【勝田班月報:7310:栄養非要求性株の復帰突然変異】《勝田報告》培養哺乳動物細胞の増殖に対するSpermineの影響:前号にひきつづいてSpermineの話であるが、各種の細胞について、その培地中にSpermineを添加し、細胞増殖への影響をまずしらべてみた。 (図を呈示)結果は、動物に対する可移植性(悪性度)に反比例して増殖阻害度が大きいことは、大変興味をひかれるところである。(あんまり話がうますぎるので慎重にしなくてはならないが)。 次にspermineの細胞増殖阻害効果を抑制する物質がないかと色々の物質についてしらべてみた。(各実験毎に図を呈示)poly-L-glutamic acid、chondroitin sulfate、N-acetyl-D-glucosamineをRLC-10(2)の培地に添加した結果、阻害抑制効果は全く見られていない。lysozyme(chick eggより精製、エイザイ)では少し、その効果がみられた。そこで希望をもって、lysozymeを各種濃度に培地に加えてみたが、今度はspermineの濃度が高かったためか、全く効果がみられなかった。 ここまではspermineと各種物質を同時に添加したときの所見であるが、あらかじめ各種薬剤を添加し、1日後にspermineを添加してみたが、用いた限りの薬剤では何の抑制効果もみられなかった。 Spermineのeffectが細胞膜に関与しているのではないかという可能性を考え、RLC-10(2)を1日培養後にtrypsinで5分間処理し、それにspermineを3.9μg/mlに添加した実験では、結局trypsin処理はspermine阻害効果に何の影響も与え得なかった。 次にspermine自体を、培地あるいはsalineDに入れ、あらかじめ37℃、4℃などで24時間処理したあと、細胞の培養に添加した。血清を含む培地に混ぜて37℃においた群が増殖阻害をかなり抑えているのは注目に値する。その他の群では全く効果がなかったが、血清の(おそらくその蛋白の)役割と、なぜ37℃という温度が必要なのか、ということは今後さらに研究してみる必要のあるところである。 Spermineの存在下でRLC-10(2)を各種濃度で培養し、その後その培地をRLC-10(2)の培養に加えてみた。JTC-16(AH-7974)の培養後培地も加えられている。この結果は、細胞濃度の高いほどSpermineによる増殖阻害を予防しやすいことを示していた。 Spermineが肝癌の毒性物質そのものか否かは判らない。しかし非常に似通った特性を持っていることだけは確認できた。
:質疑応答:[堀川]前処置する細胞が多い程、阻害効果が減るのは物が吸着するためでしょうか。[勝田]代謝されるという事も考えられると思います。 [堀川]スペルミンの効果は可逆的ですか。 [高岡]死ぬか生きるかの濃度の限界がとてもcriticalなのですが、処理後生き残った細胞は増殖可能です。 [野瀬]肝癌からの毒性分劃は血清とのpreincubationで毒性が低下しますか。 [高岡]それはまだ調べてありません。 [勝田]培地と37℃加温すると毒性が減りますが、生体内ではいつも37℃なのですから、その面からもやはりスペルミンそのものが毒性分劃のすべてとは思えませんね。 [山上]死に至る経過が早いという面から考えますと、呼吸阻害のような物ですか。 [野瀬]障害を起こす濃度で処理してもチミジン、ロイシンの摂り込みは抑えません。 [永井]Energy産生系に作用しても、そんなに早く効果は出ないでしょうね。Cell freeの系での実験ではむしろ促進傾向のようです。 [勝田]細胞がどうして死ぬかが問題です。映画でみたスペルミンの添加による死に方は、肝癌の毒性分劃添加の時のようなbubblingがみられませんでした。 [山田]酵素を作用させたときに、スベルミンのような死に方をするかと思います。 [永井]プトレッシンに全く阻害作用がないのも問題ですね。 [乾 ]RNA合成阻害剤なども使ってみたらどうでしょう。 [堀川]それが効果があったとしても間接的でしょうね。 [勝田]毒性物質の本体とスベルミンとのギャップを埋めるのがこれからの問題です。 [山田]スペルミンとスペルミジンの生物活性の違いはどうですか。 [永井]程度の差だと思いますね。動物細胞でプトレッシン→スベルミジンという合成経路がはっきり証明されれば、もう少し問題がはっきりしてくるでしょう。ペニシリンのように細胞膜の生合成系の阻害を起こすのではないかとも考えられます。 [山田]私のデータからみても膜に関係のある作用のように思いますね。トリプシンを作用させたときのトリプシン濃度はどの位ですか。 [高岡]普通継代するために使う濃度で、モチダのトリプシリン、200u/mlです。
