【勝田班月報:7202:Cyclic AMPの受容蛋白】《勝田報告》最近の発癌実験の経過報告:4NQOを用いた実験と、それ以外の発癌剤を用いた例、完全合成培地内増殖系の細胞を用いた例とをまとめた。(表を呈示)CQ#67は初代培養を用いた実験であるが、何れも復元接種は陰性に終った。CQ#68は山田班員と協同しておこなっている実験で、面白い結果が得られつつある。処理1カ月位で細胞電気泳動像に変化が現われはじめたので、2カ月にならぬ内にラッテへ復元接種試験をおこなったところ、陽性成績が得られた。軟寒天培地内の細胞集落形成能は、これらの指標よりはるかにおくれ、いまだに認められない。 次のCQ#69は初代培養で、C#54と同一材料で出発したもので、変化があって現れたら本人に復元接種したいと考えているが、何れも未だに細胞の生えだしがない。NGを用いた実験C#56〜59も目下観察中である。 純合成培地内増殖系の細胞による実験も、目下継続中のが2系ある。 ラッテに肉腫を作る実験: 1972-1-24:JAR-2、F21、生後49日♂4匹、右大腿部、7.5mgMCA/0.3mlOlive油、皮下に注射。 日本では純系ラッテの腫瘍が少なく、肉腫は無いので、多産であるJAR-2系を用いて肉腫を作ることを計画し、上記のように本年1月24日にMCAを注射し、目下“腫瘍形成”待ちである。
:質疑応答:[安藤]RLG-1はfibroblastですか。[高岡]鍍銀法でセンイが染まりますから、fibroblastだと思います。 [山田]今日はCQ68のデータを持ってきていませんが、まだ非常に悪性という所まで行っていませんね。 [勝田]もっと処理を重ねてみましょうか。 [永井]電気泳動的にみて、変化は全体的なものですか。それとも一部の細胞が悪性化しているのですか。 [山田]バラツキはありますが、全体的に変わっているようですね。 [乾 ]NGの濃度についてですが、ハムスターを使っての私の実験では1μg/mlは薄すぎるようで変異を起こしませんでした。高木班員のデータはラッテでその濃度で変異していますね。動物によって違うのでしょうか。 [堀川]黒木班員はsurvivalを落とす事が悪性化に必要だと考えておられますか。 [黒木]必要だと思います。毒性と発癌性との関係はdose response curveが平行しないという例のあることから、機構の上では違うのだろうと思いますが、survivalを落とす位の毒性を示す濃度でないと悪性化しないことが多いですね。 [勝田]毒性に関しては実験のやり方が少し無神経な所がありますね。4NQOはphoto-dynamic actionがあるのに電灯の下で仕事をしたりしていますからね。 [堀川]そういう時はナトリウムランプでも使えばよいでしょうね。少し話題が変わりますが、悪性化したハムスターの細胞の再培養系からC型ウィルスが見つかったというDr.Hueberの論文についてどう考えますか。 [勝田]発癌そのものとウィルスと関係があるかどうか判りませんね。 [黒木]人間の癌にも応用しようとしているようですが、癌ウィルスだという同定もしていないし、少し強引ですね。 [勝田]癌化するとC型ウィルスに感染しやすくなるとも考えられます。
《梅田報告》
:質疑応答:[堀川]24hrたっても回復していないのがありましたが、どういう事でしょうか。[勝田]死んでしまったのではありませんか。 [梅田]そういう事らしいです。 [安藤]細胞によってDNAの切れ方や回復が違うというためには、矢張りgrowth curveをとって同じ位のcytotoxicityのdoseで比較しなくてはいけませんね。 [堀川]ハムスターとマウスでは放射線に対する感受性が異なるという説は、あまり鵜呑みにしない方がよいと思います。X線では違いがないようです。UVの場合は回復の機構は違うようです。マウスはrecombination repair型といわれています。ヒトはexcision repairで、ハムスターはマウスとは異なり、ヒトと同じか又は別の回復機構があるのかも知れませんが、感受性には大きな差はないと考えられます。 [安藤]マウスはunscheduledDNA合成が少ないという論文もありますね。 [堀川]H3-TdRの取り込みのautoradiographyでunscheduledDNA合成を調べてみかすと、マウスは短時間の露光ではgrainが見られません。ヒトの場合は短時間の露光でgrainが見られます。同じ条件でgrainが全く見られないのがxeroderma pigmentosumの例です。 [乾 ]autoradiographyの原理的なことですが、1週間の露光では出ないgrainが1カ月露光すれば出てくるということがあるのでしょうか。 [堀川]autoradiographyの感度は低いので、1 hitでgrain1コになるとは考えられません。複数のhitでやっと1コのgrainになると考えられます。 [安藤]すると1コのgrainといってもdiffuseなspotだという訳ですね。 [藤井]grain1コが取り込まれた物質の何分子から出来ているかは計算できると思いますが・・・。 [堀川]計算は出来ますが、正確に対応していないと思いますから、autoradiographyは定量的というより定性的なものですね。 [下条]本題にもどって、ハムスターとマウスという動物の違いより株と初代培養のとか細胞の条件の違いとは考えられませんか。 [梅田]私の実験からは矢張り動物の違いによるものだと考えたいのです。ハムスターの場合、初代培養と長期間培養したものと両方調べて見ましたが、全く同じ傾向でした。 [勝田]なかなか面白い話だと思いますから、十分地固めをして進めてください。
《安藤報告》4NQOによる連結蛋白の切断に対するProtease inhibitorの効果LP3、FM3A等の細胞を4NQO処理を行うとDNAを連結していると思われるいわゆる連結蛋白質は切断される。それでは一体、この蛋白部分の切断はどのような機構で起っているのであろうか。二つの可能性がある。すなわち(1)4NQOの代謝産物が何らかの反応の機構によって蛋白の不安定な部分(例えばS-S)を切断する。(2)4NQO代謝産物が細胞内蛋白分解酵素を活性化し、その酵素が連結蛋白を切断する。これ等の可能性をcheckするために種々のprotease inhibitorの効果を調べてみた。 調べたinhibitorはchymostatin(C)、leupeptine(L)、pepstatin(P)であり、いずれも微化研の青柳氏が分離同定したものである。Cはchymotrypsinを、Lはtrypsin、papainを、Pはpepsinをそれぞれ0.01〜0.5μg/mlで特異的に抑制する。 先ずこれ等の阻害剤の混合物のFM3A細胞の生長に及ぼす効果を調べた。(図を呈示)DMSO自体わずかに生長阻害効果を示した。しかし阻害剤の効果は見られなかった。 次にこれ等の阻害剤(I)の存在下に4NQO処理を行った時に二重鎖DNAのS値の低下の有無を調べた。Iの前処理は2、5、16時間行い、4NQO 10-6乗M30分処理を行った。結果は(図を呈示)阻害剤前処理の効果は全く見られなかった。すなわち阻害剤2時間、5時間処理後の4NQO処理のパターンはDMSOのみのコントロールパターンと同じであった。更に16時間に延長しても差は見出されなかった。したがって明確な結論はえられなかったが、一応阻害剤が細胞内にとりこまれるとすれば、この結果が示唆するところは、「4NQOによる連結蛋白の切断は細胞内酵素の活性化によるのではなく、4NQOの細胞内代謝産物による直接作用である」という事になる。更にこの点に関してはXeroderma pigmentosum細胞を使用して検討するつもりである。
:質疑応答:[梅田]4NQOがライソゾームを不活化するとは考えられませんか。[安藤]わかりませんね。 [梅田]ライソゾームの阻害剤など添加してみるとどうでしょうか。 [安藤]やってみます。 [勝田]一番重要な問題はDNAの切断、そして回復時のミスリペアは癌化とどういう関係があるのかという事です。 [安藤]色素性乾皮症の細胞の場合はリペアが全く無いのに悪性化しますね。 [黒木]そうですね。高野さんの話でも正常なヒト細胞で出来なかった悪性化が色素性乾皮症の細胞を使ったらうまくいったという事でした。 [堀川]色素性乾皮症の細胞にはDNAウィルスがいるのではないかという話もあります。 [安藤]色素性乾皮症細胞はSV40にも感受性が高くて発癌しやすいそうですね。 [堀川]そしてO型の人に多いですね。 [梅田]リペアがおそいという事がウィルスが入り易い条件になっているのではないでしょうか。ハムスターは色素性乾皮症と似た性質があるのではないかと考えています。 [堀川]種が違うと色々異なることも多くて複雑になります。色素性乾皮症を使う時は対照にヒト細胞を使わないとだめでしょうね。しかしヒト細胞は悪性化の決め手がないという事が困ります。 [梅田]一本鎖切断の場合SV40のDNAのような大きいDNA分子が入り得るのでしょうか。 [下条]10の6乗分子量位はいっています。 [堀川]ウィルスの全分子がはいる必要はないのでしょうか。
《高木報告》RRLC-11細胞の放出する毒性物質の分劃: 先に行った実験でRRLC-11細胞の放出する毒性物質は限外濾過の外液にでることが確認された。すなわち(図を呈示)RRLC-11細胞の培養液の限外濾過外液は、培養液そのものと全く同じ程度にRFLC-3細胞の増殖を抑制した。従ってこの毒性物質の分劃を試みるにあたり、まず限外濾過外液を試料として用いることとした。すなわち集めた培地をまず7,000〜8,000rpm、20分遠沈後その上清30mlをpore size 24Åのvisking tubeに入れて限外濾過を行い、外液25mlを得た時点でこれを中止し、その20mlを試料として用いた。外液の一部5mlはmillipore filterで滅菌後RFLC-5細胞に入れてCytotoxicityをみたが、この実験では対照が4日間に8倍以上の増殖を示したのに対して外液を加えたものはでは約5倍の増殖を示し、やや抑制がみられたが上記実験のように完全な抑制はみとめられなかった。しかし兎も角この外液を用いて実験をすすめた訳である。実験条件は、Sephadex G25、45x270mmのcolumn、溶出液として0.005Mphosphate buffer(pH 7.2)、flow rateは72ml/hr、10ml/tubeで4℃で行われた。 10%AgNO3と2N HNO3でCl-をcheckしたが、これは39本−51本にわたって認められた。そこで39本までを5つのfractionに分けて凍結乾燥し、その各々を5mlのphosphate bufferにとかしてRFLC-3細胞に対する毒性効果をみたが、この際各fractionの培地に入れる濃度は10%とした。結果は(図を呈示)分劃IIIに可成の増殖抑制が認められた。しかし、II、IV、Vにもわずかながら抑制効果がみられるようである。 この際用いた外液では全く増殖抑制効果はみられなかった。この外液を培地に加える濃度のみは20%としているので、この場合、時日の経過、凍結→融解・・の操作中の不活性化が考えられる。この点検討中である。また限外濾過しない培養液そのものについても同じくcolumnを用いた分離を試みている。実験条件は上記と全く同様であるが得られた100本(1l)についてO.D.280mμで吸収曲線を調べたところ19本から29本にわたり、21本目をpeakとした吸収が認められた。またわずかながら35〜59本および77〜97本にわたっても吸収が認められた。Cl-はこの場合38本〜51本の間にみとめることが出来た。そこで一応38本までを5つのfractionに分けたが、その中蛋白が出ていると思われる19〜25を1groupとし、園前後を各々2つに分けた訳である。この結果については後日報告する。RRLC-11細胞培養液を分劃したものについての吸収曲線、RRLC-11細胞と数種の細胞との混合培養のスライドにつき供覧する。
:質疑応答:[永井]Sephadex分劃は一度最後まで分劃して全体を調べておく必要がありますね。[勝田]私達の実験では、肝癌は正常肝細胞、肉腫はセンイ芽細胞という組み合わせで作用があります。高木班員のは何故肉腫と肝細胞を組み合わせたのでしょうか。 [高木]始めは肉腫とセンイ芽細胞の組合わせで実験していました。今回のは肝細胞に対して調べてみました。物が不安定なのと検査する細胞の感受性が変るのが困ります。 [勝田]私達のデータでAH-7974の出す毒性はラッテにtakeされない肝細胞に対しては毒性があるが、takeされるようになった肝細胞はやっつけないということがあります。 [梅田]免疫学的な意味で生体で試みると、より強く差が出るのではないでしょうか。 [勝田]まさにそれをやりたいと思っています。
