HSRRB, 榑松美治
培養関連技術の一般的注意事項 | 浮遊系細胞の一般的培養方法 |
アンプル開封法 | 付着系細胞の一般的培養法 |
培地組成(LE, YLE, LH, YLH | 添加物組成 |
緩衝塩類溶液 | グルタミン,重曹の添加 |
市販合成培地 | 培地・培養液の調製方法 |
簡易凍結法 |
本ホームページには、細胞の選択に役立つ参考書なども紹介しておりますので、そちらも参考にしてください.また、培地の発展の歴史や、現在使われている培地の一覧表なども掲載しておりますので合わせて参考にしてください.
ここには、当細胞バンクから細胞を入手して利用したいという研究者のうち、これまで培養細胞を利用した経験が豊富でないかたのために、実験を始めるにあたって必要となることがらについて紹介しておきます.特に培養が難しく無い細胞については、これに従って事前準備をしておいて頂ければ、迅速に実験を開始することが出来ると思います.
実験環境 | クリーンルームを含む実験室.無菌実験台、滅菌装置等. |
無菌的実験環境 | クリーンベンチ(無菌操作用実験台、無菌箱でも可) |
培養用機器 | 炭酸ガスふらん器(CO2インキュベーター)・倒立位相差顕微鏡,低速遠心器 |
滅菌用機器 | 高圧滅菌器(オートクレーブ)・乾熱滅菌器 |
培養用器具(注*1) | 培養用容器(培養瓶、ディシュ、フラスコ)・ピペット・ピペッター |
培養用培地類 | 合成培地(注*2)・牛胎児血清・成長因子類(FGF等),細胞分散用酵素液 |
細胞保存用機器 | 細胞保存用液体窒素タンク又は超低温冷凍庫(ディープフリーザー:—80℃以下) |
上皮細胞様 :主に臓器由来実質細胞(代表的な細胞HeLa・Vero)
線維芽細胞様 :主に間質系の細胞(代表的な細胞WI38・C3H/10 1/2 clone8)
その他 :神経細胞のように細胞質突起を伸展するものやマクロファージのようにアメーバ様形態を示すものなど
血球系細胞 :主に血液臓器由来で培養容器壁に接着しない細胞(代表的な細胞HL60)
その他 :腫瘍組織由来の接着能をもたない細胞(代表的な細胞FM3A)
「細胞・遺伝子カタログ」の配布はヒューマンサイエンス研究資源バンク(HSRRB)で行っております。細胞の分譲に際しては細胞分譲依頼書・同意書(様式A:カタログ綴じ込み)に必要事項を記入、捺印し、HSRRBにFAXまたは郵送でお申し込み下さい。国立医薬品食品衛生研究所細胞バンクからの分譲は現在は行われておりません。なお、特別な事情がある場合は、相談に応じますので、JCRB細胞バンクまでご連絡ください(e-mail: cellbank@nihs.go.jp)。
Health Science Research Resources Bank
Rinku-minamihama 2-11, Sennan-shi, Osaka 590-0535, Japan
TEL: +81-724-80-1670, FAX: +81-724-80-1655
e-mail: hsrrb.nibio.go.jp
URL: http://www.jhsf.or.jp/English/index_e.html
Cell Line Request form(PDF) Details please refer the site from HSRRB.