《山田報告》ConAによる癌細胞表面荷電に及ぼす影響を検索していますが、今回はInsulin、EpinephrinがConAの表面荷電に及ぼす影響を増強し、(But)2cAMP及びGlucagonは抑制することを明らかにしました。いずれも細胞内のcAMPの変動を介しての変化と考へています(図を呈示)。
:質疑応答:[乾 ]復習になりますが、細胞電気泳動値は細胞の分裂周期にどう影響されますか。[山田]分裂期には上がります。S期が一番低いのです。 [高岡]スペルミンを作用させた時の細胞数はどの位ですか。致死濃度は細胞数によって少し違ってきます。 [山田]200万個の細胞で0.1μg/mlで効いています。 [高岡]培養でのデータは1〜20万個の細胞に約2μg/mlが致死量ですから、膜の変化はもっと敏感なのですね。 [野瀬]スペルミンがただ膜にくっついたという事ではないのですね。 [山田]ノイラミニダーゼを作用させると、マイナスチャージは上がりますがノイラミン酸は遊離してきます。膜全体のシアル酸の総量が泳動値になるのではなくて、膜表面に出ているシアル酸の荷電が値になるのです。泳動値の変化は膜表面のシアル酸を潰すという事と中にあるシアル酸をむき出しにするという事から起こる訳です。 [堀川]スペルミン高濃度の処理で落ちてくるのはどう考えますか。 [山田]1.マイナス部分に更にプラスの物質がくっついてmaskされる。2.膜の変化が更に進む。一応変性を考えています。膜の透過性も変わってくるのかも知れません。 [藤井]肝癌培地の毒性分劃の膜に対する影響は調べましたか。 [勝田・山田]まだみていませんが、ぜひ調べてみたいですね。 [堀川]ConAの実験でインスリンの効果をどう考えられますか。 [山田]cAMPを介しての変化だと考えています。 [佐藤]正常に近い肝細胞ではどうかという事が知りたいですね。是非調べて下さい。 [梅田]cAMP処理でuridine取り込みが促進するといわれていますが、私の実験では核小体が小さくなるという指標でみるとcAMP、ATP、ADP、TPN、adenineまで似た作用があります。 [野瀬]Uridine取り込み促進のdataはありますが、それはadenosineがuridine輸送を促進するようです。私はP32ラベルで調べてみましたが取り込み量は変わりませんでした。
《佐藤報告》ST-2.RAL.cell linesのChromosomeについて(I)Normal adult rat liver由来のCell lineのChromosomeについては、すでにD.A.Miller、P.T.Iype及びL.E.Gerschensonの報告がある。D.A.Miller et.al.の報告したLineは、G-band,orQ-bandにてdiploidを38ケ月間保っており、nutritional stressでtransformするとaneuploidになると云う。P.T.IypeのRL16 lineは初めはdiploidであるが、後になるとnear diploid(no hyperploid)となる。L.E.GerschensonのRLC cellsは60(58)及び120のchromosomeNo.付近にpeaksがありwide distributionであると報告している。 [材料と方法] RAL2、RAL3、RAL4、RAL5(RAL6は検索中) 染色体標本の作成:air drying法、又はflame drying法、Giemsa染色標本の中より50コのMetaphaseをrandomに撰び、visual及びgraphicalに各chromosomeを識別しhistogramを作成した。 [結果] 継代数、培養日数が一定していないので何とも云えないが、予想外に早期よりchromosome No.及びKaryotypeの変化が起っていることが解る。又増殖する上皮様細胞は位相差写真で見られるように従来我々が増殖継代して来たものとよく似ている。継代培養に際して上皮様の細胞のPopulationが増しているように思われる。 従来の方法(Fragment culture LD+BS)では回転培養で上皮様細胞がselectiveに増殖する。比較的多量の上皮細胞があれば繊維芽細胞はselect outされるのだろうか。 又肝組織から分離培養される初代の培養材料で既に幼若型肝細胞がselectされるのか。今後発癌の問題とからんで検討しなければならない問題であろう。 T-4.Trypsin+EDTAによって分散されたaRLa-74の増殖率とコロニー形成能ならびに単個クローン分離の試み。
