【勝田班月報:7412:経胎盤in vivo-in vitro化学発癌】

《勝田報告》

 §ラッテ肝細胞株の樹立について:

 最近、培養技術の進歩によって、ラッテ肝の細胞株が容易に作れるようになってきた。もはや百発百中で作れるので、株を維持する必要がなくなったとも云える。したがって発癌実験にも継代初期の細胞が使えるわけである。

 培地は10%Fetal calf serum+DM-153。はじめの頃は10%FCS+F12を用いた。(株一覧表を呈示)各種酵素による分散法はDispersion法は、初代を作るときの方法で、継代にはrubber cleanerやtrypsinを用いている。

 Ratのageを段々と大きくしても増殖できることの判ったのも収穫の一つである。RLC-16などは生後42日のratからの肝である。これは現在もっとageの大きいratからの材料を次々と追ってみているところである。

 一つの試みとして、アルギニンを加えない培地での肝細胞の培養も試みている。培地は[10%FCS+F12]であるので、当然血清からのArg.が混在する訳で、今後は透析血清をせめて用いなくてはならない。結果は、RLC-16はこの培地で初めから増殖を示し、現在1.5月継代している。RLC-18は一部の細胞が死滅してしまったが、残りが増殖している。RLC-19は初めから増殖している。RLC-20もやはり、初めから増殖を示している。RLC-21は一部が死滅し、残りが増殖した。一方、古い株であるRLC-10(2)はこの培地ではほとんどが死滅してしまった。(各系の顕微鏡写真を呈示)

 これまでの方法では株が実験に使えるまでに半年以上かかったので、その間に色々なcell selectionが行われていたと考えられるが、たとえば初めからArg(-)のような培地で培養することによって、狙っている細胞だけをとる、ということも可能になるかも知れない。

なお、RLC-22とRLC-23はDENによる発癌実験にすぐに使用中であり、RLC-24は4NQO実験に用いている。RLC-24は目下cloningを試みている。



 

:質疑応答:

[堀川]ラッテの肝上皮細胞の培養が容易に出来るようになった理由として、培地にラクトアルブミン水解物を使わなくなったからかと云われましたが、ディスパーゼを使用し始めたからとは考えられんせんか。

[高岡]トリプシン消化でも容易に上皮細胞の株がとれているようですから、そうとは言えないと思います。それから、ラクトアルブミン水解物の培地では、株化の率は低いのですが、株化したものは皆同じような形態でした。

[乾 ]培地中のグルコース濃度によってPAS染色の成績が左右されませんか。

[高岡]今日のものは皆1g/ll濃度で培養しています。

[勝田]培地中のglucose濃度を高めると解糖系の酵素活性も上昇しますし、肝細胞でなくてもPAS陽性になります。同定には使えませんね。

[山田]Glucose濃度を下げたらどうなりますか。

[高木]500mg/l以下には下げられません。

[藤井]肝臓がどの位あれば培養できますか。一部切除をして培養し、発癌剤を作用させてautoへ復元というのは出来ませんか。

[勝田]昔は乳児しか培養できなかったのでautoへの復元は無理でしたが、今度はできます。是非やってみたいですね。

[山田]これだけ材料が揃ったのでっすから、ぜひ形態的に細胞同定をやりたいですね。Definitionを決められるかも知れませんよ。



《難波報告》

 7.ヒト細胞を癌化させる薬剤として、4NQOが非常に有効である可能性を示す理由

 ヒト由来の正常2倍体細胞を化学発癌剤で癌化させる場合どの発癌剤が最も有効なのかをまず調べる必要がある。その為にはそれぞれの発癌剤でヒトの細胞を癌化させて、その発癌率を比較すれば良いがその仕事は膨大な時間と金がかかりそれほど簡単には行かない。

そこで今回は、下に記したそれぞれ化学発癌剤の、(1)Cytotoxicity、(2)DNA repai、(3)Chromosomal changesに対する影響を調べてみた。現在までの結論は4NQOが最も強いcytotoxicityと、DNA Repairとを示し染色体の変化も一番よくおこしている。この4NQOのデータを発癌に直接に関連づけることは、やや問題があるが、しかし、使用した薬剤中のうちで4NQOが細胞のDNAレベルで最も有効に作用していることを示している。(1)4NQO、(2)NG、(3)DMBA、(4)BP、(5)MMSの薬剤を使用した。

