【勝田班月報:7306:スペルミンの影響】

《勝田報告》

 §培養細胞に対するSpermineの影響について

 はじめに顕微鏡映画によってスペルミン添加後のRLC-10(2)(ラッテ肝)の形態変化を示した。映画では第1カットに無処理のJTC-16(AH-7974)の増殖する状況を示した。映画の第2カットはJTC-16の培養にSpermineを3.9μg/mlに加え、以後5.5日間no renewalで撮影したものであるが、濃度が高いので、肝癌であるにも拘わらず、死ぬ細胞がみられた。もちろん、かなりの細胞は生残った。

 第4のカットはRPL-1株(ラッテ腹膜細胞)にSpermineを3.9μg/mlに加えたもので、細胞は2〜3hrs.以内に全部死んでしまった。第5カットは同じ株を低濃度で処理(0.975μg/ml)したもので、死ぬ迄の時間は延長するが、全部死んでしまうことに変りはなかった。第6カットは<なぎさ培養→高濃度DAB処理により得られた変異株>ラッテ肝の“M”株を1.95μg/mlで処理したもので、細胞は全部死んでしまった。第7カットは、それまでのカットがSpermineを培地に入れたままでincubateしたのに対し、1.95μg/mlで30分間処理後、その培地をすて、培養を洗い、以後無添加の培地で培養したもので、細胞は殆んど死なず、分裂すら見られた。但し、映画では展示しなかったが、1時間以上処理すると、その後新鮮培地に移しても細胞は死んでしまった。

 Spermineによる細胞の死に方には特徴がいろいろとある。

     
  1. 肝癌細胞と共存させたとき、或は肝癌培地を添加したときと異なり、死ぬ前に細胞質のbubblingを見せず、いきなりキュッと丸くなって死んでしまう。その後、細胞質の一部が膨化することもある。(細胞膜の透過性が関与?)  
  2. 死ぬ時は、時間的に前後しながら死ぬのではなく、全部の細胞が一せいに揃ってパッと死ぬ。  
  3. 細胞密度の低いところの細胞の方が、高いところの細胞よりも死にやすい。  
  4. 死んだ区域と生き残った区域との境界がきわめて明瞭に分けられている。
 

:質疑応答:

[堀川]死んだと思われる細胞を洗って培養を続けると生き返ることはありませんか。

[高岡]とても駄目ですね。

[高木]増殖の早いものが抵抗性が強いということはありませんか。

[高岡]増殖率と感受性との間には、殆ど関係がないようです。

[山田]この細胞の死に方は物理的な感じがありますね。一次的な生物学的作用の結果の死とは考えられませんね。先ず物理的に何かがやられて、二次的に細胞内の生物学的な変化が起こるといった二段階の死に方のようです。ソーダガラスでないガラスに培養して添加してみたらどうでしょうか。それからリパーゼなどと比較してcytolyticな影響もみるべきでしょうね。

[堀川]膨化=浸透圧の影響と考えられますか。

[山田]必ずしもそうではありませんね。

[堀川]生死の境界線がはっきりしている点について、どう考えられますか。

[山田]密集している所は液にふれる面が少ないので影響が少ないのでしょうね。

[黒木]接種細胞数を変えてみましたか。

[高岡]一定の液量あたりの細胞数よりガラス壁へ附着したときの密度の方が死に方に関係があるようです。

[山田]スペルミンの毒作用について何か報告がありますか。

[永井]毒作用については殆どありませんね。最近ポリアミンについての報告が沢山だされていますが、みんな増殖促進とかDNAに対する影響についてです。ポリアミンによって合成系の酵素活性が敏感に動かされるといった報告もあります。しかし殆どのものがイーストなど菌を材料にした実験で哺乳類の細胞レベルで調べたものは見当たりませんね。

[梅田]JTC-16でスペルミン添加後生き残っている細胞は形態が少し変わっていますね。核小体が大きくなっているようです。

[堀川]人工的に癌細胞と正常細胞を混ぜてスペルミン処理するとどうなるでしょう。

[高岡]発癌実験の途中段階でスペルミンを作用させると、腫瘍性の強いものだけが生き残るという具合に使えればよいのですが・・・。

[永井]死ぬまでに90分もかかるというのは、何かaccumulationされて作用が始まると考えてよいのではないでしょうか。

[堀川]普通の細胞はスペルミンを持っていますか。

[黒木]作用濃度は10-2乗M位ですね。細胞内にあるのはおよそ10-8乗M位ですね。

[永井]ポリアミンは最近注目されています。生体では脳や肝臓に多いようです。動物に直接接種した場合はかなりの高濃度でも動物を殺すことはないようです。

[堀川]本当にcell cycleと関係ないでしょうか。映画でみていると低濃度の方がかえって一斉に死んでしまい、高濃度の方は何かバラバラと死んでゆくような印象でした。それから例の毒性物質との関係はどうなっていますか。