F9-41: JCRB0001 | 細胞名・JCRB No. |
Other Name:F9 | 細胞の別名 |
Animal:mouse,129/Sv Sex:M | 由来動物名・性別 |
Scientific Name:Mus musclus | 学術名 |
Tissue:testis,transplanted with embryo | 由来組織 |
Casehistory:testicular teratocarcinoma | 病歴 |
Genetics:teratocarucinoma | 遺伝的特質 |
Life Span:infinit | 細胞の寿命 |
Morphology:epithelial-like | 細胞の形態 |
Characteristics:Cell are differentiated by retinoic acid or cAMP | 細胞の特徴 |
Classification:transformed | 分類 |
Establisher:Bernstine et al. | 樹立者 |
Depositor:Matumura,T. | 寄託者 |
References:(187-189,191,193) | 文献 |
Comment:Maximum cell density=1-2x10^7/10D.Do not culture more than1month. | 培養上の注意点 |
Culture Medium:Dulbecco's modified Eagle's medium with15% fetal calf serum | 維持培地 |
Methods for Passage:treat cells with 0.01%EDTA and 0.125%trypsin. | 継代方法 |
Subculture every two days and disperse cells completely. Cell Density at Passage: 1.5x10^6 cells/100mm dish | 継代時の播種濃度 |
注*1)適切な状態で輸送・保存されていない場合、細胞の生存率が低下する事が有ります。なるべく早期に培養を開始して細胞の状態を確認しましょう。
また先に記したように合成培地は大別して以下の二つに分かれます。目的に合わせて購入計画を立てて下さい。
培地には様々な種類の培地があり、それぞれ培養技術が確立されて以後様々な研究者が試行錯誤を繰り返しながら現在に至っています.開発の経緯を知ることにより、組成の意味などについて理解が進むと思いますし、これからの実験にどのような培地を使用するのが良いかという点についてのヒントを得ることもあるかと思います.本ホームページにも高岡先生の経験を紹介して頂いておりますので是非参考にしてください.
HSRRBカタログ又は当ホームページで、選択した細胞を培養する血清の種類と濃度を調べて下さい。
血清は大別するとウシとウシ以外の動物(ウマ・ニワトリなど)に分かれます。
またウシでは次の3通りの場合が有ります。
それぞれ内容成分、例えば増殖支持能(1>2>3)や細胞障害性因子(1<2<3)が大きく異なるので、指定されたグレードの血清を用意して下さい。また細胞によっては血清のメーカーやロットによる影響を大きく受けるものも有ります。その様な細胞の場合は購入に際して、予めロットチェック試験用の血清をもらって試すと良いでしょう(例1、例2、写真)。血球系細胞の場合は、血清の補体成分の作用による細胞障害を阻止する目的で、非働化処理(56℃・30分加熱)を行うのが一般的です。
その一つは、培養環境内での分裂回数に限度のある集団、有限増殖性が示唆され、分裂加齢があるといわれているものです。その中には、ヒトの正常組織由来の線維芽細胞系や鶏胚由来線維芽細胞系が含まれており、 50から100回の分裂後に分裂が停止することが知られています。
他の一つは、培養環境内に順化して無制限に増殖を続けているといわれている細胞系で、古くは組織培養株細胞ともよばれ、現在は不死化細胞系とよばれています。生体内で腫瘍化した細胞由来の培養系、正常組織から培養し培養内で不死化の異変を起こした物などが有ります。
細胞バンクから細胞を入手するに当たって、あるいは培養細胞を実験に供するに当たって、使いたい細胞が有限増殖性か無限増殖性かは知っておくべき重要なことです。殊に有限増殖性の細胞系を使う場合、実験終了まで分裂回数のほぼ同じ集団を使いたい物です。そのためには細胞バンクから入手した時の細胞の分裂代数を確認しておくことと、入手してから早いうちに細胞を増やして、計画した実験回数に見合った本数の凍結アンプルを作っておくことをお進めいたします。無限増殖系の多くは、培養条件を規定通りに守れば、継代に伴う変化はありません。
次に、細胞の扱い方の上でも二つの異なったグループがあります。それは浮遊細胞系と接着細胞系です。
浮遊系の細胞は培養容器にはりつかずに、培養液中に浮遊して増殖します。といっても培養中は、細胞自身の重みで容器の底に沈んでいますが。血球系の腫瘍由来の細胞系が主なものです。これらの細胞はピペットで攪拌し、一部を吸い取ることで、容易に実験に供することができます。一方、培地を更新するには遠沈して古い培地を捨てるという操作が必要となります。また位相差顕微鏡下の観察では、細胞特性(生細胞と死細胞の判別を含めて)が明確にできない不利もあります。
その点、接着性細胞系は位相差顕微鏡下に観察して形態的な細胞特性や実験中の形態変化を捉えることや、培地を更新することが容易です。しかし、継代するときには、細胞を容器壁から剥がして浮遊状態にすることが必要ですから、酵素を使うか機械的に掻き落とすかなどを調べておく必要があります。
◇ 液体窒素からアンプルを取り出すとき、アンプルが爆発する事が有ります。必ずフェイスプロテクターと手袋を着用し、顔や腕の皮膚の露出を避ける事。
◇ 金線の入ったアンプルは容易に折れますが、金線の入っていないアンプルは力が要りますので手を切らないように注意して下さい。
◇ 手荒に扱うと細胞生存率が低下する事が多いので注意してください。特にタッチミキサーは使わないほうが良いと思います.