     
  1. Cytotoxicity(図を呈示)

     4NQO、NG、DMBAの濃度と細胞障害の関係を調べた。培地は10%CS+BMEである。発癌剤は培地に溶かした。4NQOが最も強い細胞障害を示した。発癌剤処理後、3日目の細胞数は処理による直接の細胞障害とみなし、さらに、その2-3日後の最後の細胞数を、薬剤の障害から細胞が回復したかどうかの目安とした。NGは割に長く細胞障害が残る。今処理後3日目の処理群の細胞数を発癌剤未処理対照群の細胞数で割り、生存率を求めると、10-5乗M 4NQOでは細胞がほとんど死滅するのに、同じ濃度のDMBAでは細胞障害は全然みとめられない。

    BP、MMSの細胞障害は、それほどのToxicityを示さない。この最後の実験では川崎大病理で培養を開始したヒトの肝臓由来の細胞を使用した。

     

  2. DNA repair

     化学発癌剤がDNAに作用しているならばそのDNAは、何んらかの障害を受けることが予想され、当然の結果として、その障害を受けた部分が修復されることが予想される。即ち、修復が大きいほど発癌剤はDNAに入っていると予想される。実験方法は下に示したように2つの方法で行った。『Schems of experiment of DNA repair synthesis。 1)H3-TdR,10μCi/ml,30min→Treatment with chemicals,10-5乗M,60min→H3-TdR,10μCi/ml,60min。2)Hydroxyurea,2.6mM,2days→Treatments with chmicals and HU,60min→H3TdR,10μCi/ml,60min,2.6mM HU→Autoradiography。』

     1)の方法では正常にDNA合成を行っている細胞は非常に多数のグレインが核に認められ、修復下にあるDNAは少数のグレインが核に認められる。2)の方法では正常なDNA合成を止めているのでDNAの修復をしている核は軽くラベルされる。(DNA修復を行っている細胞の写真を呈示)。実験の結果は4NQOが最も著明なDNA修復が認められる(表を呈示)。その他、3回の実験を行ったが、いずれの場合にも4NQOが最高の修復率を示しており、DMBA、MMS、BPなどは非常に低い修復率を示した。

     

  3. 染色体の変化

     この実験では、ヒト末梢血のリンパ球を使用した。リンパ球をRPMI1640+30%FBS+PHAの培地で培養し48hr.目に10-5乗M BP、10-6.5乗M 4NQOで1時間処理し、その後正常培養液にして12時間後クロモゾーム標本を作った。(表を呈示)

     その結果、4NQOが非常に多くの染色体異常を示していることが判った。それに較べBPでは染色体の変化はほどんど認められない。



 

:質疑応答:

[黒木]Grain countをした方がよいのではありませんか。

[堀川]そうですね。そしてヒストグラムをとればもっとすっきりまとまるでしょう。

[梅田]夫々の薬剤のkilling doseを合わせて比較した方がよいと思いますが。

[難波]DMBAのように溶解限度の濃度でもkillingがないものもあって難しいですね。

[堀川]私も梅田さんと同意見です。細胞の障害度を同じ位にして修復をみるべきでしょう。それからHydroxyureaを使ってsemiconservative replicationを止めるには作用時間はなるべく短い方がよいでしょう。

[黒木]BPとDMBAによる障害はリンパ球とWI38との間に差がありますか。

[難波]どうでしょうか。

[黒木]水虫の薬のグリセオホルビンで人細胞を変異させたという報告がありました。

[梅田]グリセオホルビンは妙な薬ですね。添加すると物すごく多核細胞が出ます。

[難波]使ってみたいですね。



《高木報告》

 CytochalasinBの培養細胞に対する効果:

 RFL-5細胞を用いてCCB 1、2.5及び5μg/ml作用させた場合に生ずる多核細胞のDNA合成に関して、再度検討を加えた。細胞の蛋白あたりのDNA量は各濃度ともCCB添加後1日目、2日目ででは無処理の対照に比してやや増加する傾向がみられた。核あたりのDNA量については、対照細胞の細胞数が培養日数とともに増加の傾向が著明であったためか、対照細胞の1、2及び3日目の核あたりのDNA量が低い値を示し、これと比較した場合実験群の核あたりのDNA量が高い値を示した。前回の実験では実験群の核あたりのDNA量は対照よりむしろ減少しており、これと相反する結果になったがさらに検討中である。

 膵ラ氏島細胞の培養:

 現在行っている膵ラ氏島細胞の培養の中、幼若ラット膵を材料とした場合の概略については先の月報でのべた通りであるが、今回はhuman fetal pancreas(5M)の培養を試みたのでその報告をする。方法は月報No.7411の方法によった。すなわちPancreatic tissueを細切後0.5%Trypsin、0.02%Collagenase in PBS(glucose 5mg/mlを含む)5mlとともに10mlのErlenmeyer Flaskに入れて10分ずつ6回magnetic stirrerでdigestし、浮遊した細胞をその都度集めてModified Eagle's medium+20%FCSで植込んだ。培養17時間後に浮遊している細胞を集めて別の新しいPetri dishに植込んたが、digestionの4回目以後にえられた培養においてB細胞を思わせる細胞の増殖がみられた。しかし2週後にはfibroblastの増殖が著明となり上皮性細胞の増殖をはばんだ。培養6日目および11日目にrefeedし、その時集めた培地に含まれているIRI量はそれぞれ540μu/ml以上および195μu/mlであった。如何にしてfibroblastの増殖を抑制しepithelial cellsの増殖を助長するか、また如何にしてepithelial cellsのみ拾ってこれを継代するか、と云った点が今後の課題である(写真を呈示)。



 

:質疑応答:

[勝田]浸透圧の影響というのは案外少ないのではないでしょうか。今使われて居る色々な培地の浸透圧を調べてみると、かなり差があります。という事は培養細胞はかなりの幅の浸透圧に耐えられるということでしょう。

[高木]培地に蔗糖を加えるとsheetになりやすい傾向があります。膵臓の細胞もglucose濃度が高いとsheetをよく作ります。そういう事から浸透圧の影響かと考えたのです。

[山田]Pancreasは生体内でもisletだけ残るような状態になっている事がありますから、そういう状態のものを取り出して培養してみたらどうでしょう。

[高木]薬剤で実験的にpancreasにadenomaを作ることが出来ます。それも培養してみていますが、それもなかなか長期間の培養にもってゆけません。



《山田報告》

 In vitro発癌過程における細胞の本質的変化を探るために新らたに樹立されたラット肝細胞培養株を用いて実験を開始しました。

 しかし今回は発癌剤を與えた後に起る細胞の変化をしらべる前に、細胞の増殖分化そして形態に干渉する非特異的な要素をまず検討し正常細胞がどの程度まで変化するかを検索してみようと思いました。まず文献をしらべてみた所、最近この種の報告が案外に多く、それらの結果を大掴みにまとめてみました(表を呈示)。

 増殖を促進する因子としてplant lectin、insulinそして細胞膜の蛋白性表層のCoatの除去による作用があり、これらはcontact inhibitionなる良性細胞増殖の特徴をも変化させる可能性を示唆する成績もあることを知りました。そこでこれらの因子の正常ラット肝細胞由来株への影響を検索する意味でまず細胞表面蛋白除去後の細胞増殖への影響及び表面荷電の変化について検索してみました。

 前報で報告しましたごとくDispase(0.25%)處理後10時間後RLC-20肝細胞の表面荷電は増加し、表面蛋白除去後の補修現象のみならずactiveな増殖に伴う変化が観察されました。そこで今回はラット正常肝RLC-16を用い、0.25%、0.01%のdispase處理(37℃15分)後、日を追ってその増殖性と荷電の変化をしらべてみました。

 用いたうちでは、最も濃い濃度のdispase(0.25%)処理細胞が最も増殖が著しく(図を呈示)、しかしそれに一致して細胞電気泳動度は変化せず、泳動度の増加ピークは対象にくらべて一日遅くしかもより低い(図を呈示)という結果を得ました。この成績の意味がわからず考へている所です。



 

:質疑応答:

[高木]DispaseIIの0.25%というと何単位になりますか。

[山田]単位の換算が出来ませんが0.1〜0.2%が細胞をガラス壁から剥がす濃度です。

[梅田]Dispaseも細胞表面の蛋白を切ることが判っているのですか。

[勝田]Dispaseは色々な所を切ります。こういう実験にはIの方を使った方がいいですね。IIも酵素としては単一のようですが、何といってもIの方が精製されていますから。

[堀川]Growthをみる時、細胞はsingleになっていましたか。

[山田]なっていませんでした。

[堀川]そうだとすると現象が複雑になりますね。細胞表面の面積が変化して、growth rateが変わるのかも知れません。

[高木]ガラス壁から剥がされた事で死んでしまう細胞と、浮いたままでも増殖できる細胞とありますから、dispaseそのものの毒性をみるのは難しいですね。

[野瀬]電気泳動度がdispase処理後に上昇しているのは何故でしょうか。

[山田]処理前が0.8位で処理直後には0.7位に一度落ちます。その数値を0として計算しています。上昇は回復+activeな増殖に伴う変化だと考えられます。



《乾 報告》

 本年9月より、経胎盤in vivo-in vitro chemical Carcinogenesisについて一連の報告を致してまいりましたが、本号もその一端として経胎盤的にAF-2、4NQO(20mg/kg)、DMSO(0.5ml/Hamster)投与後48時間目の胎児を培養し、培養初回の分裂の染色体を詳細に観察したので報告します。

 既に報告した如く、これら物質を投与した動物胎児細胞のTransformation Rateは(表を呈示)、培養2代目で1.07%(AF-2)、3.20%(4NQO)、0.17%(DMSO:6代目)であった。全観察細胞中で、染色体に少なくとも1ケの異常が現われた細胞の出現頻度は(表を呈示)、異常染色体を持つ細胞はAF-2>4NQO>DMSOの順で出現した。

 各化学物質投与後、染色体異常の型を表に示す。

 4NQO投与群では、Gap、Breaks等のSingle chromatid typeの異常は0.42%、Translocationを含むiso-chromatid typeの異常は0.24%であった。AF-2では前者が高く1.27%で、後者は0.12%でiso-chromatid typeの出現は比較的少ない。対照のDMSO投与群の異常のほとんどはSingle chromatid typeで,iso-chromatid typeの異常はほとんど表われなかった。異常形成の機構のよく解明されていないか、または2つ以上の原因によって誘起されると考えられるminute chromosome、Fragmentation等のいわゆるnon-specific typeの異常は4NQO>AF-2で表われDMSO投与群では出現しなかった。

(表を呈示)全異常染色体中の単純異常とみられるGap、Breaks、2本以上の染色体の異常によって始めて誘起されるExchange type(G1-S期にDNAに影響があると思われる)の出現を比較すると、4NQO、AF-2にのみExchnage typeの異常が表われた。

 以上の結果を綜合すると、経胎盤chemical carcinogenesisでTransformed Colony形成率は4NQO、AF-2投与群においては培養直後の染色体異常の出現率、特にiso-chromatid typeの出現と高い相関があった。今後細胞癌化と初期染色体切断の関連性を解析するアプローチとして、この手法が使えると考えられる。また細胞に4NQO、AF-2を作用した場合と同様の異常が経胎盤的に、これら物質を投与した時表われたことは、ニトロソ化合物、ある種の芳香族炭化水素、アミン類等培養系に作用して、試験管内癌化のむずかしい物質のin vitro carcinogenesisの解析のための一つの手法になると考えたい。

 追記:すでに報告した様にDMNで同様Transformed Colonyの出現を認めていると共に、メチル水銀投与ではin vitroで投与した場合と同様、培養初代に高頻度の多核細胞が出現する等の結果から、経胎盤法はin vitro直接投与の場合と非常に相関があると考えられる。



 

:質疑応答:

[梅田]コロニーレベルの変異の基準の判定が難しいですね。もう少し、厳しくすると対照のDMSOの変異値は減るのではないでしょうか。

[難波]接種後数日でこんなに変化があるなら生まれるのを待ってから培養すると、もっと悪性化が進んでいるのではありませんか。それから生まれて来たハムスターの発癌率はどの位でしょうか。

