【勝田班月報:7410:ALP活性と腫瘍性】

《勝田報告》

 ラッテ肝癌細胞の復元接種試験の諸問題:

TC内の発癌実験で、発癌剤で処理後、ある日数が経たないと動物に復元しても腫瘍死させないということに、二つの原因が考えられる。

  1. 腫瘍細胞自身の癌化が未だ不十分
  2. 細胞集団中での腫瘍細胞の%が低いので、接種したとき、非腫瘍性細胞の抗原が宿主の拒絶反応を促進するのではないか。

この二つである。

 今回はこの後者の可能性を確かめようとしたのであるが、結果的にはまだデータが不足ではっきり物を云えないのと、もう一つ新しい要因が大きくクローズアップしてきた。それは接種する動物のageによって結果がまるで変る、ということである。(表を呈示)RLC-10(2)株はTC内で自然癌化した株であるが、日齢7日以下のラッテへ復元すると、高率にtakeされるが、22日以後のラッテでは全くtakeされない。CulbTCはRLC-10原株をTC内で4NQO処理し、それをラッテに復元接種してできた肝癌の再培養株である。CulbTCをさらにラッテで7代継代した後の再培養がCulbTC/R/TCである。(図を呈示)動物をpassageする回数が増えるほど腫瘍細胞の悪性度が高くなる(動物の延命日数が短縮する)。

 混合復元接種試験:

 (図を呈示)肝癌細胞とRLC-10(2)とを混合してラッテに復元したときの成績では、生後14日のラッテにI.P.でいれたが、この位のageのラッテでは1匹に0.2mlしか入れられず、その上接種後にもれてきたりするので、成績がバラついたものと思われる。離乳時(21日)以後のラッテでは1匹に1mlは入れられ、皮膚も丈夫になるので漏れることも少なく、成績は揃ってくる。生後22日のラッテではCulb-TC/R/TCの単独もRLC-10(2)との混合も、全部接種19日後に腫瘍死した。つまり混合による影響は全く見られなかったことになる。

 (図を呈示)生後31日のラッテでは、CulbTC/R/TC単独では8日、RLC-10(2)との混合では10日と、混合によるDelayが見られた。

 これらの結果から、今後は離乳期前後のところをもう少しこまかくとってしらべてみる必要があると思われる。

 観察期間は100〜120日間もみれば充分と思われる。接種後ずっと症状を示さずに生きていて、1年位たってからぽこりと腫瘍が出来るなどと云うのは、むしろ別の原因を考えるべきだとも思われる。

 また一方において、離乳以前の動物にできた腫瘍は本当に腫瘍と考えて良いのかどうか、これもまた一考を要する問題であろう。新生児では非腫瘍細胞でもtakeされてしまう可能性がある。



 

:質疑応答:

[堀川]RLC-10(2)を混合して復元すると、CulbTC復元ラットの死亡時がやや遅れるのは、どう考えておられますか。Dilutionでしょうか。

[勝田]宿主の免疫力をstimulateするのでしょうか。

[山田]接種した細胞が生体内で壊されて抗原となり得ますね。

[高岡]生後24時間以内(新生児)と24時間以後の動物との免疫的な違いは判っているようですが、離乳期までの動物と離乳後のものとの免疫能の違いについてはどうでしょうか。

[吉田]よく判っていませんね。発癌実験では年齢は重要な問題です。AF-2を与えた動物のchromosome breakageなども50〜100gのラッテではbreakageが出るが、300gのラッテでは全く出ないというデータを持っています。

[山田]細胞接種後、短期間で死亡する実験では死因を確かめておく必要があります。

[高岡]死亡したラッテは全部解剖して、癌細胞を含む出血性の腹水が溜まっていることを確認しています。



《黒木報告》

 HeidelbergerのLab.から送られてきた10T1/2のclone8を用いて、transformationを行ったが、そのとき、DMSO処理のcontrolにもtransformed fociが出現した。Spontaneous transf.のない細胞を分離するため、11代の細胞から、microplate法で9ケのcloneを分離し、それぞれのMCA 10μg/mlによるtransformationを調べた。方法は、5,000ケ/4.0ml/60mmにまいた翌日、20μlのDMSOあるいはMCA 200μg/ml soln.を加え、2日後、培地交換以後週2回の培地交換を行い5週間培養した。

