【勝田班月報:7502:高張処理による細胞の変化】

《勝田報告》

     
  1. ラッテ肝細胞の培養:

    1. )再現性の高い簡単な肝培養法が確立された。Dispaseで処理し、これを[10%FCS+90%DM-153]の培地で培養すると、大体2週間で上皮様細胞のFull sheetになる。

       

    2. )材料の動物のageはAdultでも充分に生えてくる。しかし生後2〜4wのratが最も良好な結果を示す。

       

    3. )細胞の同定については、組織化学的検討は一部を山田喬班員に依頼し、顕微鏡映画撮影は進行中であり、動物へ接種しての組織像検査は東大病理の榊原先生に依頼して、抗リンパ球血清処理したハムスターに接種したところである。機能的検討としては、酵素活性を久米川氏に依頼してしらべてもらっている所であり、アルブミン産生は野瀬班員の作った抗アルブミン血清をFITCでラベルして蛍光抗体法で検索すべく目下進行中である。これらの細胞のアルギニン産生能については、アルギニン(-)の合成培地(10%FCS加)で3カ月連続培養し、増殖はしないが生存している(写真を呈示)。なお4日間この培地内で培養した後の培地を日本電子でアミノ酸分析してもらったが、アルギニンは全く出ていなかった。この培地でセンイ芽細胞などが死滅して行く(RLC-22の亜系で継代時Dispase処理で上皮細胞は早く剥れるが、その時残った細胞(Fibroblasts)をアルギニン(-)の培地で101日培養して、死んで行くところの写真を呈示)。肝細胞を選択的に培養するには、アルギニン(-)の培地は非常に適していると思われる。目下の問題はセンイ芽細胞がやられ、肝細胞は生存しているという、適当な期間を見出すことである。現在までのデータでは大体100日以上経てば淘汰されると考えられる。

     
  2. 若い培養を使っての発癌実験:

     上記のようにラッテ肝の培養が非常に容易になったので、これらの株の若いものを用いて化学発癌の実験をおこなうことを試みた。

       
    1. )Exp.DEN-16:

       JAR-2系、F31、生後14日♀のラッテ肝由来のRLC-23株を用いた。これは1974-10-20培養開始、11-10平型回転管にSubculture、11-15より1975-1-12まで58日間DENを50γ、100γの2種、培地に添加し続けた。添加初めの1週間は100γ群のみが増殖を抑えられた。形態的には無添加の対照群と差違が見られなかった。染色体数は42本が多いが、目下詳しく分析中である。

       

    2. )Exp.CQ-75:

       JAR-2系、F31、生後28日♀のラッテ肝由来のRLC-24株を用いた。これは1974-11-3に培養を開始した。11-17に6cmファルコンシャーレに3種のinoculum sizesでまいた。3週後の結果では、25万/dishではFull sheetになっており、2.5万/dishでも同様、2,500コ/dishで35〜50コのcoloniesを作っており、P.E. 1.4〜2%となった。実験群は11-17に、3.3x10-6乗M、4NQOで30分、37℃で処理後トリプシンで分散させ、3種のinoculum sizesでシャーレにまいた。約2.5月後の成績では75万コ/dishでは2〜5colonies、7.5万/dishでは1〜2coloniesができた。この両群では上皮細胞が揃っていて、目下染色体を分析中である。7,500/dishでcolony形成は見られなかった。



 

:質疑応答:

[堀川]Arginine-free培地で培養すると、上皮細胞が生き残って、fibroblastは死んでしまうというのは、何を意味しているのでしょうか。

[勝田]合成能力の違いだろうと考えています。

[佐藤]要求性の面からみますとモーリス肝癌の中にはArginine要求の非常に高いものがありますね。正常肝細胞も要求性はあります。

[勝田]可欠アミノ酸を含まない培地でどんどん増殖を続け、且つその可欠アミノ酸を自分で合成しては培地中に放出しているといった系でも、外からその可欠アミノ酸を添加してやるとそれを消費するし、又増殖もより盛んになります。その場合、きっと細胞は培地にあれば使うし、無ければ合成するという事ですね。能力さえあれば。

[堀川]Arginine-freeにして、fibroblastが先に死んでしまうのは増殖が早いために手持ちのArginineを先に使い切ってしまうとは考えられませんか。

[高岡]この場合は、むしろ上皮の方が増殖度は高いようです。

[佐藤]ラッテの肝細胞の培養では色んな条件が判りました。例えば回転培養をするとfibroblastより上皮に有利だとか、ラクトアルブミン培地の方が合成培地より上皮細胞選別に優れているとか、炭酸ガス培養にする時は少数でまいた方が上皮が残るが閉鎖培養の場合はなるべく多い細胞数をまいて継代する方が上皮細胞が維持されるとか。しかしこれらの事はヒトの肝細胞の培養には殆ど当てはまりませんでした。

[高岡]このディスパーゼを使う初代培養法では、もとの組織の中にあった種々の細胞があまり選別されずに培養に移され、しかもかなり長期間共存しているようです。



《山田報告》

 培養ラット正常肝細胞の微細構造:

 培養されたラット正常肝細胞の形態学的特徴を調べてみようと思い、まず、H.E.、Giemsa、Mallory。PAS等の染色標本を作製して詳細に観察してみましたが、光学的レベルでの形態によっては、それぞれの特徴を見出すことが困難でした。しかし大掴みにみますと、  Embryo由来の細胞は、かなり混合した細胞集団であり(RLC-21、RLC-18)、Adult由来の細胞の方がむしろ単調な細胞像であり(RLC-16)、多核細胞も少なく、大部分は肝細胞由来と考へられますが、ごく一部にはkupffer cellが混合している様に思いました。PAS染色ではどの細胞系でもグリコーゲンは染まらず、またMallory、銀染色を施した標本から、あまり特記すべき所見は得られませんでした。そこで電顕的に観察した所(模式図と写真を呈示)、RLC-16、-20には幾つかの特徴がみられました。

 RLC-16、RLC-20培養肝細胞のME所見の特徴:

一般的特徴:

  1. 肝細胞hapatic parenchymal Cellよりなる細胞が大部分であるが星細胞が少数混合。
  2. 正常ラット肝組織細胞にくらべて核優勢が著しく、かつ核辺の陥入が著しい。(培養条件における相互の巻きこみのためか?)
  3. Mitochondriaのcristeの形成が不良(低酸素状態によるものか?)
  4. Glycogen顆粒のaggregate化が少く分散している。

RLC-16とRLC-20の相互の差:

     
  • RLC-16:glycogen顆粒はより少く星状aggregate少い。Smooth contact少い(Desmosomeが極めて少い)。lysosomeは殆んどない。  
  • RLC-20:glycogen顆粒はより多く星状aggregate少い。Smooth contact多い(desmosomeがより多い)。lysosomeは若干認められる。

 まだ二系統の細胞の微細構造しかみていないので細かい特徴を決定的に云うことは出来ませんが、少くとも形態学的に肝細胞を同定するにはやはり電顕で見る他はない様な気がして来ました。

 今後の観察には、1)グリコーゲン顆粒の星状凝集の程度。2)lysosomeの発達の程度。3)平滑な接触面の残存の程度(正常肝細胞の微細構造内シェーマにみる様な平滑接触とデスモゾームの形成の程度)とmicrovilliの発達の程度との比較。4)星細胞を初めとする混合細胞の形態。等の所見をポイントにして他の株を観察して行きたいと思って居ます。

 これらの電顕像は2%glutaraldehydo(Cacodylate buffer pH7.3)で前固定(1.5h)した後に1%OSO4により本固定した細胞を観察して得たものです。そして細胞はガラス管壁についたものを機械的に削り落として得たものですが、次回から準備の出来次第、テフロン(?)の上に増殖させてそのまま薄切してみたいと思って居ます。



 

:質疑応答:

[佐藤]培養細胞の電顕像をもっとよくみるという方針には賛成です。しかし株になったものだけをみるのは自然悪性化への経過をみる事になるかも知れません。もっと培養の若いところが見てほしいですね。

[山田]今は色んな細胞をなるだけ数多く電顕でみたいと思っています。

[佐藤]ラッテにDABを喰わせて悪性化してゆく、その各時期の肝細胞の電顕像をみた仕事がありますが、悪性度が増すについれてmicrovilliが増えるようです。細胞の接触面は培養法によって、例えば細胞集塊の状態とcellシートの状態では違うでしょうね。

[難波]私達の実験でも悪性化した培養細胞はmicrovilliが発達していて、mitochondoriaが少ないですね。

[高岡]Glycogen顆粒は培地のglucose濃度を上げると出てくるはずです。

[勝田]しかし、それは肝細胞特有の現象ではありません。培地のglucose量を増やすとHeLaでもglycogen陽性になるというデータがあります。

[乾 ]PAS染色でみるには、0.5MのHClで加水分解してから染めるとよく染まります。

[加藤]Glycogenはembryonic epithelialを培養すると、どの組織でも出てきます。そしてprimaryのglycogen granuleが消えないと分化しませんね。

[難波]Chick embryo liverの場合は培養するとglycogenが急激に増えますね。

[堀川]それを継代するとどうなりますか。

[難波]消えてしまいます。



《佐藤報告》

 T-15) DAB発癌実験−復元実験−

 これ迄、in vitroで、くりかえしDAB処理の続けられて来た細胞が非処理細胞(コントロール)との間に、造腫瘍性の上で、何らかの差を見い出し得るか否かを検討した。実験はDAB処理細胞、非処理細胞の各々の100万個細胞/0.1ml/48hr以内newborn rat、を皮下移植し、移植後30日間を観察期間(予備実験より決定)とし、腫瘍の触診を行った。

 この結果は(図を呈示)、CD#3.C-1(コントロール)、CD#3.10(10μg/mlDAB処理細胞)、CD#3.40-1(40μg/mlDAB処理、細胞障害少なく)、CD#3.40-2(40μg/mlDAB処理、細胞障害大きく)。結果より、DAB処理群では、コントロールに比し、腫瘍発見迄の日数の短縮が明らかとなった。このことから、必ずしも速断は出来ないが、in vitroでのDAB処理は、本細胞の悪性化(増強)を十分、進め得るものと推定される。一方、DAB処理群の間ではCD#3.10とCD#3.40-2が類似したパターンをとり、CD#3.40-1との間でやや異なる様相を示しているが、この点に関しては現在検討中である。

 尚、復元実験は発癌実験開始後246日と264日の間で行われた。



 

:質疑応答:

[黒木]Tumorを作るようになったのは培養何日目位からですか。

[常盤]250日です。

[堀川]DAB処理群はDABの結合蛋白に違いがあると考えているのですか。

[常盤]いいえ、違いはないのではないかと考えています。

[梅田]性質が変わるのは何時頃からですか。Saturation densityはどうですか。

[常盤]性質は150日位から変わります。増殖度やsaturation densityは変わりません。

[佐藤]DABの様に長期間の間に段階的に変化してゆくような発癌剤での、増殖誘導ということと、悪性化ということを別々に調べてみようとしています。



《乾報告》

 経胎盤In vivo-in vitro試験管内発癌(小括)

 昨晩春より手掛けて参りましたTransplacental in vivo-in vitro chemical carcinogenesisの仕事について、2、3の化学発癌物質(MNNG、DMBA、2FAA等)を除き一応一段階のスクリーニングを終わり、2月7日“癌の基礎的研究班”のシンポジュウムで話すことになりましたので、現在得ておりますDataを小括し、御批判していただきたいと思います。

 実験方法:

 実験方法は再三申し上げている通り妊娠11日のハムスター(純系、APG、雑系)母体にDMSO、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、NMU、4NQOおよびAF-2の8種の化学物質を20〜2000mg/kg腹腔内注射し、24あるいは48時間後胎児を培養し、その一部は24時間以内に染色体標本を作製、他の一部はそのまま培養を継続し、培養2、4、6代目の細胞をシャーレ一枚当り、1万個播種しTransformed Colonyの判定に使用した。一部の薬品を投与した動物の細胞については、ハムスターのチークポーチに200万個もどし移植をおこなって3週〜6ケ月間観察した。使用した化学物質の培養細胞染色体への直接の影響を観察する為、各物質を細胞が再増殖し得るminimum Dose(0.5〜1000μg/ml)3時間作用し、24時間以内に染色体標本を作製した。

 結果:

 培養後2、4、6代目の細胞をシャーレに播種後形成したTransformed Colony形成率およびシャーレ1ケ当りのTransformed Colony形成率(図を呈示)は、対照に使用したDMSO投与群ではTransformed Colonyはほとんど出現しなかった(シャーレ30枚中3ケ)。それに反し、Transplacental Carcinogenesisが動物実験で著明に知られているNMU投与群ではTransformed Colonyの出現率は高かった。DEN、DMN等in vitroで直接細胞に投与した場合Carcinogenesityの非常に弱い物質投与群においても同様の結果を得た。

 動物実験においてTransplacental Carcinogenesisが証明されていない3'm-DAB投与群において、早期に高頻度のTransformed Colonyが観察された。純系ハムスター(APG)を使用して行った実験のうち、DEN(4代)、NMU(4、6代)、Bp(8代)投与群の細胞をハムスターチークポーチにもどし移植した結果(200万個/Hamster)Bp投与群では、移植細胞は2週間以内に消失した。DEN投与群の一系列でも同様に消失したが、他の一系列では移植後18日、細胞の残存が認められた。NMU投与群(G-4)では、3匹中2匹のハムスターに小腫瘤が形成され、内1匹においては移植後3週間目に血管造成を伴う暗血色、米粒大の腫瘍が残存している。現在DEN、NMU、6代目(培養後23日)、Bp 11代目の細胞を移植観察中である。雑系ハムスターを使用した実験中、DMN、3'm-DAB投与群2代目の細胞を同様ハムスターに移植した各2系列中、各々1系列において移植後2週迄、DMN(1/3)、3'm-DAB(3/3)に腫瘤残存が観察されたが、移植後5カ月の現在腫瘤形成は認められない(移植Dataの詳細は次月報以降に報告の予定)。

 経胎盤的或いは直接細胞に前記化学物質を投与した場合の染色体切断を中心にした異常細胞の出現率をまとめた(表を呈示)。

 DMSO(500μg/kg)直接投与群の異常染色体をもつ細胞の出現率は3%、経胎盤(20mg/kg)投与群のそれは、6.5%であった。DMN、DEN、3'-DABを経胎盤、直接投与した群で出現する染色体異常をもつ細胞の出現率は低く、10%以下であった。

 経胎盤的にこれら物質を投与した場合の異常細胞の出現の頻度は直接投与群のそれに比して高く、特にDEN投与では経胎盤投与群11%、直接投与群3.4%とその差は著しかった。

 Bp投与群でも同様の傾向を示したが、異常細胞の出現率はいずれも30%以上であった。これに反し、NMU、4NQO、AF-2、投与群では直接投与群に現われる異常細胞の出現頻度は経胎盤投与群のそれに比して高かった。これら3化学物質投与群における異常染色体をもった細胞の出現頻度は著しく高く経胎盤投与で15〜23%、直接投与群で34.2〜55%であった。観察全染色体当りの異常染色体の出現頻度についてまとめた(図を呈示)。

 異常染色体の出現頻度はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では直接投与群に比して経胎盤投与群で明らかに高かった。これに反しNMU、4NQO、AF-2、投与群の異常染色体は直接投与群に高頻度出現した。

 以上の結果を総括すると(図を呈示)、Transformed Colony形成率は、NMU、4NQO、に高く、DMN、DEN、3'm-DABがこれに次ぎ、Bp、AF-2、投与群で低かった。

 DMSOを経胎盤的に投与した場合、Transformed Colonyはほとんど出現しなかった。

 もどし移植の結果は、現在迄明らかでないが、純系ハムスターを使用したNMU作用群で培養後、13日目の細胞を移植した例において血管造成を伴う腫瘤が認められている。

 染色体異常はBp、3'm-DAB、DMN、DEN、投与群では経胎盤投与の場合高頻度に出現し、NMU、4NQO、AF-2、投与では直接投与群に高く現われた。以上の事実に基ずき、Bp、3'm-DAB、DMN、DEN、等の物質は母体において代謝活性化され経胎盤的に胎児細胞に作用すると考えたい。

