【勝田班月報:7303:SytochalasinBによる細胞の無核化】

《勝田報告》

 ラット肝癌細胞の放出する毒性代謝物質についての研究

     
  1. 各種細胞からの代謝物質の毒性試験:

     細胞を4日間培養した後、その培地をSephadexG-10及びG-25で分劃し、それをRLC-10(2)(ラット肝細胞、可移植性なし)、JTC-25・P3(ラット肝由来、なぎさ変異、完全合成培地内培養株)の培地に添加してみた(図を呈示)。培地はJTC-1(AH-130由来)、JTC-15(AH-66由来)、JTC-16(AH-7974由来)、JTC-16・P3(同、完全合成培地内継代)の細胞からとった。RLC-10(2)、JTC-25・P3ともに、各種肝癌培地添加によって増殖を阻害された。JTC-15は可移植率の低い細胞株であるが、培養後培地の細胞毒性も他の肝癌より低い。JTC-16・P3培地が最も細胞毒性が強い。またJTC-16培地をG-25、Dowex50、IRC50を順次にと通して得られた分劃は、G-25のみのものに較べて比活性上昇はみられなかった。

     

  2. JTC-16細胞(ラット肝癌AH-7974由来)の培地分劃の各種細胞に対する影響:

     JTC-16を4日間培養後の培地をSephadexG-25、Dowex-50H+で分劃し、そのアルカリ性分劃を採取して各種細胞の培地に添加してみた(表を呈示)。これは形態学的にしらべた結果であるが、正常ラット肝(RLC-10)は著明に阻害され、正常ラット肺センイ芽細胞(RLG-1)も若干阻害されている。しかしラット腹水肝癌JTC-15(AH-66)、JTC-16(AH-7974)、培養内自然発癌RLC-10B、養内4NQO処理による癌化CQ#60の各系は、何れも阻害されていない。

    AH-7974由来で完全合成培地内継代株のJTC-16・P3の培養培地からの分劃を各種細胞の培地に添加した(図を呈示)。最高濃度の4mg/mlのところでは各種細胞いずれも阻害を受けているが、2mg/mlでは細胞の種類によって(正常肝由来は著明に増殖阻害を受ける)障害度にかなり差がみられ、肝癌細胞は障害され難いことが判る。

     肝癌の毒性代謝産物が、あるいはSpermineかSpermidineではないかとの仮定の下に、RLC-10(2)細胞に対する影響をしらべた結果(図を呈示)、μgの単位で強烈な細胞毒性が示されている。しかしこの結果からすぐ同定することは困難である。



《永井報告》

 §ラッテ腹水肝癌AH-7974細胞の培地内に放出する毒性代謝物質:化学的プロファイル

 これまでラッテ腹水肝癌細胞AH-7974が培地内に放出する毒性物質について化学的な面から追究をおこなってきた。ここでは、これまでの研究成績を振り返って、一つの総括をおこない、今後の研究への足がかりとしたい。

     
  • 総括-1:毒性代謝物質は低分子で、その分子量は500を越えないであろう。

    (理由)
    SephadexG-10カラムでtripeptide〜depeptideが溶出される領域に現れること。

     

  • 総括-2:本物質は耐酸、耐アルカリ、耐熱性である。

    (理由)
    6N-HCl、105℃、18hrの酸分解処理で毒性は低下しない。時には毒性力価の上昇をみる場合があり、a complex formで存在している可能性 を示唆した。4N-NH4OH、100℃、3hrのアルカリ分解処理で毒性は低下しなかった。

     

  • 総括-3:本物質は強塩基性である。

    (理由)
    強酸性イオン交換樹脂Dowex50(H+)に強い親和性を呈したほか、弱酸性イオン交換樹脂Amberlite IRC-50(pH4.7)に対しては、普通の中、 酸性および塩基性アミノ酸の溶出される条件下で樹脂より溶離されず、強酸性下で始めて溶離されること。(注)初期の実験では、Dowex-50(H+)カラムで素通りする酸性分劃に活性を認めたことがあり、塩基性物質のみが毒性代謝物質の全てであるとは云えないかもしれない。この点は注意を要する。

     

  • 総括-4:現精製段階での毒性物質分劃には、可視、UV領域に亙って特性吸収は認められなかった。

     

  • 総括-5:毒性物質は又ヌクレオシド、ヌクレオチド、プリン系塩基である可能性は少ない。但しピリミジン系塩基である可能性は残っている。

    (理由)

    1. ヌクレオチド、ヌクレオシド(実験例:アデノシン、AMP、UMP)が95〜98%吸着される条件下の炭末で、毒性物質分劃を処理した時に、約50%の毒性活性しか吸着されなかったこと。
    2. 6N-HCl、100℃、18hrの酸分解処理で毒性力価の低下をみなかったこと(総括-2を参照)は、この条件下でプリン系塩基が破壊を受けることから、本毒性物質がプリン系物質でないことを意味している。

     

  • 総括-6:本物質がニンヒドリン陽性物質、アミノ基をもつ化合物かどうかについては、現段階では、まだ結論は出ていない。

    (理由)
    ペーパークロマトグラム上で、確かにニンヒドリン陽性物質が幾つか検出されるが、その各々を分離しておらず、今後の精製段階での再検討が必要である。

     

  • 総括-7:高圧ロ紙電気泳動を行った後、ロ紙各部分より泳動された物質の溶出を行い毒性力価を検定したが、どの部分からの溶出液についても、毒性は検出されなかった。この原因としては、総括-3に述べたように本物質が強塩基性であるために、泳動度が高く、泳動され過ぎてしまった(−極へ)ためロ紙より回収されなかったと考えるか、或は、その可能性は低いが、本物質が揮発性のため回収段階で蒸発消失してしまったとも考えられる。現在、前者の可能性を推定している。

