【勝田班月報:7506:ラット肝由来細胞の走査電顕像】《勝田報告》
:質疑応答:[久米川]ハムスターポーチ内の組織像で間質の細胞はラッテの培養細胞由来ですか。[榊原]宿主のハムスター由来のものと考えられます。 [遠藤]人の末梢血由来の細胞の細胞質にみられた封入体の如きものは何ですか。 [高岡]AF-2を添加した群にだけみられるのですが、何か判っていません。 [遠藤]ハムスターチークポーチにできた腫瘍は、接種するのは細胞浮遊液の状態で入れるのでしょうが、あの様な組織構造をとるのは、集合によるのですか。増殖してあの様になるのでしょうか。 [勝田]両方とも起こり得ると考えています。始に集合し次に増殖して構造を作ると。 [藤井]胆管の細胞が悪性化したものもhepatomaと言いますか。 [榊原]現在はそう言われています。 [藤井]RLC-19を4NQOで処理すると、チークポーチ内でどういう腫瘍を作りますか。 [高岡]まだみていません。今の所ハムスターチークポーチ内にtakeされる条件をもっと基礎的にデータを揃えたいと思っています。
《高木報告》膵ラ氏島細胞の培養膵癌による死亡率は最近増加の傾向にある。昭和26年の統計にくらべると昭和47年では約6倍の死亡率の上昇がある。 その組織型をみると、Millerによれば、膵管上皮癌が大部分の81.6%を占め、ついで腺細胞癌13.4%、起源不明なものが5%となっている。しかし実際に病理組織診断をするさいに膵管上皮由来の膵癌か、腺細胞由来かを判定できにくいことが多いので、石井は腺癌を腺管腺癌、未分化癌、乳頭腺癌に分類して、腺管腺癌が80%を占めており、また膵島細胞腫は0.4%であると報告している。 一方外科の統計によれば、昭和8年から昭和45年までのinsulinomaの手術122例中、悪性と思われるもの16例で(悪性の定義がむつかしいらしい)その中、明らかに転移を認めたものが8例あったとされている。 またglucagonomaについては昭和17年以降15例の報告があるが、記載によれば、その多くのものが悪性と思われる。 従ってもしin vitroで膵の発癌実験を行なうとすれば、膵管を培養してこれに化学発癌剤を作用させれば成功する可能性はもっとも高いことになるかも知れないが、腺管を含め、外分泌腺細胞の培養はきわめて困難である。私共が膵の培養を手がけて約10年になるが、その間、膵組織片の器官培養、単離ラ氏島の培養、さらにラ氏島細胞の培養と進展して来た。しかし外分泌腺細胞の培養は低温における器官培養が可能であるが、長期培養は成功していない。成熟ラットのラ氏島およびラ氏島細胞の培養では2〜3カ月の長期間維持することが可能なので、兎も角この実験系に発癌剤を作用させてみることはできる。 一方このようなin vitroの実験系と平行してラ氏島腫を撰択的につくると云われるDMAE-4HAQOをWKAおよびSDラットに注射してinsulinomaを生ずることができた。ただ腫瘍が発生するのに長時間を要するため動物の管理が充分に行き届かず、最後まで生存して観察できた動物は実験開始時の1/4〜1/5であったことは残念であった。発生した腫瘍の多くはラ氏島腫を思わせたが、小さいために培養に移すと切片をつくって形態的観察をする余裕がなかった。腫瘍の1つを供覧するが、Aldehyde-Fuchsin染色によれば腫瘍はほとんどB細胞よりなっていた。これを器官培養すると、1時間のpreincubationの後の各1時間に3mg/mlのブドウ糖存在下では155ng/ml、1mg/mlでは116ng/mlのIRIが証明された。長期の培養には成功していない。 さらに最近はnude mouseを使ってヒト癌細胞の移植が可能になったのでヒト細胞の発癌実験を試みるべく、ヒト膵ラ氏島の培養も試みた。20才代の男性でinsulinomaの疑いで手術されたがinsulinomaははっきりしなかった。摘出した膵をもち帰り月報7411のIIIの方法をmodifyして培養を行った。すなわち組織を細切後まずcollagenase35mg、hyaluronidase20mg/8ml CMFで約40分間magnetic stirrerにより処理したが、ラ氏島は完全に単離出来なかった。そこで遠沈後これに0.04%EDTA 5分間、ついでDispase2000pu/ml CMF 15分ずつ3回作用させsupernatantをあつめた。遠沈後、細胞をmixed populationのままTD401本に植え込んだ。(顕微鏡写真を呈示) 培地はDM-153にthymidine 7.2mg/l、hypoxanthine 4mg/lとZnSO4・7H2O 2.0mg/l補ったものに20%FCSを加えて用いた。15時間後に浮遊した細胞をdecantしてこれをFalconの35mm plastic petri dishに植込んだ。植込み1日後はcell aggregateのままで底面に附着していたが、2日目よりきれいなcell sheetを作りはじめ、7日間位はsheetが広がり細胞は増殖するかにみえた。7日後にはfibroblastの増殖もややみられたので、8〜10日にかけて早めにdispaseを用いて継代した。継代した培養ではfibroblastはきわめて少なく、ラ氏島細胞は再びsheetを形成したが増殖はみられず培養約40日目に消滅した。培養10日目の培地には18ng/mlのIRIが証明された。さらに材料入り次第培養を検討する予定である。
