【勝田班月報:7208:タバコ煙の培養細胞に対する影響】《勝田報告》(表を呈示)ラッテ肝細胞株RLC-10(2)を昨年6月29日に4NQO1回処理して以後、軟寒天培地内培養、細胞電気泳動、ラッテへの復元接種などを併行して、山田班員と協同してしらべてきた。細胞電気泳動に関しては、山田班員から詳しく報告があると思われるが、きわめて数多くしらべてきている。復元成績は1971-8-14にはじめて復元接種して、実験群は2/2接種後213日と285日後に腫瘍死した。しかし困ったことに対照群が246日に1/2匹が腫瘍死してしまった。これは何ともはや困り切った問題であるが、いかにcloningしようがしまいが所詮、株細胞というものは発癌実験に使うことには不適なのではないかと、この頃つくづく反省させられている。軟寒天培地の成績は(表を呈示)今日まで全部陰性であった。対照実験として、同じ手法で肝癌AH-7974由来の株、JTC-16、をまいた成績は、P.E.50%で、手技的に悪かったのでColoniesを作らなかったのではない、ということが証明されている。また軟寒天培養24日後に通常の培養にもどしたら細胞が増殖を始めたということで、つまり、軟寒天培地内でColonyを作る能力(増殖能)が無くても、そのなかで生存して居り、適当な環境に移されれば、また増殖を再発する潜在能力を持っているということを示している。 RLC-10(2)から作った色々なclonesについては、発癌実験という意味からは、これらが果たして何の役に立ち得るであろうか。つまり、現在の時点に至っては、細胞1コの性格が、癌になり易くなっているかどうか(自然発癌の一歩手前)、それを発癌剤がチョイと手助けしているにすぎないのではないか、という疑問を解決すべき問題であり、当班としても、培養という手技を100%活用しながらも、再びまた人体内における癌の発生とその成育ということに視点を戻さなくてはならない限界点まで来ているのではないか、ということを痛切に感ずる次第である。
:質疑応答:[佐藤二]コロニーを拾う時もっと形態の違うものとか、サイズの違うものとかを拾うと、性質の違ったクロンを拾うことが出来るのではありませんか。[高岡]同条件下では同じようなコロニーしか出来ないのです。何か培養の条件を変えてクローニングする事を考えています。それにしても、何とか生体内での腫瘍性と平行する、培養内での指標が欲しいですね。幾つクロンを拾ってもメクラで拾うのですから、何が拾えたのか最後まで判りません。
《山田報告》新たに4NQO(3.3x10-6乗M)一回処理した後約60日目のラット肝細胞系CQ72株と、その処理後13日目に、その株から浮遊細胞で育ったクローン株C1、2、3の細胞電気泳動度を調べました(図を呈示)。珍しく、細胞の構成が均一で、しかもノイラミニダーゼが均一に作用している様に思います。クローン株も又殆んど原株を同様な所見を示し、原株の比較的均一性をましている様に思います。 この実験の目的は4NQO処理後早い時期にばらつきが生じ、漸次腫瘍細胞によって置換されると云う従来の成績に基き行ったものですが、どうも皮肉なもので構成分析をしようとすると、原株の構成が単一状態に近くなり、なかなかうまくゆかないものです。貴方まかせの発癌実験のつらさをここでも味っています。 RPL-1株: 腹膜由来細胞、mesothelial cellであるこの細胞系は形態的に均一であり、今後発癌実験の材料に使うという事で、その対照としての細胞の電気泳動的性格を検索しました。2回の成績は多少異りますが、増殖状態の差によるものと思われます。肝細胞よりノイラミニダーゼ感受性が強くなります。 ConA実験その後の成績: Burger等によると、正常細胞もトリプシン処理すると、悪性細胞と同様なConAによる凝集現象があると報告されていますが、この成績を電気泳動的に検索しました(図を呈示)。0.001%のトリプシン処理後、各種濃度のConAを加えた所、トリプシン処理ラット再生肝細胞は10-20μg/mlの低濃度のConAによりその泳動度が上昇しました。トリプシン処理肝癌細胞では、ConAによりその泳動度が低下するのみです。