接着系細胞:酵素を用いる方法
◇酵素処理による細胞分散法には様々な流儀があります。例えばトリプシン溶液は細胞が剥がれる前に除去し、顕微鏡下に細胞接着がゆるむことを確認して増殖培地を添加して浮遊させる方法などです。この場合残存トリプシンの酵素活性は培地に添加された血清で失活し、遠沈操作を省略できます。
◇剥離の作業中は、常に細胞表面が培養液で濡れた状態になるように注意します。また細胞の浮遊液を移す際ピぺッティングを行うと、細胞の分散を助けます。
◇硬質ゴム性のスクレーパー(市販ディスポーザブル製品の大部分)を用いると細胞生存率が低下します。シリコンゴム製の通称ラバーポリスマン(池本理科扱い)が適しています。培養容器に合わせて柄の角度、シリコンゴムの大きさなどを調整して、オートクレーブ処理で滅菌しておきます。
◇遠心をあまり強くすると細胞が痛む場合も多々あるので、1,000rpm 3分程度に押さえておいたほうが良い場合が多いようです.これで十分に落ちない細胞では、1,400rpm 5分間ほどに上げてみてください.
◇スクレーパーで継代した細胞は、酵素で分散した細胞に比べて、培養容器への再接着が速やかに行われる傾向にあります。継代作業も迅速に行う必要があります。
◇遠心をあまり強くすると細胞が痛む場合も多々あるので、10,000rpm 3分程度に押さえておいたほうが良い場合が多いようです.これで十分に落ちない細胞では、1,400rpm 5分間ほどに上げてみてください.
◇浮遊細胞系の集団から死細胞を完全に取り除くことは難しいので、浮遊細胞の増殖状態を位相差顕微鏡で確認 することは困難です。色素排除法を使って生細胞数を数え、良好な培養状態を継続できる条件(播種細胞数、培地更新頻度など)を把握しておくことが望ましいとおもいます。
増殖の早い細胞系を、細胞密度の高いままで放置すると、細胞死を招くことがあります。そしてさらに次の継代の細胞状態劣化も起こりえます。特に高密度培養を試みる実験以外は、ほぼ1×10^6細胞/mlに達したら継代(希釈し分注)するべきでしょう。
凍結時の培地:
DMSOが使えない細胞の場合はグリセロールを凍結保護剤として使用する場合があります.その際、添加後グリセロールが十分に浸透するように、冷蔵庫中に2時間ほど静置してから凍結します.
凍結の温度:
凍結の条件:
凍結用のプログラムフリーザーを用いれば( ー1℃/分)の条件は満たせますが、発泡スチロールの箱などの断熱材(新聞紙で多層に包装しても効果がある)を利用してフリーザーに入れるなどの工夫をすれば、ゆっくり凍結することが可能です。最終低温度に落ち着くまでを、なるべくスムーズに下げてゆくことも、高い生存率を得る条件です。下げてゆく過程で、ー 50℃より高い温度で長時間置くと(例えば冷蔵庫、ー 30℃のフリーザー)極端に生存率が低下します。凍結中に細胞が死ぬと、集団内での選別が起こり、再培養した細胞系が凍結前と性質を異にすることさえあります。
◇DMSOの純品には細菌などは存在していないはずですが、滅菌するときはガラスアンプルに封管して高圧滅菌をします。ろ過滅菌の場合は、培地などのろ過に使う滅菌フィルターはDMSOに溶けてしまうので、ミリポア・ディメックスなどの専用フィルターを使用してください。無血清培養細胞用には、凍結保存培地FM−1(株・極東製薬工業)が市販されています。
クリーンベンチ内へ持ち込む道具は、事前にアルコール消毒などで外側を清潔にしておきます。
手指は、作業を始める前に逆性石鹸で洗い、作業中にも必要に応じて酒精綿で消毒します。
作業中にクリーンベンチ内を汚し時は(培地をこぼすなどして)、すぐに酒精綿で拭き取っておきましょう。
*マイコプラズマ汚染の防止策:
かつてマイコプラズマはお化けのような存在で、CO2インキュベータ中でマイコプラズマ汚染細胞と非汚染細胞を同居させただけで自然に移って行くというようなことがまことしやかに言われていた事もありますが、このようなことはけしてありません.非汚染細胞が汚染されるには、何らかの理由によってマイコプラズマで汚染されたものが非汚染細胞の培養と接触する機会があったことを意味しているのです.