 (表を呈示)foci出現数はクローン間で大きな差があり、clone4でもっとも高かった。いずれのクローンでもspontaneous transf.はみられなかったが、clone3は非常にdenseであった。しかし、非常に残念なことに、これらのクローンは凍結保存に失敗し、切れてしまった。何故凍結に失敗したかはよく分らない。他のクローンは目下テスト中、現在、新たにcloningが進行中である(顕微鏡写真を呈示)。



 

:質疑応答:

[吉田]Cloneの選び方は・・・。

[黒木]Randamです。一応saturation densityの高さを目安にしていますが。

[吉田]染色体は調べてありますか。

[黒木]何も調べないうちに凍結に失敗して、これらのcloneは切れてしまいました。

[吉田]最近私の研究室で動物レベルのウィルス感染によるらしい染色体異常が出ています。ウィルスにも気をつけねばなりませんね。



《野瀬報告》

 ALkaline phosphatase活性と腫瘍性について

 先にCHO-K1細胞からalkaline phosphatase(ALP)活性の高いcloneを分離したことを報告した。ALP活性が低い細胞は腫瘍性が高く、活性が高いと腫瘍性が低いという報告もあるので(J.Cell Physiol.83,27,1974)、単離した各クローンの腫瘍性を比較してみた。腫瘍性の検定は東大病理の榊原耕子先生にお願いし、抗リンパ球血清を注射したSyrian Hamsterのcheekpouchに細胞を接種することによって行った。

 結果は、原株CHO-K1はcheek pouch内で盛んに増殖し、やがて約3cmの腫瘤を作り、5週間で動物は腫瘍死した。肝、肺、脾などに転移も見られた。それに対しALP-活性の高いクローンを3種同様な条件下で接種しても3週間後に腫瘤は退縮し、転移も認められなかった。ALP活性の高い細胞から、活性のほとんどないクローンを拾うと、腫瘍性は原株CHO-K1と同程度であった。

 これらの結果から、ALP-I活性と腫瘍性との間には、この細胞系に限れば相関性が存在すると言える。ALP-活性のないクローンをcheek pouchに接種して5週間後の組織像と、肝転移の像を呈示する。



 

:質疑応答:

[乾 ]Cheek pouchの中で増えたもののALP活性はどうですか。

[野瀬]調べてありません。

[梅田]分化したものは本当に吸収されてしまうのですか。

[野瀬]これから調べてみます。

[翠川]分化したかに見える細胞、あれは環境が悪くなって消えかけて形態が変わったのか、分化して形態が変わってtakeされなくなったのか、どちらが原因でしょうか。

[黒木]私もハムスターの胎児細胞を4NQOで処理したものを復元したら、軟骨が出来た例をもっています。

[吉田]黒木さんのは全胎児ですから元々軟骨細胞が混じっていたとも考えられます。

[勝田]一つの酵素活性が腫瘍性を左右するということは、大変重要な事だと思いますから、もっと多角的に確かめなくては公表すべきではありませんね。



《堀川報告》

 私共は現在Chinese hamster hai細胞から分離したCH-haiCl 3細胞(auxotrophs;TdR-)、CH-haiCl 23細胞(prototrophs;Ala-Asn-Pro-Asp-Hyp-Glu-)および8-Azg70γB細胞(8-azgR)を用いて放射線および各種化学物質処理により誘発される前進および復帰突然変異率を調べているが、今回はこれらのうちX線およびUV照射後の前進および復帰の誘発変異率がまとまったのでこれらにつき報告する。

 (図を呈示)上記の3種の変異細胞をそれぞれ各種線量のX線およびUVで照射した後、48時間のfixation and expression timeをおいたのち、prototrophs→auxotrophsへの突然変異率および8-azgR→8-azgSへ、またauxotrophs→prototrophsへの復帰突然変異率を調べた。3種の突然変異検出系において変異の誘発率に大きな違いがあるが、3者のX線とUV照射後のinduced mutation frequency curvesは同じような傾向を示すことがわかった。誘発率におけるこのような大きな違いが感度(解像力)の違いによるものなのか、あるいは使用するmarkaer genesの違いによるものかどうかは今後の解析によらなければならない。



 

:質疑応答:

[吉田]X線の場合変異率が上昇中ですが、更にdoseを上げれば変異率は下がりますか。

[堀川]多分下がるでしょうが、これ以上線量を増すとkillingに働きます。Survivalとmutation inductionとは違います。

[黒木]Colony形成でみていてcurveが下がってくるのは、mutationを起こした細胞が死にやすいという事でしょうか。

[梅田]毒性に対する変異頻度を表してみないと、その点ははっきりしませんね。

[黒木]8AG 70γ/mlはずい分高い濃度ですね。

[堀川]マウスの細胞はHGPRT活性が低いからか高濃度でないとうまく行かないのです。



《難波報告》

 3.4NQOによるヒト胎児肝由来細胞の培養内癌化

 (表を呈示)ヒト胎児肝から得た細胞を、4NQOで頻回処理することによって、Exp.2の内、31回処理の系が癌化に成功した。その癌化した細胞をSUSM1としてその染色体の数の変化を月報7408に報告した。即ち染色体の数の変化は、癌化の初期の段階で低2倍体を示し、その後1ケ月半ほどで3n〜4nに亙って巾広い分布を示すようになった。

 この癌化した系(SUMI1)と、その対照細胞の培養日数とPopulation Doubling Lebel(PLD)との関係をみた(図を呈示)。SUMI1は20PDL頃から急に細胞の増殖がよくなったので23PDLで4NQOの処理を中止した。その後細胞増殖は非常に良好だったが、40PDL前後で増殖の低下がみられ、その状態は約3ケ月ほど続きその後又増殖が良くなっている。(60PDL前の第2の増殖低下はアメリカより日本への細胞の運搬の為)

 このことは、1)ヒトの細胞の癌化にはいくつかの段階があるかも知れない。あるいは、2)ヒトの細胞の癌化(これはSUMI1で20〜30PDLでおこっていると考えて)とヒトの細胞の株化とは別の機構が働いているのか。などの問題を提起している。なおこのSUMI1は現在も、順調に増殖を続けており(PDL:66)、Agingの現象は全くみられない。その他の(対照群及び4NQO処理群)実験系では癌化に成功しなかった。(表を呈示)

 結論

     
  1. ヒト胎児肝由来の細胞を4NQOで処理して癌化させることが出来た。  
  2. しかし癌化はそれ程容易には起らなかった(これがヒトの発癌の真実かも知れない)。  
  3. 4NQOの処理回数が少なくても、あるいは多くても癌化はおこらなかった。  
  4. 面白いことはExp3群では4NQO、32回、45回、67回処理のものは、細胞の形態変化が著しく、増殖も昂進し、しかもALS-処理動物に移植性を示したが最終的にいずれの細胞もAgingに入り株化には至らなかった。ヒトの細胞の発癌の指標を厳格に1)株化、2)染色体の異数化、3)移植性の3条件を満たすものとすべきかどうか班員各位のご意見を伺いたいと思います。  
  5. 2年間いろいろとヒトの細胞の培養を行なったが自然発癌はみられなかった。

 4.ヒト肝臓の器官培養

 肝臓としての組織構造と或る程度の細胞の分化機能とを保っている肝細胞を培養してそれを発癌剤で処理する事は興味がある。その一方法としてヒト肝臓の器官培養を試みた。

 材料と方法:慢性肝炎の患者(30才、男)より、バイオプシーにて肝組織を入手した。この組織をメスで1〜2立方mmほどの小片に切り、Falconの器官培養用ディッシュを使用し、そのグリッドの上に組織を置いた。培地はMEM+10%FBSで0.8ml/well。液更新は3日目、6日目に行なった。炭酸ガスフラン器(5%炭酸ガス+95%air)使用。

 結果:培養前の肝及び培養9日目までの培養肝組織像は班会議でスライドで示す。結論として、培養1日目のものが組織学的に一番元の組織に近く、経時的に組織は変性してゆく。しかし培養9日目の組織中にも肝実質細胞が残在しており、かなり長い期間器官培養で肝組織が生存する可能性がある。

 なお、この患者の血清から、オーストラリア抗原が証明されていたが、この培養液3日目及び6日目の中にも同抗原が証明された。しかし現段階ではこの抗原が産生されたものか、組織に存在していたものが放出されたのか決定出来ない。現在、正常肝組織を器官培養し、オーストラリア抗原を処理し、その肝細胞の核内の同抗原の増殖を電顕的に調べ、その増殖を培養組織の機能維持の一指標として肝組織の器官培養法を確立し、発癌実験に使用することを考えている。



 

:質疑応答:

[勝田]オーストラリア抗原はとても危険ですよ。実験者自身よく気を付けて下さい。

[山田]オーストラリア抗原の一番よい消毒剤はホルマリンです。

[翠川]ウィルス肝炎のものは肝実質細胞の状態が悪いですから、むしろ転移などの手術の時の正常部分を貰う方が培養に適していると思います。



《高木報告》

 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:

 CytochalasinBの培養細胞に対する効果について、糖類の細胞内への取込みをブロックする多くの報告があるが、核酸前駆物質およびアミノ酸のとり込みについては、短時間の実験であまりブロックされないという報告がある。

 CytochalasinBによる多核形成がDNAの合成を伴ったものか否かを解明するため、本実験ではH3-TdRのDNAへのとり込みについて検討した。使用したRFL-5およびRFL-6細胞(WKAラット胎児肺に由来し、in vitroの継代数の少ない増殖のおそい細胞)ともに培養期間を通じてCytochalasinBの濃度、作用時間に応じてH3-TdRのとり込みは著明にブロックされていた。その原因の一つとして糖質の場合と同様に細胞膜における透過性の変化が考慮されねばならない。この点を検討するためTrisine-Earl buffer内で細胞が全く増殖しない状態で、短時間におけるH3-TdRの細胞内へのとり込みを観察した。実験は次のように行った。

 Plastic Petridishに1万個以下の少数細胞をまき、CytochalasinBを1、2.5、5μg/mlの各濃度1、2および3日間作用させてTrisine Earl bufferで1回洗い、37℃でH3-TdR 2-3μCi/mlを含むbufferで10分間incubateし、終って直ちに0℃のbufferで60秒間に5回洗い細胞内にとり込まれたH3量をcountした。培養期間を通じCytochalasinB作用群では各濃度とも対照に比してとり込みの減少する傾向がみられたが、DNAへのとりの減少ほどは著明でないと考えられる。(実験毎に表を呈示)

 また先の月報でも報告したように、netのDNA量もCytochalasinB作用により生じた多核細胞では減少の傾向がみられており、多核細胞の出現は正常のDNA合成を伴った核分裂によるものではないように思われる。さらに検討の予定である。



 

:質疑応答:

[翠川]CCBの作用についてはどう考えられていますか。

[滝井]TdRの取り込み実験の結果からみて、DNA合成阻害が起きているようです。今までの報告で多いのは糖の取り込みの阻害に関するものです。

[翠川]CCBを作用させた時の附着性は、正常細胞と腫瘍細胞とで違いませんか。

[滝井]全体にCCB処理細胞はトリプシン作用が効きにくくなるようです。

[堀川]取り込み値は何で出してありますか。

[山上]Count数ですが、細胞100コ当たりの数値に概算してあります。

[堀川]DNA合成がなくて分裂しているのですか。

[滝井]映画で追ってみた所では、核分裂は普通に行われるが細胞質の分裂は結局せずに2核になるようです。

[山上]DNA量からみますと多核細胞になったものも、細胞1コ分のDNA量としては1核のものと殆ど同じです。

[堀川]常識的にはDNA合成→分裂ですがね。この方法でハプロイドがとれませんか。

[梅田]核あたりのDNA量は分裂する程、減ってゆくのですね。

[滝井]核は多核になるにつれて確かに小さくなっています。

[勝田]映画でみると、一応染色体形成はあるようですね。

[吉田]Amitosisが起きているのではないのですか。

[梅田]CCBは除いて洗ってしまって、2〜3日培養しておけば、又多核が単核に戻りますから、その時期の染色体がどうなっているか調べる必要がありますね。

[堀川]In vitroでの増殖度との関係はありませんか。それから簡単に腫瘍性と結びつけてよいのか、どうでしょうか。

[高木]今までのデータだけではまだ腫瘍性とは結び付けてはいけないと考えています。増殖度とは関係がなさそうです。

[黒木]同調培養をしてG2に投与するとどうなりますか。

[梅田]G2が伸びるだけです。

[吉田]使った培養株それぞれのプロイディと多核形成度に関係がありそうですね。



《梅田報告》

 前回の班会議(月報7408)で定量的試験管内発癌実験の悪銭苦闘の様子を報告した。ともかく株細胞を用いたすべての実験が思わしくなかったので、マウス、ハムスター胎児細胞の3T3継代を始め、その間に余った細胞に、DMBA、4NQO処理実験を行った。全くあてずっぽーに行った実験であったが、はからずも確かにtransformしたと思われるfociが出たようなので報告する。

