【勝田班月報:7206:培養細胞のALP誘導】《勝田報告》
:質疑応答:[吉田]復元実験には色々問題があるのですね。接種後1年間も生体内で何をしているのでしょうか。[乾 ]ハムスター頬袋などは割合早くに判定できますが、腫瘍死しませんしね。 [高木]腫瘍死であるという判定はどうみていますか。転移はありましたか。 [勝田]これらの系では死亡時にはたっぷり腹水が溜まっていますから、腫瘍死といって差し支えないと思います。転移はみられません。 [高木]RPL-1にニトロソグアニジンをかけた場合、初期には死ぬ細胞が少ないようですが、90日後には形態変化がみられるのですね。 [乾 ]やはりラッテの肝細胞を使った実験で、3週間培地を変えずに培養していたら、形態的変異を起こし、それはcon.Aで凝集するようになったという論文がありました。 [勝田]RPL-1の実験では、培地は週に2回更新しています。 [黒木]3週間も培地を変えずにいると死ぬ細胞もあるだろうし、培地条件もいろいろと変わるだろうし、何が起こっているか解析できないでしょう。 [山田]アメリカでは形態変化だけで悪性化を判定するのでしょうか。 [吉田]合成培地系のAH-7974(JTC-16・P3)の染色体のモードが2倍体近くに変わったというのは面白いですね。 [梅田]糖代謝は変わっていませんか。
《山田報告》(先月号記載を改めて説明)培養学会の“細胞の変異と表層膜の関連性について”の特定演題に応募した都合上、ConcanavalinAの作用について、培養細胞を用いて検索してみました。(表を呈示)ラット培養肝癌細胞であるJTC-16(AH-7974)は、5μg/mlの低濃度のConc.Aを加へると、著しくその電気泳動度は上昇し、20μg/ml以上の濃度のConc.Aにより低下し、biphasicな反応を示しました。凝集は20μg/mlの濃度のConc.Aでやや起こり、100μg/mlの濃度で完全に起りました。 これに対しなぎさ培養株JTC-25は100μg/mlのConc.Aでも著明な凝集は起りませんが、その電気泳動度をしらべると、やはりbiphasicな変化を示しました。しかし、その泳動度の上昇する濃度は20μg/mlであり、その上昇率は、低い様です。 これらの変化は腹水肝癌細胞について検索した結果(No.7207)と同一です。さらに良性、悪性細胞を対比して検索してみたいと思います。
:質疑応答:[乾 ]4NQOで処理した後、2週間位では泳動度はどうでしょうか。もう無処理のものとは変わっていますか。[山田]処理後2〜3週間位で一度変わりますね。そして何か色々な細胞が出てきている感じですね。それから一度はポピュレーションチェンジがあるようで、3カ月位たつと大体落ち着いて悪性型になるというのが普通の経過です。 [乾 ]一つの培養系の中では、それはかなり定着した経過ですか。 [山田]RLC-10系では大体そういう経過を辿るようですね。 [黒木]Con.A処理の実験ですか、このやり方だとcon.Aで凝集しない細胞の電気泳動度しか測定できないことになりますね。低温で処理するとかモノバレントのcon.Aを使うとかすれば、con.Aが結合しても細胞の凝集はない訳ですから、もっと幅広くし調べられるのではありませんか。 [山田]本当にきれいにモノバレントに出来るなら使ってみたいですね。自分として面白いと思っていますのは、泳動度がcon.A処理によって一過性に上がるということです。細胞膜の仕事にシアルダーゼ処理だけでなくこのcon.A処理の方法も平行して使ってゆきたいと考えています。 [藤井]抗血清をγグロブリンか、又19S抗体に精製して、定量的に泳動度を出すことが出来ますか。 [山田]定量的にやれます。 [勝田]In vitroで悪性化した細胞を動物へ復元しても腫瘍死するまでに1年もかかるというのは、抗原性の変化ということも考えられますね。 [藤井]始めに接種した細胞と、動物の中で増殖した細胞の再培養系との抗原性の違いなら、私のやっている幼若化の方法で調べられると思います。