[永井]現在追跡中です。



《山田報告》

 cAMPの細胞表面に與へる影響について、幾回か報告して来ましたが、今回はこれをまとめてみたいと思います。いまだ完全な結論を得たわけではありませんが、一応の見通しがついた所です。

 ConcanavalinAによるラット肝癌細胞の表面荷電密度の増加作用は、その後の検査により細胞の増殖の状態でかなり異り、増殖期には反応が強く、抑制された状態では反応が弱いことがわかりました。この増殖の状態によりConAの反応が変化すると云う知見より、ConAと、cAMPの作用を検索しました(図表を呈示)。ConAを反応させる前或いは後に1mMの(But)2cAMP(pHは7.0に調製)37℃30分作用させると、このConAの細胞表面荷電密度増加作用が著しく抑制される。あらかじめ1mM(But)2cAMPを作用させた後に各種濃度のConAを反応させると、ConAにより荷電密度は著明に増加しないが50μg〜100μg/mlのConAにより相対的に多少高値を示す様になることがわかりました。

 これらの知見を解析する意味で、(But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響を調べました。

 (But)2cAMPの細胞膜に及ぼす影響;(各実験毎に図表を呈示)

 まず(But)2cAMPが特異的に作用するのか否かを検査しました。(But)2cAMP、cAMP、AMP各々1mMの反応をみますと、AMPは全く反応がありませんが、cAMPはやや表面荷電密度の増加が起こり、(But)2cAMPでは更にその作用が強くなりました。即ち(But)2cAMP単独でも細胞の表面荷電密度を増加させるにかかわらず、ConAの作用に対してantagonisticに作用すると云うことです。これらの物質を作用させた後にConAを反応させました。同様にAMPは全く影響をあたへていませんが(But)2cAMPでは明らかにConAの荷電密度増加作用を抑制し、かへって対照にくらべて、荷電密度を低下させます。lyticなeffectが(But)2cAMPにあるのではないかと思ひ、0.001%trypsinを反応させても、この様な細胞荷電密度の増加は全く起りません。

 また(But)2cAMPの作用が、解離するbutylic acidによるものではないかとも考へ、検索しましたが、butylic acidにはこの(But)2cAMPの作用が全くありません。

 (But)2cAMPの作用を種々の増殖状態のAH66Fに作用させた所、その電気泳動度の高い場合、即ち、増殖の促進された状態では、その荷電密度を低下させ、泳動度の低い増殖能の弱い状態では、荷電密度を増加させる作用があることがわかりました。更にあらかじめ10単位のノイラミニダーゼ(C.B.C)37℃30分処理を行なっておくと、(But)2cAMPにより荷電密度は増加するが、増殖能の弱い状態では、特にその増強作用が著明であることも判明しました。これだけでは勿論充分な知見ではありませんが一見cAMPの増殖調節作用が細胞膜にも変化をあたえていることを予想させます。

 次に(But)2cAMPの作用条件を検索しました。各種濃度の(But)2cAMPを反応させた後の泳動度の変化ですが、0.5mM〜1.0mM濃度で初めて反応が始まる様です。あらかじめノイラミニダーゼ処理後の(But)2cAMPの反応は、0.1mM程度の薄い(But)2cAMPでは若干泳動度の低下を来たす様です。  種々の濃度のノイラミニダーゼ後の(But)2cAMP(1mM)の反応も検索しました。

 (But)2cAMP処理後の表面構造の分析;

 (But)2cAMP処理後の表面を解析する意味で、ノイラミニダーゼ処理、ホスホリパーゼ処理、カルシウム吸着性、色素透過性、等電点の変化等をしらべましたが、ノイラミニダーゼ処理では対象との間に差がみられず、細胞の等電点もあまり差がありませんが、特に著しい差としてはホスホリパーゼ処理により泳動度の低下に差がみられました。即ち(But)2cAMP処理後の細胞はホスホリパーゼCに対する感受性が増加、ニグロシン色素の膜透過性が高まりますが、あらかじめノイラミニダーゼ処理してから(But)2cAMP処理すると、かへってホスホリパーゼC感受性が低下し、対象未処理細胞が融解する様な濃度のホスホリパーゼCでもこの様な処理により融解しない様になりました。即ち明らかにノイラミニダーゼ(But)2cAMPの処理により膜構造が変化することを知りました。

 これらの(But)2cAMPによる膜の変化が直接作用によるものか、或いは一度膜を通過した後に細胞内のcAMP濃度が高まり、その結果内部からの指令により変化が膜に起こるのか、これから検索してみたいと思って居ます。



