【勝田班月報:7612:ヒト胎児性癌の培養】《松村出張報告・勝田報告に代えて》1974年11月より1976年10月まで米国に出張を命ぜられ、諸先生の御指導のもとに、このほど無事に任務を終えました。ここに出張の内容を御報告し御礼にかえたいと思います。目的:
内容:
:質疑応答:[難波]培養日数が長くなってから出てくる2核細胞のDNA量は調べましたか。[松村]興味あるところで、予定はしていますが、まだデータを持っていません。 [遠藤]寿命に限界のある且つ正常増殖性の細胞が、寿命に限界がなくなり異常増殖する悪性細胞になるには、ダブルミュテーションを起こさねばならないということですね。そうすると物凄く低い頻度でしか悪性化は起こりませんね。 [松村]変異がどのように起こっているかは判りませんが、動物によって例えばマウス等は寿命に限界が無くなる所までは短期間に頻度高く変わるようです。 [遠藤]その変異を起こすのに必要なのは何でしょうか。 [松村]そこはまだ判っていない空白な所ですね。 [翠川]正常増殖性の正常は何を意味していますか。 [松村]単純に3T3のような増殖をさしています。 [難波]結論として所謂agingはDNA合成の異常より分裂異常によるということですか。 [松村]まだ−そう思いたい−という程度です。
《難波報告》37:培養ラット肝細胞(RLC-18)のグリコーゲン合成は細胞密度に依存する 月報7611にグリコーゲンをグルコースに1N HClで加水分解してグリコーゲンを定量する方法を記したが、今回はamyloglucosidaseでグリコーゲン→グルコースに変化させグリコーゲンの定量を行なった。この方法で0.5μg〜5μgのグリコーゲン量を測定できる。NADPHを蛍光で測定する。(表と図を呈示)。上記の方法でAdult ratのliverを0.2%トリプシン液で潅流し、分散した肝細胞数を横軸に、グリコーゲン量を縦軸にとると、5万個の細胞で充分定量できることが判った。 いま、5mlのMEM+10%FCSの培地(1g/lグルコース)で10万個cell/60mm plateまき、6日後、培地2ml(グルコースの終濃度3g/l)にして、RLC-18のグリコーゲンの合成をみると8時間まで経時的に増加し、以後合成速度はゆるやかになる。 グリコーゲン合成は培地中のグルコース濃度(1〜5g/l)に依存しなかった(表を呈示)。 重要なことは、RLC-18細胞のグリコーゲン合成が細胞密度に依存していて、細胞の密度が高まると合成は低下する(表を呈示)。
:質疑応答:[久米川]他の細胞についてデータがありますか。私はKB細胞でグリコーゲン顆粒が沢山出ていたというデータを持っています。[佐藤]RLC-18は腫瘍性をもっているのですから、この系で調べたことが肝細胞の一般的な特性とは言えないでしょうから、そのことを考えにいれておくべきです。 [翠川]生体内のラッテ肝臓の切片でも周辺部のうすくなった場所の方がグリコーゲン顆粒が多いですね。 [佐藤]グルコース量とグリコーゲン量に相関がないとはどういう事でしょうか。 [難波]培地のグリコース量を増やしても細胞内のグリコーゲン量は変動しなかったという事です。 [高木]インスリンを添加するとどうですか。 [難波]これからやってみる予定です。 [山田]私も電顕でグリコーゲン顆粒の動きをみようとしましたが、細胞によってまちまちの所見で、あまり得る所がありませんでした。こういう方法で定量的にみれば、何か判るでしょうね。 [翠川]細胞分裂周期とは関係がありませんか。 [難波]今H3TdRでラベルしてみています。
《乾報告》Methylnitrosocyanamideの投与条件について前回の班会議で、Hamster embryonic cellにMNCを投与して、染色体切断、8AG耐性突然変異、コロニー水準でのMorphological transformationを報告した。 次いで、同細胞にMNCを投与して、Massレベルのlong term transformationを試みているが成功していない。又染色体切断に要するMNC濃度も我々の研究室の濃度と梅田班員の報告した濃度とhalf logのちがいがある。 今回はMNC投与の基礎的Dataをとるいみで、DMEM+10%FCSのmedium中で、MNCの効果をCell killingを指標に検討した。(表を呈示)mediumのPhを正確に7.0とし、mediumにMNCを稀釋後、直ちに処理した場合5x10-5乗Mで約90%の細胞が死んだ。次に同濃度のMNC溶液を作成し、Ph7.0を保ち時間経過をおいて細胞を処理した(表を呈示)。MNCはPh7.0常温中で極めて急速に失活する。次にMNCのPhによる失活性をしらべた(表を呈示)。MNCは中性附近で明らかに効果を示し、アルカリ性でより失活した。 以上の結果よりMNCの投与条件は、中性のmedium中で、稀釋後直ちに作用することが必要と思われる。今後この条件下でmalignant transformationの実験を継続していくつもりである。
