【勝田班月報:7512:ラット消化管粘膜上皮の培養】《勝田報告(報告者・許)》☆ラット消化管粘膜上皮細胞の培養「ヒトの悪性腫瘍は癌が多い。従ってin vitroの発癌機構の研究も上皮細胞を材料とするのが望ましい」という観点から、重要な臓器でありながら培養という点では比較的遅れているものをみると、胃から大腸までの消化管粘膜上皮があると思われる。今回は、ラットの腺胃および小腸の粘膜上皮細胞の培養を試み、初代培養の方法としては、はなはだ不完全ながら、それぞれ長期継代可能な上皮様細胞が分離できたので、簡単に報告する。
:質疑応答:[遠藤]小腸由来の細胞について調べたアルカリフォスファターゼはI型ですか。[許 ]そうです。 [吉田]小腸の上皮細胞は何回位に1回の確率で増殖系がとれるのですか。 [許 ]今までに1回しか成功していません。その他は何回やっても処理直後はちゃんと生きている細胞がとれるのに培養1日後には99%以上死んでしまいます。 [吉田]私も同じような経験を持っているのですが、こういう方法で集めた細胞は分化した細胞で分裂できないのではないでしょうか。 [久米川]器官培養をして観察していて、培地に入れただけで細胞がパンクしてしまった経験があります。 [山田]分化した細胞を先ず酵素処理をして剥がしておいて、さらにコラゲナーゼを使ってみたらどうでしょうね。 [永井]生化学的な実験では、酵素の処理時間を変えると上層から順々に剥がれてくるという報告がありますね。 [加藤]鶏胎児では膜を剥がす条件を色々調べてみました。EDTAを4℃で作用させると上皮だけがきれいに剥がれてくるのですが、孵化した途端に剥がれなくなるのですね。 [堀川]胃の培養の方に移りますが、組織片の近くにあるものの方が分裂が多く、周辺部へゆくとDNA合成も減ってくるのは、生体内での分化の状態を再現しているのでしょうか。 [許 ]まだ例数が少ないので何も言えません。 [勝田]株化したラッテ肝由来の上皮細胞でも細胞層中心部の分裂が多いです。 [乾 ]肺と腎の組織片培養でH3-TdRの取り込みをみた時、矢張り一番外側の単層になった所は取り込みが少なく、その一つ前の細胞には取り込みが多かったですね。 [翠川]クロン化されると細胞密度が少なくても分裂出来るが、株化する迄の細胞は密集している所の方が分裂しやすいという事ではないでしょうか。 [勝田]チミジンの取り込みではDNA合成をみる事は出来ますが、即分裂とは言えませんから、そのことも注意して下さい。 [吉田]Stem cellがあると思われますか。 [許 ]この例数では何とも言えません。しかし姉妹関係にある細胞同士には死亡の相関性があるようです。 [勝田]映画で長期間世代を追跡するのは、仲々難しい仕事です。フィルムの長さとか、培地の交新とか、継代とかの問題がありますからね。 [加藤]WI38でも娘細胞同士は大体世代時間が同じように延長するデータがあります。
《山田報告》Indian muntjac鹿肺線維芽細胞の検索;4NQO(3.3x10-6乗M、1回)処理後の細胞株より分離したクローン6株について、電気泳動的性格、細胞形態、染色体を対比して検討した。 まず各細胞系の平均電気泳動度を検してみると、(図を呈示)いづれもoriginal Cell lineにくらべて速く、特にclone2、6は著しく速い。clone7、8、10はこれにくらべるとやや低い。そこで平均泳動度の速い細胞系(clone2)と低い細胞系(clone7)の各構成細胞の電気泳動度の分布をみると(図を呈示)、clone2ではより電気泳動度の速い細胞系の数が増加していることが判明した。しかしこの平均泳動度と6ケ月前にしらべた染色体数の変化を比較してみると、相互にあまり関係がない様であった(しかしこの染色体モード数は6ケ月以前の成績であるので改めて検査して比較してみたい)。この平均泳動度は、むしろその細胞形態と関係がありさうであった。即ちより平均電気泳動度の速い系は細胞の幅が広く偏平でありamoeboidの形を示す細胞が多く、低い平均電気泳動度を示す細胞は長い線紐状であった。 Conに対する各細胞の反応性をみると(図を呈示)、やはりCl.1、2、6が最も著明な反応性を示した。この成績については、なお高濃度のConAに対する反応性をみてから改めて報告の予定。
