【勝田班月報:7403:MLTRにおける反応細胞の検討】

《勝田報告》

 ラッテ肝由来RLC-10(2)、CulbTC、JTC-15の復元について:

 ラッテ腹水肝癌のAH-66由来株JTC-15から軟寒天法を用いて拾ったクロンの中、可移植性マイナスであったAC-4と高い可移植性をもっていたAC-5の現在の可移植性を調べた。1年間の経過の間に低可移植性であったAC-4も生後4日のラッテでは100万個の細胞接種で100%腫瘍死するという結果であった。生存日数を比べるとAC-5の方が短い。しかし、同系のラッテでも生後1.5カ月のものでは、AC-4、AC-5ともにtakeされなかった。

 乳児ラッテではRLC-10(2)もCulbTCも動物にtakeされる事はすでに報告した。生後1カ月以上のラッテではRLC-10(2)はtakeされないが、CulbTCはtakeされる。

(表を呈示)RLC-10に4NQOを作用させ悪性化した系の再培養系CulbTCを、JAR-1系ラッテの腹腔内で継代移植した。動物での継代数が増すにつれて、ラッテの生存日数が短くなる傾向がある。

今後この動物継代CulbTCとRLC-10(2)の混合復元実験を予定している。



 

:質疑応答:

[梅田]RLC-10、Culbの系では細胞の接種量と動物の生存日数に比例関係はないですね。

[山田]RLC-10(2)が乳児ラッテではtakeされ、アダルトラッテではtakeされない。乳児とアダルトとの復元条件の違いは免疫の問題でしょうかね。



《山田報告》

 ヘマトキシリン代用色素としてのGallein及びPyrocatecholについて;

 最近急にヘマトキシリンが品不足になり、今後の入手が危ぶまれています。本来ヘマトキシリンは中米のマメ科の木の幹から抽出した天然物であり、現在の所、合成は難しいのださうです。

 そこで合成色素で何かヘマトキシリンの代用になるものはないかと探してみました。

 即ちヘマトキシリンと同様な染色機構を持つ色素が好ましいわけですが、今回試みたのは(図を呈示)6種類の色素でいづれもキノイド環を持つ物質です。これにアンモニウム明礬を加へて、これらの物質とラックを作らせ発色性をみた所、Gallein及びPyrocatecholが最もヘマトキシリンに近い色を示しました。これらの色素の細胞及び組織切片の染色性をしらべた所、Galleinは赤紫色であるので、細胞質をライトグリーンで染める(Papanicolaou染色)と良く、Pyrocatecholは青紫色であるので、細胞質をエオジンで染める(HE染色)と良いことがわかりました。ヘマトキシリン程鮮明ではないにしてもこれに代用することができると思います。この色素の染色機構はヘマトキシリンと同様です。



 

:質疑応答:

[永井]細胞電気泳動で薄いConAで処理した時、泳動値が高くなるのをどう考えますか。

[山田]抗原抗体反応的なものかと考えています。

[永井]経時的にはどうですか。

[山田]濃度や時間を増してみても、どんどん進行するという事はないようです。



《高木報告》

 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:

 CytochalasinB(CCB)につき、1、2.5、5μg/mlの濃度で次の各種細胞に対する効果をみた。結果はWI-38、XP(培養100日)、RFL-N2(培養90日)、Sg(培養1年)、RLC-10、3T3は殆どが2核であったが、RFL-5、L、RRLC-12(ラット肉腫細胞株)、JTC-11(エールリッヒ癌細胞株)は多核を形成した。これはKellyらが3T3とSV3T3について行なった成績から予想された結果であった。すなわち一応“正常”細胞とみなされるWI-38、XP、RFL-N2、RLC-10、Sgでは4日間の作用期間を通じて2核どまりであり、腫瘍細胞であるRRLC-12、JTC-11では多核細胞が多数みられた。とくにJTC-11細胞では、ここに用いた濃度の範囲では高濃度(5μg/ml)でも多核細胞が多くみられた。ここに用いた3T3細胞は継代間隔が不正確でまたcloningもしていないためかpiling-upがみられ、3〜4核細胞もやや認められた。長く培養し、形態的にも可成りの変化があったRFL-5、L細胞では多核細胞が多くみられたが5μg/mlではその数は2.5μg/ml以下に比し、少なかった。今後細胞の増殖度、DNA、蛋白合成などとの関係を調べたい。