:質疑応答:[吉田]アダルトラッテ由来細胞の染色体は培養何日位の時しらべたのですか。[佐藤]40日位です。 [吉田]アダルトの生体内では2倍体より4倍体が多いですね。再生肝だと2倍体が増えますが。培養日数がもっと短いうちに調べると4倍体がみつかるでしょうか。 [佐藤]そうかも知れません。しかし培養開始の時のトリプシン処理などで酵素活性まで変わってしまう事もありますから、培養条件下では生体内とはかなり違うでしょう。 [吉田]肝細胞であることは確かですか。 [佐藤]調べていません。しかし、正2倍体の細胞であれば、肝の酵素活性の誘導などが出来ると思っています。 [吉田]培養できるものは、皆、未分化になるのでしょうか。 [佐藤]培養で生体の条件からかけ離れているものの一つとしてホルモンがありますから、これからホルモンの影響で分化させる事でも考えてみようと思っています。 [堀川]吉田先生の質問にあるように生体内では肝臓に4倍体が多いとすれば、肝の培養初期に拾えば4倍体の系が採れるわけですね。 [乾 ]DNA量でみていきますと、生後48hr.には2倍体だけ、それが72hr.で急に4倍体になります。算術で考えても急に4倍体になると思えませんから、4倍体のDNA量をもつ細胞の中にG2期の細胞が混っていると思います。佐藤先生の系では4倍体もあったのですか。 [佐藤]調べてみます。 [梅田]肝臓を培養していますと、もう一種大型の増殖しない細胞があるようですね。 [佐藤]そうですね。それが成熟型の肝細胞と思えますね。 [山田]胎児性とするとαフィトはどうですか。 [梅田]αフィトは産生しなくてアルブミンの産生はあるというIypeの報告があります。 [佐藤]私がこの細胞は肝細胞だと思うのは、この細胞を悪性化して動物に復元しますと、立派な肝癌を作るからです。 [吉田]アダルト由来のものの方が発癌は早いでしょうか。 [佐藤]今はまだ判りません。しかし、今持っている系はアダルト由来でも胎児性ですからね。何とか成熟型肝細胞の培養系を維持したいと思っています。 [山田]しかし生体内でも胎児性のものから癌化していると思われていますから、案外、培養でやっていることが、生体内で起こっていることと近いかも知れませんよ。 [佐藤]培養内での変異率は物すごく高いと思います。 [吉田]しかし分子レベルでの変異がそう多く起こっているのでしょうか。 [堀川]変異が現象として引っ掛かるものは多いでしょうが、遺伝子レベルでの変異はそう多くはないでしょう。 [乾 ]何でもmutationというのがおかしいですね。Mutationは遺伝子レベルのものだけとするべきです。 [堀川]これでいいのですよ。漠然としている方が・・・。 [勝田]Transformationにしても100vの電圧を6vに下げるのもtransformationですからね。その単語の上に形容詞をつければよいと思います。 [山上]大腸菌の場合もmaskの問題が遺伝子レベルの変異と間違われることがあります。突然変異の頻度が高すぎるという事から、染色体レベルで染色体の片方だけの“ぶちこわし”などが遺伝子の発現に影響することなども考えられます。 [梅田]選択培地で拾った変異細胞が、増殖させてみたら変異した性質を失っていたという場合、reversibleだというのも変ですね。 [堀川]薬剤作用の影響が一時的に代謝活性にあとを残して居る場合もあります。 [梅田]単に手技的なことではないでしょうか。 [堀川]対照群には出ない条件で出てくるのですから、矢張りmutantだと思います。 [野瀬]はっきり性質の決まっていない変化ならvariantでよいのではないでしょうか。
《高木報告》AAACN、MNNGによるin vitro発癌の試み:AAACNの作用による細胞の形態学的変化を3週間ないし1カ月、3つの実験系について連日観察してみた。MNNGはAAACNのpositive controlとしておくと同時に、よりrefineされた実験系を見出すためにこの実験系を計画した。 RFLC-5細胞をMA-30瓶に20万個/bottle植込み、2日後subconfluentの状態になった時cell sheetをPBSで2回さらにMEMで1回洗い、MEMに溶かした各濃度の薬剤を37℃の炭酸ガスフランキ内で2時間作用させた。作用終了後はcell sheetを再びPBSで2回MEMで1回洗ってrefeedした。実験1)を除き薬剤を作用させた最終濃度の溶液中に含まれると同一濃度のethanolを含んだMEM液を同一時間作用させたものを対照とした。
