【勝田班月報:7512:ラット消化管粘膜上皮の培養】

《勝田報告(報告者・許)》

 ☆ラット消化管粘膜上皮細胞の培養

 「ヒトの悪性腫瘍は癌が多い。従ってin vitroの発癌機構の研究も上皮細胞を材料とするのが望ましい」という観点から、重要な臓器でありながら培養という点では比較的遅れているものをみると、胃から大腸までの消化管粘膜上皮があると思われる。今回は、ラットの腺胃および小腸の粘膜上皮細胞の培養を試み、初代培養の方法としては、はなはだ不完全ながら、それぞれ長期継代可能な上皮様細胞が分離できたので、簡単に報告する。

     
  1. ラット(JAR-2)の小腸粘膜上皮細胞の培養

       
    1. 初代培養<P>  材料は純系JAR-2の生後約1カ月のラットを使用した。開腹し上部小腸を約15cmの長さに切り出して(図を呈示)毛細管ピペットの先に結びつける。その意義は洗浄に際して上端から洗浄液を流せばよいので簡便であること、抗生物質液の処理・酵素処理にあたっては、粘膜面が伸展していることが望ましいが、毛細管ピペットの上部まで液を満たすことにより、適当な静水圧がかかって、その目的を達し得ることなどである。

       PBSで数回洗浄の後、抗生物質液(KM200μg/ml、SM200μg/ml、PC80u/ml in DM-153)を満たしておく。20〜30分後その液を捨てDispase(1,000u/ml in medium)、またはトリプシン(モチダ製薬、200u/ml in PBS)を30〜60分間作用させた後、腸管の下端を切って細胞浮遊液を採取する。inoculum sizeは10~100万個cells/60mm dish。培地は10%CS+10%FCS+Eagle'sMEM、15%FCS+modified Eagle'sMEMまたは15%FCS+DM-153を使用した。

       結果;

         
      1. Deipase 60分処理で、cell yeildは約1,000万個、viability(ErythrosinBによる)は85〜95%であった。trypsinではviabilityは大差ないが、yeildはかなり少ない。  
      2. 植え込まれた細胞は浮遊状で壁着せず、翌日その細胞を集めErythrosinBで検定すると、ほとんど全ての細胞が染まる。  
      3. 壁着性を促進するため、conditioned medium(RLC-10、24hr)の使用、コラーゲン膜またはchick plasma薄層上に細胞をまく方法、小量の培地に細胞を浮遊させてdishの底にぬりつける方法などを試みたが良い結果は得られなかった。  
      4. 1973年12月19日に培養を開始した1例のみに上皮様細胞のcolonyを認め、現在まで継代してRIC-1と呼んでいる。追試には成功していないがこの細胞株の性質を次に述べる。

    2. RIC-1の細胞学的特性

       材料は生後34日のJAR-2のオスのラットである。培養法は上に述べたのと同様である。培養開始後10日で少数の上皮様コロニーを認め、1カ月後に最初の継代を行なった。3カ月後に次第に増殖が活発となり、以後は(図を呈示)1週間で約100倍、population doublingが26.7時間という早さで増殖し続けている。PAS染色は常に陰性であった。染色体は培養131日と671日に調べたが、モードは両方共40本でkaryo typeも類似していた。

       DM-153からglucoseを抜きsucroseを加え透析血清を15%に添加した培地中では、この細胞は2カ月以内に全て死滅した。テストテープ法ではsucrase活性は検出されず直接sucrase活性を測定しても同様の結果であった。Trehalase活性も検出できなかった。

       Alkaline phosphatase活性は1232u/mg proteinであったが、homoarginineに対する反応(図を呈示)、および抗ラッテ腎ALP血清に対する反応は小腸型でなく骨、腎型であった。

       以上調べられた限りでは、RIC-1は小腸に特異的な酵素活性は持たなかった。

       軟寒天培地中では1万個cells/dish〜10個cells/dishの範囲でまきこんでもコロニー形成はみられなかった。

       抗リンパ球血清を週2回注射されたハムスターのcheekpouchに1,000万個cells/pouchで細胞をうっても腫瘤は形成されなかった。

       生後10日のJAR-2ラットの腹腔内に、1,000万個の細胞を注射し、15カ月間観察したが、肉眼的には腫瘍はみられなかった。

       従ってRIC-1はspontaneous transformationはおこしていないと考えられる。

     
  2. ラット(JAR-2)の腺胃の培養

       
    1. 初代培養

       材料は純系JAR-2のnewborn(生後1〜7日)またはembryo(18〜20日胎生日)のラットを使用した。開腹して胃をとり出し、実体顕微鏡下で腺胃部分のみを切り取る。

       embryoの場合はそのまま、newbornの場合は抗生物質液(組成は小腸洗浄用と同じ)に20〜30分間ひたした後、メスで細切して、カバーグラス上に3〜4個の小さな組織片をはりつける。適当に乾燥したところで平型RTに入れ、37℃で静置または回転培養を行なう。

       培地は20%CS+LD或は15%FCS+DM-153を使用し2ml/tubeで週2回培地交新を行った。

       結果;

