【勝田班月報:7608:ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画】

《勝田報告》

 §ヒトリンパ系細胞の顕微鏡映画撮影

 免疫学者の云う通りに、リンパ球のblastformationが本当にあるのか無いのか、自分の目の前でそれを確かめたいと、何年も前からヒトの末梢血のリンパ球を培養し、顕微鏡映画で追究した。しかし、PHAその他を入れると、細胞が凝集してしまってその内部で何が起っているのか見られなかった。H3-TdRのとり込みからみてもたしかにDNA合成は起っているが、それがどの細胞によるものかが判らない。

 昨年の暮ごろ、当研究所臓器移植研究部の秋山君が何も添加しないて、異なる2人のリンパ系細胞を混合して培養してみたら如何、というアドバイスをしてくれた。早速やってみると、きわめて成績がよくて、細胞の凝集はほとんど起らず、細胞(リンパ)は硝子面に広く拡がりはしないが、1コ1コがはっきり見分けられ、使用に耐えることが判った。

 そこで何回もその撮影をくりかえしてみた。今お目にかけるのは次の9カットである。

  1. 混合培養、培養3〜6日。
  2. 混合培養、培養6〜9日。
  3. 単独培養、2〜5日。
  4. 単独培養5〜8日。
  5. 混合培養、13〜16日、細胞1コから2コに分裂。
  6. 混合培養9〜12日、細胞1コから2コに分裂。
  7. 以下6)の同一カットの連続撮影、12〜15日、細胞1コから2コに分裂。
  8. 15〜18日、2コ→4コ。
  9. 18〜21日、4コ→7コ。

 混合したどちら側の細胞が分裂したかをしらべるため、男と女とを混合し、染色体のXYでしらべるように準備している。なお、細胞のgeneration timeは約3日であった。



 

:質疑応答:

[梅田]分裂した細胞をよく見て居ると、どの場合も細胞の廻りに何かくっついていましたね。あれは血小板ではないでしょうか。血小板も刺戟になると云うことが言われていますから、他人の血小板だけ添加してみるのも面白いと思います。

[勝田]今の所はリンパ球の幼若化の真偽性を確かめたにすぎませんが、これから色々と実験してみる予定です。

[山田]PHA添加ではH3-TdR取り込みのピークは5〜6日ですがこの方法ではどうですか。

[高岡]少し遅れて10日位のようです。

[関口]総細胞は増えますか。

[高岡]今回は計数していませんが、映画の視野でみる限りでは死ぬものが可成りありますから、全体としては増えていないようです。



《難波報告》

 33:ヒト皮膚上皮細胞の培養

 ヒトの上皮細胞を用いて、培養内化学発癌実験を行なうための基礎実験として、比較的簡単に材料の得られるSkin biopsyから上皮細胞の培養を試みている。現在、初代培養ではほとんど確実に上皮性細胞(表皮細胞)の増殖が得られるようになったので報告する。

 ◇実験方法:ヒト成人からBiopsyされた皮膚組織の真皮部分の結合組織を、ハサミかメスを用いてできるだけ除去する。そして、次の2方法で培養した。

     
  1. )Explanted culture法;表皮部分をさらにメスで細切(1〜2立方mm)して、60mmシャーレ表面に付着させ、DM-153+20%FCS+4.2x10-6乗M Dexamethasone(Dex.)で培養。

     

  2. )Tripsinisation法;この方法は、Rheinwald & Green(Cell,6:331-344,1975)に倣った。すなわち、細切した表皮を0.2%トリプシン(Difco 1:250)で処理し、分散した細胞を3,000〜4,000γ照射した。マウス細胞(BALB3T3 or 当研究室で培養しているC3H由来の線維芽細胞)上にまく。この実験の培地はMEM+20%FCS+4.2x10-6乗M Dex.(顕微鏡写真を呈示)

1)、2)はいずれの方法でも上皮細胞の増殖を得ることができる。またこの上皮細胞が表皮細胞であることは、培養内で角化していることから明白である。

 今後この培養系を利用して発癌実験を行ないたいと考えているが、まだこの培養方法自身にも以下に別記するような多くの問題があるので、それらの問題を検討して行きたい。

     
  1. 上皮細胞の培養にDexamethasonが必要なのかどうか?

