【勝田班月報:7212:RRLC-11の放出する毒性物質】§各種ラッテ肝癌細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:これまで肝癌AH-130及びAH-7974と、それらの培養株細胞が、培地中に正常ラッテ肝細胞を阻害するような毒性代謝物質を放出することを報告してきた。これが両肝癌だけの特性であるのか、各種肝癌に共通した特性であるのか、を偵察するため、次の各種細胞を4日間培養した培地をSephadexG-10或はG-25で粗分劃し(その前にDiafilterで限外濾過し、低分子だけにしてある)正常ラッテ肝由来のRLC-10(2)の培養に添加して、3日間の細胞増殖度を測ってみた。先ず、細胞を加えていない、合成培地DM-145をSephadexG-10或はG-25で分劃し、230mμでの吸収曲線をみた(図を呈示)。 [細胞]8種:JTC-1(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-2(ラッテ腹水肝癌AH-130由来)、JTC-15(ラッテ腹水肝癌AH-66由来・可移植性が低い)、JTC-16(ラッテ腹水肝癌AH-7974由来)、JTC-16・P3(JTC-16の完全合成培地内継代亜株)、JTC-27(ラッテ腹水肝癌AH-601由来)、CulbTC(4NQOで培養内癌化したRLT-2の復元腫瘍の再培養株)、RLC-10(2)(対照として、肝癌でないラッテ肝細胞株。テストに用いた株と同株)。 (図を呈示)結果は、縦軸に3日間の<実験群の増殖率>を<無添加の対照群の増殖率>で割った%をとった。これまで、毒性物質の分劃をすすめるとき、その非活性の計算の根拠に困っていたのであるが、今後はこの方法を採用したいと思う。 G-10、G-25で分劃したものは、Void volumeをすて塩の出てくる手前までを凍結乾燥し、乾燥重量を測って培地に加えた。判ったことは、肝癌培地は、いずれも濃度に比例してRLC-10(2)の増殖を抑えていること、但しその抑え方は、G-10とG-25とで必ずしも平行していないこと、RLC-10(2)の培地はむしろ増殖を促進していること、などであろう。 これにより、われわれの追っている毒性物質は各種肝癌に共通したものである疑が濃厚になってきた。またRLC-10(2)の培地の分劃が増殖を促進することより、いわゆるconditioned medium中の低分子物質の役割、このような粗分劃によってもconditioned mediumの効果を促進できる可能性などを考えさせられることになる。
:質疑応答:[高木]限外濾過はどういう方法でしていますか。[高岡]日本真空のdiafilterを使っています。分子量10,000以下の濾液を凍結乾燥してカラムへかけています。 [山田]RLC-10(2)を培養した培地は自らの増殖を促進するのですね。 [勝田]一種のconditioned mediumと考えられます。 [堀川]Conditined mediumだけでは説明がつかないのではないでしょうか。Homoとheteroの問題もありますから。 [黒木]これらの分劃の4mg/mlは分劃前の培地の何%に相当するのですか。 [高岡]40%です。この段階では非活性は上がっていません。
《高木報告》
:質疑応答:[堀川]細胞の電顕写真でみつかった粒子と超遠心で落とした粒子とで大きさに違いがありますか。又培養していない培地を超遠心にかけた物にその粒子は見つかりませんか。[高木]遠心で集めた場合の方がずっと小さく1/4以下です。培養しない培地からは出てきません。 [黒木]今まで知られているウィルスと同定できませんか。配列などから・・・。 [高木]こんなのは見た事もないと言われました。 [山田]Ratの内皮細胞を培養して電顕でみましたら、C型ウィルスがみられました。この場合毒性物質とウィルスガ同一のものかどうか、まだ問題ですね。 [吉田]Ratに特異性はあるのですか。又ウィルスそのものの作用でしょうか。 [高木]Rat以外の細胞ではみていません。 [勝田]耐熱性がない所から、あまり低分子の代謝産物とは考えにくいですね。 [高木]化学発癌との関係が難しくなりますね。化学発癌させた細胞にCPが出るかどうかも調べてみる予定です。
