【勝田班月報:7408:10T1/2細胞の化学発癌】《勝田報告》§ヒト・リンパ系細胞の培養ヒト・リンパ系細胞は免疫関係の研究にしばしば用いられてきたにも拘わらず、それらのリンパ球系各細胞の分類及び動態について詳しい記載がなされていない。その点をもう少し正確にしたいと思ってこの仕事をはじめた。分劃はFicoll-Conray法により、最後の沈渣を培養すると、7日間culture後に生きていると判定された細胞はクエン酸+クリスタル紫の処理では78%、エリスロシンでの判定では77%が生きていた。これらの細胞の塗抹、その他のギムザなどの染色標本、及び16mmケンビ鏡映画撮影による動態を示した。
:質疑応答:[堀川]H3TdRの添加時間が6時間だとgeneration timeの長い細胞ではS期に合わないために取り込みがないという事もあり得ますね。[高岡]もっと長時間の添加実験が必要ということですね。 [難波]Monocyteの世代時間は1〜3日ですね。 [藤井]In vivoでも小リンパ球が1〜2カ月生存していることがあります。 [堀川]私のデータですが、マウスの脾臓の培養でリンパ球様の細胞は初期に死滅してしまい、monocyteらしい細胞が3ケ月位増殖せずに生存していて、100〜150日位経って増殖が始まって株化し悪性化してしまいました。株化した細胞には貪喰性がありました。 [勝田]この実験を始めた目的の一つにリンパ球様の細胞の中でどの細胞が分裂するのか、映画の視野の中でとらえたいという事があります。 [高岡]PHAを入れると塗抹標本での分裂像は確かに沢山みられるのですが、映画の視野では細胞が凝集してしまって、うまく分裂をとらえる事が出来ませんでした。 [山田]PHAを使うのでしたら、血球の凝集の濃度より分裂を起こさせる濃度の方が1ケタ位低かったと思いますから、そこを変えてみればよいでしょう。 [永井]PHAでなく亜鉛や沃度を使えば凝集させずに分裂だけ起こさせられます。 [藤井]Ficoll-Conray法の分劃では、沃度の刺戟があって幼若化する事があります。 [翠川]人のリンパ球の培養の場合、癌患者だと手術前に採ったものか術後に採ったものかで、随分違ってきますね。条件を一定にしなければなりませんね。 [勝田]人間は雑系だから、実験材料としては扱いにくいですね。 [吉田]癌患者の血流中に癌細胞はいませんか。 [藤井]問題になっていますが、今の所確実な同定法がないのです。 [勝田]幼若化したから分裂するのでしょうか。分裂したから幼若なのでしょうか。 [藤井]形態的に見て大きくなった所謂幼若化細胞は分裂するとしても小さい細胞にもTdRの摂り込みはありますし、何とも言えません。 [山田]リンパ球の幼若化の問題はさんざん研究されてきた問題ではありながら、その形態学はあまりはっきりしていないから、今からやっても新しいと言えますね。
《佐藤報告》T-11)発癌実験(Exp.III)CL-2細胞の実験開始時点での総培養日数930日、継代数94代。(表を呈示)10μg/ml DAB処理群ではDABによる障害は少なく、DABの連続投与が可能である。40μg/ml DAB処理群では細胞障害度は大きく、従って連続投与はできない。40μg/mlをできるだけ長期間与える事を目的とするため短時間処理をくりかえした群、細胞障害を大きくしたため全処理期間は短くなっている群がある(累積曲線を呈示)。 コントロールとDAB処理群のコロニー形成率を検討した(表を呈示)(発癌実験開始後71~73日で実施)。コロニー形成率では有意の差は認められないが、コロニーの大きさを比較した場合、処理群では大きなコロニーが出現する傾向がある様に思われる。 前回の実験で、DAB処理に対する耐性を得ているらしいことを見たが、今回の実験系でも処理群に耐性傾向を認めた。コントロールの細胞についてDABの処理時間(2日、7日)を検討した。またDAB 7日間処理の各群の増殖を検討した(増殖曲線の図を呈示)。 他に染色体分析を行ったが、染色体数の上ではコントロールと処理群との間に差を認めない。現在、腫瘍性についての検討を進めている。