     

  2. Trypsinisationで分散した細胞をまくとき、Feeder layerを使用しないで可能かどうか? Conditioned mediumでは無理かどうか?

  3. Feeder layerは角化を誘導するために必要なようである。この角化をconditioned medium or培地にホルモンやビタミンを添加して、Feederなしに誘導できないか?

  4. 現在の培養条件で増殖してくる細胞はほとんど上皮細胞であるが、少数の線維芽細胞も混在している。したがって培養のスタートで、できる限り純粋な上皮性細胞の集団を得るよう現在努力している。Fuseniy et al(Exp.Cell Res.,93:443-457,1975)はFicollでマウス表皮細胞を集めている。しかし班会議で報告したように、表皮は大きさも機能も違う細胞から成り立っているようなのでFicollで表皮細胞と線維芽細胞とを分散することはむつかしそうである。またFicollはマウス胃上皮細胞の分離に際してToxicだとの報告もある。(Munrs et al.Exp.Cell Res.,76:69-76,1975)。

     

  5. 増殖している上皮細胞を継代することは現在むつかしい。ヒトのFibroblastsのように継代して増殖を続けさせる条件を検討中である。

     

  6. 現在の培養方法で、肝細胞などの上皮細胞も培養可能かどうか検討したいと考えている。

 

:質疑応答:

[吉田]培養内で角化が起こることを必要とする実験を考えているのですか。

[難波]発癌実験そのものには角化は必要はありません。細胞同定にと考えています。

[榊原]病理解剖の材料からでも100%培養出来たというデータを持っています。培地は牛胎児血清10%とイーグルMEMで、角化も起こりました。

[加藤]毛根も入っていませんか。

[難波]そのうちに毛も生やしたいものです。

[乾 ]角化までにどの位かかりますか。

[難波]3週間位です。

[榊原]メラノサイトはどうですか。

[難波]時々生えてきますね。

[山田]角化を簡単にみるにはパパニコロウ染色がいいですね。

[加藤]発生の実験に使うのに、上皮細胞層と基底細胞層をきれいに分ける方法を色々と試みてみましたが、常識的な濃度の10倍位濃いEDTAを使って成功しました。

[難波]今度やってみます。



《榊原報告》

 §Collagen fiber formationはfibroblastの特異的機能か?  Clone化されていないwildのepithelioid cell strainの培養から形態学的あるいは生化学的にcollagenが検出されると、其の原因をfibroblastのcontaminationに帰するならわしのようである。epithelioid cell strainとは、仮りにfibroblastのコンタミがあったにせよ、epithelial cellがmajor populationを占める細胞集団であり、fibroblastic cell strainはその逆のものと考えられるから、collagen fiber formationがfibroblastの特異的機能であるとすれば、後者からは前者に比べてはるかに高頻度、かつ多量のcollagenが検出されて然るべきであろう。だが四月の月報に報告した通り、有名なfibroblastic cell strainである3T3は、極めてlow level hydroxy-proline産生を示すに過ぎなかった。一方、cloningされたのち、肝の分化機能を保有していることを証明された2つのepithelioid liver cell strainがcollagenを産生する事実も再三報告してきた。かくて今回は、表題の如きテーマに取り組むことになったのである。すなわち、クローン化されていない各種のepithelioid、non-epithelioid cell strainについてreticular fiber formationをmarkerとしてcollagen産生の有無を調べてみた。材料は凡て高岡先生が樹立、維持しておられる(或いはおられた)細胞株の主としてGiemsa染色標本で、20日以上継代なしに維持されたものである。方法は約2日間、キシロールに浸して封入剤を溶かしたのち、純メタノールに2〜3日浸して完全に脱色し、次いで渡辺の変法による鍍銀染色を施した。結果はepithelioid cell strain13のうち11までがreticular fiber形成陽性であり(95%信頼限界54.55〜98.08%)、non-epithelial cell strainでは5つのうち2つが陽性である(95%信頼限界0.51〜71.64%)。検索したfibroblastic cell strainの数が少ないこと、epithelioid cell strainがliver originのものに偏り過ぎているきらいはあるが、“fibroblastic cell strainの方がepithelioid cell strainよりreticular fiberを形成するものの頻度が高い”と云えないことは明白である。そして若し、epithelioid、non-epithelioid各30sampleについて各々11/13、2/5という割合でcollagen産生が証明できたとすれば“epithelioid cell strainの方がfibroblastic cell strainよりもcollagen fiberを形成するものの頻度は有意に高い”と云うことが推計学的に可能になる。勿論、表題の問いに答える為、そこまで云えなければならぬわけではない。既にBB、BC、RLC-18(1)、RLC-18(2)、RLC-18(3)、RLC-18(4)と6つの肝細胞クローンが、その機能を有することは証明済みであり、加うるに横浜市大で樹立、クローン化された肝細胞株DL1の12のsublineもすべてreticular fiberを形成することが明らかになった。肝細胞株が培養内で形成するcollagen fiberがfibroblastのコンタミによることを裏付けるいかなる証拠があるであろうか。(鍍銀線維の出来方と分布の分類法、と結果一覧表を呈示)