 以上述べたように、本毒性質の物理的、化学的性状については、一応の結論の出せる段階まで来ており、憶測ではあるが、ポリアミン系、ピリミジン系、或いはアミノ糖系の塩基性物質と予想される。精製分離系統も、Amberlite IRC-50による系が確立されており、今後は多量のstarting materialを得て、単離を試みる段階に到ったと云えよう。また、亜硝酸ソーダによる処理で脱アミノ反応を試み、〜NH2 group(例えばアミノ糖)の可能性があるかどうかを探ることなど、種々の計画が現在たてられている。



 

:質疑応答:

[堀川]この毒性物質は細胞のどこをアタックするのですか。

[勝田]合成系をやっつけるというより、もっと積極的に殺しているようですね。

[山田]合成系をアタックする場合は、先ず核に異常が起こるはずですね。

[松村]スペルミン、スペルミジンは癌細胞に対しても毒性をもっていますか。

[藤井]なぎさ変異の細胞に対してはどうでしょうか。

[高岡]まだJTC-25・P3についてのデータしか持っていません。

[永井]こういう物質で癌細胞かどうか同定できると面白いですね。

[堀川]JTC-16の培養液からとれる物は、スペルミンそのものではないが、スペルミンに一寸修飾が加えられたようなものかも知れませんね。

[永井]低分子物質の分劃は塩との分離が難しいのが難点ですね。

[勝田]今のところ、はっきりしているのはラッテの腹水肝癌由来の培養細胞は強弱はあっても皆、培地中に正常肝細胞に対する毒性物質を出しているということです。まずはJTC-16を材料にしてその毒性物質が何かを決定して、それから他の肝癌の出すものを同定しようとしているのです。

[乾 ]培地からだけとれる物ですか。細胞をすりつぶしても出てきませんか。

[勝田]そもそも端緒は双子管培養で液層を通じての相互作用をみたことから始まっているのです。ですからその液層を先ず分析したのは、その線を通している訳です。 [藤井]担癌動物の血清中にはその物質は出ていませんか。

[高岡]物質としてはっきり決定されれば、その物が血清中や腹水中に出ているかどうか調べるのは簡単でしょうね。しかし材料として血清を使うのは分劃が大変です。なるべく単純な組成のものを材料にした方が分劃は楽だと思います。

[勝田]物が決まれば、診断などにも使えるかも知れません。又動物実験にもっていって免疫機構に関係があるかどうか調べてみるつもりです。

[野瀬]スペルミンを失活させると毒性はどうなるでしょうか。

[永井]そういう実験も考えていますが、スペルミンそのものではないだろうと思っています。培地に出るものという事からホルモンのようなものも考えています。



《高木報告》

     
  1. 培養内悪性化の示評について

     細胞は正常細胞としてRFLC-5細胞、腫瘍細胞としてRRLC-11細胞を使用した。

     培地はMEM、199、MEM+0.1%BP、F12などについてPEにより検討したが、ここに用いた細胞についてはMEM+0.1%BPが最も適していると思われた。従ってこれに10%の血清を加えて実験を行った。

     血清についてはTodaroらの云うSerum factor freeの血清につき検討した。Serum factorを除去する方法は硫安塩析法によった。硫安1/3飽和および1/2飽和後の上清の処理法についても種々試みたが、蒸留水で48時間透析し、さらにHanks液で12時間透析する方法がPEでみた場合一番よいことが判った。

     細胞の植込みはagarを用いる場合にはSoft agar法よりAgar plate法(黒木)の方が操作が簡便であるので、これを用いることにした。  Serum factor free牛血清につきRFLC-5およびRRLC-11細胞の増殖に及ぼす影響をみると、RFLC-5では明らかに増殖の抑制がみられ、一方RRLC-11細胞は対照と殆んど同程度の増殖を示した。

     Agar plate法による結果は先報に報告したが、その後行った実験では(表を呈示)、より良好なPEの成績を得た。先報のPEが悪かったのは細胞をまく際の技術的問題があったのだと思う。

     RFLC-5細胞はやはりcolonyを形成せず、RRLC-11細胞についてはcontrol、1/1serumでは28.6%、29.8%と有意差なく1/3serumでは5.0%のPEを示した。この方法によればRFLC-5細胞は対照血清を用いてもcolonyを作らないため1/3serumを用いた際の差は比較出来ない。今後はRFL細胞を化学発癌剤で処理直後より1/3または1/2血清を含む培地中で培養し、悪性化した細胞をより早くselect出来るか否かを検討する予定である。

     