:質疑応答:[乾 ]細胞周期のどこに居るかで細胞の電気泳動値は変わってきませんか。[山田]同調培養を使って調べましたが、M期が高くS期は低いようです。 [堀川]本質的な膜の違いのせいでしょうか。 [山田]どうしてそうなのか判りませんが、M期にはカルシウムが細胞表面に呼び集められるとか、他にもM期の膜が他の時期の膜とは違う事を示唆する所見はありますね。 [堀川]Random cultureでみているからデータが乱れるとは考えられませんか。 [山田]それは同調培養が何時も使えればそれに越した事はありませんが、一応random cultureを使っても差が出るという事も大きな事だと思っています。 [黒木]ConAの実験で再生肝をトリプシン処理して泳動度が上がるのはいいと思いますが、AH66Fの方が同じ処理で下がるのはどういう事でしょうか。 [山田]細胞膜が多少とけてしまうのかも知れませんね。 [津田]トリプシン処理からどの位の時間で回復しますか。 [山田]はっきりした時間はみてありませんが、この程度なら生死には関係なくかなり速やかに回復するはずです。 [永井]ノイラミニダーゼ→ConAではどうなりますか。 [山田]再生肝では下がり、AH-66Fでは上昇するという異なった結果を得ています。 [永井]ConAを先に処理してノイラミニダーゼをかけるとどうなりますか。ConAでは細胞内部の糖も認識することが判っていますから、ConAの処理のあとで酵素処理をするともっと細胞の性質がはっきりするかも知れませんね。 [山田]それもやってみましょう。 [永井]PHAも色々なものが使われ始めましたね。内部の糖を認識するものの方が、リンパ球の幼若化にも影響が大きいとも言われていますし、もっと色々なPHAを使って調べてみるとよいと思います。 [山田]何とかコロニーの拾い方の指標がほしいですね。 [高岡]RLC-10の系の場合、軟寒天内で増殖コロニーを作らないで生き残った細胞は、どうもおとなしい揃ったものになる傾向があるようですね。 [勝田]細胞電気泳動で分劃するというのはどうなっていますか。 [山田]色々やってみてはいますが、仲々難しいですよ。 [佐藤二]培養細胞は結局みんな自然発癌→脱癌という過程を通るのではないかという気がしています。しかし、自然発癌と化学発癌との間には何か違いがあるのではないでしょうか。例えば私のデータでは分岐鎖アミノ酸トランスアミナーゼのアイソザイムで自然発癌はIII型が出ないのです。生体での癌も化学発癌させたものも出るのですが。 [山田]しかし、自然発癌の場合、悪性化したものが少ないとも考えられますから、集団としてしかみられない酵素活性の違いを本質的な違いといえるかどうか。どうも脱癌というと、悪人がパット善人になった感じですが、生化学的指標での癌と正常は単に程度の差のようですね。
《堀川報告》HeLaS3原株細胞ではUV照射によりDNAに誘起された総thymisine dimer(TT)の約50%を除去する能力があり、一方この原株細胞から分離されたUV感受性細胞S-2M細胞では総TTの約9%しか除去出来ないというのが私共の従来の実験結果であった。では一体HeLaS3原株細胞におけるこの50%のTTの切り出し能というのはHeLaS3原株細胞の最大除去能力であるか否かの検討が必要になってくる。この問題を解決するために、まず従来TTの切り出し能が無いといわれているマウスL株細胞を対照として用いた。(図を呈示)L株細胞を200、400、800ergs/平方mmのUVで照射した直後DNA中にはTTがinduceされるが、その後これらの細胞を37℃でincubeteしても確かにTTの有意な切り出し能は認められない。一方HeLaS3細胞に200、400、800ergs/平方mmとそれぞれ照射すると(図を呈示)L細胞の場合と同様に線量に依存してDNA中にTTがinduceされるが、その後のTTの除去能をみるとどの線量で照射した場合にも或る一定量しか切り出しが認められず、200ergs/平方mm照射後の50%TTの切り出し能が最大の値を示す。 この現象は酵素反応的には理解出来ないことで、もし一定量の酵素がHeLaS3細胞中に存在すれば、もっと多くのTTを除去してもいいように思われる。ところがこの点に関しては複雑な問題がからんで来ていることがその後の実験から分って来た。 つまり200ergs/平方mm以上のUVを照射した場合には細胞は死に追い込まれるらしく、そのためenzymeの存否にはかかわらず200ergs/平方mm以上のUV照射では現在検出しているTT除去能が最大の切り出し能という結果になっているようである。それでは200ergs/平方mm以下のUV照射後のTT除去能がどのようになっているかが今後の重要な実験になってくる訳であるが、200ergs/平方mm以下のUV照射では現在の検出法では正確なDNAのTT量がつかめないという苦しい問題につきあたっている。