お化けのような存在だと思う一方で、マイコプラズマは細胞壁を持たない微生物なので乾燥には極めて弱いはずだという思い込みは無いでしょうか.こうしたことに原因があるようです.
たとえば、汚染された細胞の培地を交換する時にちょっとした不注意で培地を実験台の上に1滴こぼしてしまうようなことは無いでしょうか.培地交換の最中にそれを拭き取るのは面倒だからとそのままにして交換を終了します.しばらくすると乾いてしまうのでマイコプラズマも死んでしまっただろうとそのままにしてしまうことは無いでしょうか.
しかし、マイコプラズマが裸なら乾燥で死滅するのでしょうが、培地をこぼした時には培地中の成分によってマイコプラズマは保護されています.そのため、長期間死なないという結果も得られているようです.
乾燥した粉末が容器や器具や手などに付着したまま操作をしているうちに培養に侵入してしまうということが最もありうることだというのがマイコプラズマを研究している方の見解です.
また、マイコプラズマには人の口腔に棲んでいるものも居ます.培地交換をしながらおしゃべりをするということもマイコプラズマ汚染の原因となると考えている研究者も居ます.注意すべき実験をする時には、まず歯磨きをしてから実験をするという方も居るという話を聞いたこともあります.クリーンベンチにはエアーカーテンがあるからと言って安心せず、あまり不用意におしゃべりをしながら実験をすることは止めたほうが良いでしょう.
また、もう一つ意外に見落とされている落とし穴があるように思います.それは、培地瓶から細胞を培養しているディッシュに培地を添加する作業を行う際の手技です.
実験室レベルでは、500mlの培地瓶に培地を作成しておくのが一般的だと思います.そこからピペットで10mlとか20mlとかの培地を吸い出して細胞に培地を注ぎます.その際、細胞にピペットを接触させるようなことはしないのは当然ですが、接触させなかったとして安心しては居ませんか.培地をディッシュに注ぐ際には意外なほど培地の飛沫が飛び散っているものなのです.そのわずかな飛沫がピペットの先端を汚染している可能性は大変高いのです.そのピペットを再度培地瓶の中に突っ込んでまた培地を吸って細胞に添加するという作業を繰り返します.
培地を500ml単位で作っていれば、それは1種類の細胞の培地交換ではあまってしまいますから、それを別の細胞の培養に使用することになります.そこで、汚染された培地が別の細胞に移って行くということになるでしょう.これは、マイコプラズマ汚染のみならず細胞のクロスカルチャーコンタミネーションの原因にもなると考えられます.
細胞バンクでは、この2つがマイコプラズマ汚染とクロスカルチャーコンタミネーションの主な原因であると考え、次のような対策を講じています.
*無菌試験:
細菌培養用の培地( NUTRIENT BROTH、TGC(チオグリコレート)培地、Blood agar plate)などを常時用意しておき、培地を作った時や凍結した細胞浮遊液の残りなどの無菌試験をこまめに行います。抗生物質を含まない細胞増殖培地も無菌試験に使うことができます。これらの培地を全て使えば、嫌気性菌やカビなど比較的広範囲にカバーできます.詳細は、伝染病学友会編集の「細菌学実習提要」が参考になると思います.また、ATCCから刊行されている「培養細胞品質管理マニュアル」にも詳しく記載されております.