 膵ラ氏島細胞培養について:

 これまでorgan cultureを中心に研究を続けて来たが、最近単離したラ氏島細胞の長期培養に努力している。すなわちラット膵をcollagenase処理することにより単離しえたラ氏島をそのまま、あるいはさらにEDTA、Trypsinで処理して細胞単位として“mini"の環境で培養してみたが、ラ氏島のままでは約2ケ月半、細胞の培養では1ケ月以上可成りの量のinsulinを分泌しつづけた。形態学的に光顕、電顕で検索の予定であるが、今回は簡単にそのスライドを供覧したい。



 

:質疑応答:

[黒木]2カ月半もインスリンを出し続けたのは塊の方ですか。単層の方ですか。

[高木]塊の方です。単層の方は40日位は出してしますが、それ以上みていません。塊の方が1コで2万単位ものインスリンを出しているのでびっくりしています。

[山田]素人でもラ氏島の分離は出来ますか。

[高木]慣れるまで少し難しいですね。

[山田]CCBで多核細胞が出来る機構については、よく判っているのですか。

[高木]細胞膜に影響を与えるという事が言われていますね。ミクロチューブルスに作用するとかD-glucoseの取り込みの問題とか色々言われていますが、全部がはっきりしている訳ではありませんね。

[黒木]小さな核が沢山出来ている所見がありましたが、どういう機構で多核細胞が出来てくるのでしょうか。核分裂そのものにも影響があるのかも知れませんね。

[高木]多核細胞では核の全部が同調して分裂に入らない場合もありますね。一部だけが分裂したりします。

[山田]CCBは何に溶かしますか。

[高木]DMSOです。



《乾報告》

 タバコタールのハムスター細胞に及ぼす影響:

 粗性黄色種タバコタールをハムスター起原細胞に100μg/ml作用し、約120〜180日で細胞が癌化することをすでに報告した。今回はTransformation rateを定量化する目的で、3種のタール(即ち先に使用した黄色種A、在来種B、シート化工タバコC)を使用し、こられタールの細胞毒性、コロニーレベルでの変異誘導性を報告したい。

(材料及び方法)

 急性毒性実験にはHeLa、培養3代目のハムスター胎児起原細胞を使用し、梅田等のラブテックチェンバー法でタール100μg/mlより半対数稀釋で8段階稀釋した。培地はEagleMEM+10%血清で5%炭酸ガス、95%空気中で72時間培養し、固定HE染色後検鏡した。

 (変異誘導実験スケジュールの図を呈示)タール作用量は10、5、2.5、1.25μg/mlとし、作用後4日ごとに培地交換を行い12日目に固定染色した。

 (結果)

  1. 急性毒性テスト;

    タバコタール三種の急性毒性の結果は(表を呈示)、タールの毒性はHeLa細胞に比してハムスター細胞に強く表われた。この結果はタールに含まれている芳香族炭化水素(発癌性、非発癌性を含めて27種検出されている。)が、ハムスター細胞に存在するArylhydrocarbon hydroxdaseで活性化され細胞に作用したと考えたい。

     細胞毒性は対照に使用した黄色種Aに強く表われた。TarB、Cについては、Hamster細胞ではC>B、HeLa細胞ではB>Cで表われた。以上の結果はTarA、B、Cに含まれている、ベンツピレン、ニコチン、農薬(特にBHC、DDT)の問題と関連して今後の課題としたい。参考迄にタール中のベンツピレン、ニコチン、農薬含有量を表に示す。

     

  2. ハムスター細胞の変異誘導実験;

     10、5、2.5、1.25μg/mlのタールを48時間作用したが、2.5、1.25μg/mlでは変異コロニーの出現はみられなかった。無処理細胞のplating efficiecnyは6.33%で変異コロニーはみられなかった。