  2. RRLC-11細胞の放出する毒性物質(virus)について

     これまでの経過を追ってdataをまとめると、

       
    1. 限外濾過されない。  
    2. 超遠心:40000rpm 2時間で上清は完全に失活する。30000rpm 1時間では部分的に上清に活性が残る。
    3. -20℃の凍結保存で少なくとも4週間は活性が保たれる。
    4. 温度:75℃30分で失活、65℃30分で部分的失活、60分ではいずれの温度でも失活、56℃30分では失活しない。  
    5. pH:酸性で活性やや弱目。  
    6. 活性は血清のlotにより影響をうけるようである。  
    7. RRLC-11の培養液をRFLC-5の培養開始と同時に作用させると3〜4日で、またfull sheetに作用させると7日位たって変性がおこる。なお変性のおこった時点で培地を集め次代のRFLC-5細胞に作用させると活性が高まり、しかもRFLC-5でこの活性は継代出来る。このことから毒性因子はvirusであることが想定される。 以下virusと記載する。  
    8. 変性をおこしかかったRFLC-5およびその培地を電顕的にみると、細胞の内外に連なった粒子を認める。培地の超遠心沈渣のnegative stainingでは連鎖状につらなった20〜30mμの粒子がみられる。RRLC-11細胞の電顕像ではこのような粒子は認めえず、C型粒子がわずかに散見される。  
    9. このvirusは鶏卵のallantoic cavityでは増殖しない。  
    10. Plaqueは作らないようである。  
    11. モルモットの血球を凝集する。継代によりtiterは32倍から最高256倍位まで上昇する。ニワトリ血球は凝集しない。37℃におくと凝集はなくなり溶血がおこる。すなわちvirusはhemolysinを有し、Neuraminidaseをもっているようである。KIO4で処理すると凝集はなくなる。血球のcarbohydrateのreceptorと結合することが分る。  
    12. Suckling ratにこのvirusを注射し、生き残ったratの血清、および家兎免疫血清でHIがみられるが、抗HVJvirus血清では抑制はみられない。  
    13. 細胞種による感受性ではRFLC-5、C-3細胞、Sg細胞(ラット唾液腺由来)、LC-14細胞(ラット肝由来)、L細胞は変性をおこす。JTC-1、RRLC-11細胞では増殖がわずか抑えられ、JTC-16、Vero細胞では対照同様増殖する。



 

:質疑応答:

[梅田]このウィルスは発癌性についてはどうなのでしょうか。

[高木]私もそれを考えて動物に接種してみましたら、はっきりした結果を得られないうちに死んでしまいました。解剖してみましたが、発育不良と肝の一部に石灰化の所見があっただけでした。 [佐藤二]培養しているだけではウィルスの存在はわからないのですか。

[高木]正常な細胞とかけ合わせないと分からないのです。

[佐藤二]人とかマウスとか他の動物由来の細胞にはどうですか。

[高木]人には無害だと思います。猿由来の細胞は変性しません。マウスについてはデータはありません。

[山田]電顕はほんの一部をみるだけですから、全くウィルス粒子がないと言い切るには相当沢山の標本をみなくてはいけませんね。

[高木]そうですね。全くないとは言い切れませんね。それからこのウィルス様のものは血清の影響を強く受けます。仔牛血清では出ないが牛胎児血清では出ます。



《山田報告》

 (But)2cAMPの細胞膜への直接作用についての基礎実験成績を報告します。(各実験毎に図表を呈示)細胞はほとんど腹水肝癌AH66Fです。

(But)2cAMP、Neuraminidase、Trypsinを相互に作用させた結果を示します。Neuraminidaseの作用条件条件は従来通りでLBC製のものを10unit用いています。(But)2cAMPを作用させると細胞の表面荷電は上昇し、しかもあらかじめneuraminidase処理しておくと、この効果は増強しました。しかもこの効果はConAの作用とは異り、シアル酸依存荷電が新たに露出するためではないことがわかります。トリプシン処理ではこの効果は変化ありません。

 またあらかじめneuraminidase処理しておいた後の(But)2cAMPの効果には定量性があり、この効果は細胞膜の特異的変化であることを確かめました。

 即ち(But)2cAMPと比較の意味で、CiAMP、AMP、Trypsinをそれぞれ作用させてみますと、(But)2cAMPに特に著明に、そしてcAMPでは軽度の泳動度増加作用があることがわかりました。即ち(But)2cAMPの特異的な作用と思われます。

 次にneuraminidase及び(But)2cAMP処理後のConAの作用をみました。ConAの泳動度上昇の効果は著しく阻害され、通常では既に細胞の凝集を起こす様な濃度でもその作用が極めて少く、100〜200μg/mlの濃度で若干の泳動度の増加をみるのみでした。

 最後に(But)2cAMPの腹水肝癌と正常及び再生肝に及ぼす効果を比較しました。先きに示しました様に肝癌細胞は(But)2cAMPにより強く反応しますが、一般に良性の肝細胞の反応は著しく弱く、両者の最も異る點は、Neuraminidase処理後の(But)2cAMPの効果です。正常肝は肝癌に比較して泳動度の増加が著しく弱い様です。この成績はまだ荒けずりの成績ですが、これから、この作用条件を充分検討し、in vitroにおける悪性化の指標の一つに(But)2cAMPの効果の違いが役に立ち得るか否かを検討して行きたいと考えています。



 

:質疑応答:

[勝田]細胞電気泳動にかける時、肝細胞はどういう方法で分離していますか。

[山田]動物から肝臓を取り出し、鋏で切ってメッシュで漉すだけです。

[梅田]生死判別はしてありますか。

[山田]してありません。

[梅田]正常肝細胞は、集め方が悪いと電顕的にみて膜に穴があく事があります。

[勝田]還流法などを利用してみたらどうですか。

[山田]私も昔ヒアルロニダーゼなど使ってみた事はありますが、酵素を使うと膜に変化が起こってよくないようです。

[堀川]しかし泳動中に色んな反応がないのは、むしろ死んだ為ではありませんか。

[山田]その点も考えて、できれば培養細胞を使いたいと思っています。

[勝田]再生肝の場合必ずしも全体が増殖している状態ではないでしょうね。

[山田]私の場合、肝臓は2/3切除して、再生というより急性肥大しているような術後2日目のものを使っています。ConAはそれ自身に荷電がないので膜の変化といっても良いと思いますが、(But)2cAMPの場合はそれ自身の荷電があるので、それが影響しているのかとも考えられますが・・・。