         
      1. 培養2〜3日で組織片から細胞がのび出してくる。組織片から細胞がのび出してくる率と、その形態との関連は(表を呈示)、embryoを材料とし15%FCS+DM-153を培地にして回転培養を行なった方が上皮細胞ののび出してくる割合が高かった。  
      2. 位相差写真像とのび出し方の特徴から上皮様細胞4種、線維芽細胞2種、血管内皮細胞1種、腹膜被覆細胞1種に分類した。上皮様細胞4種相互の移行性の有無、in vivoにおける粘膜上皮細胞の種類との関連性は不明である。  
      3. 上皮様細胞でPAS陽性のものはなかった。  
      4. 上皮様細胞のcell sheetは1〜2週間でmaximumに達し、以後周辺部より細胞内に大きなvacuoleを生じて変性してゆく。2カ月以内にほとんど全ての細胞は死滅する。  
      5. 1975年6月13日に培養を開始した9本の平型RTのうち2本から持続的に増殖する上皮様細胞が得られた。GS-2と呼んでいるその細胞の性質を以下に述べる。

       
    2. GS-2の細胞学的特性

       材料はembryo;培地は15%FCS+DM-153で培養法は上に述べたのと同様である。

       培養60日に最初の継代が可能となり以後やや増殖速度を早め乍ら現在に至っている。

       形態的には小型と大型の2種の細胞が混在している(写真を呈示)。両者が異なるものか、それとも単に機能状態の相違の反映なのかが、現在クローニングをして検討中である。PAS染色は両者とも陰性であった。

       染色体数は(図を呈示)モードが42本であるが、tetraploid、octaploidの領域にある細胞もある。42本の細胞のkaryotypeを調べてみると、正常ラットの2倍体でXXの性染色体を持っていた。

       培養開始後、約3カ月たった時点で映画を撮影した。分裂は全て正常の2分裂であったが、1例細胞融合が認められた。film analyzerによって33の分裂系図をつくり、それを分析して以下の結果を得た。まず世代時間の分布は図に示す。増殖の特性を調べる目的でdaughter-daughter、mother-daughterのそれぞれの組み合わせで、世代時間に相関性があるか否かを調べた(図を呈示)。結果はmother-daughterの組み合わせでは相関関係は全くないがdaughter-daughterではある程度の相関性があった。一方、死ぬ細胞に注目してその姉妹細胞が、どのような運命をたどるかを調べた(表を呈示)。分裂しないで生存し観察時間の終わる細胞の半数がそのまま死ぬと仮定すると、ある細胞が死んだ時その姉妹細胞が分裂を経ないでそのまま死ぬ確率は約75%という高率になる。このような傾向はCulaでは認められない。以上から姉妹細胞相互の運命が類似している点に、この細胞の特徴があると言えよう。



 

:質疑応答:

[遠藤]小腸由来の細胞について調べたアルカリフォスファターゼはI型ですか。

[許 ]そうです。

[吉田]小腸の上皮細胞は何回位に1回の確率で増殖系がとれるのですか。

[許 ]今までに1回しか成功していません。その他は何回やっても処理直後はちゃんと生きている細胞がとれるのに培養1日後には99%以上死んでしまいます。

[吉田]私も同じような経験を持っているのですが、こういう方法で集めた細胞は分化した細胞で分裂できないのではないでしょうか。

[久米川]器官培養をして観察していて、培地に入れただけで細胞がパンクしてしまった経験があります。

[山田]分化した細胞を先ず酵素処理をして剥がしておいて、さらにコラゲナーゼを使ってみたらどうでしょうね。

[永井]生化学的な実験では、酵素の処理時間を変えると上層から順々に剥がれてくるという報告がありますね。

[加藤]鶏胎児では膜を剥がす条件を色々調べてみました。EDTAを4℃で作用させると上皮だけがきれいに剥がれてくるのですが、孵化した途端に剥がれなくなるのですね。

[堀川]胃の培養の方に移りますが、組織片の近くにあるものの方が分裂が多く、周辺部へゆくとDNA合成も減ってくるのは、生体内での分化の状態を再現しているのでしょうか。

[許 ]まだ例数が少ないので何も言えません。

[勝田]株化したラッテ肝由来の上皮細胞でも細胞層中心部の分裂が多いです。

[乾 ]肺と腎の組織片培養でH3-TdRの取り込みをみた時、矢張り一番外側の単層になった所は取り込みが少なく、その一つ前の細胞には取り込みが多かったですね。

[翠川]クロン化されると細胞密度が少なくても分裂出来るが、株化する迄の細胞は密集している所の方が分裂しやすいという事ではないでしょうか。

[勝田]チミジンの取り込みではDNA合成をみる事は出来ますが、即分裂とは言えませんから、そのことも注意して下さい。

[吉田]Stem cellがあると思われますか。

[許 ]この例数では何とも言えません。しかし姉妹関係にある細胞同士には死亡の相関性があるようです。

[勝田]映画で長期間世代を追跡するのは、仲々難しい仕事です。フィルムの長さとか、培地の交新とか、継代とかの問題がありますからね。

[加藤]WI38でも娘細胞同士は大体世代時間が同じように延長するデータがあります。



《山田報告》

 Indian muntjac鹿肺線維芽細胞の検索;