次にAAACNでもMNNGと同様処理細胞の形態の変化は認められた。この変化が一過性のものか、永続するものか今後とも観察を続けねばならない。またこの形態の変化と悪性化との関係についてもCytochalasinBに対する反応の違いや移植実験で検討したいと考えている。(各実験の顕微鏡写真を呈示)
:質疑応答:[佐藤]この細胞はどんなtumorを作るのですか。[高木]多型肉腫です。 [乾 ]初代培養ですか。 [高木]株細胞です。 [山田]変性すると丸くなりますか。 [高木]丸くならずに、そのままの形で変性します。 [乾 ]MNNG処理の時、もう少し血清濃度を濃くすると使い易くなると思います。 [高木]血清を入れた方が使える濃度幅が広くなって確かに使いよいのですが、又他の問題が起こるので、私たちは血清をいれずに処理しています。 [乾 ]しかしin vivoでは血清もありホルモンもありという条件で発癌剤が作用するのですから、in vitroでも生体内に近い条件で検討する方がよいのではないでしょうか。 [勝田]培養系で実験する利点はin vivoの実験では出来ないより単純な条件を設定できる事にあります。先ず単純化して実験し後で複雑な条件を加えてゆけばよいでしょう。 [吉田]私も賛成です。 [堀川]この薬剤は大腸菌では変異性があるのですね。前の実験より少し濃度が薄いようですが、悪性化をねらう場合、少しダメージがある方がよくはありませんか。 [高木]この濃度でもかなり影響があります。今回は実験条件を改めてきっちりと設定してみました。 [吉田]In vivoでの作用が異なることが判っている二つの薬剤が、in vitroではどうかという事の試みは面白いですね。次にはin vitroで血清存在下で作用させて比べてみるのも面白いでしょうね。
《山上報告》Soft agar下に培養し、agarにMNNGを拡散させて作用させた場合、MNNGの濃度が、ほとんど0から非常に高濃度まで、連続的に作られるため、もし、あるcriticalな濃度では効率よくtransformed cellが発生するならば、一定の距離でいくつかのtransformed fociが出来て来るのではないかと期待して植継ぎをせずに観察しています。現在使っていますC-5と云う株細胞は非常にきれいにmono-sheetを保つのですが、御指摘がありましたように密に生えすぎて脱落する事とpile upしたfociが出た場合にわかりにくい欠点があります。が、密に生えうることは一方ではMNNGを作用させたあとtransformationに必要かも知れない何回かの分裂をつづけるにはかえって好都合ですし、他にすぐ使える株細胞がない事もあってC-5を使っています。 作用後に十分分裂のspaceが残るように20万個/9cm dish植え込み24時間後より3日間agar medium下で処理し、後5日ごとにmedium交換して観察しています。 処理後22日の各部分は写真でおみせしました様な状態です。顕微鏡的にはtransformed cellかと思われる部分もありますが、肉眼的なfociは認めにくい状態です。生下時thymectomyした動物にはtakeされ普通の動物にはrejectされるようなtransformed cellをとることが目的ですので、有望な部分をthymectomized ratに植えて、screeningしたいと考えています。
《乾報告》ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性:今回は8種のニトロソグアニジン誘導体、即ち
