【勝田班月報:7210:ConAによる細胞表面荷電の修飾作用】《勝田報告》英国(10月2〜4日)及び米国(10月31〜11月3日)に於て開かれるシンポジウムでの小生の発表について一応御説明します。題名はどちらも“Malignant transformation of rat liver parenchymal cells by chemical carcinogens in tissue culture"としてありますが、内容は少し変えて話したいと思います。英国のは30分(討論は15分)の予定ですので、あとの方で4NQO処理したラッテ肝細胞の映画を見せるつもりで居ります。全体の内容としては、小生の研究室での仕事を中心として紹介するつもりです。 ラッテ肝細胞の培養内増殖を図ったが、はじめは一寸も増殖してくれなかったという所から話をはじめます。しかしDAB1μg/mlで初めの4日間だけ処理すると、増殖をはじめる率が多くなり、多数の細胞株が得られました。だがこれらを動物に復元接種しても、動物は腫瘍を作りませんでした。この増殖系の細胞をさらに発癌剤、ホルモン等を添加し、或は嫌気的条件で処理しても一向に悪性化しませんでした。増殖系の染色体モードは2nをあまりずれず、広い分散も見られませんでした。その後次第に培養法も改良され、2nを高度(例えば42%)に持つような無処理の株もできてきました。 この正常株を平型の回転管に入れ、5°の傾斜で静置培養し、培地は週2回交新するが、細胞を長期間継代しない(1〜数カ月)でおくと“なぎさ”の部分で著明な細胞形態の異常化が起り、遂にはMutant cellsが誕生し、肝細胞のsheetの上にpile upした球形の細胞のコロニーが生じ、これがどんどん急速にpredominantになって遂にculture全体がMutantsに占められてしまいました。このようにして、これまで5系の変異株が得られましたが、形態的にはいかにも悪性細胞そのものでしたが、動物には腫瘍を作りませんでした。コーチゾン処理したハムスターのポーチに接種すると、一旦はnoduleを作るが、やがてregressしました。このnoduleは組織学的には、腹水肝癌細胞を接種してできたnoduleと酷似していました。 “なぎさ”培養を或期間したあと、TD-15瓶に細胞を移し、5〜10μg/mlのDABで処理したところ、非常に高率にMutantsが生まれ、しかもそれらの間で、DABに対する感受性〜代謝能にきわめて差違のあることが判りました。たとえば20μg/mlにDABを与えても4日間の内にそれを全部代謝してしまう株もありました。しかし動物への移植能は認められませんでした。 次に発癌剤を4NQOにかえてラッテ肝細胞株を処理しました。5系列の実験をし、1回の処理は3.3x10-6乗Mで30分間にしました。結果が動物の腫瘍死を待つ以外に判定できないので、sublinesを分けて次々と処理を加えた系列もありますが、或系列では1回処理後3.5月後に復元接種し、動物を腫瘍死させました。腫瘍は肝癌と判定されました。4NQOを次から次と与えても動物の生存日数は短縮しませんでした。悪性化した株はControlと形態的にはほとんど差がありませんでしたが、動物の腹腔に入れると、ラッテ腹水肝癌の腹水像と酷似していました。悪性化株の染色体モードは2nより1〜数本ずれているだけでした。無処置の対照は4月余後に復元したときには腫瘍を作りませんでしたが(実験群はこのごろ既に悪性化していました)、約17月に接種したときは、自然発癌してしまっていました。 山田班員は、ラッテ腹水肝癌の細胞電気泳動値は正常細胞のそれより泳動値は低いが、Neuraminidase処理するとそれの低下すること、正常肝細胞は泳動値が低いが、酵素処理により上昇すること、“なぎさ”変異の細胞は泳動値が正常のものと近いが、酵素処理によってもほとんど上昇しないこと、4NQO悪性化細胞は腹水肝癌と似た泳動像を示すことを明らかにしました。 