     
  1. )実験は月報7408に記したものの延長で、生で倒立顕微鏡で観察した限りでは思わしい結果を得ているとは思われず、悲観的な報告をしたのであるが、培養6週目に染色同定したものの中に、1cm径以上にも及ぶdense focusの出現が認められた。

     実験IはDDDマウス胎児細胞培養2代目のものを、1万個cells/6cm dish接種して1日後DMBA、4NQOを加え、更に2日後コントロール培地で液交新を行い、以後週2x液交新を行って6週間後に固定染色した。

     実験IIは同じマウス細胞培養4代目のものを5万個cells/6cm dishまいて実験Iと同じように処理した。

     実験IIIはシリアンハムスター胎児細胞培養3代目のもので1万個cells/6cm dish接種してこれは培養3週目に止めて了ったものである。

     実験IVは実験IIIと同じ細胞の7代目のものを実験IIIと同じように処理し、培養6週目に固定染色した。

     之等の実験はpreliminaryと云うこともあり、各群シャーレ2枚でスタートしたもので、途中contaminationを起したものもあり、シャーレ一枚となって了った群もある。

     mLI<)培養開始後、数代目の細胞を用いたこともあり、コントロールのシャーレにも沢山のfocusが肉眼で認められた。これは比較的小さく(径3〜4mm以下)、Giemsa染色では赤紫気味になる。一方発癌剤処理のシャーレは見事なものは1cm径以上にも及ぶ大きなfociでGiemsa染色で青紫となる。顕微鏡で観察すると、形態的悪性度を容易に判定出来そうなものが多いが移行形もあるのでどうしても判定基準を設ける必要が感ぜられた。

     [Classification of foci(Reznikoff et al.:Cancer Res.,33,3239(1973))]

    Type I is a focus composed of tightly packed cells.

    Type II is a focus showing massive piling up into virtually opaque multilayers.The cells are only noduately

    polar:thus,criss-crossing is not pronounced.

    Type III is a focus composed of highly polar,fibroblastic,multilayered criss-crossed arrangs of densely stained cells.

     上の表はReznikoff等が10T1/2細胞でのfocus基準としたものである。われわれの場合、さらにmodificationが必要になってくる。すなわち、コントロールのシャーレに良く現れる赤味がかって染る小さ目のfocusは中心部はすごくpile upしているが、周辺部の細胞は元気がなく、細胞の周りにはeosinopilic substrateと云うか、matrixが産生されている、どうみてもおとなしそうなものをどう扱うかである。一応これらをtypeIに入れてみることにした。

  2. )以上の判定基準で実験IからIVの判定を行なうと(表を呈示)、やはり典型的なのはfocus typeIIIのもので、これは誰がみても悪性と云える顕微鏡観察でblueに強く染る細胞質を持った典型的fibroblastic cellの集りである。TypeIIは移行形が多く判定し難い。特に実験IVのコントロールのものは前回の班会議で生で観察した時「コントロールにも悪性とおぼしき配列の乱れた細胞増殖巣がある」と報告したが、丁度それがtypeIIのfocus2ケであった。顕微鏡観察によるとtypeIIIと異り不整形と云うか、より円形に近い小細胞が集った感じを与える。TypeIIIのfocusが大部分1cm径以上の大型のものであるのに対し、このExp.IVのtypeIIのfocusは夫々4mm、2mm径であった。これが本当に悪性かどうか今後の検索に待たざるを得ない。先にあげたReznikoff等のdataではtypeIIの50%、typeIIIでは85%のfucusからの細胞がbacktransplantationでtumorが出来たとされている。

     尚培養3週間で止めた実験IIIでははっきりとした悪性のfocusは認められなかった。この結果からすると3週から6週の間の培養期間の間に細胞増生が旺盛になり、大きなfocus形成が認められると考えられる。

     

  3. )以上まだ問題点は沢山残っており、これから確立されなければならないのであるが、悪性のfociを得たことは確かなようである。欠点として6週間も培養しなければならないこと、typeI、II focusがコントロールにも沢山出現すること等であり、又逆に利点も多いと思う。早く方法を確実なものに仕上げたいと思っている。



 

:質疑応答:

[難波]発癌剤は入れ続けですか。

[梅田]培養開始してから1日後に添加して2日間入れ続けます。この方法は株細胞を使うようにきれいには行きませんが、初代培養ですから動物の系の差なども出てくるかも知れないと期待しています。