 

:質疑応答:

[遠藤]肝細胞のクロンが肝臓の機能を代表し得るということなのでしょうか。例えば培養の中で肝硬変を起こすというような事を狙っているのでしょうか。

[山田]今の所ではまだ形態的にみて、肝硬変に似たパターンをとるが本当の肝硬変は大分遠い所にあるのではないでしょうか。それから私の所見では、RLC-10(2)系が一番細胞が揃っていて肝実質細胞に近いように思っています。RLC-10(2)には嗜銀性センイは見られないのですね。

[佐藤]鍍銀染色をして線維が染まってくるまでに1カ月以上もの培養日数が必要だというのは、接種細胞数とは関係がありませんか。細胞数を多くまけば早く出てくるのではないでしょうか。それからA型とB型というタイプも接種細胞数によると思いますが。

[梅田]私もそう思っています。A型とB型は根本的な違いではなくて、接種細胞数の違いから来るものではないかと。

[山田]決定的に事を論じるには、矢張りクローニングをしなければなりませんね。

[高岡]当然クローニングをした系も多く使っています。RLC-18からはクロンを4コ拾っていますが、4コとも線維を作るという点では全く共通しています。そしてRLC-18は1コから増えた系でも、もとの原株と同じような模様の細胞シートを作るので不思議に思っています。又、クローニングしていない株でも継代法によっては、かなり均一な細胞集団になっていることもあるようです。しかし、ラッテの肝を材料にして同じ培養法で培養していても、樹立された原株それぞれには形態的な違いと特徴がありますから、なるべく数多くの株からそれぞれ代表的なクロンを拾いたいと思っています。

[勝田]クロンは、1コ釣という条件で増えやすい細胞ばかり拾ってしまう可能性もありますね。

[佐藤]私の所では長期間継代して悪性化した肝細胞系から1コ釣でクロンを拾って、色々な形態のものがとれています。



《乾報告》

 Methylnitrosocyanamideによるハムスター胎児細胞の染色体切断、突然変異、形態転換:

 前月報(No.7607)でMNC投与によるハムスター胎児線維芽細胞のMorphological transformationの予備実験について報告した。MNCは班友の遠藤先生が発見され、バクテリアに強い変異原性、ラットの前胃に癌をおこす物質である。本報告では、MNCを使用し、ハムスター細胞に種々の変化を与えたので二三の知見を述べたい。

 実験材料と方法;