古くから細胞死の判定には、中性赤による生体染色法・テトラゾリウム塩による代謝染色法・ニグロシンやエオジンYなどによる色素排除試験などが使われてきました。色素排除試験では、10〜20培濃度の色素液を用意しておき、使用時に細胞浮遊液に添加して顕微鏡下に観察します。観察には血球計算盤を使い、顕微鏡は明視野で見ます。色素の多くは毒性がありますので、最終濃度を決めておき、添加後直ちに観察して下さい。時間を追って、色素毒による細胞死が増えて正確な生細胞値が得られなくなります。この方法では生きている細胞は色素を排除し、死んだ細胞はトリパン青なら青、エリスロシンBなら赤く染まります。
最終濃度はトリパン青は0.1〜0.2%、エリスロシンBは 0.002〜0.02%が目安ですが、色素の純度、培地の血清濃度などに影響されますから、実験前に自分の条件を決めておくのが良いでしょう。
7.[受付・発送]
細胞は週1回の発送とし、毎週木曜日までに受付けた分を翌週火曜日に発送いたします.発送スケジュールは、利用者の方と打ち合わせて決めますが、年末年始、およびお盆シーズンは、交通が混雑して配送が不安定になることがあります.
[細胞が届いたら]
細胞が届いたら、培養を開始します。それぞれの細胞の培養条件はカタログを参照して下さい。
分譲される細胞は、凍結状態のアンプルが発砲スチロールの梱包(ドライアイス詰め)で、宅配業者を通じて送付されます。細胞がお手元に届きましたら、直ちに培養を開始して下さい。直ぐに培養を開始できない場合は、液体窒素タンクまたはディ−プフリーザー(—80℃以下)で保存して下さい(注*1)。ディ−プフリーザーで保存する場合は短期的保存(30日以内)として下さい。
8.[細胞培養の流れ]
(流れ図)
9.[培養の準備をする I:機器のセッティング]
細胞の培養に使用するふらん器・超低温冷凍庫は、実際に使用する数日前から準備をしなくてはなりません。取扱説明書に従い機器のセッティングを行って下さい。また培養環境は常に清潔に保つ事が必要です。定期的な清掃を心がけて下さい。
10.[培養の準備をする II:培養用容器の選択]
細胞の培養を開始する前に培養する容器を選びます。培養用の容器としては、ディシュ・フラスコ・試験管・大量培養用スピンナーフラスコなどが有り、目的に応じて選ぶ必要があります。
以下の項目を培養用容器を選ぶ際の目安として下さい。
通常はディシュあるいはフラスコを用います。取り扱いのし易さや経済性などを考慮して選んで下さい。
長所 短所
ディシュ 安価 閉鎖系の培養は行えない
フラスコ 開放系と閉鎖系の両方の培養が可能 高価
培養容器の大きさは細胞の生細胞数によって決まります。
生細胞数は血球計算板を用い0.5%トリパンブルー溶液などで染色して数えます。
培養液量は下記容量を目安として下さい。
ディッシュ径 ディッシュ面積 培養液容量
35φディシュ 9 cm^2 1〜2ml
60φディシュ 21 cm^2 4〜6ml
100φディシュ 59 cm^2 8〜15ml
組織培養用のディシュやフラスコを用います。組織培養用でないディシュを使用すると細胞の接着が充 分に行われず、増殖に悪い影響を及ぼす場合が有ります(写真参照)。
特殊な細胞では、細胞外基質(Extracellular matrix:ECM) のコーティングを必要とする場合がありま す。
例:ヒト血管内皮細胞ではコラーゲン(TypeⅠ)コーティングしたディシュを使います。
浮遊細胞の場合、細菌培養用のディシュを用いて培養が可能です。
細胞によって異なりますが、浮遊系であっても一部の細胞は培養容器の底面に沈み弱い接着が見られます。
これは培養容器を軽く叩くかピッペティングする事により容易に再浮遊させる事が可能です。
例外としてJCRB0833 NUGC-4のように組織培養用のディシュを使用すると、ピペッティングでは再浮遊させる事が難しい程強く接着してしまう場合が有るので注意して下さい。
11.[培養の準備をするⅢ:培地の選択]
細胞を選んだら、培養するための培地を用意します。
HSRRBカタログ又は当ホームページで、選択した細胞を培養する培地の種類を調べて下さい。また、培地製造メーカーの一覧表も入手の際の参考になるでしょう.