[梅田]Butyrateだけではどうですか。

[野瀬]Butyrateだけで起こる変化もありますね。(But)2cAMPはコルヒチンで抑えてみたらどうですか。

[堀川]というのは・・・。

[野瀬](But)2cAMPで起こる形態変化はコルヒチンで抑えられます。

[堀川](But)2cAMPを直接肝癌細胞に作用させると泳動値が減少するが、neuraminidaseで予め処理してから(But)2cAMPを作用させると上昇するというのは、(But)2cAMPの取り込み方が違ってくるからでしょうか。

[山田]そうかも知れません。

[勝田]電気泳動で捕まえられるのは本当に膜の表面の荷電だけですか。

[山田]理論的にはそのはずです。

[堀川]膜が細胞内を支配するかも知れないが、細胞内の変化が膜に影響を与える事も考えられますね。



《堀川報告》

 培養された哺乳動物細胞用のレプリカ培養法を使用してChinise hamster hai細胞から各種栄養要求株、または非要求株を分離し、これらについてforward mutationおよびreverse mutationの機構を解析しようとする試みはこれまでに報告してきたとうりである。しかし、こうした仕事を進めて行くうえで問題になってくるのは、私共の仕事も含めて、従来のPuck、Chuたちがこの方面の研究のために使用してきた細胞はいづれもChinise hamster由来の細胞であるということで、こうしたChines hamster細胞から得たデータをもとにして人間細胞におけるmutation rateあるいはmutationの機構を語るのには多少の不安がある。(図を呈示)図に示すように、紫外線照射後細胞内DNA中に誘起されたThymine dimer(TT)の除去能が細胞間で大きく異なる。つまりDNA障害修復能が多分に異なるという結果が分かっている。mouseL細胞にはTTの除去能は殆ど認められず、Chinese hamster hai(CH-hai N12 clone)では照射後12時間以内に約19%のTTを除去する能力をもち、ヒト由来HeLaS3細胞では50%のTTを切り出す能力をもっている。またこのHeLaS3細胞から当教室において分離したUV感受性株のS-2M細胞では照射後12時間以内に約9%のTTしか切り出さないことが分かってきている。こうした細胞間のTT除去能の有無はUV-specific endonucleaseの有無に関係しているようで(Alkaline sucrose gradient centrifugationの実験から示唆される)、こうした細胞株間というよりも異種起原の細胞株間のTT除去能についてみても、これ程異なるため、同一条件下でMutation rateまたはその機構を追ってみる必要性が生じてきた訳である。こういった意味において現在私共は上記栄養要求性変異実験と併行して、HeLaS3細胞、S-2M細胞、mouseL細胞、Chinese hamster hai(CH-hai N12 clone)細胞の4種を選び、8-azaguanine抵抗性を指標にしてmutation rateおよびその機構の解析をはじめた。これら4種の細胞は上記のTT除去能以外にもgrowth rate、chromosome number、UV感受性等の点で異った性質をもつため今後の解析は面白くなると思う。

 学年末で多忙のため詳細は示せなかったが、次の機会にこれらについて詳細に報告する予定である。



 

:質疑応答:

[勝田]原株にはラクトアルブミン水解物が入っているのですか。

[堀川]それにパイルベイトが入っています。

[黒木]その株は以前私が培養していた頃は、パイルベイトとセリンを添加してラクトアルブミン水解物は入っていませんでした。

[堀川]Mutationと癌化をどう関連づけたらよいのでしょうか。化学物質による変異そのものは捕まえられると思います。その変異の機構の追跡も可能だと思いますが、発癌の機構を追うとなると、パイルアップコロニーでパッパッと数を出してゆくというようなやり方でよいものかどうか・・・。何かよい指標はないものでしょうか。

[佐藤二]この実験で使っているのは殆ど癌細胞ですね。癌細胞と正常細胞とでは、変異→発癌の機構が本質的に違うのではないかと思いますが・・・。

[堀川]少なくとも変異の機構については本質的に同じだと思います。

[勝田]培養内では色んな方向への変異が始終起こっていると考えています。それを培地中のある種のペプチドがセレクションをかけているというような事も考えられるので、さっき培地にラクトアルブミン水解物を使っているのかと質問したのです。

[黒木]最新のPNASに正常人由来のリンパ球と白血病細胞とではDNA polymeraseの読み取りが違う。白血病細胞のpolymeraseは間違いが多いという論文が出ていました。癌というのは菌の突然変異のように一時的に起こるものではなく、何か連鎖的な変化の産物ではないでしょうか。

[堀川]私の実験も本当は正常由来の細胞を使いたいのですが、使いやすい系となると、こういう細胞になってしまうのです。

[梅田]ヒトの2倍体細胞からは8アザグアニン耐性株がとれないと聞いていますが、何か理由がありますか。

[堀川]出来ないというより取り扱いが大変難しいので、やらないのではないでしょうか。哺乳動物細胞は変異率の高いものと低いものとの差が大きいですね。

[梅田]それは何故でしょうか。遺伝子が多いからでしょうか。

[佐藤二]レントゲンで耐性株を拾っても、それがレントゲン照射によって変異したものなのか、突然変異によるものなのか、どうやって見分けるのですか。

[堀川]レントゲンにしろMNNGにしろmutantがinduceされると考えています。始からpopulation中にあることはあるでしょうが。私としては単なる変異と化学発癌とをどう結びつけるかが、当面の問題だと思っています。



《佐藤二郎報告》

 Donryu系ラッテの肝臓は勝田の組織片回転培養で実質細胞を選択培養できる。然し培養日数の経過と共に染色体数の変化と核型の変化を生じて形態学的似も多型性、異型性を生じ、培養850日前後で自然発癌する。

     
  1. クローニング法でdiploid cellを維持できるか?