 (表を呈示)。実験には、培養2代目の細胞を使用し、MNNG、MNCを種々の濃度で3時間作用した。染色体標本は通常のAir-drying法で、薬品作用後24時間以内に作成した。残余の細胞を正常培地で3日間培養後、Transformation判定のためには、Feeder layerなしでシャーレ一枚当り、1000ケの細胞を播種、8日間培養後細胞を固定、染色観察した。8AG、6TG耐性変異コロニー選択のため、作用後72時間の細胞を、8AG、6TGを含む培地に50万個/シャーレ播種し、15〜20日同培地で培養後、変異コロニーを算定した。

 結果:

 MNNG、MNC投与後誘発された染色体異常の結果は(表を呈示)、MNC 2.5x10-5乗M、1x10-5乗M MNNG投与細胞群に明らかな染色体異常が出現した。上記濃度作用に表われる異常は、Chromatid-、Isochromatid Exchange及び染色体切断であった。異常染色体の出現は物質の投与量に相関をしめした。

 MNCはHamster Cellに明らかに強い毒性を示した。(表を呈示)MNNG、MNC投与による細胞のMorphological Transforming Rateは、MNC投与で対照の5〜20倍、MNNG投与で7〜17倍であった。又Transforming Rateは投与量に比して増大するが、投与量とTransforming Rateの間には、強い相関関係は認められなかった。

 (表を呈示)MNNG、MNC投与後の8AG耐性突然変異コロニーの出現率はMNC 1x10-5乗M、8AG 10μg/ml選択で変異コロニーの出現率は56〜76倍に増大し、MNNG 5x10-6乗Mで40倍の変異コロニーの出現が観察された。変異コロニーの出現率は、MNNG、MNCの投与量に比例して増大した。

 (表を呈示)MNNG、MNC投与後の細胞を6TGでSelectionした結果、変異細胞の出現の形態は、8AG Selectionの場合と略々同様であった。8AG 10μg/mlに比して、6TG 5μg/ml Selectinの場合、突然変異細胞の出現は著明に増加した。

 (表を呈示)MNNG、MNCを投与したハムスター胎児細胞に出現したMorphological transformation、Gene mutation、Chromosome aberrationの結果は、MNCは上記異常をMNNGと略々同様に誘起した。



 

:質疑応答:

[吉田]Chromosome aberrationを高頻度に起こすような濃度で処理したのでは、細胞が死んでしまって変異までゆかないということですね。

[乾 ]そうです。



《山田報告》

 Indian Muntjac(いんどほえじか)の染色体;

 Indian Muntjac細胞の染色体の表面を検索すべく、その基礎実験を行いました。まずDoubling timeを約30時間と推定し、excess thymidine(final 2mM)を2回(9h、5h)そしてColcemidを1回(0.025μg/ml)接触させて分裂細胞を採取した所、1.6%(mitotic index)しか分裂像を採取し得ず、またthymidinの接触を延長した所(24h、11h)分裂細胞は4.5%にしか増加しませんでした。しかも分裂細胞像に著明な変化が出現し、thymidineはこの目的には不適当であることがわかりました。(図を呈示)Colcemidのみを作用させて得られた染色体数分布(対照)は7本に80%のピークがあり、excess thymidineとColcemidを作用させると6本のピークは50%に減り12〜13本に第2のピークが現れます。そこで改めて増殖曲線よりdoubling timeを求めた所(図を呈示)70〜83時間と云う長い時間であることがわかり分裂像を高頻度に得られなかった理由がわかりました。そこでこの次にはこの分裂時間に合せてcolcemidのみを用いて、その接触時間を調節することにより、高頻度の分裂細胞集団を得たいと思い計画中です。

 Spermineの細胞表面に與える影響;