 

:質疑応答:

[堀川]ホスホリパーゼAとCの違いは・・・。

[永井]Aは脂肪酸を1コはずします。Cは中和してチャージが無くなります。

[山田]まぁこういう系だけでは限界があるでしょうが、他の現象との関連で面白くなるかも知れませんね。膜の立体構造と関係してくるのではないでしょうか。

[野瀬]cAMP処理でサイクロヘキシミドに抵抗性になるというデータがあります。

[山田]cAMPが膜に直接アタックして変化を起こすのか、膜の透過性をましておけば細胞内へ入って二次的変化を起こすのか、時間を追ってやってみたいと思っています。

[堀川]究極的には癌と膜の変化を繋ごうというあたりに狙いがあるのでしょう。

[山田]癌化の機構そのものというより、癌化した細胞の膜について調べていたら、膜の変化と増殖の関係などが判ってきたのですね。癌化による変化を掴みたい訳です。

[永井]時間経過をみる場合ノイラミニダーゼは膜にくっついて洗っても除去されずに作用が続きますから気をつけて下さい。グルコシダーゼも時間経過をとるべきでしょう。

[山田]考えてはいますが、time courseの問題はポジティブならいいのですが、ネガティブではどうしようもないものですから。

[勝田]ノイラミニダーゼで処理した細胞にシアル酸を加えておくと、酵素が遊離してきませんか。

[山田]作用してから6時間位で大体もとに戻ります。

[永井]戻り方が100%までゆかないでしょう。ノイラミニダーゼでsialic acidが30%減ったとして、回復させても70%位までしか戻らないのです。それで膜に残ったノイラミニダーゼが作用を継続していると思うわけです。

[山田]増殖系で作用させますと、ノイラミニダーゼは増殖も止めますので、その影響があるのではないでしょうか。

[永井]ウィルス感染で細胞をノイラミニダーゼで処理しておくと感染力の強いウィルスが出て来てその性質は遺伝的なものです。トリプシンでも同じような事が起こりますが、その変化は続かないのです。

[堀川]こういう膜の問題は腫瘍、正常、ハイブリッドなど使って発癌の機構解析に繋がらないでしょうか。

[山田]次には矢張り腫瘍、正常という所へもってゆくつもりですがね。



《高木報告》

     
  1. Nitrosated Acethyl-L-Arginine amide(AAACN)によるin vitro発癌の試み

     この化学物質については先の月報に報じた通りである。Mutagenic activityはMNNGに比較しても極めてつよく、carcinogenic activityも期待してこの実験を行っている。RFLC-5細胞に対する細胞毒性はMNNGより弱く、10-4乗Mで細胞増殖が対照に比してはっきりと抑制される程度である。但し前報に記載したAAACNの毒性は、細胞の培養2日目から3日間培地に加えたままで観察したもので、2時間作用の場合には毒性はもっと低いと予想される。

    現在手許にある試料は10-2乗Mでethanolにとかしてあるため10-4乗M以上の濃度ではethanolの影響が出ることが考えられ、今回の実験では10-4乗M以下の濃度を使用した。RFLC-5細胞は培養開始より680日を経たもので、培地はMEM+10%FCSを使用した。MA-30に20万個の細胞を植込み24時間後に10-4、10-5、10-6乗Mで2時間処理し、終ってHanks液で洗い新鮮培地と交換した。AAACNは10-2乗Mの濃度でehtanolに溶解し、-20℃に保存、使用にあたりHanks液で10倍稀釋し、millipore filter(0.45μ)で濾過しさらにHanks液で稀釋して作用させた。細胞処理後今日まで60日を経たが、ここに用いたいずれの濃度でも細胞の増殖度、形態に変化を認めえない。

     つぎに培養開始より720日目のRFLC-5を用いてAAACN 10-4乗Mで繰返し処理をしてみた。20万個の細胞をMA-30に植込み、24時間後にAAACNで処理、以後継代ごとに同様の処理を繰返して現在まで4回の処理を行なっている。作用開始後約30日を経た今日、処理した細胞は対照に比して紡錘形を呈するようになり、giant cellが目立って来た。増殖もやや抑制されているようである。この化学物質は毒性が低い。したがって細胞に中等度の障害を与える濃度で最も高頻度にtransformationが期待されるとすれば、ここに用いた濃度はやや低すぎるかも知れない。細胞数との相関においてtransformationをおこすに至適と思われる濃度を検討し、実験を繰り返してみたい。

     