[乾 ]将来みる予定ですが、もう2〜3年続けないと使えるデータにならないでしょう。

[黒木]発表する時にはin vitroとin vivoのデータを対比させて染色体異常の結果を出した方がよいでしょうね。Doseの差もあるかも知れません。

[乾 ]AF-2はまだ発癌実験の中に入れない方がよいかも知れませんね。

[梅田]AF-2は投与後、1日目にchromatid変化が多く見られます。薬剤によって投与後何日でchromosome上のどんな変化が起こってくるかという事も違ってきますね。

[堀川]動物によって全く結果が違ってくるようですね。Activating enzymeの問題はきちんとしておかなければならないでしょうね。

[乾 ]ハムスターでは胎児の発育にも随分影響があるようです。

[黒木]妊娠11日目に接種というのは少し早すぎるのではありませんか。どういう意味で11日にしたのですか。

[乾 ]ハムスターはラッテより妊娠期間は短いのです。ハムスターでは11日がorganogenesisがはっきりする時期なので選びました。次には生まれてすぐの物も調べたいと思っています。変異コロニーを拾って復元接種をしていますが、接種後4週間位まではtumorが出来ていたのですが、その後消えてしまいました。



《野瀬報告》

 Alkaline Phosphatase-陽性細胞を分化させる試み

 ハムスターのチークポーチ内にAlkaline phosphatase-陽性細胞を接種したらosteocyteらしい細胞が出現した。この様な細胞形態の変化がin vitroでも起きないかどうか若干検討してみた。

 まず、LDHのisozyme型を比較すると、ALP-陽性、-陰性細胞の間に違いは見られず、またその型は肝、腎、心、筋肉、骨などの組織のLDHisozyme型とも異なっていた。monolayerで生えている細胞をtrypsinで分散し、Ca45の細胞への取込みを見たが、やはりALP-陽性、-陰性の間に差は認められなかった(表を呈示)。

 次に細胞のaggregateを作る培養条件下で何か変化が起きないか検討した。trypsinizeした細胞をMEM+5%FCS(+Non essential amino acids)に懸濁し、75rpmの速度、37℃で旋回培養を行なったところ、細胞は1日後に小さなagregateを作った(図を呈示)。このaggregateは1週間に2回培地交換をしながら10日間培養してもこれ以上大きくならず、また、ALP-陽性、-陰性との間に差は見られなかった。

 (図を呈示)細胞をRose chamber(久米川変法)内で13日間培養してできたaggregateは、旋回培養とくらべaggregateの大きさはかなり大きいが、ALP-陽性、-陰性の間に大きさの差は見られなかった。

 これらのaggregateを遠心して集めglutaraldehyde固定し、切片にして見たが、すべて単なる細胞の集塊で、組織らしい構造は全く存在しなかった。aggregateを作った時のALP-I活性は、Rose chamber中で13日間培養すると低下する傾向にある。以上、in vitroでcheek pouch内の変化を再現することは、まだできていないが、培地中にホルモン、ビタミンなどを加えたり、いろいろ工夫してやってみたいと思っている。



 

:質疑応答:

[梅田]Ca沈着については、Caは基質に沈着するのですから、単なるCaの取り込みがなくても、骨であるということはあり得ると思いますが・・・。

[山田]細胞表面のチャージからみるとCaはすぐ吸着しますが又簡単に離れます。

[勝田]何にしてもCaの取り込みをみても余り意味がなさそうですね。出来た骨らしきものにCaのカウントがあるかどうかみる方がよいのではありませんか。

[梅田]旋回培養で何か添加して塊を大きくすれば分化も起るのではないでしょうか。

[高木]ローズチャンバーでも塊ができるのですか。

[野瀬]塊ができるものは2日間位で出来ます。

[高木]CHO-K1を採った動物の年齢は・・・。

[野瀬]知りません。

[山田]卵巣由来の細胞なのですから、卵巣らしくなる事が分化ではないでしょうか。骨化することを分化として余り深追いしない方がよいと思いますよ。



《梅田報告》

 発癌剤や突然変異原の代謝活性化の問題が論議されてきたが、この現象をin vitroの反応として捕えることが、バクテリアの突然変異誘起の系では可能になっている(In vitro metabolic activation assay)。即ちpromutagen或はprocarcinogen、マウス又はラット肝の薬物代謝酵素、助酵素、及び指示バクテリアとを混じて培養後バクテリアに生じた突然変異を見る方法である。この実験系を哺乳類動物細胞の突然変異、或は悪性転換の実験に持ち込むことは重要なもとである。今回はこの代謝活性化現象をFM3A細胞の突然変異誘導を指標にして得た結果について報告する。