 4NQO(3.3x10-6乗M、1回)処理後の細胞株より分離したクローン6株について、電気泳動的性格、細胞形態、染色体を対比して検討した。

 まず各細胞系の平均電気泳動度を検してみると、(図を呈示)いづれもoriginal Cell lineにくらべて速く、特にclone2、6は著しく速い。clone7、8、10はこれにくらべるとやや低い。そこで平均泳動度の速い細胞系(clone2)と低い細胞系(clone7)の各構成細胞の電気泳動度の分布をみると(図を呈示)、clone2ではより電気泳動度の速い細胞系の数が増加していることが判明した。しかしこの平均泳動度と6ケ月前にしらべた染色体数の変化を比較してみると、相互にあまり関係がない様であった(しかしこの染色体モード数は6ケ月以前の成績であるので改めて検査して比較してみたい)。この平均泳動度は、むしろその細胞形態と関係がありさうであった。即ちより平均電気泳動度の速い系は細胞の幅が広く偏平でありamoeboidの形を示す細胞が多く、低い平均電気泳動度を示す細胞は長い線紐状であった。

 Conに対する各細胞の反応性をみると(図を呈示)、やはりCl.1、2、6が最も著明な反応性を示した。この成績については、なお高濃度のConAに対する反応性をみてから改めて報告の予定。



 

:質疑応答:

[乾 ]肝細胞の悪性化による泳動度の変化は15〜20%でしたが、このデータでは由来の同じクロンの間でそれに近いバラツキがあるのですね。

[山田]これらは4NQO処理後に分離されたクロンで、どのクロンの悪性度が強いかはまだ調べられていません。クロン間の泳動度の違いが何と関係があるのか調べています。

[乾 ]染色体レベルの変化も今の所クロン間に本質的なものではなさそうですね。

[吉田]染色体数と泳動度には関係がありますか。

[山田] はっきりしません。私は染色体そのものの荷電を調べたいと考えています。

[勝田]細胞膜の変化と悪性化の関係を何とかはっきりさせたいものですね。

[藤井]インドホエジカのように染色体数の少ない動物は進化が進んでいるのですか。

[吉田]同種同系の動物で調べてみないと、染色体数の多いのが基本が少ないのが基本か確かなことは言えませんが、多い方が基本ではないかなど想像しています。

[藤井]染色体数の多い方が癌化しやすいという事はありませんか。

[乾 ]植物の方で染色体数の多い方が変種の出る率が高いというデータはありますね。それから植物の方では染色体数の少ない方に基本型があるという考えもあります。



《翠川報告》

 “容易に可移植性の変異をみる脂肪細胞の試験管内発癌腫瘍”

 −原稿の提出はありませんでした−



 

:質疑応答:

[難波]クロンをとって接種するまでに、どの位の期間がありましたか。

[翠川]3カ月です。

[高木]2種類のコロニーのコロニーサイズは同じ位ですか。

[翠川]同じ位の大きさになります。細胞の形態が異なるのです。

[難波]C粒子についてはどうですか。

[翠川]殆どありません。denseにまいて動物にtakeされる時でも非常に少ないです。

[勝田]クローニングしても2種類の細胞が出てくる場合には、やはり1コの細胞を確認する方法でクローニングをしなければ、結論が出ませんね。



《高木報告》

     
  1. 培養膵ラ氏島B細胞の分裂について

     前報の如く成熟ラッ膵ラ氏島細胞をブドウ糖100mg/dlで培養し、細胞が集塊を形成しはじめた後(ラ氏島細胞を分散して培養すると1週間を経て細胞は集塊を形成する)、培地を交換して実験群ではブドウ糖300mg/dlとし、2日後に1μCi/mlのH3-thymidineを加えて4日間continuous labelingしたのち、集塊のパラフィン切片を作製してautoradiographyを行った。ブドウ糖100mg/dlの培養では、AおよびB細胞より出る細胞集塊の0.17%の細胞にDNA合成が認められたが、ブドウ糖300mg/dl培養群では1.4%にみとめられた。いずれの実験群でもDNA合成を行っている細胞はきわめて少なかったがブドウ糖低濃度より高濃度にあって高率にDNA合成がみられた。この培養条件において4日間に培地中に放出されたInsulinはブドウ糖高濃度において低濃度の約2倍であった。

     

  2. ブドウ糖濃度の相違による培養ラ氏島細胞形態の変化について

     分散したラ氏島をMicroplateに植込み、直後ブドウ糖濃度を100mg/dlと300mg/dlとして培養すると、100mg/dlでは培養3日目に細胞は小集塊を形成し、以後やや増大したがそのままの形態を保持したのに対し、300mg/dlでは集塊形成後直ちにSheetを形成し以後そのままの形態を保持した。これら相違の原因につき検討中である(写真を呈示)。



《乾報告》

 この秋は、まったくひどい秋で、癌学会からもどって来てから検定が21検体、3ケ目で20以上の検定となると、毒性検定だけでも大変です。2台しかない炭酸ガスフランキを検定で占領されひどい目にあいました。加えて、勝田先生から分譲していただいたアルビノハムスターの繁殖に失敗し、Transplacental in vivo-in vitro carcinogenesisの解析的な仕事が前進しません。11月の末になって1頭が8匹、もう1頭が妊娠しましたし、医科研から十数匹わけていただけるので正月返上で仕事にかかります。