:質疑応答:[榊原]山上さんの実験についての質問ですが、リンパ球の培養で、形態的な幼若化とH3TdRの摂り込みは平行しているのですか。[勝田]リンパ球の幼若化については、私もその事を常に疑問に思っています。
《山田報告》Culb/R/TC細胞の超微形態; (写真を呈示)正常ラット肝細胞由来株にin vitroで4NQOを加へて癌化した細胞株であるCulb/R/TCの超微形態をしらべ、正常対照細胞のそれと比較した。細胞間の結合は全体としてlooseでdesmosomeを介して結合するSmooth Contactな面は極めて少い。核辺の陥入が著しく多くの細胞核には眼網状の構造を示す核小体がみられる。正常肝細胞ではこの様な核小体をみることは少い。organellaは少く、lysosomeは殆んどみられない。グリコーゲンの顆粒状凝集は殆んどない。しかしその分布は各細胞により異る。その差が特に著しい。正常肝細胞よりむしろ過剰にみられる細胞があるかと思うと、分散している細胞もある。 即ちこの株の超微形態の特徴のうちで最も正常細胞のそれと異る所は、細胞相互の形態に著しい差があると云う点であり、光学顕微鏡にみられるpleomorphismは超微形態でも同様に見られることになる。 その意味では限られた少数の癌細胞の超微形態の観察結果は、稀ならず誤った知見を得ることになる可能性があると云へよう。
:質疑応答:[久米川]Microbodyについてはどうですか。[山田]それらしき物があるのもありますが、同定が難しいので今回は報告しません。 [久米川]Contactの問題は培養日数にかなり影響されますね。 [高木]グリコーゲン顆粒なども培養状態に影響されます。日数で揃えるか、或いはfull sheetになった所という風に揃えるかした方がよいですね。 [久米川]RLC-20の分化度が高いのは、fibroblastsが混じっているためとは考えられませんか。分化するには何か細胞の相互作用が必要なのではないでしょうか。 [高岡]株細胞というのは、元は同じものでも、誰がどういう培養の仕方で維持しているかによって随分変わりますね。
《久米川報告》ラット肝由来細胞(RLC株)の走査電子顕微鏡像(夫々写真を呈示)先月の月報に引続きラット肝由来細胞の形態的観察結果について報告します。位相差、電顕像についてはすでに報告されているので、ここでは走査電子顕微鏡による観察結果について述べます。 カバーグラス上にまいた細胞がほぼ一層になった時、グルタールアルデヒドにより固定、臨界点乾燥後Anで蒸着、走査電子顕微鏡(25KV)で観察、写真を撮影した。 RLC-16(生後6w)およびRLC-19(生後4w)は、ほぼ一種類の細胞からなっていると思われる。偏平な上皮様の細胞で、しかも大変大きく、お互いに密着している。細胞の表面は多数のmicrovilliによっておおわれている。 RLC-20(生後11日)には、前者と同様な上皮様細胞がみられ、この上に(?)あるいはとり囲むように紡錘形の細胞が観察される。後者の細胞は線維芽細胞と思われる。 RLC-18(胎児肝)は上皮様細胞は少なく、小さくてぶ厚い細胞が多数みられる。RLC-20と異なり、両細胞は混在している。 上皮様の細胞の表面はmicrovilliでおおわれているが、若いラット由来の細胞では比較的少なく、しかも太くて短いmicrovilliが存在する。これに反して、RLC-16とかRLC-19では非常にmicrovilliの数は多く、しかも細くて割合に長いmicrovilliにおおわれた細胞がみられる。 以上のようにRLC株細胞は動物の年齢によって異なっており、少なくとも4種類の細胞が観察された。即ち2種類の上皮様細胞、小さくてぶ厚い細胞、網目状に連なった紡錘形の細胞である。
:質疑応答:[遠藤]HK、GKのisozymeはみてありますか。[久米川]これらの細胞ではまだ調べてありません。 [高木]HeLaの様な細胞がRose chanber法で構造が出来るのは何故ですか。 [久米川]微小環境の変化によると考えます。 [山田]普通の液体培地の中で培養されている細胞をみている時とセロファン下の細胞をみている時とでは培養環境の違いを何時も考えていなければなりませんね。物理的に圧迫されている事、高分子物質と接していないことなど。