:質疑応答:[難波]コロニーの大小によるDABの耐性の差はありますか。[常盤]特に差はありません。 [堀川]耐性をみる時、細胞数はどの位入れますか。 [常盤]100コ/mlにしています。 [乾 ]40μg/ml添加の群は50%の増殖阻害という事でしたが、増殖曲線をみると直線的にのべているのは何故でしょうか。 [吉田]耐性の仕事の狙いはどこにあるのですか。 [佐藤]In vitroの発癌実験では自然悪性化が起こるので実験が難しくなります。今まで長らくラッテの細胞とDABという組合せの実験をしてきて判ったことは、低濃度のDAB添加では増殖誘導が起こるという事です。その後に悪性化の問題があるのですが、正常な肝由来の細胞では対照の方も必ず悪性化してしまって不安定で困るので、増殖誘導の所は省いてしまって、in vivoでのDAB投与によって良性腫瘍になっていてその性質がin vitroでは安定しているという系を使って実験しようとしています。その場合の一つの指標として耐性をみているのです。 [翠川]良性腫瘍になったものに、又同じ発癌剤をかけて更に悪性になるという事があるでしょうか。私は良性であれ悪性であれ、一度癌になったものは、それで癌化の過程が終了したものと考えています。 [佐藤]DAB発癌については、私は段階的に悪性化すると考えています。 [黒木]動物への復元成績で悪性度をみる場合は、移植抗原が絡んできますね。 [佐藤]組織像と転移などで悪性度をみようと思っています。 [黒木]それにしても接種後100日でラッテを斃す細胞を良性とは言えませんね。 [勝田]腫瘍性の問題を話す時は、色々の問題を一緒くたにしてしゃべっては駄目ですね。個々の細胞の悪性度の問題、集団の中での細胞相互作用の問題、宿主との免疫の問題と整理して考えなければ。それから、DABに対する耐性とは何でしょうか。私達の実験ではDABを無視して増殖する型と、DABをどんどん代謝して無害にする型とありましたが。 [佐藤]どちらも含めて、要するにDAB添加で死なない細胞を耐性細胞としています。
《難波報告》2.4NQO処理による癌化過程のヒト培養細胞の染色体の変化:月報7406にヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理し癌化させることに成功したことを報告した。その癌化したと思われる一実験系(SUSM1〜4)の細胞のクロモゾーム数を調べてみると(図を呈示)、全部Hypodiploidを示していた。これは勝田教授らのラット2n体細胞を4NQOで癌化させた実験で報告されているクロモゾームの変化に一致していて興味深い。 牧野らはヒト腫瘍の染色体はHyperdiploid〜Triploid modalityを示すものが一番多く次いでHypotetraploidが多いと報告した。又、培養化されたヒト腫瘍細胞の染色体が3n附近にモードを持っていることはよく知られている。 我々がここに示すような癌化した細胞の染色体の変化を報告した折、何故モードが2n〜4nの間にないのかと云う質問があったので我々はその当時次の様なことがおこるのではないかと答えておいた。Diploid→Hypodiploid→Hypotetraploid(around triploid)。そしてそのような変化がおこるのではないかと予想していた。そこで最近この癌化した実験系の内、SUMI1のクロモゾームを調べてみると、(分布図を呈示)Hypodiploidを示すものはもう殆どなく染色体はHypotetraploidに移行していた。 以上のことから結論されることは
:質疑応答:[吉田]この染色体数の変化はどの位の期間で起こったのですか。[難波]47代の時の最頻値が42本、帰国して52代で70〜80本です。日数は43日間です。 [吉田]本数の変わり方が激しすぎますね。核型はみてありますか。トランスロケーションによる本数の変化ではありませんか。 [難波]42本の時はdicentricの染色体がありました。 [乾 ]42本でdicentricが出たなら、それをマーカーに4倍体の分析をすべきですね。 [佐藤]染色体上の変異は培養内では簡単に起こります。人の場合でも条件を変えたら自然悪性化も起こり得るのではないでしょうか。 [黒木]軟寒天内のコロニー形成能や、conAの凝集などについてはどうですか。 [難波]まだみてありません。
《掘川報告》今回は現在新しく進めている2つの実験について報告する。