 なお、移植実験結果、Transformed Colony出現率、染色体異常の型の詳細な結果は次号以下に報告したい。



 

:質疑応答:

[難波]Bpはin vivoで24時間以内に活性化され代謝されるには時間が短すぎませんか。

[黒木]Inductionではないから、24時間で充分のはずです。

[堀川]染色体異常のデータはin vivo、in vitroを分けて纏めた方が判りよいですね。

[黒木]内容はin vitroとin vivoで違った点がありますか。

[乾 ]染色体型での変化とchromatid typeの変化という見方で違ってきます。

[堀川]そこはどう考えますか。

[乾 ]Activationを考えています。Placental barrierは無さそうです。

[堀川]Mutation frequencyをみたらどうですか。

[乾 ]それはぜひやってみたいと思っています。それか今回のは全胎児を使ってのデータですが、次には臓器別に培養してみたいと思っています。

[梅田]このシステムではこんなに高率に変異コロニーが出るのに、経胎盤的に発癌剤を与えても産ませて発癌率としてみると、ずっと低率で、しかもずっと日が経ってからしか掴まえられないのは何故でしょうか。

[堀川]In vivoでは免疫とかselectionがあるからでしょう。

[加藤]Teratogenesisはembryoのage-dependencyがあります。胎生17日まではin vitroに移してもteratogenesisが起こります。色んな日数の胎児を培養したものに発癌剤を処理した時の染色体変異と、経胎盤的に発癌剤を与えた胎児の培養の染色体変異との間に何か共通の傾向がありますか。

[乾 ]まだみていません。11日の胎児を使った理由は各organが出来る第1日目だとされているからです。

[佐藤]変異細胞の染色体は調べましたか。

[乾 ]まだです。

[黒木]In vitroとin vivoのdoseはどうやって決めたのですか。

[乾 ]In vivoでは24時間動物が死なずに耐えられる最高濃度を使うようにし、in vitroでは細胞が死滅せずに再増殖を起こすことの出来る最高濃度を使いました。

[黒木]そういう決め方でin vitroとin vivoの変化を対応させていいでしょうか。In vitroとin vivoの変異の違いがそういうdoseの違いから出るとも考えられませんか。

[乾 ]その点に問題は残っています。しかし、どういう決め方をするかという事は大変難しいですね。



《難波報告》

 9.ヒト正常2倍体細胞の4NQOによる発癌実験経過報告

 昨年、ヒト肝由来の細胞を4NQOで癌化することに成功したが、その結果を一層確実にするために追試実験を進めている。現在まだこの追試実験でヒト細胞の癌化には成功していないが、しかし4NQO処理細胞は癌化にかなり近づいているようなので経過中の実験結果について報告する。報告の内容は、細胞の形態、増殖、染色体についてである。

     
  1. 細胞の形態

     現在使用している細胞は、6カ月のヒト胎児の肝および脳由来の線維芽様の形態を示す細胞である。肝由来の4NQO未処理の対照細胞は細胞に多数の顆粒が出現し変性死亡しつつあり、これはヒト培養細胞のAgingに特徴的な形態である。4NQO処理細胞は(写真を呈示)、このAgingの現象を示すことなく、増殖を続けている。しかしまだ癌細胞としての特徴的な形態を示していない。ヒト肝由来の線維芽細胞の4NQOで癌化した細胞の形態は、細胞の配列は乱れ、細胞は上皮様の形態を示し、多数の核小体が認められる。

     

  2. 細胞の増殖

     肝由来の対照細胞は増殖が止っており、PhaseIIIに入っている。しかし、4NQO処理のものは目下順調に増殖を続けている。

     

  3. クロモゾームの変化

     ヒト肝及び脳由来の対照細胞と4NQO処理細胞との染色体分布を調べた(図を呈示)。
     肝からの4NQO処理細胞の染色体の分布にはそれほどの変化はおこっていない。
     脳由来の4NQO処理細胞の染色体の分布は、2nの山の低下がおきている。そして異常な核型も出現している。この核型は班会議でスライドで示す。



 

:質疑応答:

[堀川]ヒトの細胞の悪性化の最終決定は何ですか。

[難波]ヌ−ドマウスの抗リンパ球血清で処理した動物への移植性で見る積もりです。

[佐藤]染色体数の少ない方への変異は問題があるかも知れません。DNA量としても少なくなっているという細胞系はありましたか。

[乾 ]人細胞系で1系ありましたが、染色体数の変化とDNA量の変化は平行しません。

[堀川]種が違ってさえDNA量は同じなのだという人もありますね。

[乾 ]1本少ないというような時は、核型も検討してみる必要がありますね。

[黒木]ビタミンEでlife spanが延びるという実験データの真偽はどうでしょう。

[難波]あまり信頼性がありません。

[佐藤]Agingの原因は今どう言われていますか。物質の欠乏ではないようですね。

[堀川]消耗説は否定されています。物質がdeficientになってagingになると考えると、細胞内に収まりきらない程の量を始に持っていなければならない計算になりますから。

[勝田]DNAの擦り切れ説とか、酵素活性の低下に伴うという説は残っていますね。しかし、もっと理想的に培地を改良すれば、agingもなくなると思いますがねえ。

[堀川]それはそうかも知れませんが、これはこれで良いシステムですよ。

[難波]現在の培地なら対照は必ずagingを起こすので実験群の変異がはっきりします。



《高木報告》

     
  1. DMAE-4HAQO注射ラットに生じた膵腫瘍

     生後4週のWistarラット16匹にDMAE-4HAQO 20mg/kg週1回計5回注射し、また生後3〜4週のSDラット19匹にも同様に注射して以後経過を観察していた。

     WKAについては20ケ月をへて生き残った4匹中3匹に膵腫瘍の発生をみた。他は経過中に死亡したり、採血中に死亡したりしたが、その中3匹の剖見所見は肺炎を思わせるもので、膵には特に変化は認められなかった。また17ケ月目に調べた6匹のラットの血糖値は3匹において低値がみられた。SDについては14ケ月後に10匹につき血糖値を測定したが80mg/dl以下の低血糖を示したものはなかった。現在5匹生存中である。

     WKAより摘出した腫瘍はラ氏島腺腫と考えられるが、大きさは3〜4mm径であった。1つの腫瘍につき7.9mg wet weightをmillipore filter上においてorgan cultureし、残りをModified Eagle's medium+20%FCS(glucose 300mg/dl)で培養した。

     Organ cultureでは1時間のpreincubation後glucose 100mg/dlおよび300mg/dl各1時間ずつ作用させて、その間の培地中のIRIを測定すると各々1200μu/mlおよび1530μu/mlがえられた。なおこのIRI測定のstandard curveの作製にはhuman insulinを用いており、ラットのinsulinを用いればさらに多量のinsulinの分泌が証明されたと考える。

     他の腫瘍についてはcollagenase処理により培養を試みたが、残念ながらラ氏島細胞の増殖はえられなかった。

     これらの腫瘍の電顕像ではB顆粒をもった細胞が多数みられ、ラ島細胞腫と思われた。

     幼若ラット膵ラ氏島細胞にin vitroでDMAE-4HAQOを作用させる実験を計画中である。

     

  2. 培養細胞の免疫抗原性の解析

     培養内発癌実験においてtransformed cellの同定に免疫学的な手法を導入した実験系をつくる目的で基礎的条件の設定につとめている。

     培養内で細胞性免疫抗原性を認識させるには、リンパ球を少なくとも5〜8日間培養しなければならない。そのため種々の条件につき検討しているが、その間におけるリンパ球の反応性をみる示標としてPHAによるblastoid transformationを用い、H3-thymidneのとり込みを検討した。RPMI1640+10%FCSの培地でヒトリンパ球を培養し、これに48時間PHA 10μg/mlを作用させ、さらにこれにH3-thymidine1μCi/mlを24時間加えてそのとり込みをみると、対照に比し約20倍のとり込みがみられた。しかしラットリンパ球につき同一条件で検討したところ、対照に比し僅かな差異が認められたにすぎなかった。そこでヒトおよびラットリンパ球につきPHAの濃度による反応性を同様な実験系で検討した(表を呈示)。ヒトではPHA 10μg/mlでH3-thymidineのとり込みはplateauになるのに、ラットでは濃度とともに175μg/mlまで上昇した。すなわちラットリンパ球の反応性をPHAを用いてみる場合、ヒトリンパ球より高濃度を用いなければならないことが判った。さらに長期間良好な反応性を示す条件を検討中である。



 

:質疑応答:

[難波]プラスチックシャーレの滅菌法によって細胞の増殖が違うというのは困ったことですね。X線滅菌というのも出ていますが、どうですか。

[高木]紫外線滅菌でなくては駄目だそうです。

[山田]PHAでラッテの血球が反応しにくいというデータは私も持っています。あと腫瘍細胞とリンパ球との混合比とか、反応させてどの位の時間で測定するかとか、いろいろ気をつけてやらないと失敗しますよ。



《堀川報告》

 ヒト由来のHeLaS3細胞とマウス由来のL細胞に各種線量のUVを照射した際、(夫々に図を呈示)両細胞ともに線量に依存してDNA中にTTが誘起される。ところが例えば200ergs/平方mm照射されたHeLaS3をその後repair incubationすると、約50%のTTがDNAから除去されるが、マウスL細胞においてはこのようなexcision repairはまったく認められない。しかるにコロニー形成能による線量−生存率曲線を求めた両細胞間には感受性の差異は全く認められない。これは不思議なことである。TTのexcision repair能を欠くL細胞がHeLaS3細胞とUVに対する感受性を一にするにはマウスL細胞には何か秘めたるrepair機構をもつに違いないことを示唆している。この問題を解析しようとするのが本実験の趣旨である。

幸い、caffeineがこの方面の秘めたるrepair機構をblockすることが以前から知られているので、このcaffeineを使ってこの分野の検索を行うことにした。未照射の正常L細胞を各種濃度のcaffeineを含む培地中でコロニー形成させると、caffeineの高濃度のところでコロニー形成能は低下するが、低濃度域ではそれ程大きなeffectをうけない。一方、200ergs/平方mmのUV照射されたマウスL細胞を同様に各種濃度のcaffeine培地中で培養するとコロニー形成能は更に一段と低下する。こういった実験をマウスL細胞とHeLaS3細胞について行い、それぞれのpercent inhibitionを求めると、200ergs/平方mm照射されたマウスL細胞の生存率はHeLaS3細胞のそれに比べてcaffeineによりはるかに抑制されることがわかる。これを更に線量−生存率曲線を求めてconfirmしてみた。L細胞の生存率はcaffeineの濃度に依存して低下する。L細胞とHeLaS3細胞について行った実験結果をもとにcaffeine濃度に対してDo値の変化をプロットしてみると、これからも照射されたL細胞の生存率はcaffeineにより大きく影響されることが判った。(以下、次号)



 

:質疑応答:

[勝田]ハイドロキシウレアそのものは紫外線で影響を受ける事はありませんか。

[堀川]ハイドロキシウレアという物は精製すると効果がなくなるとか、色々と問題もあります。紫外線照射で何か起こるということも考えられますね。

[黒木]ConservativeDNA replicationにカフェインが取り込まれるのは何故ですか。

[堀川]カフェインはプリンのanalogですから入るのかも知れません。結合しているかどうかは判りません。

[黒木]紫外線照射でカフェインの取込みが下がるのはDNA合成が下がった為ですか。

[堀川]そう考えています。DNAの取り方についてはもっと検討する必要があります。

[黒木]Bagで透析するとnonenzymaticにカフェインがくっついてしまうのでは・・・。

[堀川]カフェインはnonenzymaticにbindするという方が考え易いでしょう。

[黒木]酵素的にではなく入ったカフェインが再生に関係するというのは、一寸考えにくいのですが、どういうことでしょうか。

[二階堂]カフェインのinsertionはどうなっているのですか。

[堀川]全く判っていません。まき込みというような表現で詳しい説明を逃げています。

[黒木]BUdRはなぜdimerの所へ入るのですか。

[堀川]DNAに紫外線を照射してdimerを作り、新たなDNA合成を起こさせて、dimerの所へgapを作りBUdRを取り込ませるという訳です。



《梅田報告》

 前々回の班会議(月報7410)で報告した試験管内発癌実験のその後の実験と、前回の班会議(月報7412)で報告したin vitro metabolic activationの仕事について報告する。

     
  1. マウス又はハムスター胎児細胞の継代数代目の細胞を1万個のオーダーで6cmのシャーレに接種し、1日後発癌剤を投与してさらに2日後正常培地に戻し、5〜6週間培地交新を続け培養することにより、悪性の形態のコロニーが出現することを報告した(月報7410)。その後数多くの実験を行ってみたが、結論はこの方法でもTransformation rate(morphological)は非常に悪いと云うことである。以下に夫々のデータを記す。

     

  2. 本方法は株細胞を作らなくてもいろいろのマウスの系統の細胞を得て試験管内発癌実験が出来る筈であり、そこが利点と思われたので、早速発癌性炭化水素により発癌率の高いと云われるC3Hマウスと、それの低いと云われているAKRマウスの胎児細胞を培養して実験を行った。(表を呈示)DDDマウスでは月報7410で報告したRaznikoff等のfocusの判定に従うとTypeII、IIIの悪性形態を示すfocusが出現しているにも拘らずC3Hマウスでは殆んどfocus出現が認められず、AKRマウスでは皆無であった。それは同じように1万個cells/dish接種して培養を始めたのであるがDDD、C3H、AKRの順に細胞増殖が悪くなり、後者では接種数が少なすぎたからである。しかしDDDマウスのデータにしてもシャーレ5枚を使っているのにTypeII+IIIのfocusの数が少なすぎる。

     

  3. 次にDDDマウス胎児細胞を用い細胞接種数の問題、継代数の関係を調べてみた(表を呈示)。2nd gen.で5万個、10万個cells/dish接種した場合は4NQO処理群、コントロール群で増生が良すぎる位なので培養の途中で血清濃度を2%に下げたものを作った。下げなかった培養では細胞はovergrowして一部はがれ始めたものがあった。しかし下げたものも結局は増生が途中で止ったようになりfocal growthは示さなかった。

     この実験でもII、IIIのタイプのfocus出現率は非常に悪く、しかもコントロールでも出現したものがあり、判定を困難にした。

     

  4. そこでもう1回始めに報告した条件(月報7410)でシャーレ数を多くして実験を繰り返してみた(表を呈示)。明らかに悪性とおもわれるfocusの出現はあるが率は低い。

     

  5. 一方で、以上の実験方法では悪性化する細胞の種類がわからないこと、又それ故悪性化し易い細胞を得れば悪性転換率も高くなる可能性を考え、その目的に合うか合わないかはわからないが、先ずハムスター新生児肺からの培養細胞を得て実験を行った(表を呈示)。この実験ではかなり高率にII、IIIのタイプのfocusが出現しているが、細胞層は赤染するfocusがnetworkを作り非常に見難い。特に2nd gen.で著しく、しかもtypeIIIのfocusまで出現している。しかし5th gen.でこの赤染するfocusは少くなり、typeII、IIIのfocusは見られなかった。

     

  6. 以上形態的に見る限り、細胞はいろいろな様相を呈しており、判定を困難にするし、又悪性転換率が非常に小さく、問題は山積の感を深くしている。一方でやっとDDD、C3H、AKR胎児からの3T3継代の細胞が株化したようなので目下この細胞の性質調べ、クローニング、発癌実験をstartしている。

     

  7. 前回の班会議で報告したDMNにliver microsomeを加えFM3A細胞と30分処理してFM3A細胞中の8AG耐性細胞出現度の上昇をみる実験のその後のデータを報告する。

     前回はexpression periodの必要性のデータを報告したが(月報7412)、もう一回繰り返し実験した所(表を呈示)、2日前後が適当であるとの結果を得た。

     

  8. 最近のMallingの報告(Mut.Res.1974)ではNADPHの量を減じても良いとされている。NADPHは高価な試薬故その濃度と反応の関係を調べた(図を呈示)。今迄の実験では3.6mM量を使っていた。調べた結果からみると、0.3mM以上ならば同じような効果を示すとの結論を得た。そこで以後の実験は経済的のことも考え、0.5mM NADPHを使うことに決めた。

     

  9. 試験管内発癌実験でも気にしていることであるが、マウスの系統により発癌率の異る報告があり、これがenzyme levelで証明されることを期待して実験を行った。DDD、C3H、AKR各マウスの肝ホモジネートを用いてDMNの3濃度に対する突然変異惹起率をみた。DDD、C3Hマウスは殆んど同じ率のmutation frequencyを示したのに対し、AKRでは低率を示した。



 

:質疑応答:

[堀川]マウスの年齢による違いはありませんか。

[梅田]今の所一定の年齢を使っていて、年齢を変えてのデータは持っていません。

[黒木]3T3継代の細胞のcontact inhibitionはどうですか。

[梅田]AKR系からの系はかかりますが、DDD系由来株はかかりません。

[堀川]AF-2ではどうですか。

[梅田]Mutationが起こります。Liver homogenateによるactivationもあります。



《黒木報告》

     
  1. 10T1/2細胞及びそのクローンの形質転換

     10T1/2細胞を用いて化学物質による形質転換を試みてきたが、原株はその率が比較的低く、またcontrolにも形質転換がみられた(図を呈示)ので、クローン化を試みた。最初にひろったクローン4株のうち一つ(clone No.4)は非常に高い形質転換を示したが、不幸にも凍結の失敗により細胞が切れてしまった。このため新たに16ケのクローンについて形質転換を試みた。

     クローニング:10T1/2 Cl-8 継代10代の細胞をmicroplateにうえこみ、接触阻止現象に鋭敏なクローンをひろった。

     形質転換:5,000ケ/60mm dish/4mlにまき翌日、MCA 200μg/ml DMSO液を20μl添加した(最終濃度、MCA 1μg/ml、DMSO 0.5%)対照にはDMSO 20μl加えた。48時間後培地交換、以後週2回培地交換、6週後に固定染色した。実験、対照とも一群シャーレ8枚。形質転換はfociの形からII、IIIに分類した。

     結果:(図を呈示)検索した20クローンのうち7つのクローン(Cl-6、7、10、16、18、19、20)はMCA処理、対照ともに形質転換しなかった。しかし残りは、その率に大きな幅があるがMCAによって形質転換した。Cl-3、4(切れた)に次いでCl-13の形質転換率が高い(6.3foci/d)ので、今後このクローンを用いて実験をすすめたい。DMSO処理対照群の形質転換はCl-17、21にのみ認められた。なお20クローンの平均形質転換率は,MCA処理群で2.1 foci/dishで原株よりも2倍近く高い。DMSO処理群の平均は0.0285 foci/dで原株(0.6)の1/21である。

     

  2. 培養肝細胞の発癌剤代謝能

     一昨年IARC滞在中に分離した肝細胞(IAR-20、及びそのpure clone PC-1、-2、-3及びIAR-22)を用いて、liver cell-mediated mutagenesis、carcinogenesisを行う目的でこれらの細胞のcharacterizationを行った。

       
    • IAR-20:BD-IV rat生後10日肝よりトリプシン消化、Williams法を用いて分離した。PC-1、2、3はmicroplateで分離した。  
    • IAR-22:BD-IV rat生後8週間肝より分離。いずれも、Williams med.+10%FCSで培養。(10日おき1/10稀釋5日目に培地交換、トリプシン消化−rubber polishmenでは細胞が死んでしまう)

     染色体構成は(図を呈示)、IAR-20、PC-2、-3でdiploidであった。しかし、PC-1は低四倍体に、IAR-22は二倍体付近に幅広く広がっている。核型、bandingはまだみていない。(染色体分析は培養後約1年2ケ月内の時点で行った)

     (表を呈示)Aldolase isozyme patternはB型でない。FDP/FIP比は肝型に近いが肝型そのものではない。(表を呈示)この時の測定ではglucoki.が検出されたが、その後は出ない。glucoki.はsubstrateの濃度差から算出した(城西歯大・中村氏測定)。生化学的には肝型からの偏位している。branched chain a.a.transaminaseはIAR-20は胎児型、-22は癌型である。tyrosine transaminase(TAT)も、traceしかない。dexamethasoneで誘導されない。アルブミン合成もオクタロニーで検出できなかった。(図を呈示)branched chain a.a.transaminase(DEAEクロマト)はIAR-20、22ともII型(成熟肝型)はない。(表を呈示)dex.処理のとき15−16%にII型があるように書いてあるが有意でない(いずれも徳島大・市原氏測定)。II型をもっている培養肝細胞は、現在のところMorris肝癌7316Aのみである。しかし、それも長期間培養中に消失した(市原氏・私信)。

     そこで、この細胞の発癌剤代謝能を調べたところまだかなり保持していることが明らかになった。炭化水素系発癌剤代謝に関与する酵素としてはbenzpyrene hydroxylaseまたはaryl-hydrocarbon hydroxylase(AHH)が知られている。しかし、この酵素系は単一の酵素ではなく、mixed function oxidaseであり、おそらくhydroxylase(例えばepoxide hydroxylase)とcoupleしているものと思われる。AHHの測定法の代表的な方法はBPから3-hydroxy BPの形式をみるのであるが、重要なことは、この測定の産生物である3OHBPに発癌性の証明されていないことである。そこで、AHHの測定法としては、もっとも簡単なしかし、非常に多くの(その大部分は不明であるが)代謝過程を含んでいると思われる水溶性代謝産物への代謝能を用いた。

     [測定法]:Huberman,E et al Cancer Res.31,2161,1971. Diamond,L.:Int.J.Cancer 3,838,1968。(1)H3-MCA(Amersham、ベンゼン溶液を蒸発後DMSOに溶解し、500mCi1mmoleにadjust)を加える。0.25μCi/ml(500pmole)〜1.0μCi/ml(2,000pmole)に加える。DMSO最終濃度0.5%以下。(2)1〜3日後に培地0.2mlを短試にとる。細胞層を培地と等量の1%SDS(PBS)で溶解後、その0.2mlを同じ短試にとる。その一部(20μl)をとりradioactivity測定。(3)短試に3.6ml(9vol.)のクロロホルム/メタノール混合液(2:1)を加え、よく、かくはん後遠心、水層及びクロロホルム層の一部(100μl)をとり放射活性を測定する。

     radioactivityのrecoveryは100±5%に入る。

     (図を呈示)IAR-20、22ともに添加したMCAの30%を3日間に代謝する。(図を呈示)代謝能(%)と添加MCA量との間の関係、1,000pmole(0.268μg/ml)以上では、MCAは過剰になり、代謝産物量はplateauになる。(図を呈示)代謝効率と細胞数の間には直線関係が成立する。(表を呈示)FM3A細胞には代謝能がないので、IAR肝細胞mediated FM3A mutagenesisまたは10T1/2transformationのSystemを作ることが可能である。



 

:質疑応答:

[堀川]肝細胞をfeeder layerにする時はX線などをかけて使うのですか。

[黒木]FM3Aと合わせて使う時は何も処理せずに、そのまま使おうと思っています。肝細胞はガラスによく張り付き、FM3Aは全く張り付かずに浮いて増殖する細胞ですから。

[堀川]3T3法で接触阻害のかかる細胞がとれるというのは、何か意味がありますか。

[黒木]Confluentになってから長くおくとovergrowthする細胞をselectする結果になるのではないでしょうか。3T3法ですとそういう状態にならずに継代する訳です。

[佐藤]私の経験では接種細胞数を大きくして継代するとmarker染色体が出て来ず、小さくするとspontaneousな悪性化が起き易いようです。一定の接種細胞数にしてあまり少なくならないようにして、きちんと継代するとかなりよく2倍体を保てます。

[黒木]肝細胞ではsaturationが低い時に継代する必要がありますか。

[佐藤]ある程度cell sheetが出来た時、倍位に薄めて継代すれば2倍体が保てます。



《野瀬報告》

 高張処理による細胞の変化

 細胞の表現形質を変化させる方法としては、変異剤が広く用いられるが、それ以外にも染色体構造にある種の変化を与えれば何らかの機能変化が起こるのではないかと考えている。そのため、細胞を高張処理をした時の生理条件をいろいろ検討してみた。

 用いた細胞は主にCHO-K1で、これに各濃度のurea、KCl、NaCl、sucroseなどを加え37℃で60min処理した後、trypsinizeしplating efficiencyを見た。KClの場合0.2〜0.3Mの間で細胞の生存率は急激に下り、ureaでは0.8〜0.9Mが生死の境になる。この傾向は再現性あり、CHO-K1以外でもJTC-16を用いても同様の傾向だった。NaClの効果はKClと同じだったが、sucroseは0.4〜0.5Mで致死的でureaよりやや毒性が強かった。

 これらの濃度の塩を含む培地の浸透圧は(表を呈示)最高1416mOsであった。大体800mOs程度まで上ると細胞は生存率がほとんど0となるが、この濃度は等張とくらべ2.5〜3倍であり、かなり高張の条件でも細胞は生存できることを示している。高張処理して、トリプシン処理をした細胞は、ureaの場合は細胞質が突出していたり、KClの場合は浮遊状態なのにfibroblasticになったりかなり形態が変化していた。

 コロニー形成で見た生存率は下ってもerythrosinBによる染色でみると(表を呈示)ほとんど変化がなく、染色によって生死を判別する方法はこの場合使えない。

 urea処理した細胞の増殖をみたところ、生存率が0になれば全く増殖はなかったので、細胞の分裂能は失われているといえる。しかし、処理直後のタンパク合成能は残っているので、生死判別の結果と考え合わせると、urea処理直後の細胞は分裂以外の生理機能はある程度残っていると考えられる。

 以上の高張処理が細胞機能にどんな影響を与えるか予備的に調べてみた。8-aza-guanine耐性の出現率には全く変化を与えなかった。またラッテ筋由来のfibroblastには多少形態的変化を与えたがあまり大きな変化とは言えない。今後更にいろいろの細胞を用いて機能変化の可能性を検討し、malignant transformationに結びつかないか調べてみたい。



 

:質疑応答:

[梅田]UreaやKClを添加する時、培地そのものの塩は調整していますか。

[野瀬]培地は正常に調整して、物を添加しています。添加物0状態が等張です。

[佐藤]浸透圧は培養後に変化していませんか。

[高岡]殆ど変わりません。

[堀川]アルコールの影響なども調べて下さい。

[野瀬]今回の実験では高張から低張にもどす時のショックで死ぬようでした。戻し方を工夫すればもっと生存するのかも知れません。