     
  1. )まずFM3Aの突然変異の系であるが、先月の月報7411で述べたように8AG耐性獲得を指標にしている。耐性コロニーの算定には充分気をつけている。

     

  2. )このin vitro metabolic activation実験をバクテリアの突然変異の系で最初に報告したのはMallingである。(表を呈示)我々は基本的にこの系を踏襲することにした。しかしバクテリアと哺乳動物では培養条件も異るので数ケ所修飾することにした。我々のとった方法と原法を比較して表にした。

     

  3. )(表を呈示)以上の実験条件で行った実験結果を表で示す。この場合完全反応系から各要素を1つ宛欠いた反応系を作って比較してある。MgCl2はEarleの液中に入っているのでgroupの(-MgCl2)の所は完全にMg++欠の条件ではない。

     

  4. )以上の実験は反応後所謂expression timeとして2日間細胞を培養しているが、このexpression timeの必要性について検討した。即ち完全反応系で処理30分後直ちに、2日間培養後、又4日間培養後、8AGのagarose plate上に細胞を植えこんで、突然変異出現率をみた。まだ1回しか実験を行っていないが、このdataからexpression timeは必要ないことがわかる。

     

  5. )次に薬物代謝酵素その他との反応時間について検討した。各factorを氷冷中で混和後、37℃water bathのshaking incubationに移し、一定時間後、細胞を培養に移し、2日後8AG agarose plateに接種して耐性コロニーの出現を調べた。反応時間は30分が適当との結果を得た(表を呈示)。



 

:質疑応答:

[難波]シャーレ当りの接種数が多すぎてcontrol値が低く出るのではありませんか。

[堀川]細胞数を色々変えて基本的なテストをしておいた方がよいでしょう。

[黒木]寒天上にコロニーを作らせる場合は、細胞は丸くなりますから、かなり多くの細胞を播種しても隣の細胞とは接触しないだろうと思います。

[梅田]私もそう思います。

[黒木]BSSを使うとpHが変わります。Activationを行う実験ではHEPES bufferを使った方がきれいな結果が出るのではないでしょうか。

[梅田]HEPESを使う事も考えましたが、toxicityの問題がありますのでBSSを使って炭酸ガス量でpHを調整しました。

[黒木]酵素反応をみる実験ではpHはよほど厳重にするべきでしょう。短時間ならHEPESでも大丈夫でしょう。

[梅田]まだ色々考えてみたいと思っています。NADPH濃度が高いのでNADPH generating systemを使ってみたいとも考えています。

[黒木]Induceをかけたratのmicrosomeを使ってみたらどうでしょうか。

[難波]Expression timeを4日間もとると、その間に細胞が増えてしまって、複雑なことになると思いますが、どう考えますか。

[乾 ]なぜexpression timeが必要なのかよく判っていませんね。

[堀川]仲々難しい問題ですね。簡単に説明をつけてみますと、DNAの片方のstrandのdamageが、何回かの細胞分裂によって両方のstrandにその変化を受け渡された細胞が出て来て、初めてmutationとして発現するという事になります。