同調培養されたHeLaS3細胞を使って、X線、UV、または化学発癌剤4-NQO、4-HAQOに対する細胞周期的感受性曲線の本体が何に起因するかの解析を進めているが、現在までにUVに対してはその感受性曲線は細胞内DNAに誘起されるTT量に依存し、その除去能には関係がなさそうであるという結果が得られている。一方、化学発癌剤4-NQOおよび4-HAQOについても、それらの感受性曲線は細胞内DNAと結合するこれら4-NQOあるいは4-HAQO量にそれぞれ依存するようで、DNAと結合した4-NQOや4-HAQOの除去能には関係がなさそうであるという結論が得られている。 さて、つぎの問題として、こうした各種物理化学敵要因に対する細胞の周期的感受性曲線と、これら要因により誘発される突然変異の細胞周期的依存性の関係を把握する必要がある。この際、細胞周期と突然変異誘発能の関連性は勿論のこと、同時に細胞の癌化能と細胞周期の関連性を追究出来れば最も理想的であるが、そのような系は見わたしたところどうも簡単に入手出来そうにもない。従って本来のHeLaS3細胞を使って、とにかく細胞周期と上記の各種要因による突然変異誘発能の関連性だけでもまず解析することにした。各stageにおける誘発突然変異のマーカーは最も単純な系として、15μg/ml 8-azaguanineに対する抵抗性を指標にしている。 さて、こうしたHeLaS3細胞を使っての実験系が走りだすと、どうしてもマウス由来のL細胞を使っての同様の実験系が慾しくなる。何故ならばHeLaS3細胞はTTの除去修復能を不完全ではあるが(約50%のTTを除去し得る)保持している。一方、マウスL細胞にはこのような除去修復能は見出されていない。さっそく、この細胞も新たに実験に加えた。され、HeLaS3細胞とL細胞で同様の結果が得られるか、それともまったく異った結果が得られるか、今後の研究に待たなければならない。
除去修復能をもたないマウスL細胞が何故除去修復能をもつHeLaS3細胞とUVに対する感受性において大きな差違を示さないか。こういった基本的な事象をもとにして、今やこのマウスL細胞において存在するであろう未知の修復機能の探索が多くの研究者によりなされているのが現状である。つまりE.coliなどで見出されているrecombination repairと類似の機構がマウスL細胞に存在するであろうことが、Lehman、Regan、Fujiwara等によって示唆されているが、今だにその本体を究明する段階には致っていない。このマウスL細胞等に存在するであろう未知の修復機構は現在post replication repairとよばれ、recombination repairから一応区別されている。こうした未知の修復機構の本体を追究すべく当教室でもマウスL細胞、HeLaS3細胞を用いることにより、UV照射後に新生されるDNAのelongationがどのようになされるか、更にはこうしたpost replication repairを特異的に抑えるCaffeineがDNAのelongationの過程をどのようにブロックするか、あるいはlabeled caffeine等を使用することにより、これがUV照射されたDNAとどのように結合するかなどの解析を開始したところである。いづれこれらについての結果は近い将来報告出来るものと思う。
:質疑応答:[梅田]変異率をsurvivalで割っているようですが、2日間のexpressionの後、またsurvivalをみていますか。[堀川]みています。 [黒木]Back mutationの頻度が低いのは、forwardで過ぎた同じ所に変異が起こらなければならないからでしょう。False positiveもあります。 [堀川]単純に考えるとそうです。 [勝田]どの位の期間、変異した性質を維持し得るかという事も問題になると思います。言葉についてですが、遺伝子が眠ってしまう方向への変異をforward mutationとはどうも納得できませんね。 [吉田]染色体上の変化はありませんか。 [堀川]色々と調べてみましたが、数の上にもbandingにも変化はありません。染色体変異より遺伝子変異だろうと考えています。 [佐藤]正常細胞より癌細胞の方が変異率は高いですね。培養細胞も株化したものは癌に準ずると思います。2倍体の細胞を使った方が変異率は正しく出るのではありませんか。 [黒木]Spontaneous mutationは癌の方が高いかも知れませんが、誘導する場合は同じかも知れません。 [堀川]初代培養の方が変異実験の材料に適していることは私も承知しているのですが、技術的に使いにくいので株細胞で実験しています。 [吉田]生体での2倍体の安定性は、長い年月の間に人間なら46本が残って来たという意味で安定なのですね。変異に関しては8倍体より4倍体、4倍体より2倍体、2倍体よりハプロイドがより直接的です。