動物への復元接種能と軟寒天培地内での増殖能とを比較しますと、これらは平行しているように見えますが“なぎさ”変異細胞は動物内での造腫瘍能を全く持たないにも拘わらず、軟寒天内では最高のP.E.を示しました。 昨年6年末から山田班員と協同ではじめた実験では、4NQO 3.3x10-6乗M、30分、1回の処理だけで、あとの細胞特性の変化を、軟寒天、復元、染色体、細胞電気泳動などの諸法を併用して追究した。その結果の内で特に注目されたのは、やはり復元接種試験が最も早く悪性化を発見できること、RLC-10(2)という悪性化していないsubstrainを使ったにもかかわらず、約1.5月後の接種で、Controlまでtakeされたこと、但し、培養日数の経過と共に、実験群の細胞を接種した動物の生存日数が短縮して行ったこと、などである。軟寒天内増殖能はこれまでの処全部陰性であった。(対照として、同手法でのJTC-16でのP.E.は50%)これらに最近のdataを追加し、英国では特に悪性化の証明法、復元能と抗原性の変化、“なぎさ”変異細胞の特異性などについて語りたいと思っています。 米国では15分の演説時間しかありませんので余り色々なことは云えませんが、その前後の数カ所のSeminarではゆっくり色々の話もできると思います。
:質疑応答:[黒木]なぎさ変異の場合、対照群とはどういう形のものですか。[勝田]なぎさ変異の起こる培養の特徴は平型管を使うこと、継代をしないで長期間培養を続ける、という二つの事がありますので、丸い試験管を使い定期的に継代をするという培養が対照になり、その場合の変異はゼロです。 [藤井]なぎさ変異はなぎさゾーンにコロニーが出てきてはいませんね。なぎさゾーンだけを継代してゆくと、どうなるでしょうか。 [勝田]それはやっていません。技術的に難しいですね。なぎさ変異で出来たコロニーをそのなぎさゾーンの変異に結びつけるには飛躍があって、その間の出来事は想像です。 [佐藤茂]復元して出来た腫瘍の中に肉腫様のものがあるのは、接種した細胞が未分化であったためでしょうか。 [山田]ヒトの癌の例では胃癌や食道癌で、癌のまわりに肉腫のできている組織像がよく見られます。 [佐藤二]私の処ではクローニングした系できれいな肝癌型の腫瘍を作るのがあります。しかし1コから増やしたクロンでないと、胚葉の異なる細胞が混じってしまう事もあり得ますね。旋回培養で塊を作らせるとかなり上皮性のものが選別されますね。 [高岡]腹水に浮いている細胞は上皮性で皮下にできた結節は肉腫様が多いようです。 [佐藤二]宿主の皮下の細胞がsarcomatousに増殖したとも考えられますね。原株の発癌剤処理前の染色体はどんなですか。マーカーはありますか。 [高岡]一見ラッテらしい核型です。マーカー染色体ははっきりしません。 [佐藤二]発癌実験も培養細胞そのものの取り扱いを考えるべき時期が来ていると思います。無処理の細胞が自然発癌するとすれば、化学発癌剤は単に腫瘍性の補強に働いているだけではないか、本当に発癌作用をもっているのかどうか、よく考えなくては・・・。 [勝田]その点は問題ですね。発癌ウィルスが絡んでいるかも知れませんしね。 [堀川]同調培養を使ってCellサイクルの上で化学発癌の作用の決定はできませんか。 [黒木]同調培養を使って発癌実験をやるのは失敗しましたが、DNA合成を止めると悪性変異が起こらなくなるというデータは持っています。 [堀川]そういうデータが沢山たまってくればウィルス問題も見当がつきそうですね。 [黒木]癌がウィルスを作るのではないかという説もあります。 [勝田]しかし、ウィルス発癌には方向性があるが、化学発癌には方向性がないという事実もあります。 [山田]免疫の面からみてどうですか。 [藤井]最近、化学発癌にも共通抗原があるという人が出てきました。 [黒木]Dr.Heidelbergerの仕事では共通抗原は否定していますね。C型ウィルスについては調べておくべきでしょう。 [高岡]私達のラッテ由来の細胞系については、C型ウィルスは検出されなかったというデータを持っています。RLC-10はPPLOもいません。 [佐藤二]ふだんはウィルスが潜在しているだけで、変異が起こる傾向になったときに、発癌ウィルスとして働くという事も考えられます。 [堀川]ウィルス発癌には方向性があり、化学発癌剤の変異は無選択という事ですね。頻度の問題になるかも知れませんが、化学発癌剤でも直接的に変異を起こす可能性もありますね。しかし、どんなウィルスも関与していないかというと、未知のウィルスについては調べる方法がありません。
