【勝田班月報:7509:可移植性テストとしての異種移植】

《勝田報告(報告者・榊原)》

 培養細胞の悪性・良性を決める唯一の信頼できる実験的手段は戻し移植試験であるとされているが、この方法には幾つかの難点があり、特に結果が判明する迄1年にも及ぶlatent periodを要する点は問題である。

近年、ヌードマウスの発見や免疫抑制剤として抗胸腺細胞血清(ATS)の再評価によって、異種移植は比較的容易となった。例えば、吉田肉腫細胞をシリアンハムスターの頬袋に移植した上、ATS処置を行なうと、広汎な遠隔臓器転移をともなって短期間のうちに動物は腫瘍死する。又、人癌由来培養細胞株をこの異種移植系に植えると、4週間以内に検索した凡ての株が局所に腫瘍を形成する。

 我々は今回、主としてラット肝由来培養細胞24株について、戻し移植結果とATS処置ハムスター頬袋への異種移植結果とを比較検討した。両者の間に、高い正の相関が見出せるなら、可移植性テスト法としてこの異種移植実験系を利用することが可能であると考えたからである。

 実験動物としては、純系シリアンハムスター(adult)を用いた。ATSはMedawarらのtwo pulse methodの変法により作製した。ATSによるconditioningは移植当日より始め、以後週2回づつ、1回投与量0.5ml/animal,S.C.とし頬袋切除まで続けた。移植後3週間経たのち頬袋を引き出して、腫瘤形成の有無をしらべ、個々の腫瘤について病理組織学的検索を行なった。若しそこに細胞の腫瘍性増殖が認められたなら、これを“take"されたと判定することにした。

 結果は(表を呈示)、戻し移植によって宿主を腫瘍死させ得る12株のうち6株はハムスター頬袋にtakeされた(残る6株中5株も9月18日現在、頬袋に“腫瘤"を形成している)。可移植性のない、あるいはないと考えられる12株中8株はハムスター頬袋にもtakeされなかった(残る4株中の1株も9月18日現在“腫瘤"形成がない)。結局結果の不一致をみた細胞株はRLC-10(2)、RLC-19及びRLC-19(4NQO)、JTC-21・P3の4株のみのようである。しかもこれらの株細胞は、戻し移植結果にも多少問題のある例である。即ち、RLC-10(2)は、生後1ケ月以内の幼若ラットに戻した場合のみ宿主を殺すが、成熟ラットならびにハムスター頬袋にはtakeされない。RLC-19とRLC-19(4NQO)はハムスター頬袋に癌を作ったが、戻し移植後4ケ月の現在、ラットでの造腫瘍性は証明されない。但し結論を下すには時期尚早の段階であろう。JTC-21・P3は精力的な戻し移植実験にも拘らず、常に結果はnegativeであったが、ハムスター頬袋では腫瘍を作る。in vitroでの形態及びbehaviorからは悪性が示唆され、なお黒白のつけ難い細胞株である。

 以上の結果から、ATS処置シリアンハムスター頬袋への異種移植法は、3週間という短期間で結果が判明し、しかも戻し移植結果との相関度がたかく、可移植性テスト法として応用の価値あるものと考えられる。



 

:質疑応答:

[佐藤]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにはtakeされないという系の場合、抗原性の変異とも考えられますが、腫瘍性の弱い例については接種されたラッテが死ぬ迄に1年もかかるのですから、その間にin vivoで二段目の変化が起こるとも考えられますね。Carcinosarcomaとなっている肝細胞由来の系は実はcarcinomaなのだがin vivoでsarcoma様形態になるのか、又は元の培養に混じっていたfibroblastが腫瘤を作るのか、或いはハムスターの細胞がはいってきているのか、調べてみたいですね。