 先にもう一つ失敗の経験を書きますと、Transplacentalに化学物質を投与して出現したコロニーを、10ケほどクローニングして(2代目)、20日間程増殖したもののうち2系列の形態的に一番悪性度(?)の高かったものを1,000万個/Hamsterで移植しましたが、両者共0/3でした。榊原先生からALSを頂いて同細胞をもう一度戻し移植しようと計画中です。なお、Morphological Transformed Colonyのクローニング率は11/96でした。

 この間AF-2を投与した細胞のTransformation、Choromosome Aberration、8-aga耐性Mutationの関係の解析の再実験を行ない追試に成功しました。

 (表を呈示)Plating Efficiencyは、経胎盤投与の場合、対照でもAF-2(FF)投与でも、ほとんど変りません。Morphological TransfromationのRateは対照では、0.1〜0.2%、これに反してAF-2(FF)投与群では10〜20倍上りますが、Transformed Colonyの投与濃度依存性は見られません。これに反して、異常染色体の出現頻度は、明らかな投与濃度依存性が見られ、Hanks投与のそれに比して、AF-2 20mg/kg投与で2倍、100mg/kg投与で4.15倍の染色体異常が誘発されました。この事実から考えると、現在見ている形態学的な異常コロニーの全てが癌化しているのでなく、いわゆるMorphological Transformationは、細胞に与えられたある刺激によって反応した色々の変異細胞を一緒にして観察している様な気がします。もし1:1の反応で、AF-2投与で細胞が癌化と云う一定の方向に変化したものが、Morphological Transformationだとすると、染色体異常で見られた様に投与濃度依存性が見られると思いますが?

 同様の事実が(表を呈示)、8-アザグアニン耐性変異コロニーでも見られます。即ちAF-2を経胎盤的に投与して出現した8AG耐性コロニーは、ある一定の投与量(50mg〜100mg/kg)の範囲では明らかな濃度依存性のMutant Colonyno出現がみられ、その出現率も第1実験で100mg/kg投与群で57.2%、第2実験で66.8%と、ほぼ同一の値を示した。AF-2投与による8AG耐性変異コロニーの出現は、20、50、100mg/kgで濃度に依存して上昇し、すでに報告した様に200mg/kg投与群では出現頻度は増加しなかった。

 現在、体内活性化を必要とするProcarcinogenとしてDMNを選択し、Transplacental chemical in vivoで標的臓器の比較的明らかな3.4.ベンツピレンをもちいての実験が序々にであるが進行中です。



 

:質疑応答:

[堀川]AG耐性の場合一応濃度依存性がある様ですね。変異の意味をどう考えますか。

[乾 ]癌化とすると頻度が高すぎます。胎児をとってすぐに培養せずに、一度生体を通してから培養してみようと考えています。



《佐藤報告》

 ◇3'Me-DABによるJ-5-2cl細胞の癌化実験

 実験I)(図を呈示)コントロール(CD#5-C)は0.2%アルコールを含む培地(MEM+20%BS)で培養する。処理群(CD#5-D)は3.6μg/ml、3'Me-DABを処理しながら20日目毎に、以後処理を行なわないものと、更に処理を続けるものに分けて培養する。なお、この場合、継代は10日毎に行ない、植え込み細胞数は10万個/ml、30万個/TD15を厳守した。まず、メデューム中のαFPの検索については、10倍濃縮された培養液のRadioimmunoassayを試みた結果、70日の時点ではコントロールと処理群の間に殆ど差が見られなかった。DIIIの群ではわずかに上昇が見られるが有意なものか否か不明である。次に3'Me-DAB処理に伴なう累積的増殖曲線を描いた(図を呈示)。コントロールのほぼ一定の増殖に対して、3'Me-DAB処理群では若干増殖阻害を受けてはいるが、DABを含まない培地に戻すと、ほぼコントロールに近い増殖を示すことが解る(図を呈示)。

 20日目毎に染色体分析を進めた(分布図を呈示)。コントロールの細胞は、染色体数42→(41)→40のモードの移動を示しており、一方、処理群については染色体数42→41の移動ないしは染色体数41の細胞の選択がうかがわれる。これが3'Me-DABによる効果を示すものか否かは、もう少し検討しなければならない。なお、染色体の異常については処理群で、chromatid gapと思われるものが1〜2例見られた。ここに示した染色体分布は、各々50ケのmetaphaseの解析の結果である。

 実験II)3'Me-DABの濃度による効果を検討した(図を呈示)。2.8μg/mlないしは5.4μg/mlでは増殖阻害は少ないが、11.4μg/mlでは20日間処理で、細胞数の激減を示した。メデューム中のαFPを調べたが、3'Me-DABによる誘導が起っているとは考えがたい値である(図を呈示)。なお実験II)についても実験I)と同様継代は、植え込み10万個/ml、30万個/TD15で10日毎に行なっている。



 

:質疑応答:

[吉田]染色体数が40〜41本になるのはselectionがあったのでしょうか。

[勝田]4NQO処理でも、悪性化の初期には染色体が1本か2本減りましたね。

[吉田]染色体数としては減っても情報量としては変わらないのかどうか、興味があります。バンディングをしてみる必要があります。

[勝田]遺伝子量としては同じでも、ある遺伝子とある遺伝子がくっつくと異なる機能を発揮するという事はありませんか。



《梅田報告》

     
  1. 前々回の月報(7510)でマウス肺継代数代目の培養細胞を用いての発癌実験について述べた。そして腎に関しては綺麗なmonolayerの得られること、さらにC14-BPの代謝能が比較的高く保たれていることを示した。今回はこの腎の継代数代目の細胞細胞を用いての発癌実験について述べる。DDDマウス♂腎の皮質部を酵素処理して得られた細胞を用いて培養を開始した。培地はMEM+10%FCS。培養2代目で4NQO、DMBA処理を行い、2日間処理後control培地で6週間培養し続けてからmethanol固定、Giemsa染色をして観察に供した。2回行った実験で悪性形態細胞増殖巣の出現率は極端に悪い。DMBA処理で数ケ出現しているのみであった(表を呈示)。

     

  2. 月報7510にも記したように、前回調べたマウス腎培養細胞のC14-BP代謝能は比較的高かった(46.3%)。今回の実験の細胞で発癌実験と同時にC14-BP代謝能を測定してみた。(表を呈示)今回は代謝能が著しく悪いことがわかった。

     以上の結果からはマウス腎培養細胞を使っての発癌実験は必ずしもうまくいっていないが、さらにハムスター腎培養細胞を使っての実験も行っている。

     

  3. 以前の班会議(月報7506)でラット由来肝上皮細胞の2系列BB、BC細胞株について述べた。そのうちの1つBC株は4NQO処理で索状構造をとり、肝機能が発現している可能性が考えられた。BB細胞株はそのような構造はとらなかった。そこで4NQO処理後の培地について北大・医・塚田氏にα-fetoproteina、lbumin産生の有無を調べていただいた。BB、BC(次にのべるDL1細胞も含めてある)細胞株を6週間培養し続けている間の夫々の培地について調べた所(表を呈示)、BB細胞の一部でalbumin産生が認められた他は、BB、BC細胞では殆んど産生が認められなかった。索状構造と肝機能とは別のものであると結論された。

     

  4. DL1はDonryu生後4日目の♂ラットの肝をヒアルロニダーゼ・コラゲナーゼ処理して得られた細胞から樹立された上皮細胞株である(樹立経過を表で呈示)。

     この細胞も何となく特徴のない細胞株と思われたので今迄あまり調べていなかった。ところがBB、BC細胞で行なったと同じ4NQO処理実験を行なってα-fetoprotein、albumin産生能を調べていただいた所、BB、BC細胞でははっきりとしなかったのに、このDL1細胞の4NQO 10-6乗M処理細胞に限って高いalbumin産生が認められた。これをさらに詳しくみると、4NQO処理時の方が高いalbumin産生能のあることがわかった。培養を5〜6週間続けていてalbumin産生能が高くなるような現象は認められなかった。(表を呈示)

     

  5. DL1細胞に肝としての機能があるならば発癌実験に使えると考えてaflatoxinB1とmethylazoxy-methanol(MAM、cycasinのaglyconeで活性型)処理を行った。

     AflatoxinB1処理でBB、BC細胞では殆んど障害を受けない10μg/mlでDL1細胞は著しい障害を受けた。そこでタンザク標本を作製して形態的に観察した所、BB、BC細胞では3.2μg/ml aflatoxinB1で全く変化を受けないのに、DL1では3.2μg/mlで強く、1.0、0.32μg/mlでもcontrolより細胞増生がおちていた。形態的にはaflatosinB1障害に特異的な変化−核がやや大きく、核質はfine homogeneous、核小体は縮小化等−が.32μg/ml処理迄も認められた。この変化はHeLa細胞の3.2μg/ml aflatoxinB1でも軽く認められた。

     MAM処理ではBB、BC、DL1、HeLaどの細胞でも40μg/mlでも顕微鏡観察上何らの変化も受けなかった。



 

:質疑応答:

[遠藤]核小体のまわりにハローのように見える像がありましたが、何でしょうか。

[梅田]固定がカルノアなので少し収縮したのだろうと思います。

[遠藤]HeLaはpermeabilityが特異的なのではないかという印象がありますね。

[梅田]薬剤感受性が高い細胞です。

[難波]細胞のpermeabilityはどういう方法でみますか。

[遠藤]制癌剤を処理して細胞の死に方をみます。ある種の細胞は補助剤としてpermeabilityを高めるような物質を制癌剤と一緒に入れてやらないときかない場合もあるのですが、HeLaは補助剤なしの処理でよく死にます。

[野瀬]4NQO処理直後にアルブミン産生が高まるというデータですが、アフラトキシン処理でも同じ事が起こりますか。

[梅田]みていません。



《久米川報告》

     
  1. ラット肝細胞の電子顕微鏡像

    Clone BC-42代細胞とこれを10-6乗M及び10-6.5乗Mの4NQOで2日間処理後46日間培養したもの、DL1-4gen.を38日間培養した細胞を電子顕微鏡によって観察した。培養液はいづれもF12+10%calf serumである。対照群、実験群で特に差は認めない。また肝実質細胞の特性、bile canaliculus、microbody、glycogen granuleは認められない。