:質疑応答:[黒木]感受性の細胞ではD0が変わるだけでなく、shoulderが無くなったように見られましたが、どういう事でしょうか。[堀川]shoulderについては放射線生物学の分野では、まだはっきりさせられません。 [野瀬]UV感受性株は他の発癌物質に対してはどうですか。 [堀川]4NQOに対する感受性は平行しています。昔、私のデータでマウス由来の株と豚由来の株を使ってUV感受性と4NQO感受性は平行しないというのがありましたが、それは細胞の起源が異なったためだろうと考えています。 [黒木]UV感受性と非感受性とで変異率をみたらどうですか。 [堀川]BUdRを使ってselectしていますから、TdR-kinaseの問題なのかも知れません。細胞もchinese hamsterの方がよいという人もあります。 [黒木]HeLaに4NQOはどうも困りますね。 [堀川]人とマウスの違いを活かして実験をしたいのですが、他に再現性のあるよい系が見つかりませんのでね。 [高木]NGの濃度はどうやって決められましたか。 [堀川]30%survival doseを使いました。Dr.パックも同じ濃度を使っていますね。NG処理の直後にUV照射というのは少し問題があるかも知れません。NGで処理して3日位培養してからselectした方が色んなmutantがとれると考えられます。 [乾 ]私の所では5〜10μg/mlで処理しています。NGは1μg/ml以下の濃度では変異率はぐっと下がります。細胞が死ぬ割合は時間で変わります。
《梅田報告》先月の月報では細胞のDNAはアルカリ性蔗糖密度勾配中での遠心パターンが細胞のlysis時間により変ってくることを示した。今回は更に細胞の種類を変えてlysis時間を1、2、4時間として遠心してみた。(以下それぞれに図を呈示)
:質疑応答:[堀川]Peakはきれいですが、bottomにあるのは矢張りaggregateしたものではないでしょうか。テクニックを工夫すると完全に無くなるはずです。しかし、細胞の種類によってpeakが変わるというのは面白いですね。[梅田]手元にある株で、ヒト、ハムスター、マウス、ラッテなど皆比較してみたいと思っています。 [黒木]Pronase処理の必要はありませんか。 [堀川]アルカリの場合は必要ありません。 [黒木]Radioactivityが試験管の壁にくっつく事はありませんか。 [梅田]Recoveryは100%です。 [堀川]しかし、本当のDNAの分子量というのは、今の技術では未だ結論がでませんね。アメリカのシンポジウムでも“神のみぞ知る”というのが結論でした。10の8乗ダルトン位が先ず正しいところでしょうか。
《高木報告》今回はこれまでの実験dataをまとめて報告する。培養内悪性化の示標としての軟寒天培養法の検討: 先にNGおよび4NQOを用いて培養内悪性化した細胞につき、soft agar内でColonyを形成せしめ、えられたColonyを2mm径以上の大Colonyと、以下の小Colonyとに分けて拾い上げ、その各細胞を培養して増殖せしめた後、再びsoft agarにまいて大、小Colony由来の細胞のCFEとtumorigenicityとの相関について調べた。この際用いた培地はLH+EBMvitamins+10%CSで、寒天濃度はbase 0.5%、top 0.33%であった。その結果、NG実験群についてはすでに報告したが4NQO実験群についても大、小コロニー由来の細胞とCFEとの間に相関はなく、またCFEとtumorigenicityとの間にも何等の関連も認めえなかった。この実験は上述の一定条件下に行われたもので、さらに培養条件を検討して実験を続けているが、その一つとして今回はTodaroらの云うserum factor free血清を培地成分として用いてみた。Soft agarで培養するに先立ち、まずWKA rat肺由来でspontan.transformationした細胞の再培養株RRLC-11細胞およびそれから出た2つのclone C-1、C-2とWKArat肺由来のRFLC-5細胞についてMEM+10%血清の培地組成で細胞の増殖を調べてみた。これに血清は無処理の対照仔牛血清と、それから硫安1/3飽和および1/2飽和によりえられたserum factor free血清とを用いた。 