[乾 ]Diploidの細胞はどうですか。

[榊原]今までの所全くtakeされていません。

[榊原]ハムスターにはtakeされるのに同系のラッテにtakeされないという系については、復元接種の部位に問題があるのではないかとも考えています。

[山田]しかしbacktransplantationの根本問題として、異種移植は前進になるでしょうか。それから組織像にはこだわりすぎない方がよいと思います。

[堀川]腫瘍性の解析という点で矢張り前進といえるでしょう。

[勝田]ヒトの細胞のように同種移植の不可能なものには異種移植は必要です。

[吉田]ATS処理ラッテなら、takeされなかったラッテの系がtakeされませんか。

[高岡]なぎさ変異のJTC-21・P3で試みましたがtakeされませんでした。

[翠川]胎児の細胞はtakeされませんか。

[榊原]胎児肝を酵素でバラバラにしてから接種しましたがtakeされませんでした。

[梅田]組織のままで入れるとどうなりますか。

[榊原]Takeされないものは、どんどん反応細胞に処分されてしまうようです。

[翠川]形態だけで癌種と肉腫を判別するのは、仲々難しいですね。何か生化学的に区別がつきませんかね。

[遠藤]それはまだ無理ですよ。生化学では正常か悪性かで分けられる程度ですよ。組織化学的な同定はどうですか。

[翠川]それも試みています。

[勝田]酵素活性というのは誘導がかかりますからね。培養細胞では何とも結論が出ないと思います。

[遠藤]しかし形態もいろんな条件で変化するから、当てになりませんね。ある種の薬剤耐性の違いなどで同定できるといいですね。

[翠川]そうですね。化学療法の対象として、癌と肉腫がそれぞれ異なるという可能性はありますね。それから、ハムスターの頬袋とヌードマウスと比較してどうですか。

[勝田]ヌードマウスは飼育が困難だし、この方法より宿主の反応が強いようです。

[難波]抗リンパ球血清の投与をやめるととか、長期観察もしてほしいですね。

[山田]生体での癌を考える時こういう免疫的抑制下の腫瘤を癌といえるでしょうか。

[勝田]こういうものを癌とすると云う事ではなくて、細胞の悪性化を早く見つける方法として開発したいと考えています。



《乾報告》

 Transplacental in vivo−in vitro carcinogenesis and mutagenesis of AF-2:

 ここ2、3年、妊娠ハムスターは、化学発癌剤を投与した後胎児を摘出Colony levelでのTransformationの仕事をやって来ましたが、Transformed Colonyをcloningして、増殖させハムスターに戻し移植の実験がなかなかうまく行かず、実験動物を今年始めより純系ハムスターにかえましたら、妊娠動物を使用してしまうと云うこともありまして、ハムスターの繁殖がなかなか思うようになりません。

 真の意味での培養内発癌実験のつなぎの実験として前回の班会議で2FAAでTransformationとMutationを同一細胞で行ない8-AG、6-TG耐性コロニーの出現をみました。

 今月は環境変異原としてさわがれ、染色体切断能も強く、In vivo-in vitro chmical carcinogenesisの系でTransformed Colonyを作り、動物実験においても発癌性のあるAF-2で、mutationとin-vitro carcinogenesisの関係を少し系統的にやりつつあるのでそれについて報告いたします。

 実験方法:(図を呈示)妊娠11日目、器官形成の終了時にDMSOに溶解したAF-2を20〜200mg/kg腹腔内注射した。注射後、24時間(20mg/kg投与群では6、24、48時間)に母体より胎児をとり出し、Transformed Colony形成の為にはDulbecco'sMEM+20%FCS、mutagenesis実験にはMEM+10%FCSで培養した。

 Transformed Colony形成には、培養2、4、6代目の細胞を5,000〜10,000/dish接種し、培養5〜10日後固定した。突然変異コロニーのSelectionには胎児細胞をMEM+10%FCS正常培地で48時間培養後8アザグアニン(8-AG)10、20、30μg/ml、或いは6チオグアニン(6TG)5、10μg/mlを含んだ培地に移し(50万個/dish)15日間培養後、固定染色し8AG、6TG耐性コロニーを算定した。

 結果:(表を呈示)AF2 20mg/kg投与後のTransformed Colonyの出現率を示した。培養2代目では、ControlのHanks 500mg/kg投与群、AF-2投与後6、24、48時間に培養を開始した細胞共に1〜1.8%のTransformed Colonyが出現したが4代目では、AF-2投与後24時間、6代目では6、24時間群にTransformed Colonyの出現が著明であった。この事実は今後同実験を行なう上に、化学物質投与後培養開始迄の時間が後のTransformed Colonyの形成率に影響があることを示している。