《黒木報告》[BALB3T3細胞を用いたTransformation]月報7204にBALB3T3にDMBAを添加してTransformationの得られたことを報告した。その後この細胞の二つのcloneによるTransformationの成績を得たのでもう一度まとめて、定量的な成績を示す。 (transfromationとcytotoxicity testsのcheduleの図を呈示)60mm Falcon dishに1〜5万個cellsをplateし翌日DMBAを添加する(細く云えば、最初は3mlの培地を加え、翌日発癌剤を含む培地を2ml加える)。48時間後に培地交換、以後transformation expは3/wの培地交換(4ml/dish)をしながら4〜6週間培養する。通常screeningの意味でDMBA 1.0μg/ml、4.0μg/ml、DMSO 0.5%の三群をおく。各群、各10枚のシャーレを用いた。 Cytotoxicity testは200ケの細胞をまき、翌日同様に1.0μg/ml、4.0μg/mlのDMBAを添加、48時間後培地交換し、2週間培養後コロニー数をcountする。その他、
培地:MEM plus 10%CS 発がん剤:Eastman Kodak DMBA、TLCでpurityはcheckずみ DMSO:ドータイド スペクトロゾール(和光純薬)(表と図を呈示)clone間にtransformat.及びDMBAのcytotoxic effectに対する感受性の差がみられた。すなはちWild BALB3T3及びclone#1はほぼ同じ程度のcytotoxicity及びtransformation感受性を有するのに対し、clone#2は、wild及びclone#1より、はるかに感受性である。興味があるのは、どの細胞でも、ある程度細胞傷害性の現れるような濃度でtransformation率も上昇し(wildの2.0μg/ml、clone#1の4.0μg)、しかし細胞傷害性の著しい濃度例えばclone#2の4.0μgではtransformation率も低下する。最高のtransformation率は、50%前後に細胞傷害の現れる濃度のように思える(clone#2の1μg/ml)。 現在他のいくつかのclone、C1-#4、#5、#11、#13などで実験がすすめられている。同時にCl-#2の再現性、MCA、pyrene(非発がん性)によるtransformation assayも進行中。 これらのtransformed fociからtrypsin-filter paper法でfociをいくつかisolateした。目下、saturation density、Agglutinability by ConAなどテスト中。saturation densityはDMSO処置controlの2-4倍に上昇している。 この他、FM3Aのreplica培養(先月号月報)について報告した。
:質疑応答:[吉田]BALB3T3は染色体に特色がありますか。[黒木]染色体はまだ調べていません。復元実験も今計画中です。 [吉田]DMBAという発癌剤は面白いですね。ラッテに投与して白血病を起こさせると、染色体上でC1トリソミーを作るのです。何かラッテの培養細胞に作用させてみると面白いと思います。 [勝田]化学発癌剤で染色体に一定の決まった変化を起こさせる物は少ないですね。 [黒木]C粒子の問題もやらなくてはと考えています。それからCon.A処理では30分間37℃で振るとBALB3T3の無処理のものでも凝集してしまうので、もっと時間との関係もきちんと調べなくてはなりませんね。 [乾 ]Con.Aも+、++、+++では矢張り主観的ですね。