RRLC-11系株細胞とRFLC-5細胞との間にはこれらの血清を用いたことにより増殖に明らかな差異がみられ、RFLC-5細胞の増殖は悪く、その程度は1/2CS培地(1/2硫安飽和によりserum factorを除いた血清を加えた培地)において著明であった。すなわちRFLC-5細胞にserum factor依存性がつよくみられた。またRRLC-11・C-1とC-2細胞の間でも差異がみられ、C-2細胞の方がserum factorに対する依存性が強かった。そこでこれら細胞についてserum factor free血清を用いたSoft agar培地内におけるColony形成能とtrumorigenicityにつき検討した。 RRLC-11・C-1およびC-2細胞のsoft agar内におけるColony形成能は前報の通りでC-1、C-2はそれぞれCSを10%含むSoft agar培地内では39%、11.9%のCFEを示したが、1/3CSおよび1/2CSを含むSoft agar培地内ではC-1が前者培地内に1つのColonyを形成しただけであった。但し、この際soft agarのbase、top両層間に白い沈澱物を認め、このようなこともCFEに多分の影響を及ぼすと思われるのでserum factor free血清の作製法をかえ、血清に含まれるNH4+を蒸留水を外液として透析することにより完全に除き、これを限外濾過により充分に濃縮した後Hanks液で原量に稀釋する方法を用いて再検討している。なおこれら細胞の復元実験の成績は、現時点(復元後日数43〜57日)ではRRLC-11・C-1は100万個接種で2/2死亡、1,000個で2/3死亡、RRLC-11・C-2は100万個で2/2、1,000個で1/3、RFL・C-5は100万個で0/3であった(表を呈示)。 培養内において肉腫細胞の正常(非腫瘍性)細胞におよぼす影響: RRLC-11細胞とWKA rat肺由来のColonial cloneの3株とを同数ずつpetri dishにまいて2週間培養を続けた後観察すると正常細胞のColonyの変性像がみられたが、これには細胞の種類による差異があった。そこでこの正常組織由来の細胞にdamageを与えるには腫瘍細胞の接触が必要であるのか否かを調べるためRRLC-11細胞を培養した培地を正常細胞の培地に様々の濃度に加えて検討したところ、5%以上の濃度では有意差なく正常細胞の増殖は抑制された。従ってRRLC-11細胞はその培地中に正常細胞に対する毒性物質を放出しており、それに対する感受性は正常細胞の種類により差異があるものと思われる。つぎにこの毒性物質につきこれまでに調べた結果を箇条書する。
:質疑応答:[永井]透析すると外液に出るのに、G-50でvoid volumeに出てくる物質というのは一寸考えにくいですね。[黒木]凍結保存も失活の原因となるならグリセリン添加で凍結すればよいでしょう。 [山田]毒性物質というものは悪性細胞の代謝産物だろうと考えていましたが、この例では細胞の増殖とは関係がないのですから、代謝産物ではないかも知れませんね。 [高木]実験があまり定量的でないので、一寸はっきりした事は言えないと思います。 [堀川]細胞のホモジネイトはやってみましたか。 [高木]みていません。私の場合、出しているものだけを調べているのですが、とにかく出たり出なかったり大変不安定なのが困ります。 [藤井]他の癌細胞に対しては影響がありませんか。 [高木]まだみていませんが、これから調べるつもりです。 [黒木]コロニーが隣合って死んでいるのは、或程度どちらも増殖するのですね。 [高木]正常細胞を先にまいてコロニーを作らせておいて、腫瘍を入れた場合もやはり正常細胞はやられます。限外濾過で外液ですし、電顕でみてもそれらしい粒子が見当たらない事からPPLOは否定できると考えています。 [佐藤二]巨細胞はやられていないようですね。 [堀川]しかし障害を受けると巨細胞を作る例がありますから、何ともいえませんね。 [佐藤二]正常細胞の条件の違いが効く効かないの不安定の原因になっていませんか。 [永井]高分子と吸着しているのではないでしょうか。 [勝田]吸着しているとすると温度処理で失活するのはおかしいですね。 [永井]吸着でマスクされるという事も考えられます。pHを変えてみるとか何とか失活の条件をはっきりさせないと困りますね。 [佐藤二]低分子でありながら、熱処理で失活というのも変ですね。 [高木]とにかく理由がまるで判らなくて失活するので困ります。
《乾 報告》