     (表を呈示)10、5μg/mlタール処理による変異率を示した。変異誘導率はTarAが明らかに高く、TarC、TarB順でχ2乗検定の結果3者の間に明らかな差が認められた。又ハムスター細胞に限れば、細胞毒性と、変異誘導性が平行して表れれた。

 以上の結果からみて、コロニー判定の基準に問題はのこるが、タバコタールの如き互いに近似した物質間で毒性、変異誘導性に差がみられたことから、コロニー形成率を指標とした実験が今後細胞単位の癌化の問題の定量化の一つの試みとして応用されることを希み、課題の一つとしてとり組んでいきたい。



 

:質疑応答:

[勝田]こういう物質のスクリーニングには人の細胞を使うべきですね。

[黒木]Feeder cellに人の細胞を使うといいでしょう。

[梅田]この場合のfeederはPEにのみ効いているのではありませんか。

[黒木]いや、矢張りfeederの細胞に何を使ってスクリーニングするかというのは、作用させる物質の代謝の問題として考える必要があると思います。それから、コロニーの判定は誰がやっていますか。人が代わると判定の結果も異なるでしょう。

[乾 ]判定は自分でやっています。前回の班会議の折りにも問題になりましたが、形態で判定するのは、どうも基準が難しいですね。

[佐藤]コロニーレベルでのクリスクロスは細胞の接種数や増殖に関係ありませんか。

[梅田]ハムスター胎児の場合、クローニングして使うわけではありませんから、いろんな細胞が出てきて、コロニーの形態もいろいろですね。

[佐藤]使う材料は矢張りクローニングしておくべきですね。それから、こういうスクリーニング法ですと、+は捕まえられるが−は安全と判定されます。その−の中で或る細胞では−だったが、他の系では実は−ではなかったというような問題が起きてきませんか。

[乾 ]前回の班会議の折りに勝田先生に言われましたが、コロニーレベルでの判定と動物レベルでの腫瘍性がどの程度平行しているかというデータをきちんと出す予定です。

[佐藤]天然物のスクリーニングの場合は、細胞の系をもっときちんとして、どの細胞にはどんな影響があるかを調べておくべきですね。

[梅田]当然そうあるべきでしょうが、実際的にはすごく大変な仕事です。

[津田]ハムスター胎児細胞をつかった場合のコロニーレベルで悪性と判定されたものでも、増殖させていく時間をかけなければtakeされないと思います。理論的には10日位ではtakeされないでしょう。



《梅田報告》

     
  1. ) 先月の月報ではT4phageを用い今迄の我々の方式で超遠心した結果を報告した。すなわち19℃と37℃でlysis時間を変えて遠心した所同じT4phageDNAなのに19℃ではbottomより20〜22本目、37℃では24〜25本目にピークのある分布を示すことがわかった。この違いの説明としては以下の実験を行ってみた。37℃でlysisさせる時はやや温度が高いため作製したgradientに多少の乱れが生ずるのではなかろうか。と考え、先ずgradientを作製してから4℃と37℃で2日間保った後、19℃としてそれからlysis液をのせ、又T4phageものせて1時間lysisさせてから遠心した。(図を呈示)4℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより28本目にピークのあることがわかる。37℃に47時間おいたgradientでT4phageを遠心すると、bottomより29本目にピークがある。以上の所見からgradientを作製後あまりにも長期間経たものを使用することはgradientの乱れを起している可能性もあり、注意しなければならないことがわかった。又gradient作製後lysis液をすぐのせ、T4phageとHeLa細胞を同時にのせて48時間後遠心したものは、24時間37℃でlysis後遠心したもの(今迄のデータ)とそれ程動いていないことがわかった。

     

  2. ) TPN障害について述べてきたが、H3-Adenine、C16-hypoxanthine、H3-cytidineのとりこみを調べてみた(実験毎に表を呈示)。  Ad、HXではとりこみは完全に抑えられているが、CRでは逆に促進が認められる。同時にorotic acidのとりこみをみると、10μci/mlと大量のH3-OAを投与したにも拘らず200cpm前後であまりにも少量しか摂り込みがなく確かなデータと云えない。