《佐藤二郎報告》DAB、3'-Me-DAB飼育ラッテよりの増殖誘導細胞5系の培地中におけるα-Fetoproteinを原液又は濃縮してRadioimmunoassay法で測定した(表を呈示)。測定がすべて終ってはいないがDAB系(diploid line)では7〜10X濃縮で測定可能、3'-Me-DAB系の一系は原液で測定でき他のものに比して濃度が高いようである。蛍光抗体法では発見できない。(表を呈示)腹水肝癌の内αfpを多量に産生するAH-70Bを培養しαfpをOuchterlony法で測定した。少くとも3ケ月は確認できた。この場合、蛍光抗体法で陽性である。
:質疑応答:[黒木]α-fetoは血清を除いて24hr位培養すると、培地中に産生されてきませんか。[勝田]細胞をすりつぶしてみたらどうですか。 [佐藤二]蛍光抗体法で陰性のものではだめでしょうね。まぁ、α-fetoも必ずしも肝細胞同定に有力な武器ともいえませんが・・・。 [山田]胆汁を出す肝癌は血清中にα-fetoを出さないというデータがありますね。 [佐藤二]肝炎でも出す事がありますしね。 [藤井]胃癌でも肝癌に転移するとα-fetoを出すものがあります。 [山田]とすると、もう有力なマーカーではなくなってきたという事ですね。 [佐藤二]増殖誘導した肝細胞にあるという事まで判ったので、次はその細胞に更に化学発癌剤を作用させて悪性化させてゆくと、α-fetoの産生がどう変わってゆくのか調べてみたいと思っています。
《黒木報告》[cAMP結合蛋白の分離精製]cAMPが細胞の増殖調整機構の一環として働いているであろうことは、これまでの報告から明らかである。この問題へのapproachの一つとしてcAMPそのものよりも、その結合蛋白に目を向け、その第一段階としてラット肝よりの結合蛋白の分離精製をすすめてきた。しかし、なかなか思うようにすすまず、目下悪戦苦闘中である。(図表を呈示)この段階でSDS-polyacrylamide gel、high pH-discontinuous polyacrylamide gelなどを行うと、前者は約8つのbands、後者は4つのbandsが得られた。このあとどのように分離をすすめるべきか、目下考慮中であるが、hydroxy apatite columnを第一に行う予定である。また、disc.gelでsliceに切ったあとbinding bandを調べる方法も進行中である。もし、この方法でbandが限定されれば、それをmarkerに分離がすすめられる訳である。 binding proteinとprotein kinaseの関係は、分離のある程度すすんだところで、調べるつもりである(γ-ATP-P32が高値なので)。 [Agar plate培養法] ほぼdataがまとまったので、Exptl.Cell Res.に投稿すべく論文を書きはじめた。Replicaの方法としてはLederbergの方法の他に、つま楊枝の先でうえこむ方法も検討中でこの方法を用いて、auxotrophic mutant、UV-sensitive mutantをひろうべく予備実験を開始した。
