【勝田班月報:7507:セロファンシートによる培養】

《勝田報告》

 ラット肝細胞の培養内4NQO処理の顕微鏡映画撮影による観察

肝細胞を4NQOで処理して、その形態変化をしらべることはこれまで多年続けてきた。しかしこの頃どんどん若い株が作れるようになったので、それを4NQO処理してしらべて見ようということになった。

 映画は2分1コマで撮ったが、長期間はとらず、4NQO処理後数週間位にした。これは、目標が細胞形態、動態の変化などを捕えることにより、悪性化を早く見出す指標にしようということにあったからである。4NQOは3.3x10-6乗M、30分。

 3例の観察で、第1例は生後6週のラッテの肝から由来したRLC-16株。第1回4NQO処理6日後に第2回処理をおこない、13日後(第1回からは19日目)から映画をとったカットに細胞動態の異常化が認められた。すなわち細胞表面の性状に変化が起こり、一杯の細胞シートにもかかわらず、細胞がお互いに密着せず、ぬるぬると、まるで泳ぐように動いていた。かってRLC-10(ラット肝)を4NQOで処理したあと、顕微鏡映画で半年間追跡したときに得られた所見とよく似ている。第2例は生後4週ラットの肝、RLC-19株でこれは処理前のcontrolの細胞がすでにぬるぬると泳いでいた。しかし面白いことに、ハムスターのチークポーチに榊原君が復元実験をしたところ、立派な腫瘤を作り、その組織像は肝癌に相当していた。第3例は生後11日のラットの肝由来のRLC-20株である。これは4NQO処理14日後に第2回処理をし、その8日後からとった映画カットに細胞のぬるぬる現象を見出した。

 以上の所見から、顕微鏡映画による検索では、処理後大体3週間以内に細胞の変化をdetectできるらしい、ということが判った。今後は材料のラットのageをもっと次第に下げて行く予定である。



 

:質疑応答:

[難波]今日の映画では処理前の細胞がすでに培養開始から2年もたっているのですね。これらの株細胞の培養へ移してからもっと初期の細胞の動きはどうでしょうか。

[高岡]初期の頃の映画も撮ってありますが、今日は4NQOを処理した事で起こる変化だけにしぼりました。初期のものは又の機会にまとめてお見せします。

[堀川]4NQOをかけてすぐのカットでは細胞がどんどん消えてゆくようですが、photodynamic actionによるのでしょうか。

[高岡]大分昔にphotodynamic actionについては定量的にデータを出して報告しました。今日ご覧になったように、映画を撮ると初めの視野では殆どの細胞が死にますが、光の当たらなかった視野には生存した細胞が沢山いて、しかもどんどん分裂しています。

[堀川]癌化する細胞がtargetとして存在すると考えると、動きの変わった細胞は、全体からみるとほんの一部とは言えませんか。

[高岡]視野は無作為に選んでいて、しかも視野内の細胞はみな同じような動きを示しますから、動きが変わる頻度はかなり高いと思います。

[佐藤]処理後、細胞内の顆粒が多くなっている感じがしますね。

[久米川]あの顆粒はlysosomeではありませんか。

[吉田]Ageの異なるラッテの肝から樹立された株の染色体のploidyに興味がありますね。Tetraploidは出てきませんか。

[佐藤]どのageからとっても増殖してくる細胞は殆ど2倍体ですね。



《乾報告》

 2-アセチル・アミノフローレン(2FFA)投与による経胎盤試験内発癌

 前号迄の報告で、ニトロソ化合物、芳香族炭化水素、4-ニトロキノリン、バターイエロー等を妊娠母体に投与後、胎児を摘出し、培養開始後15日以内にTransformed Colonyの発現を観察したが、代表的な化学発癌物質群で芳香族アミン類が同法を使用しての実験系として現在迄報告していなかった。

 今月は、ハムスター妊娠母体に、2FFAを前回迄と同様の方法で投与しIn vitro-in vivo Transplacental Carcinogenesisを観察し、同時に同一母体より摘出した胎児細胞について、Transplacental Mutagenesis実験を行ない二、三の知見を得たので報告する。

 経胎盤発癌実験、これ迄の報告と同様に、妊娠11日の♀ハムスター腹腔内に2FFA 20mg/kgを投与し、24時間後胎児を摘出培養し、培養24時間以内に染色体標本を作製し、培養2、4代目の細胞をシャーレに播種、変異コロニーの検索を行なった。今回は、これに加え、残余の胎児をトリプシン処理し、培養2日後(2FFA投与後72時間)に、細胞を50万個perシャーレ播種、14〜15時間目より、8-アザグアニン(20、10μg/ml)6-チオグアニン(5、2.5、1.25μg/ml)を含んだMEM+10%v/v培養液で培養した。8-AG、6TGを含んだ培地の交換は、初めの3日間は連日、以後1日おきとし、15日間培養を継続後シャーレを固定、染色し、8-AG、6-TG耐性コロニーの出現を観察した。対照にはHanks-0.5ml、DMSO-500mg投与した母体より摘出した胎児細胞及び、ハムスター全胎児(妊娠14日目)由来の線維芽細胞(G-3)を用いた。