《高木報告》CytochalasinBの培養細胞に対する効果:本実験はSV40 virusでtransformした細胞と、その原株の正常細胞との間にみられるCCBによる多核細胞形成の違いが、chemical carcinogenによりtransformした細胞とその原株正常細胞との間に認められるか否か、認められるとすればこれをin vitro carcinogenesisの1つの示標として用いられないか・・と云う発想の下にスタートした。これまでの結果をまとめてみると、これまでに調べた13種の正常細胞、長期培養株細胞、腫瘍細胞およびchemical carcinogenによりtransformした細胞についての結果は、正常細胞では2核細胞、それ以外の細胞では2核以上の多核細胞が出現する傾向がみられた。ただ復元実験により腫瘍を形成しなかった長期培養株細胞についても多核細胞の出現頻度が高かった。 この多核細胞の出現について、これがDNA合成を伴ったものであるか否かを検討するため、細胞の増殖曲線、培養日数による核数の変化、およびH3-thymidineの取込み実験を平行して行ってみた。H3-TdRの取込み実験はpules labelingで行った。 (実験毎に図を呈示)4,000細胞を植込んだ時の実験では、各濃度に比例した細胞増殖の抑制がみられる。その際のH3-TdRの取込みも濃度に比例した抑制がみられる。各日数における核数は1、5μg/mlでは48時間まではcontrolとほぼ同様の増加がみられるが、以後は可成り低下が認められる。これらのdataをそのまま解釈する限りH3-TdRの取込みは可成り低下しDNA合成を伴っていないように思われるが、CCBが細胞によるH3-TdRのとり込み自体に影響を与えると云うdataもあるので、その影響も加味しなければならない。 蛋白量、DNA量の直接の測定を現在行っている。またCCBを入れた時の多核細胞の状況および、CCBを除いた後の多核細胞の運命についても映画撮影中である。
:質疑応答:[吉田]多核細胞は時間と共に増えるのですか。DNAの合成は伴わないのですか。又多核になった時の核の大きさはどうですか。[高木]DNA合成を伴うのかどうかを調べたのですが、H3-TdRの取り込みをCCBが阻害するらしいのではっきりしませんでした。核分裂は抑えられています。核の大きさは2核までは1核と変わりませんが、それ以上の多核になると小さくなります。 [難波]核数と細胞数を数えれば分裂増殖があったかどうか判るでしょう。 [高木]全核数は増えています。 [黒木]融合は起こりますか。 [高木]起こりません。2核細胞になったものもCCBを除くと1核になるというのは、どういう風に分裂するのでしょうか。 [梅田]HeLaでは分裂にないって1核づつになる事があります。
《山田報告》最近、当班でも人間の悪性腫瘍細胞を用いる班員が増えて来て居り、しかも人間の腫瘍の細胞像についてfamiliarでない人も居るので、今回は人間の悪性腫瘍のうちで、癌細胞と肉腫細胞との形態学的違いをスライドに示しながら説明した。その特徴を以下に示す。しかしこれは極めて一般的な差であり、殊に肉腫は多彩な分化を示すことがあるので、case by caseにかなり異ることがある。(この細胞学的特徴は湿潤エーテル・アルコール固定、HE染色像にみられるものである。)[細胞配列]
:質疑応答:[翠川]集団としは診断できますが、1コの細胞を取り出して見ると判りませんね。[堀川]肉腫は肉腫であって癌種に変わらないのは起原の違いがあるからですか。 [山田]肉腫とか癌とかいうのは、人間が造った約束事なので、それを反古にされると学問は成り立たなくなります。 [勝田]細胞診で診断がついたものを培養すると像がくずれますか。 [山田]培養すると判りにくくなることがありますね。 [吉田]分化した細胞は癌化しないと考えてよいのでしょうか。 [山田]概念的にはそうなっていますが、筋道を追った明確な仕事はありません。 [吉田]培養して増えてくるものは皆未分化なのですか。 [翠川]ずっとそう思われて来ましたが、リンパ球が幼若化して分裂するという現象が見つけられて驚異だったわけです。 [山田]そうですね。我々の心胆を寒からしめましたね。
《吉田報告》現在、遺伝学研究所で維持されている実験動物についての説明。