:質疑応答:[堀川]寒天培地の上に出来たコロニーが、1コの細胞から増殖したものだという事は確認してありますか。[黒木]single cell rateが95〜100%の細胞浮遊液を使っています。寒天上にまかれた細胞については、1コづつかどうか確認してみていませんが、顕微鏡でcheckできます。 [堀川]シャーレ当たりの細胞数はどの位まきますか。 [黒木]100コ以上です。 [堀川]私の実験で感受性細胞を拾える頻度は100万個cellで1コから2コですから100コ/シャーレで拾うとすると、ものすごい数のシャーレを使う実験になりますね。 [黒木]堀川班員の方法では始のBUdRの処理で感受性細胞を選別して殺している可能性がありますから、実際にはもう少し頻度高く感受性細胞が存在すると思いますが・・・。 [堀川]それはそうです。BUdRを使うと一番感受性の高いものが死んでしまうのが困ります。むしろnutritional mutantととった方が良いかも知れませんね。
《佐藤茂秋報告》
:質疑応答:[黒木]Levulic acid合成酵素は肝臓にありますか。[佐藤茂]あります。肝組織ですと1gあれば充分測定できます。 [黒木]肝臓の同定に使えますか。 [佐藤茂]使えればよいと思います。 [山田]DBcAMPは酸性ですが、これが細胞に影響を与えることはありませんか。 [佐藤茂]中和して培地のpHを合わせて使っています。 [山田]それからDBcAMPはlipophilicだという報告もありますが、それによる膜への作用は考えられませんか。 [永井]あまり関係ないと思います。 [黒木]DMSOが何故induceするのでしょうか。 [佐藤茂]他の酵素の誘導にも使われたりしていますね。この場合特異的な誘導かどうかは判りません。他の細胞でもやってみようと思っています。
《堀川報告》培養された哺乳動物細胞を用いての体細胞遺伝子学の研究はPuckら(1955、1956)により微生物遺伝学の分野で常用されているコロニー形成法の導入によって著しく進歩した。例えば体細胞遺伝学の分野では以来この方法によって薬剤耐性細胞、栄養要求性細胞、温度感受性細胞等多くの遺伝的に有用な細胞株が分離されている。またこうした各種変異細胞株を用いてX線をはじめとする各種物理化学的要因の処理によって誘発される体細胞レベルでの突然変異率あるいは復帰突然変異(reversion)率の算定とか、その機構の解析がPuck一派、Chu一派、あるいはBridgesらによって精力的に進められるようになった。 だが微生物遺伝学の分野で常用されているレプリカ培養法が培養された哺乳動物細胞には適用出来ないという宿命は何とも悲しいことで、これまで体細胞レベルでの遺伝学的研究の発展を何かと邪魔し続けてきたのも事実であると云える。最近に到ってGoldsbyとZipser(1969)は培養哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を開発したが、当教室においてはこの方法を更に改良し、より簡単に、しかもより広く使用出来る系として確立した。(この方法についてはExptl.Cell Res.,68,476(1971)をみていただくとして)、この方法を用いるとある細胞株から変異細胞の分離とか、またそのpurificationも簡単に出来るし、更にはこうした細胞を使って体細胞突然変異の研究も容易に進めることが可能であると思われる。今回はこのレプリカ培養法の系を使用して私共が進めている体細胞突然変異の研究について簡単に紹介する。 90%Eagle MEM+N18mediumと10%dialyzed Calf serumから成る完全培地中で培養されたChinese hamster hai細胞をMicro Test II-Tissue Culture Plate(Geteway International Inc.,Catalog Mo.3040)の96個の穴の中にそれぞれ1個づつ植え込み、約10日間培養することによりmaster plateを作る。ついで各穴の中で増殖した単層細胞をトリプシンEDTA溶液で剥がし、hand replicatorでもって各穴の中の細胞液を新しい17枚のreplica plateに移す。