《山田報告》ConcanavalinAの反応機序:悪性腫瘍に特異的に凝集作用を起こすと云われるこの物質の作用機序については、多糖類マンノースに特異的に反応すると云う知見以外は細胞凝集についての解明がない。しかもその作用する分子レベルでの知見と、肉眼的レベルでの凝集と云う知見が直結している所に、この反応の弱点がある。 そこでこの反応の作用機序について昨年暮より検索してみた実験結果を綜合して考案し、この凝集反応の機序についての仮説的な説明を試みてみたい。(以下各々図を呈示) 前報に報告したごとく、微量のConcanavalinA(以下Conc.Aと省略)を細胞(ラット腹水肝癌)に混合すると、一過性に、その表面荷電密度が高くなる。より濃い濃度のConc.Aを作用させると、かえって減少する。これは明らかに、Conc.Aを介してイオン結合による細胞の凝集反応ではない。プロタミン-Sなどの陽イオンを細胞と混合すると、直ちに吸着されて、その細胞の表面荷電密度は低下して凝集が起り、決して細胞の表面荷電密度の上昇はみられない。 またノイラミニダーゼ感受性の高い細胞はより微量のConc.Aで荷電の上昇がみられる。(この現象が悪性細胞と特異的に凝集すると云う報告と関係があると思われる。勿論悪性細胞に特異的に凝集するとは思われない。) しかも、あらかじめノイラミニダーゼ処理した細胞はより微量のConc.Aと凝集し、荷電の上昇もより微量で起こる。 Conc.Aを結合させた細胞に二次的にノイラミニダーゼ作用させると、あらかじめConc.Aにより細胞表面荷電の上昇した状態では著しくノイラミニダーゼ感受性が高まり、高濃度のConc.Aにより荷電密度の低下した状態ではノイラミニダーゼの感受性が著しく低い。しかもこの状態では、細胞表面は形態学的にみられる程に変化を生じ一部破壊していると思われる。 この結果は、細胞最表面におけるシアル酸(N-acethyl-neuraminidase)の荷電の空間的位置の状態と、Conc.Aの凝集作用が著しく関係があるものと考へる証拠を提出している。 細胞表面における糖蛋白の分子配列は勿論充分解明されていないが、従来の報告を綜合すると(図示)略々推定されている(勿論これは極めて単純化したもので、これ以外の糖類や糖脂質が実際は介在する)。この糖蛋白の構成成分中荷電をもつものはシアル酸のカルボキシ基しかなく、しかも最末端に存在する。そしてGalactose→N-acethyl-glucose→Mannose(二分子)→N-acethyl-glucoseを経て、更に幾つかの多糖類が続き(この部分はなほ不明)、最後にポリペプチドのアスパラギン酸に結合していると考へられる。更にmannoseの末端に不全糖鎖がGlc.NAC→gal.或いはGlc.NACが結合している。 この糖蛋白の分子配列から考へると、より深部にあるMannoseにConc.Aが結合するためには、末端のシアル酸が干渉する可能性がある。文学的表現を借りれば、林立するシアル酸分子をかきわけてConc.Aが入りこむと云うことになる。しかし一方末端のシアル酸がすべて表面に露出しているとは限らず、また周囲の物質によりマスクされている可能性がある。(模式図を呈示)。微量のConc.Aがより深部のMannoseと結合することにより、末端のシアル酸が露出して来て、より表面における密度が高くなると考へれば、Conc.Aによる細胞表面荷電密度の増加が良く理解される。多量のConc.Aが結合する場合には、これらの分子配列の変化と同時にConc.Aの吸着による表面のマスクにより荷電が低下し、物質の喪失も考へられる。しかし、多量のConc.Aを作用させた細胞浮遊液の上澄には、荷電物質の遊離していることを証明出来ない。(上澄中の荷電物質をコロイド滴定法により測定したが、使用した細胞量が少なかったので測定出来ないのかもしれない) Conc.Aによる凝集はこの細胞表面の荷電密度が増加する状態では明らかでない。荷電を低下させる程の高濃度で明らかに凝集が起こる。