     初代培養時第1回クローニング、培養268日目第2回クローニング、培養665日目第3回クローニングしてdiploid lineを維持している(染色体数分布図を呈示)。

     

  2. クローニングによって得た小型石垣状細胞は自然発癌して肝癌を形成した。第1回クローニング後641日、1400万個接種のもの4例の内1匹が215日目に死亡した。

     

  3. 培養581日目、601日及び626日で単個培養した肝細胞は染色体数、核型の変動が現われる。したがって単個培養の条件はかなりきびしいものと思われる。

 今後の課題として、
  1. 長期培養されている正二倍体肝細胞が正常肝細胞の機能をどのように維持しているか、或いは更に維持が可能なのか、正二倍体性肝腫瘍ができるのか。
  2. 初代培養で分離されたクローン肝細胞はすべて自然発癌するのか。
  3. 培養法或いは培地を検討することによって正二倍体をクローニングしないで維持できるかどうか。
等を検討しなければならない。要は正常肝細胞を培養で維持できる方法を見出さなければ真の意味のin vitroでの化学発癌は有り得ないということである。現状では異性度?の増強を見ているにすぎない。



 

:質疑応答:

[高木]トリプシナイズする時の材料はどの位の大きさのラッテを使うのですか。

[佐藤]生後7日です。接種細胞数を減らすと上皮性のコロニーがとれ易いですね。

[梅田]アルブミン産生能はこの4種類の内のどの細胞にあるのですか。

[佐藤]この4種類はきちんと調べてはありませんが、小さい方の上皮様細胞に産生があったと思います。しかし今培養できているものは成熟型の肝細胞ではないようです。

[乾 ]4倍体近くのピークは正4倍体ですか。

[佐藤]違います。

[乾 ]顕微分光光度計を使ってDNA量を測ってみますと、ラッテでは生後2日には4倍体はなく、1週間では15%、1カ月では40%の4倍体がありました。

[勝田]肝細胞には2核細胞が多いのですが、その4倍体は1つの核ですか。

[乾 ]1つの核です。

[梅田]G2期のものとは考えられませんか。

[乾 ]そうかも知れません。

[黒木]細胞の継代法は・・・。

[佐藤]15万個/mlで植え込み、週2回餌かえ、3週間で継代しています。

[黒木]継代しないでおく方が2倍体の維持はいいのではありませんか。

[高岡]ラッテ腹膜由来の細胞ですが、3年以上も正2倍体を保っていたのがありますが、なるべく増殖を抑えて、継代もあまり頻々とはしていません。

[佐藤]トリプシンの影響があるでしょうが、血清も関係がありそうですね。

[乾 ]正2倍体を維持していて、染色体が乱れはじめた時期では動物に接種してもtakeされないというのは、どうお考えですか。

[佐藤]悪性化に前癌のようなものがあると考えています。それからmass cultureでもsingleを拾ったものでも、動物にtakeされるようになるには培養日数がある長さ、何年かが必要なようです。

[乾 ]私の実験でMNNG処理の例ですが、処理後2倍体からずれて小さなピークが出来、動物にtakeされる時期にはそのずれたピークが大きくなっている、というのがありますが、先生のはtakeされる時期にあまり収斂しないようですね。

[黒木]cloningしないと2倍体の維持が出来ないのは、2倍体の方が増殖がおそくsaturation densityが低いので、select outされるという事ではありませんか。



《乾報告》

 Kentackyタバコ、マリハナタバコ煙の組織培養細胞に対する影響:

 今月は、昨9月〜11月スイス国立癌研滞在中の仕事の報告を致します。タバコの煙が動物に投与した時、気管支上皮に変性をおこし、又同上皮細胞の芳香族炭化水素活性化酵素の活性の上昇を誘導することが知られております。又タバコタールは培養細胞に悪性転換をもたらすことも同時に知られ、他方マリハナは直接投与により組織培養細胞に細胞学的、染色体形態的変化を誘起しないという報告が多い現状です。

 今回の実験はKentackyタバコ煙をPositive Controlに使用し、マリハナタバコ煙の人起原細胞に対する細胞学的影響を細胞核DNA量の変化、染色体数を指標として検索してみました。  材料として25才の正常男子の肺起原繊維芽細胞を用い、DulbeccosMEM+20%CS、5%炭酸ガスの条件下で培養し、単層培養直前の状態で培地を取り去り、研究所Kentacky Standeredタバコ、及び同タバコに一本当り0.5gのマリハナを混合したタバコ煙をStandered Smoking Machine(Filrona CSM12)で次の条件下で作用した。作用条件は各回の露出時間を8秒とし、58秒間隔で8回のPuffを行った。Paff直後37℃のHanksで一回洗滌後、通常の培地で培養し、作用後3、6、12、28日目の細胞を固定、一部はFeulgen染色後分裂核についてmicrofluorometryを行なった。一部は低張処理後、通常の方法でAir-dry、Giemsa染色し、染色体観察を行なった。DNA測定の結果は(図を呈示)、分裂中期後DNA量の分布の幅は、正常細胞核のそれに比して大きい値を示した。Kentacky、マリハナタバコ煙火煙作用の両者を比較すると前者ではDNA量は増大の傾向、後者では減少の傾向がみられた。分裂後期核DNA量の変化は略々分裂中期細胞核のそれと同様であるがその変量の度合が大きかった事実は、タバコ煙、マリハナタバコ煙処理細胞が核分裂の際、不均等分裂の頻度が増大することを、示唆していると考えたい。タバコ煙、マリハナタバコ煙投与後の染色体数の経時的変化は(図表を呈示)、Kentackyタバコ煙投与の染色体数の変化は、投与後3日では著明でなく、12、26日と日時の経過と共に変異細胞数が増大し、染色体数変化は増加の傾向を示した。マリハナタバコ煙投与群の染色体変異は投与後3日目に表われ、染色体数45の細胞の出現頻度は時間の経過と共に減少し、投与後26日では10%であった。これに反し相対的に染色体数47以上の細胞の出現頻度が増大し、対照に比して細胞分布の幅は大きかった。