:質疑応答:[遠藤]MNCを作用させる時の溶液はどんな組成のものですか。[乾 ]血清の入った培地です。 [遠藤]とするとこの失活は血清との作用によるものですね。血清を除いた液を使ったらどうですか。 [乾 ]血清を入れないと物凄く毒性が強くなって、作用させるのに使える濃度の幅がとても狭くなります。 [遠藤]いかに毒性が強くて使いにくくても、やはり血清を入れない液中で作用させてほしいですね。血清無しで中性なら、少なくとも数時間は安定に保つ筈です。
《高木報告》培養細胞に対するEMSの効果EMSを培養開始後70日目にsuckling rat thymus由来の細胞(SRT)に作用させて、約200日にわたって観察した結果を報告した。これは現在もそのまま培養を続けている。 別のseriesの実験として、培養開始後259日目の細胞にEMS 10-3乗Mを4日間作用させ、さらに284日目から再度同様にEMSを作用させて、1回作用させた細胞と2回作用させた細胞につき2回目作用後50日を経て観察した。 形態的には特に変りなく、saturation densityを2回作用させた細胞と、今日まで培養だけを330日つづけて来た対照の細胞とで比較すると、前者は57,000/平方cm、後者は47,000/平方cmであった。染色体数は1回、2回作用細胞とも月報7610の分布に比して2倍体が減少し、60〜80本、100本以上の細胞がふえてバラツキがひどくなったが、両作用群の間に差異は認められなかった。 1回、2回作用した細胞を各々12,000コATS処理ハムスターのcheek pouchに移植したが、著明な腫瘤の形成は認められていない。さらに細胞をかえて検討中である。 ヒト2倍体細胞に対するMNNGおよび4NQOの効果 用いた細胞は2カ月のヒト胎児皮膚組織からえられた線維芽細胞で、培養後25日目に作用させた。 MNNGは100万個をTD40に植え込み、その増殖期に1、2および4μg/mlを24時間作用させ、洗って3日後には各の細胞数が740万個、320万個、130万個と濃度に逆比例した増殖を示したので、その各々10万個をMA30培養瓶に植込んだ。9日後には110万個、170万個および56万個となったので再びそれらの1,000コを9cmのPetri dishに植込んだ。しかし9日を経た現在無処理の細胞を含めてcolonyの形成はみられない。 4NQOは500万個植込んだTD40のcell sheetに0.5μg/ml(2.6x10-6乗M)を24時間作用させ、2日後にtrypsinizeして生残った全細胞を9cmのPetri dishに植込んだ。4日後には400万個となったのでその10万個を9cmのPetri dishに植込んだところ、さらに4日後には14万個となった。その1,000コおよび10,000コを9cmのPetri dishにまき込み2週間観察したが、10,000コでは細胞はfull sheetを形成し、1,000コでは可成り多数の疎及び密な線維芽細胞よりなるcolonyの形成が認められた。これらのcolonyを位相差顕微鏡下に観察すると、transformed cellsとは考えにくいが、一応染色体数、可移植性などを調べてみたい。transformed cellsではないとしても未処理の対照細胞が1,000コでは全くcolonyを生じないのに対して4NQO処理細胞では可成りのcolonyが生じた訳であり、4NQOによりplating efficiencyの高い細胞がselectionされた可能性も考えられるので、このcolonial cloneを用いてさらに実験をすすめたい。 ラット膵ラ氏島細胞から純粋なB細胞集団を分離する実験はFicoll gradientを用いて検討中であるが未だ他のラ氏島構成細胞のcontaminationを除外しうるには至っていない。