このことは、この凝集は荷電の低下に伴う非物理的な現象の可能性が強く、ただ荷電を低下させる濃度が細胞により異るために一見特異的凝集と見える可能性がある。 なほこの凝集反応は、d-mannoseやα-methylglucosidを作用させると消失するとの報告があるが、細胞表面荷電の変化も、これらの物質により抑制される。しかも少量のConc.Aを作用させて、細胞表面荷電を上昇させた後α-methylglucosidに反応させて、表面荷電を低下させると、ノイラミニダーゼに対する感受性が低下する。このことは一度細胞表面のmannoseと結合したConc.Aがこのinhibitorによって除かれる際にシアル酸の位置の変化、或いは喪失が起るのかもしれない。 更にくわしく調べるにはラベルしたglucosamineをあらかじめ細胞表面にとりこませて実験する必要があるかもしれない。
:質疑応答:[勝田]ノイラミニダーゼを作用させた時、出てきたシアル酸は定量できますか。[山田]ノイラミニダーゼ作用の場合のシアル酸は定量加納です。ConAの場合もシアル酸が出ているのかどうか、これから調べてみます。ConAを使うことで今まではっきりしなかったシアル酸の位置や糖の事など解明できるのではないかと希望をもっています。 [黒木]温度は何度で作用させていますか。 [山田]37℃で10分間の作用です。 [黒木]ConAの作用は温度にも問題があるようですから、少し低温も調べてみるとよいと思います。
《堀川報告》前報ではアルカリ性蔗糖勾配遠心法による一本鎖DNAの分析の際に蔗糖勾配上にあるlysis溶液中で、細胞をlysisする時間が長くなれば長くなる程、一本鎖DNAは低分子化されることを示した。つまり、こうした結果は、一本鎖DNA中にはアルカリに対して不安定な部分のあることを示すものであると結論した。今回は、従来二本鎖DNAの解析に用いるSDS法でも、同様の結果がみられるか否かについて、行った実験結果について報告する。 あらかじめH3-TdRでlabelした細胞を5〜20%中性蔗糖勾配上にのせた2%SDS溶液中で種々の時間lysisさせ、しかる後、同一条件下で超遠心して得られたsedimentation profile(図を呈示)から、SDS溶液中でのlysis時間と二本鎖DNAの低分子化は無関係であることがわかる。つまり、二本鎖DNAのsizeはSDS溶液中でのlysis時間を長くしても殆んど影響をうけないものと考えられる。このことは、ひいては、SDS溶液中にpronaseやtrypsinを加えた時に生じた二本鎖DNAの低分子化は、それらによる直接のenzymatic actionnによったものであることを、あらためて支持するものである。 一方、培養細胞は、その細胞周期を通じてX線に対し異なった感受性を示すことが発見されて以来久しいが、未だこうした周期的感受性差を生じさせる要因の本体を解明するには到っていない。私共はこうしたX線に対する周期的感受性差ひいては紫外線、化学発癌剤4-NQOに対する周期的感受性差の原因を解明するため、従来Terasima等によって開発された採集法を改良することにより、培養細胞のための新しい同調培養法を確立した。つまり0.025μg/ml colcemidで6時間細胞を処理し、M期で止められている細胞を採集法で、大量に集めようというのである。この方法によれば一度に大量の細胞が得られるばかりか、集められた細胞は生理的にも生化学的にも、殆んど障害をうけていないことが証明された。さて、このようにして得られた同調HeLaS3細胞における細胞周期を通じてのX線、紫外線、4-NQOに対する感受性の違いは、(表を呈示)HeLaS3細胞は細胞周期を通じて3者に対して、まったく異なった感受性を示すようにみえる。(あるいは4-NQOの周期的感受性曲線は紫外線のそれと本質的には同じものかもしれないが、この点については一応予備実験の結果としてみていただきたい。後続の実験結果が出て来次第、はっきりした結論は出ると思われる。)いづれにしてもこうした化学発癌剤4-NQO、X線あるいは紫外線に対する細胞の周期的感受性曲線の本体を解析することは、私共の別の実験系、HeLaS3細胞から分離したUV-感受性細胞を用いての発癌実験と共に、今後細胞のDNA障害の修復能と発癌との関連性を解析してゆくうえに重要なものとなろう。