 (表を呈示)ハムスター細胞に培養内で直接MNNG、AF-2投与後の8-AG耐性コロニーの出現率を示した。MNNG 1〜2x10-6乗M 3時間投与後細胞で対照の無処理に対して8-AG耐性コロニーの出現率は明らかに増し、AF-2 1〜2x10-4乗M投与群でも同様の結果をえた。なおAF-2投与群の8-AG耐性コロニーの出現率に濃度依存性が見られた。6-TG耐性コロニーの出現はMNNG、AF-2共に強い濃度依存性があった。上記実験はTransplacental Applicationに対する対照実験として行なったが、ハムスター初代細胞における8-AG、6-TG耐性細胞を得た始めての報告と思う。又AF-2投与後の8-AG耐性コロニー形成は人間2倍体細胞でKuroda、チャイニーズハムスター細胞で、Wildが報告しているが、6-TG耐性細胞の報告は現在ない。

 (表を呈示)AF-2をTransplacental投与の胎児細胞の8-AG耐性コロニーの出現率では、AF-2投与細胞で明らかに耐性コロニーの出現率は増し、その誘導率は直接投与のそれより高く、20〜100mg/kg投与群では投与濃度依存性が認められた。同様6-TG耐性コロニーの出現がAF-2経胎盤投与細胞で出現した。



 

:質疑応答:

[堀川]8-AGrのmutation とtransformationのrateではmutationの方が高いのですね。

[勝田]Transplacentalの発癌実験は面白いideaですね。

[翠川]Transplacentalは通る通らないがあると思いますがAF-2は通るのでしょうか。

[乾 ]最近はplacentaにbarrierはないと考えられているようです。ヒトの自然流産を調べてみると、染色体奇形が物凄く多いという事が判っています。

[翠川]母体の酸素欠乏が胎児の変異を起こすとは考えられませんか。直接の化学物質による影響とは区別して考える必要があると思います。

[遠藤]与えた化学物質が母体に作用して酸素欠乏を起こし、それが胎児の変異の原因になるとすると与える物質が何であっても同じ結果が出る事になります。もし結果に差なり違いなりがあれば、それは与えた薬剤の直接の影響とみてよいでしょう。

[乾 ]結果からみて薬剤が直接に作用していると考えています。次には標的臓器別にtransformationをみたいと思っています。

[堀川]胎児への影響をみるのには良いsystemですね。

[勝田]Screening用の実験よりmechanismをやって欲しいですね。それから復元をもっとどんどんやって腫瘍性をみておかなくてはいけませんね。

[梅田]8-AG耐性のコロニーは継代出来ますか。

[乾 ]出来ます。そして5x10-6乗でrevertantが出ます。

[佐藤]Diploidとheteroploidとではmutation rateは異なりますか。

[乾 ]株細胞に比べますとtransplacental実験では変異率は大体1ケタは低いです。

[勝田]Transplacentalでは生体での代謝は受けませんか。

[遠藤]殆どの薬剤が受けていますね。ウレタンなどはそのまま通るようですが。

[乾 ]アイソトープラベルの物質を使って物質その物の取り込みもみるつもりです。

[遠藤]ラベルした物質を使ってもカウントがあったというだけでは、そのまま入ったかどうかは判らないし仲々大変ですよ。Screening法として確立すれば良いでしょう。

[勝田]いやいやscreeningだけでは当班業務は満たせませんからね。



《佐藤報告》

 ヒト(1歳男子)肝芽腫の培養とその培養系の形態及び機能について

 (報告のみで原稿の提出はなし)



 

:質疑応答:

[遠藤]α-Fの産生は培養を続けていても低下しませんか。

[佐藤]ラッテの場合は1年や2年では変わらない系もあります。系によっては時間がたつにつれて低下するものもあります。ヒトの場合single cellからのクローニングが出来ませんので、系によって違うのはselectionがあるのかも知れません。