     前よりURの大量同時投与でTPN障害は形態的に恢復することを見ているので、TPNとcoldURその他pyrimidine同時投与でHXのとりこみが恢復されるかどうかみてみた。予測に反し、pyrimidineの同時投与でHXのとりこみはrecoverされなかった。

     同じ目的でみたGuのとりこみは、TPNにより阻害されるが、URの同時投与によっても恢復されなかった。Mycophenolic acid(MPA)はIMPよりGMPにいたる合成系の阻害剤である。URとMPA同時投与によりTPN障害の恢復を期待したが恢復は認められなかった。

     Thymidineのとりこみはやや阻害される程度であるが、TPN、URの同時投与でのTdRとりこみの恢復をみたがこれも恢復しなかった。以上purine、pyrimidineの生合成系の異常をとりこみ実験でみる時のむずかしさを痛感させられた。

     

  3. ) 前に明らかにTPN障害がURにより恢復されることをみているので、系統的に標本を作り形態的に観察した。核小体の形態のみみても、URの投与でTPNの障害が恢復し、しかもdose dependentであることが判った。

     

  4. ) 増殖カーブでみるとTPN 10-3乗MでHeLa細胞には致死的であり、10-4乗Mでは細胞数は投与後2日間は横這いであるが、3日目には恢復している。TPN 10-3乗MとURの同時投与では、UR 10-4乗Mでは完全に、10-5乗Mで2日目迄、恢復している。10-6乗Mでは恢復されない。以上よりTPNによる障害はpyrimidine生合成のうちUMPにいたる迄のどこかで強く障害していることによることが示された。



 

:質疑応答:

[黒木]超遠心分劃の図をみますとメインピークの鋭さが安藤氏と梅田氏のデータに違いがあるようですが、何か技術的に違いがありますか。

[梅田]こまかい点で幾つか違いますね。

[野瀬]Lysisの条件の中、使用した薬剤の不純物がDNAを切る原因になっていませんか。

[梅田]試薬は一応特級だけ使っています。

[勝田]もうそろそろDNAが切れるかどうかというのに、けりをつけた方がいいですね。

[梅田]始めはスクリーニングに使うつもりでしたが、やってみると手技の上で色々と問題が起こってしまって、仲々手が切れずにいます。

[勝田]DNAが切れるという事が発癌に必要なことなのかどうか、という原点に帰って考えてみる必要があります。

[乾 ]Lysisの問題ですが、T4DNAは時間をかけても変わらないのに、mammalian cellのDNAは時間をかけるとT4DNAのレベル迄小さくなるのは、どう考えますか。

[梅田]今言われているmammalian cellのDNAの最小単位の大きさが必ずしも最小ではないのだと言えるのではないかと考えています。

[永井]なぎさの変異では色んな方向へ変異するのに、悪性化は捕まらなかった。DNAレベルの変異といっても色々あって、どれが悪性化へ結びつくものとして、捕らえられるのか、という所が悩みですね。



《藤井報告》

     
  1. Mixed lymphocyte-tumor culture reaction(MLTR)における反応細胞の検討:

     従来おこなってきたMLTRには末梢血中白血球を、ラットではAngioconray-Ficol法で80〜90%にリンパ球様細胞をふくむ細胞を使用したが、MLTRにおいて反応し、H3-TdRをとり込むリンパ系細胞が、Mφをふくむのか、T-リンパ球か、B-リンパ球か、そのいづれをも必要とするのか、などが問題となってきた。

     今回はJAR-1ラットの末梢血より、リンパ様細胞を多くふくむ細胞浮遊液、1,000万個細胞/mlをAngioconray-Ficol法で調整し、これをさらにcarbonyl ironの上に重畳して、37℃、1時間静置してMφに鉄微粒子を貪喰あるいは鉄粒子に附着させ、これを磁力で沈めて除去する方法により、Mφを除いたリンパ様細胞をつくった。