《野瀬報告》培養細胞のAlkaline phosphataseIの活性誘導:Alkaline phosphatase(以下ALPと略)は細胞をdibutyryl cAMPとtheophyllinと共に培養すると著しい活性上昇が見られた。合成培地で継代しているJTC-25・P5、L・P3の細胞について調べたが活性上昇が見られたのはJTC-25・P5であった。この株からcolonial clonesを6株とり、それぞれの誘導性を見た。(図を呈示)ALP.I活性は細胞をそれぞれの薬剤で4日間、37℃で処理した後測定した。Cloneにより誘導性のあるものとないものがあることがわかった。ALP-IIはALP-Iと違ってdibutyryl cAMPによっては誘導されなかった。また、butyryl基で置換されていないcAMPは1.5mM(+Theophyllin 1mM)の濃度で細胞に加えてもALP.Iの活性に全く変化を与えなかった。 次にdibutyryl cAMP、theophyllinの濃度を変えてALP.Iの変化を見た。用いた細胞は上でとったClone1である。それぞれの薬剤濃度に対してほぼ直線的にALP-Iの活性は上昇する。活性上昇の時間的経過は、1〜2日のlagの後に見られ8〜9日でほぼplateauに達した。この時の実験はtheophyllin 1mM、dibutyryl cAMP 0.25mMで行った。 このALP-Iの活性誘導の機構を知る第1歩として各種阻害剤の影響をみた。(表を呈示)JTC-25・P5 Clone1細胞を1mMのtheophyllin、0.25mMのdibutyryl cAMPで37℃、4日間処理し、この間、各種阻害剤を加え、ALP-Iの活性を測定した。タンパク、又はRNA合成を阻害すると誘導は抑制され、DNA合成を阻害してもほとんど影響はなかった。また、microtubulesの形成を阻害し、細胞の伸長を阻害するcolchicineもALP-Iの活性誘導にはほとんど阻害効果を持たなかった。これらの結果からdibutyryl cAMPによるALP-Iの活性誘導には、何らかの形でde novoのRNA、タンパク合成が必須であると言える。阻害剤として、4-NQO(10-6乗M、3x10-6乗M)、cytochalasinB(2μg/ml)なども加えてみたが、いずれも誘導には影響なかった。 Cloneによって誘導性の異なる原因として、第1に加えたdibutyryl cAMPが分解されるか、細胞内にとりこまれないかの問題が考えられる。H3-dibutyryl cAMPをALP-I誘導性のJTC-25・P5 Clone1とL・P3の培養液中に加え、37℃4日間incubateした後、薄層クロマトで見ると、どちらの細胞の場合もH3-dibutyryl cAMPは分解していなかった。一方H3-cAMPはどちらの場合もほぼ完全にAMPに分解していた。細胞内へのとりこみは現在検討中である。
:質疑応答:[佐藤茂]ラット肝にはタイプIもIIもあるのですね。IだけとかIIだけとかの臓器はありませんか。[野瀬]あまり多くの臓器について調べた訳ではありませんが、Iが非常に強いものはありました。 [勝田]酵素活性の至適pHの違いは、その酵素の存在場所のpHの違いを示しているとは考えられませんか。 [野瀬]どうでしょうか。活性をみるのはin vitroでやっているので、必ずしも生体内の条件と一致しているかどうか。 [山田]それにしてもこういう酵素活性をin vitroでみる時、生理的とはとても考えられない条件で働くのはどういう事なのでしょう。 [勝田]活性のベースが0でなく、トレース程度にあった時でも活性が上昇すれば誘導といってもいいのでしょうか。 [野瀬]酵素活性の誘導の実験は菌を使って始められたのですが、その初めての実験でもトレース程度の活性から上昇させてInductionという言葉が使われていました。 [黒木・乾]言葉としての定義は別として、こういう場合にInductionというのは、ごく一般的に使われていますね。 [佐藤茂]マスクが外れるのはactivationですね。 [黒木]アクチノマイシンDとサイクロヘキシミドの作用の効果は可逆的ですか。細胞系での実験では与えた物質の毒性がからんでくる心配があると思いますが。 [野瀬]この系ではアラビノCのように毒性はあるが、活性誘導を起す物質もあります。 [勝田]細胞の分劃法を改良して、もっと活性が集中した分劃をとれませんか。 [野瀬]そうですね。今の分劃法ではどの分劃にも細胞膜が少し入ってしまいますので、そこを改良するとはっきりするかも知れません。 [勝田]ところで、癌との関係は・・・。 [佐藤茂]悪性細胞はタイプIを持っているという可能性がありそうですね。 [野瀬]そこに希望をつないています。黒木班員の3T3の腫瘍性のある系、ない系などについても調べてみたいと思っています。 [山田]機能に関係があるとすると、むしろ癌では非常に乱れて色々な結果が出るのではないかと思いますよ。 [梅田]前立腺とか骨について調べましたか。 [野瀬]まだ調べていません。 [佐藤二]肝由来の細胞系の間に違いがありますか。 [勝田]なぎさ変異のJTC-25・P3とJTC-21・P3は違います。 [野瀬]同じ系でも動物継代のAH-7974はタイプIが低いのに、培養株になったAH-7974(JTC-16)はタイプIが大変高いという違いがあります。 [吉田]染色体の分析が進むと、どの染色体にその酵素を活性化する遺伝子が乗っているか判る筈ですね。 [勝田]IとIIが同じ染色体上にあるのかどうか興味がありますね。 [佐藤二]培養の経過を追って調べてみる必要もありますね。 [黒木]cAMPの場合の問題と、活性化までの経過の分析はやれますか。 [野瀬]計画しています。
《高木報告》培養内悪性化の示標について:培養内悪性化の示標としてMacPherson & Montagnierのsoft agar法をchemical carcinogenesisにも応用すべく検討して来た。しかしこれまでに用いた培地、MEM+10%CS・0.33%agarでは悪性化した細胞のみ撰択的にsoft agar内に増殖せしめることが出来ず、ただcolony forming efficiencyの高い細胞を拾うことは可能であった。 培地組成を考慮すればsoft agarも未だ“示標”として用いうる可能性も残っているのではないかと考え、今回はTodaroらの云うserum factorを血清から除いて検討してみた。Serum factor free血清の作り方はcolumnによる方法、Cohnのアルコール沈澱法、硫安による沈澱法など種々あるが、さしあたり最も簡単な硫安1/3および1/2飽和による除去を試みた訳である。 月報7203の如く硫安1/3飽和によりserum factorを除いた血清(1/3飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地で“正常”細胞RFLC-5と腫瘍細胞RRLC-11を培養2日目にrefeedし、4日後これらの細胞数を算定したところRFLC-5は殆んど増殖を示さなかったのに対し、RRLC-11細胞は対照と変らぬ増殖を示した。 次いで硫安1/2飽和でserum factorを除いた血清(1/2飽和血清と略)を5%の割にMEMに加えた培地を同様に両細胞に作用せしめたところいずれの細胞も増殖が著しく抑制されたが、その程度はRFLC-5細胞の方が大であった(図を呈示)。同時に行った1/3飽和血清については前回の実験(月報7203)と同様の傾向がみられた。1/2飽和血清を用いた時にみられる著明な抑制作用は、この血清を作製する過程に問題があり毒性を示したのではないかと考えている。さらにRRLC-11細胞をsoft agarにまいて出来たcolony(CFE 19.5%)の中、比較的大きいもの2つを拾って増殖せしめたRRLC-11C・1、RRLC-11C・2細胞に対する1/2および1/3飽和血清の効果は(図を呈示)、RRLC-11C・2細胞の培養2日間の増殖が悪いのは問題と思うが、2日以後の増殖の度はC・1もC・2も変らないので一応これら2つを比較した場合、C・1の方が増殖がよく、すなわちserum factorの要求が少いものと思われる。この実験は再度行う予定であるが、細胞の悪性度とserum factor freeの血清を用いた培地による細胞の増殖の度合との間に相関があること−つまり悪性度の強い細胞ほどserum factorのneedが少いことが確かめられれば、この血清を用いたsoft agar内における悪性化細胞の撰択的増殖も期待出来る訳である。