[実験方法及び結果] 毒性テスト: 毒性テストはLab-Tek社製の4チャンバースライドによる方法を用いた。各チャンバーに検査濃度の2倍の検査物質を溶解した培地を0.5ml宛分注し、その上に20万個cell/ml細胞浮遊液を0.5ml加えた。各物質についての検査濃度はhalf log稀釋で100μg/mlより5段階とした。3日間炭酸ガスフランキ内で培養後、固定、染色し、観察した。 障害度の判定は染色標本でcontrolと同程度増殖したものを(0)、1/2増殖障害のものを(2)、細胞が完全に変性、壊死したものを(4)とし各々の間を(1)、(3)と表わした。 一連の誘導体の毒性は(表を呈示)、MNNGに最大に現われ、0.3μg/ml作用群においても増殖阻害が現われた。細胞の増殖障害は、メチル基の側鎖の長さにほぼ平行して現われ、n-HNNG作用群では100μg/mlで(3)32μg/mlで(1)であった。癌原性がなく安定な物質であるDenitroso-MNGでは細胞毒性はほとんど現われなかった。 P.E.は対照で約8%、MNNG、DMBAは1〜1.5%。ENNG→HNNGの順で略々側鎖の長さに応じて低くなっていった。Transforming Rateも同様MNNG、DMBAで高く、HNNGが低く発癌性のないDenitroso-MNGでは0%であった。ここで注目すべきことはBNNGの異性体であるiso-BNNGではP.E.が低くTransforming Rateがnormal-BNNGに比して2倍以上の値を示した。 (表を呈示)MNNG、HNNG、Denitroso-MNG、DMBA作用群についての濃度変化によるTransforming Rateは、in vitro、in vivoで発癌性の強いMNNG、DMBAでは作用濃度に比例してTransforming Rateが上がり、発癌性の弱いかないと推察されるHNNGでは、Transforming Rateは濃度に比例しなかった。 Transformation Rateの測定 この実験には同様ハムスター胎児細胞とMEM+10%FCSを培地に使用し、Feeder layerとして10万個/dishのラット胎児細胞を使用した。実験方法は前号タバコタールの場合と同様で各物質を0.25、0.5、1.0、2.0μg/ml 48時間使用後正常培地で12日間incubationした後、固定、ギムザ染色後colony数の算定、Transformed colonyの定量を行なった。
:質疑応答:[佐藤]なぜfeederを使うのですか。[乾 ]この系ではP.E.が低くて、feederを使わないとcolonyを作りません。 [高木]私たちの使っているC-5細胞は株細胞ですがP.E.も高く、無処理でもこういうcolonyが出てきます。 [乾 ]本当にcolonyの判定の段階が問題ですね。果たしてこういうcolonyがイコール悪性化細胞のcolonyなのかという事に未だに問題があります。 [梅田]そうです。この方法でみた悪性変異率について既に発表されたもので高いのは10%です。私たちのデータデハ8%位。colonyの判定法によって変異率は異なってくるのですから、かなり主観的ですね。 [乾 ]位相差顕微鏡では判定できませんね。一度は全colonyを復元する予定です。 [勝田]それはぜひやって欲しいですね。 [吉田]使った動物は何ですか。 [乾 ]ハムスターです。 [吉田]ハムスターは純系が少ないですね。復元実験には純系動物が必要でしょう。 [乾 ]ハムスターにはチークポーチへの復元という利点がありますから、かえって純系動物より使いやすいと思います。しかし、この実験では矢張りcolonyの形態で悪性化の判定をするという事が難しいですね。 [梅田]乾さんのは少し変異率が高すぎるようですね。矢張り復元実験で腫瘍性を確かめる必要がありますね。細胞は3T3のようにもう少しで悪性化というような細胞で、ぎりぎりの所で接触阻害を保っている系を使う方が能率的ですね。 [勝田]3T3の細胞を使うのにも問題はありますね。3T3での発癌機構かも知れません。
《梅田報告》
:質疑応答:[堀川]ハムスターで正常細胞と悪性化細胞との差をみておられますが、lysisの時間が長くなると同じになってしまうのは何を意味しているのでしょうか。DNA構造に差があるのでしょうか。それとも膜の何かが違うのでしょうか。[梅田]ElkindのデータではDNAは膜にくっついているとなっていますし、膜に関係があると考えている人が多いですね。 [堀川]微量な物質なので難しいでしょうが、どの程度膜がついているのか、はっきり出しておく必要がありますね。 [梅田]正常細胞でも分裂期の細胞ではピークが一つしか出ません。 [堀川]Lysisしにくいという事はありませんか。 [梅田]ありません。