     このようにして調整したリンパ様細胞と、非処理の元のリンパ様細胞とのMLTRを、8,000R照射Culb-TC細胞でおこなってみると、Mφ除去リンパ様細胞とMφをふくむ細胞群とは(表を呈示)、ほぼ同程度のH3TdRのとり込み値を示したが、対照のリンパ系細胞だけでのとり込みが、後者で高く、反応係数で比較すると、Mφを除き、リンパ球の純度の高い方がMLTRが高い結果となった。この成績からMφのH3TdRのとり込みはあるとしても、MLTRにおける反応細胞はリンパ球であろうということになる。

     

  2. マウスにおけるMC肉腫発癌に対するZnSO4投与の影響:

     Znは、ふつう肉類に多くふくまれており、正常には食物とともに充分摂取されている。Znがリンパ系組織の恢復に有効であり、Zn欠乏で、リンパ系組織不全がきたりするという報告がある。また宇多小路博士(癌研)によると、Znはin vitroでリンパ球の幼若化反応をもたらす。癌患者の末期ではリンパ球の著しい減少をきたす例が非常に多い。これは、末期では、食事とくに肉類などの摂取が低下することと関係があるかも知れない。

     Znの投与が、MC発癌に対して影響するかどうかを試してみた。Zn投与がリンパ球反応を促進し、発癌における免疫学的監視機構を強めて発癌を抑制するかどうかをみるのが狙いであるが、その実体はわからない。

     C57BL♀マウス、4週齢に、MC1mg(ラッカセイ油にとかした)を皮下注射し、局所にTumorがふれ始める頃、68日目より、ZnSO4溶液(1g/l)を連日飲用させた。この投与量は、マウス1日の飲用水量6mlとして6mg/day/mouseで、文献上みられたヒトへの投与量150mg/50kgの100倍である。

     (表を呈示)tumor incidence、平均腫瘍サイズ(タテxヨコ)は非投与群より低い。しかしtumor sizeのばらつきが大きいのが難点である。末梢リンパ球数は(表を呈示)、ほとんど影響なく、非投与群、MC(+)群ではtumorの潰瘍化、感染で却って倍加している。(マウスは充分Znを食餌より摂取しているためか)



 

:質疑応答:

[黒木]発癌性が強すぎると、はっきりした結果が出なくなるとも考えられますね。

[津田]マウスの体重は、亜鉛を飲ませた群と飲ませない群とで違いがありますか。

[藤井]亜鉛を入れた水は苦いので、その水に慣れるまで飲まないようです。そのために痩せてしまいますが、後は別に変わりがありません。それから、Tumorの大きさの検定に何かよい方法はありませんかね。バラツキが多くて・・・。

[乾 ]動物の発癌実験ではバラツキがあるのがあたり前ですね。ペインティングでパピローマを狙うのはどうですか。



《佐藤報告》

 T-8) DABによるdRLa-74由来クローン(主としてCl-2)の増殖阻害について。

     
  1. クローン間のDABに対する感受性の比較(図表を呈示)。

     1.8x10-4乗MのDAB、2日間処理により増殖に対する影響を検討した結果、CL-4以外のクローンは、ほぼ同程度の感受性を示した。CL-4の増殖阻害はアルコールの毒性によるものと考えられる(なお、CL-4は細胞の形態上、他のクローンとやや異なる)。なおDABの1.8x10-4乗Mは計算上、0.8%アルコールのコントロールをとった。

     

  2. CL-2の増殖に対するDAB、3'Me-DAB、ABの影響(図を呈示)。

     1.8x10-4乗MのDABでは増殖阻害があるが、4.4x10-5乗M以下では影響は少ない様である。3'Me-DABもDABとほぼ同傾向である。しかし、ABの阻害率は大きく、この系CL-2の特徴である。

  3. CL-2の増殖に対するDABの影響(植え込み数の検討の図を呈示)。

     植え込み細胞数33万個/tube、13万個/tube、4万個/tubeで細胞数を少くした場合、DABによる増殖阻害率は上昇傾向である。

     