:質疑応答:[乾 ]肝細胞の悪性化による泳動度の変化は15〜20%でしたが、このデータでは由来の同じクロンの間でそれに近いバラツキがあるのですね。[山田]これらは4NQO処理後に分離されたクロンで、どのクロンの悪性度が強いかはまだ調べられていません。クロン間の泳動度の違いが何と関係があるのか調べています。 [乾 ]染色体レベルの変化も今の所クロン間に本質的なものではなさそうですね。 [吉田]染色体数と泳動度には関係がありますか。 [山田] はっきりしません。私は染色体そのものの荷電を調べたいと考えています。 [勝田]細胞膜の変化と悪性化の関係を何とかはっきりさせたいものですね。 [藤井]インドホエジカのように染色体数の少ない動物は進化が進んでいるのですか。 [吉田]同種同系の動物で調べてみないと、染色体数の多いのが基本が少ないのが基本か確かなことは言えませんが、多い方が基本ではないかなど想像しています。 [藤井]染色体数の多い方が癌化しやすいという事はありませんか。 [乾 ]植物の方で染色体数の多い方が変種の出る率が高いというデータはありますね。それから植物の方では染色体数の少ない方に基本型があるという考えもあります。
《翠川報告》“容易に可移植性の変異をみる脂肪細胞の試験管内発癌腫瘍”−原稿の提出はありませんでした−
:質疑応答:[難波]クロンをとって接種するまでに、どの位の期間がありましたか。[翠川]3カ月です。 [高木]2種類のコロニーのコロニーサイズは同じ位ですか。 [翠川]同じ位の大きさになります。細胞の形態が異なるのです。 [難波]C粒子についてはどうですか。 [翠川]殆どありません。denseにまいて動物にtakeされる時でも非常に少ないです。 [勝田]クローニングしても2種類の細胞が出てくる場合には、やはり1コの細胞を確認する方法でクローニングをしなければ、結論が出ませんね。
《高木報告》
《乾報告》この秋は、まったくひどい秋で、癌学会からもどって来てから検定が21検体、3ケ目で20以上の検定となると、毒性検定だけでも大変です。2台しかない炭酸ガスフランキを検定で占領されひどい目にあいました。加えて、勝田先生から分譲していただいたアルビノハムスターの繁殖に失敗し、Transplacental in vivo-in vitro carcinogenesisの解析的な仕事が前進しません。11月の末になって1頭が8匹、もう1頭が妊娠しましたし、医科研から十数匹わけていただけるので正月返上で仕事にかかります。先にもう一つ失敗の経験を書きますと、Transplacentalに化学物質を投与して出現したコロニーを、10ケほどクローニングして(2代目)、20日間程増殖したもののうち2系列の形態的に一番悪性度(?)の高かったものを1,000万個/Hamsterで移植しましたが、両者共0/3でした。榊原先生からALSを頂いて同細胞をもう一度戻し移植しようと計画中です。なお、Morphological Transformed Colonyのクローニング率は11/96でした。 この間AF-2を投与した細胞のTransformation、Choromosome Aberration、8-aga耐性Mutationの関係の解析の再実験を行ない追試に成功しました。 (表を呈示)Plating Efficiencyは、経胎盤投与の場合、対照でもAF-2(FF)投与でも、ほとんど変りません。Morphological TransfromationのRateは対照では、0.1〜0.2%、これに反してAF-2(FF)投与群では10〜20倍上りますが、Transformed Colonyの投与濃度依存性は見られません。これに反して、異常染色体の出現頻度は、明らかな投与濃度依存性が見られ、Hanks投与のそれに比して、AF-2 20mg/kg投与で2倍、100mg/kg投与で4.15倍の染色体異常が誘発されました。この事実から考えると、現在見ている形態学的な異常コロニーの全てが癌化しているのでなく、いわゆるMorphological Transformationは、細胞に与えられたある刺激によって反応した色々の変異細胞を一緒にして観察している様な気がします。もし1:1の反応で、AF-2投与で細胞が癌化と云う一定の方向に変化したものが、Morphological Transformationだとすると、染色体異常で見られた様に投与濃度依存性が見られると思いますが? 