 (表を呈示)2FFA投与後2代目、4代目の細胞による変異コロニー出現頻度は、実験に使用した3個体共、培養2代目より変異コロニーが1〜2%前後出現した。ニトロソ化合物、芳香族炭化水素と同様の結果である。

(表を呈示)ハムスター線維芽細胞、経胎盤Hanks液、DMSO、2FFA投与胎児細胞の8AG、6TG耐性コロニーの出現率をしらべた。培養2日目の細胞を2000ケ/dish播種した場合の生存細胞率は、ハムスター線維芽細胞のそれを100%とした場合いずれも95%以上であった。耐性コロニーは中、大型コロニーの出現率は2FFA経胎盤投与細胞群、8AG-10μg/mlで明らかに高く、同型コロニーは対照群では出現しなかった。小型コロニーの出現は対照に使用したハムスター線維芽細胞に比して、2FFA投与群では3倍であった。6-TG耐性コロニーは、中大型は2FFA投与群のみに出現した。小型コロニーは、対照線維芽細胞、DMSO経胎盤投与群に各1ケずつ出現した。現在これらコロニーをクローニングし、HAT培地での生存率、逆変異コロニーの出現率等を検索中である。

 以上二つの結果より、経胎盤的に化学物質を投与することにより、試験管内発癌と細胞水準での突然変異との関連を追求する糸口がつかめたと考えられる。現在、染色体変異誘導のデータと組み合せて、癌化←→突然変異←→奇型誘導(催奇型)、の関係を同一実験系で解析出来ないかと云う、とほうもない夢を見ながら一つの実験をやっております。

 もう一方で、変異コロニーの造腫瘍性の問題、動物実験での標的臓器と経胎盤的に化学物質を投与した場合、各固有臓器を別々にとり出して試験管内発癌を試みるつもりでおりますが、純系ハムスターの繁殖がむずかしくこの問題は進展せず困っております。

 同系を使用してのもう一つの問題は化学物質の投与時期と、妊娠期間の問題です。ある薬品を妊娠前期に投与したら、出生時においては見られない染色体異常細胞が出現したら人間の自然流産児の染色体分析の結果と照らし合せて奇型発生の機序の解析にも役立つかも知れません。

 又現在やっている全器官形成終了時に物質を投与し器官毎の培養を行ないその癌化を短期間にテェックし、投与時期を前にすることによって、器官形成と発癌の問題のかいけつの糸口にならないかと考えております。

 来月以後に2FFA投与細胞の染色体分析の結果と共に突然変異誘導に関するデータを発表して行きます。



 

:質疑応答:

[勝田]母体への薬剤投与の時期と培養へ移す時期をどう選ぶかは難しい問題ですね。

[乾 ]今いろいろ調べているところです。

[難波]播種細胞数が多すぎませんか。多いと死細胞からの酵素交換が問題になります。

[梅田]50万個/dishなら細胞接触はないと思いますから、この位で良いと思います。

[堀川]Total frequencyはどの位ですか。

[乾 ]対照では10の7乗で0、処理群では10の7乗で6コ位出ます。耐性コロニーの中小さいものは本当のmutantではないようです。

[堀川]処理の期間の問題ですが、fixation and expressionに必要な時間を考えると、8AGを加えるまでの培養時間1日で充分でしょうか。

[乾 ]体内で24時間、培養に移して48時間たって薬剤を加えています。処理後は3回分裂しています。

[堀川]よいのかも知れません。8AG、6TG耐性になった細胞は悪性化していませんか。

[乾 ]まだ復元していませんが、形態的には悪性にみえません。



《梅田報告》

 3T3様株細胞の樹立は、それがcontact inhibitionという正常細胞としての性質をもっていること、定量化が可能なことなどにより試験管内での化学発癌に有効な手段を提供し得るように思われます。

