組織から採取した細胞の培養を開始した場合、およそ60から80回ほど分裂を繰り返すうちに急に分裂しなくなります。そのまま観察していると死滅してしまいます。これは人間の寿命にたとえられています。ここまでの細胞は『初代培養』あるいは『プライマリカルチャー』と呼ばれ、もとになった組織の性質が残っていることがあります。
ところが、死滅したかと思われた中から再び分裂を開始した細胞は染色体の構成などが変化し、無限に増殖するようになるので、不死化細胞と呼ばれ、このようになった細胞を『細胞株』と呼びます。この細胞はプライマリ細胞と異なり、もとの組織の性質が失われていることが多いようです。
不死化する原因は色々考えられていますし、かなりのこともわかってきていますが、まだまだ不明な点も少なくありません。ただ、大変面白いことに、試験管内での培養でヒト正常細胞は不死化することは大変稀ですが、がん組織からは簡単に不死化細胞を得ることができます。この事実は『がん』という病気の本質を反映していると考えられますので、正常細胞とがん細胞を比較研究することによって多くのことを学ぶことができます。
ゲノム時代の研究では細胞を不死化させる遺伝子は何か、それを突き止めることが『がん』という病気を知るために必須なことであると多くの研究者は考えてきました。そして癌遺伝子が数多く発見されることになったのです。