同様の事実が(表を呈示)、8-アザグアニン耐性変異コロニーでも見られます。即ちAF-2を経胎盤的に投与して出現した8AG耐性コロニーは、ある一定の投与量(50mg〜100mg/kg)の範囲では明らかな濃度依存性のMutant Colonyno出現がみられ、その出現率も第1実験で100mg/kg投与群で57.2%、第2実験で66.8%と、ほぼ同一の値を示した。AF-2投与による8AG耐性変異コロニーの出現は、20、50、100mg/kgで濃度に依存して上昇し、すでに報告した様に200mg/kg投与群では出現頻度は増加しなかった。 現在、体内活性化を必要とするProcarcinogenとしてDMNを選択し、Transplacental chemical in vivoで標的臓器の比較的明らかな3.4.ベンツピレンをもちいての実験が序々にであるが進行中です。
:質疑応答:[堀川]AG耐性の場合一応濃度依存性がある様ですね。変異の意味をどう考えますか。[乾 ]癌化とすると頻度が高すぎます。胎児をとってすぐに培養せずに、一度生体を通してから培養してみようと考えています。
《佐藤報告》◇3'Me-DABによるJ-5-2cl細胞の癌化実験実験I)(図を呈示)コントロール(CD#5-C)は0.2%アルコールを含む培地(MEM+20%BS)で培養する。処理群(CD#5-D)は3.6μg/ml、3'Me-DABを処理しながら20日目毎に、以後処理を行なわないものと、更に処理を続けるものに分けて培養する。なお、この場合、継代は10日毎に行ない、植え込み細胞数は10万個/ml、30万個/TD15を厳守した。まず、メデューム中のαFPの検索については、10倍濃縮された培養液のRadioimmunoassayを試みた結果、70日の時点ではコントロールと処理群の間に殆ど差が見られなかった。DIIIの群ではわずかに上昇が見られるが有意なものか否か不明である。次に3'Me-DAB処理に伴なう累積的増殖曲線を描いた(図を呈示)。コントロールのほぼ一定の増殖に対して、3'Me-DAB処理群では若干増殖阻害を受けてはいるが、DABを含まない培地に戻すと、ほぼコントロールに近い増殖を示すことが解る(図を呈示)。 20日目毎に染色体分析を進めた(分布図を呈示)。コントロールの細胞は、染色体数42→(41)→40のモードの移動を示しており、一方、処理群については染色体数42→41の移動ないしは染色体数41の細胞の選択がうかがわれる。これが3'Me-DABによる効果を示すものか否かは、もう少し検討しなければならない。なお、染色体の異常については処理群で、chromatid gapと思われるものが1〜2例見られた。ここに示した染色体分布は、各々50ケのmetaphaseの解析の結果である。 実験II)3'Me-DABの濃度による効果を検討した(図を呈示)。2.8μg/mlないしは5.4μg/mlでは増殖阻害は少ないが、11.4μg/mlでは20日間処理で、細胞数の激減を示した。メデューム中のαFPを調べたが、3'Me-DABによる誘導が起っているとは考えがたい値である(図を呈示)。なお実験II)についても実験I)と同様継代は、植え込み10万個/ml、30万個/TD15で10日毎に行なっている。
:質疑応答:[吉田]染色体数が40〜41本になるのはselectionがあったのでしょうか。[勝田]4NQO処理でも、悪性化の初期には染色体が1本か2本減りましたね。 [吉田]染色体数としては減っても情報量としては変わらないのかどうか、興味があります。バンディングをしてみる必要があります。 [勝田]遺伝子量としては同じでも、ある遺伝子とある遺伝子がくっつくと異なる機能を発揮するという事はありませんか。
《梅田報告》
:質疑応答:[遠藤]核小体のまわりにハローのように見える像がありましたが、何でしょうか。[梅田]固定がカルノアなので少し収縮したのだろうと思います。 [遠藤]HeLaはpermeabilityが特異的なのではないかという印象がありますね。 [梅田]薬剤感受性が高い細胞です。 [難波]細胞のpermeabilityはどういう方法でみますか。 [遠藤]制癌剤を処理して細胞の死に方をみます。ある種の細胞は補助剤としてpermeabilityを高めるような物質を制癌剤と一緒に入れてやらないときかない場合もあるのですが、HeLaは補助剤なしの処理でよく死にます。 [野瀬]4NQO処理直後にアルブミン産生が高まるというデータですが、アフラトキシン処理でも同じ事が起こりますか。 [梅田]みていません。