  4. CL-2のコロニー形成能に対するDABの影響(図を呈示)。

    300cells/dishの細胞植え込み後、2日、コントロール(0.8%アルコール)、4.4x10-5乗M(0.2%アルコール)、1.8x10-4乗M(0.8%アルコール)DABで7日間処理し9日目に元の培地(MEM+20%BS)に戻した。1.8x10-4乗MのDAB処理により有意にPEの減少を認めた。又、各々コロニーの大いさはDAB処理群で、全体的に小さくなっており、ここでも、増殖阻害(抑制)が認められた。



 

:質疑応答:

[梅田]クローニングの時期は・・・。

[佐藤]かなり培養になれてから拾っています。

[梅田]それでもこんなに色んなものが拾えるのですね。

[高木]脂肪滴をもった細胞はDABを食わせた細胞に多いのですか。

[佐藤]いちがいには言えませんが、そういうものもあります。細胞質にDABの溶けた脂肪滴が一杯つまって、真黄色になってみえる細胞もあります。

[黒木]DAB 40μg/mlという高濃度でよく溶けていますか。

[佐藤]DABをアルコールに溶かしてから、全血清で薄めて沈殿を遠沈で除去して使います。その時の溶液を定量してみたら40μg/mlという数値になりました。



《永井報告》

 Polyamineの定量分析について

 癌細胞より産生される毒性代謝物質の化学的本態がpolyamine類似の化合物である可能性が強くなってきた。また、最近になってSpermine、spermidine、putrescineといったpolyamineが細胞増殖との関聨において、強い関心を呼びつつあり、“Polyamines in normal and neoplastic growth”といったNCI symposium(1973)の記録も出版されたほか、幾つかのpolyamineの生理活性についての綜説も現われ始めている。そこで、現在おこなわれているpolyamine定量分析法について以下に概観してみた(表を呈示)。



《野瀬報告》

 ALP-変異株の性質について

 前回の班会議で、ALP-活性の高いsubcloneのうち一つは性質が不安定で長期間(約100日)培養するとALP-陰性細胞が出現することを報告した。この出現が元々陰性細胞が一部混在していたのか、又は陽性細胞がspontaneousに変化したのか決定するため、Single cell cloneを拾ってみた。(表を呈示)結果はcolonial cloneだけでなく、single cell cloneでも、colonyを単離してから43日目にすでにALP-陰性細胞が出現してきた。従って、ALP-活性の高い状態は2〜3カ月は安定だが、たえずcloningを行っていないと次第に活性の低い細胞の比率が増えてくるように思われる。この様な不安定性は、ALP-活性の変化が遺伝的変異によるのではなく、何かepigenetic controlによって誘起されたことを示唆している。

次にALP-陽性細胞はdeoxy glucoseに対する感受性が変化しているというBarbanの報告にならい、CHO-K1からd-Glc耐性株をとってALP-活性をみてみたが(表を呈示)、全く活性は変化していなかった。また逆に、ALP-陽性細胞も、dGlc耐性となっていないようである。

 細胞のALP-活性が上昇する機構を知るために、陽性細胞の性質が優性か劣性かを調べることが重要である。そこで、陽性、陰性細胞のhybridを作りその細胞の活性を比較しようとしている。Hybridの作り方はCHO-K1-P33(ALP-、Pro+、8AZs)とAL-343AGr(ALP+、Pro-、8AZr)とを、HVJで融合させ、Pro(-)8AZ(+)の培地で選択する。(図を呈示)この実験のためCHO-K1(-Pro)から分離したPro-prototrophのP.E.では、確かにPro(-)で増殖できる。現在、まだこの方法でhybridはとれていない。更に融合の条件を検討したいと考えている。



 

:質疑応答:

[勝田]この仕事をどうやって癌に結び付けるつもりですか。

[野瀬]癌の共通性というのは未だ見つかっていないのですから、こういう酵素活性の一つを癌の一部を代表しているものとして考えてみたいと思っています。

[勝田]吉田一門の仕事で判ったことは、癌には共通性がないという事ですね。これからの癌の研究で大切なのは、その共通性を探してゆくことですね。

[佐藤]ALPの活性は細胞の種類に関係はないのですね。ALPの変異は元へ戻ることがあるが、腫瘍化の変異は決して正常に戻らない点が違いますね。



《黒木報告》

 班会議の席上で報告したのは、Lyon滞在中に分離したラット肝細胞とそれを用いたtransformation及び今後の実験計画、特に結合蛋白の精製、replica法による紫外線感受性細胞の分離、及び最近Heidelbergerらによって分離された10T1/2細胞を用いたtransformationなどであった。これらはすでに1月号、2月号の月報に報告したので、その詳細は重複するので省略する。その後、肝細胞(IAR-series)と10T1/2があい次いで、フランスとアメリカから届いたので、その位相差像を以下に示す(顕微鏡写真を呈示)。Druckreyによって樹立されたBD-IVラット(白黒のブチ)の生後10日の肝より得た細胞IAR-20、分離法はWilliamsに従った。培地はWilliams'med+15%FCS、この細胞からmicroplateによりpure clone(PC)-1、-2、-3を得た。また、生後8週のラットより分離したIAR-22もある。

 10T1/2細胞Clone8、passage6:C3Hマウス胎児より得た10T1/2細胞のconfluent sheetでは、細胞はうすく広がり、細胞質内に顆粒をもつ。5万個/60mm dishで10日おきに継代、5日目に培地交換、培地はEagle's basal med. plus 20%FCS。飽和密度は75万個/60mm dish(3.6万個/平方cm)。



 

:質疑応答:(前号月報の報告について)

[乾 ]UV感受性細胞などの変異は本当に遺伝子変異といえるのかどうか疑問ですね。

[黒木]変異率が1〜10%というのは高すぎる、とかねがね思っています。

[野瀬]癌そのものが変異なのかどうか判りませんね。

[黒木]しかし発癌剤とされているものは、殆どが変異剤です。



《堀川報告》

 これまでChainese hamster hai細胞から分離したprototrophおよびauxotrophを用いてmutation inductionを調べる実験について主として報告してきたが、今回は薬剤感受性をマーカーにして復帰突然変異を検索するため、Chinese hamster hai(CH-hai cl23)細胞より70μg/ml 8-azaguanineに抵抗性の細胞2株を分離したのでこれにつき報告する。これら8-azaguanine対抗性の8-azg70γ-Aおよび8-azg70γ-B株は(表を呈示)、70μg/ml 8-azaguanineを含む培地で培養した時(それぞれシャーレ当り500個または10万個細胞を植え込む)、CH-hai cl23親細胞に比べてはるかに8-azaguanine抵抗性であることがわかる。

 一方、これら8-azaguanine resistant cell linesから生じるreverse mutantのselectionのためにはGHATのmediumでselectする必要がある。そのためCH-hai cl23細胞および8-azaguanine抵抗性の8-azg70-Aおよび8-azg70-B株を1x10-4乗M hypoxantine、1.9x10-5乗M thymidine、1.0x10-4乗M glycineと種々の濃度のaminopterineを含むGHAT培地中で培養した際の(この場合もシャーレ当りそれぞれ500個または10万個細胞を植え込む)コロニー形成能を調べた(表を呈示)。その結果、CH-hai cl23親細胞はHGPRT enzyme活性をもつため各種濃度のaminopterinを含くむGHAT培地中でもコロニーを形成し得るが、HGPRTを欠く2つの8-azaguanine抵抗性株では4x10-7M aminopterinを含むGHAT培地中ではたとえ10万個の細胞を植えこんでもコロニー形成はまったく認められない。したがって、これら2つの8-azaguanine抵抗性株は今後induced reverse mutationの研究を進めるうえでよき実験系として使用することが出来る。

 尚、これら2つの8-azaguanine抵抗性株およびCH-hai cl23親細胞におけるHGPRTenzymeの比活性は現在測定中である。

 (堀川班員は当日欠席されましたので、討論はありません。)