  2. 6-DEAM-4HAQOによるin vivoの実験

     林氏によれば、4HAQO、6-DEAM-4HAQO、streptozotocin投与によりラットがあらわす症状および膵内、外分泌腺腫瘍の発生状況を表にした(表を呈示)。以上のように4HAQOとそのderivativeである6-DEAM-4HAQOでは、膵の内、外分泌腺に腫瘍のできる率が違っており、すなわち臓器親和性の相違が認められる。また6-DEAM-4HAQOは投与量により多ければ糖尿病の発生をみ、より少ない量ではラ氏島を主とした腫瘍を生ずる点も興味深い。(もっとも出来る腫瘍はがんではないが・・) そして生じた腫瘍からはinsulin、もしくはProinsulinが分泌されていると考えられる。この様にして生じたラ氏島腫瘍と正常のラ氏島とを培養に移して、それらの形態学的、生物学的性状の相違を比較検討したいと考えている。

     現在4週令のWKAラット16匹に6-DEAM-4HAQO 20mg/kg 8回静注しおえた。また同じく4週令のSprague Dawleyラット19匹にも20mg/kg 4回静注し終ったところである。Streptozotocinについては未だ実験に着手していないが、この抗生物質は抗菌、抗癌作用と糖尿病誘発作用を有しており、Nicotinamideとの併用でラ氏島腺腫を高率に生ずることは興味深い。NicotinamideはStreptozotocinの抗癌作用には影響を与えず、糖尿病誘発のみ抑制するとされている。



 

:質疑応答:

[山田]ラ氏島腫はインスリンを産生しますから、糖尿病の逆ですよね。同じ薬剤が少量投与か大量投与かで正反対なものを作る、その理屈も判るし、面白いですね。

[乾 ]ラ氏島由来でインスリン産生の細胞がNIHにあります。未発表のようです。

[山田]そういう細胞系も長期間培養して増殖がさかんになると、産生が止まってしまうのではありませんか。

[乾 ]現在は1年位培養していて、まだインスリンを産生しているそうです。

[黒木]4HAQO大量投与の場合でもニコチナマイドを入れてやると、糖尿を抑えてラ氏島腺腫を作るのかも知れませんね。

[勝田]遠藤氏の新しい発癌剤の動物実験の結果は判っていますか。

[高木]現在やっています。

[黒木]In vivoでの発癌性がはっきりしていないものをin vitroで使う時は、ポジチィブな対照が必要ですね。

[高木]MNNGを対照におく予定でいます。



《乾(津田)報告》

 亜硝酸ナトリウムのハムスター培養細胞に対するTransforming activityを検討した。

 生後2日以内のシリアンハムスターの頭足内臓を除去した組織をハサミ、トリプシンで細かくし、培養に移した。培養2代又は3代目の対数生長期にある細胞(20万個/TD15)に、NaNO2 50mM/l又は100mM/lを24hrs作用させた後、normalメディウム(McCoys'5A+20%F.C.S.)中で培養観察を続けた。NaNO2 50mM/lでは細胞はほとんど障害をうけず、100mM/lだと約1/3(顕微鏡視野下)が生き残った。

 Control区は終始normalメディウムで培養しつづけた。Control区は実験開始15〜20日後までは良好な増殖を示したが、それ以後は次第に増殖が落ち、平らな巨大細胞となり細々と生きつづけた。

 一方、NaNO2処理区では、処理20〜60日後に増殖の盛んな小型の細胞群が出現した。この時点をtransformationの起きた時点としたが、その指標としては、

  1. 顕微鏡写真、
  2. Colony formation rateの上昇、
  3. 累積増殖曲線、
  4. 染色体数の変異
を用いた。

 更にtransformした細胞のmalignancyは100万個の細胞をhamsterのcheek pouchへ移植することによってできる(あるいはnegative)tumourを観察することにより検討した。Transformation、colony formation rate、Transplantabilityの数値を以下に示す(表を呈示)。(変異は6例中5例が+。コロニー形成率は処理後72日では0.5〜2.2%、204日では64%と70%。腫瘍性は処理後46日以後殆どが陽性)

 以上、高濃度のNaNO2により、新生ハムスター細胞がtransformationすることは確実と思われる。

 現在、transformした、又、malignantになった細胞の染色体を分析中である。

 一方、種々株化細胞を用いて、NaNO2によるmutation rateの上昇(?or negative ?)を検討中である。

 ☆追伸:班会議後、浸透圧はさっそく測定してみました。McCoys'5A+20%FCS=288mOsm/kg。0.1M NaNO2+5A+20%FCS=454mOsm/kg。100%Fetal Calrf Serum=435mOsm/kg。0.1M NaCl+5A+20%FCS=465mOm/kg。1mOsm/kg=−1.859x10-3乗℃。

 やはり、御指摘のように、0.1M NaNO2だと、かなり高浸透圧を示します。今後、等浸透圧で、しかも透過性がNO2-に類似した物質(Cl-はあまり適当でない)を探して、controlとしたいと思っています。