《堀川報告》Chinese hamster hai細胞株よりレプリカ培養法によって分離したAla+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+という栄養非要求性細胞(prototroph)をX線および紫外線で照射した場合の栄養要求性変異細胞(Auxotrophs)の出現率つまり誘発前進突然変異率を検索した結果についてはこれまでに報告してきたが、今回は同様の方法で分離したAla-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-、TdR-というauxotrophを使って、これにX線および紫外線を照射した場合に誘発されるPrototrophへの復帰突然変異率を算定した結果につき報告する。実験にさきだち一定期間をおいて上記Auxotrophの栄養要求性を詳細に検討した結果、Ala-、Asn-、Pro-、Ser-、Gly-というマーカーは非常に不安定でTdR-のみが遺伝的に安定なマーカーとして使用可能なことがわかった。従ってこの実験系は結果的にはTdR-→TdR+への復帰突然変異を調べることになった訳である。さて、このauxotrophに種々の線量のX線および紫外線を照射し、fixation and expressionのために48時間おいた後、thymidineを欠いたselection mediumに移して出現するコロニー数から誘発復元突然変異率(TdR-→TdR+)を算定した。 (図を呈示)(TdR-→TdR+)をマーカーにして調べたX線および紫外線による誘発復帰突然変異率は非常に低い。これまでにたびたび報告してきた(1)8-azaguanine抵抗性を指標にして調べたX線および紫外線による誘発前進突然変異率、あるいは前回まで報告してきた(2)Ala+、Asn+、Pro+、Asp+、Hyp+、Glu+というPrototrophを用いてX線および紫外線によるauxotrophへの誘発前進突然変異率にくらべてはるかに低率であることがわかる。 こうした違いが何に起因するのか、つまり(1)それぞれの実験系における誘発突然変異検出能の差違に原因しているのか、あるいは(2)前進突然変異と復帰突然変異の機構は本質的に異ったものであるのか、といった重要な問題の解析が今後に残されている。
:質疑応答:[山上]2倍体の細胞は遺伝子が2倍ですから、分析が難しいと思いますが・・・。[堀川]難しいですね。haploidでもまだ問題はあります。2倍体でもWI-38などは細胞の維持が大変で、とてもmutationの仕事には使えません。 [吉田]もちろんhaploidの系がとれれば遺伝子を調べるには理想的ですが、とても維持できる系はとれないでしょう。2倍体なら何とか維持できますが。 [野瀬]Auxotrophをとる場合でPrototrophが大部分を占めている場合、完全に拾うことは出来ないのではないでしょうか。 [堀川]BUdR→光という方法にも問題はあります。この方法自体が変異を起こすというような。今の方法で要求性細胞を拾うのは確かに非常に困難です。 [山上]全部TdRマイナスだったというのは何故でしょうか。 [堀川]判りません。 [吉田]感受性細胞も耐性細胞もdependent mutantも出てくる事をどう考えますか。 [堀川]Inducerに作用するとか、色々な事が考えられます。 [乾 ]Deletionの形でmutationが起こった場合、元に戻ったらreverse mutationではなくて、forward mutationという訳でしょう。 [堀川]その点はmolecular levelで実験して調べてみないと判りません。 [吉田]自然変異率はどの位ですか。 [堀川]2〜5x10-5乗くらいです。 [吉田]1000rかけると・・・。 [堀川]1x10-2乗くらいになります。 [勝田]8-AGの作用は細胞を浮遊状態でさせるのですか。 [堀川]そうです。
《野瀬報告》Alkaline Posphatase変異株の分離:ALP活性発現の機構をDibutyryl cAMPによるinductionを生化学的に解析することによって知ろうとしているが、もう一のアプローチとして遺伝的解析も試みている。そのためにはP.E.が高く、growthの早い細胞株が有利なのでCHO-K1細胞を用いた。この株はcloneであり、ALP-Iの活性はnot detectableであった。Fast Red Violetとα-Naphthylphosphate AS-MXとで組織化学的染色を行なうと、ごくわずか(1x10-6乗)ALP陽性に染まる細胞が集団中に検出され、この頻度はMNNG処理により上昇した。