 昨年9月より私達は種々の発癌剤による試験管内発癌の系統差を調べる目的で、3種の近交系マウス(DDD、AKR、C3H)より3T3様細胞株の樹立を試みて来ました。方法はTodaroらの方法に準じ、マウス胎児躯幹をトリプシン処理後、15〜30万個/6cm dishのinoculumで3〜4日毎に継代をつづけました。培地としてMEM+10%FCSを使用しました(表を呈示)。3系統の細胞とも4〜6代目頃(9〜16日目)より増殖率は一旦ゆるやかになりましたが、17代目頃(54日目)より立ち上がりはじめ、30代以降にはほぼ一様の増殖をつづけるようになりました(図を呈示)。しかしDDDとC3H細胞株については(表を呈示)、増殖率が51代以降では明らかに増加の傾向を示しました。増殖曲線は19代目で調べてありますが、saturation densityはDDDが一番高く(7万個/平方cm)、C3H、AKRの順になっています。(表を呈示)saturation densityを各世代でしらべました。方法は30万個/dish播種し3日毎にmedium changeを行ない12日後の細胞数を求めました。contact inhibitionのきいている細胞はsaturation densityが5〜10万個cells/平方cmとされていますが、DDDに関しては22代7万個cells/平方cm、36代11万個cells/平方cm、53代16万個cells/平方cmと漸増の傾向を示しましたが、AKR、C3Hに関しては53代まではそれぞれ6.8〜7.5万個cells/平方cm、9〜10万個cells/平方cmと比較的低値を保っていました。染色体のモードは(図を呈示)、少ないのですが一応50ケのmetaphase cellを数えました。DDD、AKR、C3Hの細胞とも、17、18代目で調べた時にはdiploidとtetraploid付近に2つのモードをもっていました。しかし40代目になるとDDDはhypertetraploidになっており、AKRとC3Hはtetraploid rangeにありました。

 次にこれらの細胞株を用いて試験管内発癌実験を行ないました。判定の容易さという点ではfocus assayによる方法がcolony法に比べ優れていると思われたので、DiPaolo & Takanoのfocus assayを採用しました。即ち1万個の細胞を播種したのち、翌日発癌剤を種々の濃度で処理し2日間培養後medium changeを行ない、以後週2回medium changeを繰り返し4〜6週後に固定、染色して出現してくるtransformed focusを算定しました。(表を呈示)DDDでは無処置対照群に平均8.5ケ/dishのfocusが見られ、DMBA 0.25、0.5μg/ml処理ではそれぞれ平均37.0、41ケ/dishの多数のfocusが観察されました。AKRでは対照群及び4NQO処理群ではtransformed focusは見られず、DMBA 0.05μg/ml処理群では4枚のdish中1ケ、MNNG 1μg/ml処理群では2枚のdish中3ケ認められました。C3Hに関しては培養5週後の対照群はcontact inhibitionがきいておらず、この細胞株は発癌実験に使うには不適当と判断されました。DDDに関しては対照群にも少数transformed fociが観察されたので、現在cloningをすすめている段階です。

 KouriらはAryl Hydrocarbon HydroxylaseのInducibilityがマウスの系統により異なること、例えばBalb/C、C3H、C57BLなどはhigh responderに、AKR、DBAなどはlow responderに分類され、high responderのマウスはin vivoの実験でMethylcholanthreneによる発癌率も高いと報告しています。私達はlow responderに属するAKRマウスから得られた細胞株を用いて試験管内発癌実験を行なったところ、transformed fociの出現率が低いような結果を得ました。AKRに関するかぎり我々の結果はKouriらの報告を一部supportしているように思われます。DDDについてはAHHのInducibilityは測定されておらず、系統差を論ずるには充分ではないのですが、今回の試験管内発癌実験の結果をもとに実験を集めていきたいと思っております。



 

:質疑応答:

[乾 ]DDDマウスはSWISSとC3Hのどちらに近い系統ですか。

[宮沢]よく判りません。これからメタボリズムを調べます。

[吉田]動物のデータが充分調べられている系統を使った方が良いですね。

[堀川]Assay systemとしてback groundが高くても変異の多く出る方が良いのでしょうか。或いは変異率は低くてもback groundのないのを使うべきでしょうか。

[乾 ]Back ground 0が理想です。

[勝田]我々がマウスを敬遠するのはマウスの細胞は大体bakc groundが高いからです。

[乾 ]AHHをまだ持っていますか。

[梅田]持っていると思います。

[吉田]これらの系ではin vivoのデータとin vitroのデータが一致するかどうかという所が面白いですね。

[乾 ]DDD由来の培養系の染色体が5倍体というのは珍しい、安定していますか。

[勝田]顕微鏡映画で分裂様式を観察してみる必要がありますね。

[吉田]5倍体はまだ安定していないのでないでしょうか。もう少したつと減少してきて、安定するのではないでしょうか。



《堀川報告》

 前報ではCysteamine、Cysteine、AETを始めとする8種のSH化合物について、それらの放射線防護効果をX線照射されたマウスL細胞のコロニー形成能を指標にして調べた結果について報告した。その結果、従来放射線防護剤として知られていたCysteamineとCysteineが最もすぐれた防護効果をもつことがわかったので、今回はX線照射または4-HAQO処理されたHeLaS3細胞の生存率でみたCysteamineの致死防護効果、あるいはこれらX線および4-HAQO処理により誘発される8-azaguanine耐性細胞出現頻度のCysteamineによる防護効果をテストした結果を報告する。