 前回の班会議に於いて、Spermineの正常肝細胞への撰擇的破壊性とbovine SerumのfractionVがこの破壊性を促進あるいは抑制すると云う報告が医科研よりありましたので、以前に行ったSpermine等の細胞表面に與える影響についての実験成績をもう一度まとめてみました。(図を呈示)その類似物質であるSpermidine及びPutrescineはRLC-10(2)の表面荷電にあまり著明な変化を與えないが、Spermineのみが特有な変化を示すことを見出し、特に興味あることは、0.19〜0.65μg/mlの低濃度のSpermineがRLC-10(2)の電気泳動度を増加させることです(図を呈示)。しかもJTC-16(肝癌細胞)にはこの作用がなく、これはConA、PHAの作用とは逆の関係であり、この點について今後更に検討したいと思って居ます。さらに反応後に10%Calf serum及びbovine Serumを加えた所SpermineのJTC-16に及ぼす影響が消失して居り、この成績についても今後改めて確かめたい。特にRLC-10(2)について検討してみたいと思って居ます。以上この成績は以前に行った実験のまとめです。

 グルカゴン・インシュリンのRLC-16の電顕像に及ぼす影響(続);

 今回はRLC-16を用いた成績のみを報告します。グルカゴン(13μg/ml)およびインシュリン(10μg/ml)を24時間培養メヂウム内に添加した後に採取して電顕的に観察したものですが、全体としての変化はJTC-16にくらべて少ない様です。(表を呈示)グリコーゲン顆粒のみについてみますと、グルカゴン添加により顆粒密度が増加しましたが、インシュリンではあまり著変がみられませんでした。



 

:質疑応答:

[榊原]RLC-10(2)には腫瘍性がありますから正常肝細胞の代表としては問題でしょう。

[永井]スペルミン添加で細胞電気泳動度に影響がある濃度は、培養結果では増殖に影響のない濃度ですね。

[乾 ]チミジンは染色体に影響がある事が判っているのですから、使い方をよく考えた方がよいでしょうね。



《佐藤報告》

 ◇ラット肝由来細胞のクローニングについて

既報のクローニング法によって分離、樹立された20系のクローンについて二、三の性状を検討した。なお得られたクローンは、RAL-5由来のものはAc6E、Ac2F・・・と、RNL-B2由来のものはBc10C、Bc6D・・・と、RAL-7由来のものはCc12G・・・と仮称した。

     
  1. 形態について。

     原株のRAL-5、RNL-B2は上皮性であるが、RAL-7は非上皮性と上皮性細胞の混合型である。得られたクローンは、全部、上皮性である。RAL-7からは、非上皮性細胞も、クローニングで分離されたが、数回の分裂後消失した。

     

  2. 増殖能について。

     クローニング2〜3ケ月後、増殖曲線を描き(ml当り1万個細胞を植え込み一週間培養)対数期で倍加時間を求めた。又、一部の細胞について飽和細胞密度を求めた。その結果、(表を呈示)1、2の例外はあるが、40時間〜50時間前後の倍加時間となった。飽和密度との関連についてはAc7Eの様に倍加時間の長いものが、低い飽和密度を示す例が認められた。又、ここにはデータはないが、細胞1ケからの分裂速度(クローニング時観察)と、細胞集団としての倍加時間との間にはかなりの差が見られた。

     

  3. 染色体分析

     まず原株RAL-5は2n=42に染色体数のモードがある。クローンは42にモードを有するグループと低四倍体のグループに分かれた。RNL-B2は二倍体域にモードがあるがクローンは、マーカー、トリソミーなどを有する偽二倍体細胞か四倍体域にかなり広く分布するものなどが認められた。RAL-7は42と46の二峰性である。クローンは非常に高い割合で42のモードが認められた。なお、これらの染色体については現在バンディング法によって確認中。

     

  4. 生化学的機能の検索

     各クローンについて、培養上清はα-フェトプロテインの検出(Radioimmune assayによる)、細胞についてはG-6-Paseを調べた。一部のクローンにα-フェトプロテイン陽性とも思える結果をえた。



 

:質疑応答:

[吉田]染色体数をみて2倍体の頻度の高い系は、形態的にみても均一性があるように見えましたが、そうでしょうか。

[佐藤]そう言っても良いと思います。形態的にきれいに揃っている間は2倍体が多いのですが、形が乱れてくると染色体数も乱れてきます。

[吉田]ラッテの2倍体にも老化現象はありますか。

[佐藤]2倍体→2倍体とクローニングをしてゆくと3年位までは2倍体を維持できます。

[吉田]ヒトの場合は50代ですね。

[佐藤]ヒトでは2倍体から外れた細胞は消えてしまうので、2倍体を維持し易いのですが、ラッテは染色体変異を起こすと増殖系になるものが多いので難しいです。



《高木報告》

 ラ氏島細胞の培養におけるDNA合成細胞の同定

 No.7603では、6週齢のラット膵より単離したラ氏島の分散細胞を培養した場合、ブドウ糖1mg/ml存在下でH3-thymidineを4日間加えて4〜8%の細胞に取込みがみられることを報告した。このDNA合成細胞を同定する為autoradiographyを光顕レベルで検討したが、染色性に問題があり同定は不可能であった。ついで電顕レベルで検討したが、DNA合成細胞の数が少ないため同定は困難であった。しかし今回超高圧電顕が使用できるようになったので、これを用いて観察したところ、DNA合成細胞がB顆粒を有することをつきとめることができた。すなわち、6週齢のラット膵ラ氏島細胞を分散してブドウ糖1mg/mlの下にDM-153+10%FCS培地を用いて培養し、培養後2日目の“pseudoislet"の形成過程において25μCi/mlのH3-thymidineを培地に加えて12時間incubateした後0.5μの切片を作製してautoradiographyを行い超高圧電顕下に観察した。実験条件についてはさらに検討の余地があるが、スライドに供覧するようにH3-thymidineにlabelされた細胞にB顆粒を見出すことができた。

 ラット胸腺由来の線維芽細胞に対するethylmethanesulfonateの効果

 Ethylmethanesulfonate(EMS)をヒトおよびラット由来の細胞に作用させて効果を検討しているが、今回はラット胸腺由来の線維芽細胞に作用させた結果を報告する。生下直後のWKAラット胸腺をLD+20%FCSで培養し、培養開始後70日目の線維芽細胞にEMS 10-3乗Mを培地にとかして4日間作用させ、以後MEM+10%FCSで培養をつづけた。EMS除去後も細胞に著明な変化像など認められなかったが、培養とともに作用群は対照に比して良好な増殖を示すようになり、培養開始後198日(EMS作用後125日)目の現在、形態的には作用群に有意の変化はみられないが増殖では明らかな差異が認められる。mixed populationに作用させたので対照がselectionされた可能性もあり、これがEMSによる有意な効果とするにはさらに検討が必要である。



 

:質疑応答:

[難波]EMSの処理はどの位の期間ですか。

[小野]10-3乗Mで4日間です。



《梅田報告》

 ドンリュウラット肝由来のDL1細胞はaflatoxinB1(AFB1)感受性が高く(月報7512)、C14-benzo(a)pyrene(BP)を用いた代謝の実験で、water-soluble metabolitesへの代謝能の高い(7606)性質のあることを報告した。さらにこの細胞はcloningを行なっていなかったのでcolonial Cloneではあるが2回続けてcloningを行なって20数ケのクローンを得て、その各クローンについてのC14-BP代謝能についての結果を月報7607で報告した。

 その後、C14-BP代謝能の結果と形態から性質の異なる7ケのCloneについて実験を進めることにした。今回の報告は、C14-BP代謝能を測定し、さらに直接BPを作用させた時の毒性をチェックし、同時にAFB1も作用させて毒性を調べ、結果を比較したものである。

 (表を呈示)Clone2、5は共に上皮性の細胞であるが、C14-BP代謝能は低く、BPの毒性の方は「0」で殆んど障害を示さなかった。Clone1は今回の測定ではやや低い値が出たが、BPの毒性は「0.5」で形態変化が認められた。Clone8以下はC14-BP代謝能も高く、障害も「1〜2」を示し形態変化も強く現われた。すなわち、小不整形核を有する多核細胞の出現と核の膨大化が特徴的であった。以上の結果より、C14-BPの代謝能と、BPの毒性とは大よそ平行関係にあることがうかがえた。