:質疑応答:[黒木]気層とは・・・?[乾 ]気層といっても、煙そのものを気体として吹き込んだのではありません。煙を水に溶かしたものを気層成分として添加しました。 [高木]水に溶けない部分はどうするのですか。 [乾 ]今回は調べていません。今迄はただ煙をふかっと培養瓶の中へ吹き込んだり、バブリングしたりしていたのですが、もう少し定量的に加えてみようと思いました。 [黒木]煙草を喫うのは人間だけなのですから、この実験はヒトの細胞でやるべきですね。ネズミでは同じ結果が得られるかどうか判りません。 [吉田]昔、中西君はネコを使っていましたね。 [乾 ]ネコやハムスターも使って初期の影響をみています。 [黒木]代謝酵素がヒトとネズミでは大きく違います。3T3はbenzpyrene hydroxylase活性が低いのです。 [乾 ]ハイドロカーボンもベンツパイレンもマウス細胞を悪性化したというデータもありますし、benzpyrene hydroxylase活性はマウスにもあるというデータもありますが。 [黒木]やはりヒトの細胞で毒性だけでも調べるべきでしょう。 [乾 ]組織培養はモデルとして実験するので、必ずしも人間でなくてもよいと思います。最後は悪性化を狙っているので、変異してからの復元の問題がヒトでは困りますから。 [吉田]染色体の変異については、初期の2倍体、数は2倍体でも核型が変わっているのではないかという事が問題です。2倍体を維持しているかに思える早い時期のものについてもう少し調べてほしいですね。 [乾 ]今やっています。 [黒木]ケンブリッチフィルターとは何ですか。 [津田]アセテート膜で繊維が絡まってタールを捕まえるものです。 [黒木]ラクトアルブミンもタールをよく吸着するそうですね。 [山田]さっき吉田先生の言われた事が調べられると、どんな変化が予想されますか。 [乾 ]ヘテロクロマチンが減るのではないかと考えています。 [吉田]逆かも知れませんよ。癌細胞ではヘテロクロマチン量は増すかも知れません。late replicating DNAをヘテロクロマチンと考えると癌細胞の方がlate replicatingの部分が増えています。 [乾 ]Late replicating DNAとヘテロクマチンをイコールと言えるかどうかは判りませんね。X染色体の場合だけかも知れません。 [吉田]量的に云う場合は、染色体総量の場合の違いも考えに入れるべきですね。 [乾 ]DNA当たりにしてありますから大丈夫だと思います。
《佐藤二郎報告》月報No.7206で報告したようにDAB feeding 1ケ月、2ケ月:3'-Me-DAB feeding 2ケ月のDonryuラッテ肝よりの培養細胞について今回は細胞集塊能を検討した(表を呈示)。DAB feeding 1ケ月より2ケ月のものの方が大きなaggregateを示し、3'-Me-DABは更に大きなaggregateを示した。腫瘍形成能については目下復元検討中である。又DAB、3'-Me-DABによる増殖誘導細胞株はTD40での培養3日間液の約10倍濃縮液中にRadioimmunoassay法で50μg/mlのαフィトプロテインを認めた。このことは増殖誘導細胞の中に肝実質細胞が存在することの証明にもなり、今後クローニン法等によって細胞を純化すれば所謂前癌細胞を取り出せる可能性を示すものとして興味が深い。
:質疑応答:[吉田]悪性化の過程では細胞集塊がだんだん大きくなってゆき、腫瘍になってしまうと小さくなるという事ですか。[佐藤二]そうではなくて腹水肝癌のフリー細胞の多い形のものは細胞集塊を作らないという事です。普通の腫瘍は大きな細胞集塊を作ります。 [山田]現象としてはよく判りますが、判った条件を一つ一つあてはめて、もっとはっきりさせなくては、と思われますね。 [佐藤二]電顕では細胞表面にzottenが増えているようです。 [山田]細胞表面は正常細胞では規則正しいが、腫瘍は不規則ですね。凸は少なくなるという人もあります。デスモゾームはありますか。 [佐藤二]見える所もあります。それから細胞集塊の大きさには或る単位があって、1日目に殆ど集塊が出来、それから更に育つものもあり、育たぬものもあります。 [勝田]肝細胞を4NQOで処理して映画を撮ってみますと、悪性化すると、むしろ細胞表面の粘着性は減りますね。 [山田]それが普通ですね。しかし旋回という条件で何か特殊な事が起こるのかも知れません。ラテックスの様な物でも使ってもっとその経過をはっきりさせて欲しいですね。 [佐藤二]私としては何故集まるかというより、集塊だと組織像が見られる事と、塊になる事によって何か分化機能が現れてくるのではないかと期待しているのです。