 

:質疑応答:

[黒木]100mMの亜硝酸ナトリウムは培地中の食塩濃度とほぼ同じですから、浸透圧が問題になりますね。

[津田]浸透圧とpHについて心配していました。

[黒木]対照に同浸透圧、同pHの群が必要ですね。

[梅田]私も別な実験で亜硝酸ナトリウムを培地に入れてみたことがありますが、10mM位で充分細胞に傷害を与えたように記憶しています。

[堀川]Confluentなcell layerでfocusが見つけられますか。

[津田]実験群にきれいなfocusが発見されたというより、controlは継代するうちに巨細胞が出てきて死んでしまうが、実験群は変異して増殖系細胞が出現したという事です。

[高木]実験群3コの中1コにfociが出て、それを3本に継代したのですね。

[津田]そうです。そしてその3本全部に又fociが出てきました。

[堀川]そうすると変異率として定量的な数値には出来ませんね。

[乾 ]始に形態的な変異−piling up−のみられたtubeに由来するtubeには全部piling upが見られたという事です。

[堀川]対照の復元実験はどうなっていますか。

[津田]殆どのcontrolは死んでしまうのですが、生き残ったものを集めて実験群と同じ接種数で復元したのがありますが、takeされませんでした。

[堀川]変異するまでの日数の短い事は意義がありそうですね。とにかくもう少し処理の形式を確立して定量化することと、黒木班員の意見のように、浸透圧やpHに関する対照をきちんとする事ですね。

[梅田]染色体の変化についてはどうですか。

[津田]まだ詳しくみたありません。

[乾 ]染色体の変異は一般に、直接的な発癌剤は染色体切断を起こしますが、代謝産物で発癌するものでは切断などは見られませんね。

[黒木]In vivoでは発癌例がないのに、in vitroで出来たという所に、特異的な変異ではないような気がします。

[勝田]しかし、全部のtubeから変異細胞が出ているのではないから、やはり何か特異的な変異も考えられます。

[堀川]このデータで定性的可能性が示唆されているので、定量化してほしいですね。

[黒木]それから、復元実験と並べてconA凝集性とか、軟寒天内でのコロニー形成能とか、もっと色々な指標についてのデータも欲しいですね。

[永井]亜硝酸をアミノ酸で処理したものなど、第2controlにどうですか。

[梅田]硝酸ソーダだとずっと毒性が弱まりますから、これもcontrolによいでしょう。

[津田]動物にtakeされるかされないかという事は、in vitroの発癌実験にどの位意味がるのでしょうか。

[勝田]現在はtakeされるかどうか以外に確実な悪性化の指標がありません。

[堀川]しかし、この実験はin vitroで変異が認められ、それがtakeされたのですから、恵まれた例ですね。



《梅田報告》

     
  1. Elkind等はChinese hamsterの繊維芽細胞の一株を用いて、アルカリ性蔗糖勾配での遠心パターンの実験を行い、之等の細胞は光、BUdRとりこみ、X線照射により、degradationが進むと報告している。更に無処理の細胞は60分lysisで軽い方、165分lysisで重い方に沈んでくることを報告している。彼等の実験条件は25℃でlysisを行わせている。我々はすべて彼等の方法にしたがい、ただlysisを室温で行わせてきた。したがって空調のない我々の研究室では夏は30数度、冬は0℃近くにまで温度の幅が出来て了った。ところが前回の月報で報告したように、この方法でのDNA degradationが温度にも影響されることがはっきりとしてきた。もう一つ疑問に思っていたことに、我々のいろいろの細胞も使ったデータでは60分lysisと240分lysisとでElkindのいうようにDNAが重くなるようなことは見出されなかったことである。

     今回はまだすべてのデータが出そろってはいないけれども、時間、温度の影響を再検討している間に見出した正常細胞と悪性細胞のdegradationの違いを報告する。

     

  2. 実験条件は前にも報告した(表を呈示)組成のgradient及びlysis液上にC14-TdR(0.07〜0.12μc)でlabelした細胞を5,000ケ静かにのせ、各温度の条件の暗箱中で1、(2)、4、24時間lysisさせ、5,000rpm 15分前回転後、36,000rpm 90分(12℃)遠心した。

     

  3. 第一回はHeLa細胞で(図を呈示)、37℃でdegradationが早く進んでいることがわかる。17℃では1時間目から重い方にDNAのピークがあり、4時間24時間と時間が経つにつれ軽くなっていくことがわかる。即ちElkindのいうChinese hamsterの繊維芽細胞でみられた傾向は見られない。

     