 一方AFB11μg/ml投与より上皮性CloneであるClone2、5も中等度おかされ、Clone20のようにC14-BP代謝能の高い細胞が特にAFB1にも侵されている例もあるが、BPの変化とAFB1の変化とはそれ程平行していないことがわかった。AFB1の形態変化の特徴は核の膨大化、核質の微細化、核小体の縮小化などであった。

 以上の結果より、Clone20のようなBP、AFB1共に感受性を示す細胞も得ることが出来たので、今後この細胞を使って実験を進める計画をしている。



 

:質疑応答:

[難波]薬剤の処理時間はどの位ですか。

[梅田]3日間です。

[乾 ]Water-sol.metabolitesの産生とBPやAFB1の毒性の関係はどうなのでしょうか。

[梅田]BPの場合は平行してもよいのではないかと考えていますが。

[乾 ]クロン20はBPにもAFB1にも感受性があるという結果ですね。

[榊原]これらのクロンはトリプシンに対する感受性も異なるようですね。クロン20はトリプシンに対しても弱いようです。



《関口報告》

 人癌細胞の培養 2.ヒト神経芽細胞株SYMの樹立

ヒト神経芽細胞としては海外で7株、国内で4株の報告があるが、私は40回培養学会で報告したGOTO株に次いで、2例目のSYM株の樹立に成功した。

 患者病歴:2才5カ月の女児。1年前に発病。植込材料は昭和50年9月19日、右胸壁を占める主腫瘍の切除材料よりえた。患児の尿中VMA(vanil-mandelic acid)は19.2〜31.5mg/gCreatinin(40代正常値)であった。

 培養法:植込組織の処理には3法を併用した。(1)細切→Explant。(2)細切→pipetting。(3)細切→1,000U/ml Dispase消化60分。

 培養液は(a)80%DM-153+20%FCS。(b)80%DM-153+20%ヒト臍帯血清。

 (1)(2)、特に(2)からは細胞の生え出しは良好であったが(3)は不良であった。(a)(b)ともに細胞の生え出しがあったが、やや異った増殖形態の細胞がえられた。初め小シャーレ中にて炭酸ガスフランキ内で培養を行なったが、10代以後はTD-40に移し閉鎖系で維持した。(写真を呈示)

 FCSを用いた培養からは、小型多角形細胞で、互に接着し、シート状にガラス面にのびるSYM-I株がえられた。ガラス面への付着性はかなりわるく、継代後2〜3日間は細胞塊として浮遊している。位相差像では核はみえない。ヒト臍帯血清を用いた培養からは、細胞集塊として浮遊状に増殖するSYM-IIがえられた。

 生物学的性状:SYM-IIはtapping cultureで比較的良好な増殖を示す。このgrowth curveより計算したdoubling timeは約4日であった(図を呈示)。SYM-IIの6代目で調べた染色体数は66にモード(26%)があった(図を呈示)。

 異種移植実験では、ALG処置ハムスターの頬袋に腫瘍の形成をみた。組織像は、かなり典型的な神経芽細胞腫を示している(写真を呈示)

 生化学的性状:カテコールアミン系の酵素として、Tyrosine-hydroxylaseの活性は殆んどなく、カテコールアミン系の活性はほとんどないものと思われる。これに反してcholine acetyltransferaseの活性はかなり高く、cholinergicな性格の細胞であることを示している。



 

:質疑応答:

[難波]継代後2〜3日はガラス壁に付かないそうですが、その間の細胞は1コづつバラバラになっていますか。それとも塊になっていますか。

[関口]塊になっています。それがその後ガラス壁に付着してきて増えています。

[山田]解剖材料をハムスターのチークポーチへ接種して膨れてきた所をとって培養したら、うまく増え出したという話もきいています。

[関口]人癌の培養の場合そういう方法も使えます。私もヌードマウスを使って同じような経験があります。