[吉田]染色体数46本、48本のものだけですか。又46本と48本は混在していたのですか。

[佐藤]始は混在していたのですが、今は48本が主になっています。又46本、48本以外のものは今のところ見当たりません。

[榊原]α-Fを産生している細胞をハムスターに接種してtumorが出来ると、ハムスターの血清中にヒトのα-Fが出てくるでしょうか。

[佐藤]出るでしょうね。ラッテの肝由来の系の中には培養内ではα-Fを作っていないのに動物に接種すると、その動物の血清中にα-Fが検出されるというものもあります。

[久米川]正常ヒト肝からも培養系がとれますか。

[佐藤]今の所まだ出来ていません。



《翠川報告》

 §マウス間葉系細胞(線維芽細胞、細網細胞、組織球)の長期培養について

 マウスの肝、肺、腎等の臓器を細切して、特別の操作を加えることなく長期継代培養を続けた場合いずれも紡錘形細胞の増殖が優勢となり、この紡錘細胞の株化をみる場合が多い。この様な株細胞に対してこれまでは単に紡錘形細胞あるいは線維芽様細胞と呼称し大部分はfibroblast由来とみなした余りその起源は問題にされなかった。

しかし、間質に存在する間葉系細胞でその形態が紡錘形を呈するものは決して線維芽細胞のみではなく、組織球、細網細胞あるいは血液由来の単球等多彩であり、それらの鑑別は必ずしも容易ではない。人によっては線維芽細胞と組織球は相互に移行しうるともいい、また組織球と細網細胞は全く同一細胞種で細胞のおかれた条件下でその形態機能を一見異にするようにみえるのにすぎないという説も有力である。

 私たちはA/K系マウス(マウスは非常にtransformationを来たしやすい。その性質を利用するその目的でマウスを選んだ)脾、可移植性腫瘍を培養してその間質の間葉系細胞を長期にわたって培養し、その間いろいろの細胞系を分離して、線維芽細胞より由来するもの、細網細胞とになされるもの及び組織球の株化、長期培養に成功し、いずれも5〜10年にわたっている。

 その結果、線維芽細胞、細網細胞そして組織球はそれぞれ生物学的にも性質が全く異なる独立した細胞でin vitroでは決して互いに移行しあうことのないのを確めつつある。

     
  1. マウスの線維芽細胞は周知のごとく最も培養し易く、容易に株化し、また早期に試験管内発癌をみる。形態学的には完全に紡錘形で、Van Gieson染色に赤染、Azan染色で青染し貪喰性は少なくこの基本的性質は10年間in vitroでも保持されている。

     

  2. 細網細胞はこれに較べてやや株化が困難であり、自然発癌に要する期間もやや長い。紡錘形の度合いは少なくVan Giesonで赤くそまらずAzanでも青染をみない。貪喰性能も中等度陽性。

     

  3. 組織球は最も株化が困難で、10年にわたる培養でも、自然発癌はおこらず細胞のdoubling timeも7日以上と非常に長い。そして最も特長的である旺盛な貪喰能は10年間以上全く変ることがない。5年以上培養を続けた上記三種細胞の写真を呈示する。それぞれの細胞の基本的特長は長期培養にさいしても決して失われることなく、また相互移行も全く認められない。



 

:質疑応答:

[勝田]Reticulum cellとhistiocyteとでは映画撮影での動態も全く違いますね。

[難波]Histiocyteが悪性化すると浮遊状になりませんか。

[翠川]壁への附着性が非常に強いですね。

[難波]Hodgikinはhistiocyteが悪性化したのではないでしょうか。

[翠川]Hodfikinはreticulum cellに近いかも知れません。

[遠藤]Histiocyteとmacrophageはどこが違うのですか。

[翠川]Macrophageの一部がhistiocyteだとか、同じものだとかいう人もいます。

[遠藤]市川氏の仕事ではmyeloid leukemic cellがmacrophageに分化するようですね。

[翠川]もとの細胞が本当にmyeloid cellでしょうか。血球系の細胞の同定はなかなか難しいものです。

[吉田]株化した細胞の染色体はどうですか。

[翠川]染色体核型も染色体数も正常ではありません。しかし、腫瘍性がないと判断したものは、胸腺切除の乳児に植えてもtakeされなかったものです。



《佐藤報告》

 ◇軟寒天内コロニー形成について

 発癌実験に使用する為、細胞のクローン化を進めていますが、原株とクローン化された株の性状の比較の一つとして、軟寒天内でのコロニー形成能を検討いたしました。本実験に入る前に軟寒天培養の手技の確立のためJTC-11細胞を用い予備実験を試みました。