:質疑応答:[乾 ]EMSの変異に関する実験はありますが、発癌実験についてはあまり報告が無かったと思いますが・・・。 [高木]報告があまり無いので、自分でやり始めた訳です。《梅田報告》発癌性炭化水素がその作用を発揮するにはmixed function oxidaseによる代謝が必要であり、この代謝能を持つ細胞が却って自ら発癌性炭化水素の毒性なり発癌作用の影響を受けることが知られている。培養内発癌実験の際も、発癌性炭化水素を扱う限り、この酵素を持つ正常細胞しか使えない。以上の観点から培養細胞の本酵素活性を簡単に測定する方法を開発し、各種培養細胞についてその活性を調べ報告してきた。目的は正常細胞で本酵素活性の高い細胞をさがし発癌実験に使うためで、そのような細胞がtransformableな細胞であろうとの想定をたてているからである。われわれの測定法は0.25mlの培養で行なえるmicroassay法である。すなわちC14-BPを投与して1〜3日間培養した時のBPがwater-soluble productsに代謝される量を放射能で測定する方法である。しかし本酵素は誘導酵素であり、われわれの方法ではconstitutive enzymeの酵素活性を測定しているのか、induced enzymeの活性を測定しているのか、区別がつかなかった。 月報7606で報告したように(図を呈示)、C3HとAKRマウス胎児細胞で測定したwater-soluble productsの経時的値の変動は、C3Hマウス胎児細胞では1日目から真直ぐ直線的に反応しているが、AKRマウスの代謝は2日以後に特に誘導がかかっているような傾向を示している。 有名なinducerであるbenz(a)anthracene(BA)の10、3.2、1.0μg/mlを1日間処理してからC14BPを投与して2、4、6時間の間に代謝した量を調べた(図を呈示)。前処理しなかった群に比べ3.2μg/ml BA前処理群で、2.6倍から3.2倍の高い値を示した。 以上の実験からC3Hマウス胎児細胞でも1日間のBA処理により誘導がかかることがわかった。 この誘導の率がbenzo[a]pyrene(BP)処理のものでどのようになるかを調べるために以後の3つの実験を行った。これらは先に報告したBP代謝能の非常に高いラット肝由来の上皮細胞の1クローン(DL1cells、clone20)を用いることにした。 もし投与したC14-BPそのもので誘導がかかるならば数時間後から調べれば始めは代謝が低いが誘導がかかってから急激なあるいは徐々にでも代謝が促進されるであろうと考えた。(図を呈示)先の実験よりやや時間を細かく区切って代謝を追ってみた実験結果は、6時間値が低く、以後代謝率が上昇していることがわかる。 そこでcoldのBP或はBAで22時間或は24時間処理した後、C14-BPを投与して2時間の間に代謝したBP量を測定してみた。BPそのものの処理で22時間後には無処理のものの4.8倍もの高い代謝能を持っていることが示された。20時間処理した時はC14-BP 4時間の代謝をみると、BP及びBA共に前処理した方が代謝が促進されているが、22時間前処理して2時間取り込ませた群に較べるとその誘導の率は3.2倍或は2.3倍と低くなっている。このことはC14-BPの摂り込み代謝が4時間の間で既に誘導が始まっていると考えると説明しやすい。 以上の仮説を証明するため、すなわちBPによる誘導は何時間位から起り始めるかを調べる目的でC14-BPとactinomycinD或はcycloheximideを同時に投与する実験を行なった。すなわち、新しく合成される酵素を抑えることによりconstitutive enzymeの活性を知り、阻害剤を入れないコントロールと比較することにより誘導の率をみようとした実験である。(図を呈示)結果は、2時間迄はAct.D、CH投与群もcontrolと殆同じ値を示し、その後、controlの代謝率は上昇しているのに対しAct.D、CH投与群は代謝率が同じである。この結果から前の想定のように、本酵素誘導はBP処理2時間目頃より始まっていることがわかる。 以上まだ基礎的なデータであるのでさらに実験を重ねてはっきりとした誘導の様相を知り、発癌実験のための基礎データとしたい。
:質疑応答:[乾 ]動物レベルでこの酵素の誘導を試みる場合は何日間もかかりますし、薬剤接種も1回ではだめなのですが、培養細胞では処理後2時間で酵素活性が上り始めるのですね。 [梅田]培養細胞の場合は直接に作用するから効果が短時間で出てくるのでしょうか。しかし活性が上がり始めるのが2時間後でその後も時間をかけて徐々に上昇を続けます。