 

:質疑応答:

[梅田]煙りにさらす時、controlはどうするのですか。乾いてしまう心配は・・・。

[乾 ]対照は同じ時間だけ煙なしでさらしておきますが、この位の時間では乾いてしまう事はありません。

[堀川]ケンタッキーとマリハナは本質的にどう違うのですか。

[乾 ]マリハナは1本当たり0.5g加えてあり、煙の粘度が高くなりますね。

[堀川]マリハナタバコは社会的問題にはなっていないのですか。

[乾 ]一過性には精神状態がオカシクなって、窓から飛び降りたりするそうです。それから白血球の培養にマリハナの主成分を加えてやると、染色体の切断が起こることが知られています。

[堀川]染色体数変化にケンタッキーとマリハナでは結果に差がみられませんが、染色体の切断はどうですか。

[乾 ]ヒトの肺細胞では切断は起こりません。ゴールデンハムスターの肺細胞で切断が起こりますが、ゴールデンハムスターは何故か他の物質でも切断が起こり易いのです。

[黒木]成分を精製できていますか。煙より培地に溶かした方が定量的でしょう。

[乾 ]白血球にはエキスを添加しました。煙の方がマイルドです。

[堀川]タバコとX線の相乗ではすごい発癌作用があると云われていますね。

[勝田]それは細胞レベルではどうですか。

[乾 ]細胞レベルでのタバコの発癌実験が少ないので、まだ判っていませんね。

[勝田]どういう事ですかね。

[堀川]どういう事が起こるのか、ぜひ細胞レベルでの実験をやってみたいですね。

[乾 ]タバコの実験は仲々条件がはっきりしなくて、やりにくいですね。

[佐藤]吸ったり止めたりというのが、どう影響するのかデータがありますか。

[勝田]ハムスターは煙草を吸った事がないから煙草煙で染色体が切断されるのかな。

[松村]この装置は煙草の煙以外の、例えば一酸化炭素などの影響はありませんか。

[乾 ]あることは有りますが、ヒトが吸う場合と同じように・・・。

[松村]一酸化炭素があっても一向に差し支えないというわけ・・・。

[堀川]8秒吸って53秒休むというのも合理的ですね。実際そんな具合に吸ってますよ。

[藤井]煙草の煙でないもので、煙だけ吸うという対照は必要ないでしょうか。

[黒木]フィルターなしではどうですか。

[乾 ]フィルターなしでこの条件では細胞が皆死んでしまいます。



《梅田報告》

     
  1. 先月の月報でしりきれとんぼみたいになって了ったのですが、次はあの結果を如何に表現したらいろいろの知見が得られるかと理屈で考えてみました。(夫々図を呈示)

     Absolute plating efficiency(APE)=No.of colonies produced/No.of Cells inoculated X100。Relative plating efficiency(RPE)=APE of the treated/APE of the control X100。Reltive transformation rate(RTR)=No.of transformed colonies in the same cultuures/No.of colonies in the treated cultures X100。Relative mutation rate(RMR)=No.of mutants colonies in the same cultures/No.of colonies in the treated cultures X100.

     Mutationをやっている人、それにならったと思われるHeidelberger、DiPaolo等の表現はAPEとRPEとRTR or RMRをy軸に、使った薬剤の濃度をx軸にとっています。之等の表現でははじめから細胞はtransformationを起すときは、一方で細胞が死に、plating effciencyが下るような薬剤の濃度を使わないといけないような考え方を前提としています。

     しかしこれでは(a)もし始めからtransformed cell populationがあってこれが使った発癌剤にresistantであるとした時もこのような線が画けそうですし、更に(b)2つ以上の発癌剤のtransformation rateを比較したい場合、各発癌剤の有効濃度が違っていると比較が非常にむずかしくなる等の問題点があります。特にcytotoxicityとtransformationの関係を云々したい場合かえって問題をむずかしくしている感もあります。即ち例えばRPEが50%になった時のTRを比較するのでないと、使った発癌剤がよりcytotoxicなのか、或はよりtransformableなのかはっきり云えないのではないかと考えたわけです。

     

  2. そこで発癌剤の濃度は消えてしまうけれども、y軸にtransformation rateを、x軸にplating efficiencyをとったらどうかと考えました。

     誰か先人がすでにこのような表現をしているかも知れませんが、とにかくこのようにしてみますと、理論的にいろいろのことが考えられます。

     

  3. 先ず(a)のSelectionの問題です。理論的なので前提として次の2るのきれいなpopulationを想定します。一方の発癌剤にsensitiveで発癌剤をかけてもtransformしない細胞のpopulation、それに対しすでにtransformしている細胞のpopulationがあり、それは発癌剤に対しある濃度まではresistantでそれ以上は濃度上昇と共に第1のpopulationの細胞と同じ様に新手いくと考えたとします。

     この2つのpopulationに対して実験した時のデータを我々の表現法で画いたとしますと、線(4)の如くなることが理論的に考えられます。−以後図の説明になる− 45°の直線でRTRが上昇し、RPEが(6)に達すると横にねるようになります。この耐性の程度がやや低いと即ち図3の(A)の(3)の如くですと、(B)の(5)のようになります。(4)の45°より下に傾斜がゆるやかになるわけです。そして(7)の点は無処理の時にもあるtransformation rateで即ちSpontaneous transformation rateでもあり、又この示す値のものはresistant tranasformed cellのsensitive untransformed cellの比と考えられます。