《梅田報告》前回に報告したラット由来肝上皮細胞の2系列の細胞につき、行った古い実験データト最近のデータについて報告する。
:質疑応答:[山田]培養細胞での並び方と胆汁の出し方は組織標本でみる物とは大分違いますね。[梅田]血管が全然ないのですから、構造は当然違ってくると思います。 [山田]胆汁かどうかは同定出来ますね。 [梅田]今染色してみています。
《佐藤報告》T-16) DAB発癌実験−移植性と染色体数について−移植性:DAB処理細胞とコントロール細胞の復元移植後、腫瘍の発現に到る迄の日数で前回の報告に、更に追加実験を加えて60日間の観察をした。(図を呈示)コントロール細胞(CD#3.C-1)に比し、DAB処理群(CD#3.10→10μg/ml処理、CD#3.40-1、40-2→40μg/ml処理)の方が腫瘍発現に到る迄の日数の短縮、腫瘍発現率も高くなっていることより、培養内DAB投与による細胞の悪性化の増強性が強く示唆される。 次に上記の60日目の腫瘍について重さと体積を計測した(表を呈示)。処理群の方がコントロールよりも、明らかに大きくなっている。この結果は上記のそれと良く符号する。 染色体数:(図を呈示)発癌実験開始後105〜6日、327日の結果、処理群の方が高倍性域に偏位する傾向がある様でもあるが、DABの効果によるものと考えるのは困難と思われる。
:質疑応答:[高岡]対照群と処理群のin vitroでの増殖度は違いますか。[常盤]増殖度はほぼ同じです。コロニーでのPEは処理群の方が高いようです。 [山田]悪性度が高くなったといっても、個々の細胞の悪性度が高まったのか、細胞の増殖率が上がったのか、悪性度の高い細胞が優勢になったのか、問題が多いですね。 [榊原]Tumorの転移はありますか。 [常盤]無処理群には転移はありません。処理群に関してはまだ調べてありません。 [乾 ]In vitroでの増殖度が同じなのに、動物に復元すると10倍もの大きさのtumorが出来るのは何故でしょうか。 [高岡]In vitroでの増殖率がin vivoでも同じだとは言えないと思います。 [山田]細胞電気泳動法を使って膜の変化をみますと、発癌剤の処理回数が多いほど、泳動度のバラツキが広くなります。そして変化した細胞も多いようでした。悪性度が高まるというより、悪性細胞が増えたのかも知れませんね。 [吉田]発癌剤が腫瘍のセレクションをしているのかも知れませんね。
《野瀬報告》培養肝細胞の生化学的マーカーについて培養肝細胞の特異機能の一つとしてアルブミン産生を見ることを試みていたが、各種肝細胞株を調べたところJTC-16が何らかの血清蛋白を出していることがわかった。この血清蛋白の同定を佐々木研の長瀬先生にお願いした。結果は(図を呈示)、JTC-16(AH-7974由来)は、血清培地中で継代されており、ウシとラッテの血清蛋白はcross reactするものがあるので血清蛋白の産生を見るには、無血清培地に細胞を移さなければならない。細胞のmonolayerをPBSで2回洗い、血清-freeのDM-153に移し、3日間培養し培地を集め約70mlの培地上清をコロジオン膜で0.5mlに濃縮して免疫電気泳動を行なった。無血清培地に移し、2回培地交換を行なった後でも、培養後の培地中に抗ラッテ血清と反応する物質が見られた。全血清に対する抗体と反応する物質は、電気泳動のパターンから少なくとも3種類あり、このうちの1つは抗ラッテトランスフェリンと反応するのでトランスフェリンであると同定された。他の2種は未同定である。このように、肝癌由来で長期間in vitroで継代されている細胞が肝の特異機能を発揮していることは興味あるので、他の肝に特異的酵素活性も調べてみた。肝特異酵素には多くの種類があるが、培養内で誘導されることの知られているarginaseとtyrosin aminotransferaseを測定した(表を呈示)。各種臓器とくらべると、この2つの酵素活性は肝臓で最も高い。JTC-16細胞は肝ほどではないが、若干活性を持っていて弱いながら誘導もうけるようである。Arginase活性はRLC-10にも少しあり、Nagisa変異のJTC-21、JTC-25細胞には検出されなかった。従って弱いながらもJTC-16に活性があるのはある程度肝機能を発現していると言って良いのではないかと思う。