     共通した特徴として、tight junctionがあり、organellaeは中等度に存在し、pinocytosis及びlysosomeが細胞によっては多い。

     特異なものとして、細胞間にtight junctionで仕切られた空間、又は陥凹部があり、この部分に線維性の物質が認められる(写真を呈示)。ときにcross bandらしいものも認められるが、形態的にはcollagen fiberであるという確証はない。

     この細胞はtight junctionがあることから上皮細胞であるともいえるが、collagen様線維も存在する。細胞は?。細胞の起源は?。

     

  2. マウス胎児肝臓の培養

     チャンバーで培養したマウス胎児肝臓を形態的に調べているが、数個のexplantsに肝実質様形態をとらない上皮細胞群が観察された。(写真を呈示)9日間培養した肝臓の光顕像では、肝実質細胞群の他に小型で、原型質の占める割合が少く、しかし濃染する細胞群がみられる。これらの細胞はsinusoid(?)近くに存在している。電顕像(写真を呈示)では、これらの細胞にはtight junctionがあり、原型質内にはmitochondriaが割合に多い。内皮細胞に密着しており、ときには直接sinusoid(?)に顔をだしている場合もある。これらの細胞の起源は?。また肝由来株細胞の起源は?

     これらの培養肝臓の機能的なmarkerとしてalbuminおよびtyrosin aminotransferase(TAT)を測定しているが、胎生13〜16日mouseの肝臓では培養液中に血清を加えてもまた無血清でもTATの活性は高くならなかった。in vivoにおいてこの活性は生後急激に増加することから、新生児mouseの肝臓を培養したが培養できないためだろうと思うが、2日前後でTATのみならずalbuminのcontentも認められなかった。18.5日の胎児を培養した結果、TAT活性は急激に高くなり、成体に近い値が得られ、2週間維持できた8日目の値を示す(図を呈示)。胎生18日前後からpancreasの内分泌系が分化し、機能をもってくることから、これらのhormonesがTATの発現に関与していいるのではないかと考え、18日以前の肝臓に培養開始期の1日間だけinsulin glucagon etc.を作用させ、以後6日間DM-153だけで培養した。その結果は(表を呈示)、10-5乗M glucagonを作用させた場合のみ成体のTAT活性が得られた。



《加藤報告》

 軟骨細胞の寒天培養法による増殖パターンの解析(1)

 ニワトリ胚由来の軟骨細胞は浮遊培養が可能であり、しかも軟骨細胞の分化形質を長期にわたって保持させるための有効な方法であることは、既に當研究班会議で報告したが、今回は軟骨細胞の増殖パターンを解析するための方法として、寒天プレートを用いた培養法が有効であることを見出したので報告をしたい。

 高等動物の細胞では培養された株細胞を除いて、寒天培地内で増殖し得る正常細胞は幾つかの特別な例が報告されているにすぎない。軟骨細胞はその例外の1つであり、Horcoitz(1969)が軟寒天培地内でコロニーを作ることを報告している。我々はさらに進んで寒天培地表面で培養し、細胞の増殖パターンの解析の系をつくることを試みた。

 その結果、軟骨細胞は0.5%Bacto-agar培地上で最もviability efficiency(plating efficiency)が高く、90%以上、増殖率もNoble-agar、agaroseに比べ最も良い結果を示した。また軟骨細胞特有の豊富な細胞間物質(トルイジン・ブルーによるメタクロマジー)を細胞の周囲に蓄積することを認めた。

 細胞は寒天の表面で2次元的に増殖し、細胞同志が重り合うことが無く、隣の細胞とは豊富な細胞間物質で仕切られているため個々の細胞の同定が容易にできる。この状態で細胞を培養し続けると、1つのコロニー内に形態的に(細胞の大きさに関し)異なる細胞の出現が認められる。これらの大きさの異なる細胞が増殖に関して同じ性格をもっているか否かを調べてみると、大きな細胞は分裂能力のないもの、又は低下したものであることが推察された。その他興味ある2、3の現象についても合せて報告したい。

 ☆0.5%寒天プレート上での軟骨細胞(培養5日目)。細胞周辺の盛りあがったマトリックスが顕著である。☆同拡大図。☆培養した12日目のコロニーの1例(トルイジン・ブルー染色)明瞭なマトリックスに注意。☆培養20日目の成長したコロニー内での細胞の大きさの違いに注目。(夫々写真を呈示)



 

:質疑応答:

[難波]細胞1個からの立ち上がりを映画に撮りたいと思って何度も試みているのですが、仲々難しいです。そして初期にはdoubling timeが長くなるようです。映画法でsingle cellを使って世代時間を調べるのは問題がありますね。

[堀川]映画の撮影での光があたる事は細胞に影響がありませんか。

[勝田]あるでしょうね。

[加藤]今まではpopulationとしての分析をやって来ましたので、これから何とか個々の細胞の動態を調べたいのです。

[吉田]2倍体は保たれていますか。

[加藤]染色体はまだみていません。



《難波報告》

 23:ラット肝細胞(RLC-18)のクローニング  医科研で培養されたJAR-2系ラット胎児肝由来のRLC-18は、細胞がConfluentになった状態で、そのまま培養を続けていると、in vivoの肝小葉に似たパターンを示してくる。そして、この小葉状の構造の回りに線維状の構造が認められ、これは銀染色で銀染する。