:質疑応答:[難波]野生ネズミではC型ウィルスに感染しているものが75%あるというデータがありますが、その点は大丈夫ですか。[吉田]野生のものにどれ位どんな微生物がいるのかは調べてありませんが、野生のものは純系動物から完全に隔離して飼育しています。 [勝田]我々が貰う場合は、その点を注意しなくてはなりませんね。
《乾報告》ニトロソグアニジン誘導体8種の癌原性(V) 昨年後半及び本年の月報No.4、No.5でニトロソグアニジン誘導体の変異誘起性、細胞毒性、染色体切断等について報告した。一般的にこれら誘導体の細胞毒性、変異誘導性は、この一連の化合物においては炭素数の少ないものほど強いことがわかった。本報告では、MNNG、PNNG、nBNNG、iBNNG、Pent-NNG、HNNG、の6種のN-methyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine誘導体について染色体切断を観察したので報告する。 ニトロソグアニジン誘導体6種を、0.5〜10μg/ml対数増殖期のハムスター胎児起原細胞に3時間作用後、Hanks液で洗い、正常培地で24時間培養して染色体標本を作製し、観察に供した。 ニトロソグアニジン投与後の細胞の染色体数分布は(図を呈示)、Controlに使用した培養3代目のハムスター細胞では、正常の2倍体の細胞のしめる割合が86.2%と、極めて高かった。MNNG 0.5μg/ml作用群では、正常2倍体細胞は35.1%で、細胞分布も41〜50と広く、4倍体細胞も出現した。PNNG 5μg/ml作用群も同様2倍体細胞の出現は35.3%であった。ニトロソグアニジン誘導体の炭素原子数が増すにつれ細胞分布の幅は狭くなり、HNNGの染色体分布は正常のそれと変らなかった。 薬剤投与後の異常染色体をもつ細胞の出現率は(表を呈示)ニトロソグアニジンの炭素数の増加と共に減少し、HNNG投与群では正常細胞の示す染色体異常細胞の出現頻度と変わらなかった。N-butyl-N'-nitro-N-nitrosoguanidine(BNNG)投与群ではn-型、iso-型で異常細胞の出現が著しく異なり、n-BNNG投与群ではPNNG投与群に比して明らかに低かったが、iso-BNNG投与群ではPNNG投与群のそれと同等かむしろ高い値を示した。この結果は、これら2種の物質の変異誘導性の結果とよく一致する。 観察した総染色体について、染色絲切断、染色体切断、転座染色体出現率を中心として、異常染色体の出現率は(表を呈示)、MNNG投与群で1.81%できわめて高く、BNNG投与群で1%以上であった。Pent-NNG、HNNG投与群では0.41%、0.17%で前のグループに比較すると異常染色体の出現率は低かった。染色体異常をisochromatidレベルの異常のみでみると、上記傾向は増々著明になり、MNNGで3.11%、HNNGで0.13%であった。現在迄の予備実験の知見を綜合すると、細胞毒性、変異誘導性、染色体切断能は、ニトロソ化合物においては、側鎖の長さと密接な関連をもつことがわかった。 今後、作用Dosesを数段階とり、これらの事実について更に追求したい。
:質疑応答:[翠川]使われた細胞は何ですか。[乾 ]培養2〜3代のハムスター由来の細胞です。 [難波]側鎖の長さと細胞内への取り込み量に関係はありますか。 [乾 ]調べてはいませんが、分子量も殆ど違わないので関係はないと思います。 [翠川]Marker chromosomeがみられますか。 [乾 ]Marker chromosomeはまだみていません。異常はrandomに起こっています。 [吉田]菌でのmutationと、培養細胞のtransformationやchromosome breakageとの関係はどうなっているのですか。 [乾 ]一般に炭素数が少ないほど、変異性、毒性は強いようです。 [吉田]菌でmutationを起こすのに、培養細胞でtransformationや染色体異常を起こさないものはありますか。 [乾 ]今の所、殆ど平行しています。 [堀川]細胞に対する毒性をcolonyでみた場合は・・・。 [乾 ]染色体異常と平行しています。 [堀川]とすると矢張り取り込み量はきちんとみておくべきですね。 [黒木]変異コロニーと正常コロニーの写真を見せてほしいですね。 [吉田]変異コロニーは全部悪性化していると考えてもよいのですか。 [乾 ]まだそこまでは言えません。 [吉田]動物レベルでの発癌実験はやってありますか。 [山田]発癌物質であるのか、そうでないのかを決める基準はあるのですか。 [乾 ]確立されてはいませんが、例えば菌での変異実験と動物細胞での染色体異常が両方陽性に出れば、まず陽性だとするとか・・・。 [吉田]しかし、カフェイン−アルコールでも染色体異常がでますよ。 [翠川]染色体異常を起こすものは矢張り変異剤でしょうか。 [吉田]しかし、遺伝子レベルの変異で染色体異常にひっかからない場合もあります。