  4. 第2回はマウス胎児細胞の3代目のものを25℃でlysisを行わせたものである。ここでは1時間目と4時間目とで軽い方から重い方にDNAのピークが移り、更に24時間目には軽い方に移ったことがわかる。即ちElkindがChinese hamsterの繊維芽細胞でみた現象が見られたことになる。

     

  5. 同じような結果は人の胎児肺継代34の細胞にも見られたので、更に同細胞の37代継代のもので、遠心を行ってみた(図を呈示)。19℃で明らかに軽い方から(1時間lysis)重い方(4時間lysis)更にそれからはあまり変化のない(24時間lysis)ことがわかった。

     因みに37℃では殆HeLa細胞と同じような遠心パターンを示している。

     

  6. L細胞での実験では、各時間の遠心パターンは、19℃で1時間lysisで12本目、2時間lysisで14と19本目に2コ、4時間で13〜17本、24時間で18本目のフラクションにピークが移り、HeLa細胞と同じく、始めから重い方から軽い方に移行していることがわかる。

     

  7. 人間の胎児より剔り出して培養している繊維芽細胞の4代目、11代目は(図を呈示)細かい点の読みはともかく、之等diploid normal細胞と考えられる細胞は、19℃lysisでは軽いもの(1時間lysis)から重いもの(4時間lysis)更に軽いもの(24時間lysis)になる傾向を示している。

     

  8. 人間の歯肉からとり出して培養し、35代目継代で所謂培養内老化を起しつつある細胞では、多少の遠心パターンの違いはあるが、大殆上記胎児繊維芽細胞に似た像を示した(図を呈示)。

     

  9. Elkindは1時間lysisではDNAのcomplexとして沈殿してきて、それが軽いピークをもたらし、次にそのようなcomplexがDNAのunitとしてはずされ重くなるとしている。そのcomplexとしてDNAを結びつけているものが、核膜としたら、核膜のない細胞では遠心パターンが異ってくる筈である。特に正常の細胞では始めから重い所に沈澱してくる筈であると想定した。先ずHeLa細胞のMitotic cellのみを集めて実験してみた。(図を呈示)19℃のlysisで1時間目、2時間目のlysis後の遠心パターンは殆同じであり、4時間目でやや軽くなっている。24時間後のデータは今計測中である。来週は是非正常細胞で実験してみる予定である。



 

:質疑応答:

[堀川]傾向としてはよくまとまっていると思いますが、核膜の有り無しによる差についてはどうでしょうか。重要な問題ですね。

[乾 ]年とった細胞というのは?

[梅田]2倍体細胞で老化がきたものというような意味です。

[堀川]DNAのすり切れが老化の原因かと考えられていても、なかなか実態が捕まらないでいます。培養細胞で差が出るかどうか、難しいでしょうね。

[梅田]老化した細胞はTdRを取り込まなくなるので技術的に難しいです。

[堀川]年とったネズミと若いネズミを使って、DNAのすり切れをみようとしたのがありますが、仲々結果が出ないようですね。それから、梅田さんの狙いは、細胞によるlysisの仕方の差をみる事ですか。

[梅田]そのつもりです。

[堀川]そうすると何をみているのでしょうか。DNAを繋いでいるものの切断か、DNA鎖の切断なのか。今のところの結論は・・・。

[梅田]膜からのはずれ方が、正常と腫瘍とで違うのかも知れない、つまり悪性になると膜と付いたり離れたりが簡単に出来るが、正常細胞ではピタッと付いているというような事を考えています。

[乾 ]Chromosome-DNA.RNA hybridizationをやっていて判ったのですが、濃い濃度でバカンとラベルしたのと、薄い濃度でゆっくりラベルしたのとではhybridizeする場所が変わるようです。

[堀川]Hybridizationではありませんが、DNAレベルでH3を高濃度に添加すると、それだけで切断が起こります。こういう実験では条件を2段階の濃度でやるべきですね。



《堀川報告》

     
  1. レプリカ培養法による栄養要求性および非要求性変異細胞の分離。

     以前にも述べたように私共は培養細胞用のレプリカ培養法を用いることによってChinese hamster hai N12 clone細胞は各種栄養要求性および非要求性変異細胞から構成されていることを示した(表を呈示)。つまりclon17から38までの8cloneはAsn、Pro、Asp、Ser、Gly、Hyp、TdRなどを要求しない非要求株であるが、一方clone36はPro要求株で、clone6、29、33はgly要求株、clone10、11、27はそれぞれTdR要求株である。またこのようにして以下多数多種の非要求性および要求性細胞から構成されていることを示した。ここで問題になるのはChinese hamster hai N12 clone細胞は果してこのようなHeterogeneousな細胞集団から構成されているか、またこのような結果は何度実験を繰り返しても再現性ある結果として得られるか否かといった疑問である。こういった問題を明らかにするため、その後同様の実験を4回繰り返した。計5回の実験に於いて個々の変異細胞数の点で僅かの違いはあるが、傾向としては第1回の実験結果とまったく同じような結果が得られた(従ってここではそれらのデータハ省略する)。こうした結果はChinese hamster hai N12 clone細胞は確かに種々のHetero-geneousな細胞集団から構成されていることを強力に示している。現在こうして得られた栄養要求性および非要求性細胞のpurification、そしてそれらを用いてのmutationの実験を進めている。