メーカーによって取り扱っている培地の処方や使用方法が異なっている場合が有るので注意して下さい。購入した培地類はそれぞれ添付の取扱説明書に従い、調製し貯蔵して下さい。
粉 末 培 地 液 体 培 地
経済性 長期的・大量に使用する場合は安価 短期的・少量使用する場合は経済的
保存性 粉末では貯法に従った場合長期間、調製後は通常冷蔵で3ヶ月程度 保証される有効期限は通常冷蔵で短期間
種 類 基本的には合成培地。高圧滅菌可能な物とそうでない物があります。細胞に応じて牛胎児血清や成長因子などの添加を必要とします。 基礎培地のみのものと細胞別に牛胎児血清や成長因子が添加されたものがあります。
その他 各自で培地を調製する必要があります。天秤・純水装置・PHメーター・濾過器・培地瓶などが必要となります。無菌試験をする必要があります。 購入してすぐ使用ができます。大抵の場合発注から購入までにある程度の期間を見込む必要があります。基本的には無菌試験がされています。
12.[培養の準備をするⅣ:血清の選択]
多くの細胞は血清を添加した培地を用いて培養します。
13.[培養の準備をするⅤ:その他の試薬]
培地以外でも高頻度に使用する試薬類を準備して下さい。いずれも無菌条件下で使用する事が基本です。
メーカーや処方によって使用方法が異なるので、取扱説明書に従い調製を行い貯蔵して下さい。
なお、通常PBSと書くと Dulbecco's Phosphate Buffered Saline のことを指し、マグネシウムとカルシウムを含んでいます.細胞の剥離処理などに使用するには Mg, Ca イオンを除かなければなりませんので、その場合は Ca,Mg free PBS を使用してください.組織培養用と記載されている市販品はCa,Mgフリーとなっているはずですが、確認してください.なお、プロトコルを作成する場合は、PBS(-)と書くのが良いでしょう.
培地と同様に粉末や液体で市販されています。酵素の精製グレード・種類によって調製方法や使用方法が異なります。それぞれの細胞の使用条件を確認した上で購入・使用して下さい。
0.5%トリパンブルー溶液や0.02%エリスロシンB溶液など、調製済みで市販されているものもあります。
予め増殖培地(合成培地に無菌的に牛胎児血清などの増殖因子を加えたもの)に 5〜10%のDMSO(分析用)を加え、使用するまで冷蔵しておきます。市販の凍結保存培地を使用する場合は、取扱説明書に従い調整して下さい。
14.[培養の準備をする VI:試薬・器具を滅菌する]
細胞を培養する場合、細胞に直接触れる試薬・器具は無菌状態でなければなりません。従って、ピペットなどのガラス製品は、乾熱滅菌機やオートクレーブを用いて滅菌操作を行います。いずれも滅菌後も滅菌状態を保てる様に注意して下さい。
オートクレーブ滅菌 乾 熱 滅 菌
対 象 オートクレーブ可能な溶液(PBSなど)、高熱耐性プラスチック製品(PP又はPC製品、マイクロピペットのチップなど) ガラスピペット・空のガラス容器・金属製品
滅菌のしかた 器具全体をアルミ箔で包むかガラス容器などに入れ、アルミ箔で蓋をする。粉末類は瓶に入れ蓋を堅く締める。溶液は蓋を1/4〜1/2回転戻しアルミ箔をかぶせる。 器具全体をアルミ箔で包むかガラス容器などに入れてアルミ箔で蓋をする。ガラスピペット類は専用の滅菌缶に入れる。
滅菌温度と時間 溶液類は121℃ 15分〜20分、溶液以外の物は121℃ 20分。圧力および温度が充分低下した事を確認してからあける。 160℃〜180℃ 60分。室温に戻ってから取り出す。
滅菌の確認 滅菌インジケーターを利用すると便利。又はアルミ箔の変色(光沢が無くなる) 滅菌インジケーターを利用すると便利
15.[細胞の培養を行う]
現在細胞バンクに保存されている培養細胞系は、多様な動物種・多様な臓器を起源としていますが、それらの細胞系は二つに大別する事ができます。
16.[細胞の解凍と培養の開始]
浮遊系、接着系ともに同じ操作をします。
◇遠心をあまり強くすると細胞が痛む場合も多々あるので、1,000rpm 3分程度に押さえておいたほうが良い場合が多いようです.これで十分に落ちない細胞では、1,400rpm 5分間ほどに上げてみてください.