《梅田報告》今迄に報告されているin vitro transformationの実験系の中で、定量的に判定出来るのはハムスター胎児細胞や、3T3細胞を用いたtransformed colonyでみる方法と、3T3細胞や10T1/2細胞等を用いたtransformed fociでみる方法である。これらは線維芽細胞を用いており、いろいろの問題はあるが、発癌性物質のscreeningのような実用面では捨てきれない面がある。もちろんtransformationの基礎的な解析にも重要な手段となり、今迄は主にこの方面での報告がされてきた。われわれもこのうな系を先ず確立しておいていろいろの実用的実験を行うかたわら、その経験が別の新しい定量的transformation実験への確立に展開すると信じて実験を行ってきた。ところが大分長いことこの問題に取り組んできたのにどうも旨く実験が進行しないので、私の方のtechniqueの問題があるかも知れないし、皆様の御批判を仰ぎたく報告することにした。
:質疑応答:[黒木]3T3を使った実験では、高野氏も角永氏もきれいなデータを出しているのですが、誰も追試が出来ないのですね。[堀川]追試出来ないというのはどういうことですか。 [黒木]3T3の場合接触阻害がかかる状態に細胞を維持することが難しいのです。 [佐藤]角永氏も始終cloningして使っているようです。 [山田]3T3という細胞は細胞電気泳動法でみると、癌細胞以上に荷電密度が高いのです。それが動物にtakeされないというのは不思議なようですね。 [吉田]形態的変異コロニーの典型的なものとはどういうのか見せて欲しいですね。 [黒木]所謂criss-crossは継代すると消えてしまう事が多いですね。Denseになるのが信頼できる変化だと思います。 [乾 ]Feeder layerに少数細胞をまいてcolony形態で判定するのがよいと思います。 [堀川]梅田さんの実験での確かな変異colonyというdenseなものの写真はありますか。 [梅田]残念なことに容器の縁でどうしても写真に撮ることが出来ませんでした。 [翠川]癌か正常かという事の形態的判断は、病理では主観で判定していますね。今討議されているcolony形態の変異についても、申し合わせで決めてもよいのでは・・・。 [勝田]しかし、どの形態のcolonyが悪性化したものか決めるには、それぞれのcolonyを復元実験で確認しておかなくてはなりません。
《野瀬報告》ラッテ腎Alkaline phosphataseに対する抗血清ALP-I活性の上昇が酵素蛋白のde novo合成を伴なうか、どうかを決定するため抗血清を作ることを試みた。抗原として用いたALPはラッテ腎から部分精製したALP-Iである。この標品はdisc gel電気泳動で若干不純蛋白を含んでいる。(免疫方法の図を呈示)この抗血清はOuchterlony法で腎ALP-Iとは沈降線を作った。 ラッテ各種臓器をブタノール処理して得たextractのALP-Iに対する抗血清の中和活性は(表を呈示)腎、脾臓のALP-I活性は中和されるが、肝、小腸の活性はほとんど中和しない。But2cAMPで誘導されたALP-Iもやはり全く中和されなかった。 従って腎から精製したALP-Iは、小腸やJTC-25・P5などに存在するALP-Iとは異なる蛋白であると考えられる。
:質疑応答:[佐藤]大量の細胞が必要な実験には、腹水肝癌のようなものを使えばよいでしょう。[野瀬]私は今まで使ってきた細胞で片を付けるつもりです。どうやら、この仕事もやっと癌と関係が出来て来るようです。
《藤井報告》in vitro感作リンパ球の標的癌細胞破壊作用:ラット、マウス、ヒトの末梢血あるいは脾リンパ様細胞と、同系あるいは自家腫瘍細胞(Co60照射)を混合培養すると、培養6〜7日をピークとして、刺激されたリンパ様細胞のH3TdRのとり込みの著明な上昇がみられる。このリンパ様細胞−腫瘍細胞混合培養反応(MLTR)については何回か記してきました。in vitroで腫瘍細胞により刺激されたリンパ様細胞−幼若化反応をおこしたリンパ様細胞が、どんな機能をもつか、単的に云えば免疫学的に感作されたリンパ球になるのかどうかは重要な問題である。同種移植実験では、in vitro感作リンパ球の標的細胞破壊能が報告されており、腫瘍でも2〜3そのようなペーパーがみられる。 今回は今までに報告した分と重複もあるが、Culb-TC細胞でおこなったin vitro感作リンパ様細胞の標的癌細胞破壊について述べてみます。