 ◇(植え込み細胞数について)

細胞数をシャーレ(60cm・ファルコン)当り、80万個〜800個まで変化させ軟寒天内でのコロニー数を計測した。実験条件は、0.5%seed Agar、1%BaseAgar(Agar:Special Noble Agar・Difco)とし、10日間観察した。JTC-11細胞では多数のコロニー形成を見たが、一応1mm直径以上のものを計測した。8万個の細胞数以上では、コロニーが多く計測不可能であった。

 ◇(寒天の濃度について)

細胞数を一定にし(8,000個/dish)、寒天濃度を変え、コロニー形成に変動があるかどうか調べた。Base Agarについては0.5%より1%の方が多くのコロニー数を得た。結果から、以後の実験は0.5%Seed Agar、1%Base Agarで行うこととした。(夫々表を呈示)

 JTC-11細胞の予備的実験を参考にして、本実験として、4系のラッテ肝細胞株、ならびにそれらからトリプシン−ろ紙法によって得たクローン株について寒天内でのコロニー形成能を検討した。実験条件は、0.5%Seed Agar、1%Base Agarで15日間の観察である。まず原株(J-5-2、AL-5、RLD-10、CL-2)ではRLD-10細胞のみがコロニーを形成した。この場合、RLDのコロニーはJTC-11のそれに比しはるかに小さく、最も大きいもので1mm程度の直径であった。次にクローン株についても同様の実験を試みたが、原株と同様、RLD由来クローンのみがコロニーを形成した。RLD-10とCL-2は同系ラッテに可移植性を有することが別の実験で明らかとなっているが、寒天内でのコロニー形成能は前者のみが有していた。ここでも、寒天内でのコロニー形成能と腫瘍性との直接関連性は示されなかったと考える。

次に染色体数モードについては、原株のJ-5-2、AL-5は42にモードがあり、RLD-10、CL-2は異数性であることがわかっているが、得られたクローンについても検討した結果(現在の所は、AL-5、RLD-10のクローンについてのみ)では、AL-5クローンは42、RLDクローンは54−56にモードを示した。(表を呈示)



 

:質疑応答:

[難波]RLD-10は100%腫瘍細胞ですか。

[常盤]文献的にはそうなっています。

[高岡]腫瘍性のある細胞、殊にJTC-11については100万個/シャーレというのは細胞数が多すぎると思います。1,000コ、100コ、10コが普通に使われています。



《高木報告》

     
  1. DMAE-4HAQO注射ラットに生じた腫瘍の培養

     先報のSDラットに生じた肺腫瘍および膵腫瘍ならびに腹水の培養を試みたのでその成績をのべる。

     膵腫瘤の培養はDM-153とAL+EV培地に20%FCSを加えた培養液で行なったが、上皮様細胞の増殖はほとんど認められなかった。肺腫瘍の培養も同様の培地を用いて行なったが、explantから上皮様細胞が次第に出現し、同時に線維芽細胞の増殖がみられたので40日目にrubber policemanで継代した。継代後も組織片の周囲に上皮様細胞の増殖がみられ、45日位がもっとも盛んであったが以後は増殖を示さず、線維芽細胞のovergrowthにまけて65日目で培養を中止した。

     腹水細胞はDM-153と1640培地に20%FCSを加えた培養液で培養した。培養数日間は血液細胞(単球など)の集落がみられたが、以後偏平な線維芽細胞とそのsheetの上の小型の細胞質に多くの顆粒を有する細胞と、さらにcell sheetに軽く付着したようにみえる球形の細胞が共存して培養が続けられた。球形の細胞はそれだけ集めて培養したのでは増殖がみられず漸減したが、他の細胞と共に培養するとわずかに増殖するかあるいはそのままの状態で培養がつづけられた。しかし培養70日目の現在では球形の細胞の数は可成り減少し、線維芽細胞が優勢のようである。これらの写真を供覧する。

     