:質疑応答:[勝田]発癌実験にHeLaを使うのは一寸どうかと思いますね。[堀川]復元実験にも困りますね。 [勝田]兎の前眼房に入れればtumorを作ります。 [乾 ]スポンジ培養をすると組織像で悪性度が多少わかるのではないでしょうか。 [堀川]Lではexcision repairがなくHeLaとは根本的に違うので、何とか人の細胞を使ってUVと4-NQOの作用機作を較べてみたいのですが・・・。 [勝田]アミノ酸としてリジンを使ったのは何か理由がありますか。 [堀川]妥当だろうといった所です。 [山田]synchronizeにcolcemidを使うのは、他にも発表されているのでは・・・。 [堀川]しっかりした基礎データがなかったのです。 [黒木]synchronous cultureというのは全く労力的に大変な仕事ですね。
《佐藤報告》DAB代謝に関する検討培地中のDABは培養肝細胞によって代謝されるが、発癌に関与する代謝のみの検討は仲々困難である。そこで(図を呈示)標識DABをつくり、月報7112、7201の如き処置を行った。Autoradiographyの取り扱ひ方そのものに未だ問題がのこっているようであるが、このような実験を開始したのは以下の理由による。(1)培養細胞を利用して発癌の機構を検討する場合、特にDAB発癌では投与されたDABの内極めて少量のものが、発癌に関係しているように思われる。(2)DABは蓄積的に作用すると考えられる。したがって細胞単位でこれをDABの作用として認めるためには個々の細胞への蓄積効果乃至蓄積反応をつかまえなければならない。(3)その概観を得た上で化学的に分析したい。 (図を呈示)アセトン洗滌をした場合としなかった場合のgrain数の差である。アセトンでアルブミン等の血清蛋白と結合したDABが除去された結果が見られる。
:質疑応答:[堀川]バックグランドがどの程度かを先ずはっきりさせてほしいですね。[佐藤]細胞の無いところで数えて細胞相当の面積当たりで13コ位でした。 [堀川]少し多すぎますね。 [黒木]TCAではfreeのDABが抽出されないのではありませんか。 [佐藤]色でみていると抽出されてくるようです。 [乾 ]TCAで固定というのは大丈夫でしょうか。 [堀川]TCAだけでは固定になりません。あとアルコールできっかり固定しなくては。比活性が高いのもバックグランドを多くする原因の一つでしょうね。 [乾 ]ラベルした発癌剤を使ってのAutoradiographyはとても難しいですね。私もバックグランドをきちんと出す事などに随分神経を使っています。 [勝田]この実験で何を狙っているのですか。 [佐藤]細胞内に結合したDABの動態を個々の細胞で追ってみたいのです。 [勝田]長期間追ってゆくとH3の行方を追うことになりませんか。分劃して液体シンチレーションにかけてみたらどうですか。 [佐藤]それでは細胞個々ではなくて平均値になってしまいます。 [黒木]細胞分劃にした方が、事がはっきりすると思いますがね。 [安藤]これだけ比活性が高いのですから、きれいに出るでしょう。 [佐藤]しかし、個々にみるとDABが蓄積される細胞もあり、分裂して減るものもあるというのを、グレイン数で表現したいのです。 [勝田]細胞質の或る部分にグレインが集まっていたりすると、二分したとき片方だけにグレインが受け継がれるという事もあり得ますね。 [佐藤]発癌というのは沢山の細胞の中から或る少数のものが悪性化してゆくのではないかと考えています。それを形態的に追跡してはっきりさせたいのです。 [堀川]矢張りH3ラベルのDABが特異的に細胞の中に入っているのかどうかを基礎がためするべきですね。それから細胞分劃もしてみた方がよいですね。 [安藤]再培養系はどうですか。 [佐藤]グレイン数の多い方へピークが移ります。 [安藤]タイムコースを取るのも必要なことですね。 [佐藤]コロニーレベルで処理すれば取込みの多いコロニーは判然とするでしょうね。 [堀川]その取込みの多いコロニーが悪性だと言えるならよいのですがね。