目下上記細胞を1/3飽和血清を用いたsoftagarにまきcolony形成能を検討する一方、RRLC-11C・1およびC・2細胞、RFLC-5細胞を1,000個および100万個newborn ratに移植して造腫瘍性を観察している。 RRLC-11細胞の放出する毒性物質: 本年3月以降、RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性の低下がみられたことを報じて来た。これまでの実験データを再検してみると、RRLC-11細胞を培養する際の培地中の血清が毒性物質の活性と関係があるように思われる。ごく最近、Gibco製のpHが可成り酸性に傾くFCSから、当研究室で分離作製した非働化していないFCSに切換えてみたところ、毒性の低下はさらに著明になり全くRFLC-5細胞の変性はみられなくなった。直ちに別のlotのGibcoFCSに変えて毒性の恢復を待っているところである。但しRRLC-11細胞で、これまで全く別個に継代して来た系の培地をRFLC-5系1の細胞を用いてテストしたところ、上記当研究室のFCSを使用していた4月下旬には対照の約71%は増殖していたものが、今回のGibco血清の使用により約15.2%の増殖しか示さぬようになり可成りの毒性が恢復したことが分った。この系を用いて毒性物質のColumn chromatographyを再開する予定である。RRLC-11培地のRFLC-5細胞に対する毒性に及ぼす血清の影響を考える際、2つの可能性を想定しなければならない。すなわちRRLC-11細胞の毒性物質の産生に血清が影響する可能性と、毒性効果をRFLC-5細胞を用いて判定する際、その効果の発現に干渉している可能性とである。これまでRRLC-11細胞を培養する際にも、毒性をテストする際にも同一の血清を用いて来たが、血清を変えてこの点も検討する予定である。RRLC-11細胞の産生する毒性物質が消長するのは興味ある事実であるが、相手が血清とすれば問題はやっかいである。
《梅田報告》
:質疑応答:[黒木]内部照射だけでDNAが切れるという可能性もありますね。H3-TdR 0.1μc/ml位で切れるでしょうか。[梅田]この条件での実験ではDNAは切れていないようです。ボトムへ沈みますから。増殖に対する影響があるだけです。 [佐藤茂]H3-TdRはアルコールで溶液になっている筈ですが、そのアルコールの影響はありませんか。 [乾 ]この程度の濃度では全然影響なしだと思います。 [堀川]この実験系では、のせる細胞数を非常に神経質に一定にしないと、少し多いだけでも塊を作ってボトムへ落ちてしまいます。そういう事にも充分気を使って下さい。 [藤井]内部照射で細胞を殺すことの出来る線量はどの位ですか。 [堀川]はっきり覚えていませんが、大体20〜30μc位の高濃度入れてやると合成期にどっと取り込んで死んでしまうというデータがあります。同調させるのに使っていますね。
《乾報告》1.染色体Bandding Pattern先の月報で報告した如く、培養ハムスター細胞の染色体Bandding Patternを観察する為には、Hsuの変法、Trypsin蛋白変性法が適することがわかった。本月報では、正常ハムスター雄細胞、MNNGによる悪性転換細胞について、PreliminaryにBandding Patternの比較を行なったので報告する。染色体を0.25%のTrypsin処理を行なうと、各染色体に特有なBandが現われる。すなはち、X染色体の長腕、Y染色体、No.1〜4染色体の短腕、metacentric染色体及び小型のNo.16〜20染色体は、ギムザ染色に著明に染色される。その他大型の染色体では、各染色体それぞれに特色のあるギムザに濃染されるBandが出現した。(それぞれ分析図を呈示)アルカリ、熱処理を行なったHsuの変法で染色体を染めても、基本的な染色体のBandは、同様の結果を示した。MNNG 10μg/mlを作用して得た試験管内悪性転換細胞の1つで、染色体数が転換時より近2倍性を維持しているHNG-100細胞(137代)の染色体のBandding Patternでは、(この細胞系の染色体構成はすでに発表してあるので、ここではふれないが)Bandding Patternより推察される染色体変異は次の通りである。