このようなin vitro感作リンパ球を、がんの免疫治療に応用しうるかどうかを、しきりに考えていますが、その効果の限界、リンパ球の供給、さらに効率よくリンパ球感作をすることなど難問があります。
《黒木報告》[10T1/2細胞のChemical transformation]HeidelbergerのLab.で樹立された、contact inhibitionに感受性の細胞10T1/2を用いてchemical transformationをすすめている。5,000ケ/60mm/4mlにまき翌日DMSOに溶かした発癌剤を20μlマイクロピペットで添加、48時間後に培地交換、以後週2回の培地交換をつづけ、7週後に固定染色した。(写真を呈示)写真にみるようなdenseなfucusがみられた。 focusはReznikoff et al,Cancer Res.32 3239.1973に従って、以下のように分類した。I:tightly packed cells,not scored as malignant transformation。II:a focus showing massive piling up into virtually opaque multilayers。III:a focus composed of highly polar,fibroblastic,multilayered criss-crossed arrays of densely stained cells.。(表を呈示)II型、III型のfocusの細胞はsaturation densityが著明に増加している。コロニー形成率も高いがagar plate上では、コロニーを作らない。reconstruction experim.として、confluentの10T1/2の上に、細胞をまいたが、II型はコロニーを作らず、III型が1%にコロニーを形成した。現在移植(200万SC)実験中。 (表を呈示)MCA、DMBA、BP、6OHBP、4NQO、4HAQOによるtransformationを示す。この細胞はhydrocarbonsで高い頻度にtransformationするが4NQO、4HAQOでは比較的transformationが少い。6OHBPのpossible proximate corcinogenであるが用いたdoseではBPよりも低かった。 問題は、DMSO処理群にも1および6ケ/10dishにspontaneous transformationのみられたことである。現在、cloningによってspontaneous tr.のないcloneの分離を試みている。
:質疑応答:[高木]Colony formation on cell sheetというのはどういうことですか。[黒木]変異前の細胞がfull sheetになった上に変異細胞の浮遊液をまきます。変異細胞がcontact inhibitionを失っていればコロニーを作るはずです。 [高木]Contact inhibitionがないというのは、どういうcriteriaなのでしょうか。 [黒木]Saturation densityだけでみています。 [吉田]10T1/2は培養を始めてからどの位たっているのですか。 [黒木]1971年8月に開始しています。もとの動物のC3Hに復元してtakeされません。 [吉田]染色体は・・・。 [黒木]染色体数は70本位です。 [吉田]DMSOだけでも変異コロニーが出るのですね。 [乾 ]DMSOを入れなければ出ませんか。 [黒木]DMSOを入れなくても出ます。もう一歩で悪性という危ないバランスの上にある細胞を使っている訳です。復元実験も細胞が正常のの方へ僅かにでも寄っていればtakeされないようです。 [吉田]マウスで染色体70本というのはhypotetraploidで、transformationの一歩手前のようです。マウスは染色体の変異は見難いですね。
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