要としないようだ。  それでは一体この修復反応はどのような機構でなされているのであろうか。月報No.7105に記載した如く、この回復培養を低温で行った場合には修復は阻害された。

     以上の諸事実を考え合せると、この修復機構としては次のような推定が出来るのではないだろうか。

       
    1. 4NQOによる障害は連結蛋白の酸化還元、解離等による切断でありATP補給を不要として再結合が起る。
    2. 4NQOによって障害を受けた蛋白はDNAから離れてしまい、回復培養時に細胞内プールに在った連結蛋白が補給され修復される。
     (1)の場合には障害を受けた蛋白自体が修復されるのに対し、(2)の場合には、末梢蛋白との入れ替りを仮定したものである。

     

  2. 4NQO誘導体の発癌性とDNA切断の関係

     先に癌センター川添さんより分与された4NQO誘導体の発癌性とDNA鎖切断、unscheduled DNA合成の有無の関係をみると、発癌性(川添氏により、mouseに皮下注射して調べられた)と、一本鎖切断(安藤等のL・P3によって検討されたデータ)、unsch.DNA合成(川添らの論文)の関係は非常に優れた相関を示している(表を呈示)。但し4NQO6C(4NQO 6 Carboxylic acid)の場合のみ一本鎖切断が見られていない。これは、この化合物が極めて強い水溶性を持っている事に原因するのかもしれない。更に検討する予定である。二重鎖切断に関しては今回は三種だけだが、今後はっきりする予定である。



 

:質疑応答:

[堀川]HUは製品によってむらがあります。精製すると効かなくなります。

[佐藤二]低温で回復しないという場合、もっと時間をかけると回復しますか。

[安藤]まだやってみていません。

[難波]回復しない10℃で細胞は死ぬのでしょうか。37℃に戻すと回復しますか。

[安藤]判りません。

[佐藤二]処理濃度が低くても矢張りシャープなピークになりますか。

[安藤]なります。

[佐藤二]もし本当に蛋白を切るなら濃度が薄くても同じように切れるのは変ですね。

[安藤]作用がランダムではないと考えている訳です。

[乾 ]染色体レベルでみても核酸に作用する薬剤をかけると、クロマチドの切断を起こすようですが、発癌剤によっては切断を起こさない物もあると言われています。

[黒木]AAFやDABはunscheduled DNA合成を起こしません。今までの発癌性、変異性、それに蛋白や核酸との結合といった問題に、更にDNA切断に、unscheduled DNA合成と、いろいろ絡んできたということですね。



《山田報告》

 4NQO処理後122日目のラット肝細胞RLC-10-C#2の其の後の電気泳動的変化は、前回に比してノイラミダーゼ感受性は増加して居ませんが、若干細胞の構成純度内低下がみられ、バラツキが出現して来ました(図を呈示)。この成績を前々回の実験で行ったCQ60と比較しますと、4NQO処理後145日のそれと今回の成績は類似しています。従ってCQ60の株と同じ様な変化をたどって居るのではないかと推定されました。今後の変化を追求したいと思っています。

 電気泳動による細胞分劃装置“Elphor”についての基礎実験−その後の成績;

 電気泳動的に異なる細胞を分離出来れば、変異細胞を撰択的に採取して増殖させることが出来るので、昨年購入した“Elphor”の装置についての基礎実験を重ねて来ました。しかしまだうまく実用化出来ません。(物質やSubcelluler fractionなどは簡単に出来ます。) その理由は泳動のメヂウムに低比重液を用いると、細胞が重力により速く沈降したりまた細胞を注入する管の中で沈殿してしまいうまく分離できず、高い比重液をメヂウムとして用いると、粘稠度が高くなり、細胞の移動に対するメヂウムの抵抗が大きくなり、泳動による分離条件としては細胞の表面荷電の差よりも、むしろ細胞の大きさの差の方が重要になり、なかなかうまく分離出来ないためです。それ故なるべく低粘稠度であり、しかも高比重液を探して種々調整しました。(MT:Tris-malate bufferの表を呈示)そして異る粘稠度液内におけるラット赤血球とEhrlich癌細胞の泳動度を通常の測定装置で測定してみますと、メヂウムの粘稠度如何では相互の泳動度の関係は逆になってしまうことがわかります。すなわち高粘稠度の液内では大きい細胞の(3〜4倍)のEhrlich癌細胞の方が、小さい赤血球より遅くなり、低粘稠度のメヂウム内では、むしろ前者の方が速くなります。通常のM/10ヴェロナール液では、ラットの赤血球は1.15μ/sec/V/cmで、Ehrlich癌細胞のそれは、1.50〜1.70μ/sec/V/cmの泳動度を示し、明らかに後者の方が速い泳動度を示します。

 一夏、種々工夫して来ましたが結論としてあまり大きさの異る細胞の分離はあきらめて、むしろ類似の大きさで、しかもその表面の荷電密度の異る細胞の分離の条件をみつけることに、研究をしぼることにしました。in vitroでの培養下において悪性化した細胞は、その母細胞より2倍以上の大きさになることはまずないと考へられるからです。類似の大きさの細胞を分離するのでしたら、その粘稠度はあまり影響して来ないので、SucroseとFicollを混合した液を用いることにしました。この液内では細胞が容易に沈降せず、分離がきれいに行くと思われるからです。



《堀川報告》

 これまでにわれわれはHeLaS3細胞をMNNGで処理することによりS-1M細胞、S-2M細胞と名づける紫外線感受性細胞を分離したことについて報告してきたが、こうしたUV感受性細胞ではUV照射により、DNA中に誘起されたThymine dimer(TT)の除去機構がnormalに進まず、HeLaS3原株細胞がUV照射後6時間までにDNA中のTTの50%を切り出すのに対して、S-1M、S-2M細胞では約9%しか切り出さないと言う結果が得られている。

 さて問題は、こうしたS-1M細胞、S-2M細胞はTTの切り出し機構のどの部分が欠損しているかと言うことである。

 すでにヒト遺伝病Xeroderma pigmentosumの患者から得られた細胞ではUV照射によって誘起されたTTの除去のためのfirst stepであるnicking enzyme(endonuclease)が欠損しているためTTの切り出しが正常に進まないことがCleaver達によって証明されている。われわれの得たUV感受性細胞がこれと同じtypeの変異細胞であるかどうかを検討するため200ergs/平方mmのUVで照射した直後と照射後5時間incubateした後のHeLaS3原株細胞とS-2M細胞のDNAをアルカリ性蔗糖勾配遠心にかけて生じる切断量を調べてみた結果を図で示す。200ergs/平方mm照射直後のDNAの沈降像、200ergs/平方mm照射後5時間incubateしたのちの両者のDNAの沈降像をみると、HeLaS3原株細胞ではUV照射直後にすでにTT切り出し用のnickingが入るがS-2M細胞では照射直後ではnickingは殆んど入らず、照射後5時間目でもほんの僅かしか切断が起きないことが分かる。以上の結果はわれわれの得たUV感受性細胞はXeroderma pigmentosumの患者由来の細胞と同じくnicking enzymeの欠損株であるように思われる。尚おexonuclease(除去酵素)の欠損株が得られるか否か現在検討中である。