《堀川報告》HeLaS3細胞をMNNGで処理したあとBUdR−可視光線法を用いてX線感受性細胞(SM-1a)及び抵抗性細胞(RM-1b)を分離したことについては“研究連絡月報”No.7209において述べたが、今回はこれら細胞株について若干の分析を行ったので、これらについて報告する。まず、SM-1a細胞、RM-1b細胞、及びHeLaS3原株細胞における細胞当りのsulfosalicylic acid溶性SH(non-protein SH)量をEllman法によって培養一週間にわたり定量した(図を呈示)。増殖期においてnon-protein SH量は抵抗性細胞(RM-1b)において多く、感受性細胞(SM-1a)では少くなっていることがわかる。 こうした結果はSHがX線のradical scavengerとして働くと考える今日の放射線細胞生物学的な考えと照合した場合、抵抗性細胞、感受性細胞の存在の可能性をうまく説明してくれる。これを反映してか、抵抗性細胞(RM-1b)および感受性細胞(SM-1a)を5000R照射した直後のDNAのsingle strand breaksをアルカリ性蔗糖勾配遠心法で分析した場合(図を呈示)、感受性細胞の方が僅かに多くの切断が生じるという結果が得られている。勿論この程度の切断では両細胞株ともに約30分間のincubationで切断DNAは再結合されてもとのDNAに修復される。(尚感受性細胞の方が切断量が多そうだという結果については現在更に検討中)。さて、一方東大医科研癌細胞学研究部からいただいたL・P3細胞および、これからCO60、γ線の反復照射によって得たL・P3γ細胞(金沢にきてから実験の都合上適当にこの名前にしている)について同様に感受性差等を検討しているので、これらについて現在までの結果を報告する。L・P3細胞、L・P3γ細胞ともに医科研癌細胞学研究部ではMEMのみで継代されているが、これではコロニー形成法による線量−生存率曲線も仲々描けないので、金沢に来てからは5%牛血清を添加して継代及び実験を行っている。 まず結果についてであるが、5%牛血清の添加継代培養によってもL・P3細胞とL・P3γ細胞のもともとの形態的差異はそのまま保持されており、Cell growthを調べると(図を呈示)doubling timeでみるとL・P3γ細胞の方が僅かに長く、増殖能はL・P3細胞に比べてやや緩慢である。 一方、コロニー形成能でみた2者のX線に対する生存率曲線は(図を呈示)、明らかにL・P3γ細胞がX線に対して抵抗性であることがわかる。これらの細胞株は今後上記HeLaS3細胞から得たX線抵抗性及び感受性細胞株とともに放射線感受性支配要因の解析にすぐれた材料となる。現在そのための実験が進められている。
:質疑応答:[黒木]UVsensitiveなHeLaの感受性については、酵素の熱安定性、osmotic shockに対する安定性を調べることなどすれば、定量的に出せるでしょう。[堀川]そうですね。UVの場合は感受性細胞が不安定になることは無いのに、X線感受性の細胞は何かとても不安定な細胞ですね。 [吉田]L・P3CO3の染色体組成はどうなっていますか。耐性細胞の場合に、染色体数が増えるとmozaicになる。それが耐性に反映しているとは考えられませんか。 [堀川]植物細胞では耐性が出来ると染色体は増えてゆきます。動物細胞ではγ耐性株などは染色体数はずっと少なくなります。 [吉田]動物細胞では染色体のploidyはそう増えられないのですね。それでもrecombinationによって安定な耐性株が出来るのでしょう。 [堀川]植物細胞で耐性が出来ると染色体数が増えるという実験をしたスパローは、染色体が増えると遺伝子も増えて耐性になると考えています。 [野瀬]Ploidyの多い細胞はDNA量も多いのでしょうか。 [堀川]DNA量がploidyの増加と平行して増えるという事を確かめた実験があります。 [吉田]SH量の変化は面白いと思いますが、細胞のどこにあるSHですか。 [堀川]細胞全体のSH量を測っています。 [吉田]どこのSHだか調べられませんか。 [堀川]定量値1点をとるのに細胞を10の9乗必要としますから、細胞を分劃してどこのSHの変動かを調べるというのは量的に難しいですね。 [山田]定量法も難しいですね。SHの機能は判っていますか。 [堀川]Radical scavengerだという事は判っています。放射線が2次的に出すfree radicalを減らします。Cell cycleの感受性もSH剤の添加で変化します。 [永井]物としてfreeのSHはどんな物ですか。glutathione、cysteineなどですか。 [堀川]はっきりしていませんが、そんなところです。 [黒木]Glutathioneが多いと発癌剤と結合して解毒される事がありますから、そういう効き方も考えられますね。 [山田]SHの定量にはくれぐれも気をつけて下さい。 [永井]一つのSH剤を測ってみるのもよいでしょう。