《久米川報告》
《加藤報告》軟骨細胞の寒天培養法による増殖パターンの解析(1)ニワトリ胚由来の軟骨細胞は浮遊培養が可能であり、しかも軟骨細胞の分化形質を長期にわたって保持させるための有効な方法であることは、既に當研究班会議で報告したが、今回は軟骨細胞の増殖パターンを解析するための方法として、寒天プレートを用いた培養法が有効であることを見出したので報告をしたい。 高等動物の細胞では培養された株細胞を除いて、寒天培地内で増殖し得る正常細胞は幾つかの特別な例が報告されているにすぎない。軟骨細胞はその例外の1つであり、Horcoitz(1969)が軟寒天培地内でコロニーを作ることを報告している。我々はさらに進んで寒天培地表面で培養し、細胞の増殖パターンの解析の系をつくることを試みた。 その結果、軟骨細胞は0.5%Bacto-agar培地上で最もviability efficiency(plating efficiency)が高く、90%以上、増殖率もNoble-agar、agaroseに比べ最も良い結果を示した。また軟骨細胞特有の豊富な細胞間物質(トルイジン・ブルーによるメタクロマジー)を細胞の周囲に蓄積することを認めた。 細胞は寒天の表面で2次元的に増殖し、細胞同志が重り合うことが無く、隣の細胞とは豊富な細胞間物質で仕切られているため個々の細胞の同定が容易にできる。この状態で細胞を培養し続けると、1つのコロニー内に形態的に(細胞の大きさに関し)異なる細胞の出現が認められる。これらの大きさの異なる細胞が増殖に関して同じ性格をもっているか否かを調べてみると、大きな細胞は分裂能力のないもの、又は低下したものであることが推察された。その他興味ある2、3の現象についても合せて報告したい。 ☆0.5%寒天プレート上での軟骨細胞(培養5日目)。細胞周辺の盛りあがったマトリックスが顕著である。☆同拡大図。☆培養した12日目のコロニーの1例(トルイジン・ブルー染色)明瞭なマトリックスに注意。☆培養20日目の成長したコロニー内での細胞の大きさの違いに注目。(夫々写真を呈示)
:質疑応答:[難波]細胞1個からの立ち上がりを映画に撮りたいと思って何度も試みているのですが、仲々難しいです。そして初期にはdoubling timeが長くなるようです。映画法でsingle cellを使って世代時間を調べるのは問題がありますね。[堀川]映画の撮影での光があたる事は細胞に影響がありませんか。 [勝田]あるでしょうね。 [加藤]今まではpopulationとしての分析をやって来ましたので、これから何とか個々の細胞の動態を調べたいのです。 [吉田]2倍体は保たれていますか。 [加藤]染色体はまだみていません。
《難波報告》23:ラット肝細胞(RLC-18)のクローニング 医科研で培養されたJAR-2系ラット胎児肝由来のRLC-18は、細胞がConfluentになった状態で、そのまま培養を続けていると、in vivoの肝小葉に似たパターンを示してくる。そして、この小葉状の構造の回りに線維状の構造が認められ、これは銀染色で銀染する。そこで、RLC-18がこのような特有のパターンを示すのは、(1)RLC-18がmixed cell populationのためか、(2)ある1種類の細胞がこのようなパターンをつくる可能性があるのかの問題を検討するために、RLC-18から確実にsingle cellのクローニングを行い、現在までに次の結論を得た。(夫々写真を呈示) 1)RLC-18肝培養細胞の中には、1コの細胞から肝小葉状のパターンを示すものがあり、この細胞はやや小型である(写真を呈示)。2)肝小葉状のパターンを示さぬ大型の細胞があり、細胞が密集して来ても肝小葉のパターンを示さず、大型の細胞上に小型の細胞がpiling upするようになる(写真を呈示)。3)したがって、RLC-18には少なくとも2種類の細胞が混在していることを示している。