 そこで、RLC-18がこのような特有のパターンを示すのは、(1)RLC-18がmixed cell populationのためか、(2)ある1種類の細胞がこのようなパターンをつくる可能性があるのかの問題を検討するために、RLC-18から確実にsingle cellのクローニングを行い、現在までに次の結論を得た。(夫々写真を呈示)

 1)RLC-18肝培養細胞の中には、1コの細胞から肝小葉状のパターンを示すものがあり、この細胞はやや小型である(写真を呈示)。2)肝小葉状のパターンを示さぬ大型の細胞があり、細胞が密集して来ても肝小葉のパターンを示さず、大型の細胞上に小型の細胞がpiling upするようになる(写真を呈示)。3)したがって、RLC-18には少なくとも2種類の細胞が混在していることを示している。



 

:質疑応答:

[翠川]Collagenを作っているのは肝細胞だと考えているのですね。

[難波]そういう事があってもいいのではないでしょうか。何にしても、これからsingle cell由来の系を使って調べてみたいと思います。



《堀川報告》

 ヒト由来HeLaS3細胞の細胞周期を通じての放射線および化学発癌剤4NQOとその誘導体に対する周期的感受性差の変更要因の解析として、従来UVおよび4NQO、4HAQO処理による細胞内DNAへのTTの誘発、DNAとの結合、ひいてはその除去能の周期的差違の検討を加えてきた。今回はこれに関連して、HeLaS3細胞の細胞周期を通じての各種要因処理による突然変異誘発(8-azaguanine抵抗性を指標にした)のデータが一応出そろったので報告する。

 まず、同一線量(濃度)−生存曲線を描くような線量(濃度)範囲のX線、UV、4HAQOで非同調HeLaS3細胞を処理し、fixation and expression timeとして72時間(以後すべて同様)正常培地で培養後の細胞を10万個づつ15μg/ml 8-azaguanineを含むシャーレ中で培養した際に出現するコロニー数で算定した突然変異率曲線(図を呈示)では、400RのX線、100ergs/平方mmのUV、1x10-5乗M 4HAQO(20分間処理)でそれぞれ処理した際にほぼ同一の誘発突然変異率を示す。それ故、以下の実験は、同調培養されたHeLaS3細胞集団を使って細胞周期の各期の細胞をそれぞれ400RX線、100ergs/平方mmのUV、および1x10-5乗M 4HAQO(20分間)で処理した際に出現するazgRを指標にした誘発突然変異率を調べた。これらの結果(図を呈示)から、X線の場合は生存率でみた高感受性期のG1-S boundaryで突然変異は最も高率に誘発された(ただし高感受性期のM期での顕著な突然変異誘発は認められない)。UVの場合も高感受性期のmiddle S期において高率に誘発される。また、4HAQOの場合は、やはり、生存率でみて高感受性期のG1からmiddle S期にかけて突然変異は特異的に誘発されることがわかる。こうした結果は突然変異誘発には細胞周期上のある特異な時期を考えるよりも、むしろ細胞の生存率でみた障害の大きさと関連性のあることを示すものであろう。つまり障害の大きいところで突然変異の誘発も大きいということになる。

 一方、以前にも示したが、50mM cysteamineで15分間細胞を前処理した場合、X線照射されたHeLaS3細胞のコロニー形成能で見た生存率を上昇させ、逆に誘発突然変異率を低下させることが知られているので、このcysteamineで細胞周期を通じての各期の細胞を処理し、その後400RのX線を照射した際の細胞の生存率および突然変異誘発率を調べた(図を呈示)。Cysteamine処理によって細胞の生存率は全周期を通じて顕著に上昇すると同時に、一方ではcysteamine処理によって突然変異誘発がこれも著しく低下することがわかる。ただ、M期の細胞の生存率が他の時期の細胞ほどcysteamine処理によって上昇しないのはcysteamineの細胞毒性によるものであって、M期の細胞が他の時期の細胞よりもCysteamineの毒性効果を顕著にうけるためである。ともあれこうした結果は放射線による細胞死と突然変異誘発、ひいては細胞癌化との関連性を解析するのに興味ある資料となるであろう。



 

:質疑応答:

[遠藤]L株の薬剤耐性について何かみていますか。

[堀川]まだありません。

[難波]Lでは何かのrepair機構がM期に減るのでしょうか。

[堀川]それは、Mutationのinductionとして検出できないとはっきりしません。

[吉田]このLを使って判ったデータはmouseの特徴でしょうかね。或いはL株の特徴でしょうか。つまりmouseは全てのの系統でexcision repairが無いのでしょうか。

[堀川]Repairの能力は胎児ではありますが、生まれると無くなります。

[吉田]Ratはどうですか。

[堀川]Rodentは一般に低いですね。

[吉田]変異率は種によって余り差が無いのにrepairの能力に差があるのは何故でしょうか。Killingが大きいとmutationも多くなるのはmutationの原因はrepair時のmisrepairと考えられますが。

[遠藤]Recombination能がないとmutationは起こらないというデータがあります。Excisionはmutationを起こす為にはnegativeに働くのではないでしょうか。