[乾 ]正常のcolonyは赤っぽいが悪性化すると青くなるというのは一般的ですか。

[黒木]染め方にもよりますが、そういう傾向はありますね。



《乾報告》

 先号で、in vivoのTransplacental carcinogenesisの手法を併用した、in vivo-in vitro assay systemを紹介し、妊娠動物に4NQOを作用した胎児を摘出培養し、そのTransformationの結果について報告した。

 今回は、環境変異原物質として問題視されているフリールクラマイド(AF2)、4NQO、DMN、DABを妊娠11日目のハムスターに20mg/kg腹腔内注射し、48時間後の胎児を培養し、培養開始後24時間の染色体変異、培養2代目の細胞のTransforming Rate、同細胞を200万個ハムスター・チークパウチに復元移植した結果を報告した。母体に化学物質を投与した胎児の培養細胞の染色体観察の結果(表を呈示)、対照としてDMSO、0.5ml/Animal注射群では、染色体異常は4%で、いづれも染色体分体Gapで、chromatid exchange typeの異常は出現しなかった。DMN、DAB 20mg/kgの投与後に現われた染色体異常も同様切断、Gapでありその出現率も対照群のそれより低かった。

 4NQO投与群では、染色体異常をもつ細胞の出現頻度は15%であった。しかし同群においても染色体異常は4NQOを直接細胞に投与した場合に出現する転坐染色体、Ring染色体等の異常は経胎盤的に同物質を投与後の細胞では認められなかった。AF2投与群では染色体異常をもつ細胞の出現頻度は23.1%と非常に高かった。染色体異常のTypeは、他の3つの化学物質投与の場合と同様、染色体分体切断、Gapに限ってあらわれた。DMN、DAB投与の場合、染色体異常をもつ細胞の出現頻度が非常に低いことは、4NQO直接投与の場合現われる染色体異常の型と経胎盤的に投与した時のそれが、ことなる点等を考慮し推察すると、今後薬品投与時から染色体観察迄の時間の問題、胎児の線維芽細胞の細胞周期等の問題を検討することによって解決できると考えたい。

 母体内で化学物質を直接投与し、培養2代目の細胞を1万個/dish播種後の変異コロニーの出演率をみると4NQO、DAB、DMN、AF2投与後の培養系で7〜1%の変異コロニーが出現した。シャーレ当り1万個の細胞を播種した場合のPlating Efficiency(P.E.)は、4NQOで0.7〜0.8%、AF2投与では2%で、細胞毒性は使用した物質中AF2が最低の値を示した。変異コロニーの出現は各培養2代目で4NQO投与群が一番高く、5%以上で、DMNがそれに次いだ。AF2投与群では、変異コロニーの出現頻度は2代目では、2.2%、4代目では5.8%と上昇した。

 DAB、DMN投与細胞を200万個/Animalハムスターチークパウチに移植した結果、移植後17日目現在DAB投与群で3/6、DMN群で1/6の動物で移植部位に細胞が残存、増殖している。

 以上の結果より今後化学物質の動物体への投与時期、投与後培養開始時期を検討することにより、生体内で代謝され始めて活性化される癌原性物質の試験管内発癌機構の解析の一助になりうる可能性を期待したい。(それぞれ表を呈示)



 

:質疑応答:

[難波]ハムスターとDABの組合せはin vivoの発癌実験がありますか。どこで代謝されるのか判っていますか。

[翠川]ハムスター・DABの組合せの発癌実験はないのではないでしょうか。

[藤井]14日位の胎児なら母体の皮だけ開ければ胎児の腹腔内へ直接に入れられます。

[吉田]同腹からとったものだとすると、3/3と0/3というのは差が大きすぎますね。

[黒木]動物を使っての実験結果とin vitroでの実験結果と一致しないものもありますね。AF2は動物での毒性はあまり強くないそうですが、in vitroでは強いですね。



《山田報告》

 ラット正常肝から新たに培養株を7系樹立し、これを用いてまづ正常肝細胞の検索をしたいと思って居ました。In vitro Carcinogenesisは再び出発点から出なほさねばならないと思ったからです。

 しかし、獨協医大に株細胞を持参した所どうも増えて呉れません。これは観察が不充分からかと思いましたが、どうもメヂウムも適当でなかった様で、先日メヂウムをF12からDM-153にかへてみました。(医科研ではこのメヂウム中で同じ株細胞が増えているとのことですので)今度は増えて呉れるのではないかと期待して居ます。