《山田報告》細胞電気泳動的な性格と、染色体数及びその分布は密接な関係がありさうな感が前々からありましたので、今回相互を比較して検索してみたところ、やはり相関は明らかになりました。まず腹水癌細胞三系、ラット腹水肝癌AH66F、AH62F、マウスリンパ性腹水白血病細胞L1210についてのその泳動度と、染色体分布を比較してみました(図を呈示)。電気泳動度パターンは増殖期及び移植末期それぞれの成績を示してありますが、その平均泳動度と染色体のModal Numberは比例し、またその分布も略々平行関係にありさうです。そこで次に培養ラット肝細胞及びその変異細胞についてしらべました(表と図を呈示)。初めに染色体の分布の程度をmode周辺の分布域の幅のみをとりあげて泳動度測定時の標準誤差とを比較してみました。両者はRLT-5、Cule及びRLT-4を除くと略々平行関係にある様です。電気泳動度の分布はその増殖状態や細胞採取の技術的ミス及び細胞変性により多少変動しますので、この程度の相関は意味があるのではないかと考へました。 次に平均泳動度と染色体modal numberとを比較してみました(図を呈示)。この両者はかなり良く比例する様です。即ちこれまで測定して来た細胞の電気泳動度及びその分布はそれぞれの染色体数及びその分布とかなり密接な関係がある様に思われます。
:質疑応答:[吉田]AH-66F、AH-62Fはラッテ、L1210はマウスですから一緒にして比較するのは一寸まずいですね。ラッテの系で染色体数の少ないものを選んで入れた方がよいでしょう。[堀川]染色体数が多いと泳動度が早くなるという事をどう考えますか。 [吉田]染色体が多いと細胞が重くなる? [山田]細胞表面の性質も遺伝子の支配を受けていますから、何か染色体数と膜のチャージの間に関係があるのではないでしょうか。 [堀川]とすると、2倍体、3倍体の細胞でhybidを作って実験すると面白いでしょうね。 [吉田]エールリッヒ乳癌には、2倍体、3倍体、4倍体で継代されているのがありますから、よい材料になると思いますよ。 [山田]それはいいですね。ぜひやってみましょう。 [吉田]Mouseのfibroblastを培養していると培養初期は2倍体、それから4倍体になり、次に3倍体あたりに減少した時に悪性化するという報告があります。その各時期の泳動度を染色体と一緒に調べてみるのも面白いでしょうね。 [山田]ノイラミニダーゼに対する感受性が、細胞の悪性化につれて変化するという事も同時に確認できますね。 [藤井]転移しやすい癌と、しにくい癌との間に泳動度の違いはありますか。 [山田]同じ条件で細胞を集める事が難しいので調べてありません。 [藤井]転移と染色体の間に関係がありますか。 [吉田]4倍対の方が大きいので、血管内にひっかかりやすくて転移が多くなると考えている人もありますね。転移した細胞を調べると4倍体が多いようです。
《野瀬報告》4-NQOによる細胞膜変化発ガン剤の細胞に対する作用の一つとして細胞膜の性質の変化が考えられている。この細胞膜変化としては、長期的には表面荷電、化学的組成の変化、能動輸送の変化などがあるが短期的変化は比較的知られていないと思われる。 今回はAlkaline phosphataseを細胞内酵素の一つとして、膜変化の検討を試みた。最初にL・P3細胞を4-QNOで処理し(処理法を呈示)、これをD-液に懸濁し、ALP-II活性の細胞外への放出を比較した。(表を呈示)無処理の細胞は細胞外にALP-IIをほとんど放出しないが、Deoxycholate、Triton X-100などを加えると30〜130%程度の活性が細胞外に流出する。これに対し、4-NQO処理細胞は、界面活性剤を加えなくても20〜30%の活性が細胞外に検出され、細胞膜が不安定になっていることが示唆された。 次に、膜結合性酵素の一つであるALP-Iを持つRLC-10を用いて酵素の膜結合性を検討した。実験の方法は、超音波により細胞を破壊し、分劃遠心(図を呈示)を行ない、各分劃のALP-Iを測定した。ALP-Iは18,500g〜24,000gの範囲に50%以上沈でんとして回収される。この沈でんは細胞膜の破片と考えられ、ここに結合しているALP-IはTriton X-100、0.1%の処理でほとんど上清に移行する。4-NQO、1x10-6乗M、40時間処理した細胞および無処理の細胞を同様に超音波で破壊し、24,000g30分の遠心を行ない沈でん、上清の各分劃中ALP-Iを測定した(表を呈示)。4-NQO処理細胞ではALP-Iの上清、沈でんへの分布が変化している(4NQO処理細胞のALP-I活性は上清で減少し沈殿で増加する)。この結果が膜のどんな変化と対応するのかまだわからないが、4-NQO処理後、比較的短時間のうちにこのような変化が生じるのは興味あると思われる。