最初のmaster plateと1枚の新しいreplica plateの各穴に前記の完全培地を加え、37℃で再度培養し、一方残る16枚のreplica plateのうち2枚づつに完全培地からL-alanineあるいはL-proline、L-asparagine、L-aspartic acid、L-serine、glycine、hypoxanthine、thymidineのいづれか1つを抜いた培地を加えて37℃で培養する。約10日間培養後、倒立顕微鏡下でmaster plateからreplica plate上の同一場所(穴)に移された細胞クローンの成長を調べる。このようにして上記栄養物質に対する非要求株、あるいは個々のアミノ酸に対する要求株を分離することが出来る。 現在このようにして分離したalanine、asparagine、aspartic acid、proline、hypoxanthine、glutamic acid非要求株をX線、UV、4-NQO、MNNGおよびその他の化学薬剤で処理することによって、出現する要求株への突然変異率の算定、およびその変異誘発の機序を解析するための準備を進めている。
:質疑応答:[松村]穴からtransferする時はどうするのですか。[堀川]全部拾っては大変です。このmutantはその代かぎりで捨ててprototrophだけ拾っています。この細胞にX線、4-NQOなど処理してmutantを拾うつもりです。 [勝田]非要求性といっても不要ではないのですね。アミノ酸の場合可欠アミノ酸は入れない培地でも培養後には培地に存在しています。細胞がどんどん作ってしまうのです。 [佐藤茂]透析血清の中の蛋白が分解してアミノ酸を供給していませんか。 [黒木]Dr.Eagleの論文に透析血清からアミノ酸が出てくるというのがあります。 [堀川]8コのアミノ酸を抜いてしまうと増殖しないという系がとれていますから、これがcontrolになると思います。何故初めからこんなに多くの変異株が出てくるのかが不思議です。
《山田報告》ConAによる細胞表面荷電の修飾作用についての其の後の成績を書きます。ラット腹水肝癌Ah66F細胞に従来通りの条件で、3種のhemagglutinatesと接触させた後の電気泳動度の増減をみました(図を呈示)。細胞表面の糖鎖の末端より若干深い位置に存在するMannose、N-acethyl glucosamineとそれぞれへ都合すると考へられているConA及びPHAはAH66Fの表面荷電に同様な変化を與へましたが、末端のFucoseと結合すると考へられているうなぎ血清は表面荷電を低下させるのみでした(ひと赤血球の表面糖鎖分子の配列推定図を呈示)。 次にこのうなぎ血清とConAを交互にラット腹水肝癌AH66Fに作用させてみた結果(図を呈示)、ConAによる癌細胞の泳動度の増加を若干抑制するかの感がありますが、その程度は著明でなく、特にうなぎ血清をあとから作用させると、ConAの作用には殆んど影響がありません。 (But)2cAMPのConA作用に及ぼす影響: 最近(But)2cAMP−dibuthylic-AMP−が培養細胞の形態を変化させ、特に癌細胞にContact inhibitionを生ぜしめると云う報告があり、この物質が表面膜に変化を與える可能性が考へられますので、この物質の細胞表面荷電に及ぼす直接作用を電気泳動法によりしらべてみました。 しかしただ(But)2cAMPと混合しても肝癌細胞の表面荷電には著明な変化を與へませんでした(表を呈示)。しかし、ついでにConAの細胞表面に及ぼす作用に対する影響をしらべた所、明らかにConAの作用に対して拮抗するかの成績を得ました。肝癌細胞のみならず、0.001%トリプシン処理した再生肝細胞にも同様な作用を認めました(表を呈示)。 この(But)2cAMPがConAの作用を抑制する効果が、その生物學的作用であるか否かは今後の検討によらねばなりません。或いはcAMPの本来の生理作用とは違うのかもしれません。しかし若しcAMPの生物作用による抑制ならば、この研究は面白くなりさうです。 :質疑応答:[堀川]ConA→DBcAMPという処理をしてみましたか。