《常盤・佐藤報告》◇3'Me-DABで処理された細胞の性状。3'Me-DAB処理過程は(図を呈示)、細胞としては3カ月齢ラット由来の肝上皮性クローン(Ac2F、Cc11E、Cc12G)を使用した。3'Me-DABはDMSOに溶解した。コントロール群(CD-C、CD-DMSO)に対し、3'Me-DAB処理群(CD-DL、2.2μg/ml;CD-DH、32.0μg/ml)からは適当な時期に3'Me-DABを含まない培地で置き換える群を作った。尚、継代は、10万細胞/ml、10日間隔ですべて解放系にて進めた。 3'Me-DAB処理による形態変化。途中経過ではあるが以下の様な特徴が認められた。 Ac2F(CD#7)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、空胞形成が顕著、これは3'Me-DABを除去した後も認められた。高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、20日間処理以降、細胞数の激減を見た。 Cc11E(CD#8)の場合:低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)で、コントロールには認められなかった細胞密度の高い部分が何カ所が認められた。又高濃度の3'Me-DAB(CD-DH)では、Ac2Fと同様、細胞数の激減を見たが、DABを含まない培地に移されたものでは、大きさのかなり異なる細胞群を認めた。 Cc12G(CD#9)の場合:本細胞は、異形性のかなり見られる細胞で、コントロールとしては余り適切ではないかも知れないが、2倍体性が高く、又、安定の様なので使用した。低濃度の3'Me-DAB(CD-DL)では、コントロールに比しむしろ整った上皮性を示した。 (図を呈示)Ac2F、Cc11E、Cc12Gの増殖に対する3'Me-DABの濃度の影響を調べた。DMSO(0.4%)は、殆んど毒性を示さなかった。いずれも、添加3'Me-DABの濃度に比例した増殖阻害を示した。なお、実験は、解放系でシャーレを使用した。
:質疑応答:[吉田]この実験の目的は何ですか。今迄にも繰り返された実験のようですが。[常盤]クローンを使ってもDABによる変異が可能かどうか実験しました。 [佐藤]成ラットから単個細胞由来のクローンを拾って、2倍体が維持されている状態で発癌実験をするという事に意味があります。そうすると従来問題にしてきた変異か選別かがはっきり出来ると思います。それから、自然悪性化を起こしている系や又起こす可能性のある系で発癌実験をしても結論が出ないと思います。 [吉田]培養を開始して何日目にクローンを拾いましたか。 [常盤]71日目です。 [高岡]成熟ラッテからと乳児ラッテからとの系に何か際立った違いがありますか。 [佐藤]成熟由来の系の方が、機能の維持能力の幅が広いように思います。例えば酵素活性をより多く維持している系は成ラット由来です。
《山田報告》長期培養ラット肝細胞(RLC-21)のclonal cloning株7系の染色体分布と細胞電気泳動的性格を比較しました(図を呈示)。C1、C6、C12株はtetraploidy領域に染色体が変化しましたが、それぞれの平均泳動度はC2、C21、C22、C23のdiploid領域の染色体を持つ細胞系にくらべて速くなりました。分布幅についてはC6の系が、最も良く染色体の分布と電気泳動度のバラツキが出現し両者は平行しましたが、その他の系はこの點については相関がみられませんでした。 サイトカラシンBの細胞表面への影響について検索を始めました。まず直接作用をみました(図を呈示)。サイトカラシンB 1000μg/ml(DMSO原液)の濃度に溶してこれを稀釋して用いましたが、37℃、10分保温後の各濃度処理細胞の泳動度の変化をみますと、用いた細胞C1498(腹水白血病)とJTC-16(培養肝癌細胞)により反応が異なりました。しかしいづれも二相性の変化を示しました。更にこの変化を追求中です。
:質疑応答:[乾 ]クローンの染色体数の分布をみると、2倍体、4倍体になっているようですが、DNA量でみるとどうでしょうか。[山田]DNA量は調べてありません。 [吉田]電気泳動後の細胞が回収できるなら、電気泳動度とDNA量を同じ細胞で測定できるでしょうね。 [山田]多分やってみられると思います。 [勝田]電気泳動といえば、昔、癌センターで分劃もできる装置を入れましたね。今、活用されていますか。 [山田]私が居なくなってからは余り使われていないようです。細胞の電気泳動装置も大分進歩していますね。最近はリンパ球のBcellとTcellの分離に使われているそうです。 [高木]図の中でJTC-16・DMSOの説明が無かったのですが・・・。 [山田]サイトカラシンBを溶かすのにDMSOを使いましたので、同濃度のDMSOを添加したものを対照にしました。殆ど影響がないというデータです。