:質疑応答:[堀川]4NQOの処理を30分位にして、処理後短時間培養してから調べても同じ結果が得られるでしょうか。[野瀬]それはみてありません。 [山田]この処理条件では細胞が非特異的な融解を起こすとは考えられませんか。 [黒木]4NQOの誘導対も調べてみるとよいでしょう。 [堀川]どのcellステージで酵素を産生するのかも調べるといいですね。ある特異的な時期に酵素が合成されるようなら、その時期に4NQOを作用させたらどうなるかといった基礎的な所をしっかりおさえておくべきですね。 [高木]しかし、組織学的にみて100%染まるのではcellサイクルに関係なく産生されている酵素ではないでしょうか。 [野瀬]私もそう考えています。 [堀川]酵素の産生だけを抑える蛋白合成阻害剤はありませんか。そういうものを使って調べることも出来ますね。 [吉田]こういう酵素活性の誘導というのはセレクションによるものではないのでしょうか。ジンレベルから考えると−が+になる所の機構は一体どうなっているのでしょう。 [野瀬]遺伝子としては皆持っているが、マスクされていると活性が無い・・・という事だと思いますが・・・。
《藤井報告》
:質疑応答:[山田]私にも経験があるのですが、こういう実験では抗原性にもリンパ球の側にもバラツキがあって、その二つの因子の組合わせをひっくるめて結果としてみるから、解析の仕様がなくなってしまいますね。抗原性だけでも別に調べられないでしょうか。[藤井]腫瘍特異抗原があるかどうかをみるのを目的としています。特異性、抗原の問題はヒトの癌では扱えませんね。 [山田]もう少し分析できて解析できれば、サイミジンの摂り込みが少ないが、反応はあるのだというデータも活かせるのではないでしょうか。 [勝田]動物実験では化学発癌剤で作った癌の方が、自然発癌より抗原性が強いという報告もあります。 [藤井]化学物質によるものでもMCAによる癌の抗原性は強いが、ウレアによるものは弱いというのがあります。 [山田]In vitroでの自然悪性化の場合はポピュレーションの問題も考えなくてはなりませんね。全部が同じように悪性化していないかも知れません。 [黒木]ハイデルバーガーの所でも自然悪性化系は抗原性が弱いと云っています。 [藤井]動物実験でなら、化学発癌の過程での癌に対する宿主の反応をこういう方法で調べてゆけるだろうと考えています。 [山田]癌の出来はじめ程、生体に強い反応を起こさせるという実験がありますね。 [吉田]染色体の上ではウィルス発癌のものは、たいてい宿主の正常の染色体構成からあまり変わっていないが、MCAで悪性化したものなどはdeviationが大きい。染色体の上でのdeviationが大きくなると抗原性が大きく変化するとは考えられませんか。 [勝田]そういう所をがっちりおさえて貰えると良いのですがね。 [藤井]フェリチン抗体を使って細胞膜上の抗原の分布を調べている実験がありますが、そういう事がきちんと出来るといろんな事が判りますね。
《黒木報告》[レプリカ培養法による紫外線感受性細胞の分離]レプリカ培養によって紫外線感受性細胞の分離を試みた。方法は次の通りである。
現在3のstepまでであるが、いくつかの感受性クローンがとれている。(表を呈示)1%前後の高率でUV感受性細胞がとれ、目下dose-responseの詳細を検討中である。また、この方法を用いて温度感受性細胞(39℃)の分離を試みている。
:質疑応答:[堀川]UV感受性の細胞は変異率1%というと随分高い頻度ですね。UVとか温度とかで変異株を拾う場合all or nonではないという事が問題ですね。[勝田]33℃で増殖するようになるのはadaptationですか。selectionですか。 [黒木]Adaptationだと思っています。 [勝田]Adaptationだとすると実験中に又戻ってしまう心配もありますね。 [堀川]レプリカというからには、つま楊枝法よりビロード法の方がエレガントな気がしますね。 [野瀬]細菌のコロニーでも、つま楊枝法でレプリカをやっている人があります。 [堀川]UV感受性については、MNNG処理なしでも拾ってみましたか。 [黒木]やっていません。50ergのUVはwildのFM3Aでは20〜30survivalという線量です。