  2. XP細胞およびHF細胞(人皮膚線維芽細胞)に対する4NQOの作用

     月報No.7507に報告したようにXP細胞とHF細胞に4NQOを3.3x10-7乗Mと3.3x10-6乗M作用させてその後の経過をみているが、XP細胞は培養開始後160日、4NQO作用後70日目の現在、対照、作用群ともに完全に増殖が止っている。HF細胞は対照、作用群ともさかんに増殖を示しているが、形態的に特に変化は認められない。



 

:質疑応答:

[堀川]Human adultの膵臓細胞が40日位で絶えてしまうのは何故でしょうか。世代時間はどの位ですか。

[高木]調べてありません。

[遠藤]胎児の膵臓ならadultより長期間維持できるだろうという見込みですね。



《難波報告》

 19:グリセオフルビンのヒトの染色体に及ぼす影響.その2

 月報7507に、グリセオフルビンがヒトの染色体の異常をおこす可能性のあることを報告した。今回は、この実験をまとめるために新しく実験を行ない、データを詳細に分析した結果、グリセオフルビンが確かにヒトの染色体の異常を起こすという結論に達した。そのデータを下に記す。

 ◇実験条件

細胞:健康な女性(23才)からのリンパ球。 培養:RPMI1640+30%FBS+0.2%PHA M。300万個リンパ球/3ml培地、3日間培養。 薬剤処理:DMSOに溶き、3日間処理。 クロモゾーム:培養3日目に作成。

 ◇結果

 (図表を呈示)10μg/ml処理群の方が20μg/mlのものより高度なクロモゾームの数の異常をおこしている。Heteroploidへの変化の方がBreaksとかgapsなどの構造の異常より発癌の機構に重要だという考えがあるので、以上のデータの結果は重要だと考えられる。20μg/ml群は、薬剤のToxicityのために、多くの細胞が死んだのかも知れない。


 20:ヒトのクロモゾームに及ぼす4NQO、BPの影響

 化学発癌剤が、ヒトの細胞を癌化させる可能性があるか否かを測定する指標の1つとして、正常なヒトに由来する2倍体細胞の、発癌剤処理後におけるクロモゾームの変化の検討がある。

 月報7505に、4NQO、BP、NG、MMS、DMBAなどの発癌剤のヒトクロモゾームに及ぼす効果を報告した。今回は4NQO、BPだけを使用し、多数の個体より得たリンパ球のクロモゾームに、両薬剤がどのような変化をおこしているかを詳細に検討した。

 ◇実験方法:

ヘパリン処理の血液10mlを試験管に入れ、立てたまま2〜3hr放置。上清に浮遊するリンパ球を使用。約100万個のリンパ球/3ml培地(RPMI1640+20%FBS+PHA・Gibco)。2日目、10-5乗M BP、3.3x10-6乗M 4NQOで1hr処理。3日目クロモゾーム標本作製。

 ◇実験結果:(表を呈示)

     
  1. Ploidyの変化は、コントロールクロモゾームの構造の変化の順も上と同様である。  
  2. BP、4NQOによるクロモゾームの変化には個体差がみられる。  
  3. 同時に作製する薬剤未処理のコントロール群のクロモゾームの変化と、BP、4NQOによる変化とは相関関係はない。

 ◇考察:

ある種の化学発癌剤のヒト染色体に及ぼす影響を検討するとき、個体差のあることを考えて、実験を進める要がある。



 

:質疑応答:

[乾 ]こういう実験の場合の染色体分析は150コほしいですね。50コは少なすぎます。

[山田]細胞電気泳動でみたヒトの赤血球も、個体差が大きいですね。

[翠川]ヒトの場合、薬を使ったりすることも影響するのかも知れません。

[勝田]人間は実験動物に比べると、全くの雑系ですからね。



《堀川報告》

 先月号の月報で簡単にふれた2つの実験結果を改めて詳細に報告します。

     
  1. 低線量放射線照射による誘発突然変異

     私共のもっている4種の突然変異検出系のうちで最も鋭敏な系である栄養非要求株prototroph(Ala+、Asp+、Pro+、Asn+、Glu+、Hyp+)を用いた検出系は(図を呈示)、0〜1000Rの中等度のX線を照射した際に誘発されるauxotrophを容易に検出することが出来る。つまり、この栄養要求性前進突然変異系はX線により誘発される突然変異を鋭敏に検出することが出来る。では、この系を使えば低線量のX線照射により誘発される突然変異も検出出来るかどうかを再検討するため、100R以下のX線照射をした際の突然変異の誘発をこの系で調べてみた。この問題は低線量放射線のlate effectがどのようなものであるかを知るために非常に重要であるが、結果は(図を呈示)negativeで、100R以下の線量で誘発されるmutationを検出することは出来なかった。この事はわれわれの検出系の感度がまだにぶいのか、それとも低線量域で誘発されるmutationには回復があるのか、いづれかであろう。この問題の解決は今後に残されている。