     ここで強調して云えることは、直線は45°以上傾斜が急にならないこと、始めからSpontaneous transformationが認められること等です。ですから逆に45°以上にたっている場合は必ずselectionよりもinductionがあったと考えてよさそうです。もちろん後でものべますが45°より以下でもすべてがselectionと云うわけでなくinduction rateは低い物質と考えて良さそうです。  

  4. 次にinductionとした場合どんな線が引けるかを考えてみました。ここでX線照射で説明されているようなtarget theoryで考えてみました。このように考える前提は発癌剤の化学作用はいろいろ説明されていますけれど、そのある特定の化学反応がある時には細胞の死に、ある時はtransformationに導く、即ち同一の化学作用が細胞のある特定の部に作用すると死に、又別の部に作用するとtransformationに働くと考えても良さそうだからです。そうするとこの夫々の特定の部をtargetとして表現して良さそうである。そこでlethal target(L)とtransformation target(T)を考え、hit(H)として之等targetを効果的にhitして夫々lethalに(plating efficiencyがおちる)、あるいはtransformationに(transformation rateがあがる)導くと考えます。

     以上の前提はすべてcell cycleの関係、発癌剤の細胞内での代謝、late effect等々無視していますが、とにかくそのように考えてT targetに又はL targetにhitされた場合、その効果が1:1の割合で表われると考えた時は図4の(A)、Tの方は少なくてL targetには沢山あたって始めて効果をあらわすと考えると図4の(B)、(C)その他が考えられます。

     そして更に夫々に細胞の中にあるT及びLの数により傾斜が変ってくることも説明されます。このことは更にのべますが、数だけでなくtargetの大きさの違いと考えても良いわけです。

     このうように考えてきますと(A)(B)(C)の3つともspontaneous transformationのある方があたり前の線なのです。本当に理想的にSpontaneous transformationがなく発癌剤によりinduceされてくる実験は(D)のようなカーブを画くであろうと想像されます。(この説明はちょっとわからないのでお教え願いたいと思っています。)

     

  5. 更に今使っている実験系の細胞のpopulationがtransformationを起して良い細胞のpopultionとtransformationは絶対に起さない細胞のpopulationの混ざったものを想定しますと図5の如く丁度selectionの時のようにある一定の時からtransformation rateは横に寝ます。この時の(1)の値が全細胞中のtransformationを起こしても良い細胞の%をあらわしています。

     

  6. 以上を前提として前回の月報にかいたデータをこの表現法であらわしてみますと、ややデータがばらついていてそれ程きれいではないのですが、殆直線となり、しかも45°よりずっと傾斜の急なものになっています。ですからSelectionでないことは間違いありません。実験によって直線が、おおまかに云って平行移動しており、下の方はspontaneous transformationを起していなくて、上の方は起していることも興味があります。一部アルカリ処理した時期があるのですが、ここではデータがそれ程厳密でないので深くは考えないことにします。

     

  7. 又mutationをやっている人のUV照射でのmutation inductionのデータを我々の表現法に切りかえてみますと傾斜のひくいものになりました。これは明らかにmutant inductionより細胞のlethelityの方にUVが高く働いていることを示します。特にUV照射の場合mutation rateがDNAの長さのうちに占める割合で決まると説明されていますし、確かにUVそのものはnon selectiveにDNAに照射されますので、mutable geneの率は始めから全DNAに比し少く、そのため傾斜が低くなると考えられます。

     それにひきかえ我々のデータは非常に良くtransformationをinduceしていると考えて良さそうです。

     

  8. ここで再びT或はL targetの数の問題にかえりますと、一つの細胞で発癌剤が変るたびにTの数が増えたり減ったりすると考えるのはどうも無理なようです。UV照射の時のnon-selective hitと違って発癌剤の場合どうもT-Targetに親和性があり、T-targetに集まってきて作用を現わしているような感じがあり、そのため傾斜は急になると考えられます。target and hit theoryそのものが非常に機械的なat randomな考え方なので親和性を説明するのは無理なのですが、しかし便宜上それをtargetの大きさ(size)で考えてみると、発癌剤が決まると相手の細胞の方のT或はL targetの大きさが夫々変り、それに応じT或はL targetにあたり易くなる。

     DiPaolo、Sacks等のtransformation実験は、形態的な判定がもしも正しいとすると、一応transformationをinduceしていると結論しても良いようである。しかし、実験により、全体にtransformation rateが上ったり下ったりする現象もあり、まだまだ問題は解決されていないのが、我々の結論です。



 

:質疑応答:

[黒木]PE/変異率で現すとかえって判りにくくなるのではありませんか。個々の濃度でみた方がよいと思います。D/D0が一番信頼できるでしょう。

[堀川]考え方としてもう少しsimpleな方が良いでしょうね。

[黒木]pHを重要視したのは何故ですか。

[梅田]私自身の実験系で、どうも発表されている他の人のデータより変異の時期が遅れるのは何故か考えているうちに、pHなどが怪しいのではないかと思いました。

[黒木]培地のpHをいくら調整しても、培養を始めると簡単に変化してしまうというdataがありますね。HEPESではpHの維持が一定になるでしょうか。

[梅田]かなり安定ですが、矢張りピッタリというわけにはゆきません。



《野瀬報告》

 Cytochalasin Bによる細胞の無核化

 Alkaline phosphatase活性の調節機構を研究するための、一つのアプローチとして細胞融合による方向を考えている。その場合、融合する細胞の片方が無核細胞であれば、その遺伝情報を考慮する必要がなく、解析が容易になると思われる。そこで、細胞の核を抜く条件の検討を行なった。