[山田]DBcAMPはあとから作用させるより、予め処理しておいた方が効果があります。 [勝田]処理後の細胞について生死判別をしていますか。 [山田]していませんでしたが、やってみます。DBcAMPで癌細胞が正常細胞に分化するというのは、信じ難いですね。 [佐藤茂]DBcAMPだけでなく、cAMP、AMPなどの作用もみておくとcAMP本来の作用かどうか判るでしょう。 [野瀬]ブチリック酸もみてみるとよいでしょう。 [山田]cAMPについてはやってみましたが、中和しないで使ったのでpHが下がってしまい、うまくゆきませんでした。 [堀川]Contact inhibitionに対するConAの作用と電気泳動でのConAの作用の間に相関はありますか。 [山田]現象としては平行しています。しかし荷電の上昇が凝集するという現象と直接関係があるかどうかは判りません。とにかく電気泳動は大変敏感なので、よほど対照をしっかりとっておかないと、はっきりした結論は得られないと思っています。
《高木報告》培養内悪性化の示標についてin vitroで細胞の癌化を証明しうる方法を検討しているが、その1つとして培地条件、とくに血清因子の正常および腫瘍細胞におよぼす影響を観察している。 正常細胞としてRFL、腫瘍細胞としてRRLC-11を用いた。 現在までの液体培地によるPEの成績をまとめると次の通りであった。
さらにPEの低下に関して、本実験では、細胞をtrypsin消化後MEMに浮遊させて、serum freeの状態で細胞数算定および稀釋など一連の操作を行った。その間の細胞の障害も考えられるためtrypsin消化後にtrypsin inhibitorであるtrasylolを加える実験をRFL・C-5細胞について行った。(表を呈示)Trasylol 50〜500u/mlをtrypsin solutionに加えることにより、RFL・C-5の本来のPEである80〜85%へPEが回復した。 今後の実験では細胞trypsin消化後、Trasylolを応用する予定である。
:質疑応答:[勝田]限外濾過で濃縮する時、低分子の濃度に気をつけて下さい。[滝井]この場合は内液を使っていますから、塩については心配ないと思います。 [佐藤茂]透析もうまくやれば、そんなにvolumeは増えないはずです。 [黒木]この実験の目的は何ですか。 [滝井]Dr.Todaroのserum factorが腫瘍性のマーカーになるという仕事を確かめて使えるようなら利用したいと思っています。 [黒木]この方法でserum factorが完全に無くなったという事は確認してありますか。 [滝井]今の所Dr.Todaroの文献どおりやってみるつもりです。
《野瀬報告》Alkaline phosphataseの活性誘導(4)Dibutyryl cAMP(DBC)によって誘導されたalkaline phosphatase活性は、DBC除去によりどう変化するかを見た(図を呈示)。一度上昇した活性はDBCが存在しないと直ちに減少し約4日でほぼ元のレベルに回復する。この減少の半減期は約42時間であった。このことは細胞内ではALP活性が不安定でありDBCの効果も持続的でないことを示唆する。 ALP活性そのものの安定性を見るため、JTC-21・P3培養液中に放出されたALP(月報7208)を酵素源とし、これを37℃でincubateした後、活性を測定した(図を呈示)。4日間に全く活性の変化はなく、ALPは安定であることがわかる。従って前記の結果は細胞がactiveに酵素を失活させていることを示している。 JTC-21・P3細胞はALP-I活性をconstitutiveに保持しているが、この非活性はActinomycin処理では低下せず、cycloheximideによって低下した。この事から、恐らくALP-Iに対するmRNAは安定で、細胞中に常に存在し、非活性が一定なのは分解と合成のバランスの上に成り立っていると想像される。 次にALP活性を生化学的な方法以外に組織化学的に検出する方法を試みた。染色法はBurnstoneの方法にならった。細胞の固定はまだ条件の検討中であるが、固定しなくても染まるようである。JTC-25・P3細胞をDBC 0.5mM、theophyllin 1mMで4日間処理した後、この方法で染色すると、ALP陽性の細胞は全体の15%前後しかなかった。活性として全細胞を破壊して測定すると検出できない細胞間の不均一性がこの方法で明らかになると思われる。ALP陽性細胞は、形態的に、DBCの作用で突起を長く伸ばし細胞質が丸まったものより平べったい細胞に多い傾向があった。