:質疑応答:[榊原]復元して死んだ動物が腫瘍死であった事は確認してありますか。[野瀬]腫瘍細胞が豊富な腹水が大量に溜まっていましたから、腫瘍死だと思います。 ☆このあと吉田俊秀班友から、たった6本しか染色体をもたないインドホエジカ(Kyon)の染色体分析について、遠藤英也班友からは試験管内発癌実験の草分けともいうべき4NQOによる核内封入体発見時の、興味あるお話しがありました。 ☆この日は交通ストのため欠席された方があり、以下はレポートのみの記載です。
《堀川報告》放射線防護剤として知られるSH化合物が放射線および化学発癌剤で誘起されるCell killing、遺伝子損傷さらには突然変異誘発をどのように防護するかを知るための第一歩として、今回は(表を呈示)8種のSH化合物(更に4種類を追加する予定なので最終的には12種類となる)について、まず照射されたmouseL細胞の生存率を防護する能力を比較した。これら8種のSH剤のうちAET、cystein、cysteamineは従来防護剤としてよく知られた化合物である。また、MPGおよびその誘導体(MPG-amide、MPPA、MPPG、3-MPG)の5種は最近参天製薬K.K.から解毒剤として発売されており、MPGは特に毒性が少く、マウスに対して効果的な放射線防護剤であることが報告されている。さて、(a)未照射のL細胞を各種濃度のSH剤で15分間室温で処理した後の細胞のコロニー形成能でみた各種SH剤の細胞毒性、さらには(b)500RのX線を照射する前15分から照射直後まで各種濃度のSH剤を含む培地に保ち、照射直後に正常培地に返して、コロニー形成能でみた各種SH剤の放射線防護効果、などからみて、使用した8種のSH剤は(図を呈示)3groupに分類出来る。 まず第1groupはcysteamine、cysteineで、これは低濃度域では防護効果がなく、中濃度で毒性を示し、毒性の消えた高濃度で顕著な放射線防護効果を示す(図を呈示)。これに次ぐ、防護効果を示すものとしてgroup2のAETとMPG-amideがある(図を呈示)。これらも中濃度域で僅かに細胞毒性を示すが、その効果が消えた高濃度域で防護効果がみられる。第3のgroup、つまりMPG、MPPA、MPPG、3-MPGはまったく細胞毒性も示さないが、また殆ど防護効果も認められない。強いていえば、マウスに対して放射線防護効果のある0.02mM周辺でMPGが僅かに防護効果を示し、またMPG、MPPA、3-MPGが10mM周辺で僅かに防護効果を示す。 (図を示す)以上の実験から放射線防護効果の認められたCysteamine、MPG-amideおよびAETを選び、それらの最適濃度で各種線量のX線照射前15分から照射時にかけて処理しておいたmouseL細胞の線量−生存率曲線を示す(図を呈示)。これらの実験からも、やはりsysteamineが最も効果的な放射線防護剤であることがわかる。ただし、X線照射後のL細胞をcysteamineで処理しても防護効果は認められない。このcysteamineを使って放射線および化学発癌剤による突然変異誘発の防護testを現在進めているので、これらについては次号で報告する。
《難波報告》15:各種化学発癌剤のヒト末梢血白血球に対するDNA修復率の比較ヒト細胞の癌化を企てるとき、使用する細胞と発癌剤との組み合せを決定する必要がある。そのスクリーニングの目的のために、発癌剤処理後に於るヒト細胞のDNA修復を検討する実験系を確立した。 実験方法:ヘパリン化した血液を試験管に入れ、試験管を立てたまま、2〜3hr放置し、上澄みの血漿中の白血球を集め、20〜40万個cells/tube/1ml MEM+2.6mM Hydroxyurea(HU)1/2hr→発癌剤処理1/2hr→H3-TdR(1μCi/ml、5Ci/mM)1/2hr→5%TCAで洗い→pptのcpmを測定(発癌剤、H3-TdR処理中もHU添加)。 発癌物質:MMS、BP、DMN(Dimethylnitrosoamine)、MNNG、4NQOである。実験の結果(図を呈示)、4NQOのみが高いDNA修復をおこさせ、その他の発癌物質は、DNA修復をおこさせていない。4NQOは、10-5乗〜10-7乗Mの濃度の間でほぼ同程度の修復率で、高い濃度の場合、濃度に比例してDNA修復率は増加しなかった。これは細胞障害の強い場合はDNA修復も低下するのかも知れない。 結論:上記の実験系からでは4NQOのみが高いDNA修復率を示した。即ち4NQOが細胞のDNAによく作用していることが分る。白血球以外の細胞及び発癌剤の処理法を変えれば、4NQO以外のものでもDNA修復をおこさせるものがあるかも知れない。またある発癌剤のみに強い感受性のある個体差の問題もある。これらの問題を今後検討したいと考えいる。
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