:質疑応答:[翠川]Collagenを作っているのは肝細胞だと考えているのですね。[難波]そういう事があってもいいのではないでしょうか。何にしても、これからsingle cell由来の系を使って調べてみたいと思います。
《堀川報告》ヒト由来HeLaS3細胞の細胞周期を通じての放射線および化学発癌剤4NQOとその誘導体に対する周期的感受性差の変更要因の解析として、従来UVおよび4NQO、4HAQO処理による細胞内DNAへのTTの誘発、DNAとの結合、ひいてはその除去能の周期的差違の検討を加えてきた。今回はこれに関連して、HeLaS3細胞の細胞周期を通じての各種要因処理による突然変異誘発(8-azaguanine抵抗性を指標にした)のデータが一応出そろったので報告する。まず、同一線量(濃度)−生存曲線を描くような線量(濃度)範囲のX線、UV、4HAQOで非同調HeLaS3細胞を処理し、fixation and expression timeとして72時間(以後すべて同様)正常培地で培養後の細胞を10万個づつ15μg/ml 8-azaguanineを含むシャーレ中で培養した際に出現するコロニー数で算定した突然変異率曲線(図を呈示)では、400RのX線、100ergs/平方mmのUV、1x10-5乗M 4HAQO(20分間処理)でそれぞれ処理した際にほぼ同一の誘発突然変異率を示す。それ故、以下の実験は、同調培養されたHeLaS3細胞集団を使って細胞周期の各期の細胞をそれぞれ400RX線、100ergs/平方mmのUV、および1x10-5乗M 4HAQO(20分間)で処理した際に出現するazgRを指標にした誘発突然変異率を調べた。これらの結果(図を呈示)から、X線の場合は生存率でみた高感受性期のG1-S boundaryで突然変異は最も高率に誘発された(ただし高感受性期のM期での顕著な突然変異誘発は認められない)。UVの場合も高感受性期のmiddle S期において高率に誘発される。また、4HAQOの場合は、やはり、生存率でみて高感受性期のG1からmiddle S期にかけて突然変異は特異的に誘発されることがわかる。こうした結果は突然変異誘発には細胞周期上のある特異な時期を考えるよりも、むしろ細胞の生存率でみた障害の大きさと関連性のあることを示すものであろう。つまり障害の大きいところで突然変異の誘発も大きいということになる。 一方、以前にも示したが、50mM cysteamineで15分間細胞を前処理した場合、X線照射されたHeLaS3細胞のコロニー形成能で見た生存率を上昇させ、逆に誘発突然変異率を低下させることが知られているので、このcysteamineで細胞周期を通じての各期の細胞を処理し、その後400RのX線を照射した際の細胞の生存率および突然変異誘発率を調べた(図を呈示)。Cysteamine処理によって細胞の生存率は全周期を通じて顕著に上昇すると同時に、一方ではcysteamine処理によって突然変異誘発がこれも著しく低下することがわかる。ただ、M期の細胞の生存率が他の時期の細胞ほどcysteamine処理によって上昇しないのはcysteamineの細胞毒性によるものであって、M期の細胞が他の時期の細胞よりもCysteamineの毒性効果を顕著にうけるためである。ともあれこうした結果は放射線による細胞死と突然変異誘発、ひいては細胞癌化との関連性を解析するのに興味ある資料となるであろう。
:質疑応答:[遠藤]L株の薬剤耐性について何かみていますか。[堀川]まだありません。 [難波]Lでは何かのrepair機構がM期に減るのでしょうか。 [堀川]それは、Mutationのinductionとして検出できないとはっきりしません。 [吉田]このLを使って判ったデータはmouseの特徴でしょうかね。或いはL株の特徴でしょうか。つまりmouseは全てのの系統でexcision repairが無いのでしょうか。 [堀川]Repairの能力は胎児ではありますが、生まれると無くなります。 [吉田]Ratはどうですか。 [堀川]Rodentは一般に低いですね。 [吉田]変異率は種によって余り差が無いのにrepairの能力に差があるのは何故でしょうか。Killingが大きいとmutationも多くなるのはmutationの原因はrepair時のmisrepairと考えられますが。 [遠藤]Recombination能がないとmutationは起こらないというデータがあります。Excisionはmutationを起こす為にはnegativeに働くのではないでしょうか。 [掘川]Excision repairはヒトで高く、mouseはrecombination repairが高いです。 [勝田]培養内ではmouseの自然悪性化率は一番高いですね。 [翠川]Mouseの悪性化はウィルスも関係しています。 [吉田]Ratはmouseと同じようなrepair能を持っていながら変異率は低いですね。 [遠藤]バクテリアですらerrorとmutationの関係が判っていません。ましてmamalianでは難しい事ですね。 [難波]Recombination repairとexcision repairとは細胞周期に関係がありますか。 [堀川]そういう事はまだこれからの問題です。
《藤井報告》
《野瀬報告》培養肝上皮様細胞のDNA、RNA合成(2)上皮様細胞のgrowth regulationがどのようなものか、fibroblastsのdataとの比較の上でも興味がある。各種の培養株を用いStationaryになった細胞の培地を交換した後のDNA、RNA合成について検討した。growth curveを見て、培地交換を行っても細胞数が変化しなくなった細胞に、最終培地交換後4〜5日たってから、新鮮培地で交換し、以後経時的にH3-thymidine、H5-uridineの1時間ずつのpulse labelを行なった。RLC-10(2)、JTC-16、RLC-19・2、RLC-23・1の細胞について見ると、H3-ThdのとりこみはRLC-10(2)では交換直後に上昇し、以後低下し、12時間後に再びピークとなった。JTC-16では、交換直後にH3-Urdとりこみの促進は見られるが、H3-Thdとりこみは、20時間後にピークとなった。RLC-19・2では、H3-Urdのとりこみはあまり変化せず、RLC-23・1ではH3Thdのとりこみが交換直後に上昇し、はっきりしたピークとならない。以上のように株によりとりこみのtime courseはさまざまで共通のパターンにならなかった(図を呈示)。 3T3細胞のようなセンイ芽細胞では培地交換後のDNA合成のピークは約28時間後になるので、肝細胞ではSaturation densityの時にG0期以外の点で止っているのかも知れない。また培地交換直後にH3-Thdのとりこみが若干上昇するのは本当にDNA合成なのかどうか疑問である。もしこれがDNA合成ならば、どんなDNAなのか、また細胞周期のS期の細胞があるのかどうか更に検討しなければならない。 次に培地交換後のH3-Urdとりこみが著しく促進されるRLC-10(2)細胞で促進の条件をいろいろ検討した。Stationaryの細胞に、各種濃度のFCSを含む培地で培地交換を行ない、その直後にisotopeの1時間の取りこみをみた(表を呈示)。H3-Thd、-Urdのどちらも、血清濃度が高い方がとりこみも高い。また、adid-soluble分劃への取りこみも促進されていた。一方log phaseの細胞ではFCSを含まない培地で交換してもH3-Urdのとりこみが増大した。growingとrestingとの細胞は生理状態が大きく異なると考えられる。 acid soluble分劃へのとりこみも増大するので培地交換によりUrdのpermeationが変化することが考えられる。H3-Urdのacid soluble分劃をchromatographyで分析した結果、細胞間のUrdは大部分UDP、UTPとなっていた。とりこまれたUrdは速やかにリン酸化されているようである。
:質疑応答:[勝田]新鮮培地に100%取りかえてしまうと、物質的な追跡が難しいですね。[野瀬]そうですね。培地はかえないで、何か物質を一つづつ添加してみます。 [堀川]線維芽細胞などでは0分にパッとUrdの取り込みが上ることはありませんね。 [野瀬]3T3などではlagがありますが、これら肝由来の上皮細胞は0時間でパッと取り込みが上がります。 [遠藤]アクチノマイシンDはリボゾーマルRNAだけを抑える濃度があるので、0時間に入れてみればRNAの種類がわかるでしょう。 [野瀬]今の所RNAよりtransportの方に力を入れてみようと考えています。
|