そこでmutagen処理後at randomにcolonyをひろいALP活性を見てゆめば10,000〜100,000に1個の割合でALP陽性のcloneがとれることが期待された。 方法は、CHO-K1をMNNG(0.1〜0.5μg/ml)又はEMS(400〜2000μg/ml)で2hr.処理し、0〜10日incubateした後、90mmのdishにca500cells/mlでまきこみcolonyを作らせ、その上からP-nitrophenylposphate 1mg/mlを含む1.5%agar(Hanks、Tris)を重層し黄色く色づくcolonyを探す。上の組織化学染色では細胞が死んでしまうので染色はpNPPが良いようである。この結果、MNNG処理は5/33116、EMS処理は1/12496の頻度で黄色く染まるcolonyが検出された(表を呈示)。これらをpick upし、更にsecondary cloningを行なってpure cloneをとろうとしている。今迄とれた6コのALP+coloniesからcloningできたのは3コで、それぞれAL-1、AL-3、AL-4と名づけ、これから更にcolonyをひろったのがAL-12、AL-15、AL-32、AL-43である。これらの細胞集団中のALP+cellの頻度は、single colonyを拾った段階ではまだかなりALP(-)の細胞が混っているが、更にcloningするとかなりpureになり大部分ALP+細胞となった。このcloningには約1カ月半経過しているので、ALP+の性質は安定であると考えられる。(表を呈示) 次にここで得られたcloneの酵素活性を見た(表を呈示)。親株のCHO-K1にくらべ、これらのcloneは数千倍のALP-I活性をもっていることがわかる。ALP-IIおよびacid phosphatase活性にはそれ程大きな差はない。 S.Barbamの論文によると2-deoxy Glucose耐性株はALP活性が高いというので、ここで得られたALP-constitutive株の2-d-Glc感受性を調べた。(図を呈示)そのgrowth curveではALP+細胞でも2-d-Glcには耐性になってなく、逆は成りたたないようである。 ALP+株はCHO-K1とALP-I活性が大きく異なる以外、形態的にもdoubling timeも、また染色体数にも違いはない。染色体組成には若干差があり、ALP+細胞には1本片側のarmの分裂がおそい染色体があるが、これがALP+の性質と関連するかどうかは今のところわからない。 一つの酵素活性がない細胞から、ある細胞がとれたということは、元の細胞にはおの酵素の遺伝子があるが発現できず、何らかの機構でde-repressされたと考えられる。これがmutationによるのか、epigeneticな機構によるのか今後の問題である。
:質疑応答:[吉田]ハムスターは動物レベルではALP活性があるのですか。[野瀬]遺伝子としてはあるはずです。 [吉田]人間の細胞では染色体のどの部位にどんな遺伝子がのっているかが、かなり確かに解っています。人間の細胞を使うと有利だと思いますが・・・。 [野瀬]必ずしも遺伝子レベルの変化とも思えません。酵素活性がなくてもその遺伝子がないとは言い難いのです。蛋白合成を阻害しても酵素活性の誘導はかかります。 [佐藤]細胞の種類、又腫瘍と正常という事が酵素活性と関係していますか。 [野瀬]同じ系の細胞でも酵素活性の殆どないものと高いものとがありますから、あまりはっきりした関係はないと思われます。 [堀川]2-d-Glc.耐性とALP活性の関係を調べたデータをみましたが、面白いですね。
《吉田報告》
バンディング法によってラットのStandard Karyotypeが国際的に決定した。これはStandard Karyotypeのcommittee(筆者もその一人)の意見によったもので、最近Cytogenet.Cell Genet.12:199-205(1973)に発表された。
去る8月20日から30日まで米国カリフォルニア州のバークレーで行なわれた国際遺伝学会議に出席し、クマネズミの核型進化について発表した。クマネズミにアジア型(2n=42)、オセアニア型(2n=38)及びセイロン型(2n=40)の3型が発見され、これらはインド南部で分化したと考えられた。尚constitutive heterochromatinを染色するといわれるC-バンディングパターンにも多型がある。血清蛋白トランスフェリンのアミノ酸分析などからクマネズミの核型進化の方向性が論じられた。
|