《野瀬報告》培地中への細胞酵素の分泌(2) 完全合成培地で培養されている細胞は細胞内の酵素やmucopolysaccharideなどを培地中に放出し、“conditioning”している。細胞の種類により分泌する物質に特異性があるかも知れないし、培地中の物質が何か機能を持っているかも知れない。分泌物を定量するのに酵素は測定が容易なので分泌機構のmarkerとして酵素活性を利用した。(1)Acid DNaseの分泌: 各種の酵素を測定したが中でもacid DNaseの活性が培地中で高かった。細胞を短試で培養し、培地交換してから各時間に培地を集め、これを酵素源としてassayした。基質としてはH3-TdRでラベルしたE.coliを用い、pH4.95の酢酸緩衝液を用いている。L・P3のDNaseの分泌の時間的経過を見た(図を呈示)。約24時間で培地中の活性がtotal(細胞内+培地中)の55〜60%にまで上昇し、以後はほぼ一定であった。同様の方法で完全合成培地で継代されている各種の細胞株について培地中DNase活性を測定した結果(表を呈示)、株により活性の大小にかなり大きな幅があることがわかった。L・P4およびL(MEM+10%CSで培養したもの)は培地中DNase活性が非常に低いが、これは培地成分(Lh、CS)がDNaseを直接抑えているためで分泌の阻害ではない。 DNase活性が培地中に多量に存在する原因として、細胞のlysisが起きて出てくるのか、特異的に膜を通過して分泌されるのかの2つの可能性が考えられる。この点の検討として、他の酵素活性を見た(表を呈示)。Acid DNaseと同じくlysosomeにあると言われているacid phosphatase、β-glucronidaseの活性はL・P3の培地中にはほとんど検出されなかった。この事はDNase活性が細胞のlysisによって培地中に放出されたのではないことを示唆する。更に各種阻害剤を添加した場合の培地中DNase活性をみると、DNaseの分泌はmicrotubule形成、呼吸、タンパク合成などを阻害すると阻害され、細胞の代謝と密接に関連した現象であろうと考えられる(表を呈示)。 JTC-16・P3の培地中DNase活性もL・P3とほぼ同様の挙動を示した。 次に、alkaline phosphataseIについても分泌の可能性を検討した。この酵素は検索した9種の株のうちJTC-21・P3に多量に存在するが、この株においても(図を呈示)培地中に活性が検出された。DNaseと異なり、5日間見た範囲では活性は増加しつづけた。 このような細胞内酵素の培地中への分泌は、insulin、serum albumin、amylaseなどの分泌と似た機構によって行なわれると思われ、培養細胞の持つ一つの特性として興味ある。またtransformationと並行してよく観察される細胞表層の変化と何らかの関係がないか調べてみたいと思っている。
:質疑応答:[津田]Exponential growthの時にもDNaseは出てきていますか。[野瀬]出しています。 [津田]L・P3とL・P4との間にDNaseを出すか出さないか以外に何か違いがありますか。 [野瀬]膜の問題や色々本質的な事については判っていません。ただL・P4の培地に使われているラクトアルブミン水解物には、DNaseを出すことへの阻害作用があります。 [吉田]DNaseは細胞内のどこで作られているのですか。 [野瀬]サイトははっきりしませんが、膜成分のようです。 [山田]培地へだしている物の方が分子量が大きいのですね。大きな分子量のもので膜をコートするといった事でもあるのでしょうか。Dextran sulfateは分子量とS含量によってchargeが異なります。 [梅田]コルヒチン、サイトカラシンBの処理は、細胞増殖を止めたためにaseを出さないと考えられませんか。 [乾 ]細胞を短時間でバサッと殺せるKCNの量はどの位ですか。 [野瀬]殺すといっても難しいのですが、細菌だと2mMで分の単位で呼吸が止まります。 [永井]ジニトロフェノールとかアザイドとかを使って、エネルギーを要するsecretionなのかどうかを、みておく必要がありますね。 [野瀬]モノヨード醋酸を使ってやってみましたが決着はついていません。 [高木]仔牛血清を加えて出さなくなるのはDNaseだけですか。 [野瀬]それしかみていません。 [高木]DNase分泌のaccumulationのカーブはinsulinの場合とよく似ています。negative feedbackが効いているのでしょうか。 [野瀬]又別のプロテアーゼが出て壊しているのかも知れません。 [梅田]DNaseが他の酵素に比べて安定なので、捕まったとも考えられますね。 [吉田]何をやっているのでしょうか。 [野瀬]合目的には変な遺伝子を壊してしまうためとも考えられます。作用はendonucleaseに近いので防御機構としてはよいと思います。 [梅田]DNaseを出さない細胞にこのDNaseをかけてやると、どうなるのでしょうね。 [野瀬]それは全くやってみていません。
《藤井報告》
:質疑応答:[勝田]培養系は系を新しくしてやり直してみる必要がありますね。[佐藤二]抗血清はどういう方法で作ったのですか。6,000倍とはずい分高いですね。 [藤井]コバルト照射した細胞を1,000万個宛、2週間に1度、数回接種しました。 [山田]乳癌は5年から10年で同じものが再発する例が多いようです。人癌の方は、その辺に焦点を合わせると面白いでしょう。
《黒木報告》[BALB 3T3細胞のtransformation]その後二つのクローンのtransformation実験を追加した。(図を呈示)Clone-4、Clone-13とも1.0、4.0μgのDMBAによってtransformationがみられなかった。ここでoriginalのpopulationがheterogeneityであることが明らかになった。 現在進行中の実験は、transformantのcharacterizationとtransformationの再現性、他の発がん剤への拡大である。後者はcontact inhibitedに保つよい血清のロットを探したりしているため、予定が少し遅れている。テストした範囲では、Flowの胎児子牛血清がよいことがわかった。 TransformantのCharacterizationは(1)Saturation density、(2)ConA、(3)腫瘍性、(4)Soft agar、(5)glucoseのとりこみ、などの面から追求中である。 [ハムスターからの3T3様細胞の分離] BALB 3T3細胞の実験と同時に、3T3様細胞を新たに分離することを試みた。Todaroらは10年程前にハムスターから3T3継代による3T3細胞の分離を試み失敗している(Todaro G.J.,Nilausen K.,Green H.:Cancer Res.23,825,1963)。今回われわれは、医科研で維持されている純系ハムスター(F54)の1匹の胎児から出発して、一系の3T3様細胞を得ることに成功した。(累積増殖曲線図を呈示)同時にスタートした四系のうち、2系(H-1、H-2)はそれぞれ、30、80日頃に増殖がとまった(一系はContami.)。H-4は50日前後にみられたcrisisをのりこえて、安定した増殖能をかく得した。 飽和密度は5万個/平方cm前後、培養3日で増殖がとまる。染色体は45にモードをもつ。
:質疑応答:[勝田]寒天上のコロニー形成は、岡山の村上先生がやっておられましたね。[佐藤二]斜面寒天を使って閉鎖系でね。論文にはなっていないでしょうが。 [津田]BALB 3T3はどの程度安定なクローンが得られたのですか。 [黒木]すぐ凍結して保存しています。溶かしたら2ケ月位しか使いません。 [佐藤二]3T3を作る時、途中で落ちてゆくのは正2倍体のままではないでしょうか。奥村氏の自然発癌の実験に小コロニーは小ばかり拾う、大コロニーは大ばかりという継代をすると、小さコロニー系が大コロニーを作る時期に悪性になるというのがあります。 [黒木]私の系では3日で増殖が全く止まるという所が面白いと思っています。 [佐藤二]1週間で継代ときめておくと、1週間で増殖の止まる系が出来るかも知れませんね。 [吉田]3T3を作る、又使うことの意味とか利点は何ですか。 [黒木]自然悪性化を防ぐという意味があると思います。密集して増えるものを除外してサチュレーションデンシティの一定なものを残すことになりますが、contact inhibitionのある細胞をとる必須条件ではありません。 [佐藤二]クローンによって変異率が違うのは、クローンの純度によると考えられませんか。変異の少ないクローンは安定性のあるもの、変異率<の高いものは維持しにくいクローンとも考えられると思います。 |