《佐藤二報告》(染色体数分布図を呈示)JTC-11(エールリッヒ腹水癌細胞)の3080日と3108日の時点で、単個培養された12例の培養開始後21〜24日の染色体数の分布です。その中からさらに5例のものを約40日培養した時点の染色体数の分布を調べました。2例がstem cellの変化を見、3例の分布は20日の時点と変りありません。培養内での細胞のvariationの問題、株細胞とは、細胞の恒常性等考えねばならない事が多い。
:質疑応答:[堀川]腫瘍細胞の染色体数の分布がバラツクことは良く判ったのですが、腫瘍でない細胞ではどうですか。正常な2倍体を維持できますか。[佐藤]B3というrat liver由来で600日以上培養している系は、腫瘍性をもっていなくて正2倍体です。しかし増殖は早くなっています。 [勝田]正2倍体のチェックはどうやっていますか。 [佐藤]簡単にスケッチしてテロセントリック、メタセントリックの数を数えます。 [山田]腫瘍の染色体分析ではin vivoの系を使った吉田先生のステムライン否定というのがありますね。1コの細胞を拾って移植しても増殖してくると、必ずバラツキが出るから腫瘍にはステムラインはないのだという訳です。 [佐藤]培養内でのバラツキは培養内での変異率とも併せて考えなくてはと思います。 [吉田]私はこのデータでは思ったよりずっと安定したものだなと感じました。in vivoだと宿主側から色んなselectionがかかってステムが残るという事が考えられるのですが、in vitroではもっと色んな系が出て来ても不思議はないと思います。 [佐藤]JTC-11は培養の条件に充分adaptしている系なので、もうselectされてしまっていて安定なのでしょうか。 [堀川]培養細胞の色々な変異は10-5乗〜10-6乗generationの頻度ですから、染色体レベルでも変わり得ますね。染色体の変異とchemicalな変化とが、どの程度corelateしているものでしょうか。それから正常細胞の染色体レベルの変異が腫瘍細胞の変異ほど頻度が高いのかどうか知りたいですね。 [佐藤]バラツキからみると正常細胞の方が少ないと思います。しかし正2倍体を拾ってゆくことは大変な労力がかかりますね。細胞の1コ釣は特に難しい。むしろ環境因子を考えた方が早いと思います。例えばホルモンを添加するとか。 [吉田]遺伝子のレベルの変異と染色体のレベルの変異は次元が違いますね。 [佐藤]ヒトの細胞は2倍体を頻度高く維持できますが、2倍体のまま増殖が止ります。 [堀川]生体の中での事と合わせ考えて、早く増殖させると変異が多くなるでしょうか。実験としては増殖をおとすと、例えば温度を下げるとか培地をpoorにするとかすると染色体レベルの変異が増えるでしょうか。減るでしょうか。 [勝田]増殖の問題はDNA合成の問題以外に細胞間物質の問題があると思います。どんどん増殖すると細胞間物質をためるひまがなくて、それが変異にも関係するでしょう。 [佐藤]培養細胞は癌でも正常でもない勝田班長の云う第3の細胞かも知れませんね。
《吉田報告》クマネズミの染色体多型と世界的分布クマネズミ(Rattus rattus)にはアジア型とオセアニア型があり、前者は2n=42及び後者は2n=38である。オセアニア型はアジア型のもつ4対のacrocentric染色体のRobertsonian fusionによって生じたと考えられた。アジア型は東及び東南アジアに分布するが、オセアニア型はオセアニア(オーストラリア、ニュージランド及びニューギニア)、ヨーロッパ、北米、南米、及び南アフリカまでに広く分布している。クマネズミは東南アジア大陸の原産といわれているので、アジア産クマネズミはヨーロッパへ移動する途中で、染色体のfusionが起って2n=38のオセアニア型が生じたと考えられた。2n=42と2n=38の境界線を調べるためと、両者の移行型(若し棲息するとすれば2n=40)を発見する目的をもって、私達一行4名は9月27日より11月22日まで、西南アジア、中近東方面のクマネズミの染色体の調査を行った。調査の結果は(分布図を呈示)、2n=38と2n=42の境界はインド、パキスタンの中央部を走り、カスピ海附近に抜けている。またセイロン島のKandyで両者の移行型すなわち2n=40の染色体をもつクマネズミが発見された。 |