上記処理によって、染色性を示す所がHeterochromatinと同部位とすると、HNG-100細胞では、明らかに遺伝子活性の増大がみられる。この結果は、DNA-RNA hybrydizationの結果と非常によく一致した。 前報で報告したタバコタールの中性、アルカリ性、酸性分劃の細胞毒性(LD100)、形態転換迄の日時、移植の結果をまとめた(表を呈示)。細胞の形態転換は酸、中性分劃で現われ、処理後59日現在、アルカリ性分劃では見られない。 形態転換を示した細胞を動物へ復元移植した結果は、中性分劃作用群(TN-100)で1/3(33.3%)であったが、酸性分劃作用群は現在、造腫瘍性が認められない。
:質疑応答:[吉田]染色体のbanddingをして、黒く染まる部分全部をヘテロクロマチンと言い切ってもよいでしょうか。単に黒く染まる部分といっておいた方がよいと思います。[黒木]ヘテロクロマチンというのは染色体屋さんの言葉ですか。 [吉田]そうです。 [黒木]トリプシン処理などで変わるものをヘテロというのはどうでしょうか。染色上の問題なのでしょうか。 [山田]再現性はありますか。 [乾 ]あります。 [吉田]しかし、少しやり方を変えると違った結果になります。きちんと一定した結果を得るにはどうやるか、というのはまだ問題の所ですね。方法としては温度処理、ウレア法などがあります。染色体分析に関してはbandding patternでもう一度並べ直してみる必要がありますね。今まで見かけ上の分析では分からなかった新しいpatternを発見できるかも知れません。 ☆ここで吉田式ウレア法によるヒトの染色体のbandding patternが紹介された。 [山田]bandding patternで変異が判るとしても、発癌剤で変化して悪性まで進むのはほんの一部分の細胞だと思われますから、in vitroで追跡するのは仲々難しいでしょう。 [乾 ]半分は何時も培養に残すようにして、経時的にbandを調べて比較してゆけば、何か判るにではないかと期待しています。 [勝田]ギムザでなく、何か単一色素で染められませんか。 [乾 ]フォイルゲン、ゲンチアナ紫では駄目でした。 [山田]アヅール青がよいのではないでしょうか。 [黒木]ハムスターのチークポーチの復元の所、写真でみると、もう少し白くて固い感じでないと腫瘍らしくないと思いますが、組織像はどうですか。 [乾 ]まだ見ていません。
《佐藤茂》吉田腹水肝癌AH-7974由来の培養株(JTC-16)のin vitro及びin vivoにおけるヘキソキナーゼ分子種の表現形質の違いについてこれ迄報告して来たが、この培養細胞10の7乗個をdiffusion chamberに入れラット腹腔に挿入して経時的にヘキソキナーゼを解析した結果、(表を呈示)in vitroでは見られなかったIII型ヘキソキナーゼは2日後に出現した。しかし3日目以後は非活性も低下し、その分子種のバンドも電気泳動上うすくなっていた。これは細胞の生存率の低下と一致している。又細胞数の増加は実験期間中認められなかった。in vivoにおけるIII型ヘキソキナーゼ分子種の出現機序を追求中であるが、in vitroで培地にラット血清を添加する事、及び培地中のグルコース濃度を0.01%にして2日間この細胞を培養した結果では、ヘキソキナーゼはI、II型のみであった。
:質疑応答:[勝田]培養系そのものには、バンドIIIが無いのに、復元して腹腔内で増殖した細胞にはIIIがあるという結果なのですから、in vitroで再現したいというのなら先ずJTC-16を復元した時の腹水を添加してみるとよいと思いますが・・・。[山田]腹腔内へ接種して2日位でバンドIIIが出てくるというと、宿主の反応の非常に強い時期という訳ですね。 [佐藤二」マウスの脳腫瘍の話ですが、復元した時の組織像はどの程度の悪性度ですか。悪性の度が強いと分化は望めませんね。 [佐藤茂]組織診断はグリオブラストーマで脳腫瘍の中では悪性ですが、肝癌などに較べると悪性度は弱く、正常のグリア機能も少し有しているというものです。 [山田]脳腫瘍の場合は悪性度も細胞の種類も実に様々なので、in vitroの実験系へ持ち込むと面白いですね。 [黒木]ヂブチルAMPで神経突起が出てくるという報告は沢山ありますが、どの方向へ持ってゆくつもりですか。それからBUdRの影響はどうですか。 [佐藤茂]BUdRはまだ見ていません。方向としてはS100など平行して見る計画です。