 Primary cultureの時の細胞分離に、dispaseIIがtrypsinよりも適当であり、より上皮細胞が分離されると云うことで、事実今回の肝細胞の分離にも一部用いました。

 これは恐らく、細胞膜に対する損傷が少なくて細胞が分離されるのではないかと思い、両酵素のAH66Fの表面膜に及ぼす影響を比較してみました。細胞分離に用いている濃度(0.25%)の両酵素をAH-66Fに37℃で作用させた所、(図を呈示)明らかにdispaseIIは細胞膜への損傷作用が少いことが、その電気泳動度の変化より解かりました。



 

:質疑応答:

[高岡]松村さんのデータによると、線維芽細胞の場合はディスパーゼでガラス壁からはがれ細胞間の結合も切れてバラバラになる、上皮系ではガラス壁からは剥がせるが細胞間の結合は切れないそうです。

[山田]ディスパーゼの方がトリプシンより作用が弱いようです。

[高木]細胞によってずい分作用の受け方が違いますね。

[堀川]Single cellを多くとるにはトリプシンの方がよいのでしょうか。

[高岡]細胞の種類と使い方にもよりますね。トリプシンは処理時間に影響されますね。一度single cellになってから作用を止めずにいると又凝集してしまいます。ディスパーゼは、その点心配なく使えます。

[高木]山田先生の実験でつかまる膜の障害はどの程度の深さまでですか。

[山田]電気泳動でつかまるのはせいぜい10Åまでです。

[乾 ]膜には障害を与えないで透過性だけを高めるような物質はないでしょうか。

[山田]それは難しいですね。

[梅田]コラゲネース、ヒアルロニダーゼについても電気泳動法で膜への影響をみておくとトリプシン、ディスパーゼのデータと併せて培養細胞での酵素処理の役にたちますね。

[翠川]細胞間の結合と細胞のガラス壁への附着は同じものですか。

[山田]違うと思います。ガラス壁への附着には膜のチャージが問題になりますが、細胞間には細胞間物質の事なども考えに入れなければなりません。



《佐藤報告》

 T-12)DAB発癌実験(#Cb3)

     
  1. (表を呈示)

     発癌実験開始後、150日迄のDAB投与量を算出して見た。I、II群はコントロール、III、IV、V群が投与群。III群は40μg/ml1回投与後、10μg/mlを連続投与したものである。IV、V群の約半量近い全投与量となっている。

     IV、V群は40μg/mlを、前者は細胞障害度を小さく、後者は大きく処理を進めたものである。全投与量は、結果的にほぼ同量となった。異なる与え方が、発癌(増強)の問題といかに関連するか興味ある所であるが、現在では、増殖性、DABに対する反応性などで、このIV、V群の間には特に大きな差を見いだしていない。

     

  2. (表を呈示)

     実験開始後、71日と145日にコロニー形成実験をこころみた。(単離細胞率90%以上の細胞について100ケ/dish植え込み後10日、PE算定)145日の場合に、コントロールと処理群(IIIを除くIV、V)との間に有意の差を認めた。又、71日と145日との比較でもコントロールの場合は、殆んど不変であるが処理群(IIIを除く)の場合、PEの増加が明瞭である。III群の場合の問題については、よく検討しなければならないが、投与量の問題があるのかも知れない。

     

  3. (図を呈示)

     耐性実験について。前回の実験で、処理群についてDABに対する耐性を(PEより判定)認めた事を報告したが、更にDAB処理が進んだ今回再び、前回と全く同一の条件下で実験を行った結果、やはりコントロールと処理群との間に、DABに対する感受性の差を見い出した。しかしながら前回の場合に比して、コントロールとの差が増大したという様な結果を得てはいない。

     

  4. (表を呈示)

     倍加時間、飽和密度、染色体数。実験開始後E93-167日とL134-167日に上記の点について検討した。倍加時間は増殖曲線より求めた(10万細胞/ml植え込み後、対数期より。なおコントロールのL134-167日については植え込みが20万細胞/mlとなった。)

     結果より、コントロール処理群、実験の前期と後期の間で倍加時間の差は認めなかった。飽和密度は、処理群でpiling-upの傾向が見られるので(位相差顕微鏡)こころみたが、コントロールと処理群との間に有意な差を認めなかった。

     今後、耐性の問題について詳細に検討して行きたい。