     

  2. AF-2の突然変異誘発能

     一方、この栄養要求性前進突然変異系を使って、従来食品添加剤として広く用いられてきたAF-2のmutagenicityをtestした結果は、これ迄にも報告してきたように、UVやX線に比べて突然変異誘発能は弱いという結果を得ていた。これは前報でも述べたように、AF-2をDMSOに溶かした後、15lbs(120℃)、20分間オートクレーブで滅菌したものをmediumに加え、細胞を2時間処理した場合の結果であった。

     今回はDMSOに溶かしたAF-2をオートクレーブ滅菌なしで直接mediumに加えて細胞を同様に2時間処理した際の誘発変異率を調べてみた。結果は(図を呈示)これまでと違ってAF-2には強力なmutagenicityのあることがわかった。このことは従来比較的熱に安定とみなされていたAF-2も熱によってまったく異ったproductを作ることを意味していると思われる。案外とtrans型のAF-2が熱によりcis型AF-2に変型する事に関係があるのかもしれない。



《山田報告》

 培養肝細胞及び培養肝癌細胞の超微形態:

 これまで7系の細胞について電顕的観察を続けて来ましたが今回はJTC-1(AH-130)について調べて来ました。今回は固定の方法を若干変更し、平等に細胞が固定される様に工夫した所、いままで試みた方法のうちで最も良い結果を得る方法であることが、今になってわかりました。(写真を呈示)

 AH-130の超微形態はJTC-16やCulb/TCとかなり似ていますが、特に異る所は、部分的にdesmosomeの密に分布する結合面が少数みられることです。グリコーゲン顆粒はCulb/TC程に多くはありませんがかなり存在して居ます。しかし癌細胞と非癌細胞間の形態学的差はあまり大きくない様な気がします。そこで最後にこれまで調べて来た電顕所見を相互に比較し(表を呈示)、その結果をまとめると次の様になります。

     
  1. 正常ラット肝由来細胞は生体のoriginalの肝細胞とはかなり異り、特にグリコーゲンの星状顆粒の凝集はいづれにも殆んどみられない。

     

  2. 胎児、新生児、成体ラットそれぞれから由来の細胞間に特に形態学的な差はあまりない。むしろその由来細胞の差よりもat randomにその形態学的差が出現する様に思われる。

     

  3. 癌細胞に特徴的な點は、細胞相互の結合が弱く、マイクロビリは単純であり粗面小胞体が少く単純で核小体が大型である。しかしこれらの特徴の多くは光学顕微鏡でも観察し得る特徴である。現時点で決定的に悪性を立証する超微形態は一つもない。



《梅田報告》

 今迄FM3A細胞が8AG耐性獲得の突然変異を生ずる実験系を用いて各種物質の突然変異性を報告してきた。一方で細胞DNAを蛋白、リピドを含まない状態で解析する方法についても報告してきた。今回は各種物質の突然変異性が、このDNA切断の惹起作用、さらに染色体標本での染色体異常惹起作用と相関するかどうか調べている中間報告を行う。

     
  1. 突然変異惹起作用に関しては月報7411、7503、7504等で報告してきた。新しいデータをまとめる(表を呈示)。

     

  2. DNA単鎖の解析法も報告してきた。この方法で各種物質投与時の超遠心パターンを示す(図を呈示)。

     

  3. 染色体標本は各種物質処理後、型の如く低張液処理、固定、脱水して作製した。Metaphase像を通常100ケを調べ、その異常について検索した。

     