《佐藤二報告》Azo色素で飼育後のDonryuラッテの培養歴及び染色体について(表と図を呈示)、明らかにDAB飼育例は共に150〜200日の培養日数では増殖誘導細胞はdiploidを示す。しかし3'-Me-DAB飼育のものではdiploidを示す細胞は極めて少ない。形態学的にはDAB及び3'-Me-DAB増殖誘導細胞は異なっている。 DAN及び3'-Me-DABが夫々異なった細胞を増殖誘導するのか、或いは発癌過程の時期的なずれなのかわからない。 Branched chain A.A.、TransaminaseのIsozyme patternは、一見染色体数のずれとIsozyme patternのずれが一致して興味深い。
:質疑応答:[吉田]Controlが欲しいですね。DABを喰わしていない物か、再生肝のデータが・・。[佐藤二]Adultのラッテ肝は、再生肝でもどうしても株はとれませんね。 [乾 ]培養できる様になる最少限のDAB給餌はどの位ですか。 [佐藤二]短い方はあまり細かくやってありませんが、大体1ケ月位です。 [佐藤茂]DAB給餌で培養する前の組織にはBranched chain A.A.の酵素はありますか。 [佐藤二]多分調べてないと思います。私としてはIIIがtumorのつき方と関係があるのか、どうかに興味をもっています。 [吉田]正常2倍体の肝細胞と、肝癌になったものとの染色体のbanddingを比較してみて欲しいですね。 [佐藤二]問題だと思っているのは、DAB発癌の場合もDABに反応しやすい細胞と反応しにくい細胞があるかも知れないという事です。とするとクローニングした場合、その標的細胞を選んでいるかどうかが分からないのが困ると思っています。 [乾 ]In vivoでは薬剤処理→発癌の過程に可成はっきりした標的器官や標的細胞があるとされていますが、in vitroに移した場合にはアッタクする範囲がずっと広くなるのではないでしょうか。 [黒木]In vivoとin vitroの違いといってもNGの場合などは代謝の問題だと思います。 [乾 ]In vivoの発癌実験で、同じ薬剤でも与え方や与える量によって異なったtumorが出来るという事から考えると、代謝の問題だけでは解決できないと思いますが。 [黒木]勿論色々と複雑な過程があるとは思いますが、少なくともNGに関しては病理学的にはすっかり判っているのに、生化学的分析が追いつかないのですね。 [吉田]私は悪性化するのは運命づけられた細胞という考え方には賛成できませんね。 [佐藤二]私は、同じように初代からクローニングしても、2倍体を維持できる系と、出来ない系があることから、何か運命的なものを感じます。
《藤井報告》
:質疑応答:[勝田]RLC-10をin vivoで感作しておいてin vitroでブースターをかけるとどうでしょうか。とにかく藤井班員に期待したい今年の課題は、4NQO処理群の動物へ復元する前の細胞と、復元して生体内で増殖した細胞の再培養との抗原性の違いが何かという事です。量的なものか、質的なものか・・・。[藤井]やってみます。 [勝田]それから癌患者の場合、生体内ですでに反応が起こってしまっているのではないでしょうか。とするとこういうin vitroの系へ持ってきて又反応がおこるでしょうか。 [藤井]生体内で反応が起こってしまっていてもin vitroで又反応が起こるようです。