《榊原報告》§BCcellの電顕像BCcell cultureの電顕像(ネガティブ染色像)について報告する。culture generationは45代。plastic dishに細胞を播き、confluentに達してから3週間目のものを用いた。2.5%glutaraldehydeで1時間前固定し、osmic acidによる後固定を行わず、alcoholで脱水、methanol飽和phosphotungstic adidで30分間collagen染色を行ない、eponで包埋する。cell sheetに対してhorizontalに薄切し、ウラン、鉛による二重染色を施して検鏡した。その結果、1)鍍銀染色で紫黒色に染まる線維は、640Å〜670Åの周期性のシマを有するnative typeのcollagen fiberである。(以下各々に写真を呈示) 2)collagen fiberに隔てられた細胞同志間には構造上の連絡がない。3)細胞同志がdesmosome、tight junction、zonula adherence等によって連絡している部位にはcollagen fiberは見出せない。4)胞体はmitochondria、roughE.R.にとみ、intracellular canaliculiが散見され、cell surfaceにはpinocytotic vesicleが多数認められる。5)光顕レベルで細胞がロゼット様配列をとり、中心にeosinophilic amorphous materialを分泌しているかに見えた部分はcollagen fiberのpoolとも云うべきものである。 今後更に電顕標本の作製技術をみがき、詳細な検討を行ないたいと思っている。
:質疑応答:[梅田]細胞膜がはっきり出ないのはグルタルアルデヒドだけの固定だからでしょう。[松村]単にコラーゲンかどうかというなら、アミノ酸の分析値でグリシンが全アミノ酸の1/3あり、プロリンとハイプロが認められ、電顕像でみてコラーゲンと同定される縞目模様が出ていれば充分だと思います。しかし、電顕にしても、位相差にしても、形態から上皮細胞かどうか同定できますか。 [榊原]今の所、形態所見だけで上皮か非上皮か断言できません。この細胞の場合は、かって肝細胞の機能を有していたクローンなので、上皮細胞と考えています。
《関口報告》人癌細胞の培養 3.胎児性癌の培養睾丸腫瘍を培養し、α-foetoproteinとalkaline phosphataseを産生する長期継代培養細胞の2系を得た。(臨床経過の表を呈示) 手術材料の一部(左睾丸の腫瘍部)をメスにて細切、pipetting及びdispase処理(1000u/ml、60分)にて細胞浮遊液を作り、DM-160に20%FCSまたは20%ヒト臍帯血清を加えて、45mmガラスシャーレ内にて、炭酸ガスフランキを用いて培養した。 FCS使用の培養では、石垣様にガラス面に付着したコロニーが得られた。コロニーの中心部は重層する傾向が強く、中心部はやがて剥離する(写真を呈示)。Human cord serum使用の培養では、細胞はガラス面に付着することなく、cell aggregateとして浮遊増殖する(写真を呈示)。両細胞とも増殖速度は極めて遅い。 生前の患者血清中には高いα-foetoprotein活性が認められたが、培養細胞の濾液中にもα-FPの活性が認められ、培養日数の経過とともに上清中に増加していることが確められた。また、両細胞にはアルカリホスファターゼ活性が認められ、Homoarginineにより抑制されることから、肝・骨にみられるtypeであった。(各々図表を呈示)
:質疑応答:[山田]どうやら本物の胎児性癌が増殖しているようですね。[松村]この細胞系は、あのころころしたアグリゲイトのまま増えているのですか。 [関口]そうです。内側の方は死んでゆくようです。継代はピペッティングでします。 [吉田]あの塊をみていると内側の方はどんどん分化していそうに思いますがね。普通の状態では分化していなくても、ホルモンなど加えて分化させられませんか。 [乾 ]ラッテのテラトーマとは少し違うようです。 [榊原]ハムスターに腫瘤を作るか作らないかという事については、印象の程度ですが、臍帯血清添加培地で継代している細胞系は、ハムスターに腫瘤を作りにくいようです。 [吉田]塊を作って浮いて居る系でもガラス壁には張り付かせる事が出来ますか。そしてガラス壁に張り付くと中心部はどうなりますか。 [関口]血清をGFSにすればガラス壁に付きます。中心部はもり上がって剥がれてきますが、剥がれたものを新しい容器へ移すと又張り付きます。 |