:質疑応答:[堀川]ALP誘導の多相性は遺伝的な問題ですか。コロニーレベルで染めてありますか。[野瀬]今使っている系はクローニングして生化学的に誘導がかかるものです。合成培地系の細胞はコロニーレベルでの仕事が難しいので、まだしてみていません。 [勝田]染まる染まらないが遺伝的なものか、cell cycleの問題なのかをつきとめる必要がありますね。 [山田]どういう染色法ですか。生きているままで染まるというのは、よほど小さな色素粒なのでしょうか。 [野瀬]この酵素は膜の外側にあるので基質が細胞内に入らなくても発色するのではないでしょうか。 [山田]膜の透過性とは関係ないのですね。 [堀川]しかし、固定すると染まる細胞が多くなるというのは、矢張り細胞膜の透過性の変化によるものかも知れませんし、酵素活性そのものと発色反応との関係もよくチェックする方がよいでしょう。 [勝田]DMSOなど添加すると透過が早くなって染まりがよくなりませんか。 [野瀬]DMSOは酵素活性そのものを誘導する作用があります。 [堀川]cAMPを除いてから活性が落ちるのに4日間もかかるというのはmRNAのturn over rateで説明するのは少し難しいですね。それからJTC-21・P3とJTC-25・P3の関係は・・・。 [勝田]なぎさ変異の1番目と5番目で、イノシトール要求とか形態とか性質が非常に異なる系です。 [堀川]Genetic transformationも試みてみましたか。 [野瀬]今のところ、まだ出来ていません。 [佐藤二]胎児の段階のALPはどうですか。 [野瀬]小腸の発生段階などALP活性が高いそうです。 [山田]ALPで癌の原発を調べられるという説もありますね。 [堀川]世代時間が30時間で、誘導のピークに達するのが6日というと条件作りにずい分時間がかかりますね。 [山田]癌と関係がなさそうだというのはどうしてですか。 [野瀬]この酵素の誘導は反応が可逆的なので、癌とは関係ないと思っています。 [山田]癌と関係がなさそうな一過性の反応だという事が判るのも癌研究の一つではないでしょうか。 [堀川]系が沢山あるのがいいですね。だんだん面白いことが判りそうですね。synchronous cultureが出来るともっとはっきりするでしょう。 [佐藤茂]cAMPで活性を上昇させた時の細胞の増殖はどうなりますか。 [野瀬]cAMPそのものはむしろ増殖を促進しますが、一緒に添加するテオフィリンが増殖を阻害します。 [佐藤茂]増殖を止める位の濃度で処理すると全部染まったりしないでしょうか。
《藤井報告》
:質疑応答:[佐藤茂]感作しない系ではどうですか。[藤井]全然感作しないとリンパ球が無くなってしまいます。幼若化させるための抗原感作にPAHを使って対照にしようと思っています。 [勝田]幼若化は形態的に確認できますか。 [藤井]今の所、H3-TdRの取り込みに差があるので、幼若化だと考えていますが、形態と平行しているかどうかは判りません。 [佐藤二]培地に異種血清を使うと感作される事になりませんか。 [藤井]マウスの場合は仔牛血清を使っても対照には殆ど幼若化はありません。 [佐藤茂]H3TdRよりC14TdRの方が技術的によいと思いますから検討されたら・・・。 [堀川]しかし実験系としては、非常に敏感でいいですね。
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