《堀川報告》動物細胞におよぼす放射線および4NQOの作用機序ならびにそれらによる細胞障害修復機構の本体を解析するための1モデルとして、私共は同調細胞集団を使用して、そのcell cycleに於ける周期的感受性差の原因となる変更要因の解析を進めているが、そのためには大量でかつ同調度の高い細胞集団を要することは言うまでもない。すでに報告したように当教室においてはcolcemidとharvesting法を併用することによりHeLaS3細胞から極めて大量かつ同調度の高い集団を得ることに成功している。(図を呈示)この方法によって得たHeLaS3細胞のcell cycleを通じてのX線、UVおよび発癌剤4-NQOに対する周期的感受性曲線からは、周期的感受性曲線の動態は三者において、大局的には変わらないが、細部においてそれぞれ異なることが分かる。さてこうした物理的要因に対する周期的感受性差を生じさせる細胞内変異要因の解析として、X線に対してはこれまで各期におけるDNAの切断量と再結合能においては各期の感受性差を説明出来ないが、SH含有量の多少と感受性の高低には何等かの関連性がありそうだとするデータが出されているのが実情である。 私共はこれら三者の周期的感受性曲線を説明するため、まずその作用機構の最もよく分っているUVから開始した。(図を呈示)つまりUVに対して低感受性期であるG1とG2期および高感受性期であるS期の細胞について200ergs/平方mm照射後のTTdimerの形成量を調べた。その結果、UVに対して高感受性であるS期の細胞では低感受性のG2期のDNAに比して約2倍量のTTdimerが形成されることが分った。一方G1、G2およびS期における細胞のdimer除去能には何ら差がなく、どの時期においても形成されたdimerの約50%が除去されることが分った。こうした結果はUVに対する周期的感受性差は各期において形成されるTTdimerの多少と関連性のあることが示された訳で、UV障害修復の大部分がexcision repairに負うとされるHeLaS3細胞においては興味ある現象である。さてではどうして各期に於いてDNA内に誘起されるTTdimer量が異るか、各期における細胞全体の質的差異によるか、あるいは各期におけるDNAのconformational changesに依存するか、それらの検討を現在進めている。 一方4-NQOに対する細胞の周期的感受性差の原因についてはH3 4-NQOを用いて現在検索中であるが感受性差の原因として各期におけるDNAを4-NQOの結合能の差違による可能性が予備実験から示されているが、これらについては更にconfirmしたうえで報告する。
:質疑応答:[吉田]4NQOはDNAと結合していると考えているわけですね。[堀川]そうです。DNAをTCAで洗ってもカウントが落ちないという点から考えて、4NQOはDNAに結合していると言いたいのです。 [勝田]4NQOが結合しているとDNA合成の邪魔になるのではないでしょうか。 [黒木]4NQOが結合したDNAがデュプリケイトするかどうかはBUdRを取り込ませて重くしておけば、分かるでしょう。 [堀川]理論的は分かる方法があるのですが、実際には使っているH34NQOの放射能がとても弱くて結論が出ないのです。
《吉田報告》“癌細胞には寿命があるだろう”ステムラインにもエイジングがあり、ステムへとバトンタッチされて、世代が交替してゆくのではなかろうか。
:質疑応答:[勝田]DNAの鋳型がすり切れることがあるのではないか、という考えは私もずっと持っていました。[乾 ]この考え方ではもっと株細胞の樹立という事が難しいはずのように思います。たいていの培養系が切れてしまうのではないでしょうか。 [吉田]しかし、ミュテーションandセレクションだけで生き延びてゆくなら、もっと広がりがあるはずですよ。 [堀川]In vitroの系とin vivoの系とを平行してみてゆかないと、in vitroでは宿主の影響を受けないから安定しているとも言えます。 [吉田]薬剤を使うとエイジングは短縮されるという事もあります。 [勝田]一つの細胞のエイジングという問題と、ポピュレーションとしてのエイジングの問題ということですね。 [堀川]自然界の法則ですね。猿山にもあてはまる現象です。 [黒木]政界にもピッタリあてはまりますね。 [堀川]問題は遺伝子レベルのことでしょうがね。
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