     

  2. X線およびUV照射による変異誘発。

     TT除去能のまったくことなる、HeLaS3細胞、それから分離したUV感受性のS-2M細胞、マウスL細胞、Chinese hamster hai N12 clone細胞に種々の線量のX線を照射した際、前3者では照射線量に依存して8-aza抵抗性の突然変異細胞が高率にinduceされるが、Chinese hamster hai N12 clone細胞でのこの変異誘発率は非常に低いようである。これはChinese hamster hai N12 clone細胞のもつ特異的なX線抵抗性と関係がありそうである。つまりX線抵抗性細胞ではpremutational damageを修復し得る能力があるということで説明出来るのかもしれない。一方UV照射に対してはこのChinese hamster hai N12 clone細胞は線量に依存して高率に8-aza抵抗性の変異細胞が誘発されるのに対し、前3者ではその誘発率は非常に低いようである。こうした結果もまたChinese hamster hai N12 clone細胞のもつUVに対する特異的な高感受性と関係がありそうである。しかし、こうした結論を導びき出すには現状ではデータが貧弱すぎ、今後のたび重なるダメ押しが必要であるため、今回はあえてデータを示さないことにした。

     いづれこれらについての実験結果は近い内に報告する予定である。



 

:質疑応答:

[勝田]放射線を使ったin vitroの発癌実験にはまだ信頼できるものがありませんね。こういう関係をよく睨んで実験計画を立てればよいのですね。

[堀川]3T3を加えて発癌実験にも関連させてゆきたいと考えています。

[梅田]8-AG処理はこの条件でこんなに多くのコロニーが拾えるのは不思議ですが、全部耐性ですか。

[堀川]8-AG存在下でコロニーを作ったのですから、耐性細胞と考えてもよいと思います。8-AGについては、こういうデータは沢山ありますから大丈夫だと思います。

[黒木]L5178Yで0.数%の頻度で8-AG耐性がとれます。

[津田]コロニーを計数する時どの位の径のものまで数えますか。

[堀川]対照は10コ以下という条件でやっていて、処理後動かさずに16日間培養します。その間培地は更新しません。コロニーの径は肉眼的に認められる大きさは皆数えます。

[津田]8-AGは何で溶かしますか。

[堀川]アルカリで溶かしています。



《野瀬報告》

 Dibutyryl cAMPによる細胞周期の変化

 But2cAMPを用いてJTC-25・P5細胞のalkaline phosphataseの誘導を見ているうちに、処理された細胞が細胞周期の中のある時期でblockされている可能性が出てきた。その基礎となるdataはimpulse cytophtometerの結果である(図を呈示)。細胞をtheophyllin又はtheophyllin+But2cAMPで4日間処理し、裸核にした後、Ethydium bromide染色しcytophotometerにかけた。結果は明らかに、But2cAMP処理細胞の集団の中にはDNA/cellの相対値がbasal valueの約2倍の細胞が増えていた。染色体標本を作ってみても、対照細胞のmodo61本に対しBut2cAMP処理細胞はほとんど同じであった。従ってBut2cAMPによりG2で止った細胞が増加すると考えられる。

 この点を確認するため、これらの細胞を、fresh mediumに移し、経時的にmitotic indexを測定した。その結果(図を呈示)、But2cAMPを除くと直ちにmitotic indexは上昇し2時間で最大となり、次後、元のレベルに戻った。この結果から、But2cAMPはlate G2のblockをすることが示唆された。

 次に同様な条件下でlabeling Indexを測定した。対照およびBut2cAMP処理細胞とを、それぞれfresh mediumに移し経時的にH3TdRのpulse labelingを行った。その結果(表を呈示)、Labeling IndexはBut2cAMP処理細胞では低いが、それを除いて5時間後にはすでに17.6%に上昇している。このことは、G1のblockもあることが示唆される。But2cAMPは一般に“contact inhibition”をかける薬物と考えられ、G1 blockをすると主張している論文もあるが、以上の結果から、G1、G2の両方の点をblockしていると思われる。

 先月の月報(No.7305)で報告したAlkaline phosphataseの変異に関する仕事は、その後まだ進展なく、次の機会に報告したい。



 