《黒木報告》Cyclic AMPの受容蛋白(CRP)について(1)先月号の月報に書いたように、いくつかのprojectsのもとに研究をすすめているが、現在までにdataが得られているのはCyclic AMP receptor protein(CRP)に関するdataのみである。Contact inhibitionのmediatorとしてのCyclic AMP、それを受取りtranscriptionに調節効果を与えるものとしてのCRPを考えている訳で、培養細胞にいく前に、どうしてもCRPをpurifyする必要がある。E.ColiではCRPが分離精製され、pH 9.12に等電点をもつ、分子量22,000のsubunitから成るdimerであることが明らかにされている(Anderson et al,JBC,246,5929,1971)。これはh.proteinと非常によく似ている。しかし、動物細胞では、その存在がDEAE-cellulose chromatographyで明らかにされていても、まだ十分には分離精製されていない。主な興味はprotein kinaseの調節機構にあるようで、それに関するpaperは最近号のJBC、BBRC、PNASなどを開けば必ずといってもよいくらい載っている。それは次の式で表される。PK・CRP(inactive)+CAMP→ATP Mg++←PK(active)+CRP-CAMP
|
材料: | ラット(JAR)肝homogenate |
buffer: | 10mM Tris-HCl pH7.4、5mM MgCl2、5mM Z-mercaptoethanol |
CRPのassay法: | CRP・CAMPの結合はcovalentでないので、TCA ppt法などは用いられない。文献的にはMillipore filterに吸着させる方法、equilib、dialysis、Diaflow membraneに吸着させる方法などがあるが、ここでは小さなSephadex G-25を用いた。Columnの大きさは9x60mm、0.2mlのReaction mixtureに10mg/mlのdextran blueとphenol redのmixtureを1drop加えcolumnを通すると、高分子fractionはdextran blueとともにvoid volumeのところに出てくる。1sampleの所要時間は1〜2分、約10分洗うとphenol red(分子量はCAMPとほぼ同じ)の色が完全に消失する。 Reaction mixtureは0.1mlの下記bufferと0.1mlのprotein solu.。10mM Tris-HCl pH7.4、3mM MgCl2、5mM Z-mercaptoethanol、6mM theophylline、0.5μM CAMP[8-3乗H](1Ci/mmole、0.5μCi/ml)。Reactionは0℃、20分間。 |
[3T3細胞のtransformation] Aaronsonから得たBalb3T3と井川君(NCl)から得たBalb3T3を用いてDMBAによるtransformationを検討中である。3T3をcontact inhibitedの状態で継代するのはむつかしく、特に血清が重要である。まだtransformationは得られていない。
:質疑応答:[勝田]Contact inhibitionの定義がだんだん曖昧になっていますね。3T3のような細胞が特殊なのであって、大部分の細胞はcontact inhibitionはかからないのではないでしょうか。[堀川]Eagleが最近pHのことをさかんに問題にしていますが、そのpHによるregulationをみると血清以外にもfactorがあるようですね。 [黒木]Contact inhibitionをsaturation sensitivityとするとdensity dependentな問題になります。これがserum factorに対する反応と考えると栄養要求の問題になるわけですね。 [山田]Contact inhibitionの定義はlocomotion、growth、overlayの三つがあげられると思います。 [勝田]3T3を使う理由は悪性コロニーを検出しやすいからですか。 [黒木]そうです。定量化できますから。 [佐藤]3T3の処理前のものの腫瘍性をチェックしてありますか。もしtakeされるのなら、発癌実験として意味がないと思います。
|