<ちょっと一言>
細菌を主とした分子生物関係の方が培養細胞を利用し始めるケースが多々あるためでしょうか、最近大腸菌並みに培養細胞を希釈して培養に失敗される方が多いようです.過度の希釈による培養の失敗はヒト血球系細胞が特に多いようです.ヒト血球系細胞の場合は通常の継代時細胞濃度の2倍濃度でも薄すぎるという場合がありますので、解凍時の培養には注意してください.濃く播かなければならない時に良く利用されるのが直径 3cm の小さなシャーレなどです.わからなければ電子メールなどで尋ねてください.
17.[細胞の継代]
T25 フラスコ、または、直径60mm のカルチャーディッシュを標準とする
◇遠心をあまり強くすると細胞が痛む場合も多々あるので、1,000rpm 3分程度に押さえておいたほうが良い場合が多いようです.これで十分に落ちない細胞では、1,400rpm 5分間ほどに上げてみてください.
接着系細胞:機械的な方法
浮遊系細胞
浮遊系の細胞でも軽く容器底面に壁着することがあります。そのような場合には、ピペッティングか、ラバーポリスマンで掻き落とすなどして浮遊液にすることができます。
*細胞の維持についての注意(接着系細胞と浮遊系細胞に共通する)
培養細胞は培地内細胞密度が高くなるにつれて、増殖に必要な成分の枯渇、細胞自身の代謝産物の蓄積が起こり、細胞の状態が悪くなります。増殖率と密度に応じた適宜な間隔(2〜3回/週)の培地更新が必要です。
増殖が遅く細胞を低密度で維持する場合でも、グルタミンのように37℃加温で失活する成分もありますので、少なくとも1〜2週に1回は更新するのが常識でしょう。
18.[細胞の凍結法]
凍結保存→解凍再培養は、培養細胞にとって苛酷な過程なので、使用する細胞は増殖期にある生細胞率の高い物を選んで下さい。そして、凍結時の細胞密度も例えば1×10^6細胞/mlより少なくならないように注意して下さい。
細胞の凍結には培養培地にDMSOを凍結保護剤として 5 - 10% の濃度で添加したものを用います。凍結保護剤は細胞内へ浸透して、細胞内氷晶の成長を減少させる効果があります。添加濃度は細胞によってやや異なりますが、厳密に設定する必要はありません。
細胞の凍結保存では -65℃ 以下で保存することが必須であるとされていますが、低いほど長期間の保存に耐えます。例えば液体窒素なら-196℃での保存となり、10年以上生存することが確認されています.しかし、-80℃では良くても1年が限界です。JCRB細胞バンクでは細胞バンク設立当初、−80℃のディープフリーザーで細胞を保存してみましたところ1ヶ月も持たないという苦い経験をしました.温度センサーを入れて調べたところ、底のほうが-70℃で上のほうは-45℃程度までしか下がっていなかったのが原因でした.電気式のディープフリーザーではこのようなことも起こりますので注意が必要でしょう.
ゆっくり凍結して( ー1℃/分)、素早く溶かし(37℃温浴)、凍結保護剤を速やかに除去することが成功の条件です。殊に凍結の前後、DMSOを添加した細胞浮遊液は常に低温度で操作すること。
19.[培養関連技術の一般的注意事項]
*無菌操作についての注意:
組織培養の実験には無菌操作が欠かせません。
無菌操作ではマイコプラズマによる汚染の防止には十分注意してください.我が国で扱われている細胞にはマイコプラズマ汚染が広がっているという指摘もあります.
あらかじめ培地などの無菌試験をしっかりしておくと、雑菌汚染による失敗をかなりの程度防ぐことができます。
*培地の温度:
使用前に室温〜37℃に温めておくことが常識になっています。
*生死判別法:
現在多く使われているのは、トリパン青とエリスロシンBによる色素排除試験です。
*選択培地使用上の注意:
染色体パネル細胞を使用する際に、選択薬剤を解凍時から入れて培養したことが原因で培養に失敗された方がおられました.ハイブリドーマなどで良く使用されるHAT選択培地などにおいてもそうですが、選択に用いる薬剤は細胞の増殖が盛んになってから添加するのが一般的です.