[野瀬]Expressionの説明はそれでよいとして、変異率が下がるのは何故でしょうか。

[堀川]異常分裂を考えます。

[難波]4日間のexpression timeは単に細胞が増える事を待つのではなく、そういう遺伝子レベルのことの進行を待っているのですね。



《堀川報告》

 従来われわれが復帰突然変異(reverse mutation)の実験系に使用しているChinese hamster hai細胞から分離したCH-hai Cl3細胞はthymidine(TdR)要求株であるが、この細胞は何故TdRを要求するのか、またこのCH-hai Cl3細胞を放射線照射した際に生じる復帰突然変異体(revertant)はTdR欠損培地中でも増殖するようになるのはどのような機作によるのか? ということを生化学的レベルで説明するため(図を呈示)DNA合成に関与するmetabolic pathwaysに従ってthymidylate synthetaseをまず調べることにした。Thydidylate synthetaseの活性測定はC14-dUMPを用いてDe Wayne Roberts(1966)の方法をmodifyして測定した。結果は(表を呈示)CH-hai Cl3細胞は同じChinese hamster hai原株細胞から分離したTdR非要求株のCH-hai ClT2細胞に比べてthymidylate synthetase活性は約10分の1に低下していることがわかる。(ちなみにCH-Don 13細胞についてのデータも表に示す)

 一方、CH-hai Cl3細胞をX線の600R、1000Rで照射した際、およびUVの100ergs/平方mmで照射した際に誘起されたそれぞれの復帰突然変異体、CH-hai Cl3-R2、CH-hai Cl3-R7およびCH-hai Cl-R15細胞では完全とまで行かないまでもCH-hai ClT2細胞(TdR非要求株)のレベルにまでthymidylate synthetaseの活性はもどっていることがわかった。

 こうした結果からみるとTdR要求性とか非要求性という細胞の性質は少くともわれわれの使用している細胞ではthymidylate synthetase活性の増減でもって説明出来るようである。ただしCH-hai Cl3細胞がCH-hai ClT2細胞に比べてthymidylate synthetase活性が僅かに10分の1に低下しているだけでこれ程きれいにTdR欠損培地内では増殖出来ないというcharacterを示すか、つまりthymidylate synthetase以外のDNA合成に関与するpathwaysを調べてみる必要もあるだろう。



 

:質疑応答:

[難波]Thymidine要求性はBUdRresistantでしょうか。

[堀川]調べてありません。

[難波]Auxotrophはどうやって採ったのですか。

[堀川]Replicaで採りました。



《黒木報告》

 CaffeineのUV感受性の増強作用

 Caffeineはpost replication repairを阻害すると云われている。

 しかし、その作用は複雑でUV-誘発変異を促進する(Arlett et al.Mut.Res.14,431,1972)dataもあれば、抑制する成績も発表されている(Trosko at al.Chem.Biol.Interaction 6,317,1973)。化学発癌についても抑制のdata(角永、医学のあゆみ 86、746、1973)と促進のdata(Donovan,DiPaolo,Cancer Res.34,2720,1974)の相反する報告がある。

 FM3Aから分離したUV-sensitive clone FMS-1、FMS-1-2を用いて、CaffeineのUV感受性の効果についてしらべた。(表を呈示)Caffeineを0.5、1.0、1.5、2.0mMに含む平板寒天上で2wk.培養したときのコロニー形成率では、1mMのCaffeineは細胞障害作用がないために、以下の実験には1mMを用いた。

 (表を呈示)FMS-1、S1-2のCaffeine存在下のUV-生存曲線から明らかのように、CaffeineはUV感受性を増強させる。もしCaffeineの作用がpost replication repairの阻害にあるとすると、FMS-1、S-1-2細胞もまだかなりのpost replication repair能を残していることになる。



 

:質疑応答:

[難波]ヒト細胞に4NQOとCaffeine両方をかけましたが、すごくgrowthを抑制しました。

[黒木]Caffeineについては今の所データがまちまちですね。角永氏は変異を抑制すると言っていますし、DiPaoloのデータではむしろ促進しています。

[堀川]私もLを使ってCaffeineの影響をしらべた事がありますが、黒木さんのと大体同じ結果でした。Caffeineは新しいDNA strand elongationを抑えるようです。しかしDNAとCaffeineの結合は非常に弱いのでbindしている状態が捕まらないのです。それから兎の耳を使ったUV発癌実験でCaffeine処理をすると、処理群は遅れて発癌し、しかも発癌の%は高いというのがあります。我々の場合も、今摂取している量の30倍も飲めば、変異剤になり得るということですよ。

[藤井]Caffeine単独でもですか。

[堀川]そうです。しかし変異といえば重クロム酸カリでも細菌にとっては変異剤であり得るのですからね。