  4. これらの結果をまとめた(表を呈示)。Mycophenolic acidで高い突然変異性があるのに染色体異常は他の例に較べ低いようである。その他は突然変異性と染色体異常惹起度は高い相関があるように見える。これに反してDNA単鎖切断誘起作用は高濃度で現れる傾向にあり、さらにNaNO2やMycophenolic acidのように調べた最高濃度でも切断のはっきりしていないものが存在した。



 

:質疑応答:

[堀川]一本鎖切断をみる場合、処理時間をmutation実験と合わせていますか。24時間処理では物によってはrejoiningするかも知れませんね。時間を変えてみる必要があります。

[乾 ]染色体変異をみる時は1〜2回目の分裂ははずした方がよいと思います。NaNO2のように発癌、mutation、染色体異常を起こすのに、DNAが切れないのはどう考えますか。

[梅田]DNA切断はinsensitiveなためだと思っています。

[堀川]遠心のパターンで動くのは相当なbreakeがないと見られませんね。染色体レベルの方がsensitiveなのかも知れません。

[難波]BPではunscheduled DNA合成は出ません。4NQOは出ます。

[遠藤]培養細胞ではunscheduled DNA合成はどうやってみますか。

[堀川]DNA合成をhydroxyureaなどで止めておいて、摂り込みをみます。



《野瀬報告》

 培養ラッテ肝細胞の生化学的機能
 前回の班会議で、Collagenase-潅流法によるラッテ肝細胞の分離について報告した。今回はDispaseで潅流して得た肝細胞の機能およびCollagenaseで得たprimary cultureを長期間培養した結果について述べる。

 血清アルブミン検出はradioimmunoassayにより行なった。rat serum albumin(RSA)fractionVから硫安分劃、酸沈澱、DEAE-cellulose、Sephadex G-200などの操作でほぼ均一のRSA蛋白質を得た。これにI125でラベルし、抗RSA血清存在下でtitrationを行ない、試料中のRSA量を測定した。(表を呈示)4種の培養(培地:DM-153+10%FCS)で細胞をPBSで3回洗い、FCSを含まないDM-153を加えて2日間培養し、培地を集め、約40倍に濃縮してから測定した。Collagenaseで得た細胞も、Dispaseによる細胞も、初代培養後3日目ではRSAの合成が見られた。しかしcollagenaseによる細胞は36日後には全くRSAを培地中に出していなかった。Dispase-shakingで得られた細胞は培養後18日たってfibroblastsのみになってもBSAを分泌していた。その量は初代培養とほぼ同レベルであった。まだ実験例が少なくて何とも言えないが形態的には全く上皮様でない細胞がアルブミンを合成しているのは興味ある結果である。

次にTyrosine amino transferaseの誘導性を見た(表を呈示)。上皮様の株細胞はいずれもデキサメサゾン8.5x10-7乗M、24時間処理でTATの誘導を起こさなかった。しかし、Collagenase、又はDispase-潅流によって得た初代肝細胞は有意な誘導を起こした。初代培養を更にin vitroに保ち12〜23日経過したものは誘導性を失なっていた。一方、Dispase潅流法で得た肝細胞をデキサメサゾン存在下で培養すると、46日経過(subculture3回)しても、初代培養に誘導をかけた程度のTAT活性を保持していた。この細胞の形態は上皮様でもなく、またセンイ芽細胞でもなく、細胞質内に特異な構造を持つ細胞であった。このような細胞がcollagenase潅流でもとれるかどうか現在検討中である。



 

:質疑応答:

[高岡]形態の違ってみえる2種類の細胞、両方とも肝実質細胞ですか。

[野瀬]わかりません。いくらselectionしても完全に純粋には出来ません。

[遠藤]調べた酵素活性はTATだけですか。

[野瀬]アルギナーゼもやってみたいのですが、アルギナーゼはHeLaでも誘導されるのて不適当かとも思います。

[高岡]TAT活性はin vivoのレベルと比較するとどうですか。

[野瀬]肝ホモジネイトより高い位です。

[乾 ]酵素活性は、適当な誘導をすれば何でも出てくる可能性がありませんか。

[遠藤]しかし分化して、夫々の活性をもつのが生体での常識じゃありませんか。

[乾 ]培養すると何が起こるか、やってみなければ判りませんよ。