 まず、各種線量のX線で照射前または各種濃度の4-HAQOで20分間ずつ処理する前15分から照射及び処理後まで、短試4ml当り60万個細胞という条件下で、50mM Cysteamineでもって処理されたHeLaS3の生存率を対照群と比較した(図を呈示)。X線照射細胞の生存率をCysteamineは極度に防護するが、一方Cysteamineは4-HAQO処理細胞の生存率をも防護することがわかる。

 また、前述と同様の条件でCysteamine存在下でX線または4-HAQO処理された細胞を5ml当り50万個細胞づつになるように小角瓶に分注し、72時間のそれぞれmutation expression timeをおいたのち、15μg 8-azaguanine/mlを含む9cmペトリ皿に10万個細胞づつ入れて2週間培養した後に出現する耐性細胞のコロニー数から突然変異率を求めた(図を呈示)。

 結果は、X線照射による突然変異誘発の上昇は生存率の場合と同様にSH化合物によって顕著に防護されるが、一方4-HAQO処理による突然変異誘発もCysteamineによって防護されることがわかった。こうした結果は4-HAQOには部分的にX線の作用と類似したfree radical的な間接作用をもつことを示唆するものであり、同時に細胞の生存率の上昇と誘発突然変異率の低下は裏腹の関係にあることを示している。

 こうした基礎的実験から得たCysteamineの効果を今後は細胞周期を通じての生存率でみた感受性変動ならびに誘発突然変異率におよぼす効果として調べたいと思っている。



 

:質疑応答:

[梅田]Surviving rateで合わせてmutation rateをみないと、inductionの比較は出来ないのではありませんか。

[堀川]変異としてみるにはkillingとの関係が難しい問題になりますね。Chemicalの場合は2剤を同時に入れるのはよくないと思っています。

[勝田]培地の中には血清が入っているのも問題を複雑にするでしょうね。

[吉田]変異率はやはりkillingを差し引いて計算した方が良いと思いますね。



《高木報告》

     
  1. 発癌実験について

     今年度から当班ではできるだけヒトの細胞を用いて実験を組む方針なので、その方針に沿い実験をすすめたいと思っている。

     いきなりヒトの膵ラ氏島細胞を用いたいが、その培養の維持が現時点では30〜40日、培地中のinsulineは約4週にわたり証明されている段階で、植込み直後の分裂があると思われる時期に発癌剤を作用させれば成功させうる可能性もあるが、材料の入手が中々困難であり、培地条件を検討してできるだけ長期の生存につとめる一方、まずラット膵ラ氏島細胞を用いて4NQOによる影響を観察してみた。

     生後8週のラットラ氏島細胞を前述の方法で細胞培養し、培養3日目の形成直後のpseudoisletと、培養18日目のpseudoisletを用い、これらを池本のconical tubeに入れてHanks液にとかした4NQO各3.3x10-6乗Mと3.3x10-7乗M 0.5mlを1時間作用させ、Hanks液で1回洗ってmicrotest II tissue culture plateの各穴に分注した。対照は4NQOを含まないHanks液で同様に処理して植込んだ。培地はDM-153+20%FCSとしブ糖濃度は3mg/mlとした。3.3x10-6乗Mでは処理3日目にはすでにpseudoisletの構造はくずれ、細胞は変性におちいったものと思われる。

     3.3x10-7乗Mでは7日目にややpseudoisletのくずれたものもあったが、全体として形態はよく保たれていた。10万個程度のラ氏島細胞には3.3x10-7乗M 0.5ml位を作用さすのが適当かと思われるが、細胞は以後分裂しなければin vitroの発癌はむつかしいと考えられるので、如何にして分裂させるかが問題である。ラ氏島のB細胞はPancreozynin Caernlein及び高濃度のブ糖で分裂するといわれており、そう云ったものと発癌剤との組合せも考慮しなければならないと思う。

     一方ヒトの細胞で、正常人皮膚の生検によりえられたHF細胞とXeroderma pigmentosumの患者の正常皮膚部分よりえられたXP細胞に4NQOを作用させてみた。作用させるにあたり、まず4NQOのこれら細胞に対するcytotoxicityをみた。すなわちHF細胞では5万個植込み2日後に、XP細胞では5万個植込み3日後に細胞数を算定し、cell sheetをHanks液で1回洗い、10-5乗〜3.3x10-8乗MまでHanks液にといた4NQOを1時間作用させ、終ってHanks液で洗い、MEM+10%FCSでさらに4日間incubateして細胞数を算定した。XP細胞について植込み3日後に作用させたのは細胞の増殖がおそいためである。