:質疑応答:

[堀川]アルカリフォスファターゼ陽性の細胞は細胞数で数えているわけですね。時間がたつと分裂して増えてしまって、定量的にはゆかないでしょう。

[野瀬]塊一つをfociとして数えた方がよいでしょうか。その方が数も少なくて数えやすいのですが・・・。

[堀川]MNNG処理の場合、処理直後とfixationの後とではsurvivalカーブが違ってくる事については私達も随分討論しました。

[野瀬]マーカーとしては抵抗性の方が良さそうですね。

[堀川]それも仲々難しいですよ。アミノ酸要求性が良いと思うのですが、それも手間がかかりますしね。

[野瀬]私の場合、同じ細胞系でアルカリフォスファターゼ活性+のものと−のものを使って酵素活性の出かたなどを調べたいと思っています。



《黒木報告》

 (図表を呈示)FM3AS-1細胞の培養各時期におけるUV感受性をみると、培養を重ねるに従い、shoulderがでてきている(Dq及びnの増加)。しかし傾斜(D0値)は、それ程変化していないので、ある程度感受性を伴っているという希望的なみ方もできる。

 また、それらから指摘されるべき問題点はコントロールのdose-responseカーブが72年5月2日、6月19日測定のものと、本年5月のものとで著しく異ることである。(D0 280ergが21ergに減少)。これが細胞の変化によるものか、測定方法の未熟によるものか今後早急に検討したい。

 このように、L5178Y、FM3A感受性細胞が不安定であったため、新たにChinese hamsterのV79細胞からのUV-感受性細胞の分離を試みつつある。それに先立って壁に附着する細胞に適するようなレプリカ培養法の改良を試みた。V79細胞をベルベッチンを用いたときのレプリカ率は非常に低い成績であった(表を呈示)。これを改良するため、コロニーをin situで分離する方法を考えた。つまりコロニーの増殖しているマスタープレートに、ペーパークロマト用のスプレイで酵素(プロナーゼ 0.1%、トリプシンDifco 0.25%及びモチダ トリプシン200u/ml)を撒布し、10分間incubateしたのち、ガラス棒でうつしかえた(表を呈示)。その結果、プロナーゼによってほぼ100%にV79、CHOのレプリカが可能になった。(目下HeLa細胞をテスト中)。現在この方法でV79で29ケのUV-sensitive cloneをひろい、さらに定量的に検討している。



 

:質疑応答:

[堀川]感受性株のPEをみる時、必ず同時に対照の原株のPEもみておくべきですね。

[黒木]実験を始めたころ、2回原株のドーズレスポンスカーブをとってみたら、大変きれいでしたので、安心して後は実験群だけしかみていませんでした。この細胞は原株でもかなりのUV感受性なので細かい実験はやりにくいですね。

[堀川]UVの実験は細かい事に気をつけてやらないと失敗します。例えば照射時間、線量を一定にするのにランプが安定する時間をみておかなくてはなりません。私たちは紫外線ランプは点灯したら実験が終わる迄消しませんし、電源も単独にしています。



《藤井報告》

 Lymphoid cellsの腫瘍によるin vitro感作と、その中和試験:

 比較的大量のlymphoid cellsとコバルト照射腫瘍細胞を混合培養し、その後、生きた腫瘍細胞に対する抗癌作用を調べるために、in vivoでやる中和試験をおこなった。

 C57BLマウスの脾のlymphoid cells、8,000万個と、Friend'sウィルスで発癌したFA/C/2腫瘍、800万個(8,000R照射)を混合培養し、6日後に新しく80万個の生きたFA/C/2腫瘍細胞を加え、1日培養して、2匹のC57BLマウスの腹腔内に接種した。接種したFA/C/2細胞は40万個/mouseである。

 接種後3週の現在、in vitro感作脾細胞と混合して接種された2匹では、腹水貯溜は全く認められない。対照としておいた2匹は、照射FA/C/2と生きたFA/C/2を混合したもの、および他の2匹は脾細胞だけを培養し、これに生きたFA/C/2細胞を混合したものを、接種されたが、明らかに腹水型腫瘍の増殖を示す、腹水の増加がみられている。

 この実験は、大量のlymphoid cellsをin vitroで感作する、予備的なものとしておこなったものであるが、以前におこなった感作リンパ球の試験管内抗癌効果の成績を、in vivoの中和試験で裏づけできたと考えている。さらに、感作の条件や、関与する細胞についての解析をすすめる予定である。



 

:質疑応答:

[乾 ]こういう実験にtarget cellとしてvirus originの腫瘍を使うのは問題です。

[藤井]たまたま手元にあったので使いましたが、本当はCulbTCを使いたいと思っています。