 無核化には、最近、カビの代謝産物の一つであるcytochalasin Bがよく用いられている。この薬剤を2mg/mlの濃度でDMSOに溶かし、0.5〜10μg/mlになるように培地に加えて細胞の形態を観察した。使用した細胞株はL・P3、JTC-25・P5、RLC-10、JTC-21であるが、核が著しく細胞質から突出してきたのはJTC-21であった。この細胞は元来DM-145で継代されていたが、実験に用いる際はcalf serumを2%加えてある。cytochalasin 2μg/mlの濃度で加え、2〜3時間37℃で培養するとかなりの数の細胞の核が突出してくる。これ以上の濃度では細胞質の縮退がおこり細胞に障害がある。無核の細胞は、cytochalasin B処理を24時間続けても1%程度しか出てこないので、この細胞に遠心力をかけてみた。細胞をglass cover slipに生やし、cytochalasin B処理をし、次に、Spinco SW50Lで、1万rpm 30分の遠心を行なった。この場合、遠心管内には薬剤を2μg/mlに加えた培地を入れておく。遠心後、methanol固定し、Giemusa染色して、一定視野内の有核、無核細胞を数え無核化の頻度を測定した(表を呈示)。遠心を行なうと80%以上の細胞が核を失ない、細胞質だけになった。細胞をあらかじめ薬剤で処理せずに薬剤存在下で遠心しても同様な結果が得られたので、前処理は必要ない。遠心する場合、glass cover slipが割れることが多いので多量の細胞を処理するのが困難である。

 次に無核細胞を分劃することを試みた。有核と無核とは比重が異なることが予想されるので、Ficollの密度勾配上に細胞をのせて遠心し、細胞の分布をみた(図を呈示)。この実験では、予備実験としてL・P3細胞を用いて行なった。細胞は遠心後各Ficol層に分布し、幾つかの分劃に分れた。それぞれのDNA/proteinの比を較べると、遠心管の上層に分布している細胞の方がこの比が小さく核の有無によって分劃される可能性は十分考えられる。しかしJTC-21細胞では、まだ十分量の細胞が集められないので分劃は行なっていない。

 JTC-21細胞はalkaline phosphataseIの活性が高く(比活性>10,000 units/mg protein)、その性質が安定なので、この細胞質と、この酵素活性が低い細胞とを融合して活性の変化を見たいと思っている。



 

:質疑応答:

[梅田]遠心沈殿中にカバーグラスが壊れませんか。

[野瀬]壊れます。色々やり方を工夫しています。プラスチックのカバーグラスでやり直してみようとも考えています。

[梅田]ローターはスヰングですか。

[野瀬]そうです。

[堀川]フィコールで分劃する他に、BUdR→光という処理を使ってみたらどうですか。

[野瀬]無核細胞は、そう長く生きていられないので、時間的に無理だと思いますが。

[梅田]サイトカラシンの処理前にBUdRをかけておけば後は光をあてるだけですね。

[黒木]サイトカラシンを処理してフィコールで沈殿させればどうでしょうか。

[梅田]脱核の機構はどうなっているのですか。サイトカラシンBは多核も出来ますね。

[堀川]細胞質だけの細胞の動きはありますか。

[野瀬]映画はまだ撮っていません。



《黒木報告》

 [レプリカ培養によるUV感受性細胞の分離]

 レプリカ培養方法を用いてL5178Y(DBA/2マウスリンパ球性白血病)、FM3A(C3H/HeNSaマウス乳癌細胞)よりUV-感受性細胞を分離した(分離方法の図を示す)。

     
  1. 対数増殖期の細胞にMNNGを0.05〜0.2μg/ml/h/100万個cells処置する。1時間後細胞を洗いTD-40で2日間培養する。  
  2. 平板寒天に500〜1,000ケ/90mmシャーレにまき2週間培養、コロニーを作らせる。  
  3. 四枚の平板寒天にレプリカし、No1、No3をコントロール、No2、4を50erg UV照射する。1週間培養後、コントロールには存在するが、UV照射群では小さいまたは増殖していないコロニーをコントロール群よりひろう。  
  4. 数日間短試で培養したのち、0、25、50、75ergでdose-responseカーブをとる。このとき、0.25ergは200ケ160mmシャーレ、50、75ergは2,000ケ/シャーレにまいた。四つ目シャーレ(Falcon#1065)使用。  
  5. 2週間後にコロニー数をカウントし、dose-responseカーブで、明らかに異るクローンをUV-感受性として判定する。

 [結果]

 (表を呈示)最終的にUV感受性と判定されたCloneは、L5178Yから6、FM3Aから1である。このほか現在dose-responseカーブでV37、Vq、n値を測定中のものがいくつかあるので、さらにふえるであろう。FM3AとL5178Yを比較すると、後者の方が変異率が高い。その理由はよく分らない。この1%前後の率は従来の報告よりも非常に高いが、それは一つにはレプリカ培養を用いたことと、また、細胞の特殊性があるかも知れない。変異率はMNNGの濃度と関係があるかどうかは目下MNNG 0の群をおいて調べているところである。

 (図表を呈示)UV感受性細胞のdose-responseカーブ及びD37、Dq、nをみると、D37値で約1/3〜1/2に減少している。9〜11ergという値はXero.derma pigment.の細胞とほぼ等しい。現在、これらの細胞の修復のメカニズムを行いつつある。



 

:質疑応答:

[堀川]変異率が高いですね。このUV感受性がmarkerになるかどうかが問題ですね。Xerodermaの細胞ののように感受性が高ければはっきりします。

[勝田]安定性も問題ですね。

[堀川]感受性、耐性というのはなかなか難しいですね。栄養要求の場合はall or noneでゆくのが取り柄です。

[勝田]耐性株もとっておく必要がありますね。

[黒木]今やっています。