     結果はHF細胞では3.3x10-6乗Mで作用後4日間細胞の増殖は認められず、XP細胞では3.3x10-7乗Mで作用後ごくわずかな細胞数の増加がみられ、10-6乗Mでは減少した。すなわち両細胞の4NQOに対する感受性に10-1乗M程度の差異が認められ、XP細胞により強い細胞毒性がみられた。そこで培養後2〜3日のconfluentになる以前のHF細胞に3.3x10-6乗M、XP細胞には3.3x10-7乗Mの4NQO in Hanksを1時間作用させ、終ってHanks液で洗いrefeed後観察を続けているが、14日後の現在XP細胞にわずかな変性細胞がみられる程度で著名な変化はみとめられない。

     

  2. 免疫学的実験について

     リンパ球に関する基礎データを少しずつそろえているが、山根のserum free medium(SF medium)を用いてラット脾よりえたlymphoid cellsを培養し、各濃度のPHAに対する反応を比較した。対照として1640+10%FCS培地を用いた。細胞数は100万個/mlとしPHA添加3日目にH3-TdR1μc/ml加え、24時間incubateしてstimulating indexで比較した。PHAに対する反応性は1640培地では75μg/ml、SF培地では25μg/mlで最高を示した。またSF培地を用いた場合のstimulating indexは1640培地の約3倍であったが、これはH3-TdRのとり込みの増加とともにPHAを作用させない対照細胞に非特異的な取込みの減少が著明であり、これもstimulating indexの上昇に一役かっていることは見逃せない。



 

:質疑応答:

[堀川]ヒトの線維芽細胞とかXP細胞に4NQO処理をして何か変異がでましたか。

[高木]まだ出ていません。

[難波]私の所でも何も出ません。

[乾 ]XPの細胞のagingはどうですか。

[高木]正常より早くagingがくるようです。

[堀川]培養内でXPの方が正常より悪性化が早いというデータはまだ無いのですね。



《難波報告》

 16:グリセオフルビンのヒト染色体に及ぼす影響

 ヒトの染色体に対して4NQOが高い異常をおこすことをこの班会議で報告した折に、黒木先生からグリセオフルビンでヒトの染色体が高率に変化おこったという報告があることを教えて頂いた。この報告は1974年の国際癌学会でLarizza et al.が“Simulated heteroploid transformation by griseofulvin and streptolydigin"という題で報告している。

 もし、4NQOより高度のクロモゾームの変化がグリセオフルビンでおこれば、それはヒト細胞の培養内癌化の仕事に使えると考え、グリセオフルビンのヒトクロモゾームに対する影響を調べた。臨床的には血清中レベルは、0.25〜3g飲むと4hr後0.3〜1.7μg/ml、毎日0.5gで数日続けると血中濃度は1.4〜1.72μg/mlで有効濃度は1μg/mlである。

     
  1. グリセオフルビンの細胞増殖に対する影響

     細胞は川崎医大で樹立された単球性白血病細胞を使用した。グリセオフルビンはDMSOに溶した(10mg/ml)。(夫々図を呈示)5〜20μg/mlで4日間作用させれば細胞の増殖は対照に比べ約50%ぐらい低下する。高濃度(25μg/ml)でも短時間だけ細胞を処理したのでは、増殖阻害はない。

     

  2. クロモゾームの構造上の変化の検討

     (夫々表を呈示)著明な変化はおこらない。月報7505に報告した4NQOでのクロモゾームの変化は3.3x10-6乗M(0.66μg/ml)1hrの処理で全染色体数に対する異常染色体は平均0.466%(9実験の平均)であった。グリセオフルビンでは4NQOより高濃度、長時間の処理でも4NQOほどのクロモゾームの変化をおこしていない。観察されたクロモゾームの変化としてBreaks、Gaps、Dicentricsなどが主なものであった。

     

  3. クロモゾームの数の異常があるかどうかについては、正常なヒト由来のリンパ球細胞で検討中である。



 

:質疑応答:

[乾 ]染色体レベルでbreakageのようなdamageが起こることは癌化へどう繋がるのでしょうか。癌化を起こすdoseと染色体異常を起こすdoseとは必ずしも一致しないですね。