[掘川]Excision repairはヒトで高く、mouseはrecombination repairが高いです。

[勝田]培養内ではmouseの自然悪性化率は一番高いですね。

[翠川]Mouseの悪性化はウィルスも関係しています。

[吉田]Ratはmouseと同じようなrepair能を持っていながら変異率は低いですね。

[遠藤]バクテリアですらerrorとmutationの関係が判っていません。ましてmamalianでは難しい事ですね。

[難波]Recombination repairとexcision repairとは細胞周期に関係がありますか。

[堀川]そういう事はまだこれからの問題です。



《藤井報告》

     
  1. ヌードマウスに異種移植した人胃癌に対する、自家末梢血リンパ球-in vitroで自家癌細胞で刺激した-の中和試験:

     医科研実験動物研究施設の鈴木助教授らは、数系の人胃癌でヌードマウス移植癌をつくっている。その一つで癌細胞の提供者である患者(T.M.)の、末梢リンパ様細胞と、継代移植中の自家(であった)癌細胞(8,000R照射)と混合培養し、5日後、得たリンパ球を2mm角の該人胃癌を皮下移植したヌードマウスに注射した。注射したリンパ球数は500万個と1,000万個である。(表を呈示)in vitro刺激リンパ球500万個と1,000万個をそれぞれ2匹宛に注射した4匹で、腫瘍増殖が抑制されたことが判った。他人のリンパ球の抑制作用は弱かった。

     この実験はヌードマウス移植人癌が免疫治療などの、より臨床に近いモデルになることを示している。preliminary reportです。

     

  2. 可溶化癌抽出物(抗原)のin vitroリンパ球幼若化能:

     C57BL/6マウスをsyngeneic tumorであるMelanomaで免疫操作し、その脾細胞について、3M KCl法によるmelanoma抽出物のリンパ球刺激能をみると、対照の非免疫群では0/2、免疫群1/2で陽性であった。感作リンパ球なら、腫瘍抗原(可溶化)によって刺激され、幼若化するようであるので今後たしかめたい。



《野瀬報告》

 培養肝上皮様細胞のDNA、RNA合成(2)

 上皮様細胞のgrowth regulationがどのようなものか、fibroblastsのdataとの比較の上でも興味がある。各種の培養株を用いStationaryになった細胞の培地を交換した後のDNA、RNA合成について検討した。growth curveを見て、培地交換を行っても細胞数が変化しなくなった細胞に、最終培地交換後4〜5日たってから、新鮮培地で交換し、以後経時的にH3-thymidine、H5-uridineの1時間ずつのpulse labelを行なった。RLC-10(2)、JTC-16、RLC-19・2、RLC-23・1の細胞について見ると、H3-ThdのとりこみはRLC-10(2)では交換直後に上昇し、以後低下し、12時間後に再びピークとなった。JTC-16では、交換直後にH3-Urdとりこみの促進は見られるが、H3-Thdとりこみは、20時間後にピークとなった。RLC-19・2では、H3-Urdのとりこみはあまり変化せず、RLC-23・1ではH3Thdのとりこみが交換直後に上昇し、はっきりしたピークとならない。以上のように株によりとりこみのtime courseはさまざまで共通のパターンにならなかった(図を呈示)。

 3T3細胞のようなセンイ芽細胞では培地交換後のDNA合成のピークは約28時間後になるので、肝細胞ではSaturation densityの時にG0期以外の点で止っているのかも知れない。また培地交換直後にH3-Thdのとりこみが若干上昇するのは本当にDNA合成なのかどうか疑問である。もしこれがDNA合成ならば、どんなDNAなのか、また細胞周期のS期の細胞があるのかどうか更に検討しなければならない。

 次に培地交換後のH3-Urdとりこみが著しく促進されるRLC-10(2)細胞で促進の条件をいろいろ検討した。Stationaryの細胞に、各種濃度のFCSを含む培地で培地交換を行ない、その直後にisotopeの1時間の取りこみをみた(表を呈示)。H3-Thd、-Urdのどちらも、血清濃度が高い方がとりこみも高い。また、adid-soluble分劃への取りこみも促進されていた。一方log phaseの細胞ではFCSを含まない培地で交換してもH3-Urdのとりこみが増大した。growingとrestingとの細胞は生理状態が大きく異なると考えられる。

 acid soluble分劃へのとりこみも増大するので培地交換によりUrdのpermeationが変化することが考えられる。H3-Urdのacid soluble分劃をchromatographyで分析した結果、細胞間のUrdは大部分UDP、UTPとなっていた。とりこまれたUrdは速やかにリン酸化されているようである。



 

:質疑応答:

[勝田]新鮮培地に100%取りかえてしまうと、物質的な追跡が難しいですね。

[野瀬]そうですね。培地はかえないで、何か物質を一つづつ添加してみます。

[堀川]線維芽細胞などでは0分にパッとUrdの取り込みが上ることはありませんね。

[野瀬]3T3などではlagがありますが、これら肝由来の上皮細胞は0時間でパッと取り込みが上がります。

[遠藤]アクチノマイシンDはリボゾーマルRNAだけを抑える濃度があるので、0時間に入れてみればRNAの種類がわかるでしょう。

[野瀬]今の所RNAよりtransportの方に力を入れてみようと考えています。