[吉田]グリセオホルビンで処理された細胞の染色体数は変化していますか。

[梅田]異常分裂も多くて多核細胞が出て来ませんか。

[難波]そういうことは、まだ調べてありません。ヒトのリンパ球の培養を使ってグリセオホルビンの影響をみたいと思っていますが。

[勝田]変異剤と発癌剤との平行性をみるばかりでなく、この班ではもっと毎日の生活に密接に関係のあるものを、どんどん手掛けていきたいものですね。

[梅田]そういう点ではグリセオホルビンはマイコトキシンでもあり、水虫の薬でもありますから、適していますね。

[難波]何とかしてヒトの細胞を使って、確実に悪性変化を起こさせるような物質を探したいと思っています。



《佐藤報告》

 T- )3'me-DAB発癌実験−基礎的実験−

 今回より、DABを3'Me-DAB(より強力な発癌剤と云うことで)に切り替え、アゾ色素によるin vitro発癌実験に対し、方法論的にも有意義な実験系をめざして努力して行きたいと考えております。まず今回の報告は、3'Me-DABの二、三の肝細胞に対する細胞障害性の検討と、それら肝細胞の3'Me-DAB消費能について調べた結果であります。(図と表を呈示)

 細胞障害性:5万個/ml〜10万個/mlの細胞植え込み後2日、3'Me-DABを含む培地でさらに2日培養し、増殖曲線を描き、0.8%alcohol(control)に対する比率をもとめた。(RLD-10は実験中)現在の所RAL-5が高い細胞障害を受けた。

 3'Me-DAB消費:3'Me-DAB(3.8μg)添加後、4日間培養しO.D.=410mmより各細胞の消費率をもとめた。RAL-5、CL-2が高い消費能を示した。



 

:質疑応答:

[吉田]J-5-2は正2倍体ですか。

[常盤]そうです。

[佐藤]過去に使ったものの中から整理して適当な系を選んで実験を始めています。

[吉田]発癌剤処理によって、すべての細胞が悪性化するのか、そしてどんな染色体をもったものが悪性化したのか、検討してほしいですね。



《山田報告》

 ConAによる前処理により、4NQOの発癌性効果を修飾できるか −ラット培養肝細胞RLC-16−? ;

従来の発癌実験における電気泳動的検索の、最も大きな隘路は発癌剤による細胞の悪性化の頻度(Cell population)が極めて低いことにあります。従ってrandom samplingにより撰んだ細胞の表面を検索する細胞電気泳動法によっては、発癌初期の表面構造を検索することが困難になります。そこでなんとか悪性化の頻度を高める方法がないかと考えていた所、次のような事実に思いあたりました。

 各種の植物凝集素(plant lectins)が細胞の増殖(幼若化)や、変異を促進する場合に、細胞膜で特異な変化が起ります。反応した物質が膜上で、そのreceptorと共に移動し、しかも全く異る生物作用を持つ反応物質(例へば抗体、ホルモン等)が植物凝集素と膜免疫上で相互に干渉しあう(stero-specificfunction)現象が知られて居ます。

 この事実から考えて発癌剤4NQOが細胞膜上で反応する時に、ConAと相互に干渉しあい応じないかと思い、新しい実験を開始してみました。

 即ち(図を呈示)肝細胞(RLC-16)を処理した(ConA;37℃30分、4NQO;3.3x10-6乗M 37℃30分、PBS、pH7.2)後にそれぞれ培養し、経時的に検索してみました。こまかい考察はさらに進めて成績が充分出来た段階でまとめてみたいと思いますが、現在の所、最も興味ある成績は、ConA→4NQO処理の細胞が、24時間以内に最も電気泳動度が低下(最も表面の変化が大きい)、しかも8週目には極めて泳動度が増加したことです。(図を呈示)この経時的検索の際同時にConAに対する反応性(37℃30分)の変化をしらべました(図を呈示)。あまりはっきりした差は出て居ませんが、4NQO→ConAとConA→4NQO、ConA単独群に13週目にConAの反応(即ち泳動度の反応性増加)が出現しつつある様な気がします。



 

:質疑応答:

[難波]ConAを添加すると細胞が凝集しませんか。

[山田]この濃度では凝集しません。

[堀川]対照でConAに対する感受性が下がるのをどう考えておられますか。

[山田]あまり多くの事は言えませんが、少なくとも肝癌の反応とは違っています。

[難波]ConAはどの位強く結合しているのでしょうか。

[山田]はっきり判りませんが、洗うだけでも大分落ちるようです。



《久米川報告》

     
  1. セロファン・シート法による培養

       
    1. RLC細胞:

       RLC-19、RLC-20両細胞の培養を行った。RLC-19細胞はセロファン膜の下では2〜3日以内に細胞は死滅した。

       (写真を呈示)RLC-20の細胞は円形で密着し、細胞間にphase-whiteの間隙があり、還流培養した胎児の肝臓の像に近い。移植片の辺縁から紡錘形細胞のout-growthがみられる。10日前後までにRLC-20細胞は膜の下では次第に変性した。

       

    2. KB細胞:

       (写真を呈示)KB細胞は円形となり、細胞はお互いに密着している。細胞は核が割合大きく、原形質の占める割合が小さく、ぶ厚い感じがする。ときに細胞は腺様構造をとることもある。10日以上培養を続けると多核細胞が非常に多くなる。ときには10数コの核をもった細胞も見られる(図を呈示)。電顕による観察では細胞はお互いに200〜300Åの間隙で密着している。

     
  2. 細胞とセロファン膜および血清の関係

     セロファン・シート法では細胞はセロファン膜にcompressされ、しかも血清を含んだ液とセロファン膜を介している。シート法の下における細胞の変化が、セロファン膜のcompressのためか、血清中の高分子成分が欠除したためかKB細胞を用いて調べてみた。

     その結果をまとめると、透析血清成分+セロファン膜の圧縮なし:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化なし。透析血清成分+セロファン膜の圧縮:細胞の変化。即ち両因子が同時に働いたときに始めて細胞に形態的な変化が現れることがわかった。

     膜の下に最初血清成分を加えた状態でKB細胞を培養すると、KB細胞は2〜3日目までは細胞は紡錘形で盛んに増殖する。しかし4日後には細胞の増殖は次第に低くなり、細胞はお互いに密着してくる。さらに培養を続けると細胞は集まり島状となる。通常のセロファン・シート法より細胞は小型でお互いの細胞間は強く結合しているように感じられる。今後セロファン膜における肝由来RLC細胞の動態を形態的機能的に調べてみたい。

     

  3. RLC細胞の酵素活性

     5月の月報でRLC細胞の解糖系酵素について報告したが、酵素活性は種々の培養条件により左右されるのではないかと考え、RLC-20を選び経時的に測定してみた。増殖と関係しているであろうと考えられるPK、G-6PDHは培養とともに次第に活性が低下した。GKが以外に高く、2日目の値は成体の肝に近い。この結果については現在追試中である。

     次いで、これらの酵素がインシュリンに対する応答性をもっているか、どうか調べた。培養4日目に0.1u/mlのインシュリンを添加、2日後に測定したものであるが、PK、G-6PDHは誘導されている。しかし、GKは逆に低く、インシュリンに対する応答性については今後の追試を必要とする(表を呈示)。

 

:質疑応答:

[難波]培地の条件が変わると酵素活性は変わるのでしょうね。

[高木]インシュリン処理はどの位ですか。

[久米川]0.1uで48時間です。

[佐藤]旋回培養ではKBは大きな塊を作ります。ラッテの肝細胞は作りません。

[吉田]セロファン下の細胞は分裂像がみられませんね。

[久米川]分裂は殆どみられませんが、系によっては400日も生存して培養を続けられるものもあります。

[難波]ラッテ肝細胞でmonolayerに増殖している時と、aggregateを作らせた時とそれぞれ組織化学的な染色で酵素活性をみたらどうでしょうか。

[久米川]組織化学は今の所まだ手をつけていません。



《加藤報告》

 軟骨細胞の浮遊培養系における分化形質の保持

 ニワトリ胚の軟骨細胞を従来常法とされている単層培養ではなく、浮遊状態で培養することにより、軟骨細胞の分化形質の一つであるコンドロイチン硫酸の分子種と細胞あたり合成量が安定に保たれることを見出したので、培養法と細胞の性質について報告したい。(写真を呈示)従来の単層培養された軟骨細胞(ニワトリ13日胚胸骨)培養開始後1週間では細胞間物質が明瞭で又軟骨のnoduleの形成が見られる。我々の方法で培養し、浮遊して来た軟骨細胞培養18日目の浮遊細胞は、色素(エリスロシンB)の排出能と寒天培地によるplating efficiencyから90%以上が生きている細胞と判断される。またトルイジン・ブルー染色によるメタクロマジーを示す物質(酸性ムコ多糖)の生産、35S-無機硫酸によるラジオオートグラフィー、生産物の生化学的分析などの結果から軟骨細胞の性格を保持することを確認した。(図を呈示)これ等の浮遊してくる軟骨細胞を再現性よく得るために、いくつかの条件を検討したが、培養1日目に全培地を更新、以後は1日おきに1ml/dishずつ新鮮な培地を添加すると、シャーレに播かれた細胞数に依存した浮遊傾向を示すことが判った。細胞数/シャーレに依存して増殖速度も変化するが血清濃度を変えて増殖を調節しても浮遊してくる傾向には変化が認められないため、一義的に細胞濃度に依存した性質であると思われる。このようにして得られた浮遊細胞を、高頻度に浮遊状態を維持させながら継代することは可能で、培養開始後7週たったものでも、ほぼ80%の細胞が浮遊状態を維持している。増殖度は継代と共に低下してくるが、軟骨細胞が多量に合成するコンドロイチン硫酸の合成能力は安定に保たれており、合成されるコンドロイチン硫酸の分子種(Ch-6SとCh-4S)にも変化が認められない。(表を呈示)浮遊して増殖している軟骨細胞から1部プラスチック面に付着してくる細胞(stellate cell)が現れるが、BUdRやHyaluronic Acid処理でプロテオグリカンの合成を抑えると同様のstellate cellが現れることから浮遊状態から脱落してくる細胞は軟骨細胞としての機能が低下或いは消失したものらしいと思われる。その意味でこの培養系は、常に軟骨細胞の機能を活発に持っている細胞のみを常にselectしている系と云えよう。



 

:質疑応答:

[山田]何もしなくても浮いているというのは何故でしょう。比重が軽いのでしょうか。

[堀川]細胞のまわりに何か出していて、それで浮いているのでしょうか。

[吉田]骨細胞はアメーバ様突起を持つと考えていましたが、この細胞は丸いのですね。

[加藤]浮いているときは丸くて、下に落ちると形が変わります。

[吉田]Agingの時はどうなりますか。

[加藤]下へ落ちて死んでゆきます。

[長瀬]ラッテの腹水肝癌ではfree cellと島を作る型の細胞とではムコ多糖の組成が違っています。この場合、下に落ちる細胞のムコ多糖についてもしらべてほしいですね。

[堀川]浮いて居る細胞が落ちてくるというプロセスは再現性がありますか。

[加藤]全く同じように起こります。



《野瀬報告》

 コラゲナーゼを用いた肝実質細胞の培養

 これまでに樹立されたラッテ肝細胞株の、肝特異機能をいくつか調べてみたが、いずれも機能を失っているようだった。そこでIypeの方法にならってprimaryの培養肝細胞を用いて機能を検討した。

 Adult ratの門脈からCa・Mg-free Hanks BSSを約40ml注入し潅流し、次に20mlの0.05%Collagenase(Worthington;typeII)で潅流する。liverを取出し、0.05%Collagenase中でピンセットを用いて組織をバラバラにし、Cell suspensionを得る。meshを通した後、低速遠沈(300rpm≒50xg、5min)を繰返し、“parenchymal cell"を分離した。1匹のラッテから約9x10の7乗個の細胞がとれ、viabilityは65%であった。Dispase処理で得られた上皮様細胞のarginase、tyrosine aminotransferase(TAT)活性は非常に低くセンイ芽細胞とあまり変わらない(表を呈示)。しかしCollagenase処理で得た細胞は両酵素活性が肝臓のhomogenateとほぼ等しく、dexamethason感受性も保持していた。Dispase処理で得た実質細胞はerhthrosinBで見たViabilityが1.5%と極わめて低く、肝実質細胞の調整にはCollagenaseが優れていると言える。

 Collagenaseで得た肝実質細胞の培養には、DM-153+20%FCSを用いたが、5%FCSではシャーレに付着する細胞が少なかった。(写真を呈示)培養4日目の実質細胞は、形態的には株となったラッテ肝細胞とは全く異なっている。この細胞はほとんど増殖せず、培養7日以後は徐々に死滅していった。

 使用する酵素が違うとこのように全く異なる細胞がとれてくるのは興味ある事実だが、株化された上皮様細胞と実質細胞とがどんな関係にあるかはまだわからない。低速で沈殿してくる細胞はsucklingの時期のラッテ肝からはとれないので、上皮様細胞は未熟な肝細胞なのかもしれない。各ageのラッテ肝で、TATとarginase活性の変化を調べたら、TATは生まれるとすぐに成熟ラッテと同じ活性まで上昇したが、arginaseは生後20日くらいまで徐々に上昇した。従って若いラッテの肝臓はいろいろな成熟段階があり、それぞれに特徴的細胞があるのかも知れない。



 

:質疑応答:

[梅田]アフラトキシンの処理は13分では少し短くありませんか。

[野瀬]濃度が少し濃いのですが。

[梅田]ディスパーゼで還流してみたらどうでしょうか。

[野瀬]やってみます。

[梅田]フェノバルビタール2mMは少し濃いと思いますが・・・。

[野瀬]濃いです。

[加藤]生まれた時、又は生まれる直前のものを培養して、培養中に成熟型の酵素活性に